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「H激戦区/人の想いとは」(2010/07/30 (金) 06:25:18) の最新版変更点
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*H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6
このデスゲームに於いて、ホテル・アグスタという施設は比較的幸運な方だったと言える。
では、何が幸運なのか。その答えは、他の施設を見れば考えるまでも無く導き出されるだろう。
何と言っても、このホテルは未だ無傷。つい先程まで、誰もこの場所で戦闘を起こそうとはしなかったからだ。
しかし、いつまでもそんな幸運が続きはしない。このホテルにも、破壊の魔の手が迫っていた。
「このっ!」
少女の叫び声と共に、緑の脚が一直線に振り下ろされた。
しかし、緑の脚が標的を捉えることは無く、振り下ろされた踵落としはテーブルを砕いただけだった。
ど真ん中から真っ二つに砕かれたテーブルを蹴って、仮面ライダーキックホッパーは跳ぶ。
標的は、ちょこまかと回避を続ける漆黒の仮面ライダー、カリス。
宙に浮かび、キックの体勢を作るが――
「うわっ……!?」
カリスアローから放たれた数発の青白い光弾によって、体勢を崩されてしまう。
空中で姿勢を崩したキックホッパーは、そのまま下方へと落下。
したたかに身体を打ちつけるが、そこは仮面ライダーの装甲だけあって装着者へのダメージは無い。
すぐに立ち上がり、構えを取るが――すぐに、後方から羽交い絞めにされる。
「やめてくれ、かがみさん! 俺達は君に危害を加えるつもりはない!」
「なら黙って殺されなさいよ! あんた達全員殺して、私も死ぬから!」
「なんでそうなるの! そんな事言われて、黙ってハイなんて言える訳ないだろ!?」
ヴァッシュ・ザ・スタンピードが、仮面ライダー相手に肉弾戦を仕掛けたのには訳がある。
自分が今装備している武器は、アイボリーとエンジェルアームズのみだ。
アイボリーは残弾5発。しかし、仮面ライダーの装甲には弱点はおろか、目立った亀裂すら見当たらない。
例えばライダーの装甲を解除させる一点を発見するとか、そんなチャンスが到来するまでは残り少ない弾を使う事は避けたい。
そして、エンジェルアームズ。これには、アイボリーよりもキツいリミットが掛っている。
プラントとしての能力を行使すればするほど、ヴァッシュの髪の毛は黒くなって行く。
やがて全ての髪の毛が黒くなった時、ヴァッシュはこの世から消滅してしまうのだ。
既に九割が黒髪化している今、残ったエンジェルアームズは温存していきたい。
そして、もう一つの理由。
「もう、離しなさいよ! セクハラで訴えるわよ!」
「訴えるのはいいけど、その為にはまず生きてくれ!」
我武者羅に腕を振り回し、ヴァッシュを振り払おうとする。
そう。仮面ライダーキックホッパーは、言い分だけでなく、戦闘スタイルも滅茶苦茶なのだ。
油断さえしなければ、戦闘においては素人同然のかがみに負ける事はまず無いだろう。
とりあえず賞金首として扱われていた時期もあったヴァッシュにとっては、セクハラで訴えられるくらいどうって事はない。
いや、出来れば訴えて欲しくは無いが、それ以前にかがみが生き残る事が出来るかが問題なのだ。
それに何より、一度でも会話を交わしたかがみにこのまま死んでほしくは無い。
スバルはスバルで、どうやらカリスと話があるらしい。だからヴァッシュは、かがみを優先して止める事にしたのだ。
キックホッパーに向けて光の矢を放ったカリスへと、素早い回し蹴りを叩き込む少女が一人。
スバル・ナカジマだ。骨折した左腕は使い物になりはしない。故に、使えるのは右腕と脚のみ。
幼い頃からストライクアーツを習得して来たスバルにとって、左腕を使えないと言う状況が如何に不利かは十分過ぎる程に分かっている。
先程のヴァッシュ戦では、極度の怒りと興奮で痛みは感じなかったが、一旦熱が引いた今となっては話は別だ。
固定された状態の左腕は、スバルにとって足かせでしか無い。かと言って無理に動かそうとすれば、左腕に激痛が走る。
当然だろう。内部フレームからへし折られてしまったのだ。応急処置程度で前線に戻れる程、戦闘は甘くは無い。
「仮面ライダー! 貴方はゲームに乗ってるんですか!?」
「乗っていると言ったらどうする」
「止めてでも、ギン姉の事を聞きだして見せる!」
駆け出したスバルが右脚を振り上げ、ハイキックを繰り出す。
IS・振動破砕を発動してのハイキック。入れば、それなりのダメージは望める。
……筈なのだが、そう上手く事が運びはしない。
スバルのハイキックは、カリスの左腕によって容易く払われてしまう。
(効かない……!?)
