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交差する命



「くそっ、思い出せねえ。確かに俺は知っているハズだ」
 エクステンデット達には連続稼働時間が定められている。戦闘時に最大限の力を発揮するためのそれは、調整ベットと呼ばれるところでの睡眠だ。ヘブンズベースからこちら連戦だったスティングを含めエクステンデット達に調整と称した睡眠が言い渡される。
「今、奴らがせめてきたらどうする?」
 どこにも身体に不調はないというのに、レクイエムがコロニーを襲い、相手の出方を見るのと、戦力を整えるためにできた僅かな時間に、無理にでも行おうとする技術スタッフ達。配属されたばかりの新人ならいざ知らず、そんなやわじゃないという自負もある。
 寝やすい格好に着替えて、調整ベットのあるフロアに向かうスティングの脳裏を掠める。戦場で感じたあれは何なのか。
 レクイエムに横付けされた艦の調整ベッドは3つ。奥に一回り大きいベッドがあったが電源が入っておらず、手前の3つのベッドには先客がいた。
 眠っているのはステラとアウル。
 スティングがフラッシュバックする見慣れた光景に目を見開いた。
「あいつ」がかわいいと言っていた奴がいた。
「あいつ」も「奴」も今の今まで忘れていた。
 最初は、海上のプラントで行方不明になった少女。
 次に、ロドニアの古城で行方不明になった少年。


 そして今、帰ってこない、気に食わない上司。
「さっ、時間がないんだ。君達のコンディションを最適に保つための処置なんだから」
 スティングはこの調整ベッドで何をされているのかを知る。失った仲間や撃墜の記憶は確かに精神を不安定にさせ戦闘時には不要なものなのかも知れない。だが、仲間との間に培った絆を失ってしまうことでもある。
 今更、そんなものが惜しいと思う強化人間もいた。今だからこそかも知れない。
 スティングが唇の端を上げて、嘲るように技術スタッフに問い掛ける。
「あの野郎のことも忘れちまうんだろ?」
 技術スタッフがスティングの言葉に笑顔で「おやすみ」と呟いて、調整ベットのガラス蓋が閉じられる。
「強く印象付けられてしまっているようだから、念入りに頼むよ。」 
フロアーの一角を占める機械を操作する白衣に技術スタッフが告げる。
「ああ、そっちの次世代も扱いは丁重にな。実戦にこぎつけた貴重な二人だ」
 ガラスの揺り籠のように3人が眠る調整ベッドが薄暗いフロアーぼうっと浮かび上がる。
「早く終わらせよう、まだ御大が残っている」
 最奥の調整ベッドがブーンと低い稼動音を響かせた。


「10時の方向に新たな艦影! 映像、出ます」
 ミネルバのブリッジで全員がモニターを見上げた。
 一時の静寂を破ったのは、戦場に現れた白い戦艦だった。名を馳せたアークエンジェルと数隻の戦艦がレクイエムとザフトと距離を取って展開している。
「どういうこと?」
「この宙域に向けて、全周波数でメッセージが流れています」
タリアがいぶかしむがそれはすぐに解決した。アークエンジェルから声明が発せられていたのだ。歳若い女性の声は、誰もが知っている声、歌姫のものだった。
『このような破壊兵器を持ち出して、虐殺をすることに何の意味があるのです。討つ合う私達に未来はないのです!』
 平和を訴える声。
 戦争が再び始まった今、聞く人がいなくなった声だった。それが、また。
 争いはよくないと、武器を捨てろと言って、レクイエムを彼らは攻撃する。
 シンはこの声を聞いて思わず壁を叩いていた。
「どこまでいい加減なんだよ、あいつら!」
 未来。その未来を築くために何をしてくれたと言うのだ。自分達がやっとの思いで、大地を離れた宇宙で未来を築こうとしているこの時になって、ようやく。
 地球軍の影に隠れていた存在が、地球軍に反旗を翻したのだ。
 コーディネーターにとってそれは在り難くもあり、過去の経緯もあって複雑なものだった。
『コーディネーターの方々も同じ愚を冒すというのですか? 私達は分かり合えるはずです』
 声明が流れつづける中、ミネルバの艦内にコンディションレッドが発令された。
「シン! メサイアが来るぞ」
 レイが機体に向かうシンに声を掛けた。吊られてルナマリアとステラも立ち止まる。
「メサイア?」
「機動要塞メサイア、我らの切り札だ」
 眼前のレクイエムに報復するための破壊兵器。
 歌姫はレクイエムだけでなくメサイアのことも指しているのだろうが、シンはレイに言う。
「そんなもの、必要ない」
 レクイエムのような攻撃をされたら跡形も残らない。それでは駄目なんだ。
 横に立っているステラを見る。レクイエムにはエクステンデットがいる、ステラの仲間も、あの人も。もう誰も、傷つくことなく戦争を終わらせるには降伏させるしかないんだ。
 それがどんなに難しくても。
「要は動力を潰せばいいんだ」
 そうすれば、巨大レーザービーム砲を撃つことも、移動することもできない。動力部を破壊することは勿論、動力を伝達するエネルギーパイプでもなんでもいい。
『意外と馬鹿ではないようだな、シン・アスカ』
 突如、待機室のモニタに現れた人物にシンは失礼にも『アンタはっ!』と零していた。


