またあいつだ。
キースの斜め後ろ、3歩下がった位置にいるあいつ。
最近傍につかず離れず付きまとっている影を見る。そう、ちゃんと見ないと気がつかないくらい存在感のないやつ。天パーのくりくりした髪は柔らかそうで、女々しい男だ。一緒にいて振り払われないのも、キースが素直に彼の差し出したペットボトルを飲むのも、声が小さすぎて何を話しているのか聞き取れないのも、それこそ、自分より背が高いことすら気に食わない。
学校帰り、キースの自転車を追いかけてたどり着いたコンビニでシロエは初めて彼に出会った。とは言っても、客のフリをして観察して分析をしただけであって一言すら言葉を交わしたわけではない。その後、シロエの綿密な調査の結果、あのあつかましく隣に座る存在は、ジョナ・マツカということが分かっていた。隣町の私立に通う高校1年生。キースより年下だが、自分よりは年上だった。
コンビニのカウンターの中で二人がおでんの種を入れている。
あ、あいつまた落とした。
味付玉子がころんと消えた。
隣でキースが長い菜箸を持ったまま視線が転々とうごいいく。表情は変わらないが、もういいからと言われたのだろう、マツカがタバコを並べ始める。てきぱきとおでんの仕込が終わって、同時にタバコとホットの補充も終わったようだ。台車に乗ったパンと弁当をマツカが奥から出してきたとき、ふいに動きが止まる。
あんな所に止めたままで客の邪魔になるだろ!
早くどかせよ、おにぎりの前のおっさんが困ってるじゃないか。コンビニ店員として失格だね。
ほら、見かねたキースが手でどかせと合図しているじゃないか。僕だったら言われなくても気がつくね。シロエがにやりと笑った時、マツカがカウンターの中でキースがから受け取っていた。
そろそろと口に運ぶのは、色の着いた、味の良くしみこんだ玉子が半分。
さっき落とした味付け玉子だと分かる。
マツカが持っているものより、同じものをキースも食べている事が問題だった。店内からははっきり見えない少し奥まった所が、逆に外から中を伺うシロエに見えてしまった。
嬉しそうな顔。
おいしいと言っているような口の動き。
缶コーヒーを渡すマツカにそれを受け取るキースもキースだ。
シロエは急に風の冷たさを感じて、コンビニに背を向けた。日は暮れて、道路向こうの別のコンビニの看板が煌々と輝いている。すっかり冷めて冷たくなったペットボトルをゴミ箱に叩き入れて、両手をコートのポッケに突っ込んた。なんとなしに空を見上げても月も星も見えない。
ふん、お前には落とした玉子がお似合いさ。
シロエが去った後、マツカのネームプレートがキースに引っつかまれていた。玉子を喉に詰まらせる寸前でマツカの首が絞まる。
「○△ק!!?」
勿論口が開かないから言葉も出ないが、抗議も虚しくキースが強引にネームプレートにレジのハンディを当てる。
ピッ。
「廃棄、お前のIDでうったからな」