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*解ける謎!!(前編) ◆LuuKRM2PEg
現在時刻、黎明。
暗闇に覆われた森の中を、二つの影が駆け抜けていた。
互いを敵と認識し、睨み合っている。
そして、銀色の輝きを放つ刃を、彼らは振るった。
瞬き一つの時間が経過した後、激突する。
接触面から火花が飛び散り、周囲を照らした。
それと同時に、甲高い音が彼らの鼓膜を刺激する。
木々の間に光が灯ったことで、姿が浮かび上がった。
一人は、重厚感溢れる銀色の鎧に身を包んだ、天道総司のもう一つの姿。
水色の輝きを放つ単眼、額からVの字に伸びたアンテナ、右肩に刻まれたゼクトマーク、腰のベルトに装着されたカブトゼクター、下半身を守る黒いスーツ。
『光を支配せし太陽の神』と呼ばれる仮面ライダーカブトの第一形態、マスクドフォーム。
対峙するのは、反逆の名が付けられた剣、リベリオンを構える屈強な戦士。
その背中からは白い片翼を生やし、肉体を黒い装甲で覆っている。
ソルジャー・クラス1St、アンジール・ヒューレー。
深い森の中で、一陣の風が吹き荒れている。
それは、自然現象によって生まれる物ではなかった。
百戦錬磨の戦士たる彼らの手によって、起こされている。
互いに武器を振るい、互いに攻撃を回避し、互いに闘気を向けた。
二人の戦士が繰り広げる戦いに巻き込まれて、木々は次々と折られる。
一本は刃によって、一本は魔法によって生まれた炎によって、一本は銃弾によって。
次々に大木が倒れたことで、地面に振動が生まれる。
枝から振る木の葉は、風で舞っていた。
しかし、瞬時に両断されてしまう。
戦士達には、それは空気にも等しい存在。
故に、気を止める必要はなかった。
「はあっ!」
「オオオオオオオッ!」
そして今もまた、彼らは得物を振るい続ける。
カブトのかけ声と、アンジールの雄叫びは重なった。
互いに凄まじい勢いで、刃を交えた。
カブトは下から掬い上げるように、斧の形状へと変えたカブトクナイガンを振るう。
アンジールは上から両断するように、リベリオンを振り下ろす。
瞬時に激突し、火花が飛び散った。
激突音が鳴った瞬間、互いの身体に衝撃が伝わる。
腕に僅かな痺れを感じる中、彼らは同時に背後へ跳躍。
数メートルほどの距離を下がり、着地した。
そして、二人は地面を蹴って距離を詰め、武器を振るう。
(やはり、一筋縄ではいかないか)
カブトクナイガンを振るう中、カブトは考えた。
目の前で対峙する男、アンジールとはこれで三度目の戦いとなる。
一度目は、スーパーの前で突然の襲撃を受けたことから、始まった。
二度目は、キングが下らないゲームとやらの開催宣言から、始まった。
しかし、どちらも決着を付けるまでには、至らない。
前者の戦いは、銀色の戦士が乱入したことで、膠着状態に繋がることで終わった。
後者の戦いは、高町なのはを守りながらキングとアンジールの二人を同時に相手にするのが、不可能と判断して撤退した。
そして今、この森の中で三度目の戦いに突入している。
(奴は確実に、俺の手の内を読んでるな……)
この戦いにおける不安要素。
それは、自分との戦闘経験が二度もあること。
アンジールとの激闘で、こちらはキャストオフとクロックアップの機能を使った。
加えて、こちらの戦闘パターンを見ている。
これら二つが示すこと。
手の内が全て、相手に知れ渡っていることだ。
これほどの達人ならば、対抗策を考えているはず。
(恐らく奴は、まだ何か手があるだろう)
自分も、アンジールとの戦いは経験済み。
その結果、戦法及び炎や氷を放出する魔法を使うことを、知ることが出来た。
だが、それはほんの一部という可能性がある。
二度に渡る戦いでは使っていなかった技も、存在するかもしれない。
そして、最大の武器であるハイパーゼクターも、先程キングによって破壊されてしまっている。
しかし不安に溺れたり、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。
どんな隠し技があろうとも、ハイパーフォームになれなくても、アンジールを打ち破る。
今やるべき事は、これ一つだけだ。
「ハアッ!」
カブトの右肩を目がけて、アンジールはリベリオンを振るう。
だが、それが当たることはない。
鎧が斬られようとした瞬間、カブトは後ろに飛び退く。
この行為によって、リベリオンは地面を少し抉るだけに終わった。
そして、アンジールに微かな隙が出来る。
カブトがそれを見逃すことはなかった。
彼は地面に着地すると、拳銃を持つようにカブトクナイガンを構え直す。
握る右手をアンジールに向けて、トリガーを引いた。
銃口が輝くと同時に、イオンを原料とした高エネルギーのビームが、放たれる。
「チッ!」
だが、アンジールはただでやられる訳ではない。
迫り来る光の弾丸を前に、突進を開始した。
自らの姿勢を低くしながら、彼はリベリオンを構える。
そして、イオンビームを切り裂いた。
カブトとの距離を詰めながら、大剣を振る。
横に一閃。弾丸は真っ二つに分かれて、アンジールの横を通り過ぎた。
縦に一閃。弾丸を構成する物質が、呆気なく吹き飛ばされる。
斜めに一閃。弾丸の軌道を強制的に変え、背後の地面に着弾させた。
その際に生じる爆風で、アンジールは自らの速度を上昇させる。
刃で銃弾を弾くという、あまりにも常軌を外れた行為。
しかしソルジャーとして、多くの戦場を乗り越えたアンジールには、造作もない事だった。
高速の勢いで放たれる弾丸を、次々とリベリオンで弾いていく。
やがてアンジールは、カブトの目前にまで迫った。
「ダアッ!」
横薙ぎにリベリオンを振るう。
この勢いには流石のカブトも対抗できず、胸板を切り裂かれた。
未知の金属、ヒヒイロノカネで構成された鎧に傷を付け、火花が飛び散る。
アンジールが与えた一撃を受けて、カブトは後ろへ吹き飛んだ。
そのまま彼の身体は、背中から大木へ叩きつけられる。
「がっ…………!」
痛みを感じて、呻き声を漏らした。
やはり、アンジールは強い。
防御力に特化したマスクドフォームの鎧に、こうも易々と傷を付けるほどの怪力。
加えて、クロックアップを用いた連係攻撃に対抗できるほどの、反射神経。
スーパーで繰り広げた戦いでも感じたが、ただ者ではない。
カブトは体勢を立て直しながら、改めて思う。
その最中に、アンジールは既に追撃を加えるために、迫っていた。
彼は両手でリベリオンを、頭上に掲げる。
標的となったカブトは、クナイガンを再びアックスモードの形で構えた。
刹那、二人の武器は激突し、鍔迫り合いの体制に入る。
互いに押し合い、力の拮抗が始まった。
視線がぶつかる中、カブトは呟く。
「甘いな」
「何?」
彼の右腕が、腰に伸びた。
そしてその手で、カブトゼクターの角を掴む。
それを見たアンジールは目を見開くと、すぐさま後ろに飛んだ。
彼は激情のあまりに、失念していたのだ。
先程この目で見た、天道が身に纏う鎧が持つ機能を。
距離を取ろうとするが、もう遅い。
「キャストオフ!」
『CAST OFF』
力強い宣言と共に、ゼクターホーンを反対側へ倒す。
すると、主の言葉に応えるかのように、カブトゼクターから電子音声が発せられた。
中心部が輝きを放ち、全身に電流が迸る。
その直後、全身を守る銀色の装甲は、勢いよく弾け飛んだ。
頭部、両腕、胴体の順番に。
これは、マスクドライダーシステムに搭載されている、キャストオフと呼ばれる機能。
カブトの身体から生まれた衝撃波と、辺りに散らばっていく鎧はアンジールの身体に激突した。
後方に吹き飛んでいくも、純白の翼を羽ばたかせる。
彼は空中で後ろ向きに一回転し、体制を整えながら地面に着地。
一方で、キャストオフを行ったカブトの顎から、一本の角が力強くせり上がる。
単眼を複眼に変えると、その輝きが更に強くなった。
『CHANGE BEETLE』
新たなる形態に変えたことを示す、声が響く。
太陽のように赤く彩られる鎧、カブト虫を思わせる額から伸びた角、闇の中で強い輝きを放つ瞳。
それは俊敏性に優れた、仮面ライダーカブトのもう一つの姿。
ライダーフォームの名を持つ形態へと、変身を果たした。
重厚な鎧を脱ぎ捨てたことで、身が軽くなるのをカブトは感じる。
そのままクナイガンから鋭利な刃を出し、持ち方を変えた。
イオンが纏われた黄金の刃が輝く、クナイモードの形状へと。
カブトとアンジールは、互いに睨み合う。
数秒の時間が経過した後、一陣の微風が彼らの間に吹いた。
それがゴングとなるように、二人は同時に地面を蹴る。
「「ハアッ!」」
掛け声が、重なった。
それはまるで、初めて繰り広げた戦いのように。
突進を開始した彼らの刃は、すぐに激突する。
微かな火花が闇を照らし、激突音が木々の間に流れた。
剣戟を振るう度に、腕から衝撃が伝わる。
カブトはクナイガンを振るうが、アンジールはそれを防いだ。
アンジールはリベリオンを振るうが、カブトはそれを弾いた。
この場で行われている、己を鍛え抜いた達人同士の戦い。
どちらも、なかなか決定打を放てないでいた。
何度目かの激突の後、互いに距離を取る。
(何処だ……何処にいる?)
