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erabare_27

    

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   選ばれた者達

   No.27

   暴挙の町 3/3



 ひんやりとしたものが頬をなでる。夜の風が優しく体を包んでいる。次第にはっきりしてくる意識の中、ゼダンはゆっくりと目を開けた。
 公園には外灯が灯り、静かだった。芝生の上で眠っていたが、ゼダンは上着を羽織っていた。どうやら少女がかけてくれたようだ。少女はというと、すぐそばのベンチに座りうとうととしている。起き上がると、右手に痛みが走った。しかめ面をして右手を見てみると、少女がやってくれたのか、包帯が綺麗に巻かれていた。まだ痛むが、処置がよかったのだろう。ずきずきとした痛みはだいぶ引いていた。
「……あ、起きたんだね。気絶してからずっと心配だったよ」
「気絶じゃない。眠っただけだ」
 虚勢を張ったが、ゼダンは本当に疲れていた。食事と睡眠、それと治療をしなければならない。ゼダンがベンチに座ると、少女はコップに水を注いで手渡した。
「はい。喉、渇いてるでしょう」
「あ、ああ。ありが、とう」
 そういえば喉がからからになっていた。ゼダンは一気に水を流し込んだ。ひんやりとする感触が喉から胃に伝わる。
「ふーっ、生き返るよ」
「あの、ゼダン君、傷は大丈夫?」
 少女は心配そうに右手を見つめている。ゼダンは握ったり閉じたりを繰り返した。ずきずきとした痛みが走る。どうやら力はまだ使えなさそうだ。
「まだちょっと無理そうだな。力が使えない」

 しばらく時間がたつと、公園内にエンジン音が響きだした。どうやらバイクで園内を走っているらしい。
「迷惑な奴がいるもんだな」
「ゼダン君、何か近づいてくるみたい……」
 パーシアは不安そうに言った。ゼダンは立ち上がると、音のする方に注意を向けた。確かに近づいてくるようだ。そして嫌な予感は的中した。
「俺達から逃げられると思うなよ!」
 バイクの集団が目の前に現れていた。手には鉄パイプを持っている。咄嗟にゼダンはパーシアをかばった。鉄パイプが振り下ろされ、ゼダンの背中を殴りつける。速度を出しているバイクからの攻撃にものすごい衝撃を受け、ゼダンはよろけてしまう。すぐに第二撃が襲ってきた。左手を上げて顔を守る。鉄パイプが振り下ろされたが、それはゼダンには届かなかった。パーシアが身を挺して庇っていた。
「うっ……」
「おい、お前大丈夫か?」
 ゼダンはパーシアを支えようとしたが、自分も背中にダメージを受けていて、一歩歩いただけで倒れ込んでしまった。
「ハッハー! いいザマだな! 俺達を侮辱した罪は重いぜ!」
 バイクの男達はバイクから降りると、鉄パイプ、金属バットなどを使って散々に暴行を続けた。パーシアはゼダンに覆いかぶさるようにして庇っている。ゼダンは自分自身も力がなく、パーシアに抑えつけられているので何も出来なかった。
「ど、どけ……」
「……駄目だよ。ゼダン君死んじゃうよ」
 ゼダンの顔にパーシアの血飛沫がかかった。ゼダンは怪我と疲労のせいで再び意識を失ってしまう。パーシアはただひたすら暴行に耐えていた。しばらくして動かなくなった二人を見た男達は、あたりを散策した。二人が取り返していた荷物を探していた。しかし見つけることは出来なかった。ゼダンが意識を失って眠ってしまっていた間、パーシアが茂みに隠していたのだ。
「ち、どこにもねえぞ」
「もしかしたらもう他の奴らが持っていったのかも知れねえな。くたびれ損かよ」
 男達はぶつくさ言うと、パーシアに蹴りを入れてからバイクに乗り、その場を立ち去った。パーシアはふらふらの体でも何とか意識を失わずにすみ、体の下にいるゼダンを見つめた。ゼダンはパーシアが庇いきれなかった手足の部分に打撲を負い、意識も失ってはいたが、呼吸はしている。パーシアはというと、自分では立ち上がれないほどに傷ついていた。両手足は折れ、立ち上がれない。背骨もいくつか折れているようで呼吸も困難だった。しかしパーシアにとってはしばらくじっとしていれば治る傷である。そう、死ななければ、自己治癒能力で回復できるのだ。――暴挙の男達に荷物が見つからなくて良かった。そして命を救ってくれた少年が殺されなくて良かった。パーシアはほっとするとそのまま眠りについた。

