マークとニキのSSのまとめ

 無慈悲な宇宙の漆黒と星の瞬きが、窓の外には広がっている。硝子を隔てた、この部屋
の内も、外と同じ静寂に満ちているが、確かに違うのは、人の温もりがあるということな
のだろう。
 マーク・ギルダーは、抱き締められることで、命の熱を伝えてくる、ニキ・テイラーに
呼びかける。
「ニキ」
「……はい」
 マークを見つめてきた、ニキの頬を、そっと撫でる。不思議そうな表情で――二人きり
でいる時は、僅かとはいえ、無表情ではなくなる――ニキが訊いてくる。
「どうしたのですか?」
「うん?」
「今の、言動の理由を教えてください」
 マークは苦笑して答える。
「なんとなく、さ」
「不可解です」
 ぴしゃりと告げてきたニキを、更に抱き寄せる。マークの胸に、頭を当てる格好となっ
たニキが喘ぐ。
「う……く……」
「きみにとっては、理解できないことなのだろうが、許してくれないか?」
「はい。これが、恋人というものなのでしょう?」
 マークは、抱き締める力を、ほんの少し強めることで肯定した。
 その意図が、ニキに伝わったかどうかは、あまり、自身がなかったが。
「あなたを信じています。どうか、わたしを放さないでください」
「……放すものか」
 マークは、ニキの顎に両手を添えると、深く口づけた。
「んうっ……!? ふ……ああ……くっ!」
「……うおっ……!?」
 互いの舌が絡んだところで、マークは、ニキに突き押された。
(段階を誤ったのか……!?)
 ニキの心を傷つけてしまったかもしれないという恐れに、マークは悔いた。ニキが、頬
を染め、強い口調で言ってくる。
「に……妊娠するのは、まだ、早いでしょう!?」
「妊……し……?」
 あっけにとられ、マークは呻いた。
「結婚する前に、に、妊娠などと……は、はれんちです! あなたは――」
「いや。待ってくれ」
 続けてくるニキを遮り、マークは訊く。
「……きみは、口づけで妊娠するという認識なのか?」
「は、はい!」
 ニキの肯定に、マークは呆然とした。
(学ぶべき事柄の選択がおかしいだろう……)
 確かに、軍事、政治に関し、最も優れた成績を修めたニキが、意外な事柄を知らなかっ
たということはあった。だが、どうやら、マークの予想を超越した状態に、ニキはあるら
しい。
「今までに、三回……か……口づけあったことはあるだろう? 例えば、挨拶で口づけあ
う人たちが、その度に妊娠するのではあるまい」
「あれは、浅いものです。たった今の、こ、これは、深いものでしょう!」
 ニキの主張は、マークにとってかわいらしいものではあった。
 無垢な乙女であるニキの純白に、その純然さを壊さず、マークの色を加えなければなら
ない。それは、生涯をかけた、悦びの労力となるだろう。
「まずは、赤ちゃんが、どこから来るのかを学ぼうか」
 マークは囁き、優しく微笑んだ。
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「世界は驚きに満ちている」
「はい……にゃあ」
「きまじめで、軍事と政治に優れ、どこか世間知らずのお嬢さんが、猫の扮装をしている
ことも、おれにとっては驚きだ」
「は……にゃあ」
「無理に返事を変えなくていいぞ」
 深く、深く嘆息し、マーク・ギルダーは告げた。想像もしていなかった眼前の存在。猫
を模した、耳と手と尾を、いつものきちんとした軍服姿に付けた、ニキ・テイラーに、で
ある。
「誰に、とは言わない……どうせ、クレアだろう」
「にゃー」
 呟くマークに、首を傾げるニキは、かわいらしいことは間違いなかった。
「その格好をすれば、おれが悦ぶと、クレアに教えられたな?」
「にゃい」
 律儀に、猫を擬人化すればこうなるであろう口調で、ニキが肯定してきた。
 学生の頃、偉大なる恩師に要求された、どうすればいいか分からないとしか表現できな
い課題の提出に取り組むような気分で、マークは、ニキに言う。
「あー……よく聴いてくれ。確かに、その姿のきみはかわいいぞ。だが、平素のきみも十
分にかわいいんだ。そして、猫を模した装飾は、おれたちにとって機能性に優れていると
はいえまい。あ……つまり、蛇足……いや……この表現は違うな……チョコレートパフェ
に、更に、チョコレートソースを加えるようなものであって――」
「にゃー」
 自分でも支離滅裂だと思える説得の途中で、ニキが、猫の両手で、マークの頬を挟み、
遮ってきた。忠実に再現されている肉球が心地良い。
「大好きな人にかわいいと感じてもらいたくてがんばるのは、いけないことですか? に
ゃあ」
「……いや」
 目を僅かに潤ませたニキに訊かれ、マークは否定することができなかった。
「あなたが悦んでくれるのであれば、わたしは、どんなこともできそうです」
「嬉しいが……おれに依存していいのか? 勿論、おれは、きみを受け入れる心算だが」
「わたしが、受け入れて欲しいと決めた人は、過去にも未来にも、あなたしかいません」
 マークの問いに、ニキはにこやかに答えてきた。僅かに見えた猫の牙が、悪戯っぽく光
った。


