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Last update 2008年03月16日

散ると恋  著者:空蝉八尋



 人が変わっていくのは救いであって、自分が変わらない世界なんて、俺はごめんこうむりたい。
 俺は変わってやるんだ。
 誰がなんと言おうが、それが正しかろうが、今の俺のままでは手が届かないものが沢山ある。
 俺は自分の手で何もかもを掴みたい。
 人に救って貰うだけなんて、格好悪すぎるだろうが。
「難しいかおしてるわねぇ」
 顎を支えていた手を離し、顔を上げた。
 いつの間にか長い髪を揺らし、生意気そうに微笑んでいる美穂が立っている。
 俺より年下のくせに、美穂はやたらと姉さんぶっている節があり、そこが毎度と気に食わない。
「別に……なに」
「暇だから、ケンちゃんの相手でもしてあげようかと思って」
 そう言って美穂は俺の向かいの椅子に座った。
 ざわついた空間、ガラスの向こうから田舎くさい夕日が差し込み、ロマンチックとは程遠い。
「この間もため息ばっかりついてたじゃない?」
「……もう冬も終わりだろ」
「そうね」
 そう、冬が終わる。
 俺は自分らしくもなく焦っていた。
「もしかしてケンちゃん、まだ……恭子」
「うるさい」
「まだ伝えてもないの?」
「うるさい!」
 美穂は心底驚いてたように、元々大きな目を更に丸くさせた。
 そして面白そうに笑う。
「ケンちゃんらしくないネ」
「からかうなよ。正直ちっとも相手にされてない」
 美穂は髪の毛を弄びながら、ガラス窓の向こうの街並みを見つめる。
「……いつだって、子供扱いだよ」
「伝える気もないくせに」
「あれだけ意見が対立してるんだから、そんなことできるわけないだろ」
「意見?」
 しまったと思った。美穂は興味津津に俺の顔を覗き込む。
「意見て、なあに」
「なんでもないよ!」
 俺のまわりには、彼女はやめておけだとか、釣り合わないだとか、頑張ってねだとか。
 無責任に言う奴が多すぎる。
 難しいことの嫌いな美穂はあまり深くは追求せず、ふうっと息を吐いた。
「らしくないよ、ホント。恋愛なんてね、ゲームじゃない?」
「美穂だったら、の話だろ。俺……結構本気なんだ」
 一目見て、彼女を好きになった。
 その向日葵みたいな笑顔を、俺だけに向けてほしいと思った。
 他の奴が近寄るたび、はらわたが煮えくりかえる。
 俺だけのものにしたい。
 俺だけの。
 独占欲で人を殺せるなら、俺は大量殺人鬼になれると思う。
「なんかねぇ、一生懸命、好きでいなきゃって思ってるみたい」
「え?」
 美穂は無邪気に笑った。
「頑張って好きで居続けなきゃって思うの、めんどうじゃない? だから、さっさと言っちゃいなヨ」

「言っちゃえばいいよ。言って、自分の気持ちハッキリさせてから考えれば?」

 そのとき、窓の向こうに見慣れない車が停まった。
 スーツを着込んだ男が運転席からおりる。
「誰だあの人。こっち見てるけど」
 美穂がスカートの裾を翻して立ち上がった。
「やあね。あたしの、パ・パ」
「……お前のパパってあんな人だったっけ?」
「ふふ、迎えに来てくれるなんて気がきくじゃない」
 美穂は膝の上に置いていた帽子をかぶり、「じゃあね」と立ち去ろうとした。
「あっ、待てよ美穂」
「なあに」
 振り返った美穂は、早く「パパ」の元へ駆け寄りたそうな顔をしていた。
「もうすぐ誕生日だろ。なにがほしい」
「くれるの?」
「さっきのお礼も兼ねてな」
 美穂は口に指をあてて少し考えて見せた後、口許を歪ませる。
「オモチャが、ほしい」
「おもちゃねぇ……」
 聞き慣れたはずの怪しげな響きに、俺はわざと眉をひそめて見せた。
「あたしの思い通りに動かせる、お人形なんかじゃダメ。飽きちゃったもの」
「じゃあ、どんなのがいい」
 美穂は背を向けると、足早に去りながら言い残す。
「もっとスリルあるやつ!」



 彼女はまぶしい。
「あら」 
 俺に気付くと、すぐに笑ってくれる。
「どうしたの?」
 聴くまでもないくせに。
 わかっているくせに。
 残酷だ。


「恭子、好きだ」


 ほら。君はまた驚いたような顔をして、そして怒ったようにため息を吐いて。
 告げるんだろう。








「健吾くん、先生に向って呼び捨てはダメって言ったでしょう?」






 俺の園服を引っ張りあげ、キッと眉を吊り上げる姿もまた素敵だ。
「それと。先生の下駄箱にお花をいれてくれるの嬉しいんだけど、あれお庭のでしょう、ダメよ摘んじゃ」
「……はい」
「あとね、美穂ちゃんはパンダ組でしょ、おかえりの時間は自分の教室に居る様にいってあげてね」
「はい」
 そして優しく帽子をかぶせてくれる。
 エプロンから、太陽と洗たくの香り。
「じゃあね健吾くん、また明日」
「…………さようなら」 
 言葉というのは、きわめて乱暴なものである。



 俺は後日、美穂にジェンガを贈った。




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