FFDQバトルロワイアル3rd資料編@wiki 430話


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第430話:黄昏に見る夢


「……ああーーっ、そーーだっ!!」
「ーーーっ、何だよリュック、大声出して」
「ごめんごめん。あー、ピサロさんもロックももう行っちゃったよね…
 みんなに伝えなきゃいけないことがあったんだけどなぁ」
「大事なことならいまさら思い出すなよな」
「だって色々あって大変だったじゃない。みんな疲れて休んでたしさ」
「それで、大事なことって、なんですか?」
「ああ、えーとね、アリーナって子の伝言を預かってるんだ。
 ソロとピサロと、その他の彼女の仲間宛に」
午後も半ばを過ぎたウルの村。
ピサロ達を見送った後、突然叫んだリュックの言葉を聞いてソロは驚愕した。
「アリーナ? アリーナと会ったんですか!? 何処で? 何時?
 何故もっと早く言わないんですか!?」
「おい、落ち着けソロ」
「待って、話す、話すから! 全部! だから揺らさないでぇ!」
リュックの両肩を掴み揺さぶっていたソロはヘンリーに羽交い絞めにされ、やっと落ち着いた。
「す、すみません、とにかく教えてください」
「ケホッ、ケホッ、う、うん……えーとね」
ソロの猛烈な揺さぶりから解放されたリュックは少し咳き込んだ後、アリーナと出会った所から話し始めた。
アリーナが分裂の壷を使い、分身を生み出したこと。
その分身が凶暴化し、クリムトという老人の目を抉ってしまったこと。
彼女はゲームに乗るためにオリジナルと袂を別ち、飛び出して行ってしまったこと。
アリーナはそれを追うために単独行動をしていること、そして二人の見分け方などについて。
「と、そーいう訳なんだけど……」
それら全てを話し終えると、リュックは二人の反応を見た。
ヘンリーは眉間にしわを寄せ、額に指を当てている。
ソロに至っては頭を抱え、その場にしゃがみこんでいた。
「あー、中々に個性的な思考の女性だな。そのアリーナって娘は……」
「気を使った発言、ありがとうございます……」
ソロは頭を振ってゆっくりと立ち上がる。
「彼女はいつも即断即決で、すぐに迷う性質の僕の背を押してくれる存在でした。
 そんな彼女の性格は僕にとってとてもありがたい物だったんですが……
 今回はその性格が裏目に出たようですね」
「まぁなぁ、それにしても分裂の壷か。それが本当ならとんでもねぇな」
何気なく言ったヘンリーの言葉をリュックが聞きとがめる。
「ちょっとぉ、アタシが嘘吐いてるって言うの?」
「いや、そういうわけじゃねぇよ。アンタが俺たちを騙すつもりがないっていうのは良くわかってるさ。
 俺たちを陥れたいなら他にもっと方法があるし、エリアたちの治療を手伝ってくれるわけねーもんな」
ヘンリーは肩を竦める。
「ただ、アンタが嘘を言ってなくとも、それが真実だとは限らねえってことさ」
今度はその言葉にソロが反応する。
「どういうことですか? リュックさんじゃないならアリーナが嘘を言っているとでも――」
噛み付いてきそうなソロの剣幕にヘンリーは頭を押さえ、苦虫を噛み潰したような表情になる。
「今度はそっちかよ。わかったわかった、とりあえず思いつきに過ぎないんだけどな。
 俺の考えを話す。要はいくつかの場合が考えられるってことだ」
ソロもリュックもとりあえず黙ってヘンリーの言うことを聞く体勢になる。
(俺のキャラじゃねぇんだけどな……)
ヘンリーはそれを確認すると苦笑し、講師がそうするように指を立てて説明を始めた。
「順番にいこう、まずその一。
 リュックが出会ったのが本物のアリーナで言っていることも本当だった場合。
 これはまず問題ない。分身体、ワリーナに対して注意を払えばいいだけだ」
「ちょ、ちょっとストップ!」
「何ですか、そのワリーナというのは?」
突然、降って湧いた単語にソロとリュックは同時に待ったを出す。
それをヘンリーは不思議なことを聞かれたとでも言うかのように――
「ん? だっていつまでもアリーナの分身じゃ説明しにくいだろう?
 アリーナ2号やアリーナBとかだと呼ぶ時にアリーナとややこしいし、何より味気ない。
 だから悪いアリーナ、略してワリーナ。単純明快だろう?」
(いや、そのネーミングセンスはどうなの?)
リュックは内心で突っ込む。
「はぁ、まぁわかりました。じゃあ第二の場合というのはその
 ヘンリーさん言うところのワリーナがリュックさんと出会っていた場合ですね?」
(採用するんだ!?)

