※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

I don't want.



「シン、君はもう一人で飛べるから、もしかしたら俺が教えられることなんてないのかも知れない」
 アスランが視線を落とす。消し炭があちこち黒く影を落とし、シンとアスランの間には残骸の細かい破線が足元に散らばっていた。時間にすれば僅か数秒置いて、またアスランと視線が交差する。
「それでも、君が何かを守りたいと願うなら、俺の力をやろう」
 そう言ってシンの目の前で、彼が右腕を差し出した。


 世界に発信されたコーディネーター独立宣言。しかも、宇宙空間からかつてのコロニー・プラントの残骸から届けられたその声明は4年間辛うじて保たれていた平和を震撼させた。
 すぐに主要国が集って対策が話し合われ、地球軍主体の防衛軍が創設された。宣戦布告されたわけでもないのに、コーディネーター側が発表した独立宣言に対する行動としては過剰な反応だった。また、同時に平和秩序維持機構からは平和の歌姫ラクス・クラインの平和を願うメッセージが流される。
「全く歌姫は言うことが違うねえ」
 仮面を被った男がモニタを見て言う。男の周りには二人の少年がいた。
「こいつコーディネーターなんだろ?」
「平和の歌姫なんだってよ。確かにコーディネーターらしい顔だよな」
「そうか? アイツの方がかわいいと思うけどねー」
 モニタの中の女性を見て口を尖らせる二人の少年は間違いなく、ステラといっしょにいた二人。
「アイツって?」
「あれっ? 誰だっけ・・・」
 腑に落ちないと言った風で、その場を動こうとしない二人を急きたてるように仮面の男がスイッチを切る。
「こらアウル。スティングも、俺達の出番だ」
 戦争状態にはなくとも、独立宣言に触発されてコーディネーターのレジスタンス達が一斉に動き出した。個別に活動していたレジスタンス達が組織化され大移動が始まる。当然、それをよく思わない反コーディネーター組織や設立されたばかりの防衛軍との衝突も加速するのだった。


 とっくに消灯時間を過ぎた深夜、シンの周りには複数のハロが飛び跳ねていた。
 称賛に浸る余裕もなく小競り合いは続き、空いた時間を縫ってシンはアスランから出された課題に挑戦していた。何か特別な修行でも言い渡されるのかと思いきや、何のことはない、前に渡されたハロが増えただけだった。複数のレーザーが飛び交う空間を、怪しげな踊りを披露するシンがいた。
「うっ」
「わっ」
「こっ、の、やろ―――ッ!」
 始めは二つ、二体のハロの攻撃を完全にかわせるようになると、また一つ、また一つと増えて今や7つ。7つになったところでアスランがハロにちょこちょこと細工する。曰く、赤いレーザーは避けること、青いレーザーはライトセーバーで受け止めること、と条件を出されたのだ。しかし、避けることと受け止めることを同時に行わなければならず、シンの頭はすぐに飽和状態になってしまった。
 そしてこの体たらくに至るわけである。
 その上、このハロ達はよくしゃべった。「ハロハロ」と電子音で単語を発声するだけならまだしも、「シン!」「デンキカ?」「テヤンデイ」あたりから怪しくなり「ミトメタクナイ」「オマエモナー」、挙句の果てに青いレーザーを受け止め損ねると「アーユーOK?」と煽ること必至である。
「やってられるか―――っ」
 ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!ブォ―――ン!
 プスプス・・・プシュー。ガシャ。
「こら、お前またぶっ壊して・・・予備パーツをアイツから死守することがどんだけ大変か分かっているのか?」
 シンはどきりとして、格納庫の中を見渡すと、偵察機の陰からエイブス主任が姿を現した。
 誰も居ないと思っていたのに、思わぬ醜態を見られたとあってシンは顔を真っ赤にして、ライトセーバーに切り刻まれたハロを見てがっくりと肩を落とす。赤いレーザーは一体につき各一回のみ発射され、全部交わせたら1本手合わせをしてくれると彼が言ったのだ。だから、シンはムキになって挑みつづけるのだが、どんなに頑張っても3体が限度。シンの腕やほおには青いレーザーが掠った痕が残っている。
「まだ、頑張るのか?」
「全部避けきるまで、何度だって」
「程ほどにしろよ」
 今度こそ誰も居なったかどうか、格納庫の気配を探る。しかし、シンは足元のハロの残骸を見てため息をついた。
 これじゃ、続けるに続けられないじゃないか。


