Last update 2007年10月09日
永遠のメロディー・叢冥(そうめい) 著者:Clown
「ここでは殺気だけが人を引きつける……」
ソレは、俺に向けてこう手向けた。
「そして、殺意だけが……お前をお前たらしめる」
ソレは、俺の手の届かないところでそう嗤った。
「なら、俺はお前に向けて殺意を送ろう」
俺の言葉に、ソレはくつくつと笑みをこぼした。
何よりも浅いはずなのに、何よりも深い意味を含んだその笑みを、俺ははじき返した。
何よりも浅いはずなのに、何よりも深い意味を含んだその笑みを、俺ははじき返した。
それは、ただの強がりかも知れない。
しかしながら、それは確かに、俺を俺たらしめる所行であったのかも知れない。
この……煉獄よりも深い戦場では。
しかしながら、それは確かに、俺を俺たらしめる所行であったのかも知れない。
この……煉獄よりも深い戦場では。
ソレが俺の前に現れたのは、丁度3日前だったと記憶している。
黒装束に巨大な鎌なんて言うベタな格好をしているから、俺は一瞬部隊の誰かが悪ふざけでもしているのかと疑った。
だが、そうではなかった。
いや、いっそその方が幸せだったのかも知れない。
黒装束に巨大な鎌なんて言うベタな格好をしているから、俺は一瞬部隊の誰かが悪ふざけでもしているのかと疑った。
だが、そうではなかった。
いや、いっそその方が幸せだったのかも知れない。
「お前の命は後……130時間と13分だ」
「……なに?」
「……なに?」
唐突に死の宣告を突きつけたソレは、ぴくりとも動かずに俺の前に立ちふさがった。
俺は思わず聞き返したものの、そのあまりの荒唐無稽さに自分の頭を真っ先に疑った。
どうやら、俺は夢でも見ているらしい。
そう思い、俺は手近にあったバールで自分の頭を軽く叩いた。硬い金属の感触が頭蓋骨を振動させたが、それは同時に俺に痛みをもたらして過ぎた。
痛みを感じる。
どうやら、夢ではないらしい。
目の前のソレは黒装束を翻すと、背に負う鎌を俺の方に向け、切っ先を俺の襟元にあてがった。最早驚くことも億劫になった俺は、なされるままに鎌に身を預ける。
ソレは、こう言った。
そう思い、俺は手近にあったバールで自分の頭を軽く叩いた。硬い金属の感触が頭蓋骨を振動させたが、それは同時に俺に痛みをもたらして過ぎた。
痛みを感じる。
どうやら、夢ではないらしい。
目の前のソレは黒装束を翻すと、背に負う鎌を俺の方に向け、切っ先を俺の襟元にあてがった。最早驚くことも億劫になった俺は、なされるままに鎌に身を預ける。
ソレは、こう言った。
「お前には、契約する権利がある」
「……契約?」
「……契約?」
鸚鵡返しに、そう呟く。
「死に至るまでに、幾ばくかの望みを叶える契約を締結することが可能だ。勿論、死を先延ばしにすることは出来ない」
「……なるほどな」
「……なるほどな」
どうやらソレは、死神と言うよりも悪魔の類らしい。
この戦場で命を落とす俺の魂を、その場で奪い取るつもりのようだ。
俺は、思わず笑ってしまった。
幾多の戦場を乗り越え、その度に五体満足で生きて帰ってきた俺。次々と戦友が亡くなっていく間に、俺はいつしか自分が死神にでもなったような気分でいた。
他人の命を奪い続け、盾にし続けてきたこの俺は、正しくそうであったに違いない。
この戦場で命を落とす俺の魂を、その場で奪い取るつもりのようだ。
俺は、思わず笑ってしまった。
幾多の戦場を乗り越え、その度に五体満足で生きて帰ってきた俺。次々と戦友が亡くなっていく間に、俺はいつしか自分が死神にでもなったような気分でいた。
他人の命を奪い続け、盾にし続けてきたこの俺は、正しくそうであったに違いない。
だが、ここに本物の死神がいて、ソレが俺に問いかけている。
望みを言えと。
最早死んでも地獄にしか行き場所がないと思っていた俺に、そいつは「望め」と。
望みを言えと。
最早死んでも地獄にしか行き場所がないと思っていた俺に、そいつは「望め」と。
「さぁ、お前は何を望む?」
俺は、ソレの問いに、はっきりとこう答えた。
「俺は、全てを終わらせたい」
これまでの俺を。
これからの俺を。
全て終わらせて、処分して、真っ平らにしてしまいたい。
それが、俺の望み。
いつ殺されても良いと思っているのに、自分自身で死ぬことを恐れている、臆病な俺の最初で最後の望み。
130時間後などと気長なことを言わず、今すぐ俺を殺してくれ。
これからの俺を。
全て終わらせて、処分して、真っ平らにしてしまいたい。
それが、俺の望み。
いつ殺されても良いと思っているのに、自分自身で死ぬことを恐れている、臆病な俺の最初で最後の望み。
130時間後などと気長なことを言わず、今すぐ俺を殺してくれ。
「……ここでは、殺気だけが人を引きつける」
「?」
「?」
ソレの発した言葉に、俺は疑問符を浮かべた。
ここは、戦場だ。
ならば確かに、『殺気が人を引きつける』という表現は間違ってはいないだろう。
しかし、何を唐突に?
ここは、戦場だ。
ならば確かに、『殺気が人を引きつける』という表現は間違ってはいないだろう。
しかし、何を唐突に?
「そして、殺意だけがお前をお前たらしめている」
「……何が言いたい」
「……何が言いたい」
黒装束のすきまから伸び出た黒鎌が、俺の首から離れていく。
そして、ソレは俺の心臓を指さし、言い放った。
俺の出来ない、唯一のことを。
そして、ソレは俺の心臓を指さし、言い放った。
俺の出来ない、唯一のことを。
「お前がお前を殺めてしまえば、それで全部終わる」