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Teardrop ◆HlLdWe.oBM




『世界は、いつだって……こんなはずじゃないことばっかりだよ!!
 ずっと昔から、いつだって、誰だってそうなんだ!!
 こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは、個人の自由だ!』

ある少年はそう主張した。
その少年の人生は不幸ではなかったが、決して幸福と言えるものではなかった。
少年の人生を左右したのは父親が担当していた忌まわしい事件。
その時の事故で父を亡くした少年は不器用な決意を持って父のようになるべく日々を犠牲にした。
全ては「こんなはずじゃないこと」を少しでも減らせるように。
そして日々の努力の末に少年の願いは実を結び、ついに父と同じ立場にまで成長した。
少年はそれからも自分のような悲しみをなくすために行動して――

――死んだ。

これで『ある世界の少年』の話は終わるが、『別の世界の少年』の話はこれからも続いていく。

これから始まるのは『少年』の義妹と関わりのあった二人の少年少女の悲しい物語。


     ▼     ▼     ▼


まだ僅かに東寄りにある太陽から眩しい光が3階の床に差し込んでいる。
一応デパートだけあって本来は綺麗に磨かれていたと思われる床は、今では埃と罅まみれのみすぼらしい床に成り果てていた。
さらにそこに大小の瓦礫が無数に散らばっているとなると、もう開店当時の面影は見る事は出来ない。
それは特に日が差し込んでいる場所でこそ顕著に見られる傾向だった。
そこからは外の景色が一望できたが、不思議な事にそこには外を見るための窓やガラス戸は一切見当たらない。
寧ろデパートを形作る壁そのものすらポッカリなくなっている状態だ。
デスゲームの会場の南に位置するH-5にあるデパート、その3階フロア。
ここも他の施設に倣ってか破壊の跡が見つけられる。
地面にも散らばる大小の瓦礫の真上、外と内を隔てる3階フロア東側の壁は見事に破壊されていた。

「……ぅ……ぇあ……わ、私ぃ……――」

その破壊された壁から少し離れた場所に一人の少女が蹲っている。
頭に被っている羽飾り付きの真紅のベレー帽の下から覗く薄い紫の髪に黄色のリボン。
赤茶けたマントの下には中世風の白い衣服の上に胸元のブレストプレート。
彼女は陵桜学園3年B組所属の女子高生、柊つかさ。

現在進行形でつかさが床に蹲って嗚咽を漏らしながらすすり泣いているのには訳がある。

――フェイト・T・ハラオウンを殺してしまった事。

だがつかさ自らの手でフェイトの命を奪った訳ではない。
フェイトを直接殺したのはつかさが召喚した青眼の白龍だ。
しかしその青眼の白龍を召喚したのは紛れもなくつかさ自身に他ならない。
間接的とはいえ誰かを殺してしまったという事実がつかさを容赦なく蝕んでいた。
あれからずっとつかさは自分で自分を果てしなく責め苛んでいた。

だが、つかさは知らなかった。
まだフェイトが生きている事に。
青眼の白龍は誰も殺していない事に。

そして、その事実はこのフロアにいるもう一人でさえも知らない事だった。

「……つかささん」

汚れた床に蹲るつかさを少し離れた場所から一人の少年が机越しに見ている。
茶色がかった髪、そして赤いジャケットに薄青色のズボン。
デュエル・アカデミア下級クラスオシリスレッド所属のデュエリスト、遊城十代。

十代がつかさから離れているのは別に十代が冷たい性格という訳ではない。

最初は十代もつかさを立ち直らせようと色々声を掛けてみた。
だが何度声を掛けても一向につかさが反応する様子はなかった。
周囲の声が聞こえない程ショックが大きいと察した十代はしばらく静かにそっとしておく事にしたのだ。
そしてその間に今までに分かった事や考えた事をメモにまとめる作業に取り掛かった。
時々今のようにつかさの事を心配して小声で呟くが、それっきりだ。

(まずは、名簿に印でも付けるか)

