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「楽斗 ――そして終わりなき斗いの歌」(2010/02/11 (木) 20:48:08) の最新版変更点
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*楽斗 ――そして終わりなき斗いの歌 ◆Vj6e1anjAc
短かった髪を伸ばしているのは、あるいは彼の影響なのかもしれない。
「っ」
ふわっと舞う風。
管理局官給品のコートの裾が翻る。
茶色い髪の襟足が、風に揺られてさらさらと踊った。
もうあと一週間もすれば、このトレンチコートも必要なくなるのだろう。
穏やかな初春の風につられるようにして、ふと立ち止まり空を仰ぐ。
雲もまばらな晴天だ。
暖かな日差しを遮るものも、澄み渡る青空を遮るものもない。
ずっと遠くを眺めていれば、どこまでも遠くまで届きそうで。
気付けば身体が地を離れて、どこまでも遠くまで吸い込まれていそうで。
「どうしたですか、はやてちゃん?」
隣を歩いていたユニゾンデバイスが、顔を見上げて問いかけてきた。
リインフォースⅡ――自分の補佐として、頑張ってついて来てくれるいい子だ。
今年でもう16になる。生まれたての二代目祝福の風も、今やすっかり一人前。
「ん……ああ、ちょっとな。昔のことを、思い出しとった」
家族の問いかけに、笑顔で応える。
あの日の空は今日とは違い、雲に塞がれた雪空だった。
灰色一色の雲のカーテンと、降りしきる純白の雪に閉ざされた世界。
日光は薄ぼんやりとしか届かない、薄い色素に支配された世界。
立ち上る緑の光の中で、涙ながらにすがりついた記憶。
とても悲しくて、それでも少し、暖かい思い出。
「もう6年になるんやな……」
伸ばした髪が風に揺れると、時折彼のことを思い出す。
かつての機動六課で出会った、自分よりも一回り歳上の男を。
クリスマスの日に出会い別れた、先代祝福の風の面影を持った、銀髪に黒コートを羽織った男を。
その上クリスマスすら待たずして、いずこかへと消え去ってしまった、あの無口で無愛想な男の姿を。
「……なぁリイン。いつになったら、セフィロスさんは帰って来るんやろな?」
「どうでしょうね……彼の世界は管理外世界のようですし、管理局のデータにも登録されていませんから……
正直、帰って来ることも、こっちから迎えに行くことも難しいです」
「そっか……」
理屈では言われるまでもなく理解している。
もとよりあの男は次元漂流者だ。
何が起こったのかも分からぬままに、どうやって流れ着いたかも知らぬままに、たまたまこの世界に飛ばされてきた流れ者だ。
故に彼はこの世界への道筋も知らないし、世界と世界を渡る術すらも知らない。
普通に考えるならば、下手をすれば二度と会えないかもしれないことも、理屈の上では承知している。
「ひょっとしてはやてちゃんは……セフィロスさんのこと、好きだったんですか?」
「ははっ……まさか」
確かに彼とはよく行動を共にしていたが、やはり他人にはそう見えてしまうのか。
かつての六課の仲間から、同じことを聞かれたことは何度かある。
そしてその度に返した答えを、この日も同じように返していた。
真実だ。
照れ隠しでも何でもなく、そうであると断言できる。
彼に抱いた感情は、確かに好意ではあるのだろうが、恋愛感情とは違うような気がする。
性別を超えた友情、というものだろうか。その言葉でも、何かが足りない。
「私とセフィロスさんとは、多分、そういうのとはちゃうと思うから」
きっとそれは、共感と呼ばれるものに近いのだろう。
互いに同じ孤独を味わい、寂しく生きてきた似た者同士、自然と通じ合っていたのだろう。
彼が自分のことを語る機会は少なかった。
恐らくはまだ、言えずに隠していたこともあるだろうとも思っている。
それでも、何となくは理解していた。
言葉にして語られるまでもなく、肌で感じ取っていた。
彼もまた、かつての自分自身と同じだったのだと。
誰も頼れず、誰とも関われず。
大切なものを失い続け、1人孤独の真ん中で、世界を俯瞰し続けていたのだと。
「……どっちにしても、私はずっと待っとるよ」
ふっ、と。
リインに向けていた視線を、再び彼方の空へと戻した。
彼の消えていった空へと。
その先のどこかにいるであろう、あの男の面影へと。
