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 Dungeon F3


 大理石の床だと投げ飛ばされた3人が気が付いたかどうか。
 先に舞いあげられたシンはとっくに、その大理石の美しい床に臥していて、3人がそれぞれに受身を取って激突の衝撃を堪える。

 メイリンがシンに駆け寄って、ホッと胸を撫で下ろす。

「イッテエ・・・」
「待って、今ヒールかけるから!」

「来るぞっ!」

 シンの目の前。メイリンの向こうでレイとルナマリアが対峙しているのは、渦巻く風を纏った女? いや、人間じゃない。長い髪だと思ったそれは風の刃。スカートだと思ったそれも竜巻のようで。
「まさか、エレメンタル・・・」

 シンは四肢に力を込めた。
 風に奔走される二人だが、レイが天井のシャンデリアを落としてエレメンタルにぶつける。拡散する風が、白と黒の升目模様の大理石の上をすべり、シンはここがホールだと知った。見上げる左右のアプローチは形を保ったまま残り、その一つが無残に崩れ去る。
 レイの攻撃方法を見たルナマリアが、同じようにアプローチごとエレメンタルにぶつけたのだ。うまく階段の下に追い込んだ作戦勝ちだった。

「やったっ! お姉ちゃん」
「どんなもんですかっ」
「確かにもう見習とは言えないな」

 シンはメイリンの魔法が効をそうして立ち上がる。バンバンと埃を払って二人を見れば、ルナがいきなり指を指す。

「だから、アンタ一人で無茶してんじゃないわよ」
「全く、気でも狂ったのかと思ったぞ」

 確かに。火達磨で向かっていくなんて、自分でもどうかしている。昔の自分なら到底考えられない無鉄砲さ。シンはどうしてか自分でも勝てると思った根拠が見つからずにここは素直に詫びる。

「う・・・ごめん」

 あー、何ツーか、あの時はこう身体の芯がカッとなったんだよな。
 分けわかんねえ。

「とにかく、むやみやたらに物に触らないでよ」
「はいはい」


 Dungeon F4


 今まではシン以上に興味津々だったステラがいたために、シンはストッパー役だったのが、このメンバーでは一人だけ盗賊という立場の悪さだ。レイに至ってはエルフで実年齢がどれだけかすら分からない。
 地図やドラゴンの瞳を持っているのは俺なのに・・・と、シンは不貞腐れながらも大人しく従う。辛うじて残ったアプローチから上がると平然と続く廊下があり、褪せた絨毯の上に足を載せると、埃と共に壁の明かりが一斉に灯った。

「残っているエレメンタルって、水よね」

 最初の部屋の扉を開く。
 そこしか扉がないからなのだが、シンがランタンを掲げるより早く部屋に明かりが点き、その部屋のかび臭い匂いの元が目に飛び込んできた。
 部屋を埋め尽くす本・本・本。壁を覆い尽くした、二階まで儲けられた本格的な図書室だった。中身はと言うと。

「古語だな。相当昔の」

 誰も読めやしない古い言葉で記された本を取り出して解読しようとする学者気質の者は、残念ながらここにはいなかったのだ。図書室を一回りして、手すりから階下のホールを見下ろす。先ほどの戦いの惨状が白と黒の大理石の上に散乱して、ホールの周囲に並べられた甲冑の像も数体倒れていた。
 ちょっとした書斎と資料を広げる為のテーブルが膨大な本に囲まれるだけの図書室。
 脇によけられたチェス盤の駒はクリスタルでできていて唯一お宝になりそうなものだった。
 シンは他の3人に気付かれずに、チェスの駒をポケットにしまい込む。

 モンスターもいなけりゃ宝箱もないし、どうなんてんだよこのダンジョン。何人も杖を求めて挑んだんじゃないのか? アスランの友人って奴もどこにいるんだか。

「次の部屋行きましょう」
「これだけ全部読んだら、一級神官になれるかなあ」
「読めたらな」

 確かに知識としてはものすごい希少価値を持つだろう。ただし、読めたらの話である。失われた古語は現在では研究対象となる程の文字だ。お宝もなく部屋を一通りして、廊下に出ようとすると、4人の耳を音が打った。

