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   選ばれた者達    No.22    超能力少女、レクイヤ 1/3  レクイヤはその日も沈んだ気持ちで家路に向かっていた。学校へ行くと、いつものようにクラスメイトからいじめを受けていたのだ。レクイヤは他の人と違って輪に溶け込むのが苦手で、一人で遊んでいるのが好きだった。一人にならざるを得なかった。  そう、それは幼稚園の頃にさかのぼる。同年代の友達と遊んでいる時。積み木やミニカー、クレヨンや色鉛筆が散らかった部屋の中。遊びの時間が終わる頃、先生は園児達に声をかけていた。 「さあ皆さん、おもちゃを片付けなさい」  園児達はそう言われ、それぞれ勝手に片付けをはじめていた。レクイヤはその時に散らかっているものを見つめて『元の場所に戻っちゃえ』と念じた。するとおもちゃ達は勝手に元の場所へ戻っていったのだ。はじめは周りが騒がしく、レクイヤの行動は気づかれることはなかったが、一人の先生はそれに気づくと驚きのあまり悲鳴をあげていた。それに呼応するように、動揺が教室全体に広がり一時は警察までやってくるほどの大変な騒ぎになったのだ。  その時は何かの見間違いということで事件は解決したが、それ以降レクイヤに対する監視の目が付くようになっていた。レクイヤは始めはそれほど気にしてはいなかったが、小学校へあがっても監視は続き、表向きには平静を装っていたが実際ははかなりの精神的苦痛を味わっていた。そんなことだから明るく過ごして笑顔で学校生活を送るということはできなかった。常に人を疑う、相手から一歩離れた場所に立つようになっていた。  そして次第にクラスでも、のけ者のような位置につくようになり、いじめの格好の対象となっているのだった。  授業が終わり、掃除当番だったレクイヤはほうきを持って教室の中を掃除していた。他の掃除当番の三人のクラスメイトは一緒になって黒板の掃除をしている。 「私達ついてないわよね。なんでレクイヤなんかと一緒に掃除当番しないといけないのかしら」 「さっさと私達の分は済ませちゃって、後はあの子に任せましょうよ」  三人で黒板を掃除しているので時間はかからずに、すぐに掃除は終わっていた。レクイヤは一人で教室の掃除をしており、まだ半分ほどしか終わっていない。レクイヤは半分まで掃除が終わるとつかつかと三人に近づいていった。 「ちょっと。分担がおかしいんじゃない? 私だけこれだけ広い所を任されるのはおかしいわ」  それだけ言うと、手に持っていたほうきを三人に突き出した。三人は避けるように一歩後ろに下がった。 「あなたはそんなもの使わないでも簡単に掃除できるんでしょう? その魔法の力で掃除してみれば?」  挑発的な態度で三人の一人が言う。彼女達は分かっているのだ。レクイヤが反論出来ないことに。力を意識せずに発揮していた当時の子供の心をもった純粋な時間はもう過ぎ去り、その力を使うことが他人に迷惑をかけると思っている。よく分からない黒服の男達に監視されていて、その威圧感に恐怖を感じていることを。  レクイヤは消えることのない言葉を思い浮かべていた。  ――君は不思議な力を持っているんだね。でもね、その力をあまり使ってはいけないよ。その力は災いをもたらす。まだ君は小さいからよく分からないかもしれないけど、その力をこれからも人前で使うようなことになればおじさん達は君にお仕置きをしないといけなくなるんだよ……。  優しい声の裏に潜む威圧感。レクイヤはそれまであまり両親にも大人にも怒られるということはなかったが、不思議な力を発揮し、警察沙汰にまでなってから現れた黒服の男達に恐怖を植え付けられていた。一時期は夢の中でも黒服の男達の目が光り、町中を歩いていてもすれ違う人達全てに恐怖を感じることもあった。  しかし、だからといってこんな心無いクラスメイトにまで仕打ちを受けるいわれはない。レクイヤはむすっとするとほうきを一人に投げつけ、帰る支度を始めた。三人は驚いた顔をしていたが、すぐにそろってレクイヤを囲んだ。 「……私の分はもう終わったわ。後はお願いね」  レクイヤはわざと肩をぶつけて教室を出た。体をぶつけられた一人はよろよろとよろけていた。 「何よあの子。すごい生意気だわ」 「そうよね。協調性というのを知らないのかしら」 「……」  レクイヤはうんざりしながら帰路に着いた。家までは徒歩十五分ほど。その帰り道、すれ違う人々はきょろきょろとレクイヤに視線を向けては何かひそひそと話しをしている。……いや、そう思い込んでいるだけかもしれない。