 シンがハロの攻撃をかわせる数が5体、6体と終りが見え始めた頃には、戦闘は激化する一方だった。破竹の勢いで進むミネルバの存在も有名になり、防衛軍、レジスタンス相方に知れ渡るようになっていた。
「コーディネーターの艦です!」
 ブリッジがエマージェンシーに沸き立つ頃、シンはアスランを探して艦内をさ迷っていた。シンの後を突いて回るハロ達も格納庫以外ではうるさいだけのマイクロユニット。ただ一つ、ピッキング機能を除けは大して害はない。
 ハロがあけたロックを開けて、シンは初めて足を踏み入れる第3甲板から向こうに立ち並ぶドアを見て立ち止まった。
「こんな所にいるわけ、ないよな」
 細い通路の両側に鉄格子のドアが等間隔に並んでいる。留置所や牢屋を思い浮かべ、シンはハッとした。
「なんだ、あの時のガキじゃねーか」
 奥から2番目の部屋に誰かいた。ハロ達が男の声を捕らえて『ガキ!』『ガキ!』と繰り返すから、思わずシンは効果はないのにハロ達を睨みつける。
「コーディネーターってのはすごいんだな。こんなガキが高射砲中隊を全滅か」
 鉄格子の前まで来て、足を止めた。中には、人一人がやっと横たわれるくらいの狭いベットに腰掛けてじっと見つめている男がいた。
 目が合った。
 どこにでもいる男に見える。地球軍の軍服を着て、足の上で両手を組んでいた。
「はっ、人間の力を超えているぜ、薄気味悪い」
 今までいくらでも体験した、化け物を見る眼をシンを見つける。コーディネーターの、特に戦士に特化した力を見せ付けられた普通の人々は大抵まず抱くのが驚きと恐怖、そして憐憫を含む畏怖だ。
「・・・薄気味悪い? 俺達コーディネーターに勝つためにを人体改造をやっているのはどこの誰だよ」
 表面では恐れ憐れむくせに、躍起になって征服しようとする。
 シンはベッドに寝たきりのステラを思い出す。
「エクステンデットのことを言っているのか。奴らも憐れな連中だ、薬漬けにされて記憶まで弄られて戦場に借り出され。それもこれも、お前達が大人しくしないからじゃねーか」
 俺達が大人しくしないせいっ!?
 肩を怒らせて、どの口がそんなことを言っているのかシンは眼を凝らす。
「自分達の国を作って何が悪い!」
 姿を偽る窮屈な生活。学校もなく教育を受けることもできず、指定された場所で大人しく生きるか、反乱分子として収容所で強制労働に従事するか、誰がそんな生活を望むと言うのだ。
 しかし、捕虜の男はコーディネーターの現在の惨状よりも、ナチュラルの未来の惨状を言う。
「へっ、でもって俺達を支配する気かっ」
「そんなことは言ってない! 俺たちはコーディネーターがコーディネーターとして暮らせる所があれば、各地をさ迷うこともないのに」
 原因を作っているのはあんた達じゃないか。
 こんな末端の軍人に言っても無駄なことなのに、言わずにはいられない。
 先に手を出したのはお前達の方だ、と。しかし、そんなシンの一瞬の隙をついて、鋭い声が二人の若いコーディネータとナチュラルの捕虜の間を切り裂いた。
「こんな所にいたのか、コンディションレッドだぞ!」


