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Tの悲劇/書き換えられた記憶 ◆gFOqjEuBs6




私が目を覚ました時には、太陽は既に沈みかけていた。
一体何時の間に眠っちゃったんだろう。
今日あった出来事が、何も思い出せないや。
机に突っ伏した頭を上げる。
眠い目を擦って、周囲を見渡した。
私にとっては良く見慣れた、私立陵桜学園3年B組の教室内だ。

「お、やっと起きたか、つかささん!」

ふと振り向けば、まだ寝ぼけ眼の私に声を掛けてくる男の子が居た。
活発そうな茶髪の男の子。机に座って、私に笑顔を向けている。
えっと、えっと……この人は誰だったかな。
何だかまだ頭がぼーっとしているみたい。

「まだ寝ぼけてるのか? つかささん」

やれやれと言った具合に、男の子が苦笑した。
あぁ、思い出した。この人の名前は、「遊城十代」君。
同じクラスの、数少ない男の子友達。
お姉ちゃんやこなちゃん達と同じくらい、大切なお友達。

「あれ? お姉ちゃんやこなちゃん達は?」
「皆なら先に帰ったぜ。俺達の邪魔にならないようにってさ」

私の顔が赤くなった。
こなちゃん達は、良く私と十代君を二人きりにする。
別にそんな関係じゃないって言ってるのに、私達を学園もののゲームに見立てて煽る。
お姉ちゃんはそんなこなちゃんに付き合わされて一緒に帰っちゃったみたい。
そんなことされたら、意識してなくたって恥ずかしくなっちゃうよ……。

「こなたの奴、『二十代はつかさが起きるまで待つ事』とか言っちゃってさ
 完全に俺達のこと誤解してるんだよなぁ……全く」
「えへへ、でも私は十代君と一緒に居るの、嫌じゃないよ?」

はにかんだような笑みで返した。
優しくて、温かくて、太陽みたいな十代君。
十代君は、一緒に居るだけで何だか楽しくなってくるから不思議。
だけど十代君は鈍くて、鈍感で、恋愛とかにも興味が無いみたい。
だから私がこんな事を言っても、変な誤解をされずに済む。
あ、十代君がしてなくてもこなちゃんは勝手に誤解してるみたいだけど。
ちなみに二十代っていうのは、こなちゃん曰くギャルゲの主人公路線に入った十代君の事、だそうです。
良く解らないけど、ギャルゲって高校生とかが主役じゃないのかな。
二十代じゃ大学生か会社員になっちゃうよね。

それから、私達は岐路についた。
十代君は学校でも流行っているカードゲームが大好き。
いつも帰り道にある一軒のカード屋さんに寄ってから帰ってるんだって。
十代君は、私にも解るようにカードゲームのルールを教えてくれるって言ってくれた。
皆ルールを知ってるのに、私だけあまり知らなかったから……

「ありがとう、十代君」

素直に嬉しかった。
だから、今日は少しだけ寄り道をする。
ちょっとくらい遅くなっても、晩御飯までに帰れば問題ないよね。
それから私達は、テーブルに向かって一緒にカードゲームで遊んだ。
十代君はE・HEROって名前がついたカードを使うデッキで、私はストラクチャーデッキっていうデッキ。
良く解らないけれど、このデッキを使えば最初からゲームの練習が出来るんだって。
これならすぐにルールを覚えられそうだね。

……と思ったけど、案外難しかった。
ややこしいカードの効果が沢山あって、とても覚え切れそうにない。
十代君は自分のデッキのカードの効果を全部覚えてるみたいで、とても詳しかった。
流石カードが大好きって言うだけの事があるね。敵わないや。

でも、それでも十代君と一緒に遊んだ時間は楽しかった。
内容をちっとも覚えられない私に、十代君は優しく教えてくれる。
とても申し訳ない気持ちになったけど、十代君はとても楽しそうだった。
本当にカードゲームが大好きなんだね。

