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erabare_11

    

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   選ばれた者達

   No.11

   呪われた血統、ウェルディナ 2/3



 一、二時間ほどパンフレットに目を通すと、ウェルディナは出かける支度を始めた。外出用の洋服へ着替え、ハンドバックに財布などを用意する。約束の時間は六時半なので、六時に家を出れば十分間に合うだろう。その間には妹達も帰ってくる。長女のウェルディナは三人の帰りを待っていた。次女のミライザ。中等学校の五年生で、クラブ活動を行っているので帰りは遅くなるかもしれない。長男のイエット。中等学校の二年生で、クラブには所属しておらず、まっすぐに家に帰ってくるはずだ。次男のマイアード。小学校六年生で、学校が終わるのは早いが、友達と遊びに行き、帰りが遅くなるかもしれない。
 そして五時を過ぎた頃、玄関に物音が聞こえた。鍵を差し込む音が聞こえ、扉が開く。
「……ただいま」
 イエットはそう一声かけると靴を脱ぎ、玄関へと上がった。ウェルディナはダイニングから玄関へ向かった。
「お帰りなさい、イエット。今日も早かったわね」
「別に。学校からまっすぐ帰ってきただけだし。……ウェルディナ姉さん、どこか出かけるの?」
 イエットは姉の姿を見るとそう尋ねた。普段はずっと家にいる姉は、外出用のおしゃれな服など着ることがないからだ。仕事で出かける時の服装とも違っているその姿は、あまり見ることのないものだった。
「ええ。ちょっと夕食を誘われちゃって……。悪いけど今日は三人で夕食をとってくれない?」
「別に俺はいいけど。夕食大丈夫かな」
 イエットは不安そうに尋ねた。家の中ではウェルディナしか料理ができないからだ。次女のミライザは料理に全く興味を示さないし、自分も作ることよりも食べることが専門だ。次男のマイアードに頼めば何とかしてくれるだろうが、いつ帰ってくるか分からないしあまり全てを頼むのも悪いだろう。しかしウェルディナはにっこりとした表情で返事をした。
「大丈夫よ。冷蔵庫に全てラッピングして入れておいてあるから。後はそれをレンジで温めてくれれば食べられるわ」
「……それなら大丈夫か。ウェルディナ姉さん、気をつけて」
「え? 大丈夫よ。ただ食事に出かけるだけだし。それじゃあそろそろ行ってくるわね」
 イエットに送られると、ウェルディナは表に出た。太陽は沈みかけ、長い影が足から伸びる。夕日が道を赤く染めている。

 駅までの道のり、ウェルディナはイエットの表情を思い出していた。何か心配そうな表情をちらっと見せていたあの子は、何かに感づいたのだろうか? しかしそれほど深刻にならなくてもいいだろう。勧誘されたとしてもしっかりと断ればいいし、ウェルディナはお金も僅か、印鑑も持っては来なかった。いつもは仕事上、何かと入用でそのようなものは用意しているのだが。
 駅に着くと、待ち合わせ時間の十分前だった。しかしそこにはスーツを着込んだパトリックがすでに待っていた。ウェルディナの到着に気がつくと、ベンチから立ち上がってこちらに近づいてくる。
「では行きましょうか、ウェルディナさん」
「随分早かったんですね。まだ時間まで十分はありますけど」
 パトリックは腕時計に目を向けると笑っていた。
「ははは、確かにそうですね。でも私は友人や客人を待たせるのは好きじゃないんです。それに十分なんて早いうちに入りませんよ。私もちょっと前についたばかりなんですから」
 パトリックの案内で、ウェルディナは町を歩いた。しばらく店を回った後、パトリックは一軒のイタリア料理店に足を向けた。
「ここのパスタはとても美味しいんですよ」
 そこはウェルディナの知らない店だった。もともとウェルディナの家は手料理がメインで、外食はめったにすることが無かった。席に着くと、パトリックはミートソースのパスタ、ウェルディナはシーフードパスタを注文した。しばらくすると美味しそうなにおいを漂わせてメニューが並べられる。
 パトリックは遠慮してくれていたのか、食事中はヘルゴトの話題については触れなかった。

