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終末の序曲







 霊峰のかなり高い位置にあるというのにマルキオ教の本山の辺りだけは雪が積もっていなかった。それなのに礼拝堂はしんと冷えて、目に見えない空気に閉じ込められたかのようにシンは動けなかった。

 うまく息ができない。

 ディアッカは何を言っている?
 父上が死ん・・・・・・どうして。なぜ。

 礼拝堂のある一点を見つめたまま、ただ呆然と立ち尽くした。
 真っ先に反応を見せたのはアレックスで、一歩踏み出してフェイス・ディアッカに向き合って問い質す。

「本当か?」
「冗談でこんなことを言うと思うか?」

 面識のあるラクスも信じられない思いで言葉を繋ぐ。
 記憶にあるかの人の父は皇帝らしく威風堂々とした男だった。誰かに寝首をかかれたり、毒殺される程甘い人物ではないことくらい分かっているつもりだ。直接先頭に立つわけではないとしても、仇敵の頂点に君臨するその人なのだから。

「プラントのパトリック皇帝がお亡くなりに・・・いつ・・・」

 フェイス・ディアッカは答えず、いまだ反応のないシンにもう一歩近づいて膝を折って臣下の礼を取る。

「できるだけ火急、且つ速やかに帝都へお連れするよう、兄君より仰せつかっております」






「できるだけ早くだ」
「分かってるさ」

 ディアッカにシンを帝都に連れ戻すよう命じたイザークも、知らせを俄かには信じられなかったのだ。この大事な時期にどんな冗談だと、もう少しで使者を張り倒す所だった。

 父上が急死しただと?

 どういうことだ。
 今、皇帝を殺害しても何の利も無い。誰にも、帝国内には。連邦が帝国の混乱を狙ったのだとしたら、これは下策も下策だ。あの嫌みったらしい連邦のアズラエルがこのような手段に出るはずがない。

 だとしたら敵対しているジブリールか?
 いや、奴にそんな度胸はない。
 まさかレジスタンス・・・・・・バルトフェルト侯が暴挙を許すはずがない。

 イザークは帝都への帰路、この死の背景に頭を巡らしていた。
 飛行戦艦の中から砂漠の彼方に帝都が見えた時、王宮に翻る弔旗に、イザークは初めて父親の死を実感した。

 黒い半旗。
 黒いタペストリー。
 官吏も宮殿にいる者も議員達も全て礼服を着ていた。緑溢れ花のような王宮が黒一色で埋め尽くされた光景に、イザークは足早に回廊を通り過ぎる。

 いるはずの顔が足りない。
 老獪で議会を裏で操り、皇帝を意のままに操ろうという輩達の姿が見えないことに、イザークは皇帝の死以外に何かが起こったのだと確信する。
 自分の予想通りなら、恐らく・・・。

 パレスの大きな扉の前で立ち止まり、微かに指先に力が入っていることに気がついた。

 身構えているのだ。
 この先に待っている光景を。
 あの部屋にもう父はいない。
 もう二度とイザークの青い瞳に映ることはないのだ。

 そこにいるのは、兄。

 何を企んでいる?

 扉の向こう、一家の主の部屋でイザークは予想通り、壁に掛けられていた絵画を見ていた兄を見つけた。7つ上の兄、ギルバート・デュランダル・プラント。

「兄上! どういうことですか!?」
「早いな、イザーク。とんできたのか?」
「当たり前です! シンもすぐに」

 絵から目を離した兄が机を回りこんで庭を見る。
 ゆっくりとした動作にイザークは内心舌打ちした。問い質したい事が山程あるのに、兄ははやるイザークの気勢を削ぐのに長けていた。

「当然だろう。『見聞を広める為にアプリリウス滞在中』と連絡を寄越したのは誰であったかね」

 イザークもつられて部屋から見渡せる庭を見る。家出同然で出奔したシンが、空賊に弟子入りしている、などと言うことが公になるわけにはいかない。当然、この大事に帝都にいないことは許されない。

