三分レス無ければジュナスメインのSSを書く

「ジュナス・リアム軍曹と、レイチェル・ランサム軍曹、だな」
「「はっ!」」
 何十回としてきた敬礼をしてみせる。
「おう、この基地の指令官をやってる、ゼノン・ティーゲルだ。よろしく頼む」
 そういって敬礼を返すのは三十、四十代あたりであろう中年男性。
 ゼノン・ティーゲル中佐
 長く戦争から遠ざかっていた連邦内で、紛争での実戦経験もあり、まともな佐官の一人。
「しかし……な…」
「……なにか?…」
「いや、年齢がな」
「年齢……でありますか?…」
「お前さんらは、まだ若い。実戦経験もない。それで軍曹なんざ、本来そうなれるもんじゃないんだ」
「はあ……」
「まぁ、人類の半分も死んじゃ、人手不足どうこう言っちゃいられないんだろうが……」
 天井を仰ぎ見るティーゲル中佐。僕とランサム軍曹はそれに返す答えを持っていない。
「……あぁ、悪い。下がって良いぞ。とりあえず今日は休め。色々と、詳しい説明は明日だ」
「「はい」」

「ジオンの課題は資源確保、二日前にバイコヌールがとられて………」
 壁にかけられた世界地図を眺める。
「次に狙う場所が予想出来んか……ジャブローの馬鹿共が…」
 地上で得たものを宇宙に上げる方法を得たジオン。当面の目標は資源の確保だろう。
 バイコヌールから近く、宇宙では取れない地下資源を期待できる土地。
 オデッサ
 この基地はオデッサに近い。戦場になることは簡単に予想できる。
「そこに送る人員が新人か……」
 別に二人の能力はこれから確認すればいい。問題はその暇があるか、だ。
 椅子の背もたれがキシと軋む。
 いけないな、不安ばかりで、まるで老兵だ。
「ロートルと呼ばれるには、まだ早い……」


「ふぅ……」
 宿舎に向かいながら空に浮かぶ月を仰ぎ、考える。
 まだ若い、か─
 一月の宣戦布告。毒ガス。コロニー落とし。人類半分の犠牲。レビル将軍の「ジオンに兵なし」演説。
 連邦軍増強の為の徴兵制の改訂。対象年齢の引き下げ。
 その影響を受けたのが僕みたいな人間だろうか。
 たった数週間の訓練で何かが出来るとは思っていない。
 だけど、たとえ成り行きでも、何かをしなくちゃ、とは思う。
 どんな小さなことでも─
「リアム軍曹?」
「あ……はい、なんです?ランサム軍曹?」
 宿舎は同じ場所、部屋番号を聞くとどうやら隣同士らしい。
 だから並んで歩くのも当然のことだろう。
 僕と同年代、位だろうか?
 ベルファストで名乗るだけの挨拶を交しただけでミデアに乗させられ、ここまでろくに話していなかった。
 褐色の肌や一つにまとめた髪、大きな瞳は快活な印象を僕に与える。
「若い、ですよね」
 ランサム軍曹が言う。
 それは共感の意味なのか、それとも僕に対する確認なのか。
「ランサム軍曹もね」
 とりあえずどのようにでも取れる答えを。
「……フフッ、ですね。まだ若い…」
 その笑みの意味はなんだろうか。共感を得た安堵?若いと自覚しての自嘲?
 いや、人の気持ちなんか、分かりはしないか。
「これからお願いします。リアム軍曹」
「ジュナスで良い。堅苦しいのは苦手だから」
「じゃあ私もレイチェルで良いよ。ジュナス」
「うん。よろしく。レイチェル」
「よろしくね。ジュナス」
 改めての砕けた挨拶。軽い握手の後、互いに与えられた部屋に入っていく。
 まだガラガラの部屋。
 私物は、まだ必要な処置が終わっていないのだろう。
 何もない部屋は寂しさを増すだけ。
 それを誤魔化すように今日のことを思い起こす。
 中佐は、少し恐いが頼りに出来そうな人だ。
 レイチェルは……年が近い(同じ?)からだろうか、彼女とは仲良く出来そうな気がする。
 下心がない。とは言えないんだろうな……そういう意味でも、仲良くなれれば……
 何を考えているのだろう……
 慣れないことばかりで疲れているのだ。寝よう。
 唯一部屋にあった毛布を掴み、簡易ベットに横たわる─


