|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|

ents_07

    

※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

   エントシプレヒェンドバイン

   7話 砂漠の旅、意外な出会い



 ニール砂漠。この広大な砂漠は点々とわずかな緑があるだけで、完全な死の世界である。いくつもの砂丘があり、ブラドの森からわずかに離れただけで、ブラドの森は全く見えなくなっていた。
 かすかに緑がある場所には、ある程度の舗装された道が作られている。ブラド監獄へと続く真っ直ぐな道だ。その道は常にブラド監獄の人間の目が光っている。その道を使わなければ、このニール砂漠ではたちまち迷ってしまい、後は死を待つだけになってしまうだろう。
 しかし、その道をわざと避けて砂漠を突き進んでいく人影があった。その人数は十人を超えている。ブラド監獄から逃げ出した囚人達だ。先頭を歩く者は何年も人に会っていなかったのか全身が毛むくじゃらで、人間の姿をした獣のようだった。その横にはローブをまとった男と、二人の人間が歩いている。その後ろには背の低い者が二人と軽装で盗賊の姿をした者、剣を腰にぶら下げた戦士の姿をした者が続き、更に後ろには苦しそうな顔をしている少年と老人、それに一人の男が何とか歩き続け、その横には心配そうに彼らを見ている女性がいた。先頭をいく一人の男はもう限界だとでもいうように横にいる仲間に話していた。

「おい、アミュレス、デュラス。一体いつまで歩くんだ? この何も目印のない砂漠をどれだけ歩いたんだよ? 俺は疲れたぜ」
「しょうがねえだろ。あの道はブラドの連中がうろうろしているんだからな。いくら戦ってもきりがないだろうぜ。そんなことをしていたら体力が持たなくて倒れちまうだろうな」
 デュラスはビルに言い返した。確かに今はとても戦える状態ではないだろう。ティーク、モーロア、ミニングはかなりつらそうだ。他の者も必死に歩いてはいるが、かなりの砂漠の暑さと歩きにくさにまいっているようだった。太陽を頼りに南へ歩いているつもりだったが、いくら歩いても全く景色が変わらないので、精神的な疲れも相当だった。
 再び黙り込んで黙々と歩き続けると、だんだんと太陽が地に沈み、暑さがなくなっていった。もう太陽を目印に歩くこともできない。一行はここで休憩をすることにした。休憩といっても何もない砂漠の中でだが。
「うわぁー、疲れた。み、水」
 ティークはばたりと倒れると、からからになったノドをみんなに訴えた。ケルスミアは水筒を取り出すとティークに手渡した。
「水は一日三回、一回で一口だけよ」
「わかってるよ! 何度も言わないで。絶対一口しか飲まないよ」
 ティークはぶすっとして水筒に口を付け、水を飲んだ。ケルスミアはすぐに水筒を取り上げていた。
「ほら、またたくさん飲んだでしょ? 水は少ししかないのよ? 全員で平等に分けなきゃだめでしょ!」
 ティークは黙ってうずくまっていた。本当はもっと水を飲みたいのだが、わがままを言っている時ではないと自分でも分かっていた。分かってはいたのだが……。
 モーロアとアミュレスはその様子を見ているとうなっていた。
「このまま砂漠を歩き続けていたら本当に誰かが倒れてしまうのではないだろうか……」
「ふむ、そうかもしれん。今からならまだブラドの森に引き返すこともできるが……。あそこにはとりあえずは水はあるしのう」
 二人がそう言っていると、トランスとビルも話の中に入ってきた。モーロアは疲れた表情でトランス達を見た。
「どうしたんじゃ? 休んでいないとまた明日もつらいぞ」
「そうだけどなあ……。さっき言っていたみたいに、このままじゃみんな倒れてしまう。どうにかしなきゃならないぜ」
「……アミュレス、何とか僕達の魔法で何とかならないかな? みんなが助かるんなら僕は何でもするよ」
 ビルとトランスに、返事はすぐには返ってこなかった。
「駄目だトランス。私の魔法やお前の力では水を造り出すことなんて出来ない……。こう大気が乾燥していてはな。雨が降るのを天に任せるか、オアシスでも見つけないかぎりはな」
 そのうちにケルスミアもトランス達の会話に入ってきた。
「このままだと後五日くらいで水筒は空になってしまうわ。リスタとラルファの二人はかなり水がなくても大丈夫そうに見えるけど、ミニングは限界みたいよ。かなり苦しそう……」
 ミニングは衰弱していた。ミニングはライカンスロープの一種で、本当はマーマンなのだ。水のない場所では誰よりも苦しいだろう。皮膚はかさかさになり、声も出せないほどにのどが枯れている。水筒に残っている水程度ではこの乾きは癒せそうもなかった。ミニングは仲間達が心配しているのを感じると申し訳なく思った。ブラド監獄の者に捕まる前はミレー国の王として絶大な力と権力を持ち、誰からも尊敬されるマーマンとして生きていたのに……。この地に連れてこられてからは全てが狂ってしまった。

 そして夜が明け、再び地獄のような暑さの一日が始まった。

 先頭をアミュレスとリーク、ユールが行き、デュラスは仲間達の真ん中でミニングを背中に担いで歩いていた。
「こうして歩くんはいいけど、食料や水を探すのも大事だと思うで。砂漠を抜けることよりもまず食料や水の補給が先や。こういう砂漠にはきっとオアシスがあるんやないか?」
「そう簡単に見つかるわけないぜ。変な期待していてもがっかりするだけだ」
 ユールの言葉にリークは応えた。アミュレスも何も言わなかった。そして更に二、三時間ほど歩くと、遂にミニングが意識を失ってしまった。水筒の水を飲ませると、なんとか意識を取り戻したが、体力的にも精神的にも限界のようだった。
「……済まない、迷惑をかけて。だが私はもう駄目らしい。みんなと一緒にいても何の手助けもできず、迷惑をかけるばかりだ……。どうせ私はもう助からない。……ここにおいていってくれ。私がいると、抜け出せるはずの砂漠も抜け出せないだろう……」
 トランスはミニングの手を掴むと言い返した。
「そんな弱気になっちゃ駄目だよ! みんなで行こうって言ったじゃないか! 絶対にこの砂漠から出られるよ。だからもう少し頑張ってよ……」
「……」
 ミニングは黙っていた。もう話すだけの体力もない。ただじっとしているしか生き延びる方法はないようだった。トランスはみんなに提案をした。
「水を探しに行こう。体力が残っている人で水を探しに行って、他の人はここでじっとしているんだ。そうすれば体力の消耗も押さえられるよ」
「それはいい考えやな。ミニングにはここで休んでもらって、ワイ達でさくっとオアシスを探せばいいんや」
 そうして話がまとまると、二組に分かれることになった。トランス、ビル、アミュレス、リーク、ユールで水を探しに行くことになり、他の者はその場に待機することになった。
「俺も一緒に探しに行きたいけどよ、ミニングを見ているのがケルスミアの他にじいさんや子供、それに世間知らずなリスタ達じゃ、少し不安だしな。みんな、こっちは心配いらねえから安心して探してきな」
 トランス達はデュラス達の見送りに手を振ると、急ぎ足で砂丘に消えていった。

 五人はそれぞれ別の方向に視線を向けながら歩いていた。一刻も早くオアシスを見つけなければならない。
「あった! オアシスや!」
 ユールは叫んで指を差した方へ走る。小さな池は目の前でふっと消えてしまった。ユールに追い付いたビルはため息をついた。
「またかユール。もうかれこれ十回目じゃないか?」
「うるさいでビル! 無駄に見えるかもしれんが、そのうちに本物が見つかるかもしれないやんか」
 二人が口論をしていると、トランスは何かの気配を感じた。何かがこちらへ近づいてくる……。リークはそのトランスの表情を見た。
「どうしたトランス? お前もやっぱり苦しいんじゃないのか? ミニング達の所で休んでいてもいいんだぞ」
「違う、何かが来る……!」
 トランスはそう行って辺りを見渡した。目に見える範囲では何も見えない。リークとアミュレスも周りを見たが、何も近づいてくる様子はなかった。
「トランス、何も来ないぜ。やっぱりお前も疲れているんだ……」
 リークがそう言い終わらないうちに足下が揺れだした。揺れ動く砂から離れると、砂の中から巨大な芋虫が姿を現した。その全長は四、五メートルはあるようだった。
「サンドウォームだ。我々を追っていたのか?」
 アミュレスは手をかざすと、火弾の呪文を放った。サンドウォームはそれをかわすかのように地中に潜った。
「あいつ……魔法をかわしたのか?」
 ビルはサンドウォームの消えた場所を睨んだ。すると今度はビルの足下に現れた。ビルはかわすことができずにサンドウォームの巨大な口に飲み込まれ、地中に消えた。
「ビルー!」
 トランスはすぐに追いかけようとビルを飲み込んだサンドウォームの消えた穴に近づいたが、砂を巻き上げ背後に突然サンドウォームが現れた。
「別の……サンドウォーム?」
 トランスはサンドウォームの巨大な口を見た。その時にアミュレスが呪文を唱え、そのサンドウォームはバラバラに切り刻まれた。辺りを見ると、リークとユールも持っている武器で一匹のサンドウォームと戦っている。
「くらえ!」
 リークがダガーでサンドウォームの背後に切りつけ、注意を引きつけると、ユールが正面から剣で縦一直線に切りつけた。サンドウォームは紫色の不気味な血を流すと崩れ落ちた。しかしまだサンドウォームは地中に隠れているようで、砂の山がいくつも動いていた。
「こいつら……集団で狩りをしていやがる」
 リークは悪態をついた。トランスはみんなが集まると、ビルのことを説明した。
「みんな、ビルが……。ビルがサンドウォームに飲み込まれた! 早くしないとビルが死んじゃうよ……」
 トランスの言葉にそれぞれは足下を睨んだが、サンドウォームはなかなか攻撃を仕掛けてはこなかった。そのうちにサンドウォームが動いてできる砂の山は遠くへ消えていった。トランスは必死にそれを追った。
「トランス! 戻って来るんだ!」
 アミュレスの言葉もトランスの耳には入らなかった。ひたすら走り続けると、サンドウォームの砂の山の一つが突然爆発した。その様子を見ていると、紫色の血にまみれたビルがひょっこりと現れた。ビルはトランスの姿を見つけるとフラフラとトランスに近づいていった。
「トランスか……何とか奴を倒したぜ。奴の内部から魔法で倒したんだ。なかなかいい考えだろ?」
 そう言うとビルはトランスに倒れ込んで意識を失った。他のサンドウォームは仲間が突然爆発したのにうろたえているのか、すぐにトランスに襲いかかってはこなかった。トランスはビルを抱えたまま、サンドウォームの次の攻撃に備えた。しかしサンドウォームは攻撃は仕掛けては来なかった。地中に消えたきり、姿を現さなかった。トランスは少し安心すると、アミュレス達の方を振り返り、大声で叫んだ。
「みんな、ビルは無事だったよ!」
 そしてゆっくりとアミュレス達の方へ歩いていった。アミュレス達もその場でトランスとビルが無事だということに安心すると、砂の地面に腰を下ろした。五人が揃うと、ビルの傷の様子を見る。
「大丈夫さ。そんなにひどくはねえよ。まあ、サンドウォームの口の中はやたら臭かったけどな。少々牙で受けた傷と、消化液のせいで身体がひりひりする程度だぜ」
「まあ、どっちにしても大したことじゃなくてよかった。だけどこの砂漠にはサンドウォームがいることが分かったんだ。早くしなきゃ、モーロア達も危ないぜ」
 リークは言った。トランス達は頷いて立ち上がった。そして再び歩き出そうとすると、遠くから何かが近づいてくるのが分かった。今度は地中を進んでいるのではない。砂の上をこちらに向かってきている。トランス達は緊張してそれが現れるのを待った。

