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無法地帯

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 ポーン。
 軽い音を立てて、エレベーターが58階で停止する。ドアが開く数秒の隙間から声が飛び込んできた。

 「フッ、10時出勤とはさすが特務は違うな!」

 銀髪の男が立った今エレベーターから出てきた男に浴びせた。エレベーターホールの時計は10時5分前を指していて、銀髪の男は手にノートパソコンと細身のファイルを抱えていた。
 対して、肩にデイパックを引っ掛けた男は年の頃は20台前半か、出会いがしらに怒鳴られて顔を顰めたまま通路の端の部屋へと消えていった。





 そう言えば・・・調査室に追跡タスクフォースが新設されてるって知ってる? 官報に載ってた。

 知ってる、知ってる。たった2名しかいないで何をするんだろうな。

 ネット上を流れる情報がディスプレイされている。これはどこかでの会話のやり取りで。電話だってデジタル化された今は盗聴可能だ。
 キラは安っぽいOAチェアの背もたれを限界まで後ろに倒して「んん~」と背伸びをする。あくびを一つしてまた画面に向かう。キーボードの上で指を滑らせて、集める情報を次々に変えていき、ふいに手が止まる。

「・・・これ、どっかの顧客情報?」

 にやりと笑ってその情報をネット上から拾い出す。入念にウィルスチェックをした後に展開すると、氏名住所電話番号年齢性別の情報が出てきた。

「全部で1万件か。安いなあ」

 5千人以上の個人情報を扱い事業者が個人情報取り扱い事業者とされるので、1万件のデータはまあ、数としては対したことはない。

「でもま、バックドアを仕掛けるにはちょうどいいや」

 漏洩元を突き止めて、セキュリティホールからその会社のサーバに侵入する。管理者権限を取得すると我が物顔で顧客データを根こそぎコピーした。
 ログをきれいに消して、キラはそのデータをすばやく際暗号化して別ファイルに変える。名前も変えてパスワードを付けて裏オークションの競売に掛けた。

 個人情報や企業の開発データ。
 機密扱いの価値のあるデータが高値で取引される情報社会で、キラはその情報を売ってお金を稼ぐクラッカーだった。

「役人に何ができるのさ。たった二人? 全く、舐めてるよね」

 それなりに名のある大学を卒業して一流の情報通信企業に就職したが、1年と立たないうちに辞めた。配属先の上司とそりが合わなかったことと、何かと新入社員だからと投げつけられる雑用に我慢できなかったのだ。
 しかし、会社で趣味のハッキングが金になると知った。新入社員の給料よりずっと破格の値段。盗んだデータで大企業の取締役を辞任に追い込んだこともある。

 巷で騒がれているウィルス騒ぎでついに政府もネットワークセキュリティの重要性に気がついたのか、専門の部署を立ち上げた。専門部署と言っても政府機関から情報が漏洩していないかを監視するだけの部署。たった2人でこの膨大なネットを流れる情報に目を見張るなど無謀もいい所だ。

 キラは近いうちに政府機関から何か情報が漏れて責任を問われる2人を哀れに思った。目を凝らして妖しいデータが流れていないか調べている様子を思い浮かべ、キーボードの実行キーを押す。

「これでよしっと」

 今月も間違いなく税金を振り込んだ事にしたキラは、何か飲むものを取りに腰を上げた。




 みんなよくキラを天才ハッカーのように描き、どんな情報でもいつのまにかキラが入手していることになっているけれど、それって犯罪だと思うんだ。
 いつか、そんな攻防をお話にしてみたいなあ・・・。



カテゴリ: [ネタの種] - &trackback() - 2006年05月09日 20:54:07

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