これに際して使用する印は「○」「×」「△」「――」の4種類。
名前の前に付ける「○」「×」「△」はそれぞれ「友好」「危険」「不安」を、名前の上に付ける「――」は死亡を表すつもりで付けた。
その結果「○」印を付けたのは「泉こなた」「ヴィータ」「ヴィヴィオ」「キャロ・ル・ルシエ」「ギンガ・ナカジマ」「クアットロ」「クロノ・ハラオウン」「ザフィーラ」「早乙女レイ」「シグナム」「シャマル」「スバル・ナカジマ」「高町なのは」「高町なのは」「チンク」「ティアナ・ランスター」「ディエチ」「天上院明日香」「柊かがみ」「柊つかさ」「フェイト・T・ハラオウン」「八神はやて」「八神はやて」「遊城十代」「ユーノ・スクライア」「ルーテシア・アルピーノ」の合計26人。
但しこのうち「クロノ・ハラオウン」「シグナム」「高町なのは」「ティアナ・ランスター」「ディエチ」の5人には死亡を表す「――」印を上に引いた。
「×」印を付けたのは「フェイト・T・ハラオウン」だけで、当然「――」印を引いた。
「△」印を付けたのは「エリオ・モンディアル」「万丈目準」の2人で、「エリオ・モンディアル」には「――」印を引いた。

これらは今まで十代がシャマル、クアットロ、つかさと話して得た情報に基づいて判断したものだ。
だがシャマルとクアットロとの会話では十代の世界の話題が主だったために十代はJS事件の事はよく知らないままだった。
だから呼ばれた時期によっては殺し合いに乗る可能性のある「シグナム」「ヴィータ」「ザフィーラ」「チンク」「ディエチ」も迷わずシャマルとクアットロの知り合いという事で「○」印を付けたのだ。
今回「×」と「△」の印を付けたのは自らの目で確かめた「フェイト・T・ハラオウン」とデュエルゾンビになっている可能性のある「エリオ・モンディアル」と「万丈目準」の合計3人なのはそのためだ。

(それから考えておかないといけないのは『月村すずかの友人』からのメールか)

『月村すずかの友人』からのメールの主な内容は以下の4つだ。
つまり『各施設の仕掛けの調査』『地上本部の罠』『キングへの警戒』『放送内容の反覆』である。

まずこのメールの信憑性だが、とりあえず十代はこのメールの内容を信じる方向で考える事にした。
わざわざ誰か分からない名前を使ってまでメールをしている事が信じた理由の一つ。
もしも偽の情報を流すなら信頼させるためにも最低限名簿にある名前を使ったほうが手っ取り早いと思ったからだ。
だが十代の考えが及んだのはその辺りまでだった。
逆にそこまで考えて『月村すずかの友人』という名前を悪人が使っているとは全く考えていなかった。
実際今回のメールの主は打倒プレシアを目的とする八神はやてだったが、一概にはやてが安全とは言い切れない。

4つの内容のうち『各施設の仕掛けの調査』については1時間ほど前にデパートを隅々まで調べた事で達成した。
これといって仕掛けは見つからなかったが、特別な道具として「リビングデッドの呼び声」のカードを発見している。
おそらくこれがデパートの仕掛けに相当する物だろうかと半信半疑ながらも、とりあえず十代は結論を出した。

次に『地上本部の罠』について。
この『月村すずかの友人』は屋上の装置を使用して仲間と散り散りになったらしいが、十代はその装置のおかげでつかさと再会できた。
もしも『月村すずかの友人』と仲間が自分とシャマルのように別々の行き先を望んで散り散りになったとしても、『月村すずかの友人』は自分のように望んだ場所に転移したはずだ。
つまり『月村すずかの友人』は望んだ場所に転移する事は出来なくて、ただ仲間と散り散りにされただけという事になる。
このメールの内容がそう物語っている。
つまりあの装置は場合によって思い通りにいったりいかなかったりするランダム性を持っていると考えられる。
あのような便利な装置をプレシアがただ単に置いている理由もこれなら説明が付く。
地上本部屋上の転移装置はプレシアが参加者間の情報を混乱させる目的で設置したと、十代はそう結論づけた。

それから『キングへの警戒』について。
これは判断材料がこのメールのみだが、十代はメールの送り主を信用しているため以後キングには気を付けるようにするつもりだ。

最後に『放送内容の反覆』について。
なぜわざわざ放送の事を持ち出すのか理由は分からなかったが、もしかしたらそこに重大な何かがあったのかもしれない。
十代は必死になってあの忌まわしい放送の内容を思い出し始めた。

(確か最初にどんな事をしても生き残れとか言っていたような……で、次に禁止エリア。
 7時からB-1、9時からD-3、11時からH-4か。ふぅ、書き留めておいてよかったぜ。
 それから……死者の名前が発表されたんだよな、13人も……ちくしょう!
 確か呼ばれた順番は名簿に沿って五十音だったはず……放送聞きながら禁止エリアと死者の名前は3人でチェックしていたからな。
 その後デスゲームが予想以上に進んでいるとかで褒美として優勝者の願いは何でも叶えるって言ったんだっけ。
 で、その実演も兼ねて――アリサさんの死者蘇生を行った)