「そもそも、ニキには、猫よりも犬が似合うだろう」
「たまに、酒を飲みに誘われたかと思えば、のろけを聞かされるのかよ」
 ラナロウ・シェイドが、態とがましいほどに、大きく嘆息したが、マークは構わずに続
ける。
「奢ってやるから、語らせろ。気まぐれな猫よりも忠実な犬が、ニキには適している」
「……おまえが頼めば、扮装してくれるんじゃないか?」
 軽い口調の、ラナロウの疑問を、マークは否定する。
「犬と猫のどちらがニキに似合うかという話だ。おれには、扮装させて悦ぶ性癖はない。
おそらくな」
「そういうやつが、怪しいもんだ」
「…………」
 ラナロウが茶化してきたが、更に否定することはできず、マークは、沈黙で答えた。
「前に、嘘を吐けないのは、良くも悪くもあるって言ったぜ」
 苦笑し、ウイスキーを喉に流し込むラナロウに、マークは告げる。
「あのお嬢さんは、不思議な存在だ。戦局の先を読む力に優れ、おれたちに最善の結果を
齎してくれるが、日々の、楽しみも喜びも知らず、機械のように生きてきた。おれには、
そんな姿が、ひどく、儚くて悲しいものに感じられた。人として護ってやりたいと、素直
に思える」
 マークは目を伏せ、グラスの縁を指でなぞった。琥珀色の液体に溶けていく氷が鳴った。
「おまえも変わったよ」
「うん?」
 僅かに感慨を含ませて言ってきたラナロウに、マークは疑問の声を発した。
「今のおまえ、生きていきたいって気概があるぜ。自分の命さえ、どこか他人事のように
扱っていた、おまえがさ。おまえらが惹かれあったってこと、なんとなく、分かる気がす
るよ」
「……ああ」
 ラナロウの答えに、マークは深く頷いた。
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「マリア艦長」
「はい?」
 冷たく響いてきた声に呼び掛けられ、マリア・オーエンスは振り返った。なにかの本を
脇に抱えた、ニキ・テイラーが近づいてくる。
「あなたに教えて欲しいことがあります」
「わたしが、大佐に? え、ええ。教えられることがあるのでしたら」
 思い掛けない話ではあった。軍事、政治に関する、知恵と知識で、誰も敵わないであろ
うニキに、教えることがあるのだろうか?
 マリアが、この話が、軍事、政治に関する事柄だと判断したのは、ニキが、普段の無表
情だったからである。だが、ニキは、この場の雰囲気にそぐわないことを訊いてくる。
「料理に於いての適量を教えてください」
「……はい?」
 呆気にとられ、マリアは調子の外れた声を発したが、ニキは、それに構わず、本を両手
に持ち直すと、頁を順に捲りながら続けてくる。
「ええと……適量というのは……あら、料理をなさるのですか?」
 返事の前に、問う。ニキが料理をするのは、マリアの記憶にないことであったのだ。
 ニキが、無表情を崩して頬を染め、答えてくる。
「……はい……なにをすれば喜ばれるのかを考えた結論です……」
 話を始める時点で、その顔をしてくれていれば、察することができたのだが。まあ、無
理な注文なのだろう。ささやかな仕返しに、答えの分かりきった問い掛けをする。
「マーク中佐に?」
「はっ、は、はい……」
 返事の拍子に、持っていた本を床に落とすニキを見て、マリアを心を擽られた。本を拾
うのを手伝い、告げる。
「調理場を借りて一緒に料理をしましょう」
 マリアは、おまけで、片目を瞑ってみせた。


 マーク・ギルダーは、胸中で自問する。
 料理とは、人が、食べるということに喜びの感情を込めた結果、生まれたものであろう。
そうであるならば、料理は、食べる者に、良い感覚を与えてくれるものでなくてはならな
い。では、眼前の、卓に置かれた、悪い感覚を凄まじく発している物体は、なんであろう
か? 敢えて例えるとすれば、ビグ・ザムとサイコガンダムとラフレシアを設計して開発
すれば、こういった物が、黒歴史の狭間から具象化するかもしれないといえる。
 自問に対して自答できず、というよりは、自分で答えをだすことを拒絶し、マークは、
軍服にエプロンを着けた、ニキとマリアに問い掛ける。
「これは……なんだ?」
 マークの、その声が震えたのは、戦場でもなかったことである。
 ニキが、頬を染めて微笑んで――この姿だけならば、天女にさえ思えるのだが――答え
てくる。
「オムレツです」
「いやこれをオムレツと呼ぶのは世界できみだけだろうさすがにいくらなんでもこの黒歴
史の――」
「ニキ大佐、がんばったんですよ」
 堰をきったように捲したてるマークに、マリアが、引き攣りを誤魔化しきれていない笑
顔で言ってきた。
「そうは言うが――」
 反論しかけた瞬間に、ニキが、その目を潤ませているのが見えた。
「いただきます」
 匙を取り、オムレツ(仮)を口に含む。
 そこで、マークの意識は途切れた。
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「マーク、男性は、女性に踏まれると悦ぶと聞きました」
 ニキが普段の無表情で告げてきたので、マークは、口に含んだ紅茶を吹きだしかけた。
それに構わず、マークの伏せた顔を覗き込み、ニキが訊いてくる。
「あなたも、踏まれると悦ぶのですか?」
「……分からん」
 取り敢えず、紅茶を飲み込んで素直に答え、マークは問い掛けを返す。
「どこで、そんな情報を得た?」
「クレアがいうには、わたしに踏まれるのを望む男性は少なくないであろうとのことですが、
そういった行為は、マークだけにしてあげなさいと――」
「もう、いい加減、クレアの話を本気にしないでくれ」
「……善処します」
 マークの懇願に、ニキは頷いたが、一呼吸を置き、再び訊いてくる。
「未確認ならば、あなたが踏まれて悦ぶか悦ばないかを検証してみるべきではないてしょうか?」
「……どこを、どのように踏むかは知らないだろう?」
「はい」
 マークは深く嘆息し、呟く。
「時としておぼこは怖いものだ」
 気を取り直し、ニキに告げる。
「まあ、それよりも、一緒にお茶の時間にしようじゃないか」
「はい」
 喜びを宿したことを僅かに伝えてくるニキの声が、部屋に響いた
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