不意に、カブトはアンジールの背後に視線を向けた。
その先には、漆黒のマスクと衣装、そしてマントに身を包み、魔王ゼロを演じているキングが立っている。
右手には、自分やなのはから奪い取ったデイバッグが、いくつもあった。
あの中の一つに、閉じこめられているはず。
こんな下らない戦いの、ゲームマスターを気取りたければ、勝手にすればいい。
キングの定めたルールがまだ残っているなら、生きているはず。
「デヤアッ!」
しかし、そちらにばかり意識を向けていられない。
目の前には、強敵であるアンジールがいる。
こちらの相手と、彼の捜索。
少々骨が折れるが、やれないことはない。
アンジールの刃を捌きながら、探せばいいだけのこと。
迫り来るリベリオンを、カブトはクナイガンで防ぐ。
だが、このまま力比べに持ち込むつもりはない。
腕力では、アンジールの方に分がある。
まともに正面からぶつかっても、勝てるわけがない。
カブトは横に飛んで、大剣を受け流した。
そして、ほんの僅かにキングへ近づく。
(いるはずだ……)
カブトは、一瞬だけ視線を横に向けた。
キングの手にあるデイバッグは、何も変わる気配がない。
それを察すると、再びアンジールの方に振り向いた。
「ハアァァァッ!!」
この僅かな時間で、敵は既に目前まで迫っている。
それが視界に映った瞬間、アンジールの姿が消えた。
突然すぎる出来事だが、カブトは狼狽えない。
彼は、すぐさま上空に顔を向ける。
すると、一瞬の内に十メートルを超える高さに跳び上がっている、アンジールが見えた。
相手は空中でこちらを見下ろしながら、右腕を向ける。
「サンダガッ!」
アンジールは、マテリアルパワーを集中させた。
そして手の平を地面に向け、言葉を紡ぐ。
最上級の位が与えられた、必殺の魔法を放つために。
その直後、カブトに向かって雷が降り注ぎ、轟音が鳴り響いた。
サンダガの影響に伴い、周囲が眩い光で覆われる。
天空より襲いかかる雷によって、カブトは目を細めた。
「くっ…………!」
アンジールが使った魔法は、周囲を容赦なく破壊する。
地面は砕かれ、雑草は黒く焦げて、木々はあっという間に燃え尽きた。
雷による爆音は闇の中で響き、カブトの身体に直撃する。
衝撃は感じるが、熱は内部に届かない。
マスクドライダーを構成するパーツの一つに、サインスーツが存在する。
あらゆる衝撃から資格者を守る耐久性。
五千度から絶対零度まで、広い温度に対する守備範囲。
これら二つの特性によって、サンダガのダメージは装着する天道には響かない。
しかし、彼の中で疑問が芽生えた。
これは自分の知らない、アンジールの技の一つか。
だが、マスクドライダーの鎧に魔法攻撃が通じないことは、先の戦いで経験したはず。
それなのに、何故使ったのか。
精々、視界を遮ることしか出来ていない。
(…………そういうことか!)
カブトは、答えを見つける。
仮面の下で、彼は目を見開いた。
その途端、上空よりリベリオンを構えながら、急降下に迫るアンジールの姿を見つける。
これほどの達人が、何の考えもなしに技を使うわけがない。
雷の魔法を使った意図は、単なる目くらましの為。
視界が不安定となり、硬直した隙を付いて一閃を放つことが、本当の目的だ。
このまま真っ正面に攻撃を受けるのは、拙い。
元々の鍛え抜かれた筋力に、空からの落下スピードが加算される。
そうなっては、マスクドライダーの鎧でも耐えられるかどうか。
「オオオオオォォォォォッ!」
咆吼と共に、アンジールは突進する。
この勢いでは、回避が不可能。
リベリオンの標的となったカブトは、左に飛びながらクナイガンを構える。
そして、互いに武器を振るった。
激突によって音が生じ、空気が震える。
その衝撃によって、カブトは僅かに蹌踉めき、後退った。
直撃は避けられたとはいえ、アンジールの力を全て受け流すことは、流石に出来ない。
腕に痺れを覚えながらも、彼は身体を反転させた。
そのまま、敵の方に振り向く。
すると、アンジールが突きを繰り出す姿が、目に映った。
「ッ!?」
直後、胸に衝撃が走る。
攻撃を受け、少し吹き飛ばされるも、すぐに体勢を立て直して後ろに飛ぶ。
カブトはキングに近づくように、アンジールと距離を取った。
痛みを感じるが、この程度は何て事もない。
彼はもう一度、王を気取る観戦者の方に振り向いた。
キングが持っている、五つのデイバッグ。
その中に一つだけ、異様に膨らんでいる物がある。
まるで何かが暴れているかのように、表面が蠢いていた。
(あそこか)
カブトは確信する。
あのデイバッグに、閉じこめられている事を。
これで、第一段階は終了。
次にやることは、悟られないようにキングに出来る限り近づくことだ。
その為には、この戦いを続けなければならない。
「ダアッ!」
アンジールの握る剣が、カブトに襲いかかる。
軌道を読み取り、クナイガンで防いだ。
そこから力比べに入る前に、カブトは横に回り込んで敵の一撃を受け流す。
勢いを止めることが出来ずに、アンジールの体勢がほんの少しだけ不安定となった。
生まれた隙を付き、カブトは左足を軸にした鋭い回し蹴りを放つ。
だが、アンジールはリベリオンを掲げて、それを受け止めた。
七トンもの衝撃によって両腕に痺れを感じ、数歩分後退してしまう。
しかし、アンジールはすぐにリベリオンを構え直し、カブトを睨んだ。
そのまま彼は、勢いよく地面を蹴って前進する。
「ハアァァァァッ!」
「ふんっ!」
一瞬の内に、開いた距離は詰められた。
その瞬間、互いに武器を振るう。
アンジールはリベリオンを。
カブトはクナイガンを。
伝説の魔剣士が愛用していた大剣と、マスクドライダー計画の産物である刃が激突した。
アンジールの得意とする、直線的な剛の戦術。
カブトの得意とする、力を受け流す柔の戦術。
対極に位置する二人は、それぞれ大剣と刃を交錯させる。
アンジールが力に任せて我武者羅に振るう度に、カブトは必要最低限の動きで受け流した。
先程から、何度もそれが繰り返されて行われている。
妹達に新たなる生を与えるため、カブトを倒そうとするアンジール。
離れ離れとなった仲間達と合流するため、アンジールを退かそうとするカブト。
その目的の為、純粋に戦う二人の闘士。
彼らが抱く信念は、とてもよく似ていた。
されど、その為に取る行動は、全く正反対。
彼らが武器を振るい、火花と金属音を辺りに散らし続けた。
(もう少しか)
その最中、カブトは考える。
キングが立つ場所まで、ほんの数メートルまで近づいていた。
これで、第二段階は完了。
残ったのは、あと一つだけ。
アンジールに隙を作らせること。
「ダアァァァァッ!」
「はあっ!」
暴風雨のように繰り出される斬撃を、クナイガンで防ぎ続ける。
機会が訪れないが、焦ってはいけない。
無理に踏み込もうとしては、返り討ちに遭う。
斜め上から袈裟斬りが来るが、身体を捻って紙一重の差で回避。
直ぐさまアンジールは、軌道を戻すように斬り返しを放った。
眼下より迫るリベリオンを、クナイガンで受け止める。
そして、横に飛んで距離を取った。
だが、アンジールの斬撃は終わらない。
彼は続くように、横胴斬りを放った。
リベリオンを振るった際に、大気が音を立てて震える。
カブトは再び、跳躍して回避した。
その直後、彼の立っていた位置に生えている木が、次々と倒れる。
この結果を見るに、威力がどれほど高いかを物語っていた。
けれども、臆することはしない。
(よし、見切った)
むしろ、ようやくチャンスが訪れた。
自分は今、アンジールの死角に立っている。
それに加えて、キングとの距離も近い。
行動するならば、今しかない。
カブトは脇腹に手を伸ばし、スイッチを叩いた。