リュックはソロの言葉にまたしても心中で突っ込むが、不意にもうどうでもよくなり沈黙を護る。
ただ若干力が抜けたように肩を落としはしたが、他の二人は気付かなかったようだ。
「そうだ。その場合のワリーナの目的はオリジナルを陥れることだろうな。
 自分を本物、本物を凶悪な分身という情報を流布して自分に有利な状況を広げる。
 これは遅効性の毒みたいに時間が経つほどじわじわと効いてくるだろうよ。
 そして三番目――リュックが出遭ったのは本物のアリーナだが、そのアリーナが嘘をついていた場合」
「――ッ」
三つ目のケースを聞いて思わずソロは息を飲む。
「うう~、それってもしかして……」
口篭るリュックの後をヘンリーが続ける。
「ああ、アリーナがゲームに乗っちまったってことだ。
 自分の偽者の存在を広めることで、自分の殺人現場を目撃されても
 後でそれを偽者のせいにすることが出来る。
 自分が不利な体勢の時は、それを利用して非戦派の中に溶け込むことが出来るって寸法だ。
 この場合分裂の壷は存在しないことになるが、それ以上に厄介な……」
「あり得ませんよ! そんな、アリーナがゲームに乗るだなんて……!!
 彼女に限ってそんなことは――う」
ヘンリーの言葉を遮って声を荒げてしまうソロだが、彼の静かな視線を浴びて言葉を途中で止める。
「自分の身内に限って……か、良くわかるぜその気持ち。でもな、このゲームは人を変えちまう。
 この空間の中じゃ人はどうにでも変わっちまうんだ。俺は、それを経験しちまった。
 あり得ないと思っていたことが現実になるのを目の当りにしちまったんだ」
ヘンリーの言葉がソロの心に重く圧し掛かる。
(そうだ、ヘンリーさんは弟のデールさんが……)
拳を握り締め、ソロはそれでも言葉を搾り出した。
「それでも、僕はアリーナを信じています」
それを聞いてヘンリーは諦めたように瞳を閉じた。
「それを否定はしねえさ。ただ、覚悟だけは決めておいた方がいい。
 現実って奴は時に残酷に出来ていやがるからな」
ソロは答えない。リュックも空気の重さに声を出せないでいた。
その様子を見て、ヘンリーは不意に苦笑して肩を竦めた。

「まぁこの三つ目の場合はかなり無理がある推測だ。騙すにしてももう少し嘘の内容を選ぶだろうよ。
 人間をも分裂させる壷なんて存在を知らないものにはおいそれと信じることはできないしな。
 俺たちが半分以上信じる気になっているのもそれが嘘にしてはあまりにも荒唐無稽だからだ。
 そこまで計算に入れて吐いた嘘なら凄いもんだが、アリーナって娘はそこまで考えるような奴か?」
「いいえ」
即座にキッパリと否定するソロ。
それと同時に安堵する。
「それなら三つ目の場合はほとんどあり得ないですね?」
「ああ、だけど俺が危惧しているのは最後の場合でね」
「まだあんの!?」
ついにリュックが悲鳴を上げる。
「ああ、四つ目にして最後の場合。アリーナとワリーナが共謀していた場合だ。
 これは三つ目の時に挙げた利点がそのまま適用される上に殺人者の数が倍になる。
 考えられる限りこれが最悪の場合だろうな。しかも可能性としては三つ目よりも数段高い」
もうソロもリュックも何も言わない。ただ暗い顔で俯くのみだ。
ヘンリーは溜息を吐くと、一転して明るい顔で言った。
「少し驚かせすぎちまったかな?
 まぁ実際、一番可能性が高いのは一つ目の場合だ。あんまり思いつめるな。
 ただ、さっきも言ったが現実ってのは時に残酷だ。
 他の場合もあり得る事、として頭の片隅に置いておけってことさ。
 じゃあ、ビビたちの所に戻ろうぜ」
ヘンリーは身を翻し、宿屋へと歩き出す。
それをソロとリュックは顔を見合わせて、沈黙を護ったままヘンリーの後を追った。