「っ! アスランさん」
 突如割り込んだ声にシンはビクッとして開きかけた口を閉じた。自分でもつまらない言い争いをしたと思う。ナチュラルがコーディネーターの存在を許さないことは分かりきっていたことなのに。
「どうかしたのか?」
 急に黙り込んでしまったから、シンはアスランに問い掛けられる。
「どうしてこんな奴ら、助けたりなんかしたんですか」
 あの時、自分が落としていればこんな嫌な思いを再度確認する羽目にならなかったのにと、シンは恨みがましい目でアスランを見る。
「既に戦闘能力はなかった。地球軍だからと言って無理に殺すことはないんだ、俺達は殺し合いをしているわけじゃない」
 アスランがあの時と同じ沈んだ表情で諭す。
「あんたかい、中途半間な舐めた真似をしてくれたのは」
 シンは鉄格子の奥の男を見た。アスランが少し身構えたのを背後で感じる。暗くて捕虜の表情はよく分からなかったが、笑っていないことは確かだった。
「これは戦争なんだ、そんな余裕見せていると足元救われるぜ、きれいな顔した兄ちゃんよ」
 戦争? 確かにそうさ。
 俺から見たってこの人は甘いと思う。
 感謝しろと言いたいわけじゃない、それでも、こんな風に言われる筋合いはない。
「お前はっ! せっかく助かったっていうのに、なんだよその言い方っ」
「シンっ」
 アスランの声に被ってミネルバが微かに揺れた。艦内にいても微かに聞こえる砲撃音に確かにコンディションレッドであることを思い出した。
「誰が助けてくれと言った、戦場にいるんだ覚悟はできている」
 急に落ちた相手の声のトーン。数秒の沈黙。
「いいから来るんだ。味方の艦が追撃を受けているらしい」
「はっ、いい気味だ。そいつらは俺の知り合いがいる隊だ。せいぜい可愛がってもらうんだな、前の戦争じゃあ、コーディネーターの艦を落としたこともあるベテランぞろいよ」
 シンは憎まれ口を叩く捕虜を睨みつけながら、アスランに手を惹かれるようにして出て行く。通路は戦闘態勢に突入したせいか浮き足だち、レッドアラートのライトがやけに目に付いた。
 しかし格納庫でシン達を待っていたのは、懐かしいと言うにはまだ印象が強く残っている名前だった。
「向こうの戦士が何とか頑張っちゃあいるが、敵もやる」
「なんて名前だっけ、女の子なんだろ」
 シンは耳を疑い、アスランと二人で聞き返した。
「ルナマリアだって!?」


「敵艦の位置と数は!」
 コンディションレッドに移行したブリッジは戦闘態勢に入っており、遮蔽されてシンとアスランがいつものエレベータで駆けつけても入れない。格納庫のモニタからアスランがブリッジに連絡を取る。
「数は3。航空戦艦と防衛軍の高射砲部隊が2。戦闘機で応戦しているけれど、機関部被弾によりルソーからは退避命令が出たわ、本艦は乗員救助に向かいます」
「あなた達も出られる?」
「ええ」
 通信が切れた後に、アスランが振り返る。後で黙って聞いていたシンは何を言われるのだろうと身構えたが。
「と言うわけだ。分かったな、シン」
「はぁ? はい」
 よく分からなかったので、とりあえずハイと返事をしておく。
 とにかく、今はルナのことが気になって仕方がない。飛行場で分かれて以来なのだ、早く駆けつけたい一心で走り出した。
「こら、シン!」
 慌てて追いかけてきたアスランがシンに指差した先にある、小型の輸送機。
「乗れっ」
 ヘリから戦闘機まで一通り操縦は習ったけれど、シンはここでは完全な乗客だった。手馴れた操作で機体をおこしたアスランに感心する。
「ったくお前は、どうやって駆けつけるつもりだったんだ」
 言われて気づいても後の祭りで、アスランに苦笑されてはぐうの音も出ない。
「レーダーちゃんと見ててくれよ。俺だって久しぶりなんだから」
 みるみる遠ざかるミネルバ。飛び出した輸送機が大地に落とす影。シンは慌てて、コ・パイロット席のレーダーを見れば、浮かび上がる機影に思わずアスランを見上げていてた。
「大丈夫なんですか!?」
「低空から侵入するさ。トーチカあったら知らせろよ」