「クロックアップ!」
『CLOCK UP』
二つの声が重なる。
その瞬間、カブトゼクターからタキオン粒子が噴出され、全身に流れ込んだ。
張り巡らされた血液と神経を通り、カブトの運動速度を劇的に上げる。
すると、周囲に存在していたあらゆる物質の存在が、スロー再生のように減速。
否、カブトだけがたった一人、光速での移動を行ったのだ。
機密組織ZECTが、ワームに対抗するために生み出した機能、クロックアップ。
それは使用者を通常とは、異なる時間流への突入を可能とさせるシステム。
しかしこの戦いでは、首輪の制限によって発動時間が短くなっており、使用後に疲労が溜まるように仕組まれている。
それ故に乱用が出来ず、タイミングを見極める必要があった。
カブトはアンジールの手を掴み、リベリオンを奪い取る。
そのままキングの方に振り向いて、勢いよく投降した。
(クロックアップの時間は短い。ならばこれしかないな)
残り時間、五秒。
リベリオンが空中で一直線に進む中、カブトも走り出す。
銀色の大剣は、キングが被るゼロの仮面に突き刺さろうとした。
しかしその瞬間、虚空より障壁が現れる。
それはキングの能力によって、自動的に生まれる盾、ソリッドシールド。
如何に優れた切れ味を誇るリベリオンといえど、貫くことは出来ない。
金属音と同時に勢いを失い、ゆっくりと落下を始めた。
キングを守ったソリッドシールドは、未だ顕在している。
(これでいい)
しかし、これは想定の範囲内。
キングにダメージを与えることが、目的ではない。
残り時間、四秒。
ソリッドシールドは、顔面の前でゆっくりと収縮していく。
カブトはその間に、地面を蹴って全力で駆け抜けた。
キングとの距離は一瞬で、埋まる。
「ふんっ!」
残り時間、三秒。
クナイガンを構えて、横一文字に振るう。
その狙いは、キングが握るデイバッグの肩紐。
荷物が入った場所から切断し、その中の一つを掴む。
これは今まで探していた、目的のデイバッグ。
とても遅いスピードでだが、表面は蠢いている。
(当たりか)
残り時間、二秒。
直ぐさまカブトは、キングの元から離脱を開始する。
他のデイバッグも奪うべきだったが、そんな暇はない。
残り時間、一秒。
彼は瞬時に木の裏に隠れて、ファスナーを開く。
やはり、中に彼がいた。
『CLOCK OVER』
クロックアップの終了を告げる、音声が流れる。
その瞬間、カブトの体感時間は通常の物へと戻った。
証拠に、何かが地面に落下するような音が、後ろより聞こえる。
だが、そんなことはどうでもいい。
カブトの意識は、デイバッグの中に閉じこめられていた仲間の方に向いていた。
雪のように白い肌、紫色に染まった背中、頭部から伸びた角、それに巻かれたリング、小さな二つの翼。
高町なのはのパートナーである飛竜、フリードリヒ。
「大丈夫か」
『キュ~!』
カブトの言葉に、フリードは笑顔で返す。
これなら、大丈夫だ。
見たところ、何処にも怪我はない。
その手からすぐに、フリードを離す。
無事を確認し、本来ならば安堵すべきだが、そんな暇はない。
「奴らは俺が叩き潰す。お前は早く行け」
『キュックル~』
「高町達は向こうだが、注意しろ。妙な爆発が起こって、散り散りとなった」
フリードは頷き、カブトに背を向ける。
そのまま、空へと羽ばたいた。
一瞬の内にフリードの背中が小さくなり、木々の間へと消えていく。
見えなくなった瞬間、カブトは物陰から姿を現した。
戻った先では、キングとアンジールの二人が、こちらに視線をぶつけている。
「やってくれるじゃないか、カブト」
黒い仮面の下から、声が発せられた。
変声機で低く聞こえるが、怒りが込められているのを感じる。
その足下には、紐の千切れたデイバッグが全て、転がっていた。
「ゲームのルールを守らずに、私に攻撃して景品だけを奪うとはね……」
「それがどうした」
キングの言葉を、カブトはあっさりと遮る。
もうこれ以上、茶番に付き合うつもりは毛頭無い。
減らず口も、言わせる気がなかった。
「おばあちゃんが言っていた」
カブトは、声に力を込める。
彼の脳裏には、おばあちゃんから教わった偉大な教えが、蘇っていた。
それをキングに言い聞かせるため、言葉を続ける。
「まずい飯屋と、悪の栄えた試しはない…………ってな」
これが示す意味は、言葉の通り。
半端な料理しか作れない飯屋は、一度たりとも栄光を掴めないこと。
そしてもう一つ。
世界を作り続けてきた長い歴史の中で、悪が未だかつて勝利を果たしていないこと。
その言葉をぶつけられた事により、キングは仮面の中で表情を顰めた。
彼は今、カブトに対する強い苛立ちを感じている。
最初はあのベルトを浅倉に渡し、人々を守れなくした。
キャロ・ル・ルシエを暗黒道に落とし、如何に無力な存在であるかを分からせようとした。
C.C.やシェルビー・M・ペンウッドの命を奪い、絶望させようとした。
フリードを人質にとって、正義の味方を気取るあの男に人殺しをさせようとした。
ハイパーゼクターを破壊した時の、反応に期待していた。
(気に入らないなぁ…………)
だが、どれも自分が満足できる結果にまで、至らない。
それどころか、カブトにとって都合のいいように動いている。
クロックアップをし、アンジールが使う剣を自分に投げて、ソリッドシールドが形成された隙を付いた。
これはオートで出現するが、逆に仇となるなんて。
視界を防ぐ為に、わざわざ自分の所まで近づくよう戦っていたのか。
たかが人間の分際で、小細工を仕掛けるなんて。
そして最強の王である自分に、ここまで逆らうなんて。
もはや、我慢の限界だ。
「どうやら、君にはお仕置きが必要みたいだね」
キングは、一歩だけ前に踏み出す。
リベリオンを拾ったアンジールは、それを制止しようとした。
「待て、奴の相手は俺がすると――――」
「奴はゲームのルールを破った、もうこれ以上遠慮をするつもりはない」
しかし、彼の言葉はあっさりと流される。
その瞬間、キングの身体から黄金の光が放たれ、姿を変えていった。
漆黒の衣装は、瞬く間に消えていく。
キングは、コーカサスオオカブトの始祖たる、異形の姿に変貌を果たした。
アンデッドと呼ばれる、異形の怪物へと。
カブト虫を連想させる額から伸びた角、黄金色に輝く外骨格、全身から突き出した禍々しい棘、腰に顕在するバックル。
今のキングは、他のアンデットより遙かに優れた能力を持つ、上級アンデットの一体だった。
その名を、コーカサスビートルアンデッド。
(アンジールにはバレるけど…………まあ、いっか)
もはや、こうなった以上関係ない。
カブトは。いや、天道総司はこの手で叩き潰さなければ、気が済まない。
もしもアンジールが真実を知り、自分に刃向かおうというなら、始末すればいいだけだ。
ふと、ヒビノ・ミライの事を思い出す。
奴もウルトラマンメビウスに変身し、自分の知らない攻撃を使った。
あの時は屈辱を覚えたが、今回は違う。
ハイパーカブトになる為の道具は、この手で壊してやった。
メビウスの時のようなことは、もう起こらない。
元々二対一で戦う予定だった。
だから、丁度いい。
コーカサスビートルアンデッドはカブトを睨みながら、額に手を当てる。
そのまま、両手に武装を出現させた。
右手には、あらゆる物質を両断する破壊剣、オールオーバーを。
左手には、百五十トンもの衝撃に耐える盾、ソリッドシールドを。
それぞれ握り、コーカサスビートルアンデッドは構えた。
冷酷な輝きを放つ破壊剣を、カブトに向ける。
「第二ラウンドの、始まりだね」
緑色の瞳からは、確実な殺意が感じられた。
されど、それに押し潰されることはない。
カブトもまた、その瞳から覇気を放っていた。
