Last update 2008年03月15日
真っ白な世界 著者:知
「ごめんなさい……」
私が彼にそっと触れると溶けるように消えてしまった。
私が彼にそっと触れると溶けるように消えてしまった。
「……ごめんなさい……本当に……ごめんなさい」
彼が完全に消えてしまってからも私は何度も何度もそう呟いていた。
彼は元の世界に、そして、元の時代に無事に帰りついただろうか。確かめる術はある。でも、確かめようとは思わない。そして、確かめてはいけない。確かめたら私は私でなくなってしまうから。私が私でなくなったらこの世界にいられなくなるから。
彼が完全に消えてしまってからも私は何度も何度もそう呟いていた。
彼は元の世界に、そして、元の時代に無事に帰りついただろうか。確かめる術はある。でも、確かめようとは思わない。そして、確かめてはいけない。確かめたら私は私でなくなってしまうから。私が私でなくなったらこの世界にいられなくなるから。
この世界に迷い込んでくる人は偶にいる。迷い込んだ理由は様々。だけど、元の世界に絶望した人……そのような共通点があった。
彼もこの世界に迷い込んできた一人だった。
他の迷い込んできた人と同じようにすぐに元の世界に戻るだろう、初めはそう思っていた。しかし、彼は違った。この世界に興味を持ち、この世界の住人になりそうになってしまうほど長く、この世界に留まった。
彼もこの世界に迷い込んできた一人だった。
他の迷い込んできた人と同じようにすぐに元の世界に戻るだろう、初めはそう思っていた。しかし、彼は違った。この世界に興味を持ち、この世界の住人になりそうになってしまうほど長く、この世界に留まった。
何もない、あるのは膨大な情報のみ。あらゆる世界のあらゆる時間の情報を集めるためだけに作られたこの世界。
私はこの世界の唯一の住人であり、この世界の管理人。
先代の管理人から私に変わってからもう何年経つのだろうか。この世界には『時間』という概念が存在しないのだから、何年経ったかと考えること自体が無意味なのだけど、久しぶりに『人』に触れたせいかそんなことを考えてしまう。
私はこの世界の唯一の住人であり、この世界の管理人。
先代の管理人から私に変わってからもう何年経つのだろうか。この世界には『時間』という概念が存在しないのだから、何年経ったかと考えること自体が無意味なのだけど、久しぶりに『人』に触れたせいかそんなことを考えてしまう。
「この世界に住むにはあらゆる感情を捨て去らなければならない」
私が管理人になったとき先代から言われた言葉がこれだった。
私は何故、先代がこんなことを言ったのかわからなかった。先代から管理人を引き継ごうとした瞬間から私の欲求、感情は全てなくなったのだから。
感情があるとこの世界で生きることはできない。それはこの世界に迷い込んだ『人』を見ているとよくわかる。一日も持たずに発狂してしまう様子を何度も見たことがあるから。何もない広く真っ白な空間に『人』は長時間いると狂ってしまう。
私は何故、先代がこんなことを言ったのかわからなかった。先代から管理人を引き継ごうとした瞬間から私の欲求、感情は全てなくなったのだから。
感情があるとこの世界で生きることはできない。それはこの世界に迷い込んだ『人』を見ているとよくわかる。一日も持たずに発狂してしまう様子を何度も見たことがあるから。何もない広く真っ白な空間に『人』は長時間いると狂ってしまう。
今になって、先代の言葉の意味が良くわかるようになった。
感情はなくなったわけではなく、心の奥底に封印されていただけ……その事に気が付いた。
封印されていた感情が少しでも溢れ出すと止め処なく溢れ出てしまう。でも、その感情を抑え込まなくてはいけない。私は彼の申し出を断って元の世界に帰したのだから。
感情はなくなったわけではなく、心の奥底に封印されていただけ……その事に気が付いた。
封印されていた感情が少しでも溢れ出すと止め処なく溢れ出てしまう。でも、その感情を抑え込まなくてはいけない。私は彼の申し出を断って元の世界に帰したのだから。
彼は私の代わりにこの世界の管理人になると言った。
この世界の住人になれるのは常に一人、管理人のみ。新しい管理人が登場すると前の管理人は元の世界に帰ることになる。君がこんな世界にいる必要はない、そう言ってくれた。
だけど、私はその申し出を断り、彼を元の世界に帰した。
私は元の世界に帰っても何の意味もないから。私はただ空っぽな存在だったから。
でも、彼は違う。彼には歌がある。まだ世間から認められていないと言っていたけど、必ず認められる日がくる、私は彼の歌を聴いてそう確信した。
私の感情の封印を解いたのは彼の歌だったから。彼の歌は感情を魂を揺さぶるのだ。
この世界の住人になれるのは常に一人、管理人のみ。新しい管理人が登場すると前の管理人は元の世界に帰ることになる。君がこんな世界にいる必要はない、そう言ってくれた。
だけど、私はその申し出を断り、彼を元の世界に帰した。
私は元の世界に帰っても何の意味もないから。私はただ空っぽな存在だったから。
でも、彼は違う。彼には歌がある。まだ世間から認められていないと言っていたけど、必ず認められる日がくる、私は彼の歌を聴いてそう確信した。
私の感情の封印を解いたのは彼の歌だったから。彼の歌は感情を魂を揺さぶるのだ。
目を閉じると彼の歌声が聴こえてくる。
その歌は外国の子守歌のようでもあったし、古い映画音楽のようでもあった。
その歌は外国の子守歌のようでもあったし、古い映画音楽のようでもあった。