 対空砲と飛び交う砲弾。ルソーに向かうにつれ地上の高射砲部隊の攻撃が激しくなる。レーダーを赤く染める敵砲台の数。発射されるミサイル。シンは飛んでくる方角と数を叫びつづける。
「これ、機関砲とかついてないんですか!」
「無茶言うな。ただの輸送機だ」
 斜め前方には上空と地上から砲撃を受けるコーディネーターの艦。艦砲射撃も虚しく、後部から黒い煙を吐き、船体もあちこち煙を上げていた。
「なんでこんなので出たんですよっ!」
 ミサイルを掻い潜って、艦の下に潜り込めば、脱出用のランチがスタンバイされていた。僅かに空いたハッチから滑り込むように輸送機を着地させるアスラン。
「あんなランチで脱出するなんて無理だっ」
「こっちに誘導させろ、急げっ」
 乗員があんなに沢山いて、ミネルバと何往復もできるわけない。この艦だっていつまで持つか分からないのに。
 アスランが輸送機で向かった理由はわかったものの、外は砲弾の雨霰。
「ルナ! どこだっ」
 突然乱入してきたシンの呼びかけに艦の乗組員達は一瞬口篭もる。ガタガタと揺れ、被弾した衝撃が床を壁を走る。
「ルナは、外だよ」
 人込みを抜け出てきたのは、ヨウランとヴィーノ。後にいたメイリンが目に涙を浮かべてシンを見ていた。しかし、3人の口から発せられた言葉に再会を喜ぶような情況にはならなかった。
「戦闘機で戦っているんだ」
「なんで、そんなっ」
「シン・・・」
 そんな絶望的な顔をしないでくれと、シンは心の中で叫ぶ。自分だって外の情況はわかっている。ミネルバから自分が何をしに来たのかだって。乗員達は順に輸送機のカーゴスペースに乗り込んでいて、刻一刻と時間は過ぎていく。
 だけれども、シンの目にはルソーの格納庫の端に置かれた戦闘機が目に入る。
 後少しで乗り込みは完了するだろう。思い立ったが最後、足が自然と動く。
「シンっ!」
 どんなにあの人の腕が良くったって、満載の輸送機が無茶な機動を取れるわけがない。
 ルナだって、守ってみせる。
 シンは輸送機を後に戦闘機に向かった。アスランの声が聞こえて、いつもいつも俺はあの人に叫ばれているなと、チラッと思いながら操縦席に乗り込んだ。見下ろせば、輸送機から降りてきた彼が叫んでいる。
「早く戻れ! シンっ」
「俺はこれで援護します!」
 心配してまだ外にいたヨウランやヴィーノ、メイリンをアスランが押し込むのを見て、勝手に了解してくれたのだと思うことにした。
 全員が乗り込んだのを見て、スロットルを全開にする。隔壁にぶつかるだとか、燃料や弾薬をどれだけ積んでいるかなんて全く頭になかった。