人数で不利に陥ろうとも、関係ない。
自分の使命はただ一つ。
天の道を往き、目の前の敵を倒すことだ。
コーカサスビートルアンデッドは装備を構えながら、一歩一歩近づいてくる。
カブトはクナイガンを構えながら、それに迎え撃った。
◆
(あれが、ゼロの本当の姿か)
黄金色の異形、コーカサスビートルアンデッドへと姿を変えたキングを、アンジールは目撃する。
その姿は、まるで自分が元いた世界に生息する、モンスターのようだ。
天道との決着を付けようとしたが、奴はそれを無視している。
きっかけはついさっき、敵があの超高速移動を使ったときのこと。
自分から剣を奪うと、キングの方へ投げた。
発生した盾で視界を覆った隙を付いて、あの白い竜を解放する。
正直な所、フリードが逃げられたとしても、アンジールからすればどうでもよかった。
気にくわない男の荷物が無くなったところで、こちらの知ったことではない。
カブトとコーカサスビートルアンデッドが刃をぶつけ、火花を散らす中、アンジールは考えていた。
そして、奴らは鍔迫り合いの体制に入る。
「アンジール、お前はそれで良いのか」
そんな中、カブトの声が聞こえた。
コーカサスビートルアンデッドを押して、剣戟を交わす。
すぐに距離を取って、言葉を続けた。
「このままキングの操り人形のまま、終わるつもりか」
「何……!?」
「こいつの元に付いたところで、天は微笑まない」
その声は、アンジールの心に突き刺さる。
確かに、このまま手駒となったところで、妹達が生き返るとは限らない。
むしろその可能性は、限りなく低いだろう。
あの姿に変わった途端、一気に口調が変わった。
威厳で満ちた声から、まるで我が儘な子どもを思わせる声に。
(やはり、奴は俺を騙している……?)
アンジールはその可能性を、思いついた。
先程考えていたように、クアットロを殺したのはキングである可能性を。
そして、このまま奴の言いなりになればどうなるか。
協力したところで、道化のままで終わることもあり得る。
別にキングを、心から信頼しているわけではない。
それどころか、時間と共に疑念が強くなる。
「そんな戯言を言って、どうするのかな?」
アンジールが考える最中、新たな声が響いた。
その主であるコーカサスビートルアンデッドは、オールオーバーを横に振るう。
標的となったカブトは、クナイガンでそれを受け止めた。
青白い火花が、闇の中で飛び散る。
一瞬だけ光が灯ると、コーカサスビートルアンデッドはアンジールに振り向いた。
「アンジール、何をしてるの」
異形の瞳と、目線が合う。
コーカサスビートルアンデッドが乱入してから、アンジールは一切動いていなかった。
何故カブトと戦わないのかは、彼自身分かっていない。
自分に命令する、コーカサスビートルアンデッドへの反抗心か。
それとも、横槍を入れられたことで興が醒めたのか。
もしくは二対一で決着を付けるのを、プライドが許さないのか。
「君は妹達を生き返らせたいんでしょ。だったら、一緒にあいつを倒そうよ」
コーカサスビートルアンデッドは、淡々と言い放つ。
その瞬間、彼の中でクアットロの最後の姿が、一気に蘇った。
自分が死んでも、アンジールが生き返らせると、クアットロは言った。
そして、チンクやディエチもそれを望んでいると、クアットロは言った。
その為にやる事は、この戦いで優勝して願いを叶えること。
「…………そうだったな」
アンジールはリベリオンを構えて、コーカサスビートルアンデッドに答える。
そうだ、今やるべき事は迷うことではない。
目の前の敵、カブトを倒すこと。
その為ならば、夢も誇りも全部捨てて、参加者を皆殺しにする。
もしもコーカサスビートルアンデッドが裏切るのなら、殺せばいいだけのことだ。
人形になった所で、後悔など無い。
それが妹達の為に出来る、唯一の選択だ。
自らにそう言い聞かせて、アンジールは走る。
そして、リベリオンを振りかぶった。
◆
(なるほど、やってくれるじゃないか。天道総司)
カブトとアンジールの戦いに、コーカサスビートルアンデッドが乱入する光景を、一人の男が眺めている。
身に纏うのは、黄色のハイネックと黒いジャケット。
その顔には、銀縁の眼鏡を掛けている。
理知的な雰囲気を漂わせるその男の名は、金居。
上級アンデッドの中でも、ダイヤスートのカテゴリーキングに位置する。
先程から金居は、何とかキングを戦場に引きずり出せないかと、策を練っていた。
だが、その手間はすぐに省ける。
カブトの手によって、何とあのキングの方から、自ら戦いの場に出たのだ。
理由は単純。
キングのバッグを奪い、その中に閉じこめられていた白い竜を、カブトが逃がしたから。
それで何故戦場に出たのかは分からないが、キングはアンデッドへと姿を変える。
この結果だけでも、金居にとっては充分。
(わざわざ俺の手間を省いてくれるとはね…………礼を言うよ)
思考を巡らせる必要すら、無かったとは。
その事に笑みを浮かべながら、心の中で呟く。
無論、アンデッドである金居が、人間に対して感謝などしない。
彼にとって、あの戦場で戦っている三人は、ただの駒。
自分の都合のいいように動く、哀れな者達にしか見えなかった。
(まあ、後は待つしかないか)
とにかく、やるべきことはもう無い。
あとは勝手に潰し合って、倒れるのを待つだけだ。
もし、仮に誰か一人でも生き残ったとしよう。
実力者同士の戦いなら、消耗は避けられないはずだ。
そうなったら、こちらから楽にしてやればいい。
デザートイーグルで狙撃するか。
それとも、アンデットとなって殺害するか。
物陰から戦場を眺める金居は、口元を歪めながら思考する。
(精々頑張ってくれよ、俺は応援してるからな)
誰にも気づかれないように、侮蔑の言葉を投げた。
自分にとって都合のいい出来事が、ここまで続くなんて。
金居自身、予想していなかった。
彼は声を漏らさぬよう、笑みを浮かべ続ける。
あの三人の中で、果たして誰が一番長く耐えるか。
ふと、金居は思うようになる。
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|~|キング|Next:[[解ける謎!!(後編)]]|
|~|金居|Next:[[解ける謎!!(後編)]]|
*解ける謎!!(前編) ◆LuuKRM2PEg
現在時刻、黎明。
暗闇に覆われた森の中を、二つの影が駆け抜けていた。
互いを敵と認識し、睨み合っている。
そして、銀色の輝きを放つ刃を、彼らは振るった。
瞬き一つの時間が経過した後、激突する。
接触面から火花が飛び散り、周囲を照らした。
それと同時に、甲高い音が彼らの鼓膜を刺激する。
木々の間に光が灯ったことで、姿が浮かび上がった。
一人は、重厚感溢れる銀色の鎧に身を包んだ、天道総司のもう一つの姿。
水色の輝きを放つ単眼、額からVの字に伸びたアンテナ、右肩に刻まれたゼクトマーク、腰のベルトに装着されたカブトゼクター、下半身を守る黒いスーツ。
『光を支配せし太陽の神』と呼ばれる仮面ライダーカブトの第一形態、マスクドフォーム。
対峙するのは、反逆の名が付けられた剣、リベリオンを構える屈強な戦士。
その背中からは白い片翼を生やし、肉体を黒い装甲で覆っている。
ソルジャー・クラス1St、アンジール・ヒューレー。
深い森の中で、一陣の風が吹き荒れている。
それは、自然現象によって生まれる物ではなかった。
百戦錬磨の戦士たる彼らの手によって、起こされている。
互いに武器を振るい、互いに攻撃を回避し、互いに闘気を向けた。
二人の戦士が繰り広げる戦いに巻き込まれて、木々は次々と折られる。
一本は刃によって、一本は魔法によって生まれた炎によって、一本は銃弾によって。