 それの正体はラクダに乗った二人の人間だった。ターバンを頭にまとい、マントで身体を包んでいる二人はラクダを止めると、砂に降り、トランス達の姿を眺めた。
「おまえ達は何者だ? こんな所で何をしている?」
「あんたら、ここに詳しいんか? ワイらは今ここでサンドウォームに襲われたんや。別の場所で仲間達も待っている。何とか水のある場所を教えてもらえんやろか?」
 ユールは相手の正体も分からないうちにどんどんと話しをしていた。トランスやビルは唖然としていたが、相手は別に気を悪くすることもなくじっと話を聞いていた。
「さっそくサンドウォームにあったのか。それでも無事でいられるとは多少は力がありそうだな。まあいい。怪しい者でもなさそうだ。水が欲しかったらついてくるんだな」
 トランスはすぐに歩きだそうとした相手に向かって話しかけた。
「待って! 僕達の他にもまだ仲間が待っているんだ。もう疲れ切っていて動けないんだよ。頼む、そこまでいってくれないかな」
「いいだろう」
 ターバンの男はそう言うと、トランス達の後を追ってラクダの足を進めた。そして数十分後、トランス達はモーロア達の待っている場所へと再び戻ってきた。
 モーロア達は前と変わらない様子でその場にいた。トランス達の姿が現れると、皆ほっとしていた。
「随分早かったな。で、どうだったんだトランス? 水は見つかったのか?」
 デュラスが言うと、トランスは後ろからついてくる二人のラクダに乗った者を説明した。
「途中でこの人達に出会ったんだ。この人達が水のある場所まで案内してくれるって」
 その二人はラクダから降りると、トランス達の様子を見た。――この大勢で砂漠を歩いていたのか? 全く命知らずなことをしているな。食料、水も不十分で砂漠へ入るとは死を意味する。我々でも砂漠を進むときは少人数でできるだけ水、食料を蓄えていくものだが。
「よし、特に衰弱している者はラクダに乗せるんだ。後の者は徒歩でついてきてくれ」
 ターバンの男はそう言った。トランス達はミニングとモーロアをラクダに乗せた。モーロアはすまなそうな顔をしていた。
「悪いのう。迷惑をかけてしまって儂だけ楽をしているなんて……」
「そんなことないさ」
 ビルは軽い口調で返事をした。ティークはその様子をじっと見ていた。モーロアはそんなティークに気が付く。
「ティーク。お前さんならまだラクダに乗れるぞ。儂とお前さんを合わせてちょうど一人分の目方じゃろう」
「やったー!」
 次の瞬間にはティークは喜んでラクダに飛び乗っていた。ターバンの男はその様子を見るとそれぞれ一頭ずつラクダを引っ張っていった。トランス達も後に続く。

 今度の道のりは目的地がはっきりしているぶん、足どりも軽かった。皆、水が飲めると安心していた。ターバンの二人は歩きながら説明を始める。
「今から行く所は我々の住んでいるオアシスの村だ。皆平和に暮らしている。長老様はとても優しいお方だ。多分君達にも親切にしてくれるだろう。しかし災いをもたらすことになったら、君達の命は補償できない」
「えっ? 災いって、どういうこと?」
 トランスは相手に聞き返した。
「最近、サンドウォームがよく村人を襲うようになったんだ。それによくブラド監獄の人間も見かけるようになった。我々はなるべくひっそりと暮らしていたかったんだが、ブラド監獄の人間に我々の存在が知られてしまうと、このニール砂漠を抜けるときの中継地点として利用しようとしだしたんだ。長老は猛反対してその時は追い払ったけど、それからもちょくちょくブラド監獄の人間は顔を見せている。君達を見るとブラド監獄の人間には見えないから、それは少し安心しているけどね」
 ターバンの男はそう言って案内を続けていた。もう一人の相手は黙ってその男の横について歩いている。砂嵐を避けるためか、マントを目の下まであげて顔を隠すようにしている。トランスは自己紹介もしていないのに気付くと、相手に仲間のことを紹介した。
「そういえばまだ名前を言っていなかったね。僕はトランス。さっきサンドウォームと戦って怪我をしたのがビル。ローブを着ているのがアミュレスで、ダガーで戦ったのがリーク、ロングソードでサンドウォームを倒したのがユールだよ」
「それで、このじいさんがモーロア。もう一人の衰弱しているのがミニング。子供がティークで、二人の小人族は右がリスタで左がラルファ。熊みたいのがデュラスであの女の人はケルスミアだ」
 ビルも会話に加わった。サンドウォームとの戦いの傷は幸いたいした怪我にもならなかったようなので、デュラスの回復魔法ですぐに完治できていた。ターバンの男は名前と顔を一致させるように一人一人の顔を眺めた。ミニングは本当に衰弱していて、今にも死んでしまいそうな顔だ。
「そうか、俺は砂漠の民ダグル。こいつは俺の妹のデウダだ」
「……よろしく」
 デウダは一言だけ言うと再びマントで顔を隠した。ビルはデウダの顔を見たかったが、すぐに隠してしまったので見ることはできなかった。
「兄妹だったのか。……ダグルのほうしか喋らなかったから全然分からなかったよ」
「あまり村の外の人間と話すのはよくないと言われているんだ。俺だけが楽観的なのさ」
 ダグルはそう言ってデウダの肩を叩いた。デウダは目を合わせないようにして黙っていた。そして一行はそれからはサンドウォームには合わずに、着実に水のある場所へと近づいていった。しかしそれでもラクダはみんなもペースに合わせゆっくりと進んでいったので、その日のうちにはオアシスの村にはたどり着くことはできなかった。太陽が沈み、気温が急に下がると、夜が訪れた。
 サボテンが何本が生えている場所を見つけると、そこを目印にキャンプを張ることにした。毛布を何枚か敷いてミニングを横にさせる。他の者は風避けの壁を作ったり、簡単な食事を作りだした。落ち着いてくると焚き火を燃やし、その周りを囲んで会話をしながらの食事が始まった。リスタとラルファは二人で横になっているミニングの様子を見ていた。ダグルはどんな生き物の肉だかわからないような肉を焼いて串に刺して食べている。トランス達はブラドの森で集めた木ノ実や小動物の肉を食べた。
「おまえ達、サンドウォームは嫌いか? 意外と美味しいぞ」
「いや、ワイは結構や。リークなら食べれるやろ?」
「えっ?」
 ダグルはユールに言われると、いい色に焼けたもう一つの肉の串を取り、リークに差し出した。リークは断れないままこんがりとしたサンドウォームの肉を受け取り、それを手に取った。
「さあ、ぐっと食べてくれ」
「うっ、こ、これは……」
 ダグルが期待の目でリークを見ると、リークは無理に笑顔を作った。表面は焼けてバリバリになっているが、その中はにがみだけのネタネタの肉が、歯に貼り付くような弾力で待ちかまえている。数回噛んだ後飲み込んだが、その臭みとにがみはいつまでも口の中に残っていた。水を飲んで一気に口の中をすっきりさせたいが、水はない。リークはにこっとするとダグルに答えた。
「う、う、うまいっすねえ」
「そうか! じゃあユール君。君も食べてくれたまえ」
「え? ワイは……」
 ユールも断ろうとはしたが、素早く手に渡されていたので、食べるしかなかった。トランス達は早めに両手をふさいでおいた。ダグルはサンドウォームの肉をある程度食べ終わると、トランス達に尋ねた。
「後で聞こうと思っていたんだが、君達は一体何者だ? このニール砂漠の真ん中で旅をする者なんて見たことがないからな」
 モーロアは一口水を飲むと、説明を始めた。
「儂らは、逃げているんじゃ。ブラド監獄からのう。奴等は儂らに突然罪人の刻印を押し、監獄で奴隷のように扱いおったのじゃ。何年、何十年と捕まっている者もおったが、ここにいるトランスとビルという少年に希望を持ってようやく監獄から脱走することができたんじゃ」
 次にアミュレスが話を続けた。
「ブラド監獄の連中は我々をただの囚人として扱うことはなかった。何か裏で大きなことが動いていたんだ。我々はただの脱獄囚として追われているのではない。ブラド監獄の研究者、魔術師達の貴重な実験の材料としても追われているんだ」
 ダグルは深刻な顔で話に聞き入っていた。デウダも同じように黙って聞いていた。ティークはもう疲れてしまったのか、毛布にくるまってすでに眠っていた。チュー兵衛はティークの食べ残しの食べ物をもぐもぐと食べている。
「そんなことがあったのか。どうりであの道を使わないわけだ。で、これからどうするつもりだったんだ?」
「うまく南へ逃げ続けることができれば、ジーマ港に行くことができる。そこまで行けば船に乗ってこの島から出られるだろう。それから先は一人一人で決めることだ、一緒に行動しない方がかえって安全に逃げられるだろう」
 逃げる、と言う言葉にトランスはアミュレスの顔を見た。視線を感じるとアミュレスは目でトランス達に合図をした。今はまだ会ったばかりの相手に本当のことは言うべき時ではない、と。
「じゃあ、俺達の村へ着いたら、一通りの準備を整えて早く村を出た方がいいかもしれないな。みんな、村の調和が崩れることを極端に嫌うんだ。あんた達はあまり歓迎をされないかもしれない」
「それでかまわんよ。儂らは君達を不幸になどするつもりはない。ブラドの連中が気付く前にさっさと砂漠を抜けるわい」
「それじゃあ、そろそろ休むか? 見張りは……三人ずつでいいな。そのミニングっていう奴とおちびさんは抜かすと、四組はできる。二時間交代でいこう」
 ダグルがそう言うと、トランスとビルが残り、他の者は毛布にくるまってすぐに眠りに入った。休めるときに休んでおかないと、この砂漠では生きていけないだろう。

