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渇いた叫び(前編) ◆7pf62HiyTE




唐突な話ではあるがこの場所は殺し合いを行う為の場所である。
そして、参加者の中には嬉々として殺し合いに乗る参加者は確かにいる。
もしくは己の目的を達成する為に、殺し合いに乗る人物もいる。

だが、その様な参加者などこの場においてはむしろ少数派だろう。
むしろ、殺し合いに乗るのを良しとしない参加者の方が圧倒的に多いだろう。

何故か?それは彼等にとっては殺人行為など一般的ではない話だからだ。
そう、参加者の大半は殺伐とした殺し合いを否定する世界から連れて来られているのだ。
むしろ殺し合いとは全く無縁な世界から連れて来られた参加者だっている。

つまり彼等にとっては殺し合いを行う事など全くあり得ないのだ。
だが、この環境は彼等にとってはあまりにも非情過ぎた。
あまりにも過酷な環境下によって、彼等の精神は疲弊し多くの悲劇を産んだ。

ある参加者は自分を守る為に仲間達が傷ついていった事に自己嫌悪し最後には仲間を守る為に死んでいった。
ある参加者は友達達の死に絶望し死者を全て生き返らせる為に全ての参加者を殺そうと決めた。
ある参加者は大切な者の死とその者の声の後押しを受けた事によりその者を生き返らせる為に殺し合いに乗った。
ある参加者は只生きていたいと願っただけだったが強大すぎる力により相手を殺したと思い重圧に押し潰されそうになった。

これらの参加者が誰なのかはここでは語らない。だが、1つだけ確実に言えるのは彼等とて本来はそういう状況には陥らないはずだということだ。
この状況こそが彼等をそうさせてしまったのだろう。そう……

闇がもう一人のつくる――



   ★   ★   ★



D-2南部にあるスーパーの一室に参加者の1人である柊かがみがいた。
彼女の手には黄緑色のケースが握られている。

(これを使って万丈目って奴をね……)

と、頭の中から声が響く、

『宿主サマよぉ、もしかして迷ってんのか? さっきも言ったがあの万丈目って奴は……』
(わかってるわよ、極悪人だって話でしょ。いちいち人の考えを読まないでくれる)

響いた声は今現在かがみが首に掛けている千年リングに宿る盗賊王の魂バクラのものだった。

『もしかしてまだ迷ってんのかよ?』
(そんなわけないわよ!極悪人の万丈目なんて死んで当然よ!それにアイツをやらないと私が……)
『ああ、間違いなく殺されるぜ』
(だからわかってるから少し黙っていてくれる!)

と、周囲には誰も聞こえない言い争いを行っていた。

参加者の1人であるLの下から逃げてきたかがみは先程参加者の1人である万丈目準と出会った。
かがみは先程までの状況から混乱状態にありまともに会話出来る状況ではなかった。
だが、万丈目に支給されていた千年リングに宿っているバクラが会話役を買って出て、リングをかがみに渡す事でバクラはかがみと話を行っていたのである。

しかし、バクラにはある思惑があった。

それは今現在かがみの手元にある黄緑色のケースに起因するものだ。
黄緑色のケースはカードデッキと呼ばれるもので持つ者はミラーモンスターの力を借り仮面ライダーへと変身する事が出来る様になる。
だが、その力を得る為にはモンスターへの対価が必要であり、それにはルールが定められていた。

それは12時間に1人『生きた参加者』を食べさせなければならないというものだ。
そのルールを破った場合……つまり猶予時間を使い切ればモンスターは所有者を食べる為に襲う様になるというものだ。
厄介な事に自らの意志でカードデッキを捨てた場合でもモンスターに襲われる様になる為カードデッキを捨てるわけにもいかない。

つまり、カードデッキを持っている限りはモンスターに参加者を喰わせなければならないという事なのだ。
このカードデッキが支給された万丈目はその事で頭を悩ませた。万丈目には他の参加者を犠牲にする意志などないのだから。
だからこそ、誰も犠牲にしない方法をずっと模索していたのである。

対しバクラは参加者を犠牲にする事については全く問題がない。バクラとしてはこの殺し合い……デスゲームが楽しめればそれでいいからだ。
その為、バクラにしてみれば万丈目の存在は邪魔でしかなかったのだ。
だが、不幸な事に万丈目がこの場で出会ったのは万丈目を襲撃してきたチンクだけしかなく、撃退はしたものの彼女を逃がしてしまいそれ以降他の参加者には出会っていない。
更に本来のバクラであれば万丈目の身体を乗っ取るという行動も可能だったが、制限によるものか乗っ取りは可能ではあるものの自由自在にはいかない。
故に、バクラにとってこの状況は非常に歯痒いものであった。思う様に動けず、下手を打てば自身が捨てられる可能性があり、放っておいたら万丈目ごと喰われてしまう可能性もあったのだ。

