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Space Child Adventure 1

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 人類が汚染の進んだ地球から外宇宙に避難を余儀なくされて幾世紀。無数に飛び立った避難船はそれぞれに新天地を求めて宇宙をさ迷い、辿り着いた惑星で新たな生活を始めていた。
 惑星プラント。
 自転周期は地球と同じ。しかし、大気の構成物質や気圧が人体に適応せず、重力を調整したドーム型都市の中での生活を余儀なくされる。閉ざされた空間で科学技術は衰退し、いつしか星の海を旅する方法も忘れ去られてしまった。
 物語は人類が惑星プラントに移住して数世紀を経た、ドーム都市に住む少年の日常から始まる。


「アスラァァン!」
 アスラン・ザラ。蒼い髪と碧の瞳が印象的な少年で都市のアカデミーに通う16歳。実は誕生日がまだ来ていないので15歳なのは内緒だ。今朝は夢見が悪くて、朝から低調子だったところにいきなりの大声でウンザリする。
「なんだ、イザークか」
「なんだとはなんだっ!!」
 そのアスランに冷たく言い返されて、銀髪を振り乱して今にも突っかからん勢いなのがイザーク・ジュール。二人は学年でトップを争う生徒で、今のところアスランのほうが一歩リードという所だ。実際にはイザークの方が2つ年上だが、アスランがスキップしてきたので今は同じ学年になっていた。
 彼らが通うアカデミーは都市の中で最もレベルの高い学校で、都市の将来を背負って立つ事が期待されているエリート養成校。いま、そこでは半期に一度の学年テストの結果よりも、もちきりの話題があった。
 ドーム同士を繋ぐための地底トンネルが何かの遺跡を掘り当てたらしいのだ。ここ連日大きく報道され、街はその話題で持ちきりだった。
「聞いて驚け。俺はあの遺跡の調査隊に加わることになった!」
 それは確かにすごい。
「そりゃ、良かったな」
 しかし、そんな驚きをおくびにもださずにアスランは無表情に言う。イザークの趣味は民族学で、有名な大学の教授に師事していてるのは有名だ。おそらくその教授が調査隊に加わるからイザークも一緒にいけることになったのだろう。アスランにはちっともその良さが分からない民俗学であるが、なるほどこういう利点もあったのかと、頭の中で結論付ける。理系人間のアスランが話題を打ち切って、先を急ごうとすると、得意げにイザークが続ける。
「貴様も連れて行ってやらんこともない」
 一瞬、胸が躍った。あの遺跡には興味があるし、何か惹かれるものを感じる。
 アスランは自分から行きたいと言える性格ではないのを知っているけれど、こうあからさまに言われては、連れて行ってくれとはとても言えない。二人はトップを争うライバルなのだから。
「俺はいいよ」
「貴様! せっかく俺が話をつけてやったというのに、いいとはなんだ、いいとは!」
 どうやら、このイザーク。アスランが承諾するものとしてすっかり話を進めてしまっていたらしい。自分とて無理言って参加させてもらう立場なのに随分と無茶を言うものである。
「今日の放課後、西ゲートだからだ。俺の顔を潰すなんて事絶対に許さんからな!」
 一方的に言い捨てて、去っていくイザークをアスランはぽかんと見送る。明日からアカデミーは週末の休暇に入る。その週末の予定が一気に埋められてしまった。
「何、勝手に決めてんだよ」