山の傾斜から転げ落ちてなお自分は気絶しなかった。
全身を痛打し、右腕を骨折し、爛れた皮膚が土との摩擦で削られても、まだ自分は生きている。
常人であれば既にその命を失っていてもおかしくはない。
それなのに何故自分は、デールは未だ動いているのか。
わからない。わからない。わからない。
でもそれももうどうでもいい。自分は生きている。この身体はまだ動く。
その事実があれば充分だ。身体が動けば壊しにいける。

(ああ、壊したい……壊したい……壊したい)
何故か分からないが無性に何かを壊したくて堪らない。
先ほど果たせなかった気持ちが胸の中で燻っている。
ここが何処なのかは分からない。ただ闇雲に前方に向かって歩き出してみる。
いくらかもしないうちに樹海を抜け、開けた視界のその先には――村があった。
「ハハックハハハハハハ!」
なんだ、神は自分の味方じゃないか。
この身体を未だ動かしてくれているのも神の仕業か。
そして今、自分の無性に何かを壊したいという願いを叶えてくれたのか。
村ならば何人かは参加者がいるだろう。その全てを壊してやる。
先ほどは色々と邪魔が入って何も壊せなかったが、今度はそうは行かない。

そして、壊れた身体で足を引き摺りながら彼はゆっくりとウルの村へと歩を進めた。
彼は気付くことはなかった。
彼自身がもう、どうしようもなく壊れてしまっていることに。


宿へと戻ってきたソロ達をビビとわたぼうが出迎えた。
「お帰りなさい。随分と時間が掛かっていたようだけど……それにピサロさんとロックさんが」
「うん、ピサロとロックさんは彼についていったんだ。詳しいことは今から話すよ」
「ああ、俺にも頼むよ」
不意に聞こえた声にソロが顔を向けるとそこには身を起こしたバッツがいた。
「目が覚めたのか、思ったより早かったな。調子はどうだ?」
「ああ、身体はまだ重いし、足もまだ強く踏ん張ることは出来そうにない。
 だがとりあえず心だけは落ち着いたよ」
ヘンリーの言葉にも軽く答える。
「そうか、だがこれからの話はお前をさらに混乱させちまうかもな」
「どういう意味だ?」
その疑問に答えるべく、ソロが事の経緯の説明を始めた。
話を聞いてバッツの表情が驚愕に歪む。
「ザンデのおっさんが……レナを!?」
「ザンデさんを知っているんですか?」

バッツの独白にソロが聞き返す。
「……ああ。こっから北の洞窟であんたたちと同じこと頼まれたよ……ローグとな。
 おっさんが朝に約束してるって言ったのは俺とローグのことさ」
「そうだったんですか……」
そしてバッツは考え込み、決意の表情を浮かべるとソロに懇願した。
「頼む。レナと二人きりで話をさせてくれないか。
 レナは仲間だ。彼女はあんたたちに酷いことをやっちまったかも知れないが
 本来のレナは心優しい人間なんだ。俺に何が出来るのか分からないが俺は彼女の心を救ってやりたい。
 ローグもきっと分かってくれると、信じる」
ソロは黙ってバッツの言い分を聞いていたが静かに首を振った。
「言いたい事はわかります。でも今の彼女の状態では危険です。
 話をするのはいいですけど、せめて僕が立会い……」
その言葉を遮ったのはヘンリーだった。
「いや、ソロ。やらせてみようぜ。
 監視付きだと彼女が警戒しちまうし、第三者の前では言えないこともある。
 それに男と女ってのは密室に閉じ込めちまえば意外となんとかなるもんさ」
バッツは赤面し激しく動揺する。
「ばっ、この、俺とレナはそんなんじゃねえ!」
「まーまー」
リュックが二人の間に割って入った。
そしてソロのほうに向かって言う。
「アタシも賛成だな。目覚めたらレナも少しは落ち着いてると思う。
 そんな時、そばにいるのがバッツならレナも安心するんじゃないかな。
 レナはバッツのことを話すとき、とても信頼してるって感じが伝わってきたし」
ソロはそれを聞いてもまだ決心つきかねる様子だったが、再三のリュックとヘンリーの説得により折れた。
だがせめてもの条件ということでレナのいる防具屋の隣、魔法屋にリュックが待機することとなった。
最初はソロが魔法屋に待機すると言い出したのだが、疲労の溜まっているソロよりも
余力があり、レナと同行していたリュックが適任ということになったのだ。
そしてまたビビとわたぼうを宿に残し、4人はレナのいる防具屋へと向かった。


