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erabare_13

    

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   選ばれた者達

   No.13

   バクスディと二つの組織 1/3



 黒い革ジャンに身を包んだ男は缶コーヒーを飲み終わると、それを軽く握り足元にそっと置いた。そしてわざとらしく足音を立て、その場から離れていく。しばらくすると数人の人間が近づいてくる気配を感じた。
「奴はこっちに逃げたようだ」
「今度は逃がさねえぜ、あいつめ」
 三、四人のがらの悪い男達はコーヒーの缶が置いてある場所まで追い付いていた。その中の一人は足元に気づかずに缶を蹴飛ばしてしまう。
「ん、何だ? ……」
 足元に目を向けた途端、目も眩むような閃光が男達を襲った。焼け付くような痛みが足に突き刺さる。まるで地雷を爆発させてしまったような衝撃が辺りに広がり、男達の足は吹き飛んでいた。うめき声が響き、苦痛に身悶えている。その様子を遠くからしっかりと確認したバクスディは、相手が追いかけてくることが出来ないと知るとゆっくり歩き出した。

 その日の稼ぎは百ドル。バクスディはクライアントに文句を言いたかった。たったさっきまで命をかけた戦いを行ってきたのだ。しかしクライアントの言葉はそっけなかった。
「確かに、その金額では不満かもしれないがね。私は〈あの男〉を掃除して欲しいといったのだ。あの男の部下など何人掃除したところで、結局はすぐに補充されるだけだろう。君の実力ならあの男を確実に掃除できるんだろう?」
「それはそうですけどね。前金もいただけず、相手の人数は把握できない。これはちょっと厄介な仕事ですよ」
 クライアントは葉巻タバコから煙を漂わせ、バクスディの言葉を黙って聞いている。サングラス越しの視線からは考えは何も読み取れない。
「では、私の部下を回そうか? 二人でなら任務もこなせるだろう。当然、報奨金は少なくなるがね」
「……分かりましたよ。俺一人でやります。もうニ、三日時間を下さい」
 バクスディは観念してクライアントに答えた。クライアントは満足そうにバクスディの言葉に首を縦に振っていた。機嫌がよくなったらしく、言葉使いまで丁寧になっていた。
「ではお願いします。……それで本当に私からの武器の支給は必要ないんですね?」
「ええ。自分にしっくりくる武器でないと掃除しづらいんですよ。ではこれで失礼します。あの四つのゴミの後片付けは任せておいて構わないんですね?」
 バクスディはそういうと、テーブルの上に置かれた百ドルの束を受け取り懐に忍ばせた。クライアントは葉巻タバコをくわえながらにやりと笑った。
「大丈夫です。コンクリート詰めにでもして海に捨ててしまいますよ」
 バクスディは嫌悪感を表情に出さないようにしてその場から立ち去った。クライアントの目の奥から、冷たいものを感じていた。

 今回の依頼は危険な匂いがする。バクスディは帰り道、そんなことを考えながら歩いていた。確かに掃除……殺しを依頼する人物はそれなりに危険な相手が多かったが、今回のクライアントはバクスディには知らせていない何か重要なことを隠しているようなふしがある。あの表情、しゃべり方。バクスディは知らないうちに鳥肌が立っているのに気がついた。
「……一体何者なんだ、あいつは」
 マフィア、殺し屋、麻薬の売人などの裏家業で生活している者達にとっては、自分の存在を知らせることはそれだけ自分の命を危険にさらすということだ。当然、誰もが偽名を使うし、偽造免許証、偽造パスポートも横行している。誰が誰であるかなど、誰にも分からないのだ。近くで公園を見つけると、ふらりと立ち寄りベンチを探す。母親が子供を連れて無邪気に遊んでいる光景が広がっている。ベンチに座ると懐から一枚の写真を取り出した。一見人のよさそうな表情の男。太めの体系にたるんだ顎。無精髭を生やし、海辺でフルーツジュースを片手にバカンスを楽しんでいる。
〈ケーブル・アイ〉
 これが今回の標的だ。その通り名の意味する通り、この町のあらゆる場所へ目を走らせている。金の儲かる匂いを敏感に嗅ぎ取り、あちこちで裏取引を行っているのだ。無論、敵も多いが、面と向かって争おうものなら並みの組織では壊滅されてしまうだろう。暗殺。それが一番確実な方法なのだ。バクスディは一対一なら自信はあったが、大勢の敵の中に飛び込むほど間抜けではない。じっくり考える必要があった。