 そうは言ってもアスランもまだ好奇心旺盛な少年。いいよと言ったがそれはあくまで建前で、講義もそぞろに放課後になるのを今か今かと待ちわびていた。
 家族に連絡を要れて、西ゲートに向かう。何か言われるかと思ったが、返事は関心なさげに『早く帰るように』と冷たく一言だけ。
 途中イザークを探したが、5限を選択していない彼は先に行ったのだろう。到着した時、既に出発準備の整っていた調査隊の中に彼を見つけた。
「遅いっ!」
「5限あったんだ。時間には間に合っただろ」
 遺跡は地中で発見されたが、今は掘り起こされてその不可思議な形をさらしている。西ゲートから調査船に乗ってそれを観察できるのだろう。もしかしたら宇宙服を着て遺跡を間近で見る事ができるかもしれない。
 簡単な説明を受けて、非常用パックを一式渡された。仮にもアカデミーのトップ、特に問題な事はなかった。
 飛び立った調査船が遺跡をそのキャビンに映し出すとどよめきが起った。
 材質はなんらかの金属とだと判明しているが、それがなんなのか、機構や形状の違う様々な形態を組み合わせてできている遺跡は、将来は工学博士になりたいと思っているアスラン少年の目をときめかせるのには十分だったのだ。
 初めて遺跡をその目で見下ろす。
 ふいに聞こえる音にアスランは耳を疑った。


 ザザーン。ザザーン。
 これは、この音は―――。 
 繰り返し繰り返し聞こえる音は夢の中でいつも流れる音。それが何の音なのかわからないのに、なぜかとても懐かしく感じている自分は、誰かに何かを囁かれて驚いて目を覚ますのだ。
 囁きが聞こえた。
 帰っておいで。と。
 アスランは目を見開いた。囁きの内容を聞き取れたのは初めてだった。
 頭の片隅で何かが持ち上がりそうな瞬間。
 キン。
 打たれたようなフラッシュが脳内を埋め尽くした。衝撃で目を閉じる。
「おい! アスラン!」
 イザーク呼びかける声に吃驚して隣を見ると、怪訝な顔をして見つめている青い瞳と目が合った。ざわついたキャビンで一人呆然と立ち尽くしていたアスランを探っている。
「聞こえたかっ! 今の音!?」
「あ、ああ。帰って来いって」
 殆ど無意識のうちに呟いていた。内容はともかく、その声を音と同様に懐かしく感じている自分が信じられない。
「たった今来たばかりで、もう帰りたくなったのか。ったく、飛んだ腰抜けだな、これしきの音が聞こえたくらいで怖気づくとは」
 どうやら、全員に聞こえたのは繰り返される音だけらしい。
 アスランはもう一度耳を澄ますが、聞こえるのは繰り返される不思議な音だけ。
 ザザーン。ザザーン。
 思わぬ事態に調査隊は予定を変更して、すぐに街に引き返す事になった。


 遺跡が音を発して数ヶ月、遺跡の調査も進み、驚くべき事が分かってきた。音の出所は間違いなく遺跡で、その遺跡がなんと宇宙船であることが分かったのだ。かつて人類がこの惑星にやって来たときに乗ってきた惑星間航行船、それが遺跡の正体だった。
 船に残された航行データの起点はとある惑星。
 数世紀を経て、惑星プラントの人類は自分達の故郷地球のことを知ったのだ。
 音と共にその惑星の存在は都市の人々を宇宙へと駆り立てることになった。失われた技術を凄まじい勢いで吸収し、彼らは宇宙へと旅立つ準備を始めた。
 各方面に優れた人物からなる探検隊を組織する。
 即ち地球を探す旅へと、繰り出そうとしたのだ。それは望郷の念かもしれないし、不思議と懐かしく感じる音の正体を突き止めたいとする探究心だったのかもしれない。それゆえ、危険を伴うとは言え乗員の募集は広く行われた。


「まさか貴様まで応募していたとはな」
「イザークこそ、家のほうはいいのか?」
 あれでイザークは家族をとても大事にしている。特に母親と二人暮しだから、とても応募するとは思えなかったのだが。
「男なら、一度は危険を顧みずロマンを追い求めることがある。母上は分かってくださった」
 意外とロマンチストだなとアスランは思う。
 アスランの父は今回の募集のことを話した途端に『この馬鹿者がっ!』と反対された。同じように都市の重役を努めるイザークの母とは大違いである。
 遺跡を見に行ってから毎晩のように見る夢。噛みあわない父親との会話に対して、自分はどこか逃げるようにクルーに応募したように思えた。
 しかし、本当の所は、どうしてもそうしなければいけないような気がしたのだ。それをうまく言葉にできないアスランは、応募の理由を悪夢や父との関係に納得付けていたのだった。


