FFDQバトルロワイアル3rd資料編@wiki 537話


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第537話:残像[AFTERIMAGE]


力の乗った拳が、銀色の髪をした少年のこめかみにゆっくり押し当てられていく。
全身から集められた力の流れが、その拳から少年へと流れ込んでいく。
少年のバランスが崩れる。
不安定になった重心の代わりに拳が少年の身体を操り、ゆっくりと弧に巻き込んでいく。
途中から鋭く落ちる90度――拳と頭が描く弧が行き着く先は石の地面。
そして、インパクト。
熟れた果実が落下したみたいに、少年の果実からナカミが飛びしぶく。

拳の持ち主がわたしの方へと振り向いた。
ああ、『彼女』があいつの顔をしていたら、よかったのに。
残酷で乱暴で身勝手なもう一人のわたしが無邪気に笑っていたらこんな暗い気持ちにはならないのに。
でもそこにあるのは当然の結果だ、正当防衛だと言い訳がましい不敵に険しい真剣顔。
今のわたしにピッタリの、表情をしていた。




そこで場面は途切れ、一面の薄暗い石の壁が視界を覆う。
場面転換を感覚が追いかけ、痛みとだるさと倦怠感がごちゃ混ぜで身体の状態を報告する。
つぎに気持ちが、最悪な寝覚めを迎えたことを教えてくれた。

「よって、三人が迎撃に出、私が看病に残された。
 戦闘の結果として屋敷に火が放たれ、我らは地下室に避難して今に至っている」
「そう……なの。上はいま大変なのに――」
右拳を握ろうとして、筋肉の動きが痛みを生み無理を告げる。
左肩は、腕を振り回すことを許してくれるだろうか?
足や腹の傷は、わたしが戦うことを認めてくれるだろうか?
満身創痍、といってかまわない。
「傷を塞ぐことはできても失った血肉は戻らぬ。無理はするな」
両目はバンテージの下で傷跡しかないのに、察したクリムトが声を掛けてくれた。
見えないだろうケド小さく頷いてみせる。
自分の身体だ、自分でよくわかる。こんな身体じゃ、どうしようもない。
実際、気を失っていた間は(今もだけど)足手まといだったんだろうし。
ふぅ、っと息を吐き出す。それさえも傷に響いた。
「あの……」
「テリーは、死んだ。……彼を抑えられなかった私に責任がある」
心を読み取ったかのように、クリムトがそう言った。いや、吐き捨てた。
それは超越しちゃってると思ってたクリムトが初めて見せた感情混じりの言葉で。
そんな態度を見せられたらもうその話題には触れられない。
わたしはまた、薄暗い天井をじっと見つめた。

外はどうなっているのだろうか。みんな無事だろうか。
今すぐにでも加勢に行きたいけれど、身体が許してくれるはずもない。
どうしてこんな傷を負ったか。
テリーとの戦いの記憶が断片的にイメージとして甦ってくる。
――もし、戦っていたのがわたしじゃなくてあいつだったら?
答えを出さないほうがいいとは頭でわかっていても、どうしても比較してしまう。
――あいつだったら、最初から全力で殺しにいったはず。
  だから、いくらか軽い傷は負ったとしてもこんな怪我しないで勝っただろう。
  それだけじゃなくて、白いコートの彼もクリムトも、きっと殺した。
――それなのに、わたしは憎悪を向けてくる相手に対して迷って、迷って、この有り様。
  襲われた人、仲間を奪われた人……一体何人のテリーみたいな人が『アリーナ』を探しているのだろう。
  本当に、わたしは撒き散らされた憎悪を越えてあいつに勝てるのだろうか?

まるで、自分と分身の間に超えがたい力の差が、
とりわけ戦いへの真剣さのところで大きな差があるみたいに思えてくる。
必死に打ち消そうとするけれど、気勢も理屈も弱々しい。
こんなわたしが、本当にあいつを止められるのだろうか?
……できない、としたら。
わたしの、価値は?