「無理だ。そんな身体で、俺を止める事は出来ない」
カリスの言う事は正しい。
いくら振動破砕を発動しているといっても、今のスバルではハンデが大きすぎる。
何せスバルは現在、左腕が固定されているのだ。そんな状況でのハイキックに意味等無い。
本来、パンチやキックと言った打撃系攻撃は、身体全体を使って打ち出す攻撃だ。
決して乱れぬ精密なフォームがあって、初めて打撃系攻撃は力学的な威力を生み出すのだ。
そのフォームが乱れたとあれば、いくらプロの格闘家であろうと威力を出す事は難しい。
それ程にフォームという物は重要なのだ。
ましてや、それが乱れるだけで威力が半減する打撃系格闘技に於いて、左腕が使えない等問題外だ。
左腕無しで本来のバランスを保った状態でのキックなど打てる訳が無いのだ。
仮に左腕に痛みを走らせないよう、無理して打撃を放ったところで、その攻撃に威力は無い。
多少の打撃は覚悟しているであろう相手に……それも仮面ライダーに、そんな状態の攻撃が通用する訳が無いのだ。
それくらいは格闘技をやっているものならば子供でも解る事。
ましてやスバルともなれば、この状況が如何に不利かなど考えるまでも無い。
だけど、それでも止まってはいられないのだ。
「無理じゃない! ギン姉に何があったのか、聞かせて貰うまで私は退かない!」
「ならば教えてやろう。ギンガは殺し合いに乗った俺を救い、死んだ!」
「え……!?」
驚愕と同時に、一瞬だけ動きが止まってしまう。
その一瞬は、カリスにとっては無限にも等しく感じられる、攻撃の瞬間。
漆黒の装甲に包まれた右脚を突き出し、スバルの胸を強打。
蹴りつけられたスバルは後方へと吹っ飛ばされ、その身体を壁へとしたたかに打ちつけた。
「ぐぁ……ッ」
「馬鹿な奴だ! 俺なんかの為に、奴は死んだ! 俺なんかの為に……!」
カリスの声が、震えていた。
まるで、行く先を失った怒りをぶつけるように。
どうしようも無い悲しみを吐き出すように。
先程まで戦う事しか考えない戦闘マシーン同然だったカリスの声が、震えていたのだ。
その声色の変化を、スバルは見逃さなかった。
ふらふらと立ち上がり、緑の視線でカリスを捉える。
その瞳に浮かべるのは、姉にかける想い。姉の想いを踏みにじらぬ様に。
姉に救われ、姉の想いを託されたであろうカリスに、それをぶつける。
「ギン姉は馬鹿じゃない! ギン姉が、無駄な命を救う訳が無い!」
「何を言ってももう遅い! 俺は戦う事でしか、他者と分かりあえない!」
言うが早いか、醒弓を構えたカリスが駆け出した。
刹那の内にスバルの間合いまで踏み込み、その刃を振り下ろす。
命中すれば、首が跳ね飛ぶ。それ即ち、間違いなく即死だ。
されど、スバルは微動だにしない。決して臆さず、決して逃げない。
瞳逸らす事無く、真っ直ぐにカリスを見据えた。
「まだ遅くなんかない! 貴方は、せっかくギン姉に救われた命を、こんな下らない戦いに使うつもりなの!?」
腹から絞り出すような怒号。
醒弓の刃は、スバルの喉元を掻き切る寸前に、止まった。
震える刃。震える腕。ほんの僅かに、カリスの身体が震えていた。
カリスが何を思ったかは、スバルにも分からない。
だけど、カリスがすぐに自分を殺せなかったのは、大きなチャンスだと思う。
「だから! 私は貴方を止めて見せる! 戦うことでしか分かりあえないなら、戦ってでも話を聞かせて貰う!!」
「な……ッ!」
上体を低く屈め、僅かに左脚で壁を蹴った。
僅か一瞬で、腕を突き出したままのカリスの懐へと跳び込んだ。
だんっ! と、左足で地面を踏み締め、太腿で壁を作る。腰を捻って、肩を入れる。
左足で踏み締めた運動エネルギーをそのままに、流れる様なフォームで、上体まで伝える。
今持てる全力を尽くして、ISを発動。拳を回転させながら、真っ直ぐに突き出す。
同時に、ジェットエッジで一瞬だけ加速を生み出した。突き出された拳に、ジェットエッジによる加速が加えられる。
それは、左腕が使えない今、この状況を最大限に活かして繰り出した渾身の右ストレートだった。
「――ぉぉぉぉぉぉぉっぉりゃぁぁぁぁぁッ!!!」
「が……ァ……!!?」
カリスの腹部……ベルトと胸部装甲の間の、比較的装甲の薄い箇所。
そこを目掛け、全力を込めた振動破砕を、全力を込めた右の拳を叩き込んだ。
流石のカリスと言えど、この一撃を受け切る事など不可能だ。
カリスの装甲を通じて、不死生物の体内まで、振動派が叩き込まれる。
その威力は尋常ではなく、かなりの体重差を持ったカリスを、数メートル後方まで吹っ飛ばす程だった。
◆
月明かりを閉ざす雷雲が空を埋め尽くし、地上は漆黒の闇に閉ざされていた。
人口の明かりが無くなったこの空から聞こえるのは響く様な雷鳴。
たまに周囲に落下する青白い稲妻だけが、木の影に隠れた金居とはやての顔を照らし出してくれた。
はやては思う。この状況、どうするべきが正解なのだろう?