 他の者が眠りに入ると、ダグルは眠りを妨げないような小さな声でトランスとビルにサンドウォームの説明をした。
「夜は滅多にサンドウォームが襲ってくることはないが、あいつらは砂の上の生き物の動きで俺達を見つけるんだ。昼間おまえ達が襲われたが、別の場所で待っていた仲間は無事だったろう? だがそれは一般のサンドウォームの話だ。このニール砂漠にはマザー・サンドウォームというのがいる。こいつは要注意だ。何しろ高い知能持っているからな。サンドウォームの群を操って俺達を襲うんだ」
「そんなのがいるのか? 俺が昼間倒した体長四、五メートルのサンドウォームは?」
「あいつはサンドウォームの中でも一番弱っちいやつさ。十メートル前後の奴がソルジャー・サンドウォーム。十五メートルを超えるような奴はブレイク・サンドウォーム。マザー・サンドウォームはまだ俺も見たことがねえ。三十メートル以上とも四十メートル以上とも言われている」
「……恐ろしいね」
 トランスは星の光で見える範囲の砂漠を目でじっくりと確認した。ダグルは笑いながら怯えているように見えるトランスの肩を軽く叩いた。
「大丈夫。そんな心配していても仕方がないぜ。おまえ達がそんなにびびったら、一生この砂漠に住んでいる俺達はどうすんだ?」
「……そうだね。ごめん」
 三人はときどき焚き火の様子を見ながら他愛のない話などをして時間を潰していった。空気はどんどんと冷たくなっていく。二人はすぐにダグルと打ち解けていた。ダグルはおしゃべりで、小さいことなど気にしない性格で、何となくランスに似ていた。あの楽しかった村での生活の時のランスに。トランスとビルはこの時はランスのことは口にはせずに、ダグルとの会話を楽しんだ。そして次の見張りのデュラス、ケルスミア、デウダと交代した。トランス達はしらないうちにかなり疲れていたようで、横になるとすぐに寝息をたてていた。ケルスミアはその姿を見ると笑みをこぼしていた。
「ほんとに眠るのが早いわね」

 デウダは兄の顔を見ていた。ダグルは何も不安がないように、堂々とした寝顔だった。デュラスは砂漠の遠くを見つめていた。
「ダグル兄さん、いつもやっかいごとに首を突っ込むのが好きだから今回も不安……」
 ケルスミアは不安げな表情のデウダを見ると、デウダに向き直った。
「デウダって言ったわよね? あなた、昼間会ったときからほとんど喋らないけど、別に喋れないわけじゃないでしょう?」
 デウダは顔を近づけて話しかけてくるケルスミアの勢いに圧倒されてしばらく黙っていた。しばらくして落ち着いてくると返事をした。
「ちゃんと話せるわ。だけど、あまりよそ者と話なんかをして関わると村に不幸が起きるって言い伝えられているから……」
「つまんないわね。それじゃあなたは一生この砂漠から出ないつもりなの?」
「ええ、もちろんよ。どうして?」
 ケルスミアはデウダを少し可哀想に思った。この砂漠で一生を過ごすとは。世界には楽しい場所、楽しいことがたくさんあるのに……。もっとも自分自身も世の中が楽しいと思うことはあまりない。今までずっとヴァンパイア・ベステトを追う復讐の旅だけに年月をかけてきて、楽しいことなどなかったから。それだけにこのような復讐だけの楽しみのない人生など自分だけで十分と思っていた。デウダのような者ならば、いくらでも楽しい人生を送れるはずだ。
「デウダ、人生は楽しまなくちゃ。私達と一緒に行こうとは言わないけれど、一度この砂漠を出てみるといいわ。きっと新鮮な何かが待っているわ」
「でも、私は今の生活に不安なんてないわ。村のみんなは優しいし、長老様も色々なことを教えてくれる」
 デュラスはケルスミア達の会話が耳に入ると二人に注意した。
「二人とも、お喋りはいいがちゃんと見張りをしていろよ」
「わかっているわよ、毛むくじゃらさん」
 デウダはケルスミアの返事でデュラスを見ると、ちょうどデュラスもこちらを振り向いた。その姿が本当に毛むくじゃらでとても人間には見えなかったので思わず笑っていた。
「おいおい、俺はそんなにおかしく見えるか? 初対面で笑われるとはな」
「ねえデュラス。それはいつから伸ばしているの? 本当に熊みたいに見えるわよ」
「クマって、なあに?」
 ケルスミアはデウダを振り向くと顔を見た。砂漠の民のデウダは熊を見たことがないのだ。熊という言葉にきょとんとしている。ケルスミアは山に住む熊の姿、特徴を説明した。デウダはデュラスの顔を見ながら、その話を聞いていた。
「あら。それじゃ、クマってこの人のことじゃないの?」
「……おい」
 デュラスは呆気にとられてデウダに言った。ケルスミアは笑いをこらえていた。デウダは真剣そのものの表情だったからだ。ケルスミアはデュラスに言った。
「ねえデュラス。貴方、その格好じゃ熊って言われても仕方ないわよ。私が髪と髭を切ってあげましょうか?」
「俺はこのままでいいぜ。そんなこと気にしてないからな」
 しかしケルスミアは強引にデュラスを説得し、調髪を始めた。途中からデウダにも手伝ってくれと頼むと、始めはどうしようかと悩んでいたデウダだったが、そのうちにケルスミアを手伝い始めた。少しづつデュラスの髪が砂の上に落ちていく。デュラスはそれでも仲間達の周りの砂漠の様子に神経を集中していた。ケルスミアは髪を切りながらも、注意は周囲に向けられていた。デウダはケルスミアの手伝いに夢中になっていた。いつの間にかデウダの顔には笑いが見えていた。ケルスミア達にあってから初めての笑顔だった。
 見張りの交代の時間がそろそろという時になると、デュラスの姿は変わっていた。顔を覆うほどの髪はなくなり、髭も綺麗に剃られている。顔には多少しわが刻まれてはいるが、まだ老人と言うには早すぎる。そろそろ中年期に入っていく渋い顔だった。ケルスミアとデウダはこの顔に驚いていた。
「あらあら、熊さんが大変身しちゃったわ」
「俺は何年も自分の顔を見ていないんで、よくわからんな。まだ人間に見えるのか……?」
 デュラスの髪と髭が風に乗って砂漠へと消えていく。楽しそうな二人を尻目に、デュラスは一人自問していた。復讐鬼となった自分の姿。髪と髭を切り落としたことによって内面がさらけ出されてしまったような気がする。しかし二人の様子を見るに、それほどひどい姿ではないのかもしれない。
 しばらくして三人は次の仲間に見張りを交代した。