……私の事はどうなんだろう。
私の事も、カードゲームと同じくらい好きなのかな。
不意にそんな事を考えると、何故か恥ずかしくなった。
そっと顔を降ろして、手札のカードで表情を隠す。
別にそういう意味で好きって訳じゃないのに、そういう事を考えたら恥ずかしくなっちゃうから。
と、そうこうしていると、私達の前にもう一人の決闘者(デュエリストって言うらしいね)が現れた。

「十代、デュエルしてるの?」
「おぉ、フェイトじゃないか。調度今つかささんにデュエルを教えてるんだ。一緒にどうだ?」

私達の前に現れた金髪の女の子は、フェイトっていう名前だそうです。
あれ? フェイトちゃん? フェイトちゃんって、あのフェイトちゃん?
私は、同じ名前の良く似た女の子を知っているよ。
お姉ちゃんと同じクラスにいる、転校生のフェイト・T・ハラオウン。
でも、私が知ってるフェイトちゃんは、発育のいい美人の女の子。
目の前に居るフェイトちゃんはまだ10歳くらいの女の子だった。
ああそっか、たまたま同じ名前の女の子なんだ。
そういう偶然があったって可笑しくないよね。

「――その前に私とデュエルしようよ。新しいデッキを作ったんだ」
「あぁ、そういう事なら別に構わないぜ!……と言う訳だから、悪いつかささん!
 ちょっとだけ待っててくれないか? すぐ終わるからさ!」
「え……? あ、うん、そういう事なら別にいいよ」

咄嗟に振られて、笑顔で返した。
少し寂しい気がしたけど、一回だけなら別にいいかな。
それが終わったら小さなフェイトちゃんも一緒にカードゲームで遊びたいな。
あ、でも晩御飯の時間に間に合うかな。遅れたら怒られそうだな。

それから、十分くら経ったかな。
十代君とフェイトちゃんのデュエルは、とんとんと進んで行った。
見ているだけの私には良く解らなかったけど、何だか心理戦のやりとりを見ているみたい。
デュエルって奥が深いんだね。決闘って言うだけの事はあるなぁ。

「――私は手札から、青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)を召喚!」
「ブルーアイズ……!? それがフェイトの切り札か!」

不思議な既視感を覚えた。
ブルーアイズというカードの事は私も知っている。
確か、このカードゲームで一番有名なカードの名前だったと思う。
小さな頃、このカードを出せたらとりあえず勝ちみたいな空気が流れてた気がする。
それを、フェイトちゃんが召喚した。
でも、私が覚えた既視感はそんなものじゃない。
なんだろう、とてもとても嫌な事を思い出しそうな気がする。
でも、それを思い出しちゃいけない。気になるけど、思い出したら私は耐えられなくなっちゃう。
不思議と、そんな気がした。

でも、十代君はそんな強いカードにも負けない。
相手がとても強いカードを出してきたのに、十代君はとても楽しそうに笑っていて。
本当に楽しんでるんだ。それでいて、まだまだ負けない自信があるんだ。
大好きなカードゲームに撃ち込む十代君は、とっても格好良かった。

「楽しい決闘(デュエル)だったぜ! またやろうな、ガッチャ!」

気付いた時には、十代君はゲームに勝利していた。
残念そうにカードを片づけるフェイトちゃんに、右腕を突き出してそう言っていた。
十代君はゲームが終わったらいつもこんな事を言っていた気がする。
そんな姿を良く見かける……気がする。

「負けちゃった……もう一回やろう、十代!」
「あぁ、また今度な! 今はつかささんが先だ!」

フェイトちゃんは、最初は残念そうにしていたけど、すぐに従ってくれた。
ようやく自分に構って貰える。そう思うと、自然と笑顔が零れていた。
それからは、十代君と、フェイトちゃんと、仲良く三人で遊んだ。
十代君もフェイトちゃんも、心から楽しそうに笑っていた。
私も、二人と一緒に笑って、喜んで、楽しむ。
皆で一緒に遊ぶ、本当に楽しい時間。
それが終わったら、お姉ちゃんやお母さんが待つお家に帰って、温かい晩御飯を食べる。
将来の事はまだ解らないけど、少なくともこの日々は幸せだった。
こんな時間がいつまでも続けばいいのにな。

