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滅びのメロディー




 パイロットスーツ越しに伝わる冷気。
 一段と暗くなった通路に浮かび上がるライトセーバーの光は青と赤。
「俺、フリーダムに乗っている奴に、アンタを止めろを言われました」
 声がギリギリ届く間合いで向かい合う。
 髪の色を除けばシンの記憶中にあるそのままだった。困ったように苦笑して、小さくため息をつく。
「相変わらずだな、あいつ。俺のやろうとすることは、何でかんでも止めろと言う」
 シンを見る眼差しも変わらない。
 いや、今までどこか、見守る色が強かったその緑色は今は違う。
「お前も・・・だから追って来たのか?」
 正面向き合う視線はシンを見ていて、シンの答えを待っている。
「はい」
 シンが言ったそばから、アスランの瞳が瞬きで一度隠れる。
「俺もアンタを止めたい」
 空気がピシッと張り付いて、僅かな揺れを伝え来たのが合図。右手のライトセーバーがブォンと音を立てて伸びる。
 シンはその軌跡を受け止める。
 バチバチとぶつかり合う光を放つ剣。
 眼前の緑の瞳がすうっと細められて、シンは凝視したまま両手で切り結んだライトセーバーを握り返していた。
 実を言えば、今もその時の、フリーダムのパイロットからの声みたいなものが聞こえる。
 だから、シンは尚更、仲間の声を忘れることがなかった。
 本当に大切な言葉は、自然と残るもの。
「でも、ルナやレイにはアンタが何をしようとしているのか、ちゃんと聞いて来いって言われたんですよねっ!」
 バチバチと電光を走らせて、肩から腕がすっぽ抜けそうになって弾かれる。無重力を後方に流されるが、1回転して壁に両足をついて顔を上げれば、反対の壁にライトセーバーの光がリボンを描く。
 両足に力を込めた。
 猛スピードの中、蒼き光の軌道を呼んで一撃目を避けたシンは上からライトセーバーを振り下ろす。
「アンタは何でも一人でやろうとするけど、自分で思っているほど器用じゃないです!」
 今度は切り結ばずに、お互い身体の力だけで、剣を振るった。シンが左から、振りかぶる。
 シンが手にする赤のライトセーバーと、彼が手にする青いライトセーバーが激突して四方に稲妻を飛ばす。
「どんだけ高尚な目的があるか知らないけど!」
 一人でできることなんてたかが知れているのだ。
 どんなにうまくやっているつもりでも、空回りで周囲はハラハラ。ステラのこと、目の前のこの人のこと。
 自分は最後の最後で気が付くことができた。
 だけど、この人は。
「どれだけ無くせば気が済むんですが。それは、沢山の命を奪ってまで成し遂げなきゃいけないことですかっ!!」
 一瞬、相手の瞳が揺れる。
 シンはチャンスとばかりに、ライトセーバーを押し切った。
 狭い通路を蹴って、後に流されるアスランの身体を追い、下段から剣を逆袈裟懸けに跳ね上げる。
「アンタの後、見てください! もう、誰もいないじゃないですかっ!!」
 彼を追ってきた地球軍のエクステンデットは、アスランの力を受けてメサイアの通路で力なく浮かんでいる。
 彼が率いていた灰色の新型はメサイアのジェネシスで消えた。
 レクイエムの発射口で爆発した緑のカオス。
 壁に無理やり押し付けて、ライトセーバーを喉元に突きつけた。パイロットスーツのヘルメットがぶつかり合ってガチンと音を立てる。
「それでも俺はやらねばならない」
「だから何をっ!?」
 ぐいっと迫る赤き光の刃。
「おまえ達を守る為と言ったら?」
「俺だって、そうですっ!!」
「議長の狙いはSEEDを持つ者だ」
 アスランが目を閉じる。
 その表情は悲痛で、少し顎を上げてシンに続きを即すように喉を晒す。
「それが何だって言うんですかっ!」
 うっすらと明けられた瞼の間から覗く緑の瞳は潤んでいて、口元には僅かに笑みが浮かんでいた。
 今、展開中のオペレーション・シード。

