第29話:背負うもの
「見つけたぞ、ケフカ」
レーべからすぐ南にある森の一画で重々しいその声が響いた。
支給品の袋をあさっていたケフカは声がした方へゆっくりと振り返る。
「これはなつかしい、レオ将軍ですか。イヤなときにイヤな旧友と出会うものだな」
「お前が友であったことなど、かつて一度もない」
ケフカの言葉に対し、茂みの奥から堂々たる足取りであらわれたレオ・クリストフは断固として言った。
道化師を真似て見せているのか派手な化粧を施している顔で、レオを舐めるように見つめる。
その眼差しは、笑っているようにも、嘲っているようにも見えた。
レオは、喉の奥で低く獰猛に唸った。
「…ケフカ、お前はこのゲームに乗るつもりなのか?自分ひとりが生き残る気か?」
疑問というよりも確信に彩られたレオの質問にケフカは答えなかったが、
代わりにその顔に浮かべた狂気めいた満面の笑みの表情が質問の答えを雄弁に語っていた。
「君とは長い付き合いだ。ここはなにも言わず引いてくれれば、僕としては余計な手間が省けて嬉しいんだがね」
「私はこのふざけたゲームに乗るつもりはない。だが――」
レオは一度言葉を切り、支給品である吹雪の剣を鞘から引き抜くと、切っ先をケフカに向けた。
「貴様のような不逞の輩、これまで野放しにしておいたのが我が愚策か。ここでその腐った息の根、止めてくれよう」
「――だから君は、この僕に殺されたんだよその生真面目な性格を利用されてね」
ケフカは懐から取り出した支給品と思しき物体を手で弄びながら、言葉をも弄ぶかのようだった。
「それとも、まだ怒っているのかな?僕のことを。武人というのは、随分と根に持つものなんだね」
「黙れ。なにひとつ真理を知らん、痴者が」
からかうようなケフカの態度を、レオは一喝する。
そして吹雪の剣を引っ提げ、ケフカにゆっくりと歩みよった。
「ゲームに乗るというのなら、貴様の相手はこの私がしてやろう。下らぬ魔術、思う存分に披露するがいい」
「どうやらもう一度この僕に殺されたいらしい。困ったものだ」
ケフカは人差し指で宙に弧を描いた。
その指先に巨大な火球が生み出される。――ファイガだ。
その腕を振り下ろすと、火球が弾丸もかくやと言わんばかりにとレオへと向かっていく。
常人には視認出来ないほどの速度で飛んできたそれを、レオは踊るようにしてかわす。
不安定な姿勢になったレオの耳にケフカの声が飛び込んだ。
「これはどうかな?」
レオがケフカの姿をとらえた時にはすでにもう一つのファイガの火球が生み出されていた。
通常、これほどの短時間で連続して魔法を紡ぐことなどいかなる優れた魔道士でも不可能なのだが、
ケフカに支給されたアイテム…ソウルオブサマサがこれほどの魔法詠唱を可能にしている。
再度飛来してきた火球をかわす体勢にはレオははいっていない。このままでは直撃は必至だ。
「子供だましだな」
しかしレオは鼻で笑い、火球に向かって逆に一歩踏み込んで行った。
その勢いを利用し、横なぎの斬撃を火球に叩き込み、ファイガを一刀両断する。
ケフカは楽しげに甲高い声で笑った。
「魔法を剣で斬るなんてね。君のほうこそ相変わらず、身もフタもない男だね」
「下らん、と言ったはずだ」
そして三度目の魔法詠唱の時間を与えぬとばかりに、レオは地を蹴る。
振り上げた剣は、ケフカの血を吸うべく鈍く輝く。
「貴様が殺した罪無き人々の分の血、その身体から吐き出して逝け!」
ケフカは一見無防備のごとく棒立ちだったが、懐から取り出したものをすでに目の前に迫ったレオに向けた。
刹那――
レオに向かって幾筋もの雷が発生する。レオは反射的に剣を持つ逆の手に装備した鉄の盾で防御するが
やはり防ぎきれず、電撃を受ける。
内部に蓄えた魔晄エネルギーを瞬時に擬似魔法へと変換する魔晄銃による攻撃だとレオは気づいただろうか。
大きく姿勢を崩すレオにケフカは勝利を確信し、笑みを浮かべる。
ケフカはレオに肉薄して今度は回避できぬよう至近距離で魔法を放つつもりだった。
しかしレオは今にも倒れそうな姿勢から、斬撃を繰り出した。
見事なバランス感覚は、不安定な姿勢から美しき弧を描き出す。その行き着く先は、ケフカの肩口だ。
血が飛沫き、今度は逆に後退するケフカにさらにもう一撃を加える。鼻頭から左頬にかけて一文字に裂ける。
「おのれ、――おのれレオ・クリストフ!」
切り裂かれた顔を抑えながら、ケフカは凄まじい怒号を上げる。
レオの方はようやく体勢を直し、すぐさま飛びかかれるように全身の筋肉を撓めた。
「覚えていろレオ将軍。この仕打ち、必ず後悔させてやろうぞ」
憎々しげに呪詛の言葉を吐くケフカの姿が段々と見えなくなっていく。姿を消す魔法、バニシュ。
ケフカの姿が完全に見えなくなり、気配が消える。
しばらく周りを探っていたレオはケフカが自分から逃走したことに気づいた。
「…逃がしたか、おのれっ!」
レオは舌打ちをして、手にした剣も収めぬままケフカが逃げたと思われる方角へ駆け出す。
――奴だけは、この手で殺さねばならない。それがもう一度、生を受けた私のけじめだ!
【レオ 所持品:吹雪の剣 鉄の盾 神羅甲型防具改
第一行動方針:ケフカを見つけ出し殺害 第二行動方針:ゲームに乗らない】
【現在位置:レーべ南の森】
【ケフカ(負傷) 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 ブリッツボール
第一行動方針:レオから逃走 第二行動方針ゲームに乗る】
【現在位置:レーべ南の森】
最終更新:2008年02月16日 15:29