だが、かがみと出会った事で状況は一変した。かがみを新しい宿主とする事で餌の問題、デスゲームを楽しむという問題を同時にクリア出来る様になったからだ。
つまり、かがみを自分にとって都合の良い風に誘導して万丈目を餌として喰わせその後のデスゲームも楽しむという事だ。
これにより、目下の問題であったカードデッキの制限時間もクリアでき、その後も悠々と戦いに興じる事が出来るのだ。

その思惑を持ってバクラはかがみに万丈目が悪人だと吹き込み、万丈目を問題なく喰わせる準備を進めていたのである。

更にバクラにとって幸運な事に、かがみにも紫色のカードデッキが支給されていた事もありカードデッキに関する説明も容易に済んだ。
もっとも、かがみ自身は詳しい説明書には目を通していなかった為、参加者を喰わせなければならない制限を聞かされた時はショックを受けていたが。
何しろ、かがみは意図していなかったにもかかわらず、カードデッキの契約モンスターに参加者の1人であったエリオ・モンディアルを喰わせ殺してしまっていたのだから。
そして、それ以降も友人となったばかりのはずの高町なのはには裏切られ、わけのわからない内に他の参加者に襲われ参加者の1人の女性シグナムを殺す羽目となり、
気が付いたらLに拘束されており、逃げ出したと思ったら犀のモンスターに追いかけ回され、しまいには目つきの悪い万丈目に遭遇したという始末だ。
かがみにしてみれば、何故自分がこんな目に遭わなければならないのかと周囲や状況を恨んでいた。

但し、バクラにしてみればかがみの状況も自身にとっては幸運な事だった。
何しろ、これだけの状況に遭遇した事で周囲に憎悪を向けているのであれば、少し誘導さえすれば自分にとって都合の良い状況を作り出せるからだ。
かがみ自身の身を守る為、極悪人の参加者を殺す様にし向ければいいのだからだ。都合が良い事に既にかがみは殺人を行っている。誘導自体は難しい事ではない。

だが、難しい事ではないとはいえ決して簡単な話ではない。
かがみにしてみればいくら極悪人といえど、自分自身の手でその相手を殺す事には戸惑いがあるからだ。
かがみがこれまでに殺した参加者はエリオとシグナムの2人。
しかし、先程も述べたとおり、エリオの死については限りなく事故に近い。エリオが喰われる前にかがみは一度エリオを撃ってはいるがそれは錯乱状態に置かれていた時だった。
シグナムを殺した時についてはなのはに支給されていたデルタギアの影響で闘争本能が高められ戦闘狂になっていた為まともな精神状態ではなかった。
そう、確固たる自分の意志で殺人を行った事は1度も無かったのだ。

だが、今回はそうはいかない。完全にかがみ自身の意志で万丈目をモンスターに喰わせなければならないのだ。
バクラがかがみを一時的に乗っ取るという方法が無いわけでは無いが、それを行った場合は折角築いたかがみとの信頼関係が壊れ、今後の行動に支障が出るのは明白。安易にそれを行うわけにはいかない。
そして下手に急かしても同じ結果になる。故にバクラはかがみの決意が固まるまで待っていたのである。

とはいえ、それに関しては恐らく問題はないだろう。かがみはバクラを信頼し始めているしカードデッキのタイムリミットへの猶予は多くは無いものの若干は残っている。
むしろギリギリまで楽しむというのも一興だとバクラは内心では思っていた。カードデッキは既にかがみの手元にある、下手に焦る事はないとバクラは思っていた。
ところで、今現在かがみは何をしているのだろう?最初にかがみとバクラが話している時にはカードデッキは万丈目の手にあったはずである。
では、何故今かがみの手にカードデッキがあるのか?ここで少し時間を戻してみる。