 一時間ほどし、食後の紅茶も飲み終わると、あたりはすっかり暗くなっていた。店を出ると、道はすっかり町灯が灯っている。
「随分暗くなってしまいましたね。では行きますか?」
「はい。それほど時間はかからないですよね?」
「ええ。もう九時近いですし。見学は三十分くらいで構いませんよ」
 パトリックは笑顔で答えると先頭に立って歩き出した。
 十五分ほど歩くと、ウェルディナの目の前に一階建ての施設が見えてきた。外観は十字架、三角屋根のない教会といっていいだろう。窓からは明かりが洩れている。まだ信者が何人かそこにいるのだろう。
「夜十時くらいまでは誰かしらヘルゴトに残っているんですよ。幹部の方も、会員の方もね。……さ、どうぞ、よくいらっしゃいました」
 入り口に立つと、頭を下げて先を促す。ウェルディナはパトリックに軽く頭を下げると、進められるままに扉の中へ入った。
「……広いんですね」
 入り口から入ると、そこは礼拝堂のようになっており、四列の椅子が並んでいる。正面には壇があり、その後ろには緑の葉をバックにして握手をしている絵が飾られている。その下には〈ヘルゴト〉という文字がつづられていた。
「この絵柄、パンフレットにもありましたよね? 〈ヘルゴト〉のシンボルマークなんです」
「はい」
 ウェルディナは頭上を見上げた。天井はかなり高く、照明が転々と灯っている。ここは思ったよりも飾り気の無い場所のようだった。
「ここは祈りをささげたり集会を行なう場所なので質素なんです。こちらに資料室もありますので、見てみてください」
 パトリックに進められるまま、右奥の部屋に案内される。ちなみに左奥の部屋はヘルゴト幹部の部屋だそうだ。
 資料室と呼ばれる場所に入ると、先ほどとは違って四人が座るテーブルがたくさん並んでおり、壁際には本棚が並んでいる。ちょっとした図書館の雰囲気を持っていた。反対側の壁にはガラス張りのショーウィンドウがあり、世界各地で活動をしている様子や、その時現地でもらったものなどが展示されている。本棚に目を向けると、そこには『世界平和に向けて』、『赤十字とヘルゴト』、『平和を脅かす悪魔の存在』などというタイトルが並んでいる。なんとなく宗教のにおいを感じ、ウェルディナはうんざりしていた。パトリックはそんな様子に気付かず、熱心に説明をしていた。
「……それでその時にヘルゴトの運動が表彰されたんですよ」
「この本はですね、ヘルゴトの効果的な世界平和運動について述べられていて……」

 一時間ほど経った頃、ウェルディナはそろそろ帰らせてもらおうとパトリックに声をかけた。
「そうですか。そうですね、もう時間も遅いことですしね。……ちょっと待っていただけませんか?」
「……はい、何でしょう?」
 パトリックは頭を下げながら資料室から出て行った。ウェルディナは一人残され、時間を持て余していた。時計を見ると十時半を回っている。
 そろそろ帰らないと、家で三人の家族は心配しているだろうなと思っていると、目の前の扉が開かれた。スーツを着込んだ中年の男の後ろにパトリックの姿が見える。
「ようこそ。本日は〈ヘルゴト〉の見学にようこそ来てくださいました。私はこの地区の支部長をしておりますカーティスと申します」
「は、はい。よろしくお願いします」
 ウェルディナは薦められた名刺を受け取ると握手を交わした。男は温かい目でウェルディナを見ている。福祉事業を行なっている者特有の、教会の神父や牧師のような人当たりのいい印象を持っている。
「どうでしたかな? 今日見学なさって印象に残ったことでもおありで?」
「はい。とても清潔で熱心に活動されているようだと思いました」
 パトリックとカーティスは笑顔でその話を聞いている。
「それはありがとうございます。今日はもう遅いですし、話は終わりにしましょう。よければこのパトリックに家まで送らせて差し上げますが?」
「いえ、結構です。それほど遠くはないので歩いて帰ります」
「そうですか? 車がありますのですぐに帰れますよ」
 パトリックはそう言った。カーティスもその言葉に頷いていた。
「そのほうがよろしい。こんな夜分にお嬢様を一人歩かせるわけにもいきません。パトリック、車の用意をしておきなさい」
「はい、分かりました」
 カーティスはどんどんと話を進めていった。ウェルディナは仕方なく素直にカーティスの好意に甘えることにした。
 ヘルゴトの表に出ると、エンジンをかけて温めていたパトリックが助手席のドアを開けた。ウェルディナは薦められるまま助手席に乗ると、パトリックは運転席に乗り込んだ。
「では、今日はありがとうございました。ウェルディナさん、おやすみなさい」
 窓口からカーティスに声をかけられると、ウェルディナは頭を下げた。パトリックはアクセルを踏み、ゆっくりと車を走らせた。背後に遠ざかるヘルゴトの施設は、真っ暗闇の夜の中、明るく輝いていた。