私はずっと監視されているように思い込んでしまっているから、なんでもない人にさえも疑問を持ってしまうのだ。学校から離れると、レクイヤは少しずつ気分がすっきりとしてきていた。今日はまっすぐに帰らないでちょっと寄り道をしていこう。  家までの帰り道、通学路を少しそれた脇道に入ると、子供一人が通れる程度の狭い抜け道がある。家と家の間にある僅かな隙間。通るものといえば猫くらいのものだろうか。レクイヤはその道を一人、冒険でもするかのようにわくわくしながら進んでいく。  狭い抜け道を歩いていると、足元に石ころのような塊があるのに気がついた。近づいてみるとそれは石ころではなかった。灰色で長い尾を持った動物。鼠だ。鼠の死骸が転がっていたのだ。と、いうことはここにはちょっと前まで猫がいたのかもしれない。レクイヤは猫を驚かせてしまったのかとちょっぴり後悔していた。猫からは何となく孤独感を感じられる。猫同士がじゃれている姿というのは子猫くらいのもので、大人になってしまえばずっと孤独に見えるものだ。レクイヤも心の安らぐ場所はなく、一人でいる時が幸せだった。  鼠の死骸をまたぎ、抜け道をまっすぐ突っ切る。そして普段の通りに出ると、レクイヤは服とカバンについてしまったと思われるほこりを払った。細い抜け道で何度も壁にぶつかっていたからだ。すると背中から紙がひらひらと落ちるのに気がついた。拾い上げると、紙の一部分にテープがつけられている。  ――わたしは変人のレクイヤです。近付くと変人病を移しちゃうよ。  太字のマジックで大きく書かれていた。レクイヤは震える手でそれを握り締めていた。……帰り道、ひそひそとすれ違う人が話していたのはこれだったのだ。これだけ大きい字で書いてあれば、かなり離れた所からでもたやすく読むことが出来るだろう。レクイヤは悔しさのあまり涙で瞳が潤んできた。泣いちゃいけない。しっかりと自分を強く持っていないと。しかしそこには誰もいない。レクイヤは自分を見ている人間がいないのを確かめると、袖で涙を拭っていた。いたずらの紙をくしゃくしゃに丸め、思いっきり車の通りに向かって投げつける。丸めた紙はふわふわと漂い、空気抵抗によってすぐに足元に落ちてしまった。レクイヤは車に潰してもらおうと思っていたのだが、その紙はまるで未練があるように足元に残っている。うつむくと、レクイヤは紙に向かって念じていた。丸められた紙は更に圧縮され小さくなり、パチンコ玉の大きさにまで縮んでいた。手で拾い上げるとパチンコ玉のような強度をもっている。手の平に載せ、再びそれを睨みつけると、今度はそれは粉々にはじけ飛んだ。 「ふう、全然すっきりしないわ。あーあ……」  レクイヤは軽くため息をつくと歩き始め、家にたどり着いた。ポケットから鍵を取り出し、玄関を開ける。父親は仕事で昼間はいない。母親はどこかへ遊びに行っている様だ。弟は幼稚園に通っていて夕方になったら迎えに行く予定になっていた。朝は母親が幼稚園まで送っていくが、帰りはレクイヤが迎えに行くことになっているのだ。もっとも朝も母親は姿を消していることが多く、送り迎えはほとんどレクイヤの仕事にはなっていたが。  自分の部屋に入ると部屋の隅にカバンを放り投げ、ベッドの上に倒れこんだ。枕に顔をうずめ、しばらく物思いにふけっている。涙は帰り道に枯れてしまっていたので、ここで涙が出ることは無かった。しばらくはそのままでいたが、気分が落ち着いてくるとレクイヤは洗面台に向かった。鏡に映る自分の顔を見る。涙の流れた後があり、目は赤く充血していた。蛇口から水を勢いよく出すと、じゃぶじゃぶと大雑把に顔を洗った。タオルを手に取り水をふき取る。もう一度鏡を見るとにこりと笑顔を作った。 「よし。これでもう大丈夫!」  レクイヤは部屋に戻ると、出掛ける支度をした。まだ時間は少し早いが、弟の通う幼稚園へ迎えに行くつもりだった。家を出ると鍵をかけ、窓や裏口の戸締りを確認する。確認が終わると、レクイヤは幼稚園まで歩いていった。徒歩十分ほどですぐ近くだ。  幼稚園へ到着する。園児達の帰る時間まではまだ十分ほどあった。幼稚園の先生の一人がレクイヤに気づくと、にこにこと微笑みながら近付いてくる。 「あら、レクイヤちゃんね。今日も偉いわねえ」 「うん、お母さんは今日も来れないし。時間までここで遊んでるね」 「ええ、いいですよ」  レクイヤはここで遊ぶのは日課のようになっていた。園児用のシーソーやブランコ、滑り台は怪我をしないように小さく作られているので、レクイヤくらいの年齢には物足りない遊び場なのだが、のんびりと過ごすにはちょうどいいのだった。ゆっくりとこぐブランコ。夕暮れの風は、一日の疲れた体に心地よく当たってくる。