   ★   ★   ★



(じゃあ、何とかして万丈目からカードデッキを奪えばいいのね)
『ああ、そうしないと宿主サマが喰われるからな』

バクラはかがみにカードデッキについての説明を終えた後、出てきた時に何かしらの方法で万丈目の手にあるカードデッキを奪う様に話した。
何しろ、幾ら万丈目を喰わせるという話である以上、かがみの手元にカードデッキがなければそれは叶わないからだ。万丈目の手元に置いたままであれば万丈目がどう動くかはわからない。
バクラにしてみれば万丈目がかがみを喰わせるとは考えていなかったわけではあるが、制限時間が迫ればどうなるかは不明、一歩間違えればかがみごと千年リング……つまり自分自身も喰われる恐れもある。
故に、カードデッキの奪取だけは最優先事項であったのだ。

(それはわかるけど……万丈目だってカードデッキを渡したら自分が喰われるって考えないかしら?)
『なあに、俺様が宿主サマと信頼を取り付けたって聞きゃあ、そんな事なんて考えないだろうさ。
 それに元・宿主サマはカードデッキに詳しい奴を探していたからな。宿主サマの所にもカードデッキ支給されたんだろ?だったらその事について話せばきっと渡してくれるはずだぜ』

万丈目はカードデッキへの対処法としてカードデッキの本来の持ち主にカードデッキを渡す事を考えていた。本来の持ち主であれば何かしらの対処法を考えているからだ。
持ち主ではなくてもカードデッキが支給されており使い方を把握している人物であれば、対策を練っている可能性は高いのでそういった人物でも良い。
かがみにカードデッキが支給されていた事はバクラにとって都合が良かった。その事を話せば万丈目はかがみにカードデッキを渡す可能性が高いからだ。

(とはいってもね……極悪人の万丈目が渡すとは思えないんだけど……)

しかし、かがみには万丈目が極悪人としか聞かされていない。極悪人の万丈目がわざわざ武器とも言うべきカードデッキを手放すとはどうしても思えなかったのだ。

『さっきも言っただろう、普段は極悪人の素振りを見せない奴ってな……つまり、普段は善良そうな人のフリをするってこった。信用させる為カードデッキを渡すぐらいな事はやるぜ。
 それに万が一の事があったら俺様が何とかしてやる。』
(何とかってどうするのよ?)
『それはその時に説明してやるぜ』

しかし、バクラから見ればその性格上万丈目がいきなりモンスターにかがみを喰わせるとは考えていなかった。勿論、制限時間が迫ればどう動くかは読み切れないが、バクラから見てその時間までは若干の猶予があった。
故に、少なくともいきなり喰われるという事は考えていなかった。
だが、万が一の事態を想定していないわけではない。いざという時にはかがみの身体を乗っ取り万丈目に対処するつもりでいた。幸いかがみの手元にはストラーダという槍型のデバイスがある為戦闘には困らない。
万丈目の実力から考えれば対処出来ない相手ではないとバクラは考えていた。
もっとも、前述の通り身体を乗っ取ってしまえば折角築きあげたかがみとの信頼関係が壊れてしまう可能性がある為、それはあくまでも最終手段として考えていた。故に詳しい説明もここではしなかった。
それに、バクラには乗っ取りの制限についての懸念があった。恐らくは可能だとは考えてはいるものの確証がなかったのだ。実際にやってみたが駄目でしたでは洒落にはならない。
何にせよ、あくまでも乗っ取りは切り札だと考えていた。

そして、かがみが万丈目のいる部屋に入る。

「おっ、どうやら話は済んだ様だな。バクラから聞いていると思うが俺の名は……」
「聞いているわよ、万丈目だったわよね」
「万丈目さんだ」
「何で自分で『さん』付けしているのよ……」
「それで君の名前は柊かがみ君でいいんだったな」
「ええ、そうよ」

そして2人は互いの情報交換を始める。しかしかがみは一切万丈目に対しての警戒を怠ってはいない。うっかり隙を見せてモンスターに喰われるわけにはいかないからだ。
ところで、ここで1つの問題が発生する。互いの知り合いについて話そうとした時にわかった事だが、かがみは今までに名簿や地図等支給品を一切確認していなかったのだ。
その為、万丈目がかがみに名簿を貸す。そして、かがみは妹である柊つかさ、友人である泉こなた、そして自分のクラスに転校してきたフェイト・T・ハラオウンの名前があるのを確認した。だが、

「で、誰か知り合いは居たのか?」
「ううん、誰もいないわ」

かがみは知り合いは誰もいないと答え名簿を万丈目に返した。だが、

「そうか……って、この柊つかさっていうのは弟か妹じゃないのか?」
「いるでしょ同じ名字でも血縁関係に無い人って。それと同じよ」
「むぅ……」

かがみの言い方について引っかかる所はあるものの、万丈目はそれ以上口にはしなかった。その可能性があり得ないとは言えないからだ。
だが、真実は違う。確かにつかさはかがみの妹である。しかし、