(ようやく見付けたスバルを、こんなとこで失いたくは無い……かといって、無策にあの乱戦の中に入る訳にはいかへん。
スバル達はまだエネルに気付いてないみたいやし……あかん、このままやったら皆エネルに殺されてまう……!)
エネルとの戦いか、仮面ライダー同士の戦いへの介入か。
出来る事ならば、スバルだけを味方として獲得し、そのままエネルに気付かれる事無く何処かへと逃げ去りたい。
しかし、それをするにはあのライダーバトルの真っただ中に介入せねばならないのだ。
今の戦力で無策にあの中に入るのは自殺行為に等しいし、かといってエネルとの戦いは論外だ。
幸い、まだエネルはこちらには気付いていないようだが……
「金居さんは、現状をどう思いますか」
「ジョーカーとあの仮面ライダーだけならまだしも、あの雷男まで相手にするのは御免被りたいな」
金居は金居で、エネルの脅威については本能的に感じ取っているらしい。
だが、その言葉は同時に金居の戦闘力のレベルを窺い知るためのヒントにもなり得る。
金居は「あの黒のライダーと緑のライダーの二人までなら戦える」と、そう言ったのだ。
キングとは違い、冷静な金居がただの自信だけでものを言うとも思えない。
つまり、金居の戦闘力はそれなりのものという事だ。
(それなら、この男もまだここで失う訳にはいかへんな)
出来る事なら、金居をキープしたままでスバル(とその仲間?)の戦力を確保したい。
その為にも、スバルと交戦しているあの黒のライダーを確実に倒して、先に進みたい所だ。
だが、それをする為にはやはりエネルがネックになる。この分じゃエネルがホテルに到達するまでに時間はあまりかからない。
エネルがここに来るまでに、何とか状況を変えたいが……
「おい、八神」
「何ですか?」
「あれを見ろ」
森林に多くそびえ立つ木々の影から、金居がそっと手を伸ばす。
その先にいるのは、雷光に照らし出された神・エネル。そして、その奥にもう一人。
漆黒の騎士甲冑は、まるでなのはのバリアジャケットをそのまま黒くしたようなイメージを抱かせる。
サイドポニーに纏めたプラチナブロンドの髪が、ゆらりと揺れるその姿は、なのはに良く似ていた。
しかし、その立ち居振る舞いはなのはとは全く違う。どこか不気味な、生気を感じさせない歩み。
死すらも恐れて居ない様な足取りで、一歩、また一歩と歩を進めているのだ。
まるで死神の様な姿ではあるが、しかしはやてはその姿に見覚えがあった。
◆
今の一撃は効いた。
もしも万全の状態で放たれたなら、一撃で変身解除まで追い込まれていたかもしれない。
それ程の激痛を伴う一撃。まるで身体を内側からブチ壊されたような、凄まじい威力。
スバルのIS、振動破砕による爆発的な攻撃力によって、カリスの身体は吹き飛ばされた。
硬いコンクリートの床に叩き付けられたカリスの身体は、思う様に動かない。
アンデッドの回復力をもってすれば、これくらいはすぐに回復出来るだろうが……今すぐに戦線復帰するのは、少し厳しい。
赤い複眼を持ち上げて、こんな芸当をやってのけてくれた娘に視線を向ける。
「もう止めて下さい……手応えは確かに感じました。貴方はこれ以上戦えない!」
「貴様……、あくまで俺を殺さないつもりか……ッ!」
「ギン姉に救われた貴方の命を、妹の私が奪う事は出来ない……
だから、聞かせて貰う! ギン姉と貴方の間に何があったのかを!」
真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな想いを自分へとぶつけるこの女。
ああ、やはり見覚えがある。つい数時間前まで一緒に居た、何処までも強い女と同じ目だ。
その後に出会った浅倉威にも、柊かがみにも、ギンガと同じ意志の強さは感じられなかった。
この殺し合いで、もうあんな人間に会う事は無いだろう。会ったとしても、関わる事はないだろう。
そう思っていたが、運命とは何と皮肉な事だろう。
この短時間で、再びこの瞳に出会ってしまうとは。
「……これから殺す相手に教えても、意味がない」
「まだそんな事を……!!」
言ってはみたものの、今すぐに再び立ち上がってスバルを殺す事は、無理だ。
何よりも振動破砕の威力が大きすぎる。この身体がアンデッドのものでなければ、どうなっていたか分かった物じゃない。
そして第二に、この女の目を見ていたら、この女の言葉を聞いていたら、ギンガを思い出してしまう。
それが研ぎ澄まされつつあった闘争本能を、内に潜むジョーカーの感覚をどれだけ鈍らせる事か。
同時に、ギンガ達の存在が自分の闘争本能を鈍らせると自分自身で理解出来てしまうのが、どうしようもなく悔しかった。
「殺されるのが嫌なら、俺を殺せ。そうすれば、全て終わりだ」
「そうやって、逃げるんですか!?」
「何、だと……?」
逃げる? こいつは一体何を言っているんだ。
最強のアンデッドたるこの俺が、一体何時、何から逃げたというのだ。
ハートの複眼に捉えるは、決して鈍らない信念を瞳に宿したスバルを捉える。
その目は何処か怒っているようで、不思議な気迫を感じさせた。
「嫌な事から、怖い物から、戦わずに逃げる事は簡単だよ。でも、それじゃダメなんだ!
