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Last update 2008年01月13日

僕達の夏  著者:暖房


 おわりとはじまりはいつもいっしょにやってくる。
だから僕達は出会った時からこうなる運命だったんだ。
最初に話を切り出したのは君の方だった。
「ねえ、凄い事しない?」
「え? どんな?」
「例えばさ、銀行強盗」
「ええっ?」
 僕は正直驚いた。
君とは付き合って二ヶ月経っていたけど、まさかそんな事を言い出すとは思ってもみなかったからだ。
普段はいつも「こんな家出て、不思議の国に行きたいなあ」なんて話ばかりしている君には似合わない話題だった。
けれど考えてみれば僕達の周辺には何も面白い事など無かったのも事実で、飽き飽きしていたコンビニのバイトを終えたばかりのぎこちない頭の中で君の話を面白いと思ってしまったのもそのせいだったのだろう。
君はしばらく僕の顔を見詰めると、悪戯っ子のように笑った。
「そんなびっくりした顔しないでよ。ボニーアンドクライドっていいと思わない?」
「ああ、俺達に明日はない、ってやつね」
「そうそう、家なんか捨ててさ、はちゃめちゃやってさ、逃げ切れたら幸せになれるっていうの、やってみない?」
「面白いけど、頭使わない? それ」
 そんな会話から始まった計画に僕達は夢中になっていった。
君は美容師の見習いをして店長にいつも怒られながら体目当てに口説かれるのにいい加減滅入っていたし、僕は僕でいちいち品出しが悪いだの無愛想だのと子ども扱いされてなじられるのには嫌気が差していたからだ。
僕達には恐いものは何も無かったから、それぞれの親が住む家でも平気で狙う銀行を決めたり逃走経路を話し合ったりした。
そして話に飽きる度に、例のビデオを見て夢中になった。
ボニーアンドクライド、それは二人の素敵な夏の秘密計画だった。

 実行の日はとんでもない暑さだった。
僕と君はモデルガンの銃口を一回り大きく削って本物に見えるようにしたやつをジーパンの腹に突っ込んで、狙いの銀行の前で互いの手を繋いで覚悟を決めた。
「逃げ切ったら、この右手と左手のように幸せになれないかなぁ」
君はそう言って僕を見て笑い、右手に力を入れた。
僕は、
「きっとなれるさ、世の中なんて壊してやろうぜ」
なんて気の利かない台詞を言いながら、左手に力を入れて右手に銃を構えた。
君はそれを見て左手で銃を取り出すと、僕の頬っぺたにキスをした。
そこから僕達はもうボニーとクライドになりきっていた。
 けれど計画は杜撰だった。
僕達が銃を持って手を繋いだまま銀行へ押し入ると、銃を見た警備員が非常ベルへと駆けそして押した。
僕達の侵入は最初から派手だったのだ。
鳴り響くベルの中、それでも君を感じる左手に力を入れながら右手の銃を高く上げ、僕は叫んだ。
「動くな! 動くと撃つぞ!」
君も続いて受付の女子行員に銃を向けてどすを利かせた。
「あんた! 金だしな! さあ! 早く!」
 その時だった。
無用心になっていた背後から警備員や行員が抱きついてきたのは。
僕達は撃てない銃を持った手を伸ばしたまま床に倒れ込んだ。
必死で抵抗したけれど、その後も何人もが被さるようにしてタックルしてきたので、結局そのまま拘束されてしまった。

 それからパトカーが来るまで、僕達は何人もの男達に囲まれ警備員に後ろ手を掴まれたまま立って待つ事になった。
「カウンターに足、乗せたかったなあ」
君はふとそんな事を言った。
「俺も、あそこに乗って叫びたかった」
僕が頷くと、君は笑いながら続けた。
「きっと、不思議の国の入り口は、ずうっと、ここにあるんだね」
僕も思わず答えていた。
「ああ、きっとそうさ。俺達は入れなかったから、きっとここにずっとあるのさ」
そして二人で大笑いした。
取り囲んでいる男達はサイレンの音が近付く中、僕達を不思議そうに眺めていた。
 やがて警官達が入って来て、その内の一人が僕達を指差した。
「この子達?」
こうして僕達は、高校にも受からなかったその年に、パトカーにだけは乗る事ができた。
何もうまくいかなかった僕達の、小さな夏の勲章だった。




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