(つかさやこなただって私の事なんて知らないなんて言い出すに決まっているわよ……なのはみたいに……)

かがみはなのはに裏切られた時の事を思い出していた。かがみにとって友人であったはずのなのははエリオを殺してしまった事で絶望していたかがみを抱きとめてくれた。
だが、なのははかがみの事を知らない他人だと斬り捨てたのだ。むしろ自分を助けた事で勝手に自己満足していたのだろう。
恐らく、名簿に載っているフェイト、こなた、そしてつかさも同じ様に自分を裏切るだろうとかがみは考えていた。
フェイトやこなたはともかく双子の妹ともいうべきつかさでさえも自分を裏切ると考えるのはいつものかがみからは考えられない。
だが、これまでにかがみは多くの災難に遭ってきた。自分は全く悪い事をしていないにも拘わらずだ……それが、周囲に対し不審を抱かせる理由となっていたのだ、実の妹すらも信用出来ない程に……
それ故、万丈目の知り合いの話をされてもあまり深くは考えなかった。
万丈目は自身の知り合いの中にはなのはやフェイトがいたことを話したが、万丈目を信用していないかがみはその事について考えを巡らせる事もなく、
かがみの方もなのはとフェイトの事を話さなかった事もあり、万丈目もここに至るまでにまとめていた並行世界についての話もここではしなかった。

知り合いに付いて話した後、次は支給品についての話だ。ここでかがみが、

「そういえばバクラから聞いたんだけど、万丈目にもカードデッキが支給されんだっけ?」
「『さん』だ。ああ……ということはかがみ君もか?」
「ええ、これもバクラから聞いたんだけどカードデッキの対処法を考えているのよね?私だったら何とか出来ると思うんだけど」
「本当か?かがみ君」
「ええ、だからそのカードデッキを私に渡してもらえないかしら?」
「ああ……」

万丈目は自身のカードデッキをかがみに渡した。その時かがみの手はどういう理由か震えていた。

『思ったよりも上手くいきそうだな。で、早速喰うか?』
(いちいち話しかけないでよ!悟られたらマズイでしょ)
「かがみ君……で、その対処法についてだが……」
「あ、慌てないでよ!あ、後で説明してあげるから!」
「あ……ああ……」

そして、他の支給品について話し合ったものの使える物が殆ど無い事が判明する。万丈目が持っているのはマトモに喰えないカレーだけ、かがみが持っているのはストラーダと万丈目から渡された千年リングだけだったからだ。

「正直辛い所だな……ん」

と、万丈目がかがみの方をしげしげと見る。

「な……何よ……?」
「かがみ君……その服着替えた方が良くないか?」

万丈目に指摘されかがみはようやく自身の姿がどうなっているかに気が付いた。
度重なる戦いなどで身体中が傷だらけになっていた事もそうだったが、それ以前に自身が着ている制服が既にボロボロになっていたのだ。所々が破れており素肌や下着も見えてしまう程に……

「ちょ……!何見てるのよ!!」

かがみは赤面し怒鳴り声を上げた。

『別に俺はそのままでも構わないけどな』
「うっさいわね!いちいち話かけないでよ!!」

端から見れば1人で叫んでいる危ない人だが、バクラの存在を知る万丈目はその事については全く気にしていない。

「なあ、折角スーパーに来たんだからここで着替えたらどうだ?」
「着替えたらって何によ?」
「ここはスーパーだぞ、制服ぐらいあるに決まっているだろ」
「それは良いけど……」
『だから別にこのままでもいいだろ宿主サマ』
「アンタは喋るな!……で、その間万丈目は何するつもりよ……」
「サンダー。俺はかがみ君が着替えている間に使えそうな物を探しておくつもりだ」
『なあ……宿主サマ……別に着替える必要なんて……』
「わかったわ、絶対に覗いたりなんかしちゃ駄目よ」
「わかっている、この万丈目サンダーがそんな事するわけないだろう」
「何で『サンダー』なのよ……」