戦う事を止めて逃げてしまったら、そこで終わりだ。そんなの、私は絶対に嫌だ!」
「俺が何時逃げようとした」
「死んだら終われるとか、殺されたら自分の責務から解放されるとか……
ギン姉に貰ったたった一つの命を、そうやって投げ出して終わらせるつもり!?」
スバルの怒号に、カリスは言い様のない憤りを感じた。
何と一方的な言い分だろうか。何と一方的な正義だろうか。
それを押し付けられる側がどんな気持かなど、こいつは知らないのだろう。
しかし、そう感じる心はまさしく人間としての憤り。
それに気付く事も無く、カリスは自分の思いを吐き出す。
「お前に何が解る……俺は人間でも無い、アンデッドでもない。俺を知っているのは俺だけだ……!
だから言えるのだ! 俺の苦悩、お前などに解りはしないと!」
「わからないよ! 当然でしょう、貴方は何も話そうとしないじゃない!
……それに、人間じゃないのは貴方だけじゃない! 私だって、ギン姉だって……!」
何だと……?
ギンガは人間では無い? その妹のスバルも、人間では無い?
だが、それは可笑しい。ギンガは自分に言った筈だ。「貴方は人間だ」と。
人間でもない奴が、同じく人間では無い身の自分の人間らしさを証明する?
なんと滑稽な話だろう。それで命まで落としてしまったのでは、話にならない。
理解出来ない。ただでさえ馬鹿だと思っていたギンガが、余計に理解出来なくなる。
「人間じゃない……だと……? だがギンガは、化け物の俺を人間だと言った……
そのギンガが人間じゃない……? いや……」
始は思う。それは違う、と。
誰よりも意志の強かったギンガは、何処までも人間らしかった。
そして、誰よりも人間らしかったギンガが、自分を人間だと言ってくれたのだ。
あの優しさは、紛れも無く人間のものだ。
紛い物の自分とは違う、本物の人間の優しさだ。
だからこそ言える。だからこそ断言できる。
「違う……ギンガは人間だ……誰が何と言おうと、奴は人間だった……!」
「それなら、貴方も人間だ! そんなことを言える貴方が、化け物の訳が無い!」
「無理だ! 俺には人間が理解出来ない……ギンガの考えが、理解出来ない!」
問題は凄く単純な事だ。
ギンガの考えが、始には理解出来なかった。
ギンガの行動が、始には理解出来なかった。
何故あの女は、見ず知らずの自分を助けたのだろう。
何故、殺し合いに乗った自分なんかの為に命を投げ出したのだろう。
誰が聞いたって、馬鹿な生き方だ。とても上手い命の使い方とは言えない。
始の心を、無数の「何故」が埋め尽くして行く。
「何故だ……何故……!」
考えれば考える程、頭がパンクしそうになっていく。
ああ、何故目の前の女はこんなにもギンガに似ているのだろう。
守りたいものとか、人間の心とか、そんな綺麗事を並べて戦えば、生物は弱くなる。
生きるか死ぬか、命を掛けた戦いにそのような面倒事は一切不要なのだ。
ジョーカーである自分はそれを最も良く理解している、筈なのに……。
「何故、ギンガは……!」
だが、ギンガはその方程式には当て嵌らなかった。
あの女は誰よりも強く、そして誰よりも気高かった。
戦いに負けたとか、他の誰かよりも戦闘力で劣っていたとか、そういう事じゃない。
自分には無い物。浅倉にも、かがみにも無い「強さ」を、ギンガは持ち合わせていた。
それは目の前の少女――ギンガと同じ目をした少女にも言える事だ。
この強さは何だ? この強さは何処から湧いてくる?