 シードを持つ者。

 伝説の英雄。

 SEED。

「これが何だか知っているか?」
 アスランを押さえつけている壁は一段と冷たく、そして、表面は薄汚れて随分と痛んでいた。
 腕を上げたと思ったら、バンと大きな音を立てていきなり空間を照らすライトがついた。
 シンは自分達がいる場所を見て息を呑んだ。
 ただの通路だと思ったそこは、巨大なドームの梁の一部で内部にあるものに目を瞠る。動力部、機関部、巨大なコンピューター、どれとも違う、見たことのない得体の知れないモノ。
「何だよ、こ、これは・・・っ!」
 シードって何だよっ!?
 本能的な震えが湧き上がってきて、力を緩めた隙にアスランを逃してしまった。
 きれいに宙を一回転して無重力の中で着地する。
「コーディネーターをも更に超えて進化した・・・いや、進化する可能性だ」


 Superior Evolutionary Element Destined-factor.
 優勢進化運命決定因子


 4年前、初めて未知なる因子が確認された時、こんなもったいぶった名前を付けて呼んだんだと、そう語るアスランの声にはどこか懐かしむ響きがあった。
「絶体を覆す強さ、人知を超えた速さ、物体を自由に操る能力、君にもある力だ」
 足元の物体から放たれる人工の光を反射して、アスランの瞳が光る。
 そして、シンの赤い瞳も同じように光を反射していた。
「だが、一番彼らを驚愕させたのは、そんな力じゃない」
 少なかれ、コーディネーターは皆その力を持っている。

 今も聞こえるだろう? 止めろ!と叫ぶキラの声が。
「・・・?!」
 隠したって無駄だ。それがSEEDの力だ。
 聞いていると、そうした方がいいような気がしてくるだろう?


 シンはアスランの口から発せられる声ではなく、直接頭の中に響く声を聞いていた。
 だが、それさえも聞こえなくなり。
 なんだろう?
 声を聞いているわけでも、唇や瞳を読んでいるわけでもないのに、相手の謂わんとしている事が分かるのだ。
 昔、神は人の傲慢さから言葉を分けてその戒めとしたけれど、言葉を解さないコミュニケーションを俺達は可能にする。相手のことが分かってしまうんだ、例えそれが自分とは違う考えだとしても、お互いの考えの境界線はひどく曖昧で、気をつけていないと、飲み込まれてしまう。
 相手のことを強く理解しようとすることや、想いを伝えようとすればするほど、俺達の意識は拡散してより近づくことになる。
 驚きのまま、手にしたライトセーバーがだらりと下がる。向かい合うアスランの緑の瞳の中に吸い込まれるように、シンの意識が肉体の境界線を飛び越える。


 星が流れて、ぐんぐんと迫って戦火のごとくシンを覆い尽くす。
 流れるレーザービームも、激しくぶつかり合う戦闘機も、血飛沫を上げる白兵戦もシンを素通りしていく。360度のスクリーンで繰り広げられるのは、戦争。

 かつて戦争があった。
 ナチュラルとコーディネーターの。

 シンが知るはずのない歴史でも、その時を駆け抜けた人達がいた。
 幾度となく繰り返される激突は青い機体と赤い機体。青と赤のライトセーバーが切り結んでその持ち主を照らす。

 あれはっ!?

 彼らはシンにとって忘れることのできない二人だった。
 その彼らは、殺し合い、戦場を血に染めて戦い続けている。
 友を守るために、国を守るために、お互いが抱える想いは同じ。
 二人の激白と共にシンの周りで流れるだけだった記録が、想いと共に流れ込んでくる。


 守るために。守るために。
 しかし、戦争は収まるどころか一層激しくなって。
 拮抗していた天秤が大きく傾いた。


 親友だと思っていた、何か理由があって地球軍で戦っていると思っていた。
 あいつの力は戦争を大きく左右するまでになり、両軍は力を求めて暴走を始めてしまう。気勢を上げる地球軍はコロニーへと攻めあがり、コーディネーターは技術開発に躍起になる。
 俺はと言えば、ただ流されるままにあいつを追って戦場を駆けた。
 それは、変貌を遂げた親友に対する不安や焦燥、恐怖だったのかも知れない。


 そして、一人、また一人と仲間を失っていく。
 立ち向かうものを容赦なく潰す力に、後に引けなくなる。戦場では力が絶対なのだ、それを目の前の親友に突きつけられる。散っていく軍の先輩、戦友。叩き込まれた真理にこれ以上抗えない。
 俺の甘さが、仲間の死を招く。
 決断しなくてはならない。
 あれは敵だと。
『アスラァァァン』
 青いライトセーバーを振り上げて飛び込んでくるのは、もう親友じゃない。
『キィィラァァァ』
 目の前の敵しか見えなかった。
 敵しか見えないのに広がる世界。踏み込んだ未知の感覚。
 ライトセーバーの軌道、回避の方向、力のベクトルが頭の中に流れ込んで眩暈がする。


