539話

第539話:雷鳴が止むとき


【マッシュVSブオーン・前】

「こいつは、骨だな」
ダメージから判断するなら、虫の息。
けれど何か。そう、執念とも言うべき精神力がこの獣の命を繋ぎとめている。
ほとんど身じろぎさえしなくなった肉の塊に連撃を叩き込み、離れる。
ただひたすらにマッシュが繰り返す攻撃も、まるで効を奏しているように見えない。
「……先に俺の拳の方が音を上げそうだ」
いかづち降り止まぬ空を一瞬だけ見上げ、地面を蹴る。
わずかに逃げ遅れ、マッシュの身体を大電流が駆け抜けていく。
「っ!!」
苦痛は歯を食いしばって飲み込み、声に出さない。
バッツはソロを背負って助けを求める誰かのもとへたどり着けただろうか。
救いの手を、届けられただろうか。
俺達は同じ戦場で共通した敵、そう、理不尽な不幸、そしてとんでもない悪意と戦っている。
託した思いと信頼に、マッシュは送り出したバッツ達との連帯を感じとっていた。
いや、スコールとだって、この世界のどこかで同じ思いを抱えて抗っている誰かとだって。
そして狙いも何もなく、際限なく一帯を襲いあたりを火の海にしているこの雷を止めること。
それが今この時に自分に課せられている役目だと、気を引き締めなおす。
「ここはひとつ、やってやるか」
強靭な精神力を断ち切るには強大な攻撃力で生命とひとまとめに折り砕くほかない。
それが出来るのは何か?
そう、『夢幻闘舞』、自身最大の奥義に他ならない。

避けよう無く荒れ狂う音と光の中でマッシュは集中した静寂の中にいた。
森に、村に、草原に止むことなく降り続く稲妻の雨の下、精神を統一する。
すなわち奥義『夢幻闘舞』を繰り出す事を心に決め、全身全霊を傾けていく。
全身に気を漲らせていく。
すべての筋力を、体内のエネルギーを凝縮――そして、解き放つ!
「いっっくぞおおおぉぉらあっっ!」
次の瞬間にマッシュを狙い打った稲妻は代わりにその残像を打ち、地面を穿った。
影すら見えない速度が雷の雨を突き破りモンスターへと打撃の雨を見舞う。
二発、四発、八発……最大の速度で巨体の周囲を舞いながら最大の力を込めて拳を叩き込んでいく。
傷付いた肌をさらに破壊していく。
三十二発、六十四発……足元で、帯電し始めた地面がパチリと静電気で弾けた。
厚い肉がひしゃげる感触。
百二十八発……高速での躍動連打に、マッシュの身体もまた悲鳴をあげ始める。
硬い骨がきしみ折れる感触。
二百五十六発……越えたことのない限界へ近づき全身が停止を要求しだす。
それでも、稲妻は止まることはない。
ばかりかモンスター自身を狙い打つように密度と正確さを増した雷が諸共にマッシュを貫いていく。
「上等! 根性勝負、受けて断つ! 割れた大地に挟まれようとも……!」
肉体の抗議を無視し、速度を落とすことなく連打を放ち続ける。
五百十二発……もはや一人と一体を押し包む天から地への電気の流れの中でそれでも闘舞は終わらない。
「オレの力でこじ開ける! ッッけえぇぇーーッ!!」
千二十四発。全身の筋肉が千切れるような消耗。限界近い激闘の結末は……