 ぴちょん。

 ぴちょん。


 間隔を置いて響く、水の漏れる音。
 こんな干からびた埃だらけの石の館に水の音が響き渡っている。さっきまでは何も聞こえなかったというのに・・・慌てて図書室の中を振り返れば陽炎のようにぐにゃリと揺れ、その部屋は透明な水で満たされていた。扉には透明な境界でもあるのか、出られない。

 息を止めたが、認識した途端息苦しくなる。

「ブクブク・・・これってやっぱり」
「水の・・・エレメンツだ」

 悠長なことは言っていられない。
 早く水のエレメンツを倒さなければここで全員溺死体だ。

 そんな時、シンは胸のうちから冷たく凍えていくような感触に驚いて手をやる。切れるように冷たい水がポケットから湧き出ていた。中のチェスの駒を取り出すと、駒から滲み出すエレメンタルが拡散して形を変える。細長い胴体を持つ、水蛇に。
 シンの手にはただ、チェスの駒が残り、それを見ていたレイが眉を寄せる。

「俺が悪いって、分かってるさっ!」
「だったら、この場を切り抜ける方法を考えろ」

 水流に乗り、口から冷たい水を吐く。その冷たさは水を凍らせるほどで、吐き出された水が凍りの槍となって向かってきた。槍には当たらなかったが掠めただけで手足が凍りそうだ。

「駄目、あたしもう息が・・・」

 シンの息だってもう長くは続かない。
 霞む視界の中におぼろげに見える、下のホール。
 散乱した残骸と、升目に並ぶ騎士像達。まるでチェスの駒のように設えた黒と白で、シンは手にしたチェスの駒を見る。冷たい指の先にある駒は黒の戦車。

 ―――俺のチャリオットでチェックメイトだったのに。
 なぜ思い出したのか分からない。でも、それが重大なヒントのような気がして。

「シン、アンタ・・・それさっさと・・・戻しなさい・・・よ」 

 ただ、戻すだけじゃ駄目なのだと気付く。チェックメイトしなくてはエレメンタルには勝てない。アスランが零していたあの一言の通り、この戦車で勝負が決まるのだとしたら。

 だけど、もう息が。
 チェス盤まで潜ることもできない。
 もとよりチェスのルールなど知らないシンだ。チェス盤の駒がどうなっているのかがわかった所で指しようがない。
 白のキングがd7、その前に戦車。クイーンがh6でその斜め前に象。
 シンが手にする黒は、王がe3に女王がg2、白の戦車の前に騎兵がいる以外は全て歩兵。
 中盤の攻防は終っているのか、盤上の駒の数は黒も白も半分に減っている。

 感覚を無くした指から黒の戦車が離れ、冷たい水の中を落ちていき盤の上に転がる。
 辛うじて落ちずに留まった場所は一番上の一番右端。h8。 

 チェス盤が光り駒が盤に沈んでいく。

 最後の黒の戦車が盤に飲み込まれた時、ハイドラが氷の塊となって水の中を落ちていく。それと同時に水位が下がり、シン達は陸に打ち上げられた魚のようにぜーぜー息と共に水を吐き出した。

 ホールの騎士像は大人しく壁際に立っていて。
 ドォーンと扉が開く音がダンジョン全体に響き渡った。




続く

チェスのルールなんて知らないので適当です。ただ、一万年も昔にチェスなんて、と言うかD&Dの世界にあるかどうかも怪しいので、駒の名前はインド時代のものに変えました。ルーク→戦車。ビショップ→象。チェスは元々インドで生まれアラビアや中央アジア、バルト海を経てヨーロッパに伝わったものなんだそーだ。へえ。次はいよいよ・・・骸骨骸骨!