 その日の残りの時間は、情報収集に時間を費やした。ケーブル・アイのいる場所はすでに聞いていたので、使用する乗り物、食事傾向、行動パターンを調べ上げていた。やはり護衛は四六時中張り付いており、寝室の前にも護衛が寝ずの番をしているので、想像以上に接触は難しく感じられた。ケーブル・アイが一人きりになる時間は用を足す時くらいだ。

 翌日、ビジネスマンを装い、スーツに黒いカバン、窮屈なネクタイといった風貌で、バクスディは目的地へ向かった。その日のケーブル・アイは午前中は自宅のプール付の庭でくつろぎ、昼に武器の売買を行う予定だ。片付けるのなら午前中がいい。午後になったら余計な相手も敵にしなければならなくなるだろう。ケーブル・アイの豪邸は入り口にはそれほど護衛はいない。あからさまに護衛がいては警察のような政府の者にも感づかれてしまうからだろう。ケーブル・アイは表向きには大富豪で、ボランティア活動に従事する人のいい人物として通っていて、政治家の何人かとも繋がりがある。
 バクスディは豪邸の裏へ回った。そこで人目に付かないことを確認すると、ロープを塀に向かって投げつけた。ロープの先にはかぎ爪がついており、塀の内側に引っかかった。ロープを何度か引っ張り、外れないことを確認すると、バクスディは身軽に塀をよじ登った。すぐに周りを見渡し、敵の存在を確認する。少し離れたところに背を向けた男が立っていた。植木の後ろに身を隠し、カバンを静かに開いた。拳銃が一丁に、小振りのナイフが一本。それにパチンコで使う銀玉を詰め込んだ袋が二つ。多くの敵と銃撃戦をするつもりは無かったので、身軽になれるよう、最小限の武器しか持ってきていなかった。銀玉の袋をスーツの内ポケットに入れ、拳銃をスラックスの中に隠す。そしてナイフを左手に持ち、ゆっくりと目の前の相手に近づいていった。
 すばやく背後に飛び掛り、右手で相手の口をふさぐ。何が起きたかと後ろを振り返る前にナイフが首を切り裂いた。勢いよく血が噴出し、悲鳴を上げることも出来ないまま男は崩れ落ちた。
 歩を進め、プールの見える場所までたどり着くと、バクスディは様子を見た。ケーブル・アイはビーチ・チェアに寝そべり、のんびりと日光浴を楽しんでいるようだ。まだ距離は遠く、拳銃の射程距離ではない。一歩一歩ゆっくりとバクスディはそこへ近づいていった。ケーブル・アイの横には左右二人ずつの護衛がついており、プールの周りにもあたりに視線を向けている見張りもついている。バクスディはこれ以上は近づくことが出来なくなっていた。いったんナイフを腰の鞘に収めると、内ポケットから銀玉を取り出した。
「さあ、時間は限られている。始めるか」
 握っていた銀玉に軽く力をこめると、指で銀玉をはじいた。放たれた銀玉は豪邸に向かい、玄関にこつこつとぶつかり落ちた。その途端、手榴弾が爆発したような轟音が響いた。玄関はこなごなに吹き飛び、扉の破片があちこちに飛び散っていた。ケーブル・アイ達は慌てて玄関の周りに気を向けていた。
「何事だ! お前達、さっさと原因を突き止めろ! 侵入者は捕えるんだ!」
 ケーブル・アイの怒鳴り声に、見張り達はそれぞれマシンガン、ライフルを手に持ち視線を走らせた。その時にすでにバクスディは玄関とは反対方向に移動していた。ケーブル・アイは護衛に守られながら豪邸から離れていく。……計算どおりだ。すでにケーブル・アイの逃走ルートへバクスディは移動しており、そこには罠を張っていた。護衛は油断無く逃走ルートを先導していたが、足元に銀玉が散らばっているのに気がつくのは少し遅かった。
「ん? 誰だ? パチンコで遊んでいた奴でもいるのか?」
「どうした? 誰かいるのか?」
 立ち止まった護衛にケーブル・アイが声をかける。再び爆発が起こり、銀玉を見るために前かがみになっていた護衛は顔面に爆発を受けて吹き飛ばされていた。もう一人の護衛もケーブル・アイを身を呈してかばったため、全身を銀玉の爆発に切り裂かれていた。後ろを護衛していた男は、すぐに銀玉の仕掛けてあった方向に向かってマシンガンを乱射した。残りの護衛は左右の茂みに向かって同じようにマシンガンを乱射しはじめていた。
 バクスディは少し離れた茂みからケーブル・アイを見ていた。片付けるなら今だ。ケーブル・アイの逃走ルート先に罠を仕掛け、バクスディ本人はケーブル・アイの最後の護衛のさらに後ろから、ゆっくりと近づいていたからだ。拳銃を抜き、両手で狙いを定める。しかし護衛の一人が射程の中に立ち、ケーブル・アイへの狙撃を邪魔している。何発も撃つのはまずい。撃つのは一発だけで後は逃げる時間が必要だ。バクスディは再び銀玉を取り出すと、狙撃の邪魔をしている護衛の足元に転がした。三メートル、二メートル、一メートル。そしてゼロメートル。銀玉は相手の足元に転がりつくと同時に花火のような小さな爆発を起こした。
 護衛は足元の爆発に驚いて一瞬よろめいた。
 その瞬間、拳銃のトリガーが引かれた。ケーブル・アイ達の乱射する銃声にかき消された一発の銃声。それはケーブル・アイの高頭部から眉間を撃ちぬいた。血と脳漿を噴出し、痙攣をしたままケーブル・アイは倒れた。
「ケールブル・アイ様!」
「おのれ、敵はどこにいるんだ!」
「誰も逃がすな!」
 ケーブル・アイの護衛は更に攻撃の火の手を強くしていたが、すでにバクスディはその場から離れていた。侵入に使った塀まで戻り、来た時と同じようにかぎ爪のついたロープで外へ脱出する。ケーブル・アイの豪邸は玄関の爆発とケーブル・アイ狙撃地点の重点捜索が行われ、他の場所までは捜索が手薄だった。バクスディは難なく脱出に成功すると、スーツのほこりを払って何食わぬ顔で近くの駅まで向かった。ゆっくりと歩き、深呼吸をしていると、駅につく頃には心臓の動機もおさまっていた。