【マッシュVSブオーン・幕間】

燃え盛る建物の間を走りぬけ、村の外れへ。
次第に空気を引き裂く音の塊との距離が近づいていく。
散発的に村や森に雷は落ち続けているが、その方向は明らかに光と音の密度が違った。
立ち上がる巨大な影は見えないが、倒すべき敵を求めかけるサイファーの足がぴたりと止まる。
「急いでんのによ。誰だ?」
白い光に照らされて浮かぶ、こちらへ駆けてくる人影。しかもまた誰かを背負った奴だ。
疲れているのか、傷でも負っているのかどうにも精彩を欠く走りだが、確実にある速度を保って近づいてくる。
向こうもこちらを確認したのだろう、必死さを帯びた声でこちらに呼びかける。
「そこの誰か、頼む! この向こうでマッシュって男が戦ってる!
 手を貸してやってくれ!」
「言われなくたってそうするつもりだぜ。そうか、お前らがソロとバッツだな?」
直感を口に出す。
なんで、とでもいいたげな戸惑った反応はそれが間違いでないと教えてくれる。
「心配するな、ターニアとビビは俺が助けといたぜ。エリアも大丈夫、
 合流地点は村の逆の外れにある井戸んトコだ、確かに伝えたぜ。
 じゃあ、俺は化物退治に急ぐんでなっ!」
一方的にしゃべり立てたあと、相手の返事も待たずにサイファーは再び走り出した。
ヒーローの活躍の舞台はもう、間近だ。

汚れてボロボロとはいえ雷光に映える白いコートの男を見送りつつ、
バッツは伝えられた情報をもう一度頭の中で反芻する。
エリア、ビビ、ターニアの三人は助けられた。
推測だが、今の彼と協力して三人を助け、さらに彼をこちらに送ってくれたのはきっとリュックだ。
レナとわたぼうがおそらくあの化物と戦って……倒れた以上、
この大襲撃前にウルにいた仲間の所在で確認されていないのはヘンリーだけになる。
彼への心配とひとつ問題がどうにかなった安堵がないまぜになって、バッツは暗い空を仰いだ。
続けて心の天秤が、ヘンリーを探しに行くべきか、
……それともマッシュと今の彼の援護に行くべきか、を選ぶように問いかける。
今の村からどこにいるかもわからないヘンリーを探すのは無理だ。
多分、ヘンリーは村ではなく少し外れた別の場所にいるんじゃないか。
きっとリュック達がヘンリーを助けてくれるはず。
まるで仲間を見捨てるかのような、『助けに行かない理由』が次々頭に浮かびバッツは激しく首を振りながら俯く。
自分は、やっぱりレナの仇を取りたいのだ。
マッシュに送り出されて一度は振り切った想いがその先の目的を失ったことで甦り、バッツは思い悩む。
その時。
後方、つまりバッツ達が来た方向で、白コートの彼が向かった方で、マッシュとあいつが戦っている方向。
その方角からひときわ強い、そして断続的な光が押し寄せてくる。
振り返ったバッツが見たものは、まるで滝の流れのように寄り集まり束となる雷、そしてできあがる光の柱。
猛烈に嫌な予感に背を押され、ソロの重さも感じずにバッツは惹きつけられるようにその光へと走り出す。
その手に握り締めていた石から、かすかな緑色の光が洩れだしていた。



【マッシュVSブオーン・後】

血腥さ、そして小さな脈動に気付き、マッシュは目を開ける。
「……おお」
夜空にそびえあがる巨大な影を消耗のためか動かない手足を投げ出したまま見上げる。
吹き飛ばされて途切れた記憶があの瞬間をフラッシュバックする。

あの瞬間。
まるで稲妻が寄り集まったような、異常な光の柱、
その光の中を貫いて、まるで大地が盛り上がるように巨大な影が起き上がった。
下から立ち上がる闇に吹き飛ばされるように下から霧散していく電気の白光。
まだ動けるのか――!
ダメージ量、奥義への自負、なのにまだ動く、というのはマッシュにとって余りに予想外。
それは挫けぬ心の魔力があってこそ為せる業、しかし誰が、こんなことを予想できただろうか。
超高速移動を伴う千を越える連打の末、限界を超えて消耗しきっていたマッシュに、
その攻撃でさえない一動作をもはや避けることはできなかった。
極限まで追い込まれた獣の力――いや、不条理な死に抵抗する生命の不屈の意地。
もはや予想する、見誤る、というレベルではない。