――不意に、笑い声が止まった。

あれ? どうしちゃったのかな?
私が何かいけない事を言っちゃったのかな?
心配になって、二人に声を掛けてみた。
だけど、答えは返ってこない。
二人とも、黙ったまま俯いている。

「こんな毎日を遅れたら、本当に幸せだっただろうな」

フェイトちゃんが、一言呟いた。

「でも、もう無理なんだよな」

十代君も、呟いた。
二人とも、何を言ってるんだろう。
どうしてそんな悲しい事を言うのかな。
これからも皆で一緒に、ずっと仲良くしていけばいいのに。
だけど、「そんな事ないよ」とは言えなかった。

どうしてそんなに辛い顔をしているの?
どうしてそんなに悲しい顔をしているの?
どうして私はそんな事ないよって言ってあげられないの?
どうして? どうして? どうして?
ねぇ、どうして……?

気付いた時には、私の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。
どうしてこんな事になったのか解らないけれど、涙が止まらなかった。
泣いて、泣いて、泣き続けて。時間を忘れるくらい、涙が枯れるくらい、泣き続けて。
気付けば私の周囲はカード屋さんじゃなくなっていた。
見渡す限り何処までも、崩れた瓦礫で滅茶苦茶になった街並み。
この場所に、平和な所なんて何処にも無い。

目の前に、頭がぐちゃぐちゃに潰れて死んでいる男の人が居た。
頭はもう原形を留めてなくって、それが誰かなんて解りやしないけど。
潰れた頭から、赤いジャケットを染め上げるくらい、沢山の血を流していた。

私はその男の人から、目を逸らした。
本当は逸らしちゃいけない事なんだろうけど。
本当は、私はそれを受け止めなくちゃいけないんだろうけど。
でも、それは出来ない。私はそれを見てられない。
だって、そうじゃないと壊れちゃうから。
この心は、硝子みたいに粉々に砕けちゃうから。
私はまだ、自分の心を壊したくないから。

だから、ごめんね――十代君。


    第150話
    「Tの悲劇/書き換えられた記憶」


「ふぁぁ、良く寝たぁ……」

私が目を覚ました時、そこは一軒の民家でした。
何だか幸せな夢を見ていたような気がするけど、何も思い出せないや。
まぁ、夢だし別にいいよね。楽しい夢だったら、後から思い出せたらいいな。

次に状況を確認した。
私は制服のままで、知らない家のソファに横たわっていた。
ってあれ……? どうして私はこんな所にいるのかな?
今日一日、何をしてたっけ。

断片的にではあるが、一つ一つ思い出していく。
そうだ。私は“殺し合い”に参加させられたんだ。
それから、フェイトちゃんと会って、デパートで待機する事になって。
それから、この場所で出会った十代君と一緒に行動する事になって。

それから、それから……それから、どうしたんだっけ。
確か、小さなフェイトちゃんが現れて……突然、白い龍が現れた。
そうだ、確かあの白い龍は黒い髪の毛の女の人……プレシアって人が召喚したんだっけ。
それから、白い龍はフェイトちゃんと十代君を殺して――

「それで、逃げて来たんだ……」

全てを思い出した。
私は、十代君に言われて、白い龍から一人だけで逃げて来た。
それから、とりあえずはこの民家に隠れる事にした。
一先ずは走って疲れた身体を休めたかったからだ。
私はここでご飯を食べて、少しだけお昼寝した。

目的は、ゆりかごへ向かう事。
ゆりかごに行って、ゲーム終盤まで身を隠す。
それまでに、私を保護して守ってくれる誰かと会えると、ありがたい。
それから、バッグの中に入った「リビングデッドの呼び声」のカードを使う。
最後に生き残ったのが、私とその人だけになった時にこのカードを使えば、ゲームは終わるから。
このカードを使えばどうなるのか……それは解らないけど、とにかく使えば全て終わる。
皆生き返って、元の世界に帰れる。
こなちゃんやお姉ちゃんと一緒に、元の世界に帰れる。
そこには死んだ筈の皆も居るし、元の幸せな毎日が待っている。
きっとこのゲームは体験型のアドベンチャーゲームとか、そういう感じなんだよね。
良く解らないけど、そうする事でゲームクリア。
そうする事で、怖い思いもしなくて済む。
元々こういう怖いゲームとかは苦手だし、早く終わらせちゃいたいな。