「ここに……レナがいるのか」

防具屋の扉の前でバッツは震える声で呟いた。
リュックは既に魔法屋で待機している。
ゴクリ、と唾を飲み込むとバッツは扉を開け中に入る。
ノブを握る手に汗が大量に滲んでいるのが分かった。
鼓動は高鳴り、傍にいるヘンリーやソロに聞こえてしまいそうだ。
扉を閉めるのも忘れ、部屋の中へと一歩踏み出す。
ズキン、とレナにやられた左足が痛んだ。
(俺に、レナを救うことが出来るのか……)
そんな弱い思考が頭を掠める。
自分の言葉はレナを追い詰めてしまうかもしれない。
もしかするとローグの死因を問い詰めてしまうかもしれない。
歯を喰いしばる。胸を掴み、爆発しそうな心臓の鼓動を押さえつける。
ブルブルと身体が震え、踏み出した足が止まった。
その時、部屋の外のヘンリーから声が掛かった。
「バッツ」
「な、なんだ?」
かろうじて平静を装い、振り向く。
「レナがああなっちまったのは彼女の勘違いとはいえ、俺にも一因がある。
 だから俺はこれ以上、レナを哀しませたくない。苦しませたくないんだ。
 バッツ、頼む……」
必死に声を絞り出すヘンリーを見てバッツは締め付けられるような思いを感じた。
(この人はここまでレナを想ってくれているのか)
安心しろ、俺に任せろ、そんな言葉が口を付いて出てこようとする。
だが……。
「だから避妊はちゃんとしてやれよ」
「死ねェ!」
バタンッ! ドスン!
咄嗟にヘンリーに向かって投げたザックが瞬時に締められた扉に当たり、落ちた。
カチャリ、と再びドアが開いてヘンリーが顔を見せる。
「何だ、初めてか? がっつかずにちゃんと優しくしてや……ブゥッ」
今度はバッツの脱ぎ捨てたブーツがヘンリーの鼻っ柱に命中し、ヘンリーは倒れた。
「ああ、もうヘンリーさんは……騒がしてゴメン」

ヘンリーはソロに引き摺られていった。
パタン。
扉が閉まり静寂が戻る。
「……何なんだあの人は……」
バッツはブーツを履きなおすと頭をかきながら廊下を進み、
程なくレナの寝かせられている部屋を見つけた。
レナの顔を見ても何故か先程とは違い、動揺はしなかった。
不思議と心が落ち着いている。さっきまでの自分が嘘のようだった。
まさかヘンリーのおかげか、とも思ったがすぐにそれを否定する。
(そんなわけねぇよな……)
バッツはレナを見つめながら壁を背にするとその場に座り込んだ。
そして、レナが目覚めたらまず何と声をかけようか、
そんなことを考えながら静かに彼女が目覚めるのを待ち始めた。


「うーん、自分を傷つけた女を許す……俺ってダンディだなぁ」
「セリフが前半だけだったら僕も感動してたんですけどね」
「あれはアイツがガチガチだったから緊張をほぐす為に……」
「はいはい、わかりましたから宿に戻りましょう。後はバッツさんに任せるしかないですしね」
そんな軽口を言い合いながら二人は防具屋を後にして宿に向う。
日はもう大分西へと落ちていた。もうすぐ空が赤く染まり始めるだろう。
放送が近いことを感じ、二人とも自然と口数が少なくなった。
その時、ふとヘンリーは村の西を見る。