 始めの内は水平に飛ぶことも、ヨーイングして進路を変えることも精一杯。曲芸飛行をするシンの機体は、それが幸いして弾幕とミサイルの空域を飛びぬける。輸送機と通信が繋がったのかアスランの声が聞こえる。
『シン! 大丈夫なのか。回線はオープンにしておけよお前っ!』
「大丈夫にしてみせます!!」
 言うが早いか、レーダーに反応する影。
 ロックオンは確かこれ。ターゲットはあそこ!
 トリガーは、どこだ!? あった、右手のこのボタン。
 今まさにトリガーを引こうと力を込めるのだが、エンジンの轟音に紛れてターゲットが転舵した。ミネルバの管制に突如かぶさる人の声。
『誰が乗っているの!?』
 前方を飛ぶ戦闘機が反転して上空を通過する。通信に割り込んできたのはルナマリアで、トリガーにかけた指から力が抜ける。
 俺はもう少しで、ルナマリアを・・・。
 シンは去っていくルナの戦闘機を視認しながら、思い出したようにミネルバに向かう輸送機を見つけた。相変わらず嘘みたいな操縦で弾幕を掻い潜ってミネルバに向かって飛んでいる。
 しかし、その後方には高射砲部隊が追随し、上空からは地球軍の戦闘機がミサイルを打ち込んでいる。
「ルナは輸送機を!」
「えっ?!」
 俺はアイツを落とす。シンはサイドスティックを大きく引いて機首を上げた。


 絶えず鳴り響くロック音と機体を掠めて飛んでいくミサイル達。
 マッハで流れる地表と青い空が反転する。
 自分の鼓動とシンクロするのではないかと思うほどのエンジン音。
 単身で空を飛ぶのとはまた違う興奮がシンの中を駆け巡る。いつ落とされるかも知れないという恐怖と、高揚感がシンの精神を拡散させた。
 飛んでくるミサイルを即交わすのではなく機動を読む。
 レーダーで敵機の位置を確認しなくても、なんとなく気配で掴める。挙動を読んで打ち落とす。輸送機を目で追って、攻撃を加えようとしている敵機を追う。


 ルソーに取り付いていた敵戦闘機が、飛び出したシンに気が付かないわけがない。よたよた飛ぶのを始めは面白がっていたスティングとアウルも、ありえないよけっぷりに言葉を失う。
「なんなんだよ、アレは!」
「俺が知るか」
 地球軍の戦闘機一個中隊がこの空域を飛んでいる。その中に混じるファントムペイン出身の彼ら。
「ファントムペインで好き放題やっていた時とは違うんだ」
「遊びの時間は終りってねえっ!」
 応戦するコーディネーターの戦闘機。先程まで1機だったのが、1機増えて2機になった。1機増えようが地球軍の優位に変わりはないが、増援の1機がみるみる打ちに動きを変えていくのだ。今や、その1機に次々と落とされていく。ミサイルではなく、しかも機銃というアナログ兵装で。
『撤退だ!スティング、アウル、一旦ガルナハンに下がる』
 そんな時、上官から入った命令は撤退。見渡せば、空を飛んでいるのは数機という有様。
「なんでっ!?」
「奴らの船を一つ落としただけでも、成果としちゃ上出来だ、二人とも」
 地上の部隊はまだ頑張っているようだったが、追ってきたコーディネーターの船はもう墜落寸前で、当面の任務達成は目前だった。
『相手はあのミネルバだ。今はこちらの部が悪い』
 3機の戦闘機が去った後には、煙を吐くルソーと輸送機を受け入れているミネルバが残される。


 撤退する様子をキャノピー越しに見るシン。
 バクバクと打ち鳴らされる鼓動が、少しだけ静かになって、戦闘空域の様子を見る余裕ができる。白っぽい大地のあちこちから沸き立つ、撃墜された残骸があげる黒い炎。
 これで、勝ったんだよな。
 安堵の息もつかの間、落とした視線の先の計器の数字に目を見張る。
「げっ、残弾ゼロ!?」
 調子に乗って機銃を打ちまくった結果だった。と、鳴り響くアラートは地上からロックされた証拠。
「まだ諦めないのかよ!」
 機銃が駄目なら、翼の下にあるミサイルしかない。上空から地上の高射砲部隊にターゲットをロックする。射程内に入って、ビープ音が変わる。
 この一撃で終わる。

