Last update 2007年10月20日
Inspirationdetective noa 著者:フトン
「『ただただ、ぐるぐるぐるぐる』あたしはそうありたくてここに来たのに、例えばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を何でまだ持ってんの?」
その言葉は、深い闇の中静かに重く響いた。
「いやだ~~~~~~~!!!!」
私の叫び声は、長い廊下に響き渡った。
まるで猫のように襟口を捕まれ引きずられている私・・・
「乃亜。諦めろ!今日こそは手伝ってもらうぞ。」
私を引きずっているこの男!加住 憐は、それは美しい顔で私を見下ろした。
見た目はモデル並みに綺麗なこの男は、私の天敵!!
背も低く、幼児体系のこの私を、玩具かなんかと思っている。
大体、憐が一言声を掛ければ大抵の女の子が、二つ返事で手伝ってくれるのに何だかんだと私を使ってくる。その所為で受けたくもない嫌がらせを受ける毎日を送っていた私は、ここ何日か憐から逃げてたのに、今日は神様に見放されたのか・・・・しっかり捕まってしまった。
「離せ~~~!!悪魔~~~!!」
私の雄叫びなど物ともせずに憐は私をズルズル引きずったまま歩き続けた。
「俺から逃げようって考えが、無理なんだよ。諦めて手伝え!!」
・・・・・・・・
いやな奴!!嫌な奴!!!ほんとに悪魔じゃないの!
何でこんな奴がモテンノヨ!!
どんなに暴れたところで、149cmのチビ輔が175cm以上もあるサッカー部期待のホープに勝てるわけもなく・・・・
私は心の中で憐に悪態をつきながら、(ええ!めいっぱい!ついたわよ)引きずられていった。
★★★★★
連れてこられたのは、私とはまったく無縁の生徒会室だった。
中に入ると、生徒会長と副生徒会長が待ていた。
この学校でこの二人を知らない人間が居ないほど、彼らは有名人で思わず私はしり込みをした。
憐とはまた別の精悍な感じの美男子の会長に、この世にこんな美人が居ていいのかと思うほど(高校生にはみえないほど・・・)ユリの花の様な女性の副会長!!
普通に生活していたら絶対関わりがない二人だ!
その二人が私達が来るのを待っていたんだから驚いてしまう。
私は憐のわき腹をつついて小声で話しかけた。
「ちょっと、どういうことよ。」
憐はにやりと笑うと、会長に・・・
「連れてきたぜ。」
と軽い感じで合図した。
憐も侮れない!性格が悪いのを(私しか知らないけど・・)除けば、スーパー高校生だし・・・
この3人が知り合いだという事自体は、良く考えれば普通の事かもしれない・・・
なんかムカつくけど・・
「良く来てくれたね。花城 乃亜さん」
自分の名前を呼ばれて、思わず驚いてしまう。何で私の事なんて知っているのか・・
「加住君に話は聞いているよ。君に頼みたい事があるんだが・・」
私に頼み?
一体憐は会長に何を吹き込んだのか・・・・
「君には普通の人間には見えないものが見えるらしいね。」
そう言われて、私は目を見開いた。
憐の奴!!なんて事を、会長に話しているんだか!!横目で憐を睨み付ける。憐はそ知らぬ顔でニヤニヤ笑っている。
絶対こいつは悪魔だと確信した!
確かに私は、小さい時から不思議な体験をしてきた・・・でもそれは出来れば隠しておきたい事で・・・・
大体、憐の所為でそうじゃなくても災難な学園生活を送っているのに、これ以上自分を不利な立場に置きたくないという自今防衛だったのに・・・!!
こいつはそれを台無しにしやがった。
「最近学園内で、不思議な事件が起きているのは知っているよね。」
私は頷いた。確かに不思議な事が続いていた。
教室から、机がなくなっていたり・・・男子生徒が階段から落ちて、怪我をしたり・・・音楽室で人の悲鳴を聞いたとか・・
それらは全て、誰も居ない時に起きていた。
実際この何日かは、変な胸騒ぎがあったのも確かだし・・
「それを、君達に解決してもらいたいんだ。」
隣にいた憐の瞳が輝いていた。
「まかせろ!な!乃亜!」
どうやら私の意見は無視されるらしい・・・
誰か・・・こいつを止めて~~!!
★★★★★
「で!何処からしらべる?」
すっごく楽しそうに憐が聞いてきた。
この顔を見ていると・・・・ものすごく腹が立つ!!