 薄暗い部屋で調整ベッドの蓋が開く。
 簡単なメディカルチェックを済ませたスティングが今だ眠り続ける二人を見る。
「こいつは随分と長いんだな?」
「投入直後だし、君とは世代が違うからね。マザーの基本値が高い分、能力は高いが制御もきつくなる。扱いは正直難しいよ」
 リラックスしているようで、ステラの頬を涙が伝っていた。
「ふーん。で、旧型の俺はもう行っていいわけ?」
「ああ、すぐ戦闘だ。彼らもじきに行く」
 フロアーを出ようとしたスティングの前でドアがスライドした途端、誰かとばったり鉢合わせする。背後に警備兵を引き連れた青年は顔半分をバイザーで隠した灰色の髪をしていた。お互い言葉もなく数秒。
「誰だ。ぼおっとするんじゃねえ!」
「すまない。これから出撃か?」
 後の警備兵に中へ入れとせっつかれて、その青年が部屋に足を踏み入れる。すれ違い様、彼がスティングに言う「死ぬなよ」と。
「何だと、手前っ!?」
 振り返ったスティングの前でドアが小さなエア音を立てて閉じた。去っていくスティングとは反対に青年はフロアーを横切って、今だ眠りつづける二つの調整ベットを見下ろす。
「気になるかい? 君のおかげでこの子達は飛躍的に進化を遂げたからね。君の力はどこからくるのか興味があるよ、それを我々はSEED因子と呼んでいる。君と同じ体内環境を投薬によって実現し、人為的に擬似因子を持つことに成功した最初の世代が、彼らだ」
 言葉はなく、顔を覆っていたバイザーを外して傍にいた技術スタッフに無造作に渡した。奥で淡いグリーンの光を放っている調整ベットを見る。
「彼らの調整もすぐ終わる。次は君の番だね」
 蓋がゆっくりと持ち上がる。
 そこにあったのはベッドではなく、身体を呑み込むほどの溶液を湛えた水槽だった。


 心音を図る音がビーコンを打つ音に重なる。モニタを覗き込む男達。レクイエムに係留された艦中でしばしの眠りをむさぼる青年をよそに、敵軍が目まぐるしく位置が変える。戦列を組替えているのはいずれも同じ。それに加えて、第3勢力までが加わる。戦力的には地球軍とザフトに及ばないが、中心にいる艦を無視することはできない。何しろ、前大戦を生き抜いた浮沈艦なのだ。
 地球軍の盟主ジブリールがモニタに映される戦域をワイングラス片手に眺めていた。
「次の一撃が最期となるのも知らずに、飛んで火にいる夏の虫とはこのことだ」
 グラスの中は赤ワイン。
「ファントム・ペインを出せ」
 調整が終わったであろうエクステンデット達を時間稼ぎのために戦場に解き放った。