――足が、止まった。

「どうしたん……」
急に止まったヘンリーを見てソロも立ち止まり、ヘンリーが見ている方向を見た。
息を呑む。
ウルの村の西出口。そこには、一人の男が立っていた。
その衣服はあちこちが焼け焦げ、血と泥で茶褐色に染まっていた。
髪は縮れ、その肌に酷い火傷を負っている。右手首から先はない。
それほどまでに変わり果てても、ヘンリーとソロにはその人物が誰なのか判別できてしまった。
「……デール」
「ヒィイヤハハハハッハハ、ヘンリーぃいいい、逢いたかったぞぉおお」
デールはヘンリーの姿を認めると嬉しそうに舌を出し、歩み始める。
相手の異常さを感じ取り、ソロは剣を抜こうとするがヘンリーはそれを止めた。
「ソロ、手を出さないでくれねぇか。アイツは俺一人で何とかしてみる」
「でも!」
「頼む」
ヘンリーの鬼気迫る表情に気圧され、ソロは動きを止めた。
「危なくなったら、すぐに飛び出しますよ」
「安心しろよ……アイツはもう」
ヘンリーは途中で言葉を止めたが、言いたいことはソロにもわかっていた。
(あの人はもう……助からない)
剣を携えたままソロは一歩下がった。
ゆっくりとデールとヘンリーは近付いていく。
先に口を開いたのはヘンリーだった。
「デール、お前は何故そうなっちまったんだ。そんな姿になってもまだ止めようとしねぇのか」
「くくくく、何を、何を言っているヘンリー? こんな楽しいことがやめられるものか!
 人の悲鳴が、絶望の表情が、こんなにも僕を喜ばせてくれるのだ。
 人を壊すのは、嗚呼……何て素晴らしいんだろう。リュカもタバサも、とてもいい顔を見せてくれた……」
デールの口からこぼれ出た名前を聞いてヘンリーは叫んだ。
「何!? リュカに、タバサちゃんに会ったのかデール! おまえは……アイツ等を」
「ええ、とても美味しく頂きましたよ。
 リュカさんの信じられないといった表情がとてもとても僕の心を震わせてくれた。
 タバサ王女の鮮血はとてもとても美しいものでした」
「ぐっ、デール……! お前は!」
「後はお前だ、ヘンリー!! お前を壊せば僕は完成する。
 そして全てを壊して僕はこのゲームに勝ち残るんだ。
 ラインハットに戻ったら次は世界を壊そうか? ハハハハハハッ未来を思うと胸が躍るな!」
デールはいつの間にか左手にナイフを携えていた。
「ヘンリー! お前も僕の手によって壊れるんだぁッ!!」
ナイフを振りかぶり、デールはヘンリーへと向って疾走る。
それをヘンリーは、ただ無表情に見詰めていた。
(デール、お前はもう戻れないのか。
 マリア、それにリュカ、タバサちゃん……お前等はどんな気持ちでデールにやられた?
 デール……俺がお前に出来ることは……もう、ないんだな)
ヘンリーは剣を抜く。
デールの持つナイフの軌跡がやけにハッキリと見えた。
黙っていればその刃は正確にヘンリーの心臓へと突き立つだろう。
(一緒に、逝ってやるよデール。それが俺のせめての償いだ)
相討ちになることを決めてヘンリーもまた剣の柄を強く握り締めた。

デールがヘンリーへと駆ける。ヘンリーもまたデールを迎え撃つ。
その様子を見てソロは焦燥を感じていた。
(これで、これでいいんですかヘンリーさん。確かにデールさんはもう助からない。
 それでも実のお兄さんが弟を殺すだなんて……僕は!)
そう、こんなのは変だ。この世で二人の兄弟が殺しあうなんて許されるはずがない。
それが血の繋がらない兄弟でも、そんなのはおかしい!
ソロは剣を抜くと二人へと向って駆け出した。
「駄目だ! ヘンリーさん!!」

そして刃は突き立った。
デールの刃でもなく、ヘンリーの刃でもなく……ソロの剣がデールの鳩尾を貫いていた。
「あ、あー」
デールは気の抜けた声を発して、それで自分の中の全てが終わったことに気付いた。
後ずさり、ズルリ、と音を立てて剣がデールの体から抜ける。
そしてデールはその場へと崩れ落ちた。
「デール!」
その光景を時間が止まったようにして傍観していたヘンリーは、
デールの声を聞いて正気に戻り、倒れたデールを抱え上げた。
「ソロ! お前、何で!?」
ヘンリーに責め立てられ、ソロはギュッと目を瞑って声を絞り出した。
「だって! 例え仕方のないことだとしても!
 お兄さんが弟を殺すなんてやっちゃ駄目だと思ったんです!
 ヘンリーさんが手を掛けちゃいけなかったんですよ!」
その言葉を聞いてヘンリーは言葉に詰まり、何かを言おうとして結局何も言わなかった。
一つ頭を振るとデールへと呼びかけを続ける。
「おい、デール! デール!」