「あんたね~!何で私が憐の遊びに付き合わなきゃいけないのよ!」
「それは、お前が俺のペットだからだろ?今更何言ってんだか?」
・・・・・・!!!!!!!
いっぺんしめたい!!
「で!何処しらべんだ?」
何を言っても無駄らしい・・・つきあうしかない・・・のね・・
「音楽室」
私は小さな声でそう答えた。
憐はとにかく楽しそうに歩き出した。
音楽室はとにかく静かだった。
あの事件以来、授業中以外は人が寄り付かなくなっていた。
学園中の噂を真に受けるつもりはないけれど、確かに変な感じがする。
誰かが見ているような・・
「憐。やっぱりやめない?あまり関わらない方がいい気がするの・・」
私の言葉を聞いた憐は綺麗な瞳を真ん丸く見開いた。
「はあ?何言ってんだ?こんな楽しい・・・じゃない!人の役に立つことを頼まれて、お前は断るのか?」
やっぱり憐暇つぶしだったんだ!
もう!!帰りたい・・・
「逃がさないからな!」
憐の言葉に寒気が走った・・・
違う!!これは悪魔の言葉の所為ではない!!
もっと別の痛いほど感じる視線に、私の背筋は凍りついたのだ。
誰かが見ている・・・でも、さっき音楽室には誰も居ない事を確認していた。
私は憐の制服の袖を掴んで俯いた。
「ん?どうした・オレの魅力にやられたか?」
おとぼけ憐!!
突っ込みたいけど体が言う事を利かない・・・
憐もさすがに異常に気付いたのか、辺りを見渡した。
「何か居るのか?」
その答えに私は小さく頷いた。言葉を発するのもきつかった。
その視線は段々強く痛いほど感じるようになった。
その時だった、憐が喉の奥を鳴らした。いつも強い憐が小刻みに震えている。
私はゆっくりと顔を上げ、憐の視線の先を追う。
そこには確かに人間じゃない者が居た。見た目は人間だけど・・・実態はない感じのそれは、ゆっくりと私達の方に近付いてきた。
学園の制服を着て、髪の長い見た目女の子のそれは、憐の顔を見てゆっくりと手を伸ばす。
憐は凍りついたまま、その手を受け入れていた。受け入れたというより・・・何も出来なかったが正しい。
何だか・・・いい気味・・・
「何しにいらしたの?」
柔らかい口調でそれは言った。
品のあるしゃべり方とは裏腹にそれは、冷たくそっけなかった。
「貴方は、ここで何をしているの?皆を驚かせるために居るわけじゃないでしょ?」
勇気を振り絞って、それに話しかける。
それは今、私に気付いたとでも言いたげに私に視線を下ろす。
(何か・・・ムカつく・・)
「貴方こそ、何しにいらしたの?貴方も私を、消しに来たの?」
瞳が恐ろしく冷たく光っている。
憐が私の腕を掴んで、自分の後ろに隠したのと、それが私に手を伸ばしたのは殆ど同時だった。辛うじて私は、憐の後ろに隠され、それの手から逃れた。
「なぜ、この女を庇うのですか?私は、ただ此処に居たいだけなのに・・・この女は私をけそうと・・・あの方も・・」
「私は貴方を、消しに来たんじゃないわ。ただ、最近の事件について聞きに来ただけなの。」
憐の背中から顔を出しそれに諭しかける。
「消さないの?ほんとうに?」
私は強く頷いた。
「事件の事は・・・貴方が知ってるんじゃないの?」
それは私を、じっと見つめた。
私が知ってる?何を?事件の事?
「貴方に、付いてるじゃない・・・ね~。」
それは憐にむかって問いかけ、「私は知らないわ」と言ってくるりと踵を返した。
一瞬のうちにさっと、消えてしまったそれを、見つめながら憐と私は首を傾げた。
私が知っているって・・・一体何のことだろう・・・
「お前が犯人?」
憐の言葉に・・・怒りの鉄拳!!
