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女「……もぐもぐ」

男「ズズ……」

無言で紅茶を飲み、クッキーを食べる男と女。

女「もぐも……ピクッ」

男「ズズ……(全く関係のない方向を向いている)」

部屋の中には、さっきと同じように椅子とベッドに腰掛けている二人と、





女母「かわいーいーぎゅーっ……ふわふわー」

――女に抱きついて、尻尾をいじり回している女の母がいた。


女母「もうーっ、尻尾なんて生やしちゃってー……女ちゃんたら、かわいいかわいい(ぎゅっぎゅーなでなで)」


女「ごくん……ピクッ……ピクッ」



――三十分前――



女母「……(ドアを開けたままの形できょとんとしている)」

女「……はぁ……はぁ」

男「……」

女母「(男と女を交互に見る)…………ああー」

男「え……えーと……」

女母「そうだよねー。もう、二人ともそんな歳なんだもんねー」

男「い、いや違うんで」

女母「お菓子と紅茶はここにおいておくわねー。男くん、女ちゃんをよろしくねー」

男「ちょ、ちょっと待っ……!!」

ギィィ……バタン

男「よ、よろしくって……」

男(もしかしなくても、思いっきり勘違いされて……る?)

男「ちょーッちょ、っ!!あッ!女!戻ってこい!お・ん・なー!!(女をガクガクと揺さぶる)」

女「…………ふぁ?」

男「ふぁとかソとか言ってる場合じゃねぇんだって!」

女「ど……したのぉ?」←まだぼぅっとしている

男「おまえのお袋さんが来て、見られて、勘違いされたんだよ!」

女「……おかーさん……?……あっ尻尾ッ!バレた!?」

男「……いや、奇跡的に尻尾には気づいてなかったみたいだが……なんだ……代わりに……お前がさ……感じて……たから……その……な……」

女「……え……?……あー……?ええええーッッ……!?(ぼふんぼふんバタバタ)」←顔まっかっかっか

女「違うよ!断じて違うよ!!!そんなんじゃないって!!なんていうか男に触られてたら気持ちよくなって、少しまずいかなと思ったんだけど男が何か考え事をしてるみたいだったから、その、そのっ!!」


男「俺に訴えても意味ねーよ!つかその説明だともっと勘違いするっつーの!」

女「お、お母さんのとこにいって訳を話そっ!?」

ドタ!

男「そ、それしかないよなっ!」

……バタン!

女「やばい!やばいって!!やばいよー!!!(ぼふぼふぼふ)」

ドダドダダダダダ……

男「なんでこんなことになったんだよおお!!?」


バンッ!!!


始めに女が次に男がリビングに飛び込んだ。

男&女「お、お母さん!!」

男「……あ」

女母「あらあら、男くん。気が早いのねー、お母さんなんてー」

女「ばっ……バカやろうッ!勘違いを加速させるようなこと言うんじゃなぁっ!!」

男「うごぉッ!?(女が振り向き様にボディーブロー)」

女が繰り出したボディーブローのモーションで、女の尻尾は弧を描きながら、母の目の前に飛び出た。


女母「あら、尻尾ー?」


女「はぁ……はぁ……。あ、あのね、それでね、さっきの事なんだけどさ……お母さんが考えているようなことは」

振り向いた女が母をみると、母の視線は自分の腰の方に向いていた。

女「……」

線の先には言わずもがな、自分の尻尾。

女母「女ちゃん、どうしたの?その尻尾ー」

女「…………あちゃ」

男(あちゃってなんだ、あちゃって!あほ!)←自分のことは棚に上げてる

女「……」

女母「…………」



女母「かわいーいー」



女&男「は?」


女母「コスプレって言うのだったかしら?もう、男くんも、物好きねー。しかも女ちゃんにぴったりで、センスもばっちりー!(ウインクしてグッと親指を立てる)」

男(つられて親指を立て返す)