 モーニングコールは警報だった。
 鼓膜をつんざく大音量にはどんな眠気も勝てやしない。一発で飛び起きる。
 その警報の意味に気付くのに十秒弱。
 敵襲
 自分の鈍さにゾッとする。もし敵が近くにいて、この宿舎を撃たれたら─
 そのままの服装で外に飛び出す。どうせ制服のまま寝たのだ。気にするとしたら制服のシワ位だ。
 まだ空は暗い。明け方。
 隣の部屋からレイチェルが出てくる。
「ジュナス!何!?」
 警報が鳴り続けているため大声で話さざるをえない。
「敵だよ!」
「敵!?でも、どこに!」
「わからない!」
 少なくともこの基地では無さそうだ。火の手は見えない。
 警報が止まる。
「どうする?私達まだ配置も分からないよ」
「……指令室に行こう。状況を把握して、指示をもらう」
 何か指示されないと何も出来ない。これじゃ…ただのガキだ……

「セイバーフィッシュ各機!発進急げ!続いてフライマンタ隊!戦車隊も走って行くんだよ!」
「中佐!イワノフ中尉が戦闘は先頭じゃないと出ないと!」
「無視しろ!準備が出来たやつからぱっぱと出せ!一秒でも早くだ!」
 指令室の中央でゼノン・ティーゲルは苛立っていた。
─今のは俺に回すことじゃないだろうが
 通信員は逐一俺に回してくる。少しは自分で返す努力をしないか。まるで素人じゃないか
 ……実戦を経験しなければ、こんなものか…
「中佐!」
「なんだっ!」
 振り返り叫ぶとそこには昨日来た新兵。
「自分達はどうすれば良いでしょうか?」
 思わず叫びそうになったが、仕方の無いことだと思い返す。昨日は配置について全く話さなかった。
 今更失敗したと思い返す。
「……ここにいろ。戦いを見ておけ」
「…了解…」


 事の発端は一機のHLV。
 オデッサへ降下中の数十を数えるHLV、その中の一つがこの基地から街一つ挟んで近くの森に着陸した。
 それからは直ぐだ。そのHLVから三つの反応が出てきた。
 ザク
 一週間戦争、ルウム戦役と、連邦宇宙艦隊に少なくない打撃を与えた脅威の機動兵器。
 それが市街地へ侵攻を開始した。
 多数のHLVを確認した時点で編成を始めたオデッサへの増援部隊を差し向けたが、
「チャーリーチーム、全滅!」
「ブラボーチーム、三台やられました!残り一台!」
「エコーチームを回せ!ブラボーの一台と合流しろ!航空機は何してる!」
「対空砲火に攻めあぐねています!」
「対空たって、警戒しているのは一機なんだろう!その一機も落とせんかよ!」
 たった三機にこの有り様か……
 相手はザク三機。バズーカ持ち一機、マシンガン持ち二機。
 バズーカ持ちとマシンガン持ちで組み、街北部を、残りの一機は南部を単独で進んでいる。
 街にはオデッサからの駐留部隊がいたが、もう全滅した。
 今はこちらから出た部隊と交戦状態だが、正直押されている。
 数だけで言えば、既に三倍以上を殺られているし、残りの部隊は死を恐れ攻撃が散発的になっている。
 部下に死ねと言うつもりはない。しかし散発的な攻撃では、各個撃破されてしまう。
 何かのきっかけが……

 悔しかった。
 何かを出来るはずの場所にいるのに、そこで何も出来ない。それが悔しかった。
 目の前にあるのは絶望的な状況。
 それでも何か出来ると思いたかった。だから
「中佐」
「……なんだ?」
 中佐が振り向く。その顔には焦燥が浮かんでいる。
「予備機を使わせてください。僕も出ます」


「え?」
 隣にいたレイチェルが呆然としている。中佐も似たような感じだ。
「……何を言ってる?意味を分かってるのか?」
「はい」
「っ馬鹿か!今更一機、しかも新兵の使う機体が増えて何になる!?」
「一機でも多い方が良いでしょう!」
「なんだ!?英雄願望か!?そんなもん振り回してたら死ぬぞ!?」
「英雄願望なんて下らないもので死ぬ気はないです!ただ、何かしたいんですよ!」
「そう思うだけで何かが出来るのなら苦労しない!自己満足で死ぬ気か!」
「死ぬ気はないと言ってます!死ぬのは恐いですよ!でもっ!」
「とにかく!一機で出るのは
「私も出ます」
 今度は中佐と僕が呆然とした。
「予備機が二人分もない、というのは流石にないですよね。ですから、私も出ます。これで、二機です」
「……お前らっ……好きにしろっ!」
「「……了解っ!」」