「言いたいことは分かっているよ。元老院どものことだろう」
「・・・はい」

「皇帝暗殺の疑いで元老院議員を全員逮捕した。事実上、元老院は解散だな」

 皇帝暗殺の疑いだと?!
 奴らがそんな度胸のある事をするものか。

 喉まで出掛かって、イザークは拳を握り締めた。急死ではない、明確な他殺。その犯人を巡って帝国は揺らぐだろう、そのリスクを差し引いても兄は犯人を吊し上げた。

 なぜだ。

「皇帝1人死んだ所で帝国は揺るぎはせんのだよ」

 まさか・・・兄上。

 振り向いた兄の瞳が昼の光を差し込んで琥珀色に光る。家族が減った事実を前にして、こうも平然としていられる男をイザークも見つめ返す。真意の読めない兄の心の奥底を覗いてみたいと、このとき初めて思った。

 アプリル反乱の兆しと連邦との緊張が高まるこの大事な時期に、なぜ父上は殺された。
 他ならない、息子の手に掛かって。
 それが帝国の為だと言うのか。

「せめて盛大に送ってやろうではないか」

 お前が殺ったのだろう!
 皇帝の座を手に入れるために、自らの父でさえ手に掛けるのか。イザークの青い瞳は氷よりもなお冷たい光を宿して、目の前の男に視線を返した。

「そんな事で親孝行できるならよいのですが」

 言い捨てて主の変わったばかりの部屋を出ると、侍従長がイザークを待っていた。いつもの服に黒の腕章をつけている。

「殿下、シホがお待ちでございます」

 言葉少なくほとんど感情を露にすることもない、この肉付きのよい男はどう思っているのだろう。ふと、そんな事を思ったが、私情を口に出すはずあるまいと、止めかけた足をそのまま踏み出して歩き出す。

「そうか、すぐ行くと伝えてくれ」
「承知いたしました」





 旗という旗は黒く半旗となり、帝都は鎮魂に沈んでいた。

 と言えば、少し大げさだろうか。
 国民には必ずしも優しい皇帝ではなかった。アプリルを始め周辺諸国を併合した武断の皇帝というのが恐らく彼らの印象だろう。だがそれでも、帝国にとっては比類なき皇帝であり、帝国の強さの象徴でもあった。

 後継者がなかなか決まらない程君臨していて、歳を取って威光に陰りが見え、ようやく代替わりが行われるかと言う矢先の出来事だった。

 イザークは個人的に所有している小型飛空艇を自ら駆って、帝都の空路を急いでいた。銀色に光る白いボディに水色のラインの入った飛空艇は一見、帝都の貴族達が所有しているプライベートリムジンのようでいて、中身は全く違うもの。シホから受け取ったものを手に、建物の間をすり抜ける。

「確かに・・・皇帝が死んでも帝国は止まらない」

 悲嘆にくれるけれど、人々は止まらない。
 何事もなく帝都には日が昇り、経済活動が動き出す。市場で売買が始まり、建物を覆う緑は花を咲かせる。

「シンが戻ってくるまでか、時間がない」

 帝都の中央部から少し外れた高い建物で飛空艇を降り、イザークはとても帝国の王子とは思えない格好をして建物の中に消える。振る舞いや滲み出るオーラが只者じゃないと暴露してしまっていたが。

 昇降機を操作しようと手を伸ばした時、突然、所内にサイレンが響き渡った。
 緊急性を告げるそれは、明らかに何か良くないことが起こった証でイザークはすばやく辺りを見回した。

 そう言えば、警備の者はどうした?

 本来なら各階に配置されているはずの警備担当者がいない。どこかの企業、高級住宅ならともかく、ここは帝国でも最高機密を扱う種石の研究所なのだから。シホから手に入れた研究所の極秘キーに何か不首尾でもあったのかと一瞬頭を過ぎったが、ディアッカとは違い彼女は優秀だ。
 ミスがあるとは思えない。
 だとしたら、自分以外の誰か・・・そう思い当たった所で、バタバタと走る足音が聞こえてきた。近づくにつれ、微かな鎧の音を聞きつけ眉を寄せる。

 なぜ、帝国兵が? フェイスまで。
 見つからないように咄嗟に物陰に隠れて、その場をやり過ごすと彼らの口走ったことが頭を巡る。

 どうやら招かれざる者が俺以外にもいるようだ。
 侵入者を探せ、生きて返すなと指示を出していたフェイス。物騒な事だと昇降機に乗り、最上階を目指す。狙いが同じものだとしたら、ぐずぐずするわけにはいかなかった。