デールは自分の身体がだんだんと軽くなっていくのを感じていた。
いや、自分の重さが身体より下へと沈んでいくような感覚。
それは眠りに落ちる時に似ていた。
朦朧とした意識の中デールは考える。
(僕は……何をしていたんだろう。何かしなくちゃいけないことがあったような気がする。
 でも、もういいや。僕は終わってしまった。もう全てを忘れて眠ってしまおう)
そうして、デールは冥府へのまどろみへと身を委ねた。
深く、深く潜行していく意識。そんな時デールの頬に熱い雫が滴り落ち、僅かに意識が浮上する。
(熱い、何だろう? 雨かなぁ……でもそれにしては熱いな)
デールは何故だかそれが凄く気になった。取るに足りないことのはずなのに。
気になって気になって仕方がなかった。
重い瞼を強引にこじ開けて、熱い雫の正体を見る。
ぼやけた視界に、デールを抱え上げ涙するヘンリーの姿が映った。
熱い雫の正体はヘンリーの涙。しかしデールにはまだ理解できないことがある。
「兄……さん? どうし、て、泣いているんですか……?」
「そんな、そんなことすらもわからなくなっちまったってのか!?
 この、馬ッ鹿野郎が!」
泣きながら激昂するヘンリーを見てデールは唐突に理解した。

(ああ……そうか、『兄さん』だからだ……)

何だろう、心から暗い靄が全て取り払われたような気がする。
晴れ渡った心がとても気持ちよく、ヘンリーと話をしたいと思った。
ただ、強く思った。
「兄さん、僕は……僕はねえ、マリア義姉さんの歌がとても好きだったんですよ」
「ああ」
そんなことは知っていた。
マリアが教会で歌う時にはデールはいつも一番に駆けつけていたのだ。執務を放り捨てて。
「兄さん、僕は……僕はねえ、コリンズをとても愛していたんですよ」
「ああ」
そんなことは知っていた。
執務の合間を縫って、コリンズのかくれんぼの相手になっていたことは城の連中は皆知っていた。
「兄さん、僕は……僕はねえ、リュカさんたちの旅の話を聞くのがとても楽しみだったんですよ」
「ああ」
そんなことは知っていた。
リュカがラインハットを訪れた時は自分よりも先に迎えに出ていた。
「兄さん、僕は……僕はねえ、タバサちゃんがコリンズと一緒になったら、なんて考えていたんですよ。
 フフ、とても気の早い話ですがね。仲のいい三人を見ているとそんなことが思い浮かんで……」
「ああ、そうだな」
それは自分も、マリアも、リュカさえもそう思っていただろう。
「兄さん、兄さん……僕はねえラインハットという国を愛していたんですよぉ」
「……ああ」
―― そんなことは知っていた。知っていたのだ。
それなのに何故デールはこんなことになってしまったのか。
「ああ、だから兄さんか義姉さんを生き残らせようとして、僕は人を殺そうと……」
ガツン、と頭を殴られたような衝撃がヘンリーを襲った。
(俺か!? 俺がコイツを狂気に走らせてしまったのか!?)
デールは王として優しすぎたのだろう。
優しかったから、自分が生き残ろうとは考えなかった。
だが優しかったから、他人を殺すことが出来なかった。
殺さなくてはいけない、でも殺せない。殺したくない。
そんな矛盾を、デールの精神は抱えることが出来なかった。
優しかったから、優しすぎたから…… デールは自分自身を壊してしまうしかなかった。
それが狂気の真相。
「なのに……兄さん。どうし、て、こんなことに、なっちゃったんでしょうねぇ……」
その問いにしばらくヘンリーは微動だにできず、気の遠くなるような努力をして声を絞り出した。
「……別に。ちょっと巡り合わせが悪かっただけさ……。
 もしも少しだけ、ほんの少しだけ歯車が狂っていたら……俺がお前のようになっていたかも知れない」