2人はバクラの言葉を無視して話を進めたのであった。



   ★   ★   ★



以上のいきさつがあり、かがみは奥で見つけたスーパーの制服に着替えていたのである。
なお、着替えの時にもバクラに見られているということでまたも一悶着あったが、それについては一時的にリングを外す事で問題を解決したのである。無論、着替えが完了したらリングはかがみの首に掛け直っている。
で、すぐにでも万丈目の所に……は戻らなかった。
先程も述べた通り、かがみ自身の手でモンスターに万丈目を喰わせなければならないわけだがどうしても躊躇してしまうのだ。
いくら万丈目が極悪人であっても、自身の身を守る為であっても、人を直接殺す事には戸惑いがある。先程手が震えていたのもそれが理由だ。
パニックに陥っているわけでも戦闘狂になっているわけでもない正常な状態でそれが安易に行えるわけがない。

『(全く……面倒な話だぜ……さっさと喰わせれば迷う事なんて無いのによ……)』

煮え切らないかがみの態度がバクラには少々面倒に思えた。
とはいえ焦りは禁物だ。何度も書くがバクラが乗り移ればすぐにでも万丈目を喰わせる事は出来る。しかし、それをやってしまえばかがみが千年リングを捨てる可能性は非常に高い。
これまでかがみは幾度と無く自分の意志とは関係ないところで様々な災難に遭っている。ここでまたしてもかがみの意志を奪ってしまえば、ここまで築き上げた信頼関係を失うのは明白だからだ。
故にそれはタイムリミットを迎えた時の最終手段だ。それならばかがみも納得してくれるはずだ。

『(まあいいさ、カードデッキさえ手に入ればこっちのもんだ、元・宿主サマを生贄にするなんて簡単だ。それに……時間はまだあるしな)』

カードデッキのタイムリミットには十分時間がある。その間に万丈目の隙を付く事は容易い事だ。

『(それに……こういうスリルも悪くねぇしな……)』

と、ひとまず万丈目を喰わせる事についての考えをやめ、別の事を考える。
それはかがみの記憶についての話だ。バクラはかがみが宿主になった時点でかがみの記憶については把握していた。
その為、かがみの知り合いがどういう人物なのかも当然把握済みだ。

かがみの知り合いはつかさ、こなた、なのは、フェイトの4名だ。だが……

『(このなのはとフェイトは俺や元・宿主サマの知る2人じゃねえな)』

バクラには2人が自分や万丈目の知る2人とは違う並行世界の2人だとわかっていた。当然の話だ、なのはとフェイトが普通に転校生として現れた話など聞いた事がない。
もしかしたら、そんな事実があるかも知れないが、万丈目とバクラの知るキャロやフェイトの状況が違った事から並行世界の2人だと考えた方が自然だろう。
そして、少なくともこの場にいるなのはがかがみのいた世界にいたなのはとは違う並行世界の人間である事もわかっていた。
そう、なのはがかがみを知らなかったのは、なのはがかがみとは違う世界から連れて来られているからに過ぎないのだ。だからこそ、なのははかがみの事を知らなかったのだ。

とは言え、この事実をわざわざかがみに話すつもりはない。下手にそれを話せばかがみの周囲に対する恨みが薄まる可能性があるからだ。
なのはが自分を知らない世界から連れて来られた事がわかれば、かがみのなのはに対する恨みは的外れとなる。
そうなれば、折角良い具合に友人であるこなたや実の妹であるつかさすら信用していないというデスゲームをやるに相応しい状態では無くなってしまう。
だからこそ、この事実は伏せておくのだ。

『(しかし元・宿主サマも何で話さなかったんだろうねえ、話しておけばもしかしたら宿主サマを止められたかも知れねえのによ)』

万丈目が並行世界の事を話さなかった事がバクラには少々気にかかったが、あまり気にする事は無いだろうと思った。
それに、仮に並行世界の話を万丈目が持ち出したとしても、万丈目がかがみを騙す為の方便だと言えば何ら問題は無いのだ。
かがみはバクラを信用しているのでそれは容易だ。そして、並行世界の事が書かれた万丈目のノートに関しては万丈目を喰った後でかがみに見られる前に処分すれば良いだけの話である。

『(それよりも引っかかるな……)』

さて、バクラには引っかかる事があった。それはかがみが名簿を見た時の事だ。かがみは先程の知り合い以外で何処かで見た事のある名前が幾つかあった『らしい』のだ。
『らしい』というのはかがみ自身もはっきりと覚えていないからだ。なお、かがみ自身もそれについては気になったものの深くは考えないことにしているし、バクラにとってもそれ自体はどうでもよかった。
だが、気になるのは他にもあった。

