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Last update 2007年10月08日

真冬のブランコ 著者:塵子


「それが、サンタクロースにでも貸してやれるほどのビッグサイズだったのだ」
「それでお兄ちゃんはどうしたの?」
「うむ。ドデカイ袋で牛を捕まえようとしてな。失敗して牧場の牛どもに集中攻撃されて、瀕死の重症で入院した。ホントにバカな男だ」
「ええ?! 死んじゃったの!?」
「いや、それがな…」
「姐さんーーー!」
唐突に遠くから聞きなれた声が聞こえる。
「姐さんってばーーー!!」
しかも、無駄にデカイ足音とともに声もデカくなっている気がする。
「そこのチャイナ服の姐さん、俺だよ俺!!!」
私とちびの癒しの時間を邪魔する空気の読めないバカは、ヤツしかいない。
「姐さん元気ぃ~?」
目の前には、黒いコートを着てニヤニヤ笑う青年が1人。
私は、びっくりしているちびにため息交じりに説明した。
「…コイツがその"お兄ちゃん"だ」
「俺はナチだ! 好きな動物は牛、好きな食べ物は牛肉だ! ヨロシクちびっ子!」
「ふえ!?」
ちびは目を丸くしている。そりゃそうだ、瀕死の重傷だったはずの人間が、今猛ダッシュで現れ、いきなり自己紹介しだしたのだから。嗚呼、握手までされている。かわいそうに。
「いや…頭の痛い話だが、コイツは牛への愛で奇跡的に蘇ったらしい。医者もビックリの治癒力だそうだ。コイツを研究所にでも売っぱらえばもうかるだろうな」
「やだなぁ、姐さんったら冗談ばっかり」
「ズババババッ!!」
得意のハリセンで思いっきりナチの頭頂部をタコ殴りにする。
「ぐああっ!! 痛ってぇーっ!! …でもそれでこそ姐さん! グッジョブ!!」
頭から血を噴出し血だまりを作りながら、親指を立てるナチ。
「まあこんなわけで、このお兄ちゃんは不死身なのだよ」
「へえー! すごいんだあ!!」
ちびは無邪気に喜んでいた。
だが、私としてはナチは迷惑以外の何者でもない。私に会いに来たということは、またろくでもない用事なのだろう。
「ちび、悪いが、お姉ちゃんはちょっとこのバカと話がある。少し1人で遊んでてくれるか?」
「んー、わかったー! ブランコ乗ってくる!」
ちびは寒さをもろともせず、ブランコ目指して公園を駆け抜けていった。



「いやー、元気な子だなぁ。それにしても姐さん、今日はチャイナなのな。一体衣装いくつ持ってんの? しかもクリスマスも近いのにそんな薄着で。寒くない?」
「そんなことどうでもいいではないか。で? 話はなんだ?」
「うん、俺、今度は牧場の経営者になろうと思ってさ! それなら牛がいつでも見られるだろ?」
「この間は、獣医になるとか言っていなかったか…」
「ああ、うん。試験落ちた。はっは。世の中うまくいかないもんだなー!」
この男は…まったく。でもコイツの言うとおりだ。世の中は本当にうまく回ってくれない。
「今日はその近況報告だけか? なら早く帰れ。シッシッ!」
ハエでも追い払うように軽く手を振る。
「いや…ずっと気になってたんだけどさ。最近姐さん、あのちびっ子と結構一緒にいるよな。あの子、まさか姐さんの子?」
「んなわけあるか! あれはご近所の子だ! ズバシッ!!」
ベンチの周りはナチの返り血で真っ赤に染まってきていたが、あえて見ないことにする。
「あの子の家はな、両親が共働きで夜にならないと帰ってこないんだよ。最初に会ったときは、公園で1人で泣きながらブランコをこいでいた。まあ私もちょっと…哀れになってな。それから遊び相手になっている」
「ふーん……それだけ?」
「……なぜそう思う?」
「姐さんの、あのちびっ子を見る目が何か違うからさ」
ナチは確信に満ちた目で私を見ている。意外と鋭い男だ。ただのバカかと思っていたが、甘かったか。
言おうか言うまいか一瞬迷った末、私は口を開いた。
「私も似たような経験があるからさ。それに……」
私はふとちびを見た。ちびは1人だというのに、楽しそうにブランコで遊んでいた。
「私にも子どもがいたのでな。生きていればあのくらいだ。……さて、そろそろ時間だ」
私は、ベンチに置いてあったちびの…彼女のピーコートとカバンを脇にかかえた。





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