 リスタ、ラルファは見張りに立つと、すぐに砂漠をじっと睨み始めた。その表情は今までのような明るい表情ではなかった。その真剣な様子に不安を感じると、アミュレスは二人に話しかけた。
「どうした、二人とも? 何か見つけたのか?」
 リスタは視線を変えないまま答えた。
「……私は戦いは得意ではない。それで今までに何度もみんなに迷惑をかけてきたんだ。だから自分のできる仕事だけは迷惑をかけないでやり通すつもりなんだ」
「……オラもだ。あの洞窟へみんなと閉じこめられていた時も、モーロアやミニング達に随分迷惑をかけてしまっただ。あの洞窟での魔物との戦いでは自分の身を守るので精いっぱいだっただ。だから今はみんなに安心してゆっくり休んでもらいたいだ」
 アミュレスは真剣な二人の表情と言葉に元気づけられた。この二人の小人族の人間は本当に仲間を思う心が強いのだなと。アミュレスは二人に肩の力を抜いて見張りをしてもらうように言った。
「ありがとう。二人とも、そこまで思っていたなんて。だが見張りはそんなに緊張していてはすぐに疲れてしまうぞ。自然体で周りに注意するだけでいいんだ」
 二人はアミュレスに言われると、恥ずかしそうに肩の力を抜いて、握りこぶしの力を抜いた。アミュレスはその姿を見て首を縦に振った。そう、それでいい、と。アミュレスは改めてラルファに尋ねた。
「ラルファ。そういえば、モーロア達と一緒に何か封印されていた武具を見つけたと言っていたが、少し話してくれないか?」
「いいだよ。まずは黒くて大きなバスタードソードがあっただ。次に光を包んでしまうような闇のローブ。これはあのヴァンパイアに渡してしまっただな。それに杖があっただ。他には指輪と兜、後は悪魔の姿が掘られている不気味な盾があっただ。これはみんな謎のものばかりだ。あのモーロアでさえもあまりそれらのものが何だか分からないと言っていただよ」
「モーロアも分からないのか。一体どんなアイテムなんだ?」
 アミュレスが言うと、ラルファは道具袋からそれらの五つのアイテムを取り出した。六つの中の一つ、〈レスターローブ〉はあのヴァンパイア・ベステトに渡してしまったのでここにはない。そのうちの一つ、黒いバスタードソードを手に取った。重く、まがまがしい気を放っている。普通の人間にこれを使いこなせることができるのだろうか? アミュレスはその剣には何か意思があるように感じられた。次に兜をつかんだ。兜といっても、金属の部分はほとんどなく、軽い帽子のようなものだった。額の部分に蒼い宝石が埋め込まれ、羽飾りまでついている。これからも意思が感じられた。生きているのか? 盾に手を振れると、アミュレスはすぐに手を離した。殺気のようなものを盾から感じたからだ。この盾には怒り、憎しみが詰まっている。アミュレスはそう思った。杖を手に取ると、杖に埋め込まれている真っ赤なルビーに注意を向けられた。この杖からは膨大な魔力を感じることができた。最後に指輪を掌に乗せてみた。一見地味で、何の変哲もない単なる指輪に見えた。
〔また後で……〕
 アミュレスがそれらを再び道具袋に詰めると、どこからかそのような声がした。アミュレスはリスタとラルファの顔を見たが、二人が話したのではないようだった。
「リスタ、ラルファ。今、何か聞こえなかったか? 誰かが話しかけてきたような気がするんだが」
「? 聞こえないよ」
「気付かないだ」
 アミュレスは不思議に思いながらも二人と見張りの時間を過ごした。チュー兵衛もそばにいたが、彼もその声には気付いていなかった。多分疲れのせいで幻聴でも耳にしたんだろう。アミュレスはそう自分に言い聞かせた。

 二時間ほどの時間が過ぎると、リスタ達は最後の見張りの仲間を起こした。リークとユールは眠たそうな顔をしていたが、モーロアはすぐに目が覚め、頭もすぐに働いているようだった。
「三人ともご苦労さん。フワァー、まだ眠いぜ」
 リークはあくびをしながら背伸びをした。ユールも続いて起き上がると、両手でパンパンと顔を叩いた。モーロアは焚き火に少し薪をくべた。
「それにしても、洞窟から脱出できたはいいんやけど、あれよあれよというまにこんな砂漠まで来てしもうて、ワイらどうなるんやろうか?」
「心配はいらんじゃろう。ここにいる仲間達は皆、素晴らしい力を持っておる。力を合わせればどんな困難にでも立ち向かえるじゃろう」
「そうだぜ。まあ、このリーク様がいればどんな罠でも対処できるし、アミュレスは魔法のエキスパートだ。デュラスやミニングは一流の戦士だし、みんな頼りになるぜ。ユールだけが足手まといかな?」
「なんやと? ワイだって戦えるわい!」
 モーロアは二人が組みかかろうとしているのを止めた。こんな所で無駄に体力を消耗して欲しくない。二人はすぐに手を引っ込めた。
「それで、これからどうするんや?」
「うむ。あのダグルとデウダの二人の村にやっかいになってからは、すぐに出発しようと思うんじゃ。ここにもブラドの追手は来るかもしれんからのう。ダグル達にまで迷惑はかけられん」
 リークは何かを感じとったかのようにいつになく真剣な眼差しでモーロアの話を聞いていた。モーロアはすぐにその様子に気付いた。
「どうしたんじゃ? 何かあるのか?」
「いや、多分なんでもない。ただ何かこの砂漠には罠があるような気がするんだ。盗賊の勘ってやつだが、今までも俺の勘は外れたことがないんだ。こんな砂漠に罠なんてあるわけないのにな。……俺も神経質になりすぎているかもしれないよ」
 三人は砂漠を見渡した。まだ辺りは真っ暗で、日がさすにはしばらくかかるだろう。地面の音にも注意をしていたが、サンドウォームは現れなかった。ただ、やむことのない砂漠の風の音だけがさらさらとモーロア達に降りかかっているだけだった。だがその広大な砂漠からは、サンドウォームやブラド監獄の追手だけではない、別の敵の気配が感じられるように三人は思った。この予感がただの予感で終わればいいのだが……。