 シホに渡された2枚の鍵の残りの鍵を取り出して、目的の部屋に入った途端イザークは唖然とした。

 先を越された・・・か。
 物音を立てないように部屋の中を動こうにも、こう物が散乱していては無理と言うものだ。床やデスクには書類が散乱し、書棚は荒らされ、引き出しという引き出しが開いていた。家捜しでもここまで派手にはやらないのではないか。
 その中で、目に付いた書類を拾い上げる。

 人工種石の硬度に関するデータ。
 人工種石の耐久性に関する考察。
 シード最大容量を決定付ける要素。

 グラフと表が載っている書類のタイトルにそう記されていた。曲線と細かい数字の載った紙を数枚捲って、散乱したものが山のようになっている机の上に置いた。

「まさか、人工種石とは」

 一度は手にした王家の証、黄昏の種石はジョージ・グレン王が大陸の覇業を成し遂げる原動力となった神授の種石の一つだった。当初、イザークが知っているのはそれだけだったのに、ラクス達が王墓へと出向き、第8艦隊が消滅したことでまた別の種石の存在を知らされた。この調子なら覇王が持っていたとされる3つの種石の残りの一つもどこかにあるのだろう。

 過去の遺物はただの伝説だと思っていたが、その力を目の当たりにして思うのだ。

 世の王が欲しがらないはずがない。
 だが、手に入れさえすれば即使えるものではないということも、第8艦隊の件で当たりを付けていた。なんらかの制御が必要なのだ。おそらく通常のシードを含んだ石とは比べ物にならない量のシードを溜めている。魔法を扱うのとは違う、何か別の制御法があって、覇王はそれを知ったから大陸を統一できた。

 研究所が開発しているものは、そんな所だろうと考えていたのに。
 ここで行われていたのは種石を制御するのではなく、制御できる種石を作り出す事だったのだ。

 崩れそうな書類の山を掻き分けてみるが、同じような報告資料ばかり。
 イザークはため息をついて部屋を改めて見回す。荒れ果てた光景には、かつての恩師の部屋を髣髴とさせるものは何もなかった。

「狙いは人工種石、それとも・・・」

 ドクター・クルーゼなのか。

 イザークの中でクルーゼはそのような大それた事をしでかす人物ではなかった。いつも落ち着いていて、やや慇懃と取れるほど冷静に物事を観察する目を持っていた。
 現実的だったのだ。
 イザークの思いついた歴史に隠された真実に耳を貸してくれることはあっても、覇王の遺産の軍事転用を実行に移すことなど有り得ない。

 何かがイザークの知らない所で起こっている。
 それは父の死であり、人工種石の研究も、だ。

 イザークはそのピースの間を埋める決定的な何かをまだ手にしていない。
 ドクター・クルーゼや兄なら、それを持っているというのか。苦虫をかみ締めるように顔を顰めて、拳を握る。

 また、あの時と同じだ。

「どこにいる、ドクター・・・」

 手に入れなければならない。
 それもできるだけ早く、手遅れにならない内に。

 倒れたスタンドをおこし、割れた本をいくつか拾って書棚へと仕舞う。自分が立てた音以外が耳に届いてイザークは部屋の入り口を見た。

 紙が踏みしめられる音。

「探しているのは、私かな? 殿下」





 適当に散乱したものをどけて、デスクの椅子に腰掛ける最重要人物は、相変わらず変な白い仮面で顔の上半分だけを隠して唇の端を上げた。対して、イザークはほとんど本のない書棚に腕を組んで凭れている。

 得体の知れなさが増大していた。
 兄とは根本的に違う不気味さは目が見えないからだと、まだ学業に従事していた時分は無理やり納得していた。

「さて、ご用件は何かな? このように散らかっていて殿下をお迎えするには心苦しいが」

 目の前の男の一挙一同から伝わるのは明らかな壁なのだ。
 彼は目の前に帝国の王子が居るというのに、畏怖もなければ動じる所もない。表面上は敬う言葉遣いだが、本当に心からそう思っていれば自然と空気が変わるものだ。
 イザークとて無駄に王子として帝都の中枢で生きてきたわけではない。
 それくらいの判別はつく。