レクイヤはしばらくブランコをこいでいると、他の園児の親がちらほらと現れるのを見ていた。それを見ると少し悲しくなってくる。なんでうちの親は他の人と違うんだろう。私はもう慣れてるからかまわないけど、弟が可愛そうだわ。 「あ、レクイヤ!」  元気のいい声が耳に届く。小さな体に不似合いな大きいカバンを肩にかけ、帽子をかぶって紐を顎の下に結びながら弟のトミーが現れた。レクイヤはブランコから飛び降りると、弟に近付いていった。 「さあ、帰りましょトミー。今日も一日楽しかった?」 「うん! だけどもうお腹ペコペコだよ。今日のおやつはふがしだけだったんだ」  家までの帰り道、弟はずっとしゃべりっ放しだった。レクイヤはにこにこしながら弟の話しを聞いている。いつも仕事に出ていて、休日もあまり顔を合わせることの無い父。いつも遊びに出ていて、たまに一緒にいてもぶつぶつと文句しかいわない母。弟だけがレクイヤにとって心の許せる相手だった。 「レクイヤ! どうしたの? 僕の話し聞いてる?」  少しの間ぼーっとしていたレクイヤは、弟の声で現実に引き戻された。もう家は目の前だった。ポケットから鍵を取り出す。 「ちゃんと聞いてるわよ。ほら、園児服を着替えて来なさい」  弟は玄関に上がると靴をばたばたと脱ぎ、カバンと帽子をほっぽりだして自分の部屋へ向かった。レクイヤはそれを綺麗に整頓すると、ダイニングへ向かう。おやつはお腹に残って夕飯がきつくなってしまうから飲み物を用意しよう。ティーパックとミルク、砂糖を用意する。ポットからお湯を注ぐと、紅茶を入れた。弟は普段着に着替え終わると、騒々しくダイニングへやってきた。 「ほら。夕飯が食べられなくなるといけないから紅茶にしましょ」 「ええー。ま、いいか。一緒にテレビ観ようよ」  レクイヤは弟と一緒に紅茶を飲みながらテレビを観た。何回かチャンネルを回す。ニュース番組、クイズ番組、アニメ番組。弟はアニメのチャンネルになるとこれが観たいと言ったので、レクイヤもアニメを観ることにした。  そして夜になると、玄関から物音が聞こえた。母親が帰ってきたのだ。弟と二人で玄関に向かえにいき、おかえりと声をかけたが、母は見知らぬ女性に肩を借りてうつらうつらと眠っていた。 「ごめんなさいね。あなたのお母さん、一人じゃ帰れないくらい飲んじゃって。すぐに寝室に寝かせておいたほうがいいわ」  母の友人らしい女性はそういうと部屋まで母を運んでくれた。母は途中何度か、吐きそうになり、うっ、とうなっていたが、ベッドに倒れ込むと、そのまますぐに寝入ってしまっていた。おそらく翌朝には何も覚えていないのだろう。 「じゃあね。お母さんに少しはお酒の量を抑えるように、ってあなたからも言ってあげてね」 「……」  レクイヤは黙ったまま頷いた。女性は用事が終わるとすぐに玄関へ向かった。思い出すように玄関の横に置いてあった包みをレクイヤの前に差し出す。 「はいこれ。私とあなたのお母さんとで飲んできた店で、持ち帰り用に買ってきた食べ物よ。夕飯にしてね」 「ありがとうございます。いつも母が迷惑かけてすいません」 「そんなことないわよ。じゃあ、おやすみなさい」  母の友人がいなくなってから、レクイヤはため息をついてダイニングへ向かった。いつもこの調子だ。母は毎日毎日遊びにいってはふらふらになって帰ってくる。弟はそんな母をどう思っているのだろう? レクイヤは母のようにはなりたくなかった。私はもっとしっかりとした人間になりたい。……たとえばFBI女性捜査官のようなきりっとした人間に。しかしレクイヤは自分の特異な体質を思うと、まともな生活をすることは出来ないだろうと思ってしまうのだった。 「レクイヤ! ご飯があるなら早く食べようよ!」  弟の無邪気な声に返事をすると、レクイヤは食べ物を持ってダイニングへ向かった。そして二人には多すぎるその夕食をとった。腹一杯の食事を済ませ、テレビを一時間ほど観ると、レクイヤは眠ることにした。弟はお休みといって母の寝室まで行った。部屋の明かりを消し、レクイヤはベッドに潜り込む。うとうととしはじめ、眠りに落ちそうになる頃、扉がゆっくりと開いた。そこには、弟が眠そうに目をこすりながらそこに立っている。 「レクイヤ、ここで寝ていい? お母さん、またお酒臭いんだもん」 「……いいわよ。じゃ、早く寝ましょう」  ベッドはレクイヤと弟が使っても十分なほど大きかった。大人サイズのベッドなので、まるで小さな船に乗っているようだ。弟はすぐに眠りについていた。レクイヤは弟の寝顔を見ながら翌日のことを考えている。……また憂鬱な一日が始まるのね。

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