それは、かがみがデルタギアを使って変身した時の事だ。その時、かがみと対峙していたクワガタ怪人がかがみに対しこう言ったのだ。

『馬鹿な……あの女が、仮面ライダー……だと?』

と……。

『(カードデッキを使って変身する仮面ライダーと全然違うじゃねえかよ……まさか違う並行世界にも違う種類の仮面ライダーがいるっていうのか?だが……それよりも……)』

カードデッキを使って変身知る仮面ライダーとは別の仮面ライダーがいる事については並行世界等の理由で簡単に説明が付けられるので、それについては問題はない。
バクラにしてみれば重要なのはその時かがみが変身する際に使ったデルタギアがどういう物なのかをある程度知っていたという事実だ。

『(何で宿主サマはあの仮面ライダーの事を知っていたんだ?いや……全部を知っているわけじゃねえな……)』

そう、かがみは確かにデルタギアの事を知っている様だった。だが、デルタギアには適合しない者の精神を侵すデモンズスレートというシステムが搭載されていたが、その事を知らなかったのだ。

『(そうなると妙だな……何で宿主サマは中途半端にしか知らなかったんだ?)』

バクラが気にしたのは何故かがみはデルタギアの事は知っていたのに精神を侵すシステムがある事を知らなかったかだ。
普通に考えればデルタギアの事を知っているならば、それについての詳しい事を知らなければおかしい。当然、強い力を得る為のリスクの有無についてもだ。
全く知らないのであれば使おうとはしなかっただろうし、リスクを知っているならばやはり使わないはずだ。
だが、かがみはデルタギアの事は知っていたがデモンズスレートの事は知らない……あまりにも中途半端だ。

『(それも気になるのは、宿主サマの世界で何で仮面ライダーが出てくるんだ?)』

それ以上に気になったのはかがみのいた世界だ。かがみのいた世界は平和そのものの世界で、争い事とは全く無縁の世界だ。当然、仮面ライダーが存在する筈がない。

『(むしろあの世界は似ていやがるな……俺様がかつて居た世界に……)』

バクラがキャロと出会う前、バクラとそれを宿していた千年リングはある世界にあった。
そもそも千年リング自体がその世界の三千年前の古代エジプトの物で、バクラはその時代で暴れていた盗賊の魂だったのだ。
さて、バクラが暴れていた時代から三千年後、千年リングは獏良了という少年が所持し、バクラは彼の身体を借り大邪神ゾーク・ネクロファデス復活を目論んでいた。
もっとも、その目論み自体は失敗に終わりバクラは消滅した……はずだったが、何の因果かリングと共にキャロのいた世界に流れ着きキャロが新たな宿主となったわけである。
ここで重要なのはバクラがかつていた世界の話だ。その世界はある一点を除いては恐らく殆どの一般人にとっては平和そのものの世界であった。そう、かがみのいた世界と似ていると……
もっとも、その数年後、数十年後その世界はその当時からは考えられないぐらい大きく様変わりするが、バクラがその事を知る事はないだろうしその事はここでは重要ではないのでここでは触れない。

バクラがいた世界とかがみのいた世界の相違点、それはデュエルモンスターズと呼ばれるカードゲームの存在だろう。
バクラがいた世界においてはデュエルモンスターズは普通のカードゲームに留まらない重要な物であり、それを巡って世界の危機すら起こった程だ。
なお、数年後、数十年後でもそれは変わらない(いや、むしろエスカレートしていると言っても良いだろう)が、ここではあまり重要ではないのでやはり触れない。

対して、かがみの世界ではどうだろうか?

『なあ、宿主サマ。1つ聞きたいんだが、デュエルモンスターズって知っているか?』
「はぁ?何よそれ……知らないけ……ちょっと待って、なんかこなたやつかさ達とそれについて話した事があったような無かった様な……」
『何だよ、ハッキリしねぇなあ……』
「あんまり良く覚えてないのよ。で、それがどうかした?」
『いや、知らないんだったら別に良いんだ』
「何なのよ……」

バクラはかがみにデュエルモンスターズを知っているか確認した。その返答自体ははっきりとはしていなかったが……

『(やはり間違いねぇな……宿主サマの世界でもデュエルモンスターズは存在しているか……)』

バクラはかがみの記憶から、かがみの世界でもデュエルモンスターズは存在していると確信した。だが、

『(しかし……俺様のいた世界と違ってあんまり盛り上がってねえなぁ……どういう事なんだ?)』

勿論、並行世界で片づければいいだけの話ではある。だが、デュエルモンスターズが重要である世界から来たバクラにしてみれば、デュエルモンスターズが存在するにも拘わらずそれが盛り上がっていない事が異質に見えたのだ。