女「…………男が言ってたのと同じ事言ってるし……」

女「……いや、あのねお母さん……違うの」

女「…………(眉を寄せて思案顔になる)」

女「あー……」

女「……いや、疲れちゃった……部屋戻る……」

尻尾をずるずると引きずりながらリビングを出て行く女。

男「お、おい、ちょっと!?なにしてるんだよ!?まだなんも話ししてないだろっ!?」

階段の一段目に足をかけた状態でこちらにしゅたっと右手を上げると。

女「あー男。後まかせた。じゃっ」

そしてトントンぼふぼふと上がって行ってしまった。



男「俺かよ……」
女母「?」

リビングに取り残された男。

つまりお義母さんと婿とのマンツーマンである。←女母脳内

女母「男くん、あの子どうしたの?」

男「まぁ……ハハハハ」

男にとっても女の離脱は突然の事態だったため、彼は女の母の言葉へ笑い返すしかできなかった。

男(まかせた!しゅた!って言われても、一体全体どうすれっつーんだよ……)

なんだかんだ言って、全ての起因は女の生えてきた尻尾にあるのだ。

だが女の次に尻尾のことを知っている男にしても、初めて見たのはつい先なわけで、大したことは把握していないのだ。

つまり、何から話して、どう結論づければよいのかは、サッパリなのだった。

だからといって誤解をそのままにしておくことはできない。

男(とりあえず、あまり尻尾にふれないようにして、誤解を正すか……)

男「あのですね……」

女母「なんでしょうー?(男の顔を覗きこむ)」


男「……えーと」




――現在――




女母「なーでなーで」←上機嫌

女「……ピクッ……(男に避難めいた視線を浴びせる)」←不機嫌

男「そんな顔するなよな……そもそも俺だけじゃ、うまく説明するのは不可能だったんだって……」


結局、男はうまく説明できず、母を女の部屋へつれてきて、二本のもふもふに囲まれながらふて寝もとい幸せ寝をしようとしていた女を叩き起こして説明させた。

男と女のゴニョゴニョ疑惑は一応晴れ、尻尾については、

女母「それ、本物なの!羨ましいーかわいいー」

という女に気を使ったのか、それとも素なのかわからない一言(九割ほどの確率で素だと思われるが)であっさりと受け入れられてしまい、

尚且つ尻尾のある女の姿が女母の『可愛いツボ』にハマってしまったらしく、この様なぬいぐるみ可愛がりをされる羽目になったのだった。




男「ズズ……」(この状況は……目のやり場に困るな……)

必死にベッドから目をそらす男だった。




女「お、お母さん、ちょっと(女母の手を手で軽くのける)」

女が声を上げたときには、太陽は大分と降りてきていた。

母の抱擁は飽きずにまだ続いていた。

いじられている女は、始めの辺りから既にイヤイヤだったようにみえたが、途中で拒否をしなかったところをみると、そこまで嫌でもなかったのかもしれない。

女母「なにー?(手を放す)」

女「おしっこ……」

女母「あらーそれは大変」

女「ちょっといってくるっ」

女はさっと立ち上がり、内股気味にそそくさと部屋から出て行った。

部屋に残されたのは男と女の母だけ。

女の母も、女が出て行った後に立ち上がった。

男は椅子に座り、ベッドから背を向けたまま、首を垂れていた。

男「……すぅ……すぅ」

女母「あら、変に静かだと思ってたけど。男くん、寝てたのねー」

女の母は、気持ちよさそうに眠る男の顔を眺めながら微笑んだ。




このまま寝かせたままにしておいたほうが良いだろうか、それとも起こすべきだろうか。

そんな事を考えながら、何気なく男の頭を撫でた。

記憶にあるのと同じ、細くて、さらさらとした髪。

女は対照的で太めで硬い髪質だ。

二人とも小さな頃から変わらない。


男「……ん」

女母「起こしちゃったかしら。ごめんねー」

男「ぁ……」

男は目をこすりながら、かすれた声を出した。

男「女は?」

女母「お手洗いにいったわー」

男「すいません、寝ちゃってました(照れ笑いをしながら首を掻く)」

女母「いいのいいのー。それより、今日はもう用事は無いのー?」

男「今日はなにもありません。だから様子を見に来たんです。それなのにあいつったら、風邪じゃなくて尻尾が生えたなんて言いやがるもんだから(笑う)」




女母「今日は、わざわざありがとうねー。それにあの子の尻尾、隠したままにしようと思ってたでしょうー?」

男「まぁ、おばさんにぶっ倒れられたらこっちもまいっちまいますからね。でも、隠し通すのも無理だっていうのは二人ともわかってましたよ」

女母「私が倒れなくて予想外だったー?」

男「驚かなかったですか?」

女母「男くんはー?」

男「疑いはありましたけど、そういえば驚きっていうのはあまり、なかったですね」

女母「自分は驚かなかったのに、私は驚くとー?」

男「そういえば、そうですね」

女母「あのねー、男くん。世の中には不思議なことって言うのは本当にあるんだよー?人はね、みんなどこかでそれを知っている。だから不思議に逢っても人はあまり驚かないのー。そして疑うというのは、存在を信じているからこそ疑えるんだよー?」