幻視する。
森の中、あの小さな黒魔導師と頭巾を被った女の子を襲う自分を。
親友の妻になるかもしれなかったお嬢様の腕を斬りとばす自分を。
白銀に染まった雪山で親友に向って火炎瓶を投げ付ける自分の姿を。
幻視したその光景はあり得たかも知れないもう一つの可能性。

「だから、お前が気に病む必要はねえんだ……」
「そ、うか……兄さん、ああ兄さん。もっと話していたいのにどうしよう。
 眠くて眠くて堪らないんだ。瞼が今にも閉じてしまいそう……」
「眠ってしまえよ。疲れただろうからな、ゆっくりと休め。
 なぁに、話ならまた起きた時にすればいいさ」
「でも……」

「……王様、子分は親分の言うことを聞くものですぞ」

いつか聞いた言葉。
その言葉を聞いて、デールは安心したように瞼を閉じた。
「ありがとう、兄さん。兄さんはやっぱり凄いなぁ。
 僕は……僕はねえ、ずっと……兄さんのように、なりた……か……」

――それきり、デールは二度と動かなかった。

ヘンリーはゆっくりとデールの死体を抱きしめる。
(眠れよ、デール。お前が起きる時には全て終わってる。
 この俺が全て終わらせてやるからよ。だから……)
そしてヘンリーはしばらくそうやっていた後、ソロに声をかけた。
「ソロ」
「は、はい」
ずっと二人の様子を見守っていたソロは突然声をかけられて少し驚く。
「俺はよ、死んでもいいと思ってたんだ。
 マリアを……デールやリュカを元の世界に戻すためならこの命なんて惜しくねえってな。
 ……でも、死ねなくなっちまった。簡単に命を投げ出すわけにはいかなくなっちまったよ」
「ヘンリー ……さん」
その腕に抱えたデールを見てヘンリーは薄く笑う。
「こいつは俺に憧れていたんだと。こんな、何もできない男によ……なりたかったと、そう言った。
 だったら、俺はそれに相応しくならねえとな。コイツの言う凄い男によ」
ソロは何も言えない。言えるはずがない。
ただ、黙ってヘンリーの言うことを聞いている。
「だから決めたよ。いや、改めて考えた。
 このゲームをぶっ壊すってな。このゲームに乗る奴も全部俺が止めてやる。
 でも、でもよ……」
ヘンリーの瞳から涙が零れた。
「もう少しだけ、こうしていてもいいよな……すぐに、立ち上がるから……絶対に立ち上がるから」

ソロは空を見上げた。
静かな空間に、ただヘンリーの嗚咽だけが聞こえてくる。
空は僅かに紅く染まり始め、それは人々の血を連想させた。
一陣の風が吹く。……夜が、近いのだ。

(もう、哀しいだけの夜なんて訪れなければいい)

ソロはそう願った。
無駄とは分かっていてもそう願わずにいられなかった。

【ソロ(魔力ほぼ枯渇 体力消耗)
 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
 第一行動方針:ヘンリーを待つ
 基本行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【ヘンリー(手に軽症)
 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可、HP3/4) キラーボウ グレートソード
 第一行動方針:哀しむ
 基本行動方針:ゲームを壊す。ゲームの乗る奴は倒す)】
【現在地:ウルの村 外(西出入り口付近)】

【リュック(パラディン) 
 所持品:バリアントナイフ マジカルスカート クリスタルの小手 刃の鎧 メタルキングの剣
       ドレスフィア(パラディン)、チキンナイフ、薬草や毒消し草一式
 第一行動方針:ウルの村の魔法屋で待機
 基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在地:ウルの村 魔法屋】

【バッツ(左足負傷)
 所持品:ライオンハート、銀のフォーク@FF9 うさぎのしっぽ
     静寂の玉 アイスブランド ダーツの矢(いくつか)
 第一行動方針:レナが起きるのを待つ 
 基本行動方針:ファリスとの合流】
【レナ(気絶) 所持品:なし
 第一行動方針:不明】
【現在地:ウルの村 防具屋内部】

【ビビ 所持品:スパス 毒蛾のナイフ
 第一行動方針:休息、見張り
 基本行動方針:仲間を探す】
【わたぼう 所持品:星降る腕輪 アンブレラ
 第一行動方針:休息、見張り
 基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】

【デール 死亡】
【残り 60名】