『(それ自体は別に良いが……何で宿主サマはハッキリと覚えていなかったんだ?)』

バクラが気になったのはデュエルモンスターズの事をかがみがハッキリと覚えていなかった事だ。
知らないという事は無いだろう。かがみの証言を信じるならばこなた達と話していた事は間違いないのだから。

と、ここまで考えてバクラにある可能性が浮かぶ。

『(知らないんじゃなく……知っているが、それについての記憶を消されている……?)』

それは、デュエルモンスターズについての記憶を消されているという事だ。それが出来るかどうかに付いてはバクラは全く疑問を持ってはいない。だが、それにしては妙な話である。

『(だが、元・宿主サマはデュエルモンスターズの事を普通に知っていたぜ……なんで宿主サマと元・宿主サマで何が違うんだ……?待てよ)』

ここで、バクラはある事実に気が付く。それは先程の仮面ライダーの話だ。かがみは中途半端にしか仮面ライダーについて知らなかった。

『(宿主サマは仮面ライダーの事も中途半端にしか知らなかった……まさか!)』

バクラはかがみの記憶からある仮説に行き着いた。かがみの知識そのものがプレシアによって制限されているという仮説だ。
正直な所、バクラ自身も何故プレシアが記憶制限なんて事をするんだと疑問には感じてはいる。
だが、かがみの記憶を探る内にその理由もある程度推測出来た。そしてその仮説が正しければ、確かに制限をかけなければマズイ代物である。

『(もしかしたら……宿主サマの世界は、俺達参加者に関する物が溢れているのかも知れねえな……)』

つまり、かがみの世界ではデュエルモンスターズも仮面ライダーも何かしらの形で存在しており、他の参加者の世界に存在する物についても同様に存在しているという説だ。
但し、ここで重要なのは存在しているであって、それが大きな事件に発展する事など決してない平穏な世界という事である。

正直な話、バクラ自身もそんな世界が存在するのかは半信半疑である。だが、仮にそれが事実だとしたら、かがみはデュエルモンスターズ、仮面ライダー、その他色々の情報を握っているという事になる。
勿論、この殺し合いにおいては圧倒的に優位になってしまうのは言うまでもない。それに関する記憶に制限をかけるのは当然の話だ。

『(ったく……そんな世界があるのかよ……)』

この事実に気付いた時、バクラは驚きを通り越して内心呆れていた。とはいえ、折角の記憶も消されている以上、そこまで優位に立てる代物ではないとバクラは結論付けていた。
だが、その中で気になる人物を1人見つけた。

『(それにしても……こなたか……)』

バクラはこなたに大きな興味を持った。記憶の大半は消されてはいたが、その知識の大半はこなたと話した時のものが圧倒的に多かったからだ。
つまり、こなたが参加者についての知識を一番所有しているという事だ。当然、この場においてはかがみ同様記憶を消されているだろうが、完全ではない以上何かしら利用出来る事に変わりはない。
勿論、並行世界のこなたである可能性もあるが、キャロやフェイト達が並行世界の人物であっても根本的には違いがなかったから、並行世界のこなたであってもそれは変わらないだろう。
無論、全く違っており、なんの知識も持たない可能性もあるが、別にそれでも構いはしない。バクラにしてみればデスゲームを楽しめればそれで良いのだから。

『(それにしても宿主サマ……本当に災難だったなぁ……)』

バクラはかがみのこの殺し合いに連れて来られてからの動向について考えていた。

錯乱状態でエリオを撃ち、何とか落ち着いたと思ったらモンスターにエリオを喰われ、
その事で死のうとした際友人であるなのはに助けられたが、そのなのはは他人扱いし、
その後現れたクワガタ怪人に対してデルタギアで変身しようとしたがシステムにより凶暴化し、
その状態のまま数人の参加者を襲撃して乱戦の末に1人仕留めたが少女の攻撃で吹っ飛ばされ、
気が付いたらLという参加者に支給品を奪われ拘束され、
何とか逃げたと思ったらモンスターに追いかけ回されるという始末。