「わからない……わからない……わからない……!」
「ギン姉は――」
――CLOCK UP――
「――ぇ……?」
刹那、電子音声と同時に、スバルの身体が吹き飛んだ。
左腕を封じられていたスバルの身体は見事に宙を舞い、そのまま吹っ飛ばされる。
告げようとしていた言葉は結局告げられる事は無く、無限にも等しい刹那の中で、スバルの身体はコンクリの床を転がった。
カリスの頭の中で、何が起こったのかを理解するよりも先に、言い様の無い感情が湧き起こった。
そうだ。この感情と似たものを自分は知っている。
確か、ギンガが死んだ時の……。
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*H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6
このデスゲームに於いて、ホテル・アグスタという施設は比較的幸運な方だったと言える。
では、何が幸運なのか。その答えは、他の施設を見れば考えるまでも無く導き出されるだろう。
何と言っても、このホテルは未だ無傷。つい先程まで、誰もこの場所で戦闘を起こそうとはしなかったからだ。
しかし、いつまでもそんな幸運が続きはしない。このホテルにも、破壊の魔の手が迫っていた。
「このっ!」
少女の叫び声と共に、緑の脚が一直線に振り下ろされた。
しかし、緑の脚が標的を捉えることは無く、振り下ろされた踵落としはテーブルを砕いただけだった。
ど真ん中から真っ二つに砕かれたテーブルを蹴って、仮面ライダーキックホッパーは跳ぶ。
標的は、ちょこまかと回避を続ける漆黒の仮面ライダー、カリス。
宙に浮かび、キックの体勢を作るが――
「うわっ……!?」
カリスアローから放たれた数発の青白い光弾によって、体勢を崩されてしまう。
空中で姿勢を崩したキックホッパーは、そのまま下方へと落下。
したたかに身体を打ちつけるが、そこは仮面ライダーの装甲だけあって装着者へのダメージは無い。
すぐに立ち上がり、構えを取るが――すぐに、後方から羽交い絞めにされる。
「やめてくれ、かがみさん! 俺達は君に危害を加えるつもりはない!」
「なら黙って殺されなさいよ! あんた達全員殺して、私も死ぬから!」
「なんでそうなるの! そんな事言われて、黙ってハイなんて言える訳ないだろ!?」
ヴァッシュ・ザ・スタンピードが、仮面ライダー相手に肉弾戦を仕掛けたのには訳がある。
自分が今装備している武器は、アイボリーとエンジェルアームズのみだ。
アイボリーは残弾5発。しかし、仮面ライダーの装甲には弱点はおろか、目立った亀裂すら見当たらない。
例えばライダーの装甲を解除させる一点を発見するとか、そんなチャンスが到来するまでは残り少ない弾を使う事は避けたい。
そして、エンジェルアームズ。これには、アイボリーよりもキツいリミットが掛っている。
プラントとしての能力を行使すればするほど、ヴァッシュの髪の毛は黒くなって行く。
やがて全ての髪の毛が黒くなった時、ヴァッシュはこの世から消滅してしまうのだ。
既に九割が黒髪化している今、残ったエンジェルアームズは温存していきたい。
そして、もう一つの理由。
「もう、離しなさいよ! セクハラで訴えるわよ!」
「訴えるのはいいけど、その為にはまず生きてくれ!」
我武者羅に腕を振り回し、ヴァッシュを振り払おうとする。
そう。仮面ライダーキックホッパーは、言い分だけでなく、戦闘スタイルも滅茶苦茶なのだ。
油断さえしなければ、戦闘においては素人同然のかがみに負ける事はまず無いだろう。
とりあえず賞金首として扱われていた時期もあったヴァッシュにとっては、セクハラで訴えられるくらいどうって事はない。
いや、出来れば訴えて欲しくは無いが、それ以前にかがみが生き残る事が出来るかが問題なのだ。
それに何より、一度でも会話を交わしたかがみにこのまま死んでほしくは無い。
スバルはスバルで、どうやらカリスと話があるらしい。だからヴァッシュは、かがみを優先して止める事にしたのだ。
キックホッパーに向けて光の矢を放ったカリスへと、素早い回し蹴りを叩き込む少女が一人。
スバル・ナカジマだ。骨折した左腕は使い物になりはしない。故に、使えるのは右腕と脚のみ。
幼い頃からストライクアーツを習得して来たスバルにとって、左腕を使えないと言う状況が如何に不利かは十分過ぎる程に分かっている。
先程のヴァッシュ戦では、極度の怒りと興奮で痛みは感じなかったが、一旦熱が引いた今となっては話は別だ。
固定された状態の左腕は、スバルにとって足かせでしか無い。かと言って無理に動かそうとすれば、左腕に激痛が走る。
当然だろう。内部フレームからへし折られてしまったのだ。応急処置程度で前線に戻れる程、戦闘は甘くは無い。
「仮面ライダー! 貴方はゲームに乗ってるんですか!?」
「乗っていると言ったらどうする」
「止めてでも、ギン姉の事を聞きだして見せる!」
駆け出したスバルが右脚を振り上げ、ハイキックを繰り出す。
IS・振動破砕を発動してのハイキック。入れば、それなりのダメージは望める。
……筈なのだが、そう上手く事が運びはしない。
スバルのハイキックは、カリスの左腕によって容易く払われてしまう。
(効かない……!?)