そこまでの内容をメモに書いてから十代は改めてプレシアへの怒りを再確認していた。
一応シャマルと話した結果あれはトリックだと結論付けたが、今思い返してみるとその映像が生半可じゃないと分かる。
今でもアリサの死者蘇生劇は思い出すだけで背筋がぞっとしてくるのだ。
首から下を赤に染め、首から上が無いアリサの物言わぬ死体の寂しい様。
突然無くなっていたはずの首が元通りになって生き返る様。
生き返ったアリサが再び前触れもなくあっさりと首を吹き飛ばされる様。
血を噴水のように噴き出しながらも椅子に座っているアリサの首無し死体の様。
その一部始終を十代は未だに鮮明に思い出す事ができた。
それだけ衝撃的な映像だった証拠だろう。

(あれって本当にトリックだったのか?
 これだけの事が出来るんだ、もしも本当だったらあの力でさっき死んでしまったフェイトさんを――って、何考えているんだ!?)

一瞬頭に浮かんだ考えが何か気付いて十代は思わず自分の考えを恥じていた。
プレシアの力でフェイトを生き返らせるという事はデスゲームで優勝する事に他ならない。
それはつまりこの場にいる参加者全員を皆殺しにする事を意味している。
もちろん十代は断じてそんな事は望んではいない。
相手が襲ってくれば、生きるため、つかさを守るために戦うかもしれない。
だが基本はそんな物騒な事にならずに皆でここから脱出する事を望んでいる。
フェイトを生き返らせる事はその方針を放棄して殺し合いを認めるという事だ。
そんな事を一瞬でも考えてしまった自分が情けない。
もうこれ以上犠牲は出したくない。
十代は決意を新たにして気持ちを奮い立たせようとしたが――

(……やっぱり、このカードを使うべきなのか?)

――はっきり言って不安だった。
十代は特に武術に秀でた訳でもなく運動神経もそこそこ良い方な程度、敢えて特技と言えばデュエルの腕ぐらい。
いくら崇高な目標を掲げてもこれでは肝心な時には何の役には立たない事は明白だった。
この時ばかりは十代も純粋に殺し合いに乗った者に対する力が欲しいと心の底で思った。
そして、今その力の一端は十代の手元にある。
それがデュエルモンスターズカード「リビングデッドの呼び声」だ。
このカードの効果は『自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する』というものだ。
つまり消費してしまったモンスターカードを復活させ、再度攻撃命令を下せるという事だ。
だがこれは単体では使えない魔法カード、正しく使用するためには使用済みのモンスターカードの存在が必要である。
そして今この場でそれに該当するモンスターカードは唯一つ。

――「青眼の白龍≪ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン≫」

攻撃力3000守備力2500を誇るドラゴン族のモンスター。
その力の程は先程目の前で披露されて記憶にも新しい。
現に青眼の白龍の攻撃をまともに食らったフェイトは必死の抵抗も虚しく強大な力の前に撃沈させられている。
そして今頃はこの会場のどこかで上空から地上に落ちた衝撃で死んで原形を留めない肉塊に成り果てているに違いない。
その悲惨な状況を作り出したのは他でもない青眼の白龍であり、召喚したつかさ、そして十代自身である。

だが力を恐れていて結果的に殺されては本末転倒だ。

(そうだ、こんなところで立ち止まっていても何も変わらない。
 このままじゃ問題を先延ばしにするだけ、つかささんもいつかはきちんと向き合わないといけないはず。
 大丈夫、今度は上手くやってみせる!)

十代は決心した。
もう二度とこんな悲しい出来事は起こさないと。
こんなはずじゃない事に立ち向かうために。
ふと視線を向けるとつかさはまだ蹲ってすすり泣いている。
それを確認すると十代はつかさの方にゆっくりと歩み寄って行った。
だがバヨネットやエアガンなどの武器は元いたテーブルの上にデイパックと一緒に置いている。
以前十代は武器を持ったままつかさと接触した事が原因でつかさを恐怖させて、フェイトとの間に誤解が生じさせてしまっている。
今回はその時の轍を踏まないようにつかさを怖がらせる物は予め身に付けないようにしているのだ。
今十代が持っている物は「リビングデッドの呼び声」のカードだけだ。

