後編
嗚海のお母さんが予想した通り、嗚海は親と医師の話を聞いていた。嗚海は後悔をしたくないが為に、学校へ走って行った。いつ自分が死ぬかわからないというのに…。
校門まで行くと、クラスの人が帰って行くところだった。
「あ、飯田さん!」
「あれ?岬さんじゃない、どうしたの?」
嗚海はそこにいた一人を呼び止めると、東也がどこにいるかたずねた。
「東也君…?どこに行ったけなあ…たしか…」
「東也なら用事あるっつって裏玄関行ったぜ」
そう言ったのは、東也と仲の良い「秋野」だった。
「秋野、ありがとう!飯田さんも、ありがとう!」
嗚海はそう言うと、全速力で裏玄関まで行った。
―言わなきゃ…東也に、、、病気の事・・・・それに・・・・・・この気持ちも・・・・・
裏玄関まで行く細い道を歩いていると、あと一つ角を曲がるだけという所で、誰かの話声が聞こえた。嗚海は角を曲がらず、そこから除いて見た。そこには東也と三崎がいた。
―…三崎さん…?
立ち聞きは趣味じゃないが、嗚海はそこで耳をすました。
「あの、私…わたし…と、東也君が、、、、好きです!!!」
嗚海は目を見開いた。こんなに早く事が進むとは思ってもみなかった。
「え…?俺の事を…?間違いでなくて?」
「間違いなんかじゃない!私は東也君が好きです!つきあって…くれますか・・・・・・?」
三崎の目は必死だった。そして、本気だという事が、東也に、そして、嗚海にも伝わった。
「俺なんかで…よければ…」
―え?
ポツッ ポツッ・・・・ザアアアアーーーーーーーーーーーー
突然大雨が降ってきた。
その影響で、嗚海は東也の言葉のその先が聞き取れなかった。けれど、「何か」でかすんだ目と雨の中、東也が三崎を雨から守っているのを見て、その先の言葉を想像出来た。
―『付き合うよ』、か…
嗚海の頬を涙がつたった。最初から雨で濡れていた顔だけど、涙だけは何か違った。頬をつたう事が、とても悲しいと感じた。嗚海は自分の頭の上でびしょびしょになっているベレー帽をとると、強く、強く抱き締めた。
裏玄関からは校舎の中に戻れない。2人は表玄関まで戻った方が良いと考えたのか、嗚海がいる方に進んで来た。
嗚海は泣いていたから、2人が自分の方に来る事に気が付かず、見つかってしまった。
「嗚海…?」
びくっとして嗚海が泣いていた顔を上げると、そこには、東也が自分のフードつきの上着を三崎にかけている光景が見えた。
「お前何してんだよ、そんな所で、風邪ひくだろ?」
「岬さん…もしかして……」
「え?」
嗚海はベレー帽を投げ捨てて掛け出した。見つかった事なんてどうでもいい。もう、終わったんだという事を知ったから。とても悲しくて、逃げ出した。
「岬さん…」
「どういう事だよ、なんで逃げるんだよ…。あいつがベレー帽投げ捨てるなんて…」
「東也君、一番大切な事言った時…雨、ふってきたよね…?」
「ああ。それが?」
「岬さん…誤解したのかも…」
「え…?」
東也は目を見開くと、投げ捨てられて泥だらけになったベレー帽を拾って、嗚海が逃げて行った方に走って行った。
―嗚海…どうして最後まで聞かなかったんだよ…
実は、東也は三崎の告白を断っていた。そう、あの雨が降った時。
『友達にはなるよ』
『え?』
『俺さ、好きな奴いるから…。確かに三崎は美人だけど、つきあったりはできない。ごめん。』
『もしかして…岬さん…?』
『なッッなんでわかるんだよッッ―――』
『だって、毎朝仲良くしてるじゃない』
『あ、あれは仲良くというか…』
『ケンカするほど仲がいいって言うじゃない?きっと岬さんも東也君の事好きよ』
『そうかなあ…?』
『絶対そうよ!ね!?自身持って!』
『あ、ありがとう…。強いんだな、三崎は』
『そんなんじゃないよ。わかってたもの。東也君が岬さんを好きな事。だから、覚悟はしてたの。』
『そう、なんだ…。ごめんな』
『ううん。いいの。それより…すごい雨ね』
『ああ』
『私、表玄関に傘があるから走ってとってくるわね。東也君も傘あるなら、持ってくるけど…』
『え、いいよ。俺も傘あるけど、一緒に戻ろう。俺等、友達だろ?』
『…うん』
『それにしてもおんまえ薄着だなあ・・・』
『えええ?このくらい普通よお。』
『モデルはこのくらいの温度差乗り切らないとやってけねえのか…』
『そんなんじゃないって…』
『これ着ろよ』
『え?いいわよ』
『いいってば。着ろよ。モデルが風邪ひいちゃ駄目だろ?』
『ありがとう』
こんな会話の中、東也は隠れていた嗚海を見つけた。
東也が走り回って嗚海を探している中、嗚海は、一つの大きな樹の下で雨をしのいでいた。
―あー…。なんか息荒くなった来たなあ…。今日死ぬかもしれないんだもんね。結局…言いたかった事全部…言えなかったなあ…。あーあ。もう…早く死にたい...
そしてしばらく時間が経つと、東也が樹の下の嗚海を見つけた。
「あっ嗚海!え…?」
パタッ…
嗚海が倒れた。
「嗚海…?嗚海!!!どうしたんだよおい!嗚海!」
「東也君?どうした…あっっ!岬さん!?」
「な…なんで倒れるんだよ・・・おい…」
手を触ると、冷たいのがわかった。
「嗚海はね、病気だったの」
「え?」
そういったのは、嗚海の母親だった。嗚海のお母さんは、嗚海がいなくなった後、必死に嗚海を探していたのだ。そして、最後に行きついたのが、学校だった。
「どういう、事ですか…?」
「貴方が、東也君?」
「はい」
「貴方は?」
「三崎です。嗚海ちゃんと同じクラスで、同じ名前の。」
「ああ、貴方が三崎さん…」
「それより、嗚海が病気って、どういう…」
「今日診断が出てね。今日死ぬか、明日死ぬか、わからない病気にかかった事がわかったの。もって1年。それ以内に死ぬ病気…。手術をして治った子や、一年間病院にいて死んだ子とか、いっぱいいたわ。嗚海はね、診断が出て1時間弱だった。それだけよ」
嗚海のお母さんはとても苦しそうに、それだけ2人に話した。
「それって、もう嗚海ちゃんは…」
「…………ええ。死んだわ」
「そんな…嗚海…嗚海…」
「東也君…」
ザアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・・
次の日は、とてもいい快晴の日だった。クラスの皆はいつもと変わらず、嗚海、東也、三崎の3人が休んだだけだった。2人は、嗚海の葬式に行った。
嗚海の大切なベレー帽は嗚海と一緒に燃やすはずだったが、嗚海の母親が「東也君が持ってて。そして、大事にしてあげて。」と言ったので、東也が大切に持つ事にした。
「なあ、三崎」
「なあに?」
「嗚海、元気だよな?あっちでも泣いてたりしないよなあ?」
「私は、信じてるわよ。東也君が信じてれば、岬さんも元気だと思うよ」
「そっか…じゃあ…信じてみるか…」
ベレー帽のヒロイン。ずっとずっと、いつまでも。
~終わり~
最終更新:2006年08月09日 15:29