 車はすぐにウェルディナの家についていた。ウェルディナはハンドバッグを胸に抱えると、車から降りた。
「今日はごちそうさまでした」
「いえいえこちらこそ。一緒に時間が過ごせて楽しかったです。それではおやすみなさい」
 パトリックはそういうと暗闇の中に車を走らせていった。ウェルディナは門をくぐると玄関に入った。ダイニングから音が聞こえてくる。誰かがテレビを見ているのだろう。
「ただいま」
「あ、姉さんお帰り」
 コーヒーとお茶菓子をテーブルの上に並べて、妹のミライザがテレビを見ていた。後の二人の姿は見えない。
「二人はどうしてる?」
「イエットとマイアードなら部屋でゲームをしているよ。姉さんが帰ってくるのが遅かったから部屋で時間を潰すんだってさ」
 ミライザはテレビから視線を移さずにそう答えた。
「そう、別に私を待っていなくても先に休んでいてもよかったんだけどね。……ほら、これお土産。二人も起きているんなら声をかけてきてくれない?」
 ミライザはウェルディナがテーブルに置いた包みを開けてみた。夕食をとった後に寄ったケーキ屋で買ったケーキが四つ入っている。
「わ、ケーキだね。美味しそう。じゃ、呼んでくるよ」
「お願いね。私はお茶を用意しておくわ」
 台所へ向かい、お湯を沸かす。紅茶のパックと砂糖とミルクを用意し、カップを四つ食器棚から出す。ばたばたという足音が聞こえ、台所に二人の弟が顔を見せた。
「お帰り、ウェルディナ姉さん」
 イエットはウェルディナの顔を見ると、ほっとした表情をした後すぐにダイニングに向かっていく。
「お帰り、ウェルディナお姉ちゃん。ケーキありがとう!」
 マイアードは元気よく言うと、嬉しそうにダイニングに向かった。
 お茶をテーブルに並べると、四人でケーキを味わった。話題はウェルディナのことになる。
「で、どうだったの? 面白かった?」
 マイアードはウェルディナに質問する。
「まあ、それなりに楽しかったわよ。夕食は美味しかったし、その団体の見学も無理やりじゃなかったし」
「……それなら良かった」
 イエットは紅茶を飲みながらそう呟いていた。右手のフォークは再びケーキへ向かう。
「それで、そのパトリックさんって人、どうなの? 車の音が聞こえたからさっきも送ってもらったんだよねえ?」
 ミライザはニヤニヤして肘でウェルディナを突っつく。
「そうねえ。いい人みたいね。始めは宗教系の人ってしつこくてわずらわしいだけかと思っていたけど」
「そうかあ。ウェルディナ姉さん、その人に気に入られてるんじゃないの? 姉さん、いつまでも若いわけじゃないんだし、いいチャンスじゃないのかなあ」
 ミライザのその言葉にウェルディナは少し頬を赤らめながら反論した。
「そんな関係じゃないわよ。パトリックさんはただヘルゴトの案内をしている人で、たまたま好意で夕食に誘ってくれただけなんだから」
「ウェルディナお姉ちゃん、楽しそうだね」
 マイアードがミライザの助っ人に入るような言葉を言った。ウェルディナは口を尖らせてミライザとマイアードに反論する。
「二人ともおせっかいはここまででいいわよ。別に私はパトリックさんのことはなんとも思ってないし、今は四人一緒にいるこの時間が一番幸せなんだから」
「……」
 イエットは何も言わずにウェルディナの顔を見ていた。今の姉さんの表情はとても幸せそうだ。だけど、イエットの胸の中には何か突っかかるものがあった。他の三人はなんとも思ってないようだけど、予感のようなものを感じていたイエットは、何かしなくてはと思っていた。


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