「はは、畜生、根性勝負はオレの負けか……」
あれだけの攻撃を受けてなお立ち上がる相手を、マッシュは素直に賞賛した。
やがて虚脱したままのマッシュを追うように、同じく全身全霊をかけて立ち上がったブオーンの巨体が倒れてくる。
不幸にも、意図せずその腕の片方がマッシュの上へと落下してきていた。
殺意も敵意もない、ただの大質量が落下する事象。
けれど一時的なものとはいえ全身の力を使い果たしたマッシュは動けない。
視界を覆い落ちてくるそれに、自分の最期を覚悟する。
「まったく、なんて根性のあるヤツだ、こいつは……話せたらいい友人になれたかもな」
すまねぇな、兄貴。ドジ――いや、それは『夢幻闘舞』さえ耐えたこいつに失礼か。とにかく、俺はここまで――
無念を告げ、目を閉ざし、そのタイミングを待つ。
けれど予想した瞬間を過ぎても死はマッシュに訪れない。
「マッシュ……だな?」
男の声がする。
「まだ意識があるか? だったら転がってでもそこを動け!」
目の前には、落ちてきた腕を剣で受け止めて支える白っぽい男がいた。
どこかで見たことがあるような――誰だったか?
あまり動かせない身体の代わりに脳を働かせようとしたマッシュ、しかし。
「くそ、重いんだぜっ! 畜生がっ!!」
こういう状態の人間にやることじゃないが、吐き捨てた言葉と同時に男に身体を蹴り飛ばされる。
追いかけるように白い男も飛び出し、轟音を立ててようやく腕が地面にたどり着いた。

弱々しくも、拳を握ってみる。最低レベルを脱して少しずつ、力が戻ってくるのを確かめる。
「終わっちまったのか? ……また一歩遅れか?」
違う。遠くから聞こえる雷鳴はまだ止んじゃいない。マッシュと同じく奴もまだ、死んじゃいない。
閃光と音が同時に来る。近い。
「救出と撤収。……スッキリしねえな、暴れたりねえ、がとにかく」
白コート、白コート……そうだ、サイファー、だ。スコールの知り合いだった。
「おい、生きてるな? 動けるか?」
「ああ、心配ないぜ。サイファー」
「?? ……! お前……そうか、昼に! スコールの奴はどこだ? 何やってやがる、あいつは」
虚脱した身体に無理を言いながらマッシュはゆっくりと立ち上がる。
その目は、動かない、しかしまだ落雷を呼び続ける山のような巨体を見据えて。
拾った命なら、今度こそ必ず自分に課せられた役目を果たす、その一念を胸に立ち上がる。

「おい、人の質問を――っと!?」
「サイファー、預かっててくれ」
身に付けていた支給品の入った袋二つを投げ渡す。
「何しやがる!」
「エドガー=ロニ=フィガロという男にそいつを届けて欲しい。
 兄貴なら、このムカつく世界から脱出するための作戦をきっと考え出してくれるさ。
 頼んだ」
何を言っている、という感じに悪態をつくサイファーの声を聞かず、マッシュは一点を見ていた。
それは、さっきまでの闘いでは見えなかった急所。
少なくともブオーンの腕力と同等の力を要するが、くじけぬ不屈の精神力を持つこのモンスターを殺す方法。
そして、一対一、正々堂々の勝負から見れば――反則。
「サイファー」
「ああ?」
「誰かを助けるために戦ってきた。魔女と戦うつもり。そうだろ?」
「決まってんじゃねぇか。それがヒーローってもんだ!」
「はは、勇ましいやつだ。スコールなら南にいる。合流するといい。
 安心したぜ? 兄貴の代わりはいなくても俺の代わりは結構いるもんだ。
 ……俺の分も、しっかりやってくれ!」
「おい、何を……」
聴覚を断つ。呼吸を整える。狙いを付ける。
地を蹴って跳躍。一点へ、巨獣さえ拘束している死の首輪の一点へ、放たれた矢のように向かっていく。
「爆裂拳!」
不屈の精神、くじけぬ覚悟が、引き番えられた力を込めて機械の一点を打ち抜いた。
衝撃が、形容しがたい、規模の割に響かない軽い音を喚起する。