 戦いの後、力の入らない手を無理やり握り締めた。
 心が痛むのも、涙が止まらないのも、突き抜けた感覚が戦場の想いを吸い上げてしまって、どこからが自分なのか判らなくなっていた。
 ただ一つ、俺はこの手で、敵と呼んで、親友を殺した事実が残るだけ。


 一人であればまだ偶然と言えた大きすぎる力。
 俺はそのことを誰にも言えずにいた。
 しかも戦争を甘く見ていた。青き世界でコーディネータの絶対優位を食い止めていたあいつが倒れたことで、集結に向かうと思っていた戦争はますますエスカレートした。
 俺は戦い続けなければならなかった。
『青き世界のために、赤い死神を殺せっ!』 
 彼らも手段を選ばなくなった。条約で禁止された兵器の投入や、人体改造にまで手を出して、数で押す地球軍にコーディネーター陣営の被害も乗数的に増加する。
『これ以上、何を奪うと言うのだ、ナチュラルどもめっ!!』
 戦争はお互いの存亡を賭けて総力戦へと突入していった。
 より強力なインターセプターを与えられて、俺は戦場を駆けることになり、平和の歌姫と謳われた婚約者を失望させた。
 でも、本当は気が付いていたのかもしれない。
 どちらかが滅ぶまで戦い抜いた先にある世界に平和などないと。
 だから、殺した筈の親友から差し伸べられた手を取った。
 過去を変える事はできないけれど、止めることはできるはずだから。


『父上はナチュラルを全て滅ぼせば戦争が終わると、本当にお考えなのですか!?』
 薄暗い司令室で、俺は最高司令官の前に立つ。
 コロニー・プラントの評議会議長は最終兵器を前にして、殲滅を指示していた。
『そんなことをしても、母上は帰ってこないっ!』
 プラントの最高指導者、パトリック・ザラは紛れもない俺の父で、俺はその息子だった。
 道を分かった俺と父のようにどうにもならないのか。
 戦争は止まらないのか。


 シンは胸を掴み、息を吸うこともできない。
 信じたいと願う想いが重く圧し掛かるのに、この戦争の結末を知っている。
 力に邁進したコロニーのなれの果てを知っている。
 4年前の戦争では、両陣営から離脱した第3勢力が戦争を終結させたことになっていたけれど、最終局面でようやく目覚めた平和への動きも、既に遅すぎたのだ。


 コーディネーター陣営の最終兵器、ジェネシスが姿を現す。
 巨大ガンマ線砲は遠く離れた月軌道から地球にその一撃を打ち込むことが可能だった。
 どうしてと詰る俺に父はこう答えるのだ。
『お前の為だっ! アスラン』
 鬼気迫る叫びに俺は答える事ができない。


 アスランさんの、為?
 ああ、これは敵わないと、シンは髪に白いものが混じる指導者を見た。
 打ち震えるあの人の動揺が手に取るように分かる。


 戦場で見えるたびに聞こえる筈のない声が聞こえた。
 思うままに力を奮い、屍の山に驚愕することさえあった。
 どこか違うと恐れていた。
 わざと見ないようにしてきたのに、誰よりも注意深く観察し、世界にただ一人、真剣に考えている者がいた。
『お前の生きる世界が、お前に優しくあるように、我らコーディネーターのように迫害されることのないようにだ。なぜ分からない!』
 俺の秘密は、他ならぬ父の手で暴かれてしまっていた。
 ジェネシスとは創世を意味するのだ。
 新しい人類に、新しい世界を。
 父はコーディネーターの未来を信じていた。
 更なる進化を、望む未来と信じていた。