「なわけないでしょ!!でもこれじゃ・・・こんなはずじゃなかったのに。これじゃここに来た意味がないのよ。」
「やっぱり、お前何か知ってるのか?」
憐の言葉に首を振る。
「彼女が頼りだったの・・彼女ならこの一連の事件について何か知ってると思ったから・・」
私は頭を抱えた。謎は深まってしまった。一体何がこの学園に起こっているのか・・
★★★★★
あれから、捜査は一向に進展しなかった。(って、警察みたいだけど・・・)
「ねえ、憐。この事件って、本当に幽霊の仕業かな?」
机につっぷしたままそう言った私の頭を憐が叩いた。
「何言ってんだ?他にどうやって誰も居ないとこで事件が起きるんだよ?」
それを言われると・・・頭が痛い。でも、どうしても人間くさく感じてしまっていた。
「ねえ、唯一怪我した人がいたよね?」
「ああ、会長だろ?」
!!
怪我したのって会長だったんだ!!知らなかった・・・
「もしかしてお前・・・知らなかったのか?」
ものすっごく冷たい視線を送る憐に何か恐ろしいものを感じた・・・
虐められる・・・確実に・・・
「はあ~~。あんなに噂になったのにお前の脳みそ、腐ってないか?」
耳を引っ張られ、耳の中を覗かれる。そんなやり取りをクラスの女子達がしっかりと見ていて、こそこそと何か陰口を叩いている。また、嫌がらせが・・・これって私の所為なのか?いや、この悪魔の所為だ!!変な事件に巻き込まれるし・・・何時かしかえししてやる~~!!
「会長が、委員会終わって教室に戻ろうとしていたら、誰も居ないはずの三階の階段で後ろから押されて落ちたらしいぞ。まあ、本人が言ってたんだから間違いないと思うぞ。」
何時の間にそんな話を聞いてきたのか・・
「じゃ、会長の身辺調査した方がいいんじゃない?」
「ああ、それならもうやったよ。」
く!!何時の間に・・・
「お前は、お化け担当!俺は人間担当な!」
な・・・なんか不公平な気がする・・・
「で、どうなの?」
「これと言った人物は居ないな?まあ、しいて言えば熱狂的なファンが居るからそんなとこじゃないか?」
何かが違うような・・・
ふと、誰かが私を呼んだ気がした。
振り返るとそこには誰も居なかった。
「ん?なんだ?」
「ううん。何でもないよ。・・・ねえ、憐、今日の夜って空いてる?」
憐が一瞬止まった・・・(なぜ?)
「乃亜・・・俺を襲う気じゃ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・
一瞬の沈黙と、私の鉄拳は・・・綺麗に決まった。
★★★★★
夜の学校ってどうしてこう、不気味なんだろう・・・
そんな事を考えながら、静まり返った廊下を懐中電灯の明かりを頼りに、私と憐はゆっくりと辺りをうかがいながら歩いていた。
「そう言えば言い忘れてたけど、無くなった机ってな、会長の机だったらしぞ。」
それって、完璧に会長に恨みがあるって事ジャン!!なんで大事な事言い忘れてるのかな!!
ジロリと睨む私におくびれる様子もなく口だけで笑って返す憐・・・
暗い廊下を只誰にも見付からないように歩く私達に、夜の闇はとても冷たく居心地が悪いものだった。
「なあ、乃亜?」
突然憐に呼ばれ、私は足を止めた。
「何よ!」
半分怒り気味に返すと、憐が振り返った。
「お前、犯人分かってるんじゃないか?」
耳を疑ったけど・・・実はなんとなく気配は感じていた・・・犯人の・・・
「誰かは解らないけど・・・気配は感じる・・。この学園にいるのは・・」
「そうか・・」
憐は何かを知っているのか・・静かに俯いた。
「憐?」
ある教室の前に着くと、憐は立ち止まった。
「あの人が・・・犯人か?」
憐の視線の先を辿る。
・・・・・・
そこには副会長が立っていた・・・
私は目を疑った・・・
犯人だと感じていた気配と、まったく同じ気配を副会長から感じたから・・・
副会長は私達に築く様子もなく、誰かの机を愛しそうに触っていた・・
「あそこは会長の席だぞ。」
憐が私に耳打ちした。
私はごくりと唾を飲み込んだ。
副会長からは生気が感じられなかったのだ・・・
「憐!あの人副会長さんじゃない・・・」
私の言葉に憐も顔を引きつらせる。
副会長が机に向かって何かをしだした・・・・瞬間!!私は教室に飛び込んだ!!
