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Last update 2007年10月08日

彼と彼女と合格通知 著者:一茶


置いてあった彼女のピーコートとカバンを脇にかかえた。


パサッ
「ん?」
足元に何かが落ちている。
「これは…」


―はぁ、どうしたんだろう彼。
最近、めっきり私と会う時間が少なくなったな。
もしかして、浮気?ううん、彼に限ってそんなことはない、はず。
それに、今日は彼からの待ち合わせなんだから。
彼との待ち合わせの喫茶店。
そこで私は待っていた。
『今日の八時にいつもの喫茶店で待っていてくれ』
そうやって送ってきた彼からのメールを眺めながら。
―今日こそは、あのことを言わないと。

数回ほど客の出入りがあった。
テーブルの上には二杯目の紅茶。
「いらっしゃいませ」
マスターの今どき珍しい紳士声が響く。
「あ、いたいた」
入り口には彼が立っていた。
「珈琲一つ」
マスターにそう言ってから私の向かい側に座った。
「遅くなってごめん」
「ううん、いいよ」
「そっか」
そこでプツリと会話が途切れた。
マスターの淹れる珈琲は十分ほどかかる。
なんとなく気まずくなり、紅茶に目を落とした。
彼は何も言ってこない。
静かに、珈琲を入れる音が響く。

「お待たせしました」
マスターが珈琲を持ってきた。
彼はちょっと味を確かめて、砂糖を少しだけ入れた。
「ところで、何なの?」
「え?」
沈黙に耐えられなくなり、私は口を開いた。
「呼び出すなんて何かあるんでしょ?」
「ああ、それはそうなんだ」
「じゃぁ、何なの」
彼は一口、珈琲を飲んだ。
「最近はごめんな。会う時間少なくて」
「ううん、そんなの気にしなくていいよ」
「これからもっと会う時間が無くなるのに、ごめん」
「え?」
彼の言っている意味が分からなかった。
「これからお前、忙しくなるんだからな」
「え、どういう?」
「迷っていたんだろ?」
「え?」
「この前、見ちゃったんだ。たぶん、ずっと持っていたんだろ?俺に言おうとして」
「それって」
「たぶん、今も持ってるんだろ。そのカバンの中に」
彼がヒョイとカバンを取った。
「あっ」
「ほらな」
彼の手には一通の封筒。
「この前、ちょっとした事故でこれを見つけちゃったんだ」
「知って、いたの?」
「ああ。お前が合格したってことにな」
そうだ、私は合格した。それもイギリスの大学に。
冗談半分だったが、受かればいいなとも思っていた。
「それでな、不粋なことだとは分かっているけど」
彼は懐から封筒を取り出した。
「これ」
私は渡された封筒の中を見た。
「お金じゃない。それも、こんなに」
「たぶん、それで足りるはずだよな。入学手続きに」
確かに、足りる量は入っている。
いや、その倍以上は入っている。
「俺のことは気にしなくていい。ただ、自分のやりたいことをやってほしい」
「……」
「あっちで生活するとしても、俺は待ってるから」
「……うん」
私のためにこれを用意してくれていたなんて驚いた。
だけど、


もっと驚いたのは、知っていながら彼が今まで黙っていたことだった。





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