「セフィロスさんと、約束したからな」
俺には故郷がなかった。
最後の日に、彼が口にした言葉だ。
独りきりで生きてきた彼には、帰るべき故郷と呼べる場所がなかったのだそうだ。
どんなに気高い孤高の鷲も、永遠に休むことなく飛び続けることはできない。
時折見せるくたびれたような顔は、羽を休める巣を持たぬが故の顔だったのだろう。
だが、彼はこうも続けていた。
今はここが、俺の故郷だと。
愛すべき友の待つこの場所が、俺が帰りたいと思える場所だ、と。
そう告げて、初めて自分のことを名前で呼んで。
必ず帰ってくると約束して、彼は笑顔で旅立っていった。
あの瞬間のことを、自分はきっと忘れないだろう。
冷笑でも嘲笑でも苦笑でもない、初めて見せた心からの笑顔。
今でも軽く瞳を閉じれば、瞼の奥にまざまざと思い出せる。
遠い未来の果てまでも、今鮮やかに覚えているままに、連れて行きたいと思える尊いもの。
永遠などないこの世界で、それでも永遠であると信じられる、揺るぎない絆。
「せやから、あの人の帰る場所を守り続けることが、留守を任された私らの仕事や」
風が吹く。
頬を撫でる己の髪を、軽く左手で押さえる。
その手に感じる温もりを、確かに抱き締めるようにして。
彼は帰ってくると約束した。
プライドの高い彼のことだ。一度交わした約束を反故するのは、彼の自尊心が許さないだろう。
だから、たとえどんなに困難な道だとしても、彼はいつか必ず帰ってくる。
そしてその帰るべき場所を守るのが、彼に愛された自分達の仕事だ。
彼がまた、笑って帰ってこれるように。
当たり前のような言葉を、今度は名前を呼び合って交わせるように。
たとえ何年何十年であろうと、この命が続く限り。
「……さてと! それじゃ、今日もお仕事頑張ろか!」
八神はやて、25歳。
海上警備部捜査司令、LS級艦船ヴォルフラム艦長。
時空管理局局員、未だ現役継続中。
◆
遥か遠い、どこか。
今ではない、いつか。
幾千幾万繰り返される、終わることなき輪廻の世界。
どれほど続いているのかも分からない。
どれほど時が流れたのかも分からない。
善と悪。
光と闇。
秩序と混沌。
この閉じぬ二重螺旋に取り込まれる以前の記憶も、全て気の遠くなるほどの時の流れに消えてしまった。
何か大切な願いがあったような気がする。
どうしても成し遂げたい何かのために、ずっと歩き続けていた気がする。
今となってはそれすらも、思い出すことはかなわない。
否。
全てを忘れたわけではない。
幾つもの星座を巡っても、変わることなく覚えているもの。
どれほどの記憶をなくしたとしても、今もこの魂の奥底には、たった1つの思い出が残っている。
瞼の裏に浮かぶのは、1人の名も知らぬ少女の顔。
短い茶髪に髪飾りをつけた、自分より一回り歳下の女の、太陽のように眩しい笑顔だ。
その持ち主といかにして出会って、どのような言葉を交わして、どのような軌跡を辿ったたのかは、未だ思い出すことはできない。
それでもその穏やかな笑顔が、積み重ねた時間の尊さを物語っている。
胸を満たすこの体温が、築き上げた思い出の愛おしさを、何よりも雄弁に物語っている。
君を忘れない。
この先どれほどの時が流れようと、名も知らぬ君の笑顔だけは忘れない。
この終わりなき神々の戦いの連鎖も、この思い出を糧に戦うことができる。
世界中の何もかもが分からなくとも構わない。君という確かな思い出があるならば。
やがてこの果てしない宙が、いつか終わりを告げるとしても。
全てが秩序も混沌もない虚無の果てに、流され消えていったとしても。
この瞳に焼きついた、君のその笑顔だけは忘れはしない。
たとえ過ぎ去った思い出だとしても。
もう二度と、会えないとしても。
私は戦い続けよう。
いつか君と笑い合える日を、この胸に夢見続けながら。
「久しぶりだな――――――クラウド」
&color(red){【セフィロス@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使 ――――――DISSIDIA】}
&color(red){【残り人数:27人】}
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|~|八神はやて(StS)|Next:[[]]|