男「なるほど、だからおばさんは驚かなかったと」

女母「本当は、少し驚いたけどねー。愛娘に尻尾が生えたらやっぱり驚ろくよー」

男「それを知ってか知らずか、本人は喜んでましたけどね」

女母「それはさすが私の娘だものー」




女母「……あー。お夕飯の支度がまだだったわー。大変ー」

男「そういえば、女ずいぶんと遅いですね。もしかして……大か?」

女母「もー、男くんたら下品よー。ああ、私はもう支度するわー。男くん、今日はあの人も帰って来ないし、お夕飯は久しぶりにこの家で食べていきなさいなー」

たたたたたと廊下を早歩きで移動する音が聞こえる。

男「あー……とてつもなく魅力的なお誘いですなぁ……じゃあおね」
がチャリ





女「うー……お母さん……尻尾が便器の中におちたー……」

ドアを開けて入ってきた女の尻尾には、無数の紙カスがこびり付き、水がしたたっていた。




シャワーヘッドからとめどなく流れてくる温水。

女はそれを顔に浴びながら、ぼぅっとしていた。

女(……今日は家から一歩も出てないのに、すごく疲れたな)

尻尾が生えた。

完結に説明をしようとしたらその一言だけで済ませてしまえる事なのに、女の日常生活に与えた影響は大きかった。

例えば尻尾が生えているのを、もし他人が知ったら、その人は私にどう接するのだろうかという不安感や、
普通の生活をするにしてもいちいち尻尾を気にしていないと、さっきのトイレでの失敗のようなことを繰り返してしまうだろうこと。

慣れてしまえばなんてことはなく生活ができるようになるのだろうが、たった半日生活しただけでは(ましてやその大半はベッドの上にいたのだ)気苦労のタネだった。

女(もふもふ尻尾うれしいなー)

とはいえ尻尾が生えるということは彼女の念願だったわけで、喜びのほうが勝っていたのだが。


とりあえず体は温まったので、次は尻尾を洗いたかった。

女(どうやって尻尾を洗えばいいかなー)

だが尻尾は大きすぎるので、うまく工夫しないと時間も労力も水もガスも無駄になってしまう。

女は一度コックをひねってお湯を止めると、実際に尻尾を触りながら、どうしたものかと考えた。

女(横から前に回す?……あーでもこうしたら片手が完全に埋まっちゃうし、結局反対にも回さないといけないなぁ)

今度は股下から前に持ってきてみる。

女(うーん……こっちのほうが洗いやすそう……うん、決まりっ)

この格好だと座るのはつらそうなので、立ったままでいることにする。

正面に据え付けてある姿見に写っている自分に目がいった。

女(……この格好は、なんだかちょっと……えっちい……かも)

そんなことを思いながら、尻尾を左腕に抱ええ、右手でコックをひねった。


尻尾の毛は、お湯を浴びるとぺちゃりとなり、乾いているときのふわふわ感はなくなった。

女は髪を洗うときのように、指を立てて、毛並みに合わせるように、さっさっと通した。

尻尾全体にお湯がしっかりと行き渡るようにするためだ。

女(うーん……自分で触る時は大丈夫なんだけどなぁ……)

男や母に触られた時の感覚を思い出す。

脳みそに直接届くような、むず痒いような、何ともいえない感覚。

女(男の時は特に危なかったな……あれ以上続けられていたら、本当に……)

その事を考えたら、尻尾がムズムズとした。

お湯を止める。

女(ええと、何で洗えばいいのかな。ボディーソープ?シャンプー?…………ここはシャンプーかな)