「それじゃあ、負けない様にがんばらないとっ」

私はそれだけ言って、バッグを手に持った。
勿論、誰も殺すつもりはないよ。
だって、どうやって生き残るかが大切なんだから。
とりあえずは、生きる為に頑張ろう。

――それが私の行動方針でした。
――私の心には、何の迷いもありません。



【1日目 夕方】
【現在地 H-5 南端にある民家内】

【柊つかさ@なの☆すた】
【状態】健康、記憶障害
【装備】パピヨンマスク@なのは×錬金、シーナのバリアジャケット@SHINING WIND CROSS LYRICAL
【道具】支給品一式×2、電話帳@オリジナル、バヨネット@NANOSING、んまい棒×4@なの魂、ヴァイスのバイク@魔法少女リリカルなのはStrikerS、リビングデッドの呼び声@リリカル遊戯王GX、木製バット、エアガン、パン×2、キャベツ半玉、十代のメモ、デパートで回収したもの
【思考】
 基本:生き残る為に頑張る
 0.生き残りが自分の周りにいる者だけになった時、リビングデッドの呼び声を使う。
 1.聖王のゆりかごで隠れつつ誰か自分を守ってくれそうな人を探す(ただし無理はしない方向で)。
 2.家族や友達に会いたい。
【備考】
※メールの差出人『月村すずかの友人』と内容を信用しています。キングを警戒する事にしました。
※放送で呼ばれたフェイトはフェイト(A's)だと思っています。
※十代のメモの主な内容は『月村すずかの友人』からのメールに関する考察です。詳しい内容はTeardrop本文参照。
※デパートで回収したものの詳細は後続の書き手にお任します。
※極度のストレスにより、記憶障害に陥りました。自分のストレスに成りそうな事は全て都合のいい形に改変しています。
※何らかのきっかけがあれば記憶を取り戻すかも知れません。



“エピソード記憶の摩り替え”という現象をご存じだろうか。
人間が、その心に深い傷を負った時に極稀に起こると言われる記憶障害。
精神病の一種と言われており、脳には何の障害も無いにも関わらず、その記憶だけが欠落する。
いや、このケースの場合は、ただ欠落するだけでは無い。只の記憶喪失よりも厄介なのがこの症状だ。
この精神病の一番の特徴は、その記憶をごっそりと別の出来事に変換してしまう事にある。
自分にとって日常生活を送る事が不可能な程の心の傷を、全て都合のいい形に変換してしまうのだ。
そうする事で、自分を守る。
言わば人間の脳に備わった自己防衛機能。
そうしなければ、心の弱い人間は生きてはいけないのだ。

少女は、平和な日常から突然こんな場所へと連れて来られた。
目の前で人間の頭が吹き飛ぶ様を見せられて、殺し合いを強要されて。
その上、ようやく出会った心を許せる人間は皆死んだ。それも、自分の行動によって。
誰よりも優しい性格をした少女を、一度にこれ程の出来事が襲ったのだ。
そしてトドメは極限状態からの解放と、僅かな時間に見た幸せな夢。
これからも殺し合わねばならないという極限状態で、それらは最悪の形で作用した。
結果的に少女を襲ったのは、極度の精神的ストレスによる、記憶障害。

それは少女自身が、自分の心を守る為に選んだ自己防衛策。
だけど、それは決して解決策では無い。
忘れた所で、その場凌ぎでしか無い。
そう、忘却は“罪”でしか無いのだ。

だが、今の少女はそれすらも理解出来ない。
何故なら、理解しようにもその出来事自体を忘れてしまっているのだから。
だから少女は何も知らないまま、“罪”を背負ってこの戦いを生き抜いて行く。



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