 明るい太陽が地平線に顔をあらわすと、眠っていたトランス達はみな、目を覚ました。乾いた砂の風が肌を叩く。軽く食事をとると、気温が高くならないうちに出発することになり、それぞれは荷物をまとめ始めた。モーロアはもうある程度は体力も回復したようで、これからは自分で歩くといい、結局ラクダにはデウダとティークとミニングが乗ることになった。
 歩き始めてほんの少しの時間が過ぎただけで、キャンプをしていた場所は全く分からなくなっていた。ダグルとデウダはそれでもどちらへ向かっていけばいいのかが分かっているようだった。トランス達は二人に感心したが、それは当たり前のことだった。二人は砂漠の民なのだ。砂漠で迷うようなことは決してない。ビルは早くも体中に汗をかき、つらそうに息を切らしていた。そのうちにサボテンがぽつぽつと見え始めると、ダグルは足を止め、腰からナイフを取り出した。サボテンをいくつか見ると、その中の一つに目を付けナイフを刺した。すかさず水筒の口を開け、しみ出してくる水をうけた。
「水か! 助かった。喉がからからなんだよ」
 ビルがそう言って真っ先にダグルに飛びついたが、トランスはがっつくビルを押さえた。
「だめだビル。まずミニングが先だよ」
「すまないな……」
 ミニングは先にダグルから水を受け取った。コップ一口の水を飲むと、心なしか顔に生気が戻ったようだった。ビルはその姿を見ると、自分もナイフを取り出してサボテンに斬りかかっていった。
「待てビル! うかつにサボテンに手を出すな!」
 ダグルはそういったが、もう間に合わなかった。ビルに斬りつけられたサボテンは怒り狂ってビルに襲いかかったのだ。
「オ前、許サン!」
 サボテンは砂から体を出すと、ビルに体当たりをした。ビルは何がなんだか分からないうちに直撃をくらい倒れた。体にはびっしりと針が突き刺さっている。
「? い、痛え!」
「このサボテンは何?」
 トランスはダグルに訪ねると、剣を構えながらダグルは答えた。
「こいつはサボテン人だよ。普段は温厚だが、怒らせると相手を殺すまで暴れ続ける危険な奴だ。このニール砂漠に広く生息している種族だ。俺達砂漠に住んでいる者は普通のサボテンとこのサボテン人の見分けがつくからこんなことにはならないんだが、やっちまったもんはしょうがない。幸い今はこいつらはそれほど多くはない、倒すしかないぜ」
「わ、悪いみんな」
 ビルはそういって謝ると、再び突進してくるサボテン人に剣を向けた。射程距離にはいると、ビルは剣を突きだした。サボテン人は飛び上がって攻撃をかわすと、頭上からビルに落下した。またもビルは攻撃をくらい、さらに多くの針を体にもらってしまった。
「く、そ。痺れる……」
 ビルは手から剣を落とすと、自分も砂の上に倒れた。そのうちに五人ほどのサボテン人も動き始め、ティークなどは驚いていた。アミュレスは小さく呪文を唱えると、サボテン人に魔法を放った。
「火炎放射!」
 一人のサボテン人は直撃をくらい、炎に包まれたが、横にいたもう一人のサボテン人は怒り、アミュレスに襲いかかった。横からすかさずユールが斬りつけ、サボテン人はまっぷたつに斬れた。しかしそれでもサボテン人は死んではおらず、しっかりと二人の足を掴んだ。麻痺針が二人の足に食い込むと、アミュレスとユールもビルのように倒れてしまった。
「サボテン人を倒すにはバラバラにするしかないんだ!」
 ダグルはそういって一人のサボテン人に狙いを付け、斬りかかっていった。トランスはビルに襲いかかるサボテン人を見ると、両手を向けた。衝撃波が放たれ、サボテン人の体に穴があいた。サボテン人はふらふらとビルに近づいたが、途中で砂の上に倒れた。まだ手足は動いている。
 ラクダに乗っているミニング、ティーク、デウダにもサボテン人は襲いかかっていったが、それらはデュラスとケルスミアによって返り討ちにされ、何とかサボテン人の攻撃をくい止めることが出来た。
 一段落着くと、薬草で傷を負った仲間の手当をした。ビルやアミュレス、ユールも何とか体から痺れがとれ、それぞれは安全なサボテンから水分も取ることが出来た。
「あんなサボテンがいるなんて……。俺は全然知らなかったよ」
「当然だろう。サボテン人は俺の知る限りこのニール砂漠にしかいないそうだからな」
 ビルの質問にダグルは答えた。モーロアやケルスミアも不思議な顔をしていた。
「確かにそうかもしれんのう。この儂でさえ、あのサボテン人という奴は初めて会ったんじゃからのう。この砂漠はいったいどうなっておるんじゃ?」
「私も驚いたわ。今までヴァンパイアを追い続けていくつかの砂漠にも足を踏み入れたことがあるけれど、あんなモンスターには会わなかったわ」
 ケルスミアの言葉にデウダは少し嫌な顔をして答えた。
「あれはモンスターじゃないわ。私達人間や、エルフ、ドワーフのような種族のうちの一つよ。彼らは普段は温厚で私達に襲いかかることはないんだから」
「……ほんとにすまない」
 ビルはみんなに謝った。ダグルはすぐにビルに言った。
「仕方がないさ。普通のサボテンとサボテン人との見分け方なんて、俺達砂漠の民にしか分からないんだからな」
 それから二人の砂漠の民はトランス達にサボテンの見分け方を教えてやった。しかしほとんどの者がそれを理解できなかった。理解できたのはモーロアとアミュレス、リーク、それにケルスミアくらいのものだった。ダグルの言うことではサボテンの肌を見るのだという。つやがなければ普通のサボテン、多少でもつやがあるものがサボテン人だと説明していた。その説明にビルやティークは眉をしかめるだけだった。
 そしてさらに砂漠の中、数時間歩くと、ようやく前方にうっすらと村のようなものが見えてきた。ダグルとデウダがあそこの村だと説明すると、トランス達は皆ほっと胸をなで下ろした。ようやく体を休めることが出来る。
「みんな、ただいま!」
「今、帰ったわよ」
 二人が声を出すと、村の入り口に一番近い家から、日焼けした茶色の肌の男が姿を現した。その男はダグルとデウダの後ろにいるトランス達を見て少し驚いていた。
「ダグルとデウダか。その者達は?」
「こいつらは砂漠の中で途方に暮れていたんだ。少しのあいだくらいこいつらを村においてやってもいいだろ?」
 男はダグルの顔を見て答えた。
「それは長老様がお決めになることだ。念のため、兵士をその者達につけて長老様に会いに行こう」
 ダグルは仕方なく頷くと、その場にトランス達を待たせた。
「みんな、悪いがもう少し我慢してくれよ。最近悪い奴らがよくここに顔を現すもんだから、みんな訪問者に対して神経質になっているのさ」
「私達はそれでもかまわないわ」
 ケルスミアはそういい、一行はその場に体を休めて、兵士が来るのを待った。五分ほどで十人程度の槍を持った兵士が現れ、トランス達は長老の元へと案内された。村の中でもそれほど大きくはない家の中に長老はいた。その長老は白髪で背中が曲がり、顔中にしわが刻み込まれている。目の前には小さな壺をおいていて、その中からは煙のようなものがふわふわと浮き出てきていた。それほど大きくはない家なので、はじめはトランスとモーロア、アミュレスが兵士にそれぞれ背中に槍を突きつけられて中に入った。
「ようこそここ、ダシールの村へ。儂がこのダシールの村の長老のディジウィスじゃ」
「長老殿、ありがとうございます。この村の若者の二人に助けてもらい、儂達は何とか命を取り留めることが出来ました。しかし迷惑をかけるつもりはございません。一晩でも体を休ませてもらったら、すぐにでも出発するつもりです」
「お主達がそういうのならそれでもいいじゃろう。じゃがこれからの道中、何があるかわからん。ひとつ、儂が占ってやろう」
 長老ディジウィスは、まずアミュレスの顔を見た。それから何かぶつぶつと言葉を呟くと、目の前の壺に両手をかざした。そのしわだらけの手に壺からの煙がまるでしみこむように吹き出てきた。しばらくそうしていると、長老はぶつぶつとするのをやめ、アミュレスに向き直った。
「お主、何か使命を背負っているな? じゃが一人で無理をしないことじゃ。一人でいると、自分の身を滅ぼしかねん。そう見えるのじゃ」
 モーロアはその言葉を聞くと、アミュレスに言った。
「それは大丈夫じゃろう。アミュレス、お主にはこんなに仲間がいるんじゃからな」
「次はお前を見てやろう」
 長老は今度はモーロアの占いを始めた。アミュレスの時よりは時間はそれほどかからなかった。長老は話し出した。
「お主はずいぶん前から危険な旅をしてきたようじゃのう。じゃがこれからは過去の栄光に身を溺れさせずに行動することじゃ。でないとお主の命、危険かもしれん……」
「……そうか、気をつけるわい」
 モーロアはあっさりとそういった。トランスの目にはモーロアはまるで動揺していないように見えた。おそらくブラド監獄に来る前はよほど命の危険を侵すような冒険をしていたのだろう。少しのことでは動じない強い意志を持っているのだ。長老は最後にトランスの顔を見た。そしてアミュレスとモーロアの二人と同じように占いを始めた。
「最後はお主か……。こ、これは」
「? どうかしたんですか?」
 トランスは急に顔色が変わった長老を見ると少し恐怖を感じた。長老には何が見えているんだ?
「お主は、呪われておる。その体に悪魔がいるんじゃ。その悪魔はお主のまわりのもの全てを不幸にする。……悪いがお主はすぐにこの村から出てもらおう。そうしなければこの村が滅んでしまう……」
「何があったんだ? トランスが何で……」
 アミュレスが言うのも途中で、二人の槍を持った兵士はトランスを立ち上がらせると、家の外へつきだした。表で待っていたビル達は押されていくトランスを見ると驚いていたが、トランスに近づこうとすると兵士に槍を突きつけられるのでどうしようもなかった。ビルはそれでも遠ざかっていくトランスに叫んでいた。
「トランス! 何があったんだ?」
「……僕は大丈夫。ビル、君はみんなと一緒にいるんだ」
 アミュレスとモーロアはトランスを追いかけようとしたが槍を持つ兵士に行く手を阻まれ、どうすることもできなかった。それからはビル達残りの者も、長老に一人ずつ占ってもらうことになった。
 村に歓迎されなかったのはトランスだけだった。

 その晩、ビル達はダグルの案内で集会場のような建物に案内された。しばらくすると、先ほどの兵士達が食事と毛布などの寝具を持ってきた。一通りの物を運び終わると兵士の一人が話し出した。
「それではこんな所だがくつろいで下さい。みなさんには悪いが、この建物は私達が見張っていることになった。変な気を起こさぬように」
 ティークなどはすぐに食事を食べ始めたが、ビルはすかさず兵士に近づくと、先ほどのことを訪ねた。
「おい、トランスはどうなったんだ? さっきから全然ここに戻ってこないじゃないか!」
「そうだ。あれから何故トランスだけ私達と離されることになったんだ? 説明してくれないか?」
 リスタも加わると、兵士は仕方がないように話し出した。
「長老様の占いは絶対だ。外れたことがない。あの少年はこの村にとって厄介ごとを持ち込む存在でしかないのだ」
「そんなことで納得できるか! 俺はトランスを連れ戻しに行くぜ」
「悪いがそれはだめだ。村の治安を守るため、君達は一晩ここにいなくてはならないのだ。あきらめてくれ」
 槍を持つ兵士に睨まれると、ビルやリスタは引き下がるしかなかった。そしてそれぞれは食事をとった。確かにおいしい食事を村からごちそうになったのだが、皆、顔色は暗かった。仲間が一人いないのだから。
「今頃トランスはどうしてるだかなあ」
「大丈夫だよラルファ。一晩たてばすぐに会えるんだ。それにチュー兵衛もついているんだから。私の食事からトランスの分を残しておくよ」
「オラもそうするだ」
 アミュレスやモーロアにトランスのことは心配しなくていいと言われると、ビル達は少し安心し、先ほどの長老の占いについて話し出す余裕も出てきた。
「私は近いうちにヴァンパイアを倒せるって言われたわ。だけど私だけの力じゃなくて、協力して戦う仲間の姿も見えたって」
「ほう、俺は昔の仲間に会えると言われたぜ……。仲間の半分は殺され、残りは消息不明だってのにな。誰に会うっていうんだ?」
 ビルはそんな仲間達を見ると安心して、そっとアミュレスの元へ近づき、そしてトランスのことを訪ねた。
「アミュレス。あんたははじめにトランスとモーロアと一緒に長老に占ってもらったんだろ? トランスはいったいどうしたんだ?」
 アミュレスは外で見張っている兵士達に気づかれないようなぼそっとした声でビルに答えた。
「あの長老はトランスの体に悪魔がいると言うんだ。この村に不幸をもたらす者はおいてはおけないと言って、トランスだけを追い出したんだ」
「なんだよそれは? トランスは何も悪いことはしてないじゃねえか!」
「仕方がないんじゃビル。この村に迷惑はかけられん。明日になったらすぐにここを出てトランスと一緒に再び南へ行こう。ゆっくりしていてはまたブラド監獄の者に会うかもしれんからのう」
 アミュレスとモーロアに言われると、ビルは仕方なく納得したような顔を見せた。アミュレスはその顔を見ると、安心させるように言った。
「実はな、チュー兵衛に伝言役を頼んでおいたんだ。そのうちにトランスからの連絡をチュー兵衛が持ってきてくれるだろう」
「何だ、そんなことをしていたのか! それなら安心だな」
 ビルは少し気がゆるむと、毛布の上に大の字になって眠るふりをした。アミュレス達はそういっているが、ビルの胸には不安が募ってくるばかりだった。あの頼もしくなったトランスのことだ。よほどの悪いことがない限り、一晩くらいではその身の心配をすることもないだろう。――だがこの高まっていく黒い不安はいったい何なんだ?