「つかささん」

当然ながらつかさからの返事はない。
フェイトが撃墜してしまったと実感した時からずっとこの調子だ。
身も心も赤茶色のバリアジャケットの下に閉じ込めたまま床に蹲っている。
今までもたびたび声をかけてきたが、今回も今までと同様で十代の声が全く聞こえていないかのように一行に反応しない。
ただ俯いて嗚咽を漏らす音が返ってくるのみ。
今までの十代なら静かにしておこうと思って、そこで声をかける事を止めていた。

「つかささん、聞いてくれ」

だが今回はそれで引く十代ではなかった。
なぜなら十代はこれ以上あんな悲しい出来事を起こしたくないと決めたからだ。
その決心の下でまずやるべき事は目の前で塞ぎ込んでいるつかさを元気づける事。
そして立ち直ったつかさと共に今度こそ青眼の白龍を制御して皆の役に立つ事。

「フェイトさんの事でショックなのはよく分かるよ、俺もずっと考えていたから……
 こんな、こんなはずじゃなかったって! ずっと後悔していたんだ!」

確かに今つかさにこの話をする事は酷なのかもしれない。
だがこのデスゲームという状況が十代達に悠長な時間を与えてくれない。
あれだけの爆発があった事で今すぐにでもここに危険人物が乗り込んでくるかもしれない。
今そんな事になれば十代もつかさも呆気なく殺されてしまう事は容易に想像できる。
十代が崇高な決意を抱こうと二人が足掻いたところで精々死期を数秒伸ばす程度だろう。
それでは意味がない。

「でもいつまでもそうしている訳にはいかないんだ! ここは危険な場所だから俺達が生きるためには力が必要なんだ。
 だから、つかささん。お願いだ、このカードを、「リビングデッドの呼び声」のカードを受け取ってくれ!
 そして、もしも危険な人物に襲われた時にはこれでブルーアイズを復活させてほしいんだ」

今この場で「リビングデッドの呼び声」を使う事ができるのは先程青眼の白龍を召喚した柊つかさしかいない。
モンスターを召喚していない十代ではこのカードを使う事が出来ない。

「つかささん!!」

十代は懸命につかさに声をかけ続けた。
自分の想いをぶつけるようにつかさの心に届くように。
何度も何度も呼びかける。

そして――


     ▼     ▼     ▼


ふと背後から風を感じて振り返ってみる。
あ、壁の向こうに青い空が見える。
さっきブルーアイズが壊していったんだっけ。
うん、風が気持ちいい。

ああ、そうだ、小さいフェイトちゃんはもういない。

殺しちゃった、ころしちゃった、コロシチャッタ――
私が、わたしが、ワタシガ――
殺しちゃった、ころしちゃった、コロシチャッタ――
フェイトちゃんを、ふぇいとちゃんを、フェイトチャンヲ――
殺しちゃった、ころしちゃった、コロシチャッタ――
この手で、しょうかんした、ブルーアイズデ――

こんなはずじゃなかった。
こんな結果なんて望んでいなかった。
こんな事になるなんて思ってもいなかった。

なんでこんな事になったんだろう。
私がブルーアイズを召喚したせい?
私が生きたいって思ったから?

それとも十代君のせい?
それともフェイトちゃんのせい?

……違う。
十代君は全然悪くない。
フェイトちゃんは――分からない。
でも、あの時はああするしかなかった。
あの時ブルーアイズがいなかったら私も十代君もたぶんフェイトちゃんに殺されていたと思う。
だから……だから……仕方なかった?
フェイトちゃんが死んだ事は仕方のない事なのかな?

……違う。
あのフェイトちゃんは襲って来たけど、だからと言って死んでいいはずがない。
フェイトちゃんが襲ってきたのにも理由があったはず。
もしも話し合いができたら違う結末になっていたかもしれない。
じゃあ悪いのは私?
こんなはずじゃない状況を作り出したのは私?