【マッシュVSブオーン・終】

白い光の柱が消え、化け物が立ち上がり、倒れた。
やがて闇の中でも比較的目立つサイファーの姿をしっかり認められるくらいの距離までバッツがたどり着いたとき。
獣のような俊敏な何かが、暗闇の中を走った。
手に握っていた石が眩いばかりの緑の光を放ったのはそれと同時。
ある方向へと放たれたその光の中に、妖精のような何かが姿を現す。
幻獣、召喚?
知識から当てはまる現象名を探す、けれどバッツには考える暇はなかった。
闇に映える空間を制御する魔力の閃き――そう、無の空間が発現するときに伴うのと同じ閃きがハッキリと見える。
その中に巻き込まれていくマッシュと、魔力の閃きに挑みかかる桃色の幻獣。
ほとんど間をおかず定められた空間の中で爆発が起こり、見た目にそぐわないひどく人を小馬鹿にしたような軽い音を耳にした。
「マーーッッッシュ!!」
絶叫するバッツは、爆裂の中へ消えるマッシュを救い出すつもりなのか、
異界の力にその存在を光の粒子に分解されながら飛び込んでいく幻獣を見た。
爆発が消え、山のような身体の一部が欠け落ちてようやく、首輪を爆発させたのだと気付く。
静寂が戻った夜闇に浮かぶように、桃色の小さな灯がその一角を照らし、消えた。
「マッシュ!」
金縛りが解けたように、慌ててその場所へと向かう。
同じく今の出来事を目撃していたサイファーが先にたどりつき、マッシュの様子を見ていた。
「……あの、マッシュは……」
「生きてるぜ、意識は戻ってないし右腕もない、がな。
 だが何だ? こいつの行動も、ピンクに光るG.Fもよ!? 何だってんだ!」
バッツは、はっと気付いたように手の石を見た。
緑色の光はかけらもなく、細かな欠片がその手から零れ落ちる。
召喚用の石だったのであろうそれは、まだ形をとどめているとはいえ渡されたときより明らかに砕けていた。
「くそっ、エドガーだと? 俺の代わりだと!?
 勝手なことをぬかして命を捨てんじゃねえ!」
熱闘は過ぎ去り、空気が急速に夜の冷気へと置き換わっていくような気がした。


温度を失っていく傷付いた山のような肉塊とその向こう、静寂を取り戻した夜空を見上げながら
出来事に圧倒されたままバッツは呆然と皆の無事とレナの冥福を祈り。
「……ヘンリー」
増えていく重傷者、悪化していく状況への不安、確認できないヘンリーの安否。
みんなを救うためにはどう行動すべきか、迷っていた。

【マッシュ(瀕死、右腕欠損、意識不明) 所持品:なし】
 第一行動方針:-
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
 第三行動方針:ゲームを止める】
【サイファー(右足軽傷)
 所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ
 マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧 スタングレネード×6
 第一行動方針:協力者を探す/ロザリー・イザと合流
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ソロ(HP3/10 魔力0 気絶 体力消耗)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣 ジ・アベンジャー(爪) 水のリング
 第一行動方針:?
 第二行動方針:ヘンリーを助ける。
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【バッツ(HP1/6 左足負傷)
 所持品:ライオンハート 銀のフォーク@FF9 アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
 第一行動方針:『みんな』助ける
 基本行動方針:生き残る、誰も死なせない】
【現在位置:ウルの村西の草原】

【ブオーン 死亡】
【残り 43名】
※神羅甲型防具改はマッシュが装備していたものとして破壊、消滅

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年02月15日 23:33
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。