 まだ正午を一時間程度越えたばかりという頃、トランスは砂漠の真ん中に立っていた。ダシール村の兵士も立ち去り、砂の風が吹く中にトランスは取り残されていた。懐からひょっこりと顔を出したチュー兵衛は、頭上のトランスの顔を見上げた。
〔散々な目にあったなトランス。せっかくごちそうが食えると思ったのにな〕
〔うん……。よく分からないけど、占い師の長老様が言うんだ。きっと僕には本当に何かが憑いているのかもしれない。もしかしたら今までの友達や仲間もそのせいで……〕
 トランスは長老の言葉にかつての仲間のランスやクライム、ザロック達を思い出すと、気持ちが沈んでいった。僕のせいでみんなが倒れていったのだろうか……。チュー兵衛は懐から飛び出すと、気持ちが沈んでいるトランスを励ました。
〔おいおいトランス、そんなわけないって。何でお前のせいにならなきゃいけねえんだ? 悪いのはブラド監獄の連中さ〕
 トランスは力無く頷いたが、あまり納得はしていなかった。ブラド監獄の者に追われているときから考えていたことだ。自分は単なる脱獄者として追われているだけではない。監獄の者達が必死になるほどの何かを自分は持っている、あるいは知っているのかもしれない。「トランス達」と言う、追っ手の言葉を思い出していた。
 そのときにトランスとチュー兵衛は同時に気づいた。何かに周りを囲まれている。トランスはチュー兵衛を懐に入れると、周りに注意を払った。サンドウォームでもサボテン人でもない。足元から何かが飛びかかってきた。とっさに身をかわしたトランスは相手の正体が分かった。
「サソリだ! それもかなりでかい!」
 その体長五十センチほどのサソリは二、三十匹はいた。綺麗な円を描くようにトランスとチュー兵衛を取り囲んでいる。よく見るとそのさらに外側には一回り大きなサソリまでが並んでいた。それらはまるで指導者がいるかのようにじっと飛びかかる機会をうかがっているようにも見えた。
〔こいつら何者だ?〕
 チュー兵衛が言い終わらないうちにサソリは襲いかかってきた。トランスは剣を振り回すとサソリを追い払おうとした。しかしその程度ではサソリは攻撃を止めなかった。一匹のサソリがトランスの足をめがけて尻尾を突きだした。とっさに飛び上がると、そのサソリに向かって剣を突き刺す。緑色の体液を流し、サソリはぴくぴくと痙攣している。
〔今度は後ろだ!〕
 チュー兵衛の声に振り返ると、今度は五匹ほどが同時に襲いかかってくるところだった。片手を向けると衝撃波を放ち、サソリ達を粉砕した。そのような状態が続いたが、サソリ達は倒しても倒してもその数が減る気配はなかった。まるである指導者がそこにいて、編隊を組ませて戦わせているようだった。トランスは超能力を使い続けているうちに疲れが見えてきた。焦りのため、額に汗が浮かびだす。
〔そのまま攻撃を続けろ、兵士達よ〕
 不意にトランスの頭にそのような声が聞こえてきた。はっとしてサソリ達の後ろを見ると、三メートルはあろうかという巨大なサソリがこちらを睨んでいる。どうやらそのサソリが話したように見えた。
〔おまえか? 何で僕を殺そうとするんだ?〕
 サソリの攻撃がいったん中断すると、その大きなサソリはトランスを睨み付けるように正面を向いた。
〔ほう? 儂の言葉が分かるのか? 人間にしては珍しい。人間どもは勝手に自分達用の言葉をつくり、すっかり〈動物語〉を使えないと思っていたが〕
〔ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ! お前らの目的はなんだ?〕
 チュー兵衛はトランスの懐から顔を出すと怒鳴った。巨大なサソリはまるで笑っているかのように体を震わせてチュー兵衛を見た。
〔これはこれは。小さなネズミ君もいたのか。ますます怪しい。儂らはあるお方に言われて、この砂漠の平和を乱す侵入者を消しにきたのだ。お前達のような見知らぬ侵入者は何をするかわからん。砂漠の平和が乱されないうちに排除せよと言われておるんだ〕
 トランスはその言葉を聞いてブラド監獄のことを思い出していた。もしかしてギルディはここにいることを知っているのか? しかし相手はそのことを言う様子はなかった。
〔……そいつはもしかしてギルディって奴のことなのか?〕
 トランスは相手が答えるのに期待して叫んでいた。サソリはその言葉にすぐに応えた。
〔ギルディ? 知らんな、そんな奴の名は。お前を殺せと命じたのはマザーサンドウォーム様だ〕
 マザーサンドウォーム……。トランスはダグルの言葉を思い出していた。三十メートル以上とも四十メートル以上とも言われている、巨大なサンドウォーム。そのマザーサンドウォームが僕達を殺そうとしている? トランスはダシールの村の長老が言った言葉を少し理解出来たような気がした。よそ者が来たことによってこの砂漠は怒っているのか? ならばすぐにここを立ち去ればマザーサンドウォームは怒りを静めるのだろうか?
〔さあ、おとなしく殺されるがいい。その後にあの村も滅ぼしてやる〕
〔? どういうことだ? 僕達を殺そうとしているんじゃないのか? あの村は関係ないよ〕
 サソリはその言葉に再び体を震わせた。他の部下と思えるサソリ達も体を震わせている。
〔マザーサンドウォーム様が言われたのだ。この機会に砂漠にいる人間どもを皆殺しにするとな。たまにあの村の近くを通るだけで我々は悪い魔物と見なされ、今までにいくつの命が人間によって殺されていったことか。これは我々の復讐でもあるのだ! 通りすがりのお前の言葉など眼中にもないわ!〕
 そのサソリの一段と高い叫び声のようなもので、周りを囲んでいたサソリは一斉にトランスに飛びかかってきた。そのサソリの円はかなり大きく、空間移動でも円の外に行けるかはわからなかったし、それだけの力ももう残ってはいなかった。
〔ごめんチュー兵衛。君だけでもビル達にこのことを伝えてきて!〕
〔どういうことだ? トランス?〕
 トランスはチュー兵衛を手で掴むと、ダシールの村の方角に向かって思い切り投げた。チュー兵衛はサソリ達の遙か上空を大きな放物線を描いて投げ出されていった。何とかうまく地面に着地すると、無事にサソリ達の包囲網から脱出することが出来たようだった。
〔トランスー!〕
 チュー兵衛の叫び声は砂漠の風にかき消されていた。数匹のサソリがチュー兵衛に気づくと、こちらを振り向き襲いかかってきた。チュー兵衛はしばらくの沈黙の後、ダシールの村に向かって走り出した。必ずアミュレス達をつれてトランスを救い出しに行くと誓って。

 トランスはチュー兵衛を脱出させた後は死を予感しながらも最後の抵抗を試みようとしていた。剣を握りしめ、サソリに向かって振り回すと同時にそれに衝撃波ものせた。その衝撃波を喰らうと、正面にいた十匹ほどのサソリは体を切断されて地面に落ちた。しかしその抵抗も二度、三度と続けていくうちに威力が弱くなっていった。しかしそれでもサソリ達の数はいっこうに減ることはなかったし、相手は恐怖も感じないようだった。
「サンドゲイザー!」
 そのときにどこかで聞いたような声を聴くと、サソリ達の足下の砂が爆発したように高く巻き上がった。サソリ達は宙に巻き上げられ、砂煙とともにぼろぼろと地面に落ちてきた。トランスはそれを見る間もなく、砂に足を取られるように砂の中へと飲み込まれていった。ここにはアリ地獄があったのか。どっちにしても自分は死んでしまうのか。しかし意識は失わずに、右手に刺すような痛みを感じた。その痛みはどんどんと大きくなっていった。まるで何かが右手にかみついて引っ張っているような。トランスは砂の中、目を開けることも声を出すこともできなかったが、意識を失うこともなかった。ここまで苦しむのならいっそ気を失ってしまいたい……。そんなトランスの願いは叶うことがなかった。
 まぶたの上からの太陽の光もなくなり、どれくらいの時間がたったのだろうか。トランスは体中が痛むが、体を動かせるようになっていた。体中の砂を払うとゆっくりと目を開けた。相変わらす何も見えない。しかし何かが近くにいる。いくつかの気配を感じることが出来た。どうもサンドウォームやサソリ達ではないらしい。トランスはじっと身を縮めていた。
「危ナイ所ダッタ。モウ少シデ、君ハサソリ達ニ殺サレテイル所ダッタヨ」
「誰だ?」
 トランスは声のするほうを目を凝らしてみようとした。しかし何も見えはしなかった。するとあちこちから返事が返ってきた。
「我々ハサボテン人ダ」
「我々トアノサソリ達、ソレニサンドウォーム達ハ敵同士ダ」
「人間達ハ、我々ニトッテ敵デハナイ」
「助けてくれたんですか? ……この僕を?」
「君ハ悪イ者デハナイ。我々ハソウ判断シタ」
「ありがとう。……でもこの前はあなた達の仲間と闘い、殺してしまった」
 トランスはどちらに向いていいのかわからなかったが、頭を下げて謝った。するとまわりがかさかさと音を出し始めた。どうやらサボテン人は笑っているようだった。
「アノコトハ構ワナイヨ」
「我々サボテン人ノナカニモ、アクノココロヲモッタモノモイル。ソノヨウナココロヲモツト、コノトゲニドクヲモツヨウニナルノダ。ソンナモノ達ハ我々カラハナレ、チジョウニデルトサツリクヲハジメルヨウニナル」
「アリガトウ、人間ヨ。我々ハ、仲間ヲコロスノガデキナイノダ。タトエソレガアクノココロニソマッタモノデモナ」
「疲レテイルダロウ。シバラク休ンデ行ッテクレ」
 トランスはサボテン人の言葉に甘えることにした。確かに今の状態ではふらふらで何もする気が起きない。トランスはふとビルやチュー兵衛のことを思い出した。
「すみませんが、ダシールの村は無事でしょうか? 僕の友達もいるんです」
「大丈夫ダ。奴ラモスグニ、動コウトハシナイダロウ。マザーサンドウォームハ、頭ノイイ奴ダ。戦イヲ始メルニシテモ、被害ヲ最小限ニ抑エヨウトスルダロウ。君ノ仲間達ガイナクナッテカラ、村ヲ総攻撃スルツモリダ」
「サッキノアノサソリノ言葉ハ、君ニ対スル脅シダヨ。ソレダケノ力ガアルトイウコトヲ、見セツケヨウトシタンダ」
「そうですか……」
 トランスはいつの間にか気を失っていた。サボテン人に安心するとその場で眠っていたのだ。再び周りからかさかさというサボテン人の笑い声が響いた。……この少年達が砂漠に来たことによって、永年のサンドウォーム達との闘いに決着がつけられそうだ。
 そしてその日の深夜、沈黙は破られた。マザーサンドウォーム率いる魔物の軍勢がダシールの村を襲ったのだ。