もう嫌だよ。
こんな世界いたくない。
こんなはずじゃない事ばかりの世界なんてもういたくない。

「つかささん」

不意に十代君の声が聞こえる。
さっきから何度も何度もかけられる声。
でも今はそれに応える気が起こらない。
だからまた黙ったままでいる。
そうすればそのうち十代君も黙ってくれる。

「つかささん、聞いてくれ」

でも、今回の十代君は違った。
いつもなら引き下がるはずなのに今回は引き下がらなかった。
なんとなく十代君の熱意が伝わってくる。
だけど、やっぱり応える気にはなれない。

「フェイトさんの事でショックなのはよく分かるよ、俺もずっと考えていたから……
 こんな、こんなはずじゃなかったって! ずっと後悔していたんだ!」

あ、十代君も私と同じ気持ちなんだ。
じゃあさ、分かるよね。
私が今どんな気持ちでいるのか。
分かるんだったら放っておいてほしい。
今は静かにさせて話しかけないで。

「でもいつまでもそうしている訳にはいかないんだ! ここは危険な場所だから俺達が生きるためには力が必要なんだ。
 だから、つかささん。お願いだ、このカードを、「リビングデッドの呼び声」のカードを受け取ってくれ!
 そして、もしも危険な人物に襲われた時にはこれでブルーアイズを復活させてほしいんだ」

え、今、なんて――
今、十代君、言ったよね?

「リビングデッドの呼び声」を使って「青眼の白龍」を復活させてくれ――そう言ったよね?

なんでそんなこと言うの?
十代君も見ていたはずだよ。
私が召喚したブルーアイズが、私の命令を受けて、私に攻撃してきたフェイトちゃんを殺す光景を。
私と一緒に見ていたよね、ただ見ていたよね、何もできないままフェイトちゃんが殺される様子を見ていたよね?

なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで?

なんでそんな酷いこと言うの!?
そんなに私に人を殺してほしいの!?
私にまたフェイトちゃんみたいな人を殺してほしいの!?

そんな事……したくないよ。
もう誰かを殺すとか殺さないとかたくさん。
こんな世界なんて嫌だ。
もうこんな世界になんていたくない。

――また私みたいに誰かを殺すの?

一瞬フェイトちゃんの声が聞こえたような気がする。
志半ばに死んでいったフェイトちゃんの恨みが籠ったドス黒い声が。
当然だがフェイトちゃんがここにいるはずがない。
だから今聞こえた声も空耳のはずだ。
フェイトちゃんの事を考えてばかりいる私の幻聴に過ぎない。

だけど、そう思えなかった。

今の声はまるで私を咎めるような声だった。

「つかささん!!」

もうこんな所にいるのは嫌だ。

だから私は立ち上がった。
そして、背後を振り返って青い空を見る。

私は空に向かって一気に走りだした!!!


     ▼     ▼     ▼


十代の誤算はつかさに対して性急に対応してしまった事だ。
確かにこのデパート及び付近で起きた青眼の白龍とフェイトの戦闘を目撃した者が興味を抱いて来訪する可能性は十分にある。
しかも来訪者が危険人物であれば十代もつかさも抵抗虚しく殺されてしまう事は火を見るよりも明らかだった。
だからこそ抑止力として「リビングデッドの呼び声」を使って青眼の白龍を復活させようとする十代の考えは不自然ではない。
だが今のつかさはフェイトを殺した事への強い自責の念で満ち溢れていた。
そんな状態の時にこの話を持ちかけた事は完全に裏目に出た上に、つかさの精神は限界に近い状態になっていた。

「つ、つかささん!?」

それに加えて二人の位置関係も問題だった。
十代はつかさの真正面にしゃがみこむような形で話していたので、壁の穴に近いのはつかさの方だった。
これが逆なら横を通り過ぎようとするつかさの腕を掴む事ができたのだが、これではそれも無理だ。
つかさが立ち上がったのも自分の言葉に前向きに反応してくれた結果だという十代の思い込みもあった。
だからこそ咄嗟につかさへの対処が追いつかなかった。

その結果、十代はつかさが壁の穴に向かって走り出す事を阻止できなかった。

「くそっ!」

まさか十代もつかさが投身自殺という最悪の手段に打って出るなど予想していなかった。
それほどつかさは追い詰められていたのだが、結局十代は認識不足からそこまで察する事が出来なかった。
その結果がこの一瞬の対応の遅れだ。

「――ッ! 追いついた!」
「やめて、離して十代君!」

だが如何に一瞬反応が遅れたからと言っても元々の運動能力の差は覆せない。
壁の穴までの距離が少々あった事が幸いだった。
何とか後50cm程の所で十代はつかさの腕を掴む事に成功したのだった。