 俺達は殺し合いをしているわけじゃない。

 そんなきれい事を言ったって、ここで見逃してもどうせまた敵として現れるだけだ。
 首を振って頭の中に響く声を振り払おうとする。しかし、声音を変えて声は続く。

 あの部隊にいるのは俺の知りあいだ、おまえ達などやられてしまえ。
 これは戦争なんだ、と。

 俺は―――

 シンはミサイル発射のトリガーから指を離した。唇を噛み締めて、目の前の高射部隊から視線を逸らした。
「くっ」
 低空を飛んで砂埃を巻き上げて威嚇する。後方に小さくなる敵部隊の進路を見極めて、ミネルバに帰還しようと方向を変えた瞬間。シンの視界に入る、発射された地対空ミサイル。
 白い煙を吐いて一直線に向かう先は、ミネルバ。


「くっそ―――っ!!」
 今から打ち合ったのでは間に合わない。ミネルバの対空砲が打ち落としてくれる保障もない。本能的にシンはミサイルの後を追った。
 ミネルバが回避運動を取る。
 全開のエンジンが悲鳴をあげる。
 一発は対空砲が打ち落とす。
 なおも迫るミサイルとミネルバ、そこにシンの戦闘機が交差する。
 ミネルバではその光景を、ハッチから巻き込む風に煽られたアスランが突っ込んでくるミサイルごと戦闘機を見ていた。
「シンっ! あのバカっ」


 ミネルバと戦闘機の熱源が重なって、近接信管が作動するギリギリの所で、ミサイルがシンの戦闘機を追った。
「やったっ!」
 後についているミサイルを見えもしないのに、時々振り返りながら、シンは右に左に舵を切り、ロールして太陽を背に大きくループを切った。
 向かうは砂の大地。自機の影が大きくなる。
 衝突寸前で思いっきりスティックを引いて機体を起こす。
 間髪おかずに地表で爆発するミサイルと、その上を鳥のように飛ぶ戦闘機が、一つ大きく円を描く。見渡せば、今度こそ本当に撤退していく敵部隊が眼下に小さく見えた。
 シンがミネルバへと進路を変えた時、ルソーが地表に墜落して盛大な煙を上げた。


 ミネルバのデッキに着陸して、機体用エレベータで降りる。
 格納庫でシンを待っていたのはルナマリアとメイリン、それからヨウランとヴィーノだった。彼らが走ってくるから、シンも機体の固定もそこそこに駆け出した。いや、駆け出そうとした。
 前方を塞いだのは誰だと見上げれば、アスランが燃えるような緑の瞳をして見下ろしていた。
 えっ、なんでアスランさん、そんな顔。
「自分勝手な判断をするなっ!」
 パシーン。
 格納庫に乾いた音が木霊する。
 突然、左の頬が熱くなって、わけもわからず睨み返す。シーンとなる格納庫で、皆が遠巻きに二人を囲んでいる。
 シンにはどうして叩かれるのかわからない。
「なんでですか! ミネルバもルソーの乗員だって助かった。アンタの言うとおり敵の部隊だって見逃してやった」
 パシーン!
「誰が戦闘機で戦えと言った! 自分を囮にしろと言った! 見逃すだと・・・お前は自分が正義の味方のつもりか!」
 怒っているアスランをシンは横目で睨む。
 深紅の瞳を正面から受け止められても、シンは負けじと拳を強く握って睨み返す。細められた瞳と眉をひそめた一瞬の表情に、シンは気を取られる。さっと踵を返してアスランが戦闘機の方へ去っていき、ミネルバのメカニック達に話し掛ける。後姿に話し掛けることも、追いかけることもできずに、シンはただその背中を見つめる。
 怒っているわけじゃ、ないのか? 
 なんなんだよ、アンタ。
 一人輪の中に残されたシンにルナ達が近寄って行くには、少し時間が要った。

ホント、段々長くなるんだよなあ。ちょこっとずつ書こうと決めていたのに。そしてついに戦闘機初乗りの回。予定したものと全然違うよ。