 ――首筋がくすぐったい。手のひらもくすぐったい。パーシアはゆっくりと目を開けた。するとパーシアに驚いた野良猫は慌ててその場から走り去っていた。どうやら血のりの跡を見てそれを舐めていたようだ。かじられなくて良かったと、変に安心してパーシアは起き上がった。関節がまだ少しぎしぎしと文句をいったが、一眠りしたことで傷はほぼ完治していた。次に、まだ眠っているゼダンの頬に手を当てた。冷たく冷え切っていた。
「……ゼダン君!」
 パーシアは焦ってゼダンの体を揺すった。すると、もぞもぞとしながら不機嫌そうにゼダンは目を開けた。ゼダンは慌てて飛び上がったが、すぐによろよろとして芝生に尻餅をついていた。
「びっくりさせるな。なんだ、お前だったか」
「良かった……生きてたのね」
「何言ってるんだ? 当たり前だろ。普段は警戒して眠るんだが、今日は思ったより深く眠っていたみたいだな。びっくりさせられたよ」
 ゼダンは自分の体がぎくしゃくしているのを感じると、先ほどの暴行を思い出してパーシアを見つめた。
「それより、お前の方がひどい怪我だったろ? もう治ったのか?」
「うん、もう大丈夫。走ったり飛び跳ねたり出来るよ」
 パーシアは悲しそうな顔で答えた。ゼダンはほっとしてようやく立ち上がった。
「そいつは便利だな。俺もそんな力が欲しいよ」
「こんな力、あっても悲しいだけだよ。……あ、荷物はちゃんと隠してあるから大丈夫」
 始めの言葉は小さく、ゼダンの耳には届かなかった。パーシアの案内で、荷物の隠してある茂みに向かう。暗い茂みの中にゴミ袋が広げられている。それをとると、中に二つのカバンが隠されていた。パーシアはそれを肩にかけ、ゼダンは痛む体でそれを苦労して背負った。
「じゃあ、荷物も無事戻ったことだし、敵もまだいないし、ここでお別れだな。これからは気を付けていけよ」
 ゼダンは片手を挙げると、歩き出そうとした。しかしパーシアは返事をしなかった。ゼダンは別れの挨拶を期待していたが、背を向けると歩き出した。元々おとなしそうな奴だったし、仕方がないだろう。
「……待って!」
 ゼダンは立ち止まった。パーシアが横に並んでいた。思いつめたようにうつむいている。ゼダンはどうしていいか分からずにパーシアの横顔を見た。
「あの、ゼダン君、もう少し一緒にいてくれない?」
「何でだ?」
「……お腹空かない?」
 話しが切り替えられ、ゼダンはきょとんとした。それから自分の腹に手を当てる、確かに少し空腹感がある。
「そうだな。腹減った」
 ゼダンが返事をすると、パーシアの表情が明るくなった。
「私のカバンにお菓子があるから一緒に食べようよ」
 ゼダンはお菓子くらいでは腹は膨れないと思ったが、正直な所、歩くのもつらい状態で、食料店、飲食店に行くのもつらいと思っていた。食べ物にありつけるのなら少量でもいい。すぐに少女と別れることもないと思った。
「そうだな。じゃあ、頂くかな」
「うん。じゃあ、ゼダン君はそこのベンチで待ってて。私、水を汲んでくるから」
「ああ、気を付けろよ」
 ゼダンはベンチに座った。パーシアはカバンをベンチに置くと、水筒を持って水道までかけていった。
 その姿を見て、すっかり回復していると思うと、ゼダンは自分の右手を見つめた。五本の指を木の枝のように伸ばし、わさわさと動かす。痛みのせいであまりうまく動かせなかった。
「はい、お待たせ」
 パーシアは水で一杯になった水筒を持ってきた。ゼダンの横に座ると、カバンを開けて中から食べ物を取り出す。クッキーの缶、チョコレート、キャラメルがカバンの上に並べられる。ささやかな朝食会になった。
「本当にお菓子だらけだな。普通の食べ物はないのか?」
「うん。お菓子は長持ちするからカバンに入れておけるんだ。フランクフルトとかハンバーガーはすぐに食べないといけないから。ゼダン君はお菓子嫌いだった?」
「いや、俺も好きだけど」
 ゼダンはそういって自分のリュックからピーナッツ菓子の缶を取り出した。
「あ、これビリー・ビーのお菓子だね。私も大好きだよ。それにこのイラストも可愛い」
「確かにおいしいけど、可愛いか、これ? 不細工な豚の顔したハチっぽいけどな」
 缶にはアメリカンコミック調の濃ゆい顔のハチが、にやりと笑みをこぼしている。妙にフレンドリーな表情からは逆に悪意を感じられるほどだった。小さい子供が見たら泣き出すかもしれない。