「ダメだ、自殺なんて!」
「そんな、そんな口先だけの言葉なんか――」

だがつかさの必死の抵抗は十代では完全に抑えられるものではなかった。
今のつかさには十代の言葉はまるで届いていなかった。

「落ち着いてくれ! つかささん、俺は――」
「十代君……十代君は勝手すぎるよ!」
「え?」

それは十代にとっては思いもかけない言葉だった。

「いろいろあったけど、十代君は他人を元気にしてくれる、太陽みたいな存在なのかなって……」

つかさの言葉を十代はただ黙って聞いているしかできなかった。

「でも、それは思い違いだったのかな。十代君は自分が良ければそれでいいんだ!」
「え、俺はそんな事は――」
「じゃあ、なんであの龍を復活させようとするの? また私に誰かを殺してほしいの?」
「そうじゃない。でも、もしまた危険な奴が来た時のために……」
「やっぱりそうなんだ。誰が犠牲になろうが目的のためならどうだっていいんだ!」
「待ってくれ、俺の話を――」

それは単なるつかさの勘違いに過ぎない。
十代はそんなつもりでつかさに「リビングデッドの呼び声」を渡そうとしたのではない。
だが精神的に追い詰められているつかさにはそんな事は分からない。
一方の十代も上手く言葉を返せないでいた。
それは心のどこかでつかさに言われた事を考えていたかもしれないと思っていたせいだ。

その心の動きは身体にも現れている。
相変わらず必死に飛び降りようと壁の穴に向かって進むつかさと、それを止めようとする十代。
当初は十代の方が優勢だった状況はつかさの糾弾とも言うべき言葉の応酬によって僅かにひっくり返されていた。
もう既に床の続きは残り少ない所まで二人は来ていた。

つかさと十代。
二人の想いは平行線を辿り、お互いに一歩も譲らない。
傍らから見たら二人の動きはワルツに見えたのかもしれない。
剥き出しの想いをぶつけあいながら生と死の狭間で繰り広げられる不器用な踊り。
クルクルと、くるくると、狂狂と、二人の危険なワルツは披露される。
一歩足を踏み間違えればその瞬間に生が終わり死が始まる不思議なワルツ。
だがワルツの踊り手達はそんな事は気にしない。
当人にとってこれはワルツなどという優雅なものではない。

だからこそ形式に囚われる事なく唐突な終わりもあり得る。

「離してよ!」

トンと胸を押す軽い音が響く。

「――え?」

そして終わりを理解できない拍子抜けた声が口から出る。

ここでワルツは終了。

あとはもう一滴の涙のように落ちるだけ。


     ▼     ▼     ▼


俺は間違っていたと言うのか

こんなはずじゃなかった。
こんな結果なんて望んでいなかった。
こんな事になるなんて思ってもいなかった。

なんでこんな事になったんだろう。
つかささんの気持ちをよく考えないまま話しかけたから?
心の底でつかささんの言った事を思っていたから?

力を求めた事が間違いだったのか。
「リビングデッドの呼び声」を見つけた事が間違いだったのか。
転移装置を使った事が間違いだったのか。
一旦仲間を集めると決めてつかささんとフェイトさんから逃げた事が間違いだったのか。

ダメだ、今までやってきたデュエルの時よりも頭は冴えている気がするのに何も分からない。

あぁ、もう疲れた、ちょっと休みたいぜ。
結局、俺はヒーローにはなれなかったな。

今頃みんなはどうしているんだろう。
万丈目や明日香、それにレイ、ここにいる知り合い。
なのはさんにフェイトさん、それにシャマルさんやクアットロさん、時空管理局の人々。
翔、剣山、ヨハン、ジム、オブライエン、学園のみんな。

そして俺の相棒であるハネクリボー。
今まで一緒に戦ってきた唯一無二の相棒。
もしかしたら誰かに配られているのか。

ん、なんだ相棒、そんな所にいたのか。
今までどこに行っていたんだよ。
まあいいや。
ほら、来いよ。




――バリン




え、嘘だろ?
相棒が砕けた?
手を伸ばしただけで?
ガラスみたいにバラバラに?