『(良くもまあ、同じ時間でこれだけの事をやったなぁ……何で俺様の支給先は宿主サマにしなかったんだ……プレシア……)』

と、支給先の選定を誤ったであろうプレシアに軽く愚痴るバクラであった。
さて、これらの状況についてかがみは自分は全く悪くないと考えていた。全部周囲の状況が原因で、それらについて憎悪を向けていた。しかし、

『(そりゃ、全部が全部宿主サマが悪いとは言わねえが……どう考えたって大部分は宿主サマのせいだろうが……)』

考えても見て欲しい、錯乱状態とはいえエリオを撃ったのは他でもないかがみだ。
同時にエリオが喰われる原因になったのはエリオが流した血からモンスターが現れたからだ。つまり、エリオの死はかがみが原因だ。
さらに、デルタギアで暴走し参加者を1人殺し、エリア崩壊のきっかけを作り散々痛い目にあったのもかがみが原因だ。
デルタギアの説明書も読まずにむやみやたらと変身したのは誰か?勿論かがみだ。
そしてLという参加者に拘束されたのもそうだろう。エリア崩壊する程の戦いをやれば当然危険視されてもおかしくはないからだ。
かがみはLという人物を人を縛り上げて監禁する危険人物だと判断していたが、バクラは全く逆、殺し合いを止めようとする人物だと考えていた。
そして、かがみはモンスターに追いかけ回されたと考えていたが、それもかがみの勘違いだろうとバクラは考えた。
恐らくLはかがみを保護する為にモンスターを向かわせたのだろうと……

『(まあ、途中で追跡が止んだのは……タイムリミットが来たってところだろうな)』

そしてモンスターの追跡が止んだのは制限時間が来たからだと考えた。
エリオを喰った後、他の参加者は食べていない。そしてその後の幾度かの戦闘とLによる追跡で時間を大幅に消費してタイムリミットを迎えたと……

『(ツメが甘かったってところだな)』

閑話休題、以上の通りバクラはかがみの惨状の原因の大半はかがみ自身が招いたものだと結論付けていた。
錯乱状態でエリオを撃った事や半衝動的にデルタに変身し暴走した事についてはかがみは悪くないと言う考えもあるだろうがそれは違う。
少なくとも、三千年前に盗賊をやっていたバクラから見ればそんな考えは甘えでしかない。錯乱状態であろうが半衝動的であろうがそれらは全て他でもないかがみの責任だ。
同時に、それらを全て周囲や他人が原因だと言うのは許される事ではないだろう。

正直な所、そんなかがみの考え方は気に入らないとバクラは内心では思いつつ、現状に関しては都合が良いだろうと考えた。

『(おかげでようやくデスゲームを楽しめるわけだからな……後は元・宿主サマを宿主サマ自身の手で喰わせれば……完成だ)』

バクラがデスゲームを楽しむ為に必要なのは殺し合いに乗った宿主である。制限により本来の力が出せないバクラがデスゲームを楽しむには宿主を時にサポートし、時に身体を使うしかない。
だが、万丈目は殺し合いを良しとせず、あろうことか折角の力とも言うべきカードデッキを壊すと言いだしたのだ。バクラにとっては受け入れられない考えである。
そこに周囲に憎悪を向けているかがみが現れた。友人や妹すら信用出来ない状態にまでなったならば、バクラの望む宿主としては都合がよい。
後は完全なかがみ自身の意志で殺しをさせる事で完成すると……人を殺したならば最早後戻りは出来ず後は只堕ちるだけだからだ。
無論、事故や暴走では駄目である。それを逃げ道にしてしまうからだ。だからこそ逃げ道を塞ぐ為にバクラはかがみ自身の手で人を殺させるのだ。
そして、その目的の達成はもう間近に迫っていた。万丈目の正義感の強さ、実力、現在の状況。それら全てから考えそれは揺るぎないだろうとバクラは考えていた。

『(それにしても皮肉なものだな……)』

バクラはかがみの腕に付けられたストラーダを見た。バクラは万丈目の記憶からストラーダの本来の持ち主がエリオである事を知っている。
そう、今ストラーダを持っているのは本来の持ち主であるエリオを殺したかがみなのだ。勿論、かがみはその事を知らないし、ストラーダもそれには気付かないだろう。
バクラはかがみとストラーダが気付かないその事実に気付いていた……。

「それじゃ戻るわよ」
『もういいのか?』
「ええ、隙を突いて万丈目を喰わせるってことでしょ……で、鏡とかは?」
『千年リングを使えばいいだろ』
「はいはい……」

かがみもようやく意を決して万丈目がいるであろう店内に戻っていった。



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