次々に大木が倒れたことで、地面に振動が生まれる。
枝から振る木の葉は、風で舞っていた。
しかし、瞬時に両断されてしまう。
戦士達には、それは空気にも等しい存在。
故に、気を止める必要はなかった。
「はあっ!」
「オオオオオオオッ!」
そして今もまた、彼らは得物を振るい続ける。
カブトのかけ声と、アンジールの雄叫びは重なった。
互いに凄まじい勢いで、刃を交えた。
カブトは下から掬い上げるように、斧の形状へと変えたカブトクナイガンを振るう。
アンジールは上から両断するように、リベリオンを振り下ろす。
瞬時に激突し、火花が飛び散った。
激突音が鳴った瞬間、互いの身体に衝撃が伝わる。
腕に僅かな痺れを感じる中、彼らは同時に背後へ跳躍。
数メートルほどの距離を下がり、着地した。
そして、二人は地面を蹴って距離を詰め、武器を振るう。
(やはり、一筋縄ではいかないか)
カブトクナイガンを振るう中、カブトは考えた。
目の前で対峙する男、アンジールとはこれで三度目の戦いとなる。
一度目は、スーパーの前で突然の襲撃を受けたことから、始まった。
二度目は、キングが下らないゲームとやらの開催宣言から、始まった。
しかし、どちらも決着を付けるまでには、至らない。
前者の戦いは、銀色の戦士が乱入したことで、膠着状態に繋がることで終わった。
後者の戦いは、高町なのはを守りながらキングとアンジールの二人を同時に相手にするのが、不可能と判断して撤退した。
そして今、この森の中で三度目の戦いに突入している。
(奴は確実に、俺の手の内を読んでるな……)
この戦いにおける不安要素。
それは、自分との戦闘経験が二度もあること。
アンジールとの激闘で、こちらはキャストオフとクロックアップの機能を使った。
加えて、こちらの戦闘パターンを見ている。
これら二つが示すこと。
手の内が全て、相手に知れ渡っていることだ。
これほどの達人ならば、対抗策を考えているはず。
(恐らく奴は、まだ何か手があるだろう)
自分も、アンジールとの戦いは経験済み。
その結果、戦法及び炎や氷を放出する魔法を使うことを、知ることが出来た。
だが、それはほんの一部という可能性がある。
二度に渡る戦いでは使っていなかった技も、存在するかもしれない。
そして、最大の武器であるハイパーゼクターも、先程キングによって破壊されてしまっている。
しかし不安に溺れたり、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。
どんな隠し技があろうとも、ハイパーフォームになれなくても、アンジールを打ち破る。
今やるべき事は、これ一つだけだ。
「ハアッ!」
カブトの右肩を目がけて、アンジールはリベリオンを振るう。
だが、それが当たることはない。
鎧が斬られようとした瞬間、カブトは後ろに飛び退く。
この行為によって、リベリオンは地面を少し抉るだけに終わった。
そして、アンジールに微かな隙が出来る。
カブトがそれを見逃すことはなかった。
彼は地面に着地すると、拳銃を持つようにカブトクナイガンを構え直す。
握る右手をアンジールに向けて、トリガーを引いた。
銃口が輝くと同時に、イオンを原料とした高エネルギーのビームが、放たれる。
「チッ!」
だが、アンジールはただでやられる訳ではない。
迫り来る光の弾丸を前に、突進を開始した。
自らの姿勢を低くしながら、彼はリベリオンを構える。
そして、イオンビームを切り裂いた。
カブトとの距離を詰めながら、大剣を振る。
横に一閃。弾丸は真っ二つに分かれて、アンジールの横を通り過ぎた。
縦に一閃。弾丸を構成する物質が、呆気なく吹き飛ばされる。
斜めに一閃。弾丸の軌道を強制的に変え、背後の地面に着弾させた。
その際に生じる爆風で、アンジールは自らの速度を上昇させる。
刃で銃弾を弾くという、あまりにも常軌を外れた行為。
しかしソルジャーとして、多くの戦場を乗り越えたアンジールには、造作もない事だった。
高速の勢いで放たれる弾丸を、次々とリベリオンで弾いていく。
やがてアンジールは、カブトの目前にまで迫った。
「ダアッ!」
横薙ぎにリベリオンを振るう。
この勢いには流石のカブトも対抗できず、胸板を切り裂かれた。
未知の金属、ヒヒイロノカネで構成された鎧に傷を付け、火花が飛び散る。
アンジールが与えた一撃を受けて、カブトは後ろへ吹き飛んだ。
そのまま彼の身体は、背中から大木へ叩きつけられる。
「がっ…………!」
痛みを感じて、呻き声を漏らした。
やはり、アンジールは強い。
防御力に特化したマスクドフォームの鎧に、こうも易々と傷を付けるほどの怪力。
加えて、クロックアップを用いた連係攻撃に対抗できるほどの、反射神経。
スーパーで繰り広げた戦いでも感じたが、ただ者ではない。
カブトは体勢を立て直しながら、改めて思う。
その最中に、アンジールは既に追撃を加えるために、迫っていた。
彼は両手でリベリオンを、頭上に掲げる。
標的となったカブトは、クナイガンを再びアックスモードの形で構えた。
刹那、二人の武器は激突し、鍔迫り合いの体制に入る。
互いに押し合い、力の拮抗が始まった。
視線がぶつかる中、カブトは呟く。
「甘いな」
「何?」
彼の右腕が、腰に伸びた。
そしてその手で、カブトゼクターの角を掴む。
それを見たアンジールは目を見開くと、すぐさま後ろに飛んだ。
彼は激情のあまりに、失念していたのだ。
先程この目で見た、天道が身に纏う鎧が持つ機能を。
距離を取ろうとするが、もう遅い。
「キャストオフ!」
『CAST OFF』
力強い宣言と共に、ゼクターホーンを反対側へ倒す。
すると、主の言葉に応えるかのように、カブトゼクターから電子音声が発せられた。
中心部が輝きを放ち、全身に電流が迸る。
その直後、全身を守る銀色の装甲は、勢いよく弾け飛んだ。
頭部、両腕、胴体の順番に。
これは、マスクドライダーシステムに搭載されている、キャストオフと呼ばれる機能。
カブトの身体から生まれた衝撃波と、辺りに散らばっていく鎧はアンジールの身体に激突した。
後方に吹き飛んでいくも、純白の翼を羽ばたかせる。
彼は空中で後ろ向きに一回転し、体制を整えながら地面に着地。
一方で、キャストオフを行ったカブトの顎から、一本の角が力強くせり上がる。
単眼を複眼に変えると、その輝きが更に強くなった。
『CHANGE BEETLE』
新たなる形態に変えたことを示す、声が響く。
太陽のように赤く彩られる鎧、カブト虫を思わせる額から伸びた角、闇の中で強い輝きを放つ瞳。
それは俊敏性に優れた、仮面ライダーカブトのもう一つの姿。
ライダーフォームの名を持つ形態へと、変身を果たした。
重厚な鎧を脱ぎ捨てたことで、身が軽くなるのをカブトは感じる。
そのままクナイガンから鋭利な刃を出し、持ち方を変えた。
イオンが纏われた黄金の刃が輝く、クナイモードの形状へと。
カブトとアンジールは、互いに睨み合う。
数秒の時間が経過した後、一陣の微風が彼らの間に吹いた。
それがゴングとなるように、二人は同時に地面を蹴る。
「「ハアッ!」」
掛け声が、重なった。
それはまるで、初めて繰り広げた戦いのように。
突進を開始した彼らの刃は、すぐに激突する。
微かな火花が闇を照らし、激突音が木々の間に流れた。
剣戟を振るう度に、腕から衝撃が伝わる。
カブトはクナイガンを振るうが、アンジールはそれを防いだ。
アンジールはリベリオンを振るうが、カブトはそれを弾いた。
この場で行われている、己を鍛え抜いた達人同士の戦い。
どちらも、なかなか決定打を放てないでいた。
何度目かの激突の後、互いに距離を取る。
(何処だ……何処にいる?)
