曲紹介
ナナカマドの花言葉は「私はあなたを見守る」「賢明」「私と一緒にいれば安心」。
全てを投げ打って齎す救済は、彼女にとって「賢明」な選択だっただろうか。
歌詞
(動画より転載)
混沌に満たされた世界。
此処で暮らす人々は、魔物の脅威に怯えていた。
託宣を受けたのは、黒き刃を携える剣士の少女ライア。
全てを投げ打って齎す救済は、彼女にとって賢明な選択だっただろうか。
彼女自身にも、その答えは出せないだろう。
私は思う。これから過ごすはずだった大切な人との時間は、
きっとなにものにも代えられないのだろうと。
私は手を伸ばす。自らの時間を捧げてこの世界を救う為に。
私は残酷だ。世界を救う為に、最も大切な人を不幸にしてしまうのだから。
私は消える。この世界を救うために。
人が見届ける程度の時間じゃ
世界を救える術は見つからない
既に失われた千年の記憶
一からすべてをやり直して進める
この徒爾の旅
忘れ去られた頃に砕かれる弥縫策
馬鹿らしい幸運だ
救世主の選んだ代償は───
さあ 此処で生きる時間を捧げて
君の過ごす未来守る
幾つもの犠牲に想いを乗せて
立ち止まらず進む
さあ 此処が私の終着点
この黒い刃掲げよう
悠久の戦いへ手を伸ばし
刹那を舞う オルティスの花
ようやくここまで来た。この国の平和は目の前だ。
人が言い伝える程度の記録じゃ
世界を変えられる術は探せない
忘れ去られるだろう 此の世から消えた私
秩序の糸できつく縢った縫い目に誰も触れさせない
華麗に舞え 刃振るえ 「負け」は許されない
「君」が居なくても戦い続ける
「君」が守れれば、それで構わない。
さあ此処で倒れるまで戦って
君が生きる世界守る
一つだけの愛に願いを乗せて
振り返らず進む
さあ 此処が私の終着点
この黒い刃掲げよう
悠久の戦いはまだ終わらない
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私は思う。これから過ごすはずだった大切な人との時間は、きっとなにものにも代えられないのだろうと。 私は手を伸ばす。自らの時間を捧げてこの世界を救う為に。 私は残酷だ。世界を救う為に、最も大切な人を不幸にしてしまうのだから。 後ろで啜り泣く声が聞こえる。今まさに消えようとしている私に向かって呼び止めたい衝動を必死で堪え、嗚咽が漏れる。 後ろに私を見据える人がいる。何も言わず、表情も動かさず、じっと見つめている。 ただその視線はまるで、過去の自分を見ているかのような哀れみや懐かしみにも似た、物悲しい雰囲気だったと思う。 風は吹かない。私が一歩先へと進むのを待っているかのように、世界は沈黙を貫いていた。 私は踵を返す。へたり込んで涙を流す彼女に、別れを告げるために。それを察した彼女は、別れの言葉なんて聞きたくないと言わんばかりに両手で耳を塞いだ。 私は彼女と同じ目線になるようにしゃがんで、耳を塞いだその両手にそっと触れた。
───聞いて。
囁くように、言葉を紡ぐ。彼女にしか聞こえない声だけれど、しっかり一つずつ。
───もう二度と、君に会えはしないけれど。
───もし、私の使命が果される時が訪れたら。
───帰る場所が、欲しいな。
私は彼女を見つめる。彼女も、私の姿をその翡翠の瞳に焼き付ける為にじっと見詰め返してきた。そして静かに、ただしっかりと、彼女は頷いた。 私は立ち上がる。絡み合っていた腕と腕がするすると解けて、私達は離れた。
───またね。
私は彼女にそう言い残し、進むべき道へと向き直って早足で進んだ。 またね、という言葉が、私の頭の中で反芻する。またなんて、あるわけがないとわかっていながら「さよなら」が言えなかった。 私は消える。この世界を救うために。 やがて、景色が暗転する。何も見えなくなる。私は振り返らなかった。振り返ってしまったら、何もかも崩れ落ちてしまう気がしたから。
私は思う。これから過ごす平穏を守るための時間は、私のすべてで賄えるのだと。
私は体を丸める。捧げた時間を暗闇の中で過ごすために。私は残酷だ。自らと、大切な人の幸せを奪ってまで世界を救った。
誰にも知られず忘れ去られ、魔導書で眠る救世主となるのだ。
───私の選択は、正しかったのだろうか。
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傷だらけになっても 身体が抉られても
死ぬことさえ許されない
次の『救世主』現れるまで
華麗に舞え 刃振るえ 「君」だけの為に
私がただ守りたいのは 生涯一人だけ。
その為だけに、私は救世主になる。
さあ 此処で生きる時間を捧げて
君の過ごす未来守る
いくつもの覚悟に想いを乗せて
立ち止まらず進む
嗚呼 戦いで狂気に堕ちても
君の事だけは忘れない
帰るべき場所があると信じて
刹那に咲かせ オルティスの花
千年という時間を捧げて、私はまたここに舞い降りる事になる。
行く場所のない私は、果たして孤独に耐えられるだろうか。
───もう、君の顔も思い出せない。
気が付くと、懐かしいという感情さえ消え失せたこの世界に立っていた。
嗚呼、使命は終わったのか。
永い時を経て今尚姿を変えないこの地に立ち、私は未だ生きていた。
ふと下を見ると、足元に文字の掠れた手紙が落ちていた。
宛名はなく、いつ誰が書いたものかも判らなかった。
『───親愛なる友へ。』
それが、この手紙の書き出しだった。
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最終更新:2023年12月12日 14:04