『ないよ、そんなの。だいたい本物のアリーナはわたしなんだし』  

イメージに現れたあいつがそう言って、笑った。
勝利する自分の姿は、イメージできなかった。

増していく不安と絶望の合間で、わたしは強がっていた。
グダグダ悩むなんてわたしらしくないっ!
……なんて勢いだけの反論じゃ、マッチの灯りほども暗い気持ちを明るくできない。
全力で駆け出してあいつを探しに行けたらマシだったかもしれないけど、
……今は行動だって満足にいかない。
でも、負けを認めてしまったら、ここにいる目的さえ見失ってしまう。
ソロやライアンが頑張っているのに、わたしの行動は結果的に殺したほうが多い。
その責任を取らない、あいつを倒さないわたしなんて、存在してちゃいけないんだ。

追いつめて、思いつめて、押しつぶされる。
この時のわたしの心は本当に最低最悪の負のスパイラル真っ只中だった。
多分、一人でいたらきっとホントに心が折れちゃってたと思う。
けれど、わたしにはまだすがることのできる相手がいた。
何を見ているのかわからない、よその世界の賢者さん。
こんなに思い詰めて質問するのは人生で初めてだと、思う。
どう言ったら自分が望む答えにたどりつくかもわかんないけど、
思い切って尋ねる。

「ねえ、クリムトは――本当に、この世界がどうにかできるって……
 思う?」

「天の時、地の利、人の和」
わたしの質問に少しの間考え込んでいたようなクリムトは、やがて簡潔にそう答えた。
賢者みたいな人の言うことなんてそんなものかもしれないけれど、
わたしには質問にかみ合ってない答えに聞こえるんだけど。……わたしがダメなのかな、それは。
怪訝そうなわたしをおいて、クリムトが言葉を付け加える。
「されど……。天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」
ますます難しくてわからない。ブライあたりだったらわかるんだろうなあ。
クエスチョンマークを浮かべて悩むわたしにクリムトは微笑して、噛み砕いて言い直す。
「人が最も強き力を発揮できるのは、人の和――つまり団結をなし遂げたとき。
 希望は我らがひとつの気持ちにまとまってようやく掴める程度にはかない」
「みんなが仲間になれば、ってこと?」
「そうだ。人の和があってこそ天の時、地の利を活かす事ができる。
 私はその為に皆を導くつもりであった。
 ……だが、我が未熟ゆえにテリーを導けず、衝突を許してしまった」
はっきりとした言葉の端に無念が滲む。
こういう人が軽いことを言うなんて思ってないけれど、クリムトは本気でそう考えているのだとは肌で知れる。
けれど、だったら。
「でも、どうしても仲良くなれない人がいたらどうするの?
 昨日だって今日だって死んじゃった人はたくさん出た。それはみんなが戦うからで……
 つまりあの……わたしの分身みたいなヤツはどうすればいいの?」
「…………」
黙ってしまった、ってのはどういうことなんだろう。
でも何となくは、わたしにもその沈黙の裏でクリムトがぶつかっているだろう迷いを推測できた。
それはきっと、テリーと対決したときのわたしの迷いと同じものなんだ。
「それでも。――それでも私は人を傷つけようなどとは欲さぬし、己が道を曲げようとは思わぬ」
やがて沈黙を破ってクリムトはそれだけを呟いた。

相変わらずわたしの気持ちは暗いままだけれど。
一人で考えて一人で潰れてたさっきよりはましになったと思う。
クリムトが教えてくれた言葉――人の和――みんなみんなと仲間になること。
あいつを生み出したのは自分の責任だからって追いつめすぎていたのかも。
わたしたちの世界でのあの冒険だって、ソロや、ライアン、ブライにトルネコ。ミネアにマーニャ、クリフト。
みんながいたからできたわけで、わたしの力だけじゃない。

ぼーっと暗い天井を見上げながら、
あいつと戦うわたしのイメージのとなりに、ソロとライアンを描き加えてみた。
――なんだ、簡単なコトなんじゃない。
  どうしてわたし、忘れていたんだろう。
  強さの半分は仲間がくれる力だったんじゃないの。
二人の姿を消して、今度はそばにいるクリムトをイメージに参加させてみる。
人を傷つけたくないって言ってるクリムトを勝手に戦わせるのは悪いかなとも思うけど。
それでも立ち向かえる気になっていた。

劣等感、なんだろう。わたしが感じていたのは。
でも、もうそんな捻れた気持ちはない。
例え戦う力でわたしにあいつが劣っていたとしたって。
となりに、背後に、心の中に仲間とつながっていられること。人の和の力。
そのあいつには無い力で、きっと差は埋められるはずなんだ。


カンテラが淡く照らす天井がなんだかさっきより明るく見えた。
身体はあちこち痛くて大変だけれど。
多分数時間ぶりに、わたしは少しだけ微笑んだ。

【アリーナ (左肩・右腕・右足怪我、腹部負傷) 
 所持品:無し
 第一行動方針:身体を休める
 基本二行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【クリムト(失明、HP2/3、MP消費) 所持品:なし
 第一行動方針:アリーナの回復
 基本行動方針:誰も殺さない。
 最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーンの町・シドの屋敷の隠し部屋の奥】