不意に、カブトはアンジールの背後に視線を向けた。
その先には、漆黒のマスクと衣装、そしてマントに身を包み、魔王ゼロを演じているキングが立っている。
右手には、自分やなのはから奪い取ったデイバッグが、いくつもあった。
あの中の一つに、閉じこめられているはず。
こんな下らない戦いの、ゲームマスターを気取りたければ、勝手にすればいい。
キングの定めたルールがまだ残っているなら、生きているはず。
「デヤアッ!」
しかし、そちらにばかり意識を向けていられない。
目の前には、強敵であるアンジールがいる。
こちらの相手と、彼の捜索。
少々骨が折れるが、やれないことはない。
アンジールの刃を捌きながら、探せばいいだけのこと。
迫り来るリベリオンを、カブトはクナイガンで防ぐ。
だが、このまま力比べに持ち込むつもりはない。
腕力では、アンジールの方に分がある。
まともに正面からぶつかっても、勝てるわけがない。
カブトは横に飛んで、大剣を受け流した。
そして、ほんの僅かにキングへ近づく。
(いるはずだ……)
カブトは、一瞬だけ視線を横に向けた。
キングの手にあるデイバッグは、何も変わる気配がない。
それを察すると、再びアンジールの方に振り向いた。
「ハアァァァッ!!」
この僅かな時間で、敵は既に目前まで迫っている。
それが視界に映った瞬間、アンジールの姿が消えた。
突然すぎる出来事だが、カブトは狼狽えない。
彼は、すぐさま上空に顔を向ける。
すると、一瞬の内に十メートルを超える高さに跳び上がっている、アンジールが見えた。
相手は空中でこちらを見下ろしながら、右腕を向ける。
「サンダガッ!」
アンジールは、マテリアルパワーを集中させた。
そして手の平を地面に向け、言葉を紡ぐ。
最上級の位が与えられた、必殺の魔法を放つために。
その直後、カブトに向かって雷が降り注ぎ、轟音が鳴り響いた。
サンダガの影響に伴い、周囲が眩い光で覆われる。
天空より襲いかかる雷によって、カブトは目を細めた。
「くっ…………!」
アンジールが使った魔法は、周囲を容赦なく破壊する。
地面は砕かれ、雑草は黒く焦げて、木々はあっという間に燃え尽きた。
雷による爆音は闇の中で響き、カブトの身体に直撃する。
衝撃は感じるが、熱は内部に届かない。
マスクドライダーを構成するパーツの一つに、サインスーツが存在する。
あらゆる衝撃から資格者を守る耐久性。
五千度から絶対零度まで、広い温度に対する守備範囲。
これら二つの特性によって、サンダガのダメージは装着する天道には響かない。
しかし、彼の中で疑問が芽生えた。
これは自分の知らない、アンジールの技の一つか。
だが、マスクドライダーの鎧に魔法攻撃が通じないことは、先の戦いで経験したはず。
それなのに、何故使ったのか。
精々、視界を遮ることしか出来ていない。
(…………そういうことか!)
カブトは、答えを見つける。
仮面の下で、彼は目を見開いた。
その途端、上空よりリベリオンを構えながら、急降下に迫るアンジールの姿を見つける。
これほどの達人が、何の考えもなしに技を使うわけがない。
雷の魔法を使った意図は、単なる目くらましの為。
視界が不安定となり、硬直した隙を付いて一閃を放つことが、本当の目的だ。
このまま真っ正面に攻撃を受けるのは、拙い。
元々の鍛え抜かれた筋力に、空からの落下スピードが加算される。
そうなっては、マスクドライダーの鎧でも耐えられるかどうか。
「オオオオオォォォォォッ!」
咆吼と共に、アンジールは突進する。
この勢いでは、回避が不可能。
リベリオンの標的となったカブトは、左に飛びながらクナイガンを構える。
そして、互いに武器を振るった。
激突によって音が生じ、空気が震える。
その衝撃によって、カブトは僅かに蹌踉めき、後退った。
直撃は避けられたとはいえ、アンジールの力を全て受け流すことは、流石に出来ない。
腕に痺れを覚えながらも、彼は身体を反転させた。
そのまま、敵の方に振り向く。
すると、アンジールが突きを繰り出す姿が、目に映った。
「ッ!?」
直後、胸に衝撃が走る。
攻撃を受け、少し吹き飛ばされるも、すぐに体勢を立て直して後ろに飛ぶ。
カブトはキングに近づくように、アンジールと距離を取った。
痛みを感じるが、この程度は何て事もない。
彼はもう一度、王を気取る観戦者の方に振り向いた。
キングが持っている、五つのデイバッグ。
その中に一つだけ、異様に膨らんでいる物がある。
まるで何かが暴れているかのように、表面が蠢いていた。
(あそこか)
カブトは確信する。
あのデイバッグに、閉じこめられている事を。
これで、第一段階は終了。
次にやることは、悟られないようにキングに出来る限り近づくことだ。
その為には、この戦いを続けなければならない。
「ダアッ!」
アンジールの握る剣が、カブトに襲いかかる。
軌道を読み取り、クナイガンで防いだ。
そこから力比べに入る前に、カブトは横に回り込んで敵の一撃を受け流す。
勢いを止めることが出来ずに、アンジールの体勢がほんの少しだけ不安定となった。
生まれた隙を付き、カブトは左足を軸にした鋭い回し蹴りを放つ。
だが、アンジールはリベリオンを掲げて、それを受け止めた。
七トンもの衝撃によって両腕に痺れを感じ、数歩分後退してしまう。
しかし、アンジールはすぐにリベリオンを構え直し、カブトを睨んだ。
そのまま彼は、勢いよく地面を蹴って前進する。
「ハアァァァァッ!」
「ふんっ!」
一瞬の内に、開いた距離は詰められた。
その瞬間、互いに武器を振るう。
アンジールはリベリオンを。
カブトはクナイガンを。
伝説の魔剣士が愛用していた大剣と、マスクドライダー計画の産物である刃が激突した。
アンジールの得意とする、直線的な剛の戦術。
カブトの得意とする、力を受け流す柔の戦術。
対極に位置する二人は、それぞれ大剣と刃を交錯させる。
アンジールが力に任せて我武者羅に振るう度に、カブトは必要最低限の動きで受け流した。
先程から、何度もそれが繰り返されて行われている。
妹達に新たなる生を与えるため、カブトを倒そうとするアンジール。
離れ離れとなった仲間達と合流するため、アンジールを退かそうとするカブト。
その目的の為、純粋に戦う二人の闘士。
彼らが抱く信念は、とてもよく似ていた。
されど、その為に取る行動は、全く正反対。
彼らが武器を振るい、火花と金属音を辺りに散らし続けた。
(もう少しか)
その最中、カブトは考える。
キングが立つ場所まで、ほんの数メートルまで近づいていた。
これで、第二段階は完了。
残ったのは、あと一つだけ。
アンジールに隙を作らせること。
「ダアァァァァッ!」
「はあっ!」
暴風雨のように繰り出される斬撃を、クナイガンで防ぎ続ける。
機会が訪れないが、焦ってはいけない。
無理に踏み込もうとしては、返り討ちに遭う。
斜め上から袈裟斬りが来るが、身体を捻って紙一重の差で回避。
直ぐさまアンジールは、軌道を戻すように斬り返しを放った。
眼下より迫るリベリオンを、クナイガンで受け止める。
そして、横に飛んで距離を取った。
だが、アンジールの斬撃は終わらない。
彼は続くように、横胴斬りを放った。