 しばらく二人でお菓子を食べ続けると、少量でも二人は腹が満足していた。
「……ゼダン君、あの時何で私を助けてくれたの?」
 パーシアはポツリとつぶやいた。ゼダンはクッキーを口に入れると、ぼりぼりと噛み砕いて水で流し込んだ。
「あれはたまたまだよ。通りがかり、気にくわない奴がいたんで叩きのめしてやっただけだ。お前は何で俺に構うんだ? さっさとこの町から離れないとまた奴らが襲ってくるぜ」
「だって、嬉しかったから。久しぶりに私と話してくれる人に会えたんだもの」
 ゼダンはパーシアの様子を見て再び質問した。
「久しぶりに話したって、そんなことないだろ。その服、そのカバン、見てみるとお前が選んだものじゃなさそうだ。きっと両親に買ってもらったものだろ? お前には両親もいるはずだ。それに兄弟、姉妹や、ペットもいるかもしれない。俺からみたら随分裕福に見えるけどな」
「そんなことない。私、裕福でも幸せでもなかった。だから家を出てきたの……。ゼダン君、話を聞いてくれる?」
 パーシアは悲しそうな表情になると弱々しくゼダンに言った。ゼダンはパーシアのその表情を見ると断ることが出来なかった。
「まあ、俺も急ぎの旅じゃないし、聞いてやるよ」
「ありがとう。私ね、小さい頃、チャッキーっていうゴールデンレトリバーを飼っていたの。その子はとっても大きくて、その子のこととっても大好きで……」
 パーシアは幼い頃のチャッキーの話を語り出し、学校のこと、金魚のこと、両親のことを次々に話していった。ゼダンはその話に引き込まれるように一語一語聞き入っていた。
 ゼダンが想像していた暮らしと違い、パーシアの話してくれた暮らしはつらいものだった。時折、話を切り、ちゃんと聞いていてくれているか確認されると、ゼダンは相槌を打った。それを確認するとパーシアは再び話し始める。
 パーシアも自分の特殊能力ゆえか、誰とも素直に打ち解けることが出来ず、孤独だった。話の最後に出てきた、事故にあった少年とは少し話をしたらしいが、その少年とも別れることになってしまった。
「なるほどな。……さっきはあんなことを言ってすまなかった。お前のほうがよほど大変なのに幸せそうだなんて言っちまって」
「いいよ、別にもう気にしてないから。ねえ、今度はゼダン君のこと、話してくれる?」
「俺か? 俺は別に聞いて楽しいような内容の生き方はしてねえよ」
 とは言ったものの、パーシアは期待の目でこちらを見ている。同じ境遇の体質を持つもの同士、心を許していることにゼダンは気づいた。以前、ツェマッハやアルラといった者達に会った時は反発し、まともに話をしようとも思わなかったが、このパーシアという少女に対しては違った。
「じゃあ、簡単に話すよ。俺は数年前に家を飛び出して、それ以来、一人で暮らしているんだ。両親はもうどこに住んでいるのかも生きているのかも分からない……」
 ゼダンは家を飛び出した当時のこと、隠れ家のこと、普段の生活のことを淡々と語った。そしてツェマッハという人間とアルラという人間に会ってからのひと騒動も説明した。パーシアは真剣な面持ちで一言も聞き漏らさぬように聞き入っている。
 説明をしているうちに、ゼダンはツェマッハのあの態度を思い出していた。
 ――もし君がよければここにいてもかまわないんじゃよ。わしらはいつでも待っておる……。
「そうだ、この手があったか」
「ん、何、ゼダン君?」