 第一攻撃目標はレクイエム発射口。次にドッグ、それが駄目ならバリア発生装置。
 シンはもたらされた情報を反芻した。
 出撃間近に飛び込んできた情報は、ダイダロス要塞の予想設計図と攻撃目標だった。それを伝えてきたジュール隊長が言う。
『俺の隊とミネルバの隊で第一攻撃目標を狙う。攻撃限度は3度だ、それ以上同じ宙域にいると狙い撃ちされかねんからな』
 一歩引いた位置でレイが常に戦場を分析して情報を送ってくれる。
「ステラ、一人で前に出るなよ。ルナも」
『あら何よ、私も戦士なのに随分ね』
「ルーナー」
 ごめん。
 シンは目の前の迫り来る敵に意識を集中させれば、灰色の新型を従えたカオスが迫っていた。
 交戦開始。
 展開されるバリアーも実弾なら効果ありと分析されている。トリガーに指をかけたまま、立ちはだかる機体の間をすり抜けた。迫るダイダロス要塞はまるで小さな月のような形をしている。
「デカイっ!?」
 小さいとは言ってもそこは要塞。戦艦の砲撃程度では破壊することなどできそうにもない。確かにうまく頭を使わないと長期に及ぶ可能性があった。
『雑魚は構うな、シン・アスカ。アークエンジェルがいるが奴らは無視しろ。ジュール隊。行くぞっ』
 まずはジュール隊が仕掛ける。その間、シン達は後を追う地球軍を押さえ込むことになる、反転して追いかけてくる機体は緑のカオスとグレーの新型が2機。
 またっ! こいつらっ。
 内心舌打ちして、HUDの光点とターゲットを重ねる。
 1対3の戦いではまず数を減らすのが鉄則だ。となればやりやすいのは、バリアを持たないカオス。勝手に動き回る移動砲台はやっかいだが、避けられないこともない。
「まずはあいつを落とすっ!」
 ステラに手を出されるよりは俺が。
 しかし、心のどこかでは早くジュール隊長にレクイエムを破壊してくれと願っている。
 実質的に数は1対5だが、スピードはデスティニーのほうが上だ。赤いターゲットマークで常にカオスを捕捉して背後に回りこむ。まずは移動砲台を一基撃破。阻止せんと割り込む灰色の新型デストロイ。
「くっ、先に落とすぞっ、新型が!」
『シン、落ち着け。ジュール隊長達が戻ってくる。失敗だ』
「なっ。わ、分かった。俺達の番か」
 下がるイザーク隊と交差してシン達が今度はレクイエムの発射口に別の角度から突入する。もっとも、突入すると言っても。
「大体、近づけないじゃないかよっ!」
 外壁にハリネズミのように突き出た砲台から矢のように飛んでくるレーザービームを避けるのに精一杯。
 そこに、味方機のコールサインが目に入る。インディア2とインディア3と言うことはルナとステラ。
「なんで、ついて来ているんだよっ」
『あたし達以外にどこにミネルバ隊がいるって言うのよっ!』
『シン。ステラ、大丈夫だから、心配しない』
 それは分かったけど、分かったけど、どうすりゃいいんだよ。発射口は今もビームを収束しているのか、緩やかにビーム粒子を吐き出している。
 せめて、この砲撃が止んでくれたなら。
 一基ずつこまめに潰しているが、それでは間に合わない。正面から迫るのを諦めて、一端距離を取ると、他の隊がダイダロス基地に突っ込むのが見えた。
『シン!、あれ見て』
 前方には網の目のように降り注がんとしてる砲台が山のようにあったが、中央の本当に下の空間がすっぽりと開いている。
「ビームの死角があるのかっ!?」
 シンはコースを計算しようとHUDを切り替えようとしたが。
『シン、確かにルナマリアの言うとおり、あの砲台は対外壁15度以下を狙えない。俺達の進行方向だと座標92・78からの侵入角だ』
 100が平行だから随分と倒れた侵入角である。
「時間がないっ、ルナ援護、ステラを頼む」
『ええっ、ちょっと~』
 二人に構っている時間がないから、シンはデスティニを全開で壁面を這うように突進させた。頭上を通り過ぎるレーザービーム砲。
 発射口まであと3000。2000。1000。
 ミサイルチェック。チェックOK。
 レイからの管制とデスティニーのトリガーをリンクさせる。
 あと800。
『シン! レクイエムが発射されるっ、退避だっ!!』
 前方に広がる光が、白く細く収束して、突如がなり声を上げるアラームは超エネルギー体確認だった。慌ててサイドスティックを引いて飛び上がったが、磁場の揺れでしばらくきりもみ状態になる。
 そのキャノピーからシンはレクイエムが発射されるのを見た。
 くっそーーっ!
 また俺達は間に合わないのかっ!
 奥歯を噛み締めるのもつかの間、宇宙を駆けたレクイエムの光線に彼方から迫る光があった。
 宇宙で爆発がおこる。


