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Last update 2008年03月15日

No Title  著者:真紅



彼のなだらかな声は、耳の奥のひだを丁寧になぞっていった。
このざわめきの中でも、彼の声は良く通る。
天職、とはまさにこの事だろう。
患者である私から見ても、優秀な医師だと分かる。
「織江さん。」
思わず彼の声に聞き入ってしまっていたようだ。
「織江さん、診察室へどうぞ。」
私はその声のする方へと吸い込まれていった。

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「ダメですね・・・。」
椅子に腰深く掛けた彼が、重い口を開く。
「・・・何がですか?」
その当然の問い返しに、彼は戸惑う。
「実は・・・。」
「実は?」
しばらくの沈黙を置き、沈黙を破る。
「妊娠してます。」
「・・・ホントですか!?」
突然の喜びの知らせに、声が裏返る。
確かに、心当たりがあるといえばある。
私だってもう良い歳だ、する事はしている。
「えぇ、もう二ヶ月ですよ。」
彼は本当に優しそうな瞳で語り掛ける。
私はまた、思わず見惚れる。
「良かった・・・。」
彼が焦らすので、てっきり悪い知らせかと思っていた。
なので、ほっと胸を撫で下ろす。
「本当に良かった・・・。」
「な、タマ。」
私は嬉しそうに声を上げる。

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ここは動物の産婦人科。
ここでは幸せの知らせしか聞こえない。
誰かの名前が呼ばれ、隣のソファーに座っていた人が立ち上がった。



Bye.  著者:真紅


彼のなだらかな声は、耳の奥のひだを丁寧になぞっていった。
その声は、優しく透る。
お前の口から紡がれる言葉。
その一つ一つが、重々しくも華々しい。
お前はその声でいつか言った。
「一生懸命生きる事が、俺の生き甲斐だ」と。
その言葉通り、お前は一生懸命に生きていた。
だが人とは・・・なんて脆い物なのだ。
今痛いほど実感してるよ。
俺は、そう嘆き悲しみ、うずくまるばかりだったから。
俺の唯一無二の"心"友よ。
お前に、最後に言う事がある。
聞いてくれ。

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俺は、小学校の時に酷いイジメを受けていた。
それこそ無視・暴力・暴言何でもござれ、だ。
勿論俺はそれが嫌だったよ。
来る日も来る日も、「早く終わらないかな」と願ってた。
だが、終わる事はなかった。
寧ろ激しさを増すばかりだった。
雑菌扱いされ。
居ない存在とされ。
「人」として扱われない時さえあった。
担任でさえ黙認だったから、俺はどうすれば良いか分からなかったよ。
それは中学にも続いた。
正直、中学で親しくなった奴なんて一人も居ない。
勿論高校でもそうなる、と俺は思ってた。
だけど、違った。
お前が居たから。
お前が、俺の最初の心開いた「友達」と呼べる物だった。
最初からお前は本当に不思議な奴だったよ。
普段は、凄い面白くて明るくて。
なのに、恋愛とか悩み事の相談には親身になって聞く。
オマケに励ます事も忘れない。
でも、怒る時は怒る。
殴り合って、罵り合った。
でも、最後はいつの間にか謝り合って笑い合ってた。
そんなお前も、好きな奴ができたよな。
それも、部活の先輩だったっけ。
お前は照れながらも「俺はあの人が全て」とか言ってて。
俺はそれを聞いて、「結婚式には呼んでくれよ」って冗談かましたり。
まぁ、その先輩と別れた時のお前の辛そうな顔は忘れられないよ。
お前が高校を中退した時は、本当に辛かった。
あれだけ悲しい思いをしたのは、生まれて初めてだったぐらいだ。
「もう逢えないんじゃないか」って本気で思ったよ。
だけど、お前はお前のまま。
中退した後、ちゃんと仕事見つけてさ。
暇を見つける度、遊び回ったよな。
少ない給料で買った車に乗ってるお前の顔は、無邪気な子供の様だった。
ホント懐かしいよ、今までの全てが。
 ・・・また、会えるよな。
また、あの時みたいに笑って泣いて怒って。
また、語り合えるよな?