シャンプーの頭を二、三度押して液を手の上に出すと、ジャブジャブと洗い始めた。すると面白いように、もこもこと泡が立っていく。


あっと言う間に狐色の尻尾は、巨大で真っ白な塊になった。



女「もこっもこー」

泡まみれの尻尾を揺らしてみる。

命のある別の生き物が動いてるみたいで面白かった。



シャワーから上がると、脱衣場には新しいパジャマが用意してあった。

尻尾を洗うのに夢中だった内に女の母が持ってきてくれたのだろう。

びしょ濡れの尻尾を乾かすのに一苦労した後、女はそのパジャマを着てリビングへ向かった。


リビングとキッチンはカウンターで区切られているだけで、一つの部屋の中にある。

この部屋の入り口はリビング部分に一つとキッチン部分に一つの合計二つがあるのだが、女は浴室から近い入り口からリビングに入った。

男「お、上がったか」

女母「ずいぶんと時間がかかったわねー」

男がカウンター越しにこちらを覗きこんでいた。

女「よっ(男に向かって手を挙げる)」

男「よっ(挙げ返す)」

部屋の中は醤油らしき香ばしい匂いが漂っていた。

女「尻尾を乾かすのに手間取っちゃったの。ドライヤーも使ったのになかなか乾かなくて……でもその変わりトリートメントも使ったから、ふさっふさのもふもふになったよ」

ほらほらとお尻を向ける女。さわさわと揺れる尻尾。

女母「女ちゃん。お尻が見えてるわよー」

男「誘ってんのか?それ」

女はハッとしてズボンを引っ張り上げる。

同時にキッチンでは
女母「やだわー男くんたらー」 男「おっと失礼」
あはははーと二人が笑いあっていた。



女「ところで、なんで男がキッチンにいるのさ。お母さんの邪魔でもしてるの?」

恥辱された気がしてムッとした女は少し棘のある言い方で言った。

女母「手伝って貰ってるのよー」

男「ご馳走してもらうのに、何もしないのも悪いと思ってな」

女母「そんなことわざわざ気にしなくてもいいのにー」

女「えー、あんたに家事ができるのぉーっ?」

男「失礼だなおまえ。俺が何年一人暮らしをしてきたと思ってるんだ?」

女「制服だっていっつもしわくちゃだし、お弁当だって持って行ってたことないじゃない」

男「まー……それは否定しない」
女「ほら、やっぱり」

女母「でも、女ちゃんよりもテキパキしてるわよー?」

男「……(やれやれのポーズ)」

女「むかー!」



そんな会話をしている間に食卓テーブルにはいろいろなものが並んでいった。

箸、取り皿、厚焼き卵、キュウリの浅漬け、ひじきの五目炒め、刻みネギ、一味唐辛子――


女母「それじゃあ頂きましょうー」
男「いただきます」


女「…………」

きつねうどん(女だけあぶらげが二枚)。




テーブルの上ではうどんが湯気を立てている。

男「なぁ女(箸で麺を掬う)」

女「ふぁーに?(もぐもぐ)」

男「明日から学校どうするんだ?(つるつる)」

女「……(もぐもぐ……ごくん)」

男「(もぐもぐ)ほういひに……ごっくん……もう一日休むか?それなら風邪として言っておくけど」

女「……んー(ひじきを箸でつつく)」

男「ま、時間稼ぎしかならないけど(ぱりぱり)」

女「だよね(つんつん)」

男「ま、休むっていうのも手だとは思うけどな」


女「それは……私が悩んでいるだろうからってこと?」

男「そうだな(もくもく)……おー、この玉子焼き甘くて美味しいです」

女母(にこり)

女「(もぐもぐ)んー……実を言うとあまりネガティブには考えてないんだよね。私にとってこの尻尾は『思いがけない』ことであっても『不慮』の出来事ではないからさ(箸の先を宙に向けてぐるぐる)」