「上からのお達しだ。今すぐ奴を起こせだと!」
「もうやってるよ」
 持ち上がるガラスの蓋がグリーンのライトを反射する。ちゃぷんと音を立てて上半身を起こし、緩慢な動きで右手が額を覆う。
「気分はどうかね?」
「・・・・・・」
「本当に軍人か? 相変わらず君は白いねえ、さすがコーディネーター」
 今だ雫を滴らせる髪の間から技術スタッフを睨みつける。
「そう怒らないでくれ。私だって君の青い髪は勿体無いと思っているんだから。はい、手短にな」
 もう一人の技術スタッフがタオルを渡す。
 シャワー音が少しだけ響くフロアーの調整ベッドはもはや全て空。最後の一人は渡された制服に手を通す間も収支無言だった。
「A・Z、早速で悪いが出撃だ」
 薄暗いフロアーの中でぼんやりと浮かび上がるのは、緑色の瞳だった。


『センサーをオフにしろ、目をやられるぞっ』
 レイの忠告がもう少し遅ければ、今頃は敵の的だったかもしれない。レクイエムの軸線にあわせてメサイアから砲撃が行われたのだ。二つの超巨大レーザービーム砲は途中で激突し消滅した。
『今だっ。全機突入するぞっ!』
 ジュール隊長の言うとおり、エネルギーのチャージを行う今こそ攻撃のチャンス。だけど、当然それは敵にも良く分かっていて、ここは絶対に通さないと大軍が立ちふさがった。
 こいつ、またっ。
 バリアを展開させながら、隙間を縫ってビーム砲を撃ち、カオスは砲塔を使って狙ってくる。
『シンっ、右っ!』
 ステラの声にはっとして確認すれば、灰色のデストロイがビーム砲を撃ってくるところだった。ルナとカオスが交戦状態だったから、シンとステラが援護に駆けつける。ロックを知らせるアラーム音が鳴り出す瞬間にトリガーを引く。
 機体の端で爆発が起こるが、間にふさがった新型のバリアに防がれていた。しかし、相手の連携を狂わせることはできた。
「ルナっ、ステラ、左から回り込めっ!」
 シンは、残像を引いて、一気に正面から距離を詰める。左から2機が迫れば、おそらくフォローにカオスが入るだろう。が、そうは問屋が卸さない。カオスがフォローもそこそこに左から突っ込んでくるから、シンはターゲットを正面の新型にした。スピードに乗ったまま、機銃をお見舞いした。
 バリアで防げない実弾が貫いて、爆煙をあげる。
 そこを突破口にして、シン達とジュール隊が発射口へと低空を飛行して迫る。どんどん防衛ラインを下げるデストロイとカオスが正面を争うようにポジショニングしている。
「後、少しっ」
 もうすぐ。2000。1000。800・・・
 警告。

 トリガーに指をかけたシンの機体のすぐ横を赤い光が走る。

 僅かに前に出たカオスを赤いビーム光線が貫いていた。
 後方から急速接近する機影。アンノウン。
 しかし、シンには覚えがあった。
 この感覚・・・。
「フリーダムっ!?」
 脇をすり抜けていく白と青の機体がカオスに体当たりして。


 正面にものすごいスピードで突っ込んでくる機体がいる。
 フリーダムとは違う。これは、この深紅の機体は、インフィニティ。

 残り30。
 白い機体がカオスを発射口に突き落とした。
 爆発。
 やや遅れて、火柱が発射口から立ち上った。


 なんだ、こ、れ?
 突然、重く何かが圧し掛かる気配に襲われる。

 短い悲鳴が聞こえた。
 カオスが撃墜され、灰色の新型が動きを止めている。
 数機いるうち新型のうちその2機が蜂の巣状態になっていた。

 シンはコロニーがレクイエムに撃たれた時と同じだと思い出す。
 だけど、ずっと近い。熱く痛い。
 目の前で対峙する深紅と白の機体が黒煙を上げる発射口の上空で激しく動き回り、インフィニティがフリーダムの灰色の新型への攻撃を防いでいる。
 フリーダム・・・? 少し形が違う。
 修理したのか?
 パイロットが無事だったのだからまた会う可能性はあったのだ。

 カオスが落ちたことが、乗っていた奴の死だとようやく気が付く。
 敵だった。
 でも、中の奴はステラの仲間で、スティングという名を持っていた。
 苦しい。
 ルナやレイが自分を呼ぶ中、胸が締め付けられる。それが本当に自分の感情なのかもはっきりしないまま痛みに耐える。シンはすっかり動きを止めていることに気が付いて、ほとんど無意識で向かってくるビームの回避運動をした。
 ステラになんと伝えればいいのだろう。
 ダイダロス要塞を取り囲むようにして、大小さまざまな光が浮かんでは消えていった。




ちょっとバレバレ過ぎたかなあと反省しています。