 アスランは最年少の宇宙船のクルーとして地球探求の旅に加わる事になった。彼の仕事はガーディアン。船のクルーは大きく4つの役割に分かれていて、操船を担当するブレインや船に残された膨大なデータを解析するオーソリティ、船内の安全を守るガーディアン、そして、宇宙からの声を聞く事ができる特殊な人たちレシーバーに分けられる。
 ブリッジクルーには専門家が着任し、オーソリティはその道のスペシャリストが付いた。まるでテレパシーのような能力を持つレシーバーは元々都市でも特異な存在だ。
 それゆえ、アスランに与えられた役割はガーディアンだった。特殊な修理キットで船内をパトロールするのはある意味、アスランには向いていたのかも知れない。少ない人数でカバーしあうガーディアン達の仕事は定期パトロールや訓練が主であるが、オーソリティが引き起こした突発的事態や、船内で迷子になったレシーバーの捜索など多岐にわたる。
「俺の足を引っ張るなよ、アスラン!」
「どっちが」
 同じアカデミー出身のイザークもガーディアンであり、ここでも早速対抗心を剥き出しにして来た。都市にいた頃と少しも変わらない環境にアスランは少なからずガッカリする。そんな彼にとって新しい出会いはニコルというレシーバーの少年と、肩を竦めて、茶々と入れる同じガーディアンのディアッカだった。
「まあまあ仲良くしましょうよ」
 ニコルは船内で最初に話し掛けられたクルーで、あまりに自然体に話されるものだから返答に困ったほどだ。ディアッカは逆に、大して歳が変わらないくせに妙に落ち着いていた。
「あんたら本当に仲いいねえ」
 アスランとイザークとが二人してディアッカに冷たい視線を送る。怯んだディアッカから話題を逸らすようにニコルがアスランに話し掛けた。
「僕、アスランはレシーバーだと思ってました。ガーディアンだったんですね」
「俺はまあ、理系人間だしな」
「こいつは壊滅的に芸術方面が駄目だからな。間違ってもレシーバーにはなれんだろう」
 船に乗り込んで以来、悪夢を見ずに済むようになったのは良かったが、あのザザーンという音が絶えず響いているような感じがして落ち着かない。気を抜くと、『帰っておいで・・・』と甘い囁き声まで聞こえてきそうで、それを払拭するために、ガーディアンとしての努めに励んだ。
「しかもこの船のエースと来たもんだ」 
「まだ、そうと決まった訳じゃない!」
 なんだか、変わらないな。
 アスランは気持ち苦笑して、ガランとして人のいない船内を見渡した。


 仲間が増えて、少しだけ日常をスリルで延長した航海が急天候を告げたのは、航海35日目、この船のサンクチュアリの封印が解かれてからだった。
「くっ」
 重たい物で頭を殴られたような衝撃に、思わず呻き声が漏れる。
 船内を走っていたはずなのに眼前に広がる荒涼とした世界に目を疑う。
 あの音が急激に変化して、激しく頭の中をかき回すのだ。囁くような声も、焦ったような叫びに変わる。
 早く。早く帰ってきてっ! と。
 もう少しでバイクから振り落とされそうになるのを辛うじてこらえて、通路に停車させる。
「なんだってんだっ!?」 
 宇宙船にはブリッジや移民時の都市空間とは別に、不可侵の空間・サンクチュアリと呼ばれる場所があった。通常のスペースとは違って厳重にブロックされて今だ内部に入れない領域。
それをついにオーソリティ達が暴いたのだ。内部へと繋がるロックを解除された途端、船に異変が起ったのである。



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ネタは熱いうちに打て。と言う事で。
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