 俺は取るに足らない存在ってことか?
 だが、自尊心に縛られるわけにはいかなかった。

「人工種石は完成しているのか? そんなものを作って何に使う」

 この研究所に侵入した者の狙いもそれだ。
 それを知る人物か、現物を探しているに違いない。

「聡明な君が分からないかな?」
「帝国は今でも大き過ぎて、辺境に目が届かず軋みが蓄積している。大陸全土を統一して軋轢を抱え込むのは懸命じゃない」

「よろしい。統治者として合格だ」
「お褒め頂き、ありがとうございます」

 小さい頃はこんなやり取りを良くしたものだ。
 入れ替わり立ち代り講義をする帝王学講師の1人、授業でともすれば熱くなり理想を追うイザークを嗜めたのも彼だった。

「ではなぜ、種石の力を今になって求めるのです。帝国にとってそれは絶対必要な力ではない」

 ドクターは背もたれに凭れていた身体を起こして、デスクに肘を突いて頭を支えた。
 少しの沈黙が降りる。

「歴史が繰り返すからだ」

「・・・歴史?」

 大陸に現れては消えていった数多くの国家達。現在の2大国家睨み合いは比較的長く続いている方ではないだろうか。歴史が繰り返すならば、このあと訪れるのは小国が乱立する群雄割拠の時代か、巨大な統一国家か。

 兄はプラントによる大陸統一を考えているのか?
 それは有り得ないと即座に否定しつつも、まさかと言う不安がどうしても拭えない。

「始まりは7年前」

 何っ!

 銀色の髪が広がった。
 温めていた書棚からイザークは背を離し、ドクター・クルーゼを見る。

 どういう意味だ。
 7年前。それは弟を1人失った時。偶然か、それともあの争いに種石が絡んでいた・・・。

 イザークは一瞬、頭の中が恐慌状態に陥った。ただの跡目争いではないという情報が追加されただけで、幾つも構成を変えて推測が出来上がっていく。青い瞳は仮面のドクターを映していたけれど、現実には捕らえていない。歴史に埋もれた真実を捉えることに必死になっていたのだが。

 くそっ、あと一歩届かない。

「君はもう王宮へと戻ったほうがよいのではないかな」

 ドクターの声が、もどかしさに悶えそうになったイザークの意識を現実に引き戻した。

「賊にも逃げられてしまったようだし。殿下からも、もう少し警備を増やしてもらえるよう進言して頂けないかな」

 人工種石を狙うのは反帝国レジスタンスか、アプリルか、連邦のスパイか。
 どちらにせよ帝国にとって好ましくない相手であり、イザークが否やを唱える理由はなかった。ドクター・クルーゼに飛空艇を泊める所まで付き添われ、研究所を後にする。

「もうすぐイザークがそこへ行くぞ、ギルバート」

 クルーゼの独り言は誰にも聞かれることなく、彼は踵を返した。





 こんな時でもなければ王宮の聖堂が隅から隅まで磨かれることはない。
 3番目の王子が亡くなった時以来で、王宮の聖堂では着々と皇帝パトリックの為の葬儀の準備が進められていた。皇帝の貴色である紫の布で覆われ、香が焚かれ、いつしか王宮全体がその香りで満ちていた。

 イザークは纏わり憑く香りに死の匂いを感じて、王宮の自分の宮にとって帰すとそのまま王宮の別の建物へ足を向ける。ずっしりとした木の扉を二つも開けた薄暗い部屋の匂いの方が、たとえかび臭くともイザークには馴染みのあるもの。

 明かりをつけると奥が見えないほどの部屋にはぎっしりと書物が詰まっている。

 帝国の歴史がそこにある。
 帝立の図書館にもかなりの蔵書があるが、ご禁制の記録はここにしかない。

「歴史は繰り返すだと?」

 上等だ。
 ならば、真実をこの手で掴んでやると、イザークは過去の海へと飛び込んだ。種石の記録、覇王の記録、時間がないからその二つに絞って書物を漁る。こんなに本に埋もれたのは久方ぶりだと軽い感動を覚えていた。