リベリオンを振るった際に、大気が音を立てて震える。
カブトは再び、跳躍して回避した。
その直後、彼の立っていた位置に生えている木が、次々と倒れる。
この結果を見るに、威力がどれほど高いかを物語っていた。
けれども、臆することはしない。
(よし、見切った)
むしろ、ようやくチャンスが訪れた。
自分は今、アンジールの死角に立っている。
それに加えて、キングとの距離も近い。
行動するならば、今しかない。
カブトは脇腹に手を伸ばし、スイッチを叩いた。
「クロックアップ!」
『CLOCK UP』
二つの声が重なる。
その瞬間、カブトゼクターからタキオン粒子が噴出され、全身に流れ込んだ。
張り巡らされた血液と神経を通り、カブトの運動速度を劇的に上げる。
すると、周囲に存在していたあらゆる物質の存在が、スロー再生のように減速。
否、カブトだけがたった一人、光速での移動を行ったのだ。
機密組織ZECTが、ワームに対抗するために生み出した機能、クロックアップ。
それは使用者を通常とは、異なる時間流への突入を可能とさせるシステム。
しかしこの戦いでは、首輪の制限によって発動時間が短くなっており、使用後に疲労が溜まるように仕組まれている。
それ故に乱用が出来ず、タイミングを見極める必要があった。
カブトはアンジールの手を掴み、リベリオンを奪い取る。
そのままキングの方に振り向いて、勢いよく投降した。
(クロックアップの時間は短い。ならばこれしかないな)
残り時間、五秒。
リベリオンが空中で一直線に進む中、カブトも走り出す。
銀色の大剣は、キングが被るゼロの仮面に突き刺さろうとした。
しかしその瞬間、虚空より障壁が現れる。
それはキングの能力によって、自動的に生まれる盾、ソリッドシールド。
如何に優れた切れ味を誇るリベリオンといえど、貫くことは出来ない。
金属音と同時に勢いを失い、ゆっくりと落下を始めた。
キングを守ったソリッドシールドは、未だ顕在している。
(これでいい)
しかし、これは想定の範囲内。
キングにダメージを与えることが、目的ではない。
残り時間、四秒。
ソリッドシールドは、顔面の前でゆっくりと収縮していく。
カブトはその間に、地面を蹴って全力で駆け抜けた。
キングとの距離は一瞬で、埋まる。
「ふんっ!」
残り時間、三秒。
クナイガンを構えて、横一文字に振るう。
その狙いは、キングが握るデイバッグの肩紐。
荷物が入った場所から切断し、その中の一つを掴む。
これは今まで探していた、目的のデイバッグ。
とても遅いスピードでだが、表面は蠢いている。
(当たりか)
残り時間、二秒。
直ぐさまカブトは、キングの元から離脱を開始する。
他のデイバッグも奪うべきだったが、そんな暇はない。
残り時間、一秒。
彼は瞬時に木の裏に隠れて、ファスナーを開く。
やはり、中に彼がいた。
『CLOCK OVER』
クロックアップの終了を告げる、音声が流れる。
その瞬間、カブトの体感時間は通常の物へと戻った。
証拠に、何かが地面に落下するような音が、後ろより聞こえる。
だが、そんなことはどうでもいい。
カブトの意識は、デイバッグの中に閉じこめられていた仲間の方に向いていた。
雪のように白い肌、紫色に染まった背中、頭部から伸びた角、それに巻かれたリング、小さな二つの翼。
高町なのはのパートナーである飛竜、フリードリヒ。
「大丈夫か」
『キュ~!』
カブトの言葉に、フリードは笑顔で返す。
これなら、大丈夫だ。
見たところ、何処にも怪我はない。
その手からすぐに、フリードを離す。
無事を確認し、本来ならば安堵すべきだが、そんな暇はない。
「奴らは俺が叩き潰す。お前は早く行け」
『キュックル~』
「高町達は向こうだが、注意しろ。妙な爆発が起こって、散り散りとなった」
フリードは頷き、カブトに背を向ける。
そのまま、空へと羽ばたいた。
一瞬の内にフリードの背中が小さくなり、木々の間へと消えていく。
見えなくなった瞬間、カブトは物陰から姿を現した。
戻った先では、キングとアンジールの二人が、こちらに視線をぶつけている。
「やってくれるじゃないか、カブト」
黒い仮面の下から、声が発せられた。
変声機で低く聞こえるが、怒りが込められているのを感じる。
その足下には、紐の千切れたデイバッグが全て、転がっていた。
「ゲームのルールを守らずに、私に攻撃して景品だけを奪うとはね……」
「それがどうした」
キングの言葉を、カブトはあっさりと遮る。
もうこれ以上、茶番に付き合うつもりは毛頭無い。
減らず口も、言わせる気がなかった。
「おばあちゃんが言っていた」
カブトは、声に力を込める。
彼の脳裏には、おばあちゃんから教わった偉大な教えが、蘇っていた。
それをキングに言い聞かせるため、言葉を続ける。
「まずい飯屋と、悪の栄えた試しはない…………ってな」
これが示す意味は、言葉の通り。
半端な料理しか作れない飯屋は、一度たりとも栄光を掴めないこと。
そしてもう一つ。
世界を作り続けてきた長い歴史の中で、悪が未だかつて勝利を果たしていないこと。
その言葉をぶつけられた事により、キングは仮面の中で表情を顰めた。
彼は今、カブトに対する強い苛立ちを感じている。
最初はあのベルトを浅倉に渡し、人々を守れなくした。
キャロ・ル・ルシエを暗黒道に落とし、如何に無力な存在であるかを分からせようとした。
C.C.やシェルビー・M・ペンウッドの命を奪い、絶望させようとした。
フリードを人質にとって、正義の味方を気取るあの男に人殺しをさせようとした。
ハイパーゼクターを破壊した時の、反応に期待していた。
(気に入らないなぁ…………)
だが、どれも自分が満足できる結果にまで、至らない。
それどころか、カブトにとって都合のいいように動いている。
クロックアップをし、アンジールが使う剣を自分に投げて、ソリッドシールドが形成された隙を付いた。
これはオートで出現するが、逆に仇となるなんて。
視界を防ぐ為に、わざわざ自分の所まで近づくよう戦っていたのか。
たかが人間の分際で、小細工を仕掛けるなんて。
そして最強の王である自分に、ここまで逆らうなんて。
もはや、我慢の限界だ。
「どうやら、君にはお仕置きが必要みたいだね」
キングは、一歩だけ前に踏み出す。
リベリオンを拾ったアンジールは、それを制止しようとした。
「待て、奴の相手は俺がすると――――」
「奴はゲームのルールを破った、もうこれ以上遠慮をするつもりはない」
しかし、彼の言葉はあっさりと流される。
その瞬間、キングの身体から黄金の光が放たれ、姿を変えていった。
漆黒の衣装は、瞬く間に消えていく。
キングは、コーカサスオオカブトの始祖たる、異形の姿に変貌を果たした。
アンデッドと呼ばれる、異形の怪物へと。
カブト虫を連想させる額から伸びた角、黄金色に輝く外骨格、全身から突き出した禍々しい棘、腰に顕在するバックル。
今のキングは、他のアンデットより遙かに優れた能力を持つ、上級アンデットの一体だった。
その名を、コーカサスビートルアンデッド。
(アンジールにはバレるけど…………まあ、いっか)
もはや、こうなった以上関係ない。
カブトは。いや、天道総司はこの手で叩き潰さなければ、気が済まない。