 不思議そうな表情のパーシアに、ゼダンはある提案をした。
「今話したツェマッハっていうじいさん。きっといつまでも待っていてくれてると思うんだ。あそこなら俺やお前みたいな人間を必ず迎え入れてくれる。お前、そこに行ってみないか?」
「私が、そのツェマッハさんの所へ?」
 パーシアは両親の家に戻るつもりはないだろう。それに先ほどの話で、交通事故にあったのは何か裏で計画されているように感じられた。パーシア一人での旅は危険以外のなにものでもない。
 パーシアはその話を聞いて少し考えた後、ゆっくりと口にした。
「ゼダン君も一緒にいってくれるの?」
「俺か? 俺は、考えてないな。まだ一人旅を始めたばかりだし、もっと世の中を見てみたい。それに、俺みたいな集団に慣れない人間は、どうもツェマッハ達の善意の中に素直に入れないんだ」
 ゼダンはそういうと、地図を取り出して自分の住んでいた町を説明した。浮浪者の町と呼ばれていて、治安は決してよいとはいえないが、この暴挙の町よりはずっと過ごしやすい。それにツェマッハ達は何人もの集団で暮らしているので、食事、寝床、安全は保障されるだろう。
「ほら。俺は一日くらいでここまで歩いてこれたから、お前なら途中のガソリンスタンドで一泊させてもらえば二日でつけるだろう」
 ゼダンは説明したが、パーシアはその間ずっと浮かない顔だった。ゼダンは説明を途中で止めた。
「おい、どうしたんだ?」
「ゼダン君が説明してくれるのは嬉しいけど、ゼダン君は行かないんだよね……。私、ゼダン君と一緒がいい」
「おい、それは困る。これから先、まだ危険なことが起こらないとも限らない。今回は二人とも無事だったけど、何回も幸運が続くとは限らないんだ。ツェマッハ達の元にいれば安全なんだぞ?」
 ゼダンは困ってしまい、そう説明をしたが、パーシアは納得したようには見えなかった。
「ゼダン君の言うことは分かるけど、そのツェマッハさんのこと知らないし。私は今はゼダン君なら信じられるの」
 言い返そうとしたが、ゼダンはパーシアの気持ちもよく分かった。今まで散々相手にされず、裏切られてきた人生。ここでまた話で聞いただけの施設に行くというのに素直になれないのも仕方がない。しかしパーシアを連れていったんツェマッハ達の所に戻る気もなかった。そうしたら再び一人旅に出る意志が揺らいでしまうかもしれない。
「お前、いいのか? 俺と一緒にいてわざわざ危険な目にあうのと、ツェマッハ達を信じて幸せになるのとどっちを選ぶのか……」
「せめて、もう少しゼダン君と一緒にいたい……」
 ゼダンは観念した。仕方がない。パーシアの気持ちが変わるまでは一緒にいようと。
「分かったよ……。じゃあ、途中まで一緒に旅をするか」
 ゼダンの言葉にパーシアの表情がぱあっと明るくなった。
「うんっ!」
「けど、どうしても旅が続けられなかったり、危険な目にあうようなら、それでお別れだ。俺の知る限りで唯一の善人、ツェマッハを頼るといい。分かったか?」
「分かったよ。けど、私だってゼダン君を守れるんだからね。もう忘れちゃったの?」
「悪い。そうだったな。この前は本当に助かったよ」
 朝食後、話をしていて、気づくともう昼を回っていた。二人は、未練のないこの暴挙の町から新たな場所へと歩き出した。


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