 パイロットスーツに着替え予備のセイバーフィッシュに乗り込む。
 システム起動。システムチェック。エンジンからの振動が微かに伝わってくる。滑走路に移動。
 離陸に必要なやりとりを管制塔と片付ける。
 その準備中にも友軍数機が殺られ、ザクはいまだ三機健在らしい。
 滑走路に到着。後は加速して、充分な速度になったら操縦桿を引くだけ。
「出来るさ……やってやる………」
 通信。
『聞こえるか。二人とも』
「…はい」
『はい』
 中佐だ。
『いいか。戦況は、良くない。だが、それをひっくり返そうと、無茶だけはするなよ』
『「はい」』
『機体なんざ消耗品だ。無理と思ったらすぐ脱出しろ。無駄死にだけはするな』
『「はい」』
『無事帰ってきたら俺のオゴリで飯でも食わせてやる。いいか、帰って来いよ』
『「了解っ!」』
 ペダルを踏み込む。
 体がシートに押し付けられていく。
─これが初陣、か。感動も何もない。ただ、戦うだけ─
 セイバーフィッシュが空に飛びたつ。


 街が見えてきた。数ヵ所火の手が上がっている。
 上空では基地から飛んできたセイバーフィッシュやフライマンタの編隊が旋回している。
 爆発
 その方向を見ると61式戦車が後退している。何かが61式戦車に突っ込んだ。爆発が戦車を呑み込む。
 戦車の乗組員数人は死んだ、のだろう。
 顔も名前も知らない。だけど、目の前で死んだ。
「くっ……」
 頭痛?いや、何かが……
『ジュナス?』
 レイチェルの声。少し心配の色が混ざっている。
「……何でもない」
 痛みはない。ただ、何かを感じた。それが何かは分からない。
 それを誤魔化すように頭を振り、視界を滑らせると、いた。
 大きな体。人間の様な四肢。ヘルメットのような頭。光る単眼。担いでいるのはバズーカだろうか。
 その後ろにもう一機。そっちはマシンガンらしいものを空に掲げている。
「あれが、ザク……あれが、敵……」
 二機とも着弾痕が全身にある。距離があったから貫通出来なかったのか、ザクの装甲が堅すぎるのか。
 できれば、前者だと思いたい。
『ジュナス、どうする?』
「さっき話したので、いこう」
 基地を離陸してから街に着く間の数分に決めた戦法。
 レイチェル機が攻撃のそぶりを見せながら敵の上空を旋回。
 それで敵の注意を引き付けている間に僕が低空から接近。近距離からミサイルを叩き込む。
 命を賭けるには安い作戦。だけど、賭けなきゃいけない。
『生きて帰ったら、何か一緒に食べましょ』
「そのときは奢らせて貰うよ」
 レイチェル機が先行する。数秒後に自機を大きく旋回、高度を下げる。
 ザクがレイチェル機に牽制射。その間に─
 61式戦車が爆発に呑まれるのが見えた─
 避難中の民間人もその炎に包まれ─


「なっ!」
 恐怖、驚愕、絶望、全てがごちゃ混ぜになった声が─微かに、聞こえた─
 またザクが撃った。
 戦車は逃げたが、その後ろのビルに直撃。
また、誰かが、死んだ。また、声が─
「なんだっ!?」
『 』
 レイチェルが何か言っている。聞こえない。
 ザクが、あの声を産む。それだけは分かった。また撃った。
「っ!お前は!なんでこの声が聞こえないんだよ!」
 機体を水平に。ペダルを踏み込み、加速。ザクの背後へ抜ける。
 機体を倒す。操縦桿を引いて、急旋回。
 Gが体を押す。頭から血が下がる。視界が暗くなる。
─まだ、まだ見える
 そこから捻り込むような機動をとり、建物と建物の間に入り込む。高度は数十メートルもない。
 ザクはまだ気付かない。
─行ける
 操縦桿の動かし方を数ミリ間違えば僕は一瞬で死ぬ。だけど、この機体を自分の体の様に動かせる。
 そんな自信が、生まれていた。初陣であるのに。
 ザクがこっちを見る。気付かれた、が、遅い。
 機首を上げる。HUDのサイトがモノアイと重なった。
 これが敵の目。それが分かった。
「オッ!アァァァァァァァァァ!」
 灼熱の弾丸の群れが敵のメインカメラとカメラレールを砕く。
 肩の上をすり抜ける。数百メートルもないところにまたザクの背中。
 バズーカから炎。また撃った!
─こいつはっ!
 ただ、怒りがあった。
 ロールしつつミサイルを三連射。
 ザクの背面装甲を突き破った爆炎が回路を焼き尽す。
 すれちがう。リアカメラを確認。ザクが膝をつき、倒れる。
 倒せない敵じゃない。まず、一機─