|~|ヴィータ|Next:[[13人の超新星(1)]]|
|~|金居|Next:[[13人の超新星(1)]]|
|~|アーカード|Next:[[13人の超新星(1)]]|
|~|&color(red){セフィロス}|&color(red){GAME OVER}|
|~|リニス|Next:[[13人の超新星(1)]]|
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*楽斗 ――そして終わりなき斗いの歌 ◆Vj6e1anjAc
短かった髪を伸ばしているのは、あるいは彼の影響なのかもしれない。
「っ」
ふわっと舞う風。
管理局官給品のコートの裾が翻る。
茶色い髪の襟足が、風に揺られてさらさらと踊った。
もうあと一週間もすれば、このトレンチコートも必要なくなるのだろう。
穏やかな初春の風につられるようにして、ふと立ち止まり空を仰ぐ。
雲もまばらな晴天だ。
暖かな日差しを遮るものも、澄み渡る青空を遮るものもない。
ずっと遠くを眺めていれば、どこまでも遠くまで届きそうで。
気付けば身体が地を離れて、どこまでも遠くまで吸い込まれていそうで。
「どうしたですか、はやてちゃん?」
隣を歩いていたユニゾンデバイスが、顔を見上げて問いかけてきた。
リインフォースⅡ――自分の補佐として、頑張ってついて来てくれるいい子だ。
今年でもう16になる。生まれたての二代目祝福の風も、今やすっかり一人前。
「ん……ああ、ちょっとな。昔のことを、思い出しとった」
家族の問いかけに、笑顔で応える。
あの日の空は今日とは違い、雲に塞がれた雪空だった。
灰色一色の雲のカーテンと、降りしきる純白の雪に閉ざされた世界。
日光は薄ぼんやりとしか届かない、薄い色素に支配された世界。
立ち上る緑の光の中で、涙ながらにすがりついた記憶。
とても悲しくて、それでも少し、暖かい思い出。
「もう6年になるんやな……」
伸ばした髪が風に揺れると、時折彼のことを思い出す。
かつての機動六課で出会った、自分よりも一回り歳上の男を。
クリスマスの日に出会い別れた、先代祝福の風の面影を持った、銀髪に黒コートを羽織った男を。
その上クリスマスすら待たずして、いずこかへと消え去ってしまった、あの無口で無愛想な男の姿を。
「……なぁリイン。いつになったら、セフィロスさんは帰って来るんやろな?」
「どうでしょうね……彼の世界は管理外世界のようですし、管理局のデータにも登録されていませんから……
正直、帰って来ることも、こっちから迎えに行くことも難しいです」
「そっか……」
理屈では言われるまでもなく理解している。
もとよりあの男は次元漂流者だ。
何が起こったのかも分からぬままに、どうやって流れ着いたかも知らぬままに、たまたまこの世界に飛ばされてきた流れ者だ。
故に彼はこの世界への道筋も知らないし、世界と世界を渡る術すらも知らない。
普通に考えるならば、下手をすれば二度と会えないかもしれないことも、理屈の上では承知している。
「ひょっとしてはやてちゃんは……セフィロスさんのこと、好きだったんですか?」
「ははっ……まさか」
確かに彼とはよく行動を共にしていたが、やはり他人にはそう見えてしまうのか。
かつての六課の仲間から、同じことを聞かれたことは何度かある。
そしてその度に返した答えを、この日も同じように返していた。
真実だ。
照れ隠しでも何でもなく、そうであると断言できる。
彼に抱いた感情は、確かに好意ではあるのだろうが、恋愛感情とは違うような気がする。
性別を超えた友情、というものだろうか。その言葉でも、何かが足りない。
「私とセフィロスさんとは、多分、そういうのとはちゃうと思うから」
きっとそれは、共感と呼ばれるものに近いのだろう。
互いに同じ孤独を味わい、寂しく生きてきた似た者同士、自然と通じ合っていたのだろう。
彼が自分のことを語る機会は少なかった。
恐らくはまだ、言えずに隠していたこともあるだろうとも思っている。
それでも、何となくは理解していた。
言葉にして語られるまでもなく、肌で感じ取っていた。
彼もまた、かつての自分自身と同じだったのだと。
誰も頼れず、誰とも関われず。
大切なものを失い続け、1人孤独の真ん中で、世界を俯瞰し続けていたのだと。
「……どっちにしても、私はずっと待っとるよ」
ふっ、と。
リインに向けていた視線を、再び彼方の空へと戻した。