 ケーブル・アイの豪邸のある駅から数駅のところでバクスディは列車を降り、公衆電話に向かう。そこで今回のクライアントと連絡を取った。
「例の仕事だが、うまくいきましたよ。もう二、三時間もすればニュースでも確認できるでしょう」
「そうか。ご苦労だった。お前に頼んで正解だったようだな」
「まあ、俺は報酬さえもらえれば依頼されたことは確実にこなしますから。報酬は明日の午後、そちらにうかがいますよ」
「分かった。待っているよ……バクスディ君」
「……?」
 バクスディが何かを言う間もなく、公衆電話は切れていた。ツー、ツーという音が空しく響く。大丈夫だろうか。盗聴や、公の場に知られてはいけない内容だからこそ、足のつかない公衆電話を使い、名前は会話に出さないという約束だったのに。しかしこの公衆電話もバクスディが適当な駅で降り、適当な公衆電話を使ったもので、盗聴の心配はない。神経質になりすぎたかとバクスディは思い、今度は自宅のアパートへと向かった。コンクリートの冷たい階段を登り、自分の部屋に着くと鍵を開ける。そして重い鉄の扉を開けると、服を脱ぎシャワーを浴びた。汗と戦いの臭いを洗い流す。そしてまだ体が濡れたままの状態でベットに倒れこんだ。まどろみの状態でバクスディは考える。心配のし過ぎだ、明日はちゃんと報酬をもらい、それでこのクライアントとの縁も打ち切りだ。バクスディは次第に眠りの世界に引きこまれていった。


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