「無理だ。そんな身体で、俺を止める事は出来ない」
カリスの言う事は正しい。
いくら振動破砕を発動しているといっても、今のスバルではハンデが大きすぎる。
何せスバルは現在、左腕が固定されているのだ。そんな状況でのハイキックに意味等無い。
本来、パンチやキックと言った打撃系攻撃は、身体全体を使って打ち出す攻撃だ。
決して乱れぬ精密なフォームがあって、初めて打撃系攻撃は力学的な威力を生み出すのだ。
そのフォームが乱れたとあれば、いくらプロの格闘家であろうと威力を出す事は難しい。
それ程にフォームという物は重要なのだ。
ましてや、それが乱れるだけで威力が半減する打撃系格闘技に於いて、左腕が使えない等問題外だ。
左腕無しで本来のバランスを保った状態でのキックなど打てる訳が無いのだ。
仮に左腕に痛みを走らせないよう、無理して打撃を放ったところで、その攻撃に威力は無い。
多少の打撃は覚悟しているであろう相手に……それも仮面ライダーに、そんな状態の攻撃が通用する訳が無いのだ。
それくらいは格闘技をやっているものならば子供でも解る事。
ましてやスバルともなれば、この状況が如何に不利かなど考えるまでも無い。
だけど、それでも止まってはいられないのだ。
「無理じゃない! ギン姉に何があったのか、聞かせて貰うまで私は退かない!」
「ならば教えてやろう。ギンガは殺し合いに乗った俺を救い、死んだ!」
「え……!?」
驚愕と同時に、一瞬だけ動きが止まってしまう。
その一瞬は、カリスにとっては無限にも等しく感じられる、攻撃の瞬間。
漆黒の装甲に包まれた右脚を突き出し、スバルの胸を強打。
蹴りつけられたスバルは後方へと吹っ飛ばされ、その身体を壁へとしたたかに打ちつけた。
「ぐぁ……ッ」
「馬鹿な奴だ! 俺なんかの為に、奴は死んだ! 俺なんかの為に……!」
カリスの声が、震えていた。
まるで、行く先を失った怒りをぶつけるように。
どうしようも無い悲しみを吐き出すように。
先程まで戦う事しか考えない戦闘マシーン同然だったカリスの声が、震えていたのだ。
その声色の変化を、スバルは見逃さなかった。
ふらふらと立ち上がり、緑の視線でカリスを捉える。
その瞳に浮かべるのは、姉にかける想い。姉の想いを踏みにじらぬ様に。
姉に救われ、姉の想いを託されたであろうカリスに、それをぶつける。
「ギン姉は馬鹿じゃない! ギン姉が、無駄な命を救う訳が無い!」
「何を言ってももう遅い! 俺は戦う事でしか、他者と分かりあえない!」
言うが早いか、醒弓を構えたカリスが駆け出した。
刹那の内にスバルの間合いまで踏み込み、その刃を振り下ろす。
命中すれば、首が跳ね飛ぶ。それ即ち、間違いなく即死だ。
されど、スバルは微動だにしない。決して臆さず、決して逃げない。
瞳逸らす事無く、真っ直ぐにカリスを見据えた。
「まだ遅くなんかない! 貴方は、せっかくギン姉に救われた命を、こんな下らない戦いに使うつもりなの!?」
腹から絞り出すような怒号。
醒弓の刃は、スバルの喉元を掻き切る寸前に、止まった。
震える刃。震える腕。ほんの僅かに、カリスの身体が震えていた。
カリスが何を思ったかは、スバルにも分からない。
だけど、カリスがすぐに自分を殺せなかったのは、大きなチャンスだと思う。
「だから! 私は貴方を止めて見せる! 戦うことでしか分かりあえないなら、戦ってでも話を聞かせて貰う!!」
「な……ッ!」
上体を低く屈め、僅かに左脚で壁を蹴った。
僅か一瞬で、腕を突き出したままのカリスの懐へと跳び込んだ。
だんっ! と、左足で地面を踏み締め、太腿で壁を作る。腰を捻って、肩を入れる。
左足で踏み締めた運動エネルギーをそのままに、流れる様なフォームで、上体まで伝える。
今持てる全力を尽くして、ISを発動。拳を回転させながら、真っ直ぐに突き出す。
同時に、ジェットエッジで一瞬だけ加速を生み出した。突き出された拳に、ジェットエッジによる加速が加えられる。
それは、左腕が使えない今、この状況を最大限に活かして繰り出した渾身の右ストレートだった。
「――ぉぉぉぉぉぉぉっぉりゃぁぁぁぁぁッ!!!」
「が……ァ……!!?」
カリスの腹部……ベルトと胸部装甲の間の、比較的装甲の薄い箇所。
そこを目掛け、全力を込めた振動破砕を、全力を込めた右の拳を叩き込んだ。
流石のカリスと言えど、この一撃を受け切る事など不可能だ。
カリスの装甲を通じて、不死生物の体内まで、振動派が叩き込まれる。
その威力は尋常ではなく、かなりの体重差を持ったカリスを、数メートル後方まで吹っ飛ばす程だった。
◆
月明かりを閉ざす雷雲が空を埋め尽くし、地上は漆黒の闇に閉ざされていた。
人口の明かりが無くなったこの空から聞こえるのは響く様な雷鳴。
たまに周囲に落下する青白い稲妻だけが、木の影に隠れた金居とはやての顔を照らし出してくれた。
はやては思う。この状況、どうするべきが正解なのだろう?
