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Last update 2007年10月07日

タイトルなし  著者:kazumi


この建物はそれほど悪くなかった。

意外だった。
正直、築年数からすれば、もっと古ぼけた廃屋を彼女は想像していた。
不動産屋の口上は、営業なのだろうとたかをくくっていたが、それでも、立地の条件と家賃には魅力があった。
早春の風に誘われたこともあって、やや急ぎの仕事があるのにもかかわらず、遠出をしてみる気になったのだ。
電話をすると不動産屋は二つ返事で案内を買って出た。
最初の問合せから2週間が経過した後だったので、なかなか契約の取れない物件であることがうかがえた。
期待はせずに、ドライブのつもりでここまで来たのだ。
人が住まなくなって、すでに3,4年は経過しているのだろう、確かに寒々しい佇まいではあったものの、薄くほこりをかぶった縁側の床を軽くなぞってみれば、その下から、元の主が、たぶん糠ででも磨き上げてきたのだろう、にぶい光沢がまだ残る板が存在を主張していた。
愛されてきた家屋なのだな、と太い床柱を見上げて思った。
長年手をかけられてきた材木は、放置の年数を耐え抜いてきている。
続き間の和室は、合わせれば20畳はあるだろう。
ここを板張りにして機織を置いてもまだ余裕がある。
南向きに一面に配してある縁側から和室に向けて、障子を通して入る日差しは、夕刻まで明かり無しで機を織れるに充分な明度と柔らかさだ。
欄間の工夫が、職人を楽しませた依頼であったらしく、見たことのない凝った絵柄であることも、彼女を喜ばせていた。
「工房兼住居として」の家。
ここに決めてもいいな。。。
彼女の頭の中では、すでにさまざまな家具の配置がシュミレーションされ始めている。
この床を、丹念に磨き上げ、往年の輝きを取り戻させてあげたい、とふつふつと意欲が湧きあがっていた。

もちろん彼女にも家はあった。 






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