 レーダーを見る。レイチェル機が近い。
「レイチェル!僕の後ろに!」
 レイチェルは、出来ると思える。彼女には力がある。彼女なら、ついてくる─
 答えは聞かない。動きを見れば分かる。彼女が後ろについた。
 上昇。続いて降下。機首はさっきカメラを潰したザクの頭頂に。
 あの巨体だ。サブカメラくらいあるだろう。だが少なくとも、メインより性能は劣る。
 それをあてに突っ込む気はない。ただ少しはマシなはず。
 ザクの直上から接近。相手は呆然と立っている。
 カメラが潰れて何も見えないか、まさか戦闘機にやられると思っていなかったのか。
 それは過信。はっきりと分かる。
 倒せない敵じゃ、ない─

 いったいなんなのだろう。彼は新人のはず。私と同じ。
 真っ直ぐで優しそうな少年。だが戦うのは向いていなさそう。それが彼への第一印象。
 だがなんだ。早々にザクを撃破せしめたこの力は。自信に溢れる声は。動きは。
 誰かが言っていた。自分が弾に当たらないと思えるのも才能だ、と。
 それはただの自信過剰な馬鹿の事を皮肉ったものと思っていた。
 しかしその人が言いたかったのは、今のジュナスの様な状況なのだろうか。
 だとしたらその才能は、こんなにも力の差を見せつけるものなのか。
 負けたくない─
 同期としてのライバル心?負けず嫌い?分からない。ただ、そう思う。
 だから、ついていく─
『ミサイルを!』
 敵は目の前。ジュナスがミサイルを放つ。私もあるだけのミサイルを。
 ザクに突き刺さったのは七発。それで充分だった。ザクは、煙を吹き、倒れる。


「なんだと……」
 冗談じゃない。ザクⅡ二機がやられた?
 あいつらは戦場に出てまだ日が浅かった。
 だからこそ、狭い町中でも火力の集中、役割分担の意味で二機組ませたのだ。
 それが二機の戦闘機に……
 あいつらは素質は悪くなかった。日が立てば一丁前の指揮官くらいにはなれると思っていた。
 それを落とした。
 そうなるとその戦闘機は未来の部隊二つを潰した事になる。
「ちっ……」
 予想外だ。HLVと連絡を……
「予定変更だ!オデッサ方面に下がって本隊と合流する!ぱっぱとトラックで移動しろ!いいな!?」
『な…………よ……き……ない………だ』
 返ってくるのは雑音ばかり。連邦側のジャミングか。
 通信出来なきゃまずい。最悪、連邦に補給物資やザクの予備パーツを奪われるかも知れない。
「っ!くそっ!」
 レーダーに反応。ザクに脅えているヤツじゃない。二つ、真っ直ぐこちらに向かってくる。
 あいつらを落としたヤツか!

「倒した、だと……」
 目の前の情報が信じられない。通信兵の報告が信じられない。
 二機で戦況を引っくり返す……
 通常兵器でも倒せると示した事は、大きな士気の上昇になる。
 それはいい。それはいいんだ。しかし……
「戦車部隊!投降、呼び掛けとけよ!航空隊は二機に続け!」
─新兵だぞ……
 二人の経歴は読んだ。真っ白だ。それはこの戦闘が初戦闘ということを示していたはず。
 生きて帰ってくれば万々歳の二人がここまでやる。
 新兵でも倒せる敵だというか……
 それは違うはずだ。だとしたら戦死した兵が報われなんじゃないか?
 じゃあなにか、あの二人は他の兵となにか違うとでも言うか………