(ようやく見付けたスバルを、こんなとこで失いたくは無い……かといって、無策にあの乱戦の中に入る訳にはいかへん。
スバル達はまだエネルに気付いてないみたいやし……あかん、このままやったら皆エネルに殺されてまう……!)
エネルとの戦いか、仮面ライダー同士の戦いへの介入か。
出来る事ならば、スバルだけを味方として獲得し、そのままエネルに気付かれる事無く何処かへと逃げ去りたい。
しかし、それをするにはあのライダーバトルの真っただ中に介入せねばならないのだ。
今の戦力で無策にあの中に入るのは自殺行為に等しいし、かといってエネルとの戦いは論外だ。
幸い、まだエネルはこちらには気付いていないようだが……
「金居さんは、現状をどう思いますか」
「ジョーカーとあの仮面ライダーだけならまだしも、あの雷男まで相手にするのは御免被りたいな」
金居は金居で、エネルの脅威については本能的に感じ取っているらしい。
だが、その言葉は同時に金居の戦闘力のレベルを窺い知るためのヒントにもなり得る。
金居は「あの黒のライダーと緑のライダーの二人までなら戦える」と、そう言ったのだ。
キングとは違い、冷静な金居がただの自信だけでものを言うとも思えない。
つまり、金居の戦闘力はそれなりのものという事だ。
(それなら、この男もまだここで失う訳にはいかへんな)
出来る事なら、金居をキープしたままでスバル(とその仲間?)の戦力を確保したい。
その為にも、スバルと交戦しているあの黒のライダーを確実に倒して、先に進みたい所だ。
だが、それをする為にはやはりエネルがネックになる。この分じゃエネルがホテルに到達するまでに時間はあまりかからない。
エネルがここに来るまでに、何とか状況を変えたいが……
「おい、八神」
「何ですか?」
「あれを見ろ」
森林に多くそびえ立つ木々の影から、金居がそっと手を伸ばす。
その先にいるのは、雷光に照らし出された神・エネル。そして、その奥にもう一人。
漆黒の騎士甲冑は、まるでなのはのバリアジャケットをそのまま黒くしたようなイメージを抱かせる。
サイドポニーに纏めたプラチナブロンドの髪が、ゆらりと揺れるその姿は、なのはに良く似ていた。
しかし、その立ち居振る舞いはなのはとは全く違う。どこか不気味な、生気を感じさせない歩み。
死すらも恐れて居ない様な足取りで、一歩、また一歩と歩を進めているのだ。
まるで死神の様な姿ではあるが、しかしはやてはその姿に見覚えがあった。
◆
今の一撃は効いた。
もしも万全の状態で放たれたなら、一撃で変身解除まで追い込まれていたかもしれない。
それ程の激痛を伴う一撃。まるで身体を内側からブチ壊されたような、凄まじい威力。
スバルのIS、振動破砕による爆発的な攻撃力によって、カリスの身体は吹き飛ばされた。
硬いコンクリートの床に叩き付けられたカリスの身体は、思う様に動かない。
アンデッドの回復力をもってすれば、これくらいはすぐに回復出来るだろうが……今すぐに戦線復帰するのは、少し厳しい。
赤い複眼を持ち上げて、こんな芸当をやってのけてくれた娘に視線を向ける。
「もう止めて下さい……手応えは確かに感じました。貴方はこれ以上戦えない!」
「貴様……、あくまで俺を殺さないつもりか……ッ!」
「ギン姉に救われた貴方の命を、妹の私が奪う事は出来ない……
だから、聞かせて貰う! ギン姉と貴方の間に何があったのかを!」
真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな想いを自分へとぶつけるこの女。
ああ、やはり見覚えがある。つい数時間前まで一緒に居た、何処までも強い女と同じ目だ。
その後に出会った浅倉威にも、柊かがみにも、ギンガと同じ意志の強さは感じられなかった。
この殺し合いで、もうあんな人間に会う事は無いだろう。会ったとしても、関わる事はないだろう。
そう思っていたが、運命とは何と皮肉な事だろう。
この短時間で、再びこの瞳に出会ってしまうとは。
「……これから殺す相手に教えても、意味がない」
「まだそんな事を……!!」
言ってはみたものの、今すぐに再び立ち上がってスバルを殺す事は、無理だ。
何よりも振動破砕の威力が大きすぎる。この身体がアンデッドのものでなければ、どうなっていたか分かった物じゃない。
そして第二に、この女の目を見ていたら、この女の言葉を聞いていたら、ギンガを思い出してしまう。
それが研ぎ澄まされつつあった闘争本能を、内に潜むジョーカーの感覚をどれだけ鈍らせる事か。
同時に、ギンガ達の存在が自分の闘争本能を鈍らせると自分自身で理解出来てしまうのが、どうしようもなく悔しかった。
「殺されるのが嫌なら、俺を殺せ。そうすれば、全て終わりだ」
「そうやって、逃げるんですか!?」
「何、だと……?」
逃げる? こいつは一体何を言っているんだ。
最強のアンデッドたるこの俺が、一体何時、何から逃げたというのだ。
ハートの複眼に捉えるは、決して鈍らない信念を瞳に宿したスバルを捉える。
その目は何処か怒っているようで、不思議な気迫を感じさせた。
「嫌な事から、怖い物から、戦わずに逃げる事は簡単だよ。でも、それじゃダメなんだ!