 放たれる一撃が地球軍の艦隊を消滅させる。
 さらに地球軍の月基地を壊滅させ、その矛先がついに地球へと向けられる。
『父上っ!』
『親が子を守って何が悪いっ!』
『俺は、父上・・・ナチュラルを全て滅ぼしてまで生きていたくないっ!!』
 肩に激痛が走る。
 自分が撃たれたのだと、無重力の中漂いながら、父の手にしたハンドガンの銃口から漂う硝煙を見て知った。
 床に叩きつけられて、拘束される。
 それでもなお、俺は動けなかった。
 父と分かり合えないという絶望とは裏腹に、殆ど話す事もなかった父が俺ためにナチュラルを滅ぼすと言う、その言葉にどこかで歓喜していたんだ。
 勿論、父は政治家だったから、それだけではないことは知っていた。
 俺はコーディネーターにとって貴重なサンプルで、散々取られた戦闘データが新兵器へとフィードバックされていることをうすうす感じていた。


 だけど、ジェネシスのカウントダウンの最中、青い地球がモニタいっぱいに映し出されて。
 地球をバックに戦い続ける人の慟哭が聞こえたんだ。
 同じように、守りたいと泣き叫ぶ彼らと何が違うと言うのだろう。
 もう、いいじゃないかと思った。
 狂気の父でも、自分にはただ一人の父親で、その父が俺を守ると言ったんだ。
 分かり合えなくてもそれだけで、十分じゃないかと。


 紅い機体がジェネシスに飛び込む。
 宇宙を照らす閃光は、ジェネシスを抱えていたプラントの最後の光。
 巨大な建造物が細部を分解させながら降下していく。
 破片が燃え、大気との摩擦で光を放つコロニー。
「これが理由ですか?」
 傍らに立つアスランは4年前の姿をしていた。
 今のシンと同じ歳。
 着ているパイロットスーツは赤。かつて、ザフトレットと呼ばれていた精鋭。
 穏やかで少し幼く見える彼の瞳はしかし、今と変わらないものだった。
「俺達の存在は決して表に出てはならない」
 争いの種にしかならないのだから。
「だから、証拠隠滅を図ったんですか?」
「ここには膨大なSEEDの研究データがあったからな。これは、俺達が自然とできる意識の共有を強制する装置だ。復元したんだろう」
 何か知っているかと尋ねた、3本の柱とそれをめぐる円盤を見上げる。
 嘘みたいなアスランの言葉。
 これを見せられた時、世界でも征服するつもりかと思ったよ。
「シードの力は個人の力を飛躍的に向上させる力があるが、それ以上に、支配する空間にある意志を纏め上げ、力とすることができる」
 難局に面した時の仲間との一体感がそれだとでも言うのだろうか。
 いや、違う。
 俺たちは誰かに強制されたわけじゃない。
 そうだと信じなければ全てが偽りになってしまう。
「指導者には喉から手が出るほど欲しい力だろうな。人為的に意志を強制するものだ・・・・・・こんなものがっ!」
 なっ!?
 ノーモーションでアスランがライトセーバを振るった。
 これを壊す気なのかっ!?
 シンは咄嗟に崩れ落ちる残骸から頭を庇う。
 瓦礫の隙間から、身体を翻すアスランの背が見える。
「お前は早くここを脱出しろ。ダイダロス要塞が来るぞ」
「ァアスランっ!!」
 待てよっ!
 シンの叫びは轟音にかき消され、がむしゃらに手にしたライトセーバーを振り回した。なんとか瓦礫から這い出た時に、その姿はとうに見えなくなっていて、消えた扉を睨みつける。
 俺の言ったこと、全然分かってないっ!
 しかも、アンタ・・・昔から何も変わってないじゃないですか!!


 シンがアスランを追ってドアをライトセイバーでぶった切った時、メサイアの中央指令所に火を噴くダイダロス要塞が映し出されていた。
「これは・・・メサイア直撃コースで―――」
 振り返ることもなくオペレーターが沈黙する。
 束になって掛かるSPも、軍の精鋭も、全てドサリと冷たい床に崩れ落ちる。
 一段高い議長用に設えた椅子に腰掛けたデュランダル議長が、指令所に乱入した地球軍兵士を見下ろした。笑みを湛えて、立ち上がる。
「よく来たね、アスラン」



急遽、ここで過去話をやろうと決めたのは良かったのですが、こんなはずでは・・・。難しい難しい、結構書き直しました。それでも、やっぱりです。サブタイも「裸の舞台」→「陽炎の中へ」→「記憶のピリオド」→「滅びのメロディー」と二転三転。うぬぅ。あっ、言わんといて下さい。パパリンに夢見ているのは私です。だって、パパリン好きなんだもん。さーて、この後どうするか考えないと!