彼の消えていった空へと。
その先のどこかにいるであろう、あの男の面影へと。
「セフィロスさんと、約束したからな」
俺には故郷がなかった。
最後の日に、彼が口にした言葉だ。
独りきりで生きてきた彼には、帰るべき故郷と呼べる場所がなかったのだそうだ。
どんなに気高い孤高の鷲も、永遠に休むことなく飛び続けることはできない。
時折見せるくたびれたような顔は、羽を休める巣を持たぬが故の顔だったのだろう。
だが、彼はこうも続けていた。
今はここが、俺の故郷だと。
愛すべき友の待つこの場所が、俺が帰りたいと思える場所だ、と。
そう告げて、初めて自分のことを名前で呼んで。
必ず帰ってくると約束して、彼は笑顔で旅立っていった。
あの瞬間のことを、自分はきっと忘れないだろう。
冷笑でも嘲笑でも苦笑でもない、初めて見せた心からの笑顔。
今でも軽く瞳を閉じれば、瞼の奥にまざまざと思い出せる。
遠い未来の果てまでも、今鮮やかに覚えているままに、連れて行きたいと思える尊いもの。
永遠などないこの世界で、それでも永遠であると信じられる、揺るぎない絆。
「せやから、あの人の帰る場所を守り続けることが、留守を任された私らの仕事や」
風が吹く。
頬を撫でる己の髪を、軽く左手で押さえる。
その手に感じる温もりを、確かに抱き締めるようにして。
彼は帰ってくると約束した。
プライドの高い彼のことだ。一度交わした約束を反故するのは、彼の自尊心が許さないだろう。
だから、たとえどんなに困難な道だとしても、彼はいつか必ず帰ってくる。
そしてその帰るべき場所を守るのが、彼に愛された自分達の仕事だ。
彼がまた、笑って帰ってこれるように。
当たり前のような言葉を、今度は名前を呼び合って交わせるように。
たとえ何年何十年であろうと、この命が続く限り。
「……さてと! それじゃ、今日もお仕事頑張ろか!」
八神はやて、25歳。
海上警備部捜査司令、LS級艦船ヴォルフラム艦長。
時空管理局局員、未だ現役継続中。
◆
遥か遠い、どこか。
今ではない、いつか。
幾千幾万繰り返される、終わることなき輪廻の世界。
どれほど続いているのかも分からない。
どれほど時が流れたのかも分からない。
善と悪。
光と闇。
秩序と混沌。
この閉じぬ二重螺旋に取り込まれる以前の記憶も、全て気の遠くなるほどの時の流れに消えてしまった。
何か大切な願いがあったような気がする。
どうしても成し遂げたい何かのために、ずっと歩き続けていた気がする。
今となってはそれすらも、思い出すことはかなわない。
否。
全てを忘れたわけではない。
幾つもの星座を巡っても、変わることなく覚えているもの。
どれほどの記憶をなくしたとしても、今もこの魂の奥底には、たった1つの思い出が残っている。
瞼の裏に浮かぶのは、1人の名も知らぬ少女の顔。
短い茶髪に髪飾りをつけた、自分より一回り歳下の女の、太陽のように眩しい笑顔だ。
その持ち主といかにして出会って、どのような言葉を交わして、どのような軌跡を辿ったたのかは、未だ思い出すことはできない。
それでもその穏やかな笑顔が、積み重ねた時間の尊さを物語っている。
胸を満たすこの体温が、築き上げた思い出の愛おしさを、何よりも雄弁に物語っている。
君を忘れない。
この先どれほどの時が流れようと、名も知らぬ君の笑顔だけは忘れない。
この終わりなき神々の戦いの連鎖も、この思い出を糧に戦うことができる。
世界中の何もかもが分からなくとも構わない。君という確かな思い出があるならば。
やがてこの果てしない宙が、いつか終わりを告げるとしても。
全てが秩序も混沌もない虚無の果てに、流され消えていったとしても。
この瞳に焼きついた、君のその笑顔だけは忘れはしない。
たとえ過ぎ去った思い出だとしても。
もう二度と、会えないとしても。
私は戦い続けよう。
いつか君と笑い合える日を、この胸に夢見続けながら。
「久しぶりだな――――――クラウド」
&color(red){【セフィロス@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使 ――――――DISSIDIA】}
&color(red){【残り人数:27人】}
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