男「抱きついてたほどだしな」

女「まあねー。確かに今日はどうすればいいのかわからなかったし、今も不安はあるよ。けどね、やっぱりワクワクしてる気持ちの方が大きいの」

男「……よっぽど好きなんだな。もふもふ」

女「ええ、大好きですよ。もふもふ」


女「さっき男は私を元に戻す方法をみつけようとしてくれたでしょう?」

男「まぁ、結局なにもできなかったんだけどな(ずるずる)」

女「ううん。男が来てくれるまでは何にも考えてなかったからさ、男と話をしたから自分の中で整理がついたんだよ(ぱりぱり)」

男「(もぐもぐ)そっか……」←ちょっと嬉しい



女「一部、とてもうざかった部分もありましたけどね」

男「ですよねー」

男「それじゃあ明日から、行く、でいいのか?」

女「うん……。まぁ、お母さんが許してくれるなら、だけどね(女母をみる)……お母さん、いいですか?」

男も女の母をみた。

女の母は橋を置くと、女の目を見た。

女母「女ちゃん、これだけは聞かせてねー。……あなたは尻尾を、自分の一部として受け入れるのー?」

女「はい」

女はしっかりと頷く。

女の母もそれに頷き返した。

女母「意志があるなら、私は許すわー」

男は知らない間に止めていた息をほぅと吐いた。

女母「でも、体に何か少しでも異変があったら、すぐに私に言いなさいー。過剰な無理もしちゃだめよー?」

女「うん、ありがとう、お母さん」

女は直ぐにでも母に飛びつきそうな笑顔で言った。



男「……あれ、そういや親父さんに報告しなくて…………いいのか?(ずぞぞ)」


女の部屋。

男「そろそろ帰るわ」

男は床に置いてあった鞄を持った。

女はベッドの上で尻尾のさきっぽを弄りまわしていた。

男「明日からは……自転車は使えなさそうだな」

女「あー、間違って車輪に尻尾が巻き込まれたらスプラッターだもんね(いじりいじり)」

男「服もどうするのか考えておけよ……まぁ俺を喜ばせたかったら別だがな」

女「ばーか。そんなへまなんかしないよ(さわさわ)」

男「どーうだかなー、今日は二回も自分から生尻を見せてくれたしなー」

女「さっさと帰れっ!」

男「へいへい言われなくてもーっと」

男はドアに向かう。

女も、それにあわせて尻尾遊びをやめると立ち上がり男について行った。


廊下にでて、階段を下りる。

女が下りるのにあわせて、段に尻尾がぶつかり、ぽふぽふと跳ねた。

男「なぁ、今は家だからいいけどよ、外とか学校とかだと尻尾を地面に垂らしたままだと危なくないか?」

女「うーん……がんばれば浮かせられるんだけど、すぐに疲れて垂らしちゃうの。……筋力が足りないのかな」

男「元々人間には無いものだもんな。でも、どうにかして訓練をしたほうがいいぞ」

女「……うん、わかった」

男「おばさんに挨拶しとかないとな」


男はリビングのドアを開ける。
中では女の母が食卓テーブルで家計簿をつけながら、テレビのバラエティー番組をみていた。
女母「あらー男くん。もう、帰るのー?」

男「はい。おいしいご飯を食わせてもらって、ありがとうございました」

女母「あんなものでよかったら、いつでも食べさせてあげれるんだからー、遠慮なんかしないで、もっとくるのよー?」

男「はい」

女母「男くんー。女ちゃんのこと、出来ればよろしくねー」

男「全身全霊をもって、よろしくさせていただきまう゛グァ(下腹部に水平チョップをくらう)」

女「ノるなッ!お母さんもなにいってるのっ!?」

女母「あらあらー(にっこり)」


靴を履くと立ち上がり、つま先をトントンと地面で叩く。

男「じゃあ明日な」

女「また明日ね」

お互いに手を振り合った。

男は玄関のドアに向きノブに手をかける。

男「おじゃましました」

リビングにいる女の母にも聞こえるように、大きめの声で言う。

そしてノブに力を入れた。


ガチ


開かない。

男「あれ?」

女「あー鍵かけてあるんだ。そこ、その上のを捻って……違うってそれじゃないって……もー」

裸足で降りて駆け寄る女

彼女が起こした風からは、トリートメントの匂いがした。
彼女の体温で暖められたそれは甘く柔らかい香りだった。

女「ほら、こう」

彼女はカチャリカチャリと鍵を開けると、ノブを押すように促す。

男「お」

今度はスムーズにドアが開いた。

男「尻尾、よごれちゃったんじゃないか?」

女「大丈夫大丈夫」

ひらひらと手を振る女。




男「今度こそ、明日な」


女「バイバイ」



門を出て行く男の背中をみながら、女はドアを閉めた。


尻尾の先が、ゆらゆらと揺れていた。