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『そして、唯一無二の親友へ。』
『今まで有難う、さようなら。』
テープは、無機質な音と共に切れた。
最後の、友の声は涙の匂いを漂わせていた。
「何で泣いてんだよ・・・馬鹿野郎・・・。」
俺は遺影の中の、屈託の無い笑顔に染まった友に呟く。
「以上が、彼からの最後の言葉です。」
マイクを通した司会の言葉が、冷たく響く。
「笑えよ。」
友は、いつも言っていた。
そして、そう言われた気がした。
「分かってるよ、馬鹿野郎。」
確かに、俺は笑った。
頬を流れる落ちる、熱い雫を感じながら。
上を向いても流れ落ちる。
友よ、こういう時はどうすれば良い?
顔が言う事聞かないんだよ、畜生。
「止まらないモンは仕方ないよな。
だから、今だけは泣かせてくれ。」
俺は、遺影に笑いかける。
そして力無く泣きながら笑った。
「続きまして、ご焼香に移らせて頂きます。」

誰かの名前が呼ばれ、隣のソファーに座っていた人が立ち上がった。


昼下がりのとあるファミレス  著者:真紅



彼のなだらかな声は、耳の奥のひだを丁寧になぞっていった。
しかし、聞こえてないフリをするには充分過ぎる程の声量だ。
「ちょ・・・待っ・・・!」
彼の声はどんどん街の雑音に掻き消されていく。
「おい・・・待っ・・・!」
聞こえない。
周りの人々は振り向いて、何事かと目を丸くしているようだが私には聞こえない。
少し止まってみる。
「・・・!」
あぁ、ついに聞こえなくなったか。
私は高らかにヒールを鳴らし、また歩き出「待てよ!!」
      • せなかった。
痛いぐらい、彼に肩を掴まれている。
「痣になったらどうしてくれるんだろうな?」
私は、そう意地悪に考えながら彼を見つめる事にした。

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何故こうなったか?
簡単だ。
フった、それだけだ。
何故?
それも簡単。
ただ飽きたから。
一年も付き合って、無口で何も語ってくれないのに「楽しい」とか感じる程私は
人間ができていないので。
その証拠に、彼にそういっても「そうか」の一言だった。
なら、"別れよ?"という言葉が口から出てもおかしくは無いはずだ。
TV番組で、偉そうに人生論語ってる人達からすれば「理解してあげろ」なんだろ
うな。
でも、理解しようとした結果が此れ。
なら別れても良いでしょ?
私の中に、まだ「傍に居たい」という気持ちがあったとしても。

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彼は私をファミレスへと押し込む。
が、今日は休日のお昼時。
かなり人が並んでいる。
幸い座れはしたが。
「こんな時にこいつ、私を並ばせる気か?」
ちょっとカチンと来る。
普通なら、こんな時もっとゆったりした所で二人きり、が常識だ。
と言いつつ、お腹の減り具合と匂いに釣られて外に出るに出れない。
さて、問題の彼はというと私の横でボーッとしている。
何を考えてるか気になるが、気にしない。
ちょっと呟いてみる。
「あ~ぁ・・・立ち止まらなかったらな・・・。」
彼の肩がピクッとした。
どうやら、効果ありのようだ。
追撃。
「肩痛いな・・・痣になってるかも・・・。」
今度は少し顔を俯けた。
少し楽しいかも知れない。
さて、次は何言おうか。
「ウッ・・・」
彼が呻く。
そして、身体が少し震えている。
 ・・・まさか。
「・・・泣いてる?」
彼は、本当に泣いていた。
瞳から大粒の涙をボロボロと零しながら。
彼は泣きながらに呟いてる。
 ・・・少しときめいた。
「寂しいの・・・?」
彼は何も言わず頷く。
「・・・傍に居て欲しいの?」
また頷く。
気付くと彼の手が、私の手を包んでる。
暖かくて、大きな手。
彼は消え入りそうな声で、私だけに呟いた。
「・・・傍に居て・・・!」
私は返事の変わりに、手を握り返す。
幸い、今日は混んでいる。
二人、寄り添う。
さっき確認したけど、まだまだ時間は掛かりそうだ。
それまで、ずっとこうしていよう。

誰かの名前が呼ばれ、隣のソファーに座っていた人が立ち上がった。




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