 ザクが撃ったマシンガンの火線が横を抜ける。まだ遠い。
「レイチェル」
『なに?』
「援護、よろしく」
『分かった』
 続いてスイッチを入れる。通信の範囲を広げて後方の友軍機へ。
「全機へ!二機で行きます!皆さんは少し待ってから後に!」
 急加速。大きく弧を描く機動をとり、ザクの後ろへ。
 レイチェル機も加速。僕の逆側から小さい弧を描き、ザクに接近。
ザクが発砲。僕に。当たらない。
 爆発
 命が消えた─
 後ろに無理矢理付いてきたフライマンタが僕に向けた弾幕に突っ込んだらしい。爆炎を一瞥。
「待ってって言った………意地はって……死んじゃ意味ないじゃないか………」
 僕の心に、チクリと痛みが残る。それを振り切るように加速。
 ザクは、僕を撃つのをやめた。レイチェル機に向き直る。
 それでいい。注意を引き付けてもらう。
 レイチェル機がバルカンを撃つ。装甲にかすり傷をつけるのが精々。
 だけど、彼女は僕の意図を分かってくれている。それは心強いと思える。
 レイチェル機がザクの真上を通過。ザクがそれに向け、二、いや、三射。
 彼女は急上昇。高空へ離脱。
 充分な時間を稼いでもらったおかげで、後ろを取った。
 ザクが見ているのは友軍の航空隊。だが、僕にも気付いてはいるだろう。
 急に振り向かれてもすぐには撃たれない様に低空から接近。更に加速!振り返る暇は与えない!
 ミサイルロック。熱源反応が大きい場所、胸部にロック。
 いや─
 敵は歩行している。動きを止めるため、足を潰す。
 ロック解除。誘導は要らない。狙いは膝関節。
 曲がるところにゴタゴタと付けれない。だから比較的にでも装甲は薄いはず。
 撃破出来たら万歳、投降させたら万々歳!
 一発で充分?いや、二発。ノンロックで、撃つ。
 真っ直ぐに進むミサイルが、膝を直撃。
 足が壊れ、背中から倒れるザク。そのザクを戦車隊が包囲した─


「よくやった」
 夕食中。中佐に言われた。
 中佐の奢りで食べる軍食堂の飯は美味かった。
 なんでも、ここの飯が美味いかどうかで兵の士気が段違いだとか。
 結局、オデッサは落ちた。
 三機にアレだけ苦戦したのだ。二桁を数えるザクに対してはなすすべもなかったらしい。
 それでもこの基地の士気は高い。
 ザク二機を撃破、HLVにあった物資、ザクの予備パーツを奪取。
 更に足を破損し動けなくなったザク、HLVに残されていたザク(こっちは旧式らしい)の二機を鹵獲。
 今の状況では最高の戦果と言えた。
 そして最大の戦力になったのはレイチェルと僕……らしいのだが、僕には実感が無い。
 戦っている時は、当然の事をしているつもりだった。ザクの撃破もそれほどのものとは思わなかった。
 だから基地に戻ってきた時の騒ぎとエース扱いされたことには、コケそうになったくらいだ。
「無自覚でもエースになっちまったんだ。エースの責任は、重いぞ」
 やらなんやら、中佐に脅されたのはついさっきだ。
 この食堂でも、周りの皆がチラチラとこちらを見てくる。とても落ち着けたものじゃなかった─


「お疲れ様、エース君」
 宿舎へ向かう道。隣を歩くレイチェルにも言われた。
「やめてよ。そうおだてるのはさ」
 やれることをやっただけ。そんな肩書きなんか、僕は望んでない。
「ん。でもさ、実際自慢してもいいくらいの戦果だと思うよ」
 戦闘機でザク二機の撃破。初出撃で。しかも一機はほぼ単独撃破。
「……そう、なのかもね」
 捉え方の違いだ。ザク二機の撃破。ただ、あの時の僕は感じとっていた。
 ザクのパイロット、二人の死も─
 悔いてはいない。あのままじゃ、もっと多くの人が死んでいたと思うから。
 だけど、エースと言われても、結局は、人を殺しただけ。
 それが兵士の仕事。そう言ってしまえばお終いだが………
 それに、守れなかった人もいる。
 民間人に二桁の死者、三桁の負傷者。
 戦争が続けば、こんな風に犠牲者は増え続ける。
 分かっている。これは戦争。綺麗事なんか言えない。言えるほど上手くやれない。
 だけどっ……戦争だからって………
─こんな戦い……
「……どうしたの?…」
 彼女が僕の顔を覗きこんでくる。不安そうにしているのは、怒っているとでも思ったのだろうか。
 僕はそんなにひどい顔をしているだろうか。