嘘だ。
これは幻だ。
前にも一度あった。
エドに負けた直後にも見た奴だ。
だから心配ないはず。
いつものようにすれば相棒は戻ってくる。
そうだ、きっとそうだ。

「……いくぜ……ガッチャ」




グチャ




【遊城十代@リリカル遊戯王GX  死亡確認】


     ▼     ▼     ▼


デパートの3階から地上に落ちていく十代をつかさは呆然と眺めていた。
全ては不幸な偶然だった。
空と床が接する境目で縺れ合ったままつかさと十代はお互いに譲らなかった。
つかさは十代を振り払ってデパートから飛び降りようとしていて、十代はそれを止めようとつかさを離そうとしなかった。
だが二人の均衡が破られた時、事態は一変した。
つかさの言葉に気を取られた十代がつかさを掴む手を緩めた時間は精々数秒。
だが十代の手の掴む力が緩んだ瞬間、つかさは思いっきり十代の胸の辺りを両手で押した。
そうすれば十代から解放されて当初の予定通り穴が開いた所から地上に落ちていくはずだった。
そして刹那の滞空の後に地面に激突して痛みも感じないままに死ぬ。
本当ならそうなるはずだった。

だが運命の悪戯か、つかさの思い通りにはいかなかった。

デパートから落ちていったのは十代の方だった。
理由はいくつかある。
お互いにもみ合っていたせいで最初と位置関係が変わっていた事。
反射的に十代がつかさを助けようと位置を変えた事。
他にも理由はいろいろあるのかもしれない。
だがそこにある事実は唯一つ。

――遊城十代は柊つかさの身代わりとなって転落死した。

これがここで起こった出来事の全て。
全てはこの一文で表す事ができる。
だが一人残されたつかさにとって今目の前で起こった出来事はそんな一文で表す事ができるほど単純なものではなかった。
つかさは再び静かに思った――こんなはずじゃない、と。

(こ、こんな……こんなはずじゃ、なかったのに……なんで、なんで――)

フェイトの時も十代の時もつかさに明確な殺意があった訳ではない。
前者は正当防衛のような形で、後者は不幸な事故のような形で。
それぞれ起きてしまった事象だと言える。
だが当事者のつかさにとってはそんな事実はただ慰めにしか過ぎなかった。
直接的にしろ間接的にしろその手にはしっかりと誰かを殺してしまったという事実が刻まれている。

(もう嫌だよ、こんな世界……もういたくない……)

つかさは今ようやく理解したような気がした。
ここには希望など存在しない。
ここにあるのは絶望だけ。
希望のようなものが見えても最後には絶望に変わる。
ここはそういう世界なんだと若干麻痺しかけている頭で理解していた。

(もうここには私の邪魔をする人はいない。やっと、この世界にいなくなれるんだ)

つかさは心底ほっとしていた。
ここから早く消えたいというのが今のつかさの偽らざる思いだった。
もう既につかさの愚行を止める十代はいない。
つかさは何の気兼ねも無く再び壁の穴に向かって歩き始めた。

「ん、なにこれ?」

ふとつかさは進行上に一枚の白い紙が落ちている事に気付いた。
床の上は瓦礫と埃と罅で汚れていたために白い紙は思いの外に目立って見える。
だからなんとなく気になって拾ってみた。

「なんだろう、えっと…………………………え、ウソ、これ……本当なの――十代君?」

それは先程十代が今まで考えた事や分かった事を纏め書きしたものだ。
主な内容は『月村すずかの友人』からのメールに関してのものだが、特につかさの目を引いた内容があった。
それは放送で「アリサ・バニングスが復活した」という内容だった。

「そうだ、確か禁止エリアと死亡者の発表の後にそんな事があったような――」

今まで目まぐるしく状況が変わっていたせいで忘れていたが、そんな事があったなとつかさは朧気に思い出していた。
このデスゲームで最後の一人になれば願いを一つ叶えてくれる。
それが本当なら死んだなのはもフェイトも十代も生き返ってくる。
だがつかさには一抹の不安があった。

(でも、生き返ってもここにはいたくないし……どうしよう……私は皆と元通りの生活を――!?
 そうだ、これだ。プレシアさんに頼んで全部元通りにしてもらおう!)

つかさが辿り着いた結論。
それはプレシアに頼んで『全部元通りにしてもらう』事だった。
死んだ人もみんな生き返って元いた世界に戻してもらうのだ
こうすればみんなが元いた世界で今まで通り平和に暮らす事ができる。
最初は不安でいたが、徐々につかさはこれこそ最善の希望だと心から思えてきた。

つかさ自身は気付いていないが、いつのまにかつかさの中には自殺しようという気はほとんど残っていなかった。
もちろん原因は十代が残したメモだ。
自身の中に眠っていたアリサの復活の記憶と共に照らし合わせた結果、そこに一縷の希望を見出したのだ。
今のつかさはその真偽も碌に確かめずに藁にも縋る思いであやふやな希望に望みを託している状態だ。
だがそうでもしないと自分がしてきたことの重みに耐えられずにつかさは自らの手で自分の命を絶っていただろう。
今のつかさは現実から目を背けて逃げて自身を守っていると言えるだろう。

