493話

第493話:その背の免罪符


静けさの中に規則正しいリズムが息づいている。
自分のものではない、背中で目覚めない少女のそれに幾ばくかの注意を払いながら、
ウィーグラフは鬱蒼として深い闇の森を切り裂いて進む。
警戒しながらもその足は留まる事なく目的として定めたルートを辿っていく。



託された捜索、密かに求める疑念の答えを見つけ出すために森を行く男が一人。
威風堂々たるその男パパスは今、声無き驚嘆を目前に現れた光景にぶつけていた。
ラムザもケフカも見つけられぬまま森の奥へと北上を続けた先に現れたもの。
それは何か得体の知れない力でなぎ倒された樹木、それが道となり、結果開けた空間が森を引き裂いているのだ。
ほぼ真北とおよそ北東方向の二方向へとその道は伸び、暗闇に消えている。

「圧力をかけられ折られておるな。一体どのような腕力…いや、巨躯か?
 モンスターなのであろうか。しかしこれほどの大きさの? …こっちは焼け焦げている」

開けた空間の幅、人が草にそうするように樹木をなぎ倒し、焼き払っていくサイズ。
推定した情報で自身の前にそれを対峙させる。期せず、全身から冷や汗が噴き出る。
あまりに大きく、あまりに凶暴なその像。
――勝てぬ。だが、気がかりなのは……
倒木の痕跡から巨獣は北から来、ここで北東へ向きを変えたようだ。気がかりなのはその行き先。
だが、それ以上にパパスを心配させる事はこのモンスターの方向転換の理由。
単なる気まぐれならそれで良いが、そうでないなら何を恐れた?

ふと我に返り、驚きと思考に時間を費やしたことを悟ったパパス。
気を取り直して捜索を続けようという前に自分と別方向からここへやってきた相手に気付いた。

暗みより月光下に現れた男。
この破壊に自分と同じように驚いているのかあたりを機敏に見回す彼とパパスの目が合う。
歴戦の戦士であろうしっかりした体躯、しかし何より目を引いたのは彼が背負う子供。
ほんのわずかな背後を気にする素振りのあとで素早く長剣がパパスを指して抜き放たれる。

「待たれよ、戦士殿。剣で争う気はござらん。
 私はパパス。まずはあなたの名前を聞かせてもらえぬだろうか?」
「…ウィーグラフ=フォルズだ。悪いがそちらと関わる気は無い。
 失礼ではあるが、できるなら早々に立ち去ってもらいたい」
「何故にそのように拒むのか?
 一体どのような事情がありそのような子を連れて夜の森を移動しているのです?」
「………」

無返答。いっそうウィーグラフの眼光は鋭く、敵意は増す。
冷静に考えれば不審な振る舞いであるが殺人ゲームはむしろそれを薄めてしまう。
ウィーグラフと彼が連れている子供の関係はわからないものの保護されるべき対象の存在がすべてを勝手に補完する。
現にパパスも、その不審さを気に留めながらもその態度を強引に納得していた。
もし自分が同じ立場、愛する我が子を連れた状態でこの悪意の世界に曝され続けたとしたら、
どれだけ冷静と友好的態度を貫きつづけられるだろう。

「ではせめて一つだけ。あなたがやってきた方向、つまりここより西、そちらで何かあったのですな。
 それは一体?」
「確かに騒ぎはあった。だから私はそれを避けようとしている。
 ……もういいだろう、私は行く」
「ありがとう、あなたも気をつけて……その子を守りきってくだされ」

なおも警戒を切らすことなく、言葉を交わす事も無くウィーグラフは北東、森につけられた道をたどるように去っていった。
心配とわずかな羨望の入り混じった気持ちで闇に混ざるその姿を見送ってから、
ようやくパパスは託された目的に立ち戻った。

「騒ぎ、か……仲間を置いて途絶えた足跡、何かに巻き込まれたと考えるが妥当なところ…」

西方、暗い森をじっと凝視。
それからパパスは再び捜索のため強い歩調で飛び込んでいく。

【ウィーグラフ(HP2/3)
 所持品:ブロードソード プレデターエッジ レーザーウエポン グリンガムの鞭
 暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 神経弾 不思議なタンバリン エリクサー×5
 スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア 攻略本 首輪×2 研究メモ
 第一行動方針:地図に示した地点まで移動
 基本行動方針:生き延びる、手段は選ばない/ラムザとその仲間を探し殺す(ラムザが最優先)】
【リルム(HP1/2、気絶、右目失明、魔力消費)
 所持品:英雄の盾、絵筆、祈りの指輪、ブロンズナイフ
 第一行動方針:?
 第二行動方針:仲間の帰りを待つ】
【現在位置:森林中央部→北東へ】

【パパス 所持品:パパスの剣 ルビーの腕輪
 第一行動方針:ラムザとケフカを探し、カズスでオルテガらと合流する
 第二行動方針:自分のケフカに対する疑いを探る
 第三行動方針:仲間を探す
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:森林中央部→西へ】

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最終更新:2008年02月16日 15:17
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