「なんでもない……そうだ、ありがとうね」
「なにが?」
「出撃前さ、君が一緒に出るって言ってくれなかったら、僕は戦うことも出来なかったと思うから」
「私も、何かしたいとは思ってたから」
 それに、と続ける。
「何かしたいと思ってる人が何もさせてもらえないんじゃ、可哀想じゃない?そんなの、嫌だから」
 そういって彼女は笑って見せる。思っていた通り、快活な笑顔だ。
「そうだね。そう思う。そう思うよ」
 いつの間にか、自室の前まで来ていた。
 空を仰ぐ。今日駆けた空は、昨日と変わらず月が出ている。
 僕は、レイチェルがまだ何かを聞きたがっているような気がした。
「……今日はもう疲れたよ…レイチェルも疲れたろ?だから、お休み」
 そうごまかす。軽く手を振り自室に撤退。
─こんな戦い、早く終わらせなきゃいけないんだ─


「ザニー、ですか……」
 僕の目の前でミデアから出てきたのは、白とオレンジ色の─モビルスーツ。
 それが二機。
「ああ、訓練機だと。同系統の現物が無いくせにそれを訓練しとけ、とさ。穴蔵のモグラどもは前線が何を求めてるか分かっちゃいない」
 隣りにいたティーゲル大佐が言う。
 どうも司令官殿はお喋りがお好きらしい。士官下士官の差別無く、気軽に話しかけて来る。
「それでも、使うんですよね」
 僕はあの時の戦闘での戦果によって昇進した。
 あれからも戦果を重ね、現在の撃墜数はMS三機。敵航空機七機に戦闘車両四両と、基地一番の戦績を記録している。
 時間さえたてば、すぐ士官にしてやる。と大佐は言っていた。
 ティーゲル大佐は、基地の戦力が大幅に増強されたため、その指揮を取るにふさわしい階級を、という意味の昇進らしい。
 もっともその本人は、面倒事を押し付けられたとしか思っていないらしいが。
「ん、まぁ、な。一緒に送られてきた120mmだって飾りじゃない。なんだって、使えるもんは使いたいんだ。あのザクみたいにな」
 あのザク─鹵獲したザクは、撃破したザクや同じく鹵獲したHLVにあった予備パーツと数週間を使い、まともに動くようにした。
 今では貴重な対MSの戦力として重宝している。実際僕もそのザクに乗って敵MSを一機撃破した。
「一対五、いや、十……それでも五分五分とは言い難い掛け金がクソ高いギャンブルを、俺は指揮官としてどうにかする必要がある」
 一方このザニーは、ジオンのザクを参考にに開発された物らしい。精々ザクと同程度の性能。
 それはまだいい。
 問題は、連邦製のパーツ。殆どが実験段階の試作品。どこに問題を抱えているか分かったものじゃないらしい。それでも。
「どんなものでも、この戦況をどうにか出来るかもしれないものが目の前にあるなら、すがりたくもなるじゃないか」
 ようは、そういう事だ。
「……そうですね」
 試作段階の新兵器を使うくらいなら、弱くとも信用できる通常兵器に。と言う兵は多い。
 それでも僕は─


「……あれ、なんです?」
 ザニーを積んだトラックの後に、装甲車らしいものが続く。
 タイヤは……ない。ホバー?
「ああ、あれは指揮車両だ。MS隊のな」
「あれが、ですか?」
 見たところ武装は貧弱。車載機関銃程度じゃMSは倒せない。装甲もそれほど厚くは見えない。
 僕が思ったことが分かったか、大佐が言う。
「なに、最前線でドンパチやるのが仕事じゃ無い。隊の目だ」
「目?」
「レーダーだよ。ミノフスキー粒子下でも充分な強さ、信頼性を誇るらしい」
 元々単独で運用するものでも無いそうだ。
「考え様によっちゃ、MSが敷く防衛ラインという装甲を持ち、MSという火力を持つ、とも言えるか」
 まぁ、使うヤツの腕にもよるがな、と言う。
「ま、なんだ。あんなことは言ったがな、あのザニーがあるおかげでここのMS配備は早くなるだろ」
 モビルスーツパイロットがいるところ、いないところ。どちらに優先されるかは素人でも分かる。
「連邦製MSも絶賛開発中だ。前線に配備されんのもそう遠い日じゃない」
 一介の下士官に予想はできても知る手がない情報。その情報があるだけでも士気は違う。
「噂のガンダムとまでは言い難いが、そもそもあれはコスト度外視だ。比べるモンじゃない」
 配備が決まったら教えてやる、と言い残して大佐は仕事に戻って行った。受領の書類やらなんやら、あるらしい。
 さて、僕も行くか。