そして皮肉にも結果的に十代のおかげでつかさの自殺は食い止められた事になる。
これが十代の望んだ結果かどうかは当人が死んだ今となっては知る術がない。

(とりあえずフェイトさんが帰ってくるのを待っていよう。で、小さいフェイトちゃんや十代君の事は正直に話して守ってもらおう)

だがみんなを元通りにすると決心してもつかさ自身の戦力は甚だ心許ない。
一応十代の荷物やもみ合いの最中に落ちた「リビングデッドの呼び声」、フェイトが落としていったマスクを拾ってもそれは同じだった。
そこでつかさが考えた作戦は誰か頼りになる人に保護してもらうというものだった。
実際もうすぐ機動六課に行っているフェイトが戻ってくる時間である(当然だがこのフェイトはつかさが殺したと思い込んでいるフェイトとは別人である)。
つかさはフェイトが戻ってくれば今までにあった事は全て正直に話すつもりだ。
単に隠し通す事が無理そうだと判断したからだが、どこかで素直に罪を認めて白状したら同情してくれるという考えもあったかもしれない。

しかし不測の事態が起きて時間通りフェイトが帰ってこないという可能性も考えられる。
最悪どこかで死んでしまった可能性だってある。
それを考えただけでつかさの身体はしばらく震えていた。

(フェイトさんが帰ってこなかったら……まずはここから出よう。
 そして危険な人に見つからないように隠れて続けて、その間に誰か守ってくれそうな人を探そう)

それが今のつかさに考えられる対策だった。
基本的に危険な人からは隠れて逃げて、頼りになりそうな人に守ってもらうというものだ。
デパートが危険だと判断した理由は奇しくも十代と同じものであった。
つまり青眼の白龍とフェイトの戦闘を目撃して危険人物が来る危険性からだ。

(そして残りが私達だけになったら、これを使って――)

そしてその後は守られながらつかさはじっと待ち続けるつもりだ。
デスゲームで生き残っている者が自分の周りにいる者だけになった瞬間を。
その時につかさは使うつもりでいる。
「リビングデッドの呼び声」で呼び出される青眼の白龍を、彼の龍が放つ滅びの爆裂疾風弾≪滅びのバースト・ストリーム≫を。
全てはこんなはずじゃない世界を元通りにするために。
つかさはようやく全てが元通りになる兆しが見つけられたと思うと、その顔に微笑みを浮かべるのだった。

だがつかさは気付かなかった。
少し俯いて微笑むその頬を伝う一滴の涙に。


【1日目 昼】
【現在地 H-5 デパート3階】
【柊つかさ@なの☆すた】
【状態】健康、なんだかすっきり
【装備】パピヨンマスク@なのは×錬金、シーナのバリアジャケット@SHINING WIND CROSS LYRICAL
【道具】支給品一式×2、電話帳@オリジナル、バヨネット@NANOSING、んまい棒×4@なの魂、ヴァイスのバイク@魔法少女リリカルなのはStrikerS、リビングデッドの呼び声@リリカル遊戯王GX、木製バット、エアガン、パン×6、プチトマトのパック×2、キャベツ、レタス、じゃがいも×3、十代のメモ
【思考】
 基本:プレシアに頼んで『みんな元通りにしてもらう』。
 0.生き残りが自分の周りにいる者だけになった時、リビングデッドの呼び声で青眼の白龍を復活させて優勝する。
 1.正午までフェイト(StS)を待つが、戻って来なかったらデパートを出て誰か自分を守ってくれそうな人を探す。
 3.デパートであった出来事は信用できそうな人になら話してもいい。
 4.メールを返信しようかな、どうしよう。
 5.家族や友達に会いたい。
【備考】
※放送の内容は十代のメモを読んで知りました。
※メールの差出人『月村すずかの友人』と内容を信用しています。キングを警戒する事にしました。
※フェイト(A's)は死んだと思っています。
※十代のメモの主な内容は『月村すずかの友人』からのメールに関する考察です。詳しい内容はTeardrop本文参照。


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少年の言葉には続きがある。

『だけど、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない!!』

少年の名前はクロノ・ハラオウン、その義妹の名前はフェイト・T・ハラオウン。

これは『クロノ』の義妹フェイト・T・ハラオウンと関わりのあった二人の少年少女の悲しい物語。



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