 時は数時間戻り、チュー兵衛がダシールの村にたどり着いた頃。見張りの衛兵の横をすり抜け村にはいると、鼻をひくひくさせてアミュレス達の場所を探した。砂漠の乾燥した空気にわずかに残る臭いを便りに、ある一軒の建物に着いたチュー兵衛は、壁の隙間から中へ入り込んだ。大きな毛布に頭をぶつけると、チュー兵衛は頭上を見上げた。そこには毛布にくるまったケルスミアが小さな寝息を立てて眠っているところだった。ケルスミアは何かが体にぶつかったのに気づくと、寝返りをしてそちらを向いた。チュー兵衛と目が合う。
「きゃあ! ……あれっ、もしかしてチュー兵衛?」
 チュー兵衛は頷くと、すぐにケルスミアを飛び越えてアミュレスを探した。ケルスミアとは話が出来ないので時間をかけても仕方がない。
〔アミュレス! ……そこか。大変だ、トランスが!〕
〔チュー兵衛。落ち着け、何があったんだ?〕
 アミュレスはチュー兵衛を落ち着かせた。そのうちにビルやモーロアもアミュレスの元に来ていた。皆、アミュレスの言葉を待っている。
〔……俺とトランスはあれからサソリの大群に襲われたんだ。奴らはマザーサンドウォームの命令でこの村も襲うと言っていた。トランスはそれを知らせるために俺だけを逃がしてくれたんだ。早く行かないとトランスがサソリ達に……〕
 アミュレスはすぐにモーロア達にそのことを話した。ビルはすぐにでも出ていこうとしたが、案の定見張りのものに行く手を阻まれた。
「何故だよ! 俺の言っていることは嘘じゃないんだぜ? この村もサンドウォームに襲われるかもしれないんだ! それを知らせてくれた仲間を見殺しにしろっていうのか?」
「なんと言おうと朝まではここから出すことはできん。長老様からの命令だ。おとなしく朝まで休んでいろ。ネズミが伝えに来たなどと言うことも信用できん」
「今まで何十年とそんなことはなかったんだ。突然サンドウォーム達が襲ってくる可能性など無きに等しいな」
「こ、こいつら!」
 ビルは見張り兵に飛びかかろうとしたが、ユールとリークに押さえつけられた。見張り兵はビルに向かって武器を構えている。
「相変わらず、気が短いやっちゃな」
「ここは焦らないでみんなで方法を考えるんだ。分かるだろ、ビル?」
 アミュレスはビルが戻ってくると、みんなに言った。
「見張りの目は厳しい。正面から行くのは無理だろう。トランスを助けに行くのは二、三人でだ。私の魔法で密かに出よう。残る者はうまくごまかしてくれよ」
「もちろん俺はいくぜ」
 ビルはそう言ったが、アミュレスは首を縦には振らなかった。
「……ビル、お前はここに残ってもらう。あれだけ騒いでいた奴が急に静かになるときっと怪しむだろう。しばらくここで演技をしていてくれ」
 ビルは何かを言おうとしたが、リークに押さえられた。
「今回はアミュレスの言葉の言うとおりにしてくれ。……俺がアミュレスと一緒に行って来るよ。それとも俺達仲間を信用できないのか?」
「大丈夫や。今までの旅でワイらのことも少しは分かってきてるんやろ? ワイも一緒に行くわ。ビル、あんさんはここに残って、もしもの時にこの村を守るんや。チュー兵衛の話だと、サンドウォーム達が来るんやろ?」
 ビルは三人の言葉に渋々頷いた。
「分かったよ。絶対にトランスを助け出してくれよな!」
 アミュレスはビルが納得するのを見ると、自分達の周辺に暗闇を作る魔法を唱えた。元々、夜も時間が過ぎ大分暗かったのだが、この魔法でさらに視界が悪くなり、見張り兵にはとても見えそうになかった。リークは見張り兵に気づかれないのに安心して壁を人一人分だけ外した。三人はすぐに小屋から抜け出していった。チュー兵衛もすぐに走り出すとアミュレス達の後へ続いた。一度ビルの方を振り返るとチュー、と一泣きし、駆け出していった。ビルにはその鳴き声が「トランスは大丈夫だ。きっと助かるさ」と言っているように思えた。俺もチュー兵衛の言葉が分かったらなあ。ビルはその壁を元に戻すと、毛布の上にごろんと横になった。あいつらならば心配はいらないと思うが、ここへ来たときのチュー兵衛の言葉はずいぶんと不安にさせてくれる。……無事でいてくれよ、トランス。ビルはひたすらそう願っていた。