 僕とレイチェルは今、ザニーの目の前にいる。
 僕たちは、ザニーのパイロットに志願した。
 僕たちは他の兵士より兵器への偏見や思い入れは少ない。
 それに、これからはMSが兵器の主流になる。それは誰の目にも明らか。
 だからこそ、どんな機体だろうと、一日でも早くMSという兵器に慣れておきたい。
「リアム曹長と、ランサム軍曹だね」
 そう僕たちに確認を取るのは、いかにも「姉御肌」という言葉が似合いそうな女性。
「この隊の整備班長をやる、ケイ・ニムロッド軍曹さ。ああ、コイツの運転手もやるよ」
 そういってニムロッド軍曹はさっきのMS指揮車両─ホバートラックと聞いた。見たまんまだ─を指差す。
「整備について不満な点があったら遠慮なく言いなよ。出来うる限り答えてみせるさ」
 そう頼もしいことを言う彼女の横にもう一人。
「パッ、パメラ・スミス伍長ですっ!ホバートラックの通信手を担当します!よろしゅくお願いします!!」
 ……噛んだ?そう言いそうになったがスミス伍長の顔が真っ赤なので止めておく。
 小柄な子だ。年は僕たちと同じくらいか、それよりもまだ低いくらいか。
 ……いや、でも、僕らより低かったら入隊出来ない?童顔なだけ?年上?いや、それはさすがに……
「おやおや、曹長殿は伍長がお気に入りかい?」
 気付かなかったがスミス伍長の顔をジロジロと見ていたらしい。
 いけないな。不躾だ。
 レイチェルは軽く睨んでくるし、伍長は顔を伏せてしまった。
「ん、ゴメンゴメン。でもさ、これで全員じゃないよね?下士官だけで隊は組まないだろ?」


「お、そろってるか」
 入り口から声。
「遅れて悪いな。俺がこの隊の隊長をやる、ビリー・ブレイズ。階級は中尉。パイロットだ」
「パイロット、ですか?」
 レイチェルが聞く。
 現状この隊の戦力はホバートラックとザニー二機でそのザニー二機のパイロットも僕とレイチェルのはず。
「ザクも回ってくる。MSはMSと一緒に、ってことらしい。お前等のオモチャは取らんさ」
「……オモチャ……ですか…」
 オモチャという発言にレイチェルが嫌な顔をしたのが見なくても分かった。
 まぁ、自分の命を乗せるものをオモチャと言われちゃ嫌にもなるだろう。
「そんなもんだろ?いじくりまわして不満になったらママに言う。まるでオモチャじゃないか」
 赤髪。どこか場慣れした雰囲気が体にこびりついている。頼りにはなりそうだが……
 どうも自分の主張を他人がどう取るかは考えない人らしい。
 レイチェルは口を閉じたが、納得には程遠いだろう。僕もさっきの発言に納得は出来ない。ただ言わないだけだ。
「お前らの自己紹介は、済んだろ?」
「名前だけですが」
「それで充分。生き延びれば付き合いが長くなる。そうなりゃ知る事も増える。深い仲になりたいなら生き残れ」
「はぁ………」
「とりあえず、動かすぞ。いざとなって歩けません撃てませんじゃ、冗談にもならねぇ」
 それの申請でちと遅れたんでな、と中尉は付け足す。
「今から一時間後に、各員各機に搭乗、街を迂回して東の森に出る」
「森?ジオンの勢力圏に、ですか?」
「120mmキャノン砲なんか、基地内じゃぶっ放せないだろ。訓練弾はあくまで訓練弾だ。実戦でやるしかない」
 森の中歩き回れば、敵さんも無視は出来んだろ、だそうだ。
 ……試作機二台と鹵獲機、トラックにどれほど出来るものか?

ツールボックス

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