「だめ!!」
副会長が私の方に振り返る。
その目は真っ赤に光・・・生きている人間の目とはまったく違うものだった。
憐もその顔を見て、凍り付く・・
「何で、邪魔するの?」
その言葉はとても冷たく、恐ろしい響きを含んでいた。
「貴方は、こんな事をする人じゃないはず・・・このままじゃ会長は死んでしまうわ。」
私の言葉に憐が驚き私と、副会長を見比べた。
「乃亜。どういうことだ?」
「副会長さんは・・・生霊になっているのよ。」
「貴方に何が分かるの?あの人は私のものなのよ!邪魔をしないで!!」
ものすごい形相で私と憐の方に風のように近付いてきた。
そして冷たい手で、私の首を絞める。
憐は慌ててその手を振り解こうとしたが、どうやっても解けなかった。
「う・・・・・」
私は苦しさに息を詰める。
「こんなことしても・・・むだよ・・・」
必死に声を出して、副会長を睨む。
真っ赤に光る瞳が憎しみで淀んでいた・・・
「こんなはずじゃなかったのに・・・こんなんじゃ・・・ここに来た意味が無くなるのよ!!あの人を私のものにする最後のチャンスなのよ!!」
恐ろしい声は真っ暗な教室に響き渡り、窓の閉まっているはずの教室に突風が吹き荒れた。
「『ただただ、ぐるぐるぐるぐる』あたしはそうありたくてここに来たのに、例えばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を何でまだ持ってんの?」
その言葉は、深い闇の中静かに重く響いた。
「やめろ!!!」
憐が副会長の腕にしがみ付いた!!
「あんたの勝手な片思いに、こいつは関係ないだろ!!離せ!!」
普段なら想像も出来ない憐の激しい言葉に、段々意識が遠のいていく私を、驚かせ最後の力を振り絞らせた。
「こんなことしても、会長は手に入らないわ・・・貴方は、そんなことしなくても・・・十分・・・素敵なの・・に・・」
途絶え途絶えに言葉を発し、副会長の手を優しく擦った。
副会長の指から少しづつ力が抜けていく。
一気に空気が、気管に入り込んで、私は転げるように咽返った。
「それでも、あの人は私の物にはならないのよっ!!」
副会長の苦しそうな声が胸を締め付ける。
「でも、好きなら傷つけちゃいけないでしょ。」
私はゆっくりと起き上がり副会長の手を握る。
実体のないその手はとても冷たく意識しないとすり抜けていく・・
「もう、やめましょう。貴方のためにも・・」
私の言葉を聞いた彼女は、静かに涙を流した・・・
そしてゆっくりと、只静かに闇に消えていった・・・
私と憐は腰から崩れるように座り込んだ・・・
闇は何もなかったようにまた静けさを取り戻しえいた。
★★★★★
次の日私達は、朝早く会長の教室に行くと机に何がされていたのかを知った。
椅子の足に切れ目が入っていて、次に座ったら崩れ落ち、机の下に設置されたナイフに刺さる仕組みになっていた。
私も憐も顔を見合わせ、何もなかったように机をすり替え、ナイフを危険ごみに捨てた。
誰も居ない朝の教室は昨夜の恐ろしい出来事が嘘のように爽やかで清々しかった。
ふと、前方から副会長が現れ、私達に微笑みかけてきた・・・・
私と憐は思わず、立ちすくんだ。
が・・・しかし・・・
「おはようございます。事件の方は解決しましたか?」
爽やかに、そう言われ思わず拍子抜けしてしまった。
憐が何か言いたげに口を開いたのを私が、制した。
「はい。もう大丈夫ですよ。」
そう言って微笑み返す。
副会長が立ち去ると憐が口を開いた。
「まさか覚えてないのか?昨日の事?」
「多分ね。あれは副会長さんであって、そうじゃない者なのよ。まあ、憐みたいな頭の軽い奴には分からないと思うけどね。」
悔しそうに私を睨んだ憐に何だか鼻を明かした気分になる。
鼻歌交じりで歩いていると、少しずつ生徒が登校してくるのが見えた。
「憐!もう二度とこんな事に振り回さないでね!!」
そう言って、憐の方に振り返る。
「もうあんたとは関わりたくないんだから!!」
そう言った私に憐がにやりと笑った。
「もう、次の依頼が来てるから無理だな。」
「・・・・」
「お前は、俺のペットだからな~」
憐が今度はしてやったりって顔をしている。
やっぱりこいつは悪魔だ!!
悪魔が最後に私を打ちのめす言葉を言った。
「お前は、俺にしかなつけないだろ?」