もしもアンジールが真実を知り、自分に刃向かおうというなら、始末すればいいだけだ。
ふと、ヒビノ・ミライの事を思い出す。
奴もウルトラマンメビウスに変身し、自分の知らない攻撃を使った。
あの時は屈辱を覚えたが、今回は違う。
ハイパーカブトになる為の道具は、この手で壊してやった。
メビウスの時のようなことは、もう起こらない。
元々二対一で戦う予定だった。
だから、丁度いい。
コーカサスビートルアンデッドはカブトを睨みながら、額に手を当てる。
そのまま、両手に武装を出現させた。
右手には、あらゆる物質を両断する破壊剣、オールオーバーを。
左手には、百五十トンもの衝撃に耐える盾、ソリッドシールドを。
それぞれ握り、コーカサスビートルアンデッドは構えた。
冷酷な輝きを放つ破壊剣を、カブトに向ける。
「第二ラウンドの、始まりだね」
緑色の瞳からは、確実な殺意が感じられた。
されど、それに押し潰されることはない。
カブトもまた、その瞳から覇気を放っていた。
人数で不利に陥ろうとも、関係ない。
自分の使命はただ一つ。
天の道を往き、目の前の敵を倒すことだ。
コーカサスビートルアンデッドは装備を構えながら、一歩一歩近づいてくる。
カブトはクナイガンを構えながら、それに迎え撃った。
◆
(あれが、ゼロの本当の姿か)
黄金色の異形、コーカサスビートルアンデッドへと姿を変えたキングを、アンジールは目撃する。
その姿は、まるで自分が元いた世界に生息する、モンスターのようだ。
天道との決着を付けようとしたが、奴はそれを無視している。
きっかけはついさっき、敵があの超高速移動を使ったときのこと。
自分から剣を奪うと、キングの方へ投げた。
発生した盾で視界を覆った隙を付いて、あの白い竜を解放する。
正直な所、フリードが逃げられたとしても、アンジールからすればどうでもよかった。
気にくわない男の荷物が無くなったところで、こちらの知ったことではない。
カブトとコーカサスビートルアンデッドが刃をぶつけ、火花を散らす中、アンジールは考えていた。
そして、奴らは鍔迫り合いの体制に入る。
「アンジール、お前はそれで良いのか」
そんな中、カブトの声が聞こえた。
コーカサスビートルアンデッドを押して、剣戟を交わす。
すぐに距離を取って、言葉を続けた。
「このままキングの操り人形のまま、終わるつもりか」
「何……!?」
「こいつの元に付いたところで、天は微笑まない」
その声は、アンジールの心に突き刺さる。
確かに、このまま手駒となったところで、妹達が生き返るとは限らない。
むしろその可能性は、限りなく低いだろう。
あの姿に変わった途端、一気に口調が変わった。
威厳で満ちた声から、まるで我が儘な子どもを思わせる声に。
(やはり、奴は俺を騙している……?)
アンジールはその可能性を、思いついた。
先程考えていたように、クアットロを殺したのはキングである可能性を。
そして、このまま奴の言いなりになればどうなるか。
協力したところで、道化のままで終わることもあり得る。
別にキングを、心から信頼しているわけではない。
それどころか、時間と共に疑念が強くなる。
「そんな戯言を言って、どうするのかな?」
アンジールが考える最中、新たな声が響いた。
その主であるコーカサスビートルアンデッドは、オールオーバーを横に振るう。
標的となったカブトは、クナイガンでそれを受け止めた。
青白い火花が、闇の中で飛び散る。
一瞬だけ光が灯ると、コーカサスビートルアンデッドはアンジールに振り向いた。
「アンジール、何をしてるの」
異形の瞳と、目線が合う。
コーカサスビートルアンデッドが乱入してから、アンジールは一切動いていなかった。
何故カブトと戦わないのかは、彼自身分かっていない。
自分に命令する、コーカサスビートルアンデッドへの反抗心か。
それとも、横槍を入れられたことで興が醒めたのか。
もしくは二対一で決着を付けるのを、プライドが許さないのか。
「君は妹達を生き返らせたいんでしょ。だったら、一緒にあいつを倒そうよ」
コーカサスビートルアンデッドは、淡々と言い放つ。
その瞬間、彼の中でクアットロの最後の姿が、一気に蘇った。
自分が死んでも、アンジールが生き返らせると、クアットロは言った。
そして、チンクやディエチもそれを望んでいると、クアットロは言った。
その為にやる事は、この戦いで優勝して願いを叶えること。
「…………そうだったな」
アンジールはリベリオンを構えて、コーカサスビートルアンデッドに答える。
そうだ、今やるべき事は迷うことではない。
目の前の敵、カブトを倒すこと。
その為ならば、夢も誇りも全部捨てて、参加者を皆殺しにする。
もしもコーカサスビートルアンデッドが裏切るのなら、殺せばいいだけのことだ。
人形になった所で、後悔など無い。
それが妹達の為に出来る、唯一の選択だ。
自らにそう言い聞かせて、アンジールは走る。
そして、リベリオンを振りかぶった。
◆
(なるほど、やってくれるじゃないか。天道総司)
カブトとアンジールの戦いに、コーカサスビートルアンデッドが乱入する光景を、一人の男が眺めている。
身に纏うのは、黄色のハイネックと黒いジャケット。
その顔には、銀縁の眼鏡を掛けている。
理知的な雰囲気を漂わせるその男の名は、金居。
上級アンデッドの中でも、ダイヤスートのカテゴリーキングに位置する。
先程から金居は、何とかキングを戦場に引きずり出せないかと、策を練っていた。
だが、その手間はすぐに省ける。
カブトの手によって、何とあのキングの方から、自ら戦いの場に出たのだ。
理由は単純。
キングのバッグを奪い、その中に閉じこめられていた白い竜を、カブトが逃がしたから。
それで何故戦場に出たのかは分からないが、キングはアンデッドへと姿を変える。
この結果だけでも、金居にとっては充分。
(わざわざ俺の手間を省いてくれるとはね…………礼を言うよ)
思考を巡らせる必要すら、無かったとは。
その事に笑みを浮かべながら、心の中で呟く。
無論、アンデッドである金居が、人間に対して感謝などしない。
彼にとって、あの戦場で戦っている三人は、ただの駒。
自分の都合のいいように動く、哀れな者達にしか見えなかった。
(まあ、後は待つしかないか)
とにかく、やるべきことはもう無い。
あとは勝手に潰し合って、倒れるのを待つだけだ。
もし、仮に誰か一人でも生き残ったとしよう。
実力者同士の戦いなら、消耗は避けられないはずだ。
そうなったら、こちらから楽にしてやればいい。
デザートイーグルで狙撃するか。
それとも、アンデットとなって殺害するか。
物陰から戦場を眺める金居は、口元を歪めながら思考する。
(精々頑張ってくれよ、俺は応援してるからな)
誰にも気づかれないように、侮蔑の言葉を投げた。
自分にとって都合のいい出来事が、ここまで続くなんて。
金居自身、予想していなかった。
彼は声を漏らさぬよう、笑みを浮かべ続ける。
あの三人の中で、果たして誰が一番長く耐えるか。
ふと、金居は思うようになる。
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