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Last update 2008年03月16日

グリーンデイズ  著者:ブラックジョーカー



 ふいに扉が開き、真っ暗な部屋がぱっと明るくなった。
 寝起きで意識が朦朧としている僕を尻目に、母は正確にドアから窓までを歩き、カーテンと窓を開けたようだ。
 僕の部屋は窓を開けるまでまったく真っ暗だ。
 というのも、本当の暗闇でなくては安眠できず、窓には真っ黒なカーテンを取り付け、寝る前には常夜灯も付けない。
 カーテンを閉めていると昼間でも僕の部屋は真っ暗なくらいなのだ。
 しかし、母は床に散らばる多くの障害物を一切踏むことも無くカーテンまでたどり着く。

 日光を浴びると急に意識が現実世界に戻った。
 そうなると食事、歯磨き、髪の毛を整え、スーツに着替えるという作業を素早く済ませ家を出る。
 住宅街は人が少ない。
 会社に近づくにしたがい、徐々に人が多くなっていく。
 うつむき加減で歩く女子高生、体臭をごまかす為に多量の香水を付けたサラリーマン、綺麗にスーツを着こなしたOL。
 僕はそれらを避けながら会社までたどり着く。
 会社に着き、挨拶も済ませるとすぐに白衣に着替え研究室に入る。
 無機質で必要なもの以外まったく無い白い空間、ドラフト(排気装置)のプロペラ音と真空ポンプの音が支配し、一層現実離れした空間にしている。
 ビニール手袋をし、実験台について作業を始める。
 クルード(混合物)をフラッシュカラムという手法で分けるという作業から始める。
 薄く濁ったシリカを敷き詰めたカラム管にクルードを垂らし、有機溶媒を流し、シリカとの親和性の違いを利用し精製する作業だ。
 クルードは管内で分離され層を成し、親和性の低い層から徐々に降下しして行く。
 比較的地味な作業の多い化学の研究作業の中で、この作業で見られる神秘的な光景は僕の唯一の楽しみでもある。
 しかし、静かな心地良さで熱く湧き上がる感動とは違う。

 僕よりも苦しい人間はたくさんいるだろう。
 しかし、僕には決定的なものが欠けている。

 違和感は徐々に強くなるものの、違和感を感じる事は幾度と無くあったので気にせずに投げていた。
 無理がたたり激痛が走り、気づいた時にはもう手遅れだった。
 痛くても無理に投げてみるものの、言う事を効かない腕から離れたボールはキャッチャーまで何とか届くという力無いもので、その事が怖かった。
 しかし、それがいつしか当然となり、それと共にその前の万能感は消えていった。
 肩を失う前の自分がまるで嘘のように感じられるまでになった。
 投げられている夢を見た日は何らかの理由を付けて休む事にしている。
 そういう時はひたすら夢に耽っている。
 未来を見ていた僕、過去を見る僕、反転は意外にも静かに訪れている。

 ある日、同僚に声を掛けられ居酒屋で飲む事となった。
 僕はそれ程喋る方でもないし、作業している姿を見ている人間とは事務的な会話を交わす程度だ。
 同期で入った彼は、僕と一緒で無気力な印象な人間だった。
 しかし、ある時から彼は変わった。
 特に興味も無かったので、恋人でもできて変わったのだろうと思った。
 僕はそういう人間を何度も見ている。
 正直な所、笑顔で彼に誘われた時は、恋人でも作れとかいうお節介を焼かれるのだと思い嫌気がした。
 僕らは何気ない会話を交わした。
『どうせ掛買いの無い命だなんて言うんだろう?』
 僕は酔った勢いで失言をしてしまい一瞬焦る。
『いや、そもそも掛買いの無い命なんて嘘っぱちだよ。誰に必要とされているかじゃなくて、問題は自分が生きたいかって事だと思う。』
『俺は輝くような目をしている人間を見ると何か偽者に見えるのさ。僕が昔そうだったように輝きはいつか消えると思う。特に大きな夢を持った者は物質的な壁にぶち当たる。それに大きな夢を持ってる人間なって僕だけじゃないはずだ。多くの人間は現実に目を向けず、偽物のエネルギーで動くロボットのような者だと思う。』
『偽者はおまえだ。』そんな事を言われた気がしたが、それは気のせいだった。




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