戦う事を止めて逃げてしまったら、そこで終わりだ。そんなの、私は絶対に嫌だ!」
「俺が何時逃げようとした」
「死んだら終われるとか、殺されたら自分の責務から解放されるとか……
ギン姉に貰ったたった一つの命を、そうやって投げ出して終わらせるつもり!?」
スバルの怒号に、カリスは言い様のない憤りを感じた。
何と一方的な言い分だろうか。何と一方的な正義だろうか。
それを押し付けられる側がどんな気持かなど、こいつは知らないのだろう。
しかし、そう感じる心はまさしく人間としての憤り。
それに気付く事も無く、カリスは自分の思いを吐き出す。
「お前に何が解る……俺は人間でも無い、アンデッドでもない。俺を知っているのは俺だけだ……!
だから言えるのだ! 俺の苦悩、お前などに解りはしないと!」
「わからないよ! 当然でしょう、貴方は何も話そうとしないじゃない!
……それに、人間じゃないのは貴方だけじゃない! 私だって、ギン姉だって……!」
何だと……?
ギンガは人間では無い? その妹のスバルも、人間では無い?
だが、それは可笑しい。ギンガは自分に言った筈だ。「貴方は人間だ」と。
人間でもない奴が、同じく人間では無い身の自分の人間らしさを証明する?
なんと滑稽な話だろう。それで命まで落としてしまったのでは、話にならない。
理解出来ない。ただでさえ馬鹿だと思っていたギンガが、余計に理解出来なくなる。
「人間じゃない……だと……? だがギンガは、化け物の俺を人間だと言った……
そのギンガが人間じゃない……? いや……」
始は思う。それは違う、と。
誰よりも意志の強かったギンガは、何処までも人間らしかった。
そして、誰よりも人間らしかったギンガが、自分を人間だと言ってくれたのだ。
あの優しさは、紛れも無く人間のものだ。
紛い物の自分とは違う、本物の人間の優しさだ。
だからこそ言える。だからこそ断言できる。
「違う……ギンガは人間だ……誰が何と言おうと、奴は人間だった……!」
「それなら、貴方も人間だ! そんなことを言える貴方が、化け物の訳が無い!」
「無理だ! 俺には人間が理解出来ない……ギンガの考えが、理解出来ない!」
問題は凄く単純な事だ。
ギンガの考えが、始には理解出来なかった。
ギンガの行動が、始には理解出来なかった。
何故あの女は、見ず知らずの自分を助けたのだろう。
何故、殺し合いに乗った自分なんかの為に命を投げ出したのだろう。
誰が聞いたって、馬鹿な生き方だ。とても上手い命の使い方とは言えない。
始の心を、無数の「何故」が埋め尽くして行く。
「何故だ……何故……!」
考えれば考える程、頭がパンクしそうになっていく。
ああ、何故目の前の女はこんなにもギンガに似ているのだろう。
守りたいものとか、人間の心とか、そんな綺麗事を並べて戦えば、生物は弱くなる。
生きるか死ぬか、命を掛けた戦いにそのような面倒事は一切不要なのだ。
ジョーカーである自分はそれを最も良く理解している、筈なのに……。
「何故、ギンガは……!」
だが、ギンガはその方程式には当て嵌らなかった。
あの女は誰よりも強く、そして誰よりも気高かった。
戦いに負けたとか、他の誰かよりも戦闘力で劣っていたとか、そういう事じゃない。
自分には無い物。浅倉にも、かがみにも無い「強さ」を、ギンガは持ち合わせていた。
それは目の前の少女――ギンガと同じ目をした少女にも言える事だ。
この強さは何だ? この強さは何処から湧いてくる?
「わからない……わからない……わからない……!」
「ギン姉は――」
――CLOCK UP――
「――ぇ……?」
刹那、電子音声と同時に、スバルの身体が吹き飛んだ。
左腕を封じられていたスバルの身体は見事に宙を舞い、そのまま吹っ飛ばされる。
告げようとしていた言葉は結局告げられる事は無く、無限にも等しい刹那の中で、スバルの身体はコンクリの床を転がった。
カリスの頭の中で、何が起こったのかを理解するよりも先に、言い様の無い感情が湧き起こった。
そうだ。この感情と似たものを自分は知っている。
確か、ギンガが死んだ時の……。
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