 数十分後、アミュレス達はチュー兵衛の案内でトランスの襲われた場所まで来ていた。そこにはいくつかのサソリの死骸と鼻をつんざくような異臭だけが残っていた。
〔確かにここなのか?〕
〔ああ。間違いねえ。奴らと闘ったときの臭いがまだ残っているからな。しかしトランスは……〕
 三人と一匹は手分けして辺りをくまなく探したが、トランス本人はおろか、持ち物一つさえ見つけることはできなかった。それぞれの心に不安が募っていく。頼みの綱のチュー兵衛の嗅覚、アミュレスの魔法もここでは役には立たなかった。
「ちくしょう、もう手遅れだったんか? こないな所で死ぬ奴やないやろ? トランス……」
 みんなが首をがっくりとおろしたときに、一人観察を続ける者がいた。リークは砂を注意深く観察していた。ここでサソリと争ったにしては砂の地面の形がおかしい。何か地面から吹き出したようなかすかな跡が残っている……。そしてこの渦の様な跡……。リークはつぶやいていた。
「……この跡は、アリ地獄かもしれねえ。随分と大きな渦だが。……こいつにみんなやられちまったのか? サソリも、トランスも」
 アミュレスはリークの言葉を聞くと、その渦の跡を見た。しんと静まり返っているが、その跡からは寒気がした。
「もしこの跡がアリ地獄の跡というのなら、私の魔法でそいつを呼び出して見ようか?」
 誰も反対の声を出さないのを見ると、アミュレスは風の魔法を地面に向かって放った。一陣の風が砂を吹き飛ばし、そこに大きな穴を開けていく。しばらくそれが続いたが、アミュレス達の前には期待するようなものは出てはこなかった。サソリの死骸、それにキラキラするものが風によって飛ばされていっただけだった。ユールは手を伸ばすとそのキラキラするものを手に取った。その時に手のひらに痛みが走った。
「……このキラキラ光るのはなんや? いてっ。……これは針やないか。サボテンの針か? 随分砂の奥に埋まってるもんなんやなあ」
 リークはその針を手に取った。まだサボテンからとれたばかりのようだ。風化している様子はない。ならば何故こんなに砂の奥に埋まっているんだ? サボテンの針は砂より上にしか生えていないのでは? アミュレスがあきらめて魔法を止めると、リークは砂の上に腹這いになり、耳を当てた。ごうごうという風の音、風によって砂が動く音がリークの耳に飛び込んできた。その中に確かに別の何かが動く音を聞き取ることができた。神経を集中し、その音の発生源をおよそつかむとアミュレスに頼んだ。
「アミュレス。もう少し西へ行ったところから地面の奥十メートルほどの所に何かがいる。アリ地獄か、それともサソリ達一味かもしれねえ。魔法をぶっ放してくれるか?」
「いいだろう。下がっていろ」
 アミュレスの言葉にリークとユールは後ろに待機した。アミュレスは両手を組むと目標に向かって魔法を放った。竜巻が起こり、砂を削るように大きな穴を開けていく。しばらくすると、サソリではなく針を持つ生物が姿を現した。サボテン人だ。その眼は怒りに満ちていて、真紅に染まっている。アミュレス達を見つけるとものすごい形相で突進をしてきた。ユールはすかさずアミュレスの前に立つと、剣を抜いた。射程距離に入ったところでロングソードを横になぎ払う。サボテン人は身軽に飛び上がると一撃目をかわした。頭上からの落下攻撃をかわすと、今度は真っ直ぐにロングソードを突きだした。サボテン人は身をねじってかわそうとしたが右腕を切断された。傷口から水がぽたぽたと流れている。そうしているうちにサボテン人は一人、二人と増え始めた。その数はおよそ十人ほどもいた。リークもショートソードを構えると相手の攻撃に備えた。アミュレスは次の呪文を放とうと詠唱を始めた。
 サボテン人の一人が三人に向かって嵐のように針を発射すると、サボテン人達は一斉に飛びかかってきた。アミュレス達は昼間あったサボテン人との闘いのように、この針によってからだが麻痺してしまうかと恐怖に駆られたが、体に刺さった針は痛みは感じても麻痺はしなかった。
「? 大丈夫だ。まだ動ける……」
 しかし針攻撃で、動きが止まったアミュレスはサボテン人の攻撃をよけきれなかった。リークはショートソードをサボテン人達に投げつけると、アミュレスを抱えて横に飛び退いた。ユールはそれを援護するようにロングソードで応戦した。そしてさらにサボテン人が攻撃をしようとしたとき、何者かの叫び声が乾いた空気に響いた。
「オマエ達、コウゲキハソコマデダ!」
 その言葉にサボテン人達は攻撃を止めると、アミュレス達を睨んでいた。
「シカシ、コイツラハ我々ト戦ッテイル。悪イ奴ラダ」
「ソウデハナイ。ヨク見テミロ。彼ラハアノトランスノ仲間ノヨウダ。トランスヲ探シニ来タノダロウ」
〔! トランスを知ってるのか? お前ら、トランスはどこにいるんだ?〕
 いても立ってもいられず、チュー兵衛は飛び出していた。アミュレス達が制止するのもかまわずにサボテン人達の中へ飛び込んでいった。サボテン人はチュー兵衛に襲いかかることはなかった。
〔君ガチュー兵衛カ? 慌テナクテイイ、トランスハ無事ダヨ。我々ガサソリ達カラ助ケテヤッタ。今ハ安全ナ所デ休ンデイル〕
 アミュレスはどうやらこのサボテン人は悪い者達ではないと知ると、警戒態勢を解いて話しかけた。
「もしその話が本当ならこんなに嬉しいことはない。トランスを返してくれないか?」
 しかしサボテン人はしばらく黙ったままだった。砂漠の風だけが音を作りだしている。
「マダ無理ダ。トランスニハ、我々ノ戦イニ協力シテクレルヨウニ頼ンデアル。ソレハ彼モ了解シテイル」
「なんの戦いなんや、サボテンはん? トランスはあんたらには関係なんてないやろ? 本当に無事かどうか見せて欲しいわい」
「無礼ナ口ノキキ方ヲスル奴ダ。オ前ハ本当ニアノトランスノ仲間ナノカ?」
「なんやて!」
 ユールはカッとなるとロングソードを握りしめて走り出した。二人が止めるまもなく、ユールは地面に吹き飛ばされた。まるで砂の中の何かが爆発したかのようだった。
「我々ハ砂漠ニ住ム一族ダ。砂ノ扱イハ得意デネ」
「……戦いとはなんのことだ? トランスがそれに協力すると言ったのか?」
 アミュレスはユールが無事なのを確かめると、サボテン人に問いかけた。すると襲いかかってきたサボテン人の後ろからさらにもう一人のサボテン人があらわれた。どうやらその人物が先ほどから話をしているようだった。
「我々ハ、永イ間サンドウォーム達ト戦ッテキテイル。奴ラハ我々サボテン人ダケデナク、アノ人間ガ住ム村ヲモ、襲ウツモリデイルノダ。我々ハ、アノヨウナサンドウォームノ行動ガ許セナイ。自分達ダケノ為ニ、周リヲ犠牲ニシヨウトシテイルカラダ。アノ村ノ人間達ハ皆優シイ。我々ハ自分達ヲ守ルタメ、人間達ヲ守ル為ニ、戦オウトシテイルノダ。……私ニ着イテ来タマエ、トランスニ会ワセヨウ」
 アミュレス達はその言葉を信じることにした。たとえそれが嘘だったとしても、トランスが生きているという可能性の方を信じたかったからだ。
 そのリーダーのサボテン人に近づくと、三人と一匹は体をがっちりと押さえられた。体に針が食い込み、かなりの痛みが走った。サボテン人達はしっかりと押さえたまま、砂の中へ潜りだした。それぞれは目と口を閉じてサボテン人の移動が終わるのを待った。

 しばらくして動きが止まると、そこは広い空洞のように感じた。光は全くとどかないが、空気がある。口と目を開けることができた。そしてそこで三人と一匹は体を休めているトランスを見つけることができた。すうすうと寝息を立てている。そこにはサボテン人には感じられない体温を持つ者がいた。
「トランス、無事だったか」
「全く心配したぜ」
「こんな所で眠れるなんてのんきなやっちゃなあ」
「……、今の声はサボテン人じゃない? ……ア、アミュレス達か! よくここまでこれたね」
〔生きてて良かったぜ。あのまま死んでるんじゃないかと思った時もあったんだぜ、トランス。お前は俺並にしぶといんだな〕
 リークは呆気に取られている。そしてそれぞれが体の無事を安心したときに、再びあのサボテン人があらわれた。
「ドウダネ? 確カニトランスダロウ」
「ああ、ありがとう。私達もできる限りあなた達に協力をしよう」
 アミュレスはどちらに向いて言ったらいいのか分からなかったが、そう言っていた。トランスはアミュレス達がいることに安心すると、外の様子が気になりはじめた。ここに連れてこられてからどれほどの時が過ぎているのか見当もつかなかったから。
「あの、サボテン人さん。今、外はどうなっているのかな? あのサソリ達はあれからどうなったの?」
「大丈夫ダロウ。マダ何モ起キテイナイハズダ。アノサソリの襲撃カラ、マダ半日ホドシカ経ッテイナイ。コノ我々ノ隠レ家ハ、相手ハ気付カレナイガ、我々モ相手ノ動キガ把握出来ナイ。仲間ガ地上デ見張リヲシテイルノデ、ソレデ相手ノ動キガ分カル」
 トランスは何となく納得できなかった。今言ったことだと、表からの連絡がなければ、現在の状況はつかめないのだ。ユールは少しいらいらしているような口調で訪ねた。
「なあ、サボテンはん。ワイら、地上に出してもらえんか? サンドウォーム達と戦うにしてもここにいておったら、すぐに動きがとれないで」
 この言葉にサボテン人はかさかさと音を立てていた。おそらく笑っているのだろう。トランスはそう思っていた。
「安心シタマエ。見張リガココニ来ルマデニハ、一分トカカラナイノダ。敵ガ来テイルノナラスグニ知ラセガクルハズダ。ナンダッタラ見張リノ様子ヲ見ニ行クカ?」
 サボテン人の自信のある発言にユールは少し頭に来ていた。トランスを助けてくれたのはありがたいが、これからの行動権を握られているようでなんだか虫が好かない。半ばやけくそにも聞き取れる大きな声でユールは返事をしていた。
「ああ。様子を見に行ってみたいわ、サボテンはん」
「……ソレトサボテンハントハ言ワナイデホシイ。私達ニモ名前ガアルノダ。私ノ名ハ、ツァイガー」
 ユールはサボテン人ツァイガーにしっかりと体を押さえつけられると、再び砂の海へ連れ込まれていた。トランス達はユールだけが連れて行かれたので少し不安だった。
「ユールの奴大丈夫か? なんだかあのサボテン人と相性が悪い気もするが」
「たぶん大丈夫だよ。ここの人達はいい人ばかりだから」
「トランス。ヤハリ君ヲ助ケテ正解ダッタヨウダ。……私ガアノ時サソリ達ヲ追イ払ッタ、アンゲルハーケンダ。仲間ノナカニハホッテオケ、ト言ウノモイタガ、私ハ助ケルコトニシタ」
「……あの技はあなたがやったんですか? 砂を巻き上げてサソリを吹き飛ばした……。どうもありがとう、アンゲルハーケンさん」
「マア、ユックリシテイテクレ。ソノウチイヤデモ、体ヲ動カサナケレバイケナクナルノダカラ」
 その言葉にトランス達は体を休めることにした。一分、三分、五分、そして十分。トランス達はユールが戻ってこないのに不安になっていた。様子を見に行くだけなら、すぐに戻ってくるのではないのか? そのうちに近くにいるサボテン人達もそわそわしているような気がしてきた。
「……確カニ少シ遅イカモシレン。アンゲルハーケン、スマンガオ前モ様子ヲ見ニ言ッテクレンカ?」
「ハイ、ナーデル様」
 サボテン人アンゲルハーケンがそう言っているのを聞くと、アミュレスは立ち上がった。
「アンゲルハーケン。私も一緒に連れていってくれないか? 大丈夫、約束は必ず守る。君達に協力をしたいんだ」
「……イイダロウ。トランスト……リークカ? 二人ハココニ残ッテイテクレ。モシ何カアッタラ我々ノリーダーノナーデル様ノ、指示ニ従ッテクレ」
 そう言うと二人はユールとツァイガーのように砂の中へ消えていった。
〔どうだトランス? 何か感じないか?〕
〔うーん。やっぱり嫌な予感がするよ〕
 チュー兵衛にトランスはそう答えた。リークも嫌な予感がしていた。大きなトラップにかかってしまう前のように不気味な静けさがする。
「トランス、すでに地上で何かが起きているぜ……」
 二人と一匹はみんなの無事を祈ることしかできなかった。早く無事で戻ってきてくれ。戦うのはみんながそろってからだ。しかしその願いは通じなかった。そのころ地上では……。


更新履歴

取得中です。

アクセス
統計  -
今日  -
昨日  -