117話

第117話:醜鬼


「わかった?クラウドが知ったら私はもう終わり…。だから、知られないようにあなたを殺すわ」
一方的に喋り尽くすと、ティファは未だ呆然としたままの少女を見た。
月明かりが木々の間から差し込んできて、ティファは容易に少女の瞳に視線の圧力をかける事が出来た。
ターニアの表情は、恐怖に包まれていた。
当然だった。好きな男に嫌われたくないだけのために人を殺そうとする女が、目の前にいるのだから。
「でも、話さないと約束するならあなたを生かしてもいいわ…」
取引だった。しかも、あくどい取引だ。
そんなこと、わかっている。でも…
今、クラウドに換えられる物など無くて。

「…嫌だよ」
少女は、震える声で言った。
「おかしいよ!?どうかしてる!」
座ったまま、怒鳴るようにティファに声を浴びせる。
「そんなの…おかしいよ!クラウドって人に好かれたいから、人を殺すの!?そんなの…!」
「……」
「そう!あなたは人殺し!エアリスさんを殺した!」
喚き叫ぶターニア。

ティファの脳裏に、再び、エアリスが浮かび上がる。
(ティファ…止めて…もう…)
エアリスの声が、何故か酷くしゃがれて聞こえた。
刹那、そのエアリスの胸から血が噴き出した。
やったのは…自分。
「いやぁぁぁぁ!!!!!!」
ティファは、銃の引き金に手を掛けた。
そして、視界が赤く染まった。

だが、視界が赤くなったのは、ターニアの血のせいではなかった。
何処からか飛んで来た炎の玉が、ティファの顔を焦がしたのだ。
「きゃぁ!」
のけぞるティファ。その隙にターニアは立ち上がった。
「お姉ちゃんこっち!!」
森の茂みの奥から、10歳にも満たなそうな少年が顔を出していた。
「逃げなきゃ!あっちにピサロさんって人がいるから!」
少年の声に従って、ターニアは走り出した
あの時と同じように助けられた、という少しの驚きをもって。

ビビは、再び茂みの中に隠れた。
あのお姉ちゃんが逃げるまで時間を稼ごう…
そう思ったからだ。だが、それは無用だった。
炎を顔面に喰らった女性は、転げまわり、手で顔を掻き毟っている様だった。
まさかここまでダメージを与えているとは、ビビも思ってなかった。
…やりすぎたかな。
ビビの不安が的中したようだった。
女性は、呻く事無く仰向けに倒れると、動かなくなった。

「し、死んじゃったの…?」
後悔した。殺すつもりは無かったから。
ゆっくりとそれに近づく。
そして、彼女の顔を覗き込んで…

「ひゃぁぁぁぁっ!」
思わず、叫んだ。
無我夢中で、ピサロの元へと走り出した。



「あなたが…ピサロさん?」
ターニアは、木の根元にもたれ掛かっている影を見て、言った。
さっきの場所から、そう遠くは無かった。
運がいいのか、彼の姿は月明かりが届かないため影となっていたので、ターニアは彼の体中にこびり付いた血を見ることはなかった。

何処か不思議なオーラを放つその影は、冷たい響きのする声で言った。
「そうだ。小娘、…ビビはどうした?」
相手が人間だから、言葉はどうしても冷たくなる。
それでも殺す気にならないのは、ビビの言葉のせいか。
…それとも、先程泣いているビビを見てからロザリーの姿がちらつくのが原因か。

「ビビ…?さっきの男の子…?その子は私を助けてくれたの…それで」
ターニアは言葉を止めた。説明は不要だった。
「ひゃぁぁっ!」
悲鳴を上げて、ビビがターニアに突っ込んできたから。

「…落ち着け」
闇でも利くその瞳を、倒れたビビと巻き添えを喰らったターニアに向けながらピサロは言った。
「う…うん…」
ビビの声は震えていた。
「何かあったのか」
「う、うん、さ、さっきの女の人が…」
ビビは、話し始めた。
かつて多くの死を見てきた彼でも、衝撃を受けた事を。
自分の放った魔法の生み出した結果を。



――ちょうどその頃。
ティファの右腕の指先が、ゆっくりと動き始めた。
不思議ではない。顔以外は、無傷同然なのだから。
…そう、顔以外は。

ショックと苦痛で、意識を失ったようだった。
(痛い…)
声に出したそう言ったつもりが、ただの苦痛となって彼女を刺激した。
目をゆっくりと開けてみた。
月の明かりが差し込んでいた。
(綺麗…)
ぼんやりと月を眺め、痛みを堪えて彼女は立ち上がる。
近くに落ちていた銃を拾い上げた。
その近くには、もう一つの支給品、エアナイフが落ちていた。
月明かりを反射して、キラキラと輝いていた。
拾い上げようとした。
…だが、出来なかった。
ナイフの刃に、月明かりで自分の顔が映し出されたから。

――醜い顔が其処にはあった。
唇は焼け爛れ、左の頬は溶けているかのようで。
左頬から顎にかけての皮膚が、全て無くなっていた。
剥き出しにされた肉から、血が滴り落ちていた。
鼻は焼けて、ズルリと垂れ下がっているようで。

「……!!」
悲鳴を上げようにも、唇が無いから、上げられなかった。
醜鬼にも似たその顔が、今の自分の顔で。
それは自分の内面を具現化したものだと、思った。
…そして、再び気を失った。

【ピサロ 所持品:スプラッシャー、魔石バハムート(召喚可)、爆弾(爆発後消滅)
 行動方針:ビビの話をとりあえず聞く、ある程度回復するまで待機】
【ビビ 所持品:不明
 行動方針:ティファの状態について話す、その後はピサロに従う】
【ターニア 所持品:微笑みの杖
 行動方針:ピサロとビビに従う】
【現在位置:レーベ東の森中央付近】

【ティファ(気絶、顔面に重度の火傷) 所持品:コルトガバメント(予備弾倉×5)、エアナイフ(未だ拾ってません)
 行動方針:?】
【現在位置:レーベ東の森中央付近、ピサロ達より若干西】

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最終更新:2008年02月16日 15:46
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