 公式記録の次に民間伝承を集めた書物に手をかけた時、王宮の官吏が自分を呼ぶ声が聞こえた。気がつけばかなりの時間が経っていて、長時間姿を晦ます事の失態を悟った。
 一瞬、引っ張り出した本を元に戻そうかと考え、自分以外にここに入るものは居ないだろうと推測して蔵書室を出る。途中の頁で開きっぱなしになった革張りの書物がアラバスタの机の上に広げられていた。

 しかし、自分が呼ばれている理由が単に行方が分からないからではないことを、イザークは兄のギルバートの口から聞かされた。

 アプリリウスの南にアプリル復興艦隊が集結しつつある。

 皇帝の死に動揺する帝国の隙を突いてアプリリウスを奪還するのか、先頭に立つのは空中都市の侯爵バルトフェルト。用心深く様子を伺っていた奴が動くなら、勝算ありと踏んでのことなのだろう。

「皇帝崩御の時を狙うとは、人道にもとる!」
「このような時だからこそなのだよ」

 分かっている。分かっているが、怒りが収まらない。
 冷静になれと強く心の内で念じて、自らのやるべきことを弾き出す。

 アプリリウスを統治する執政官としてすべき事。
 プラント帝国治世の安定にこの決起が与える影響を。

「例え反乱軍を1人残らず殲滅したとしても、このような反乱を見過ごしたというだけで帝国の負けです」

 表情の動かないギルバートも微かに頷いた。

「こんな時ではあるが、鎮めてくれるな」
「分かっております」
「第8艦隊を穴埋めする為に急遽編成を進めていた第13軍がある。急造だが、持って行くといい」

 イザークは軽く頭を下げる。

 兄やドクターが何を考えていようとも、自らにできることをするしかないと瞳を閉じる。降りかかる火の粉を払わなくてはイザーク自身身動きが取れない。
 父の葬儀に出席できないことが心残りだったが、弟の葬儀を思い出して、あんな思いをするのはもう勘弁だと自らを奮い立たせた。

 イザークが自分が指揮を取る第3軍と第13軍を伴って帝都を出る日、シンが父の死を知ることとなる。





 ディアッカに見上げられて、シンは浅い呼吸を繰り返していた。
 どういう事態になっているのか、説明されなくても分かっている。子供子供と甘やかされたシンにだって、ここでシンが取るべき行動は決まっている。

 それが分かっていてもなお、ディアッカに返事ができない。

「あっ、でも、俺、まだ」

 何もやってない。
 あんな野菜のモンスター倒しただけで、他には何も。
 だけど、父上が。
 でも、空賊としてまだ全然。

「いいからお前は帝都へ戻れ」

 肩に手を置かれて、反射的に横に立つ人物を見上げる。
 アレックスを見るシンは、泣く寸前をギリギリ耐えてるような顔をしていたに違いない。口にした彼の名が震えた。

「アレックス」
「父親との別れだろう。息子が傍に居ないでどうする」

 立ち上がったフェイスの鎧の音が鳴る。
 押し出されるように礼拝堂の扉へ数歩進むと、ディアッカが付き従った。自分の足音、鎧の音、どれも小さく耳に届いて足がちゃんと床についているかどうか分からなかった。

 どうしてここで後ろを見ようと思ったのだろう。

 もうここには戻れないのに。
 冒険はこれで終わりなのに、シンは振り返ってしまっていた。



 ―――あ



 目が合う。アレックスが去る自分をじっと見つめていた。彼のエメラルドの瞳が揺れているように見えて、シンは思わず視線を逸らしてしまった。

「殿下、お急ぎ下さい」

 ディアッカに促されて、足早に礼拝堂を出ると霊峰に吹き付ける冷たい風が頬を切る。飛空艦隊がそこに控えているのを見て驚愕した。ここは飛空艇が飛べない山だと聞いていたのに、ディアッカは飛空艇で乗り付けているのだ。

 シンを見送りに来た者は誰も居なくて、自分がいかに皆と相容れない存在かを思い知った。マルキオ教の霊峰を見下ろして零れそうになる涙を堪えている時、シンはイザークが帝都を発ったことを知らなかった。

 勿論、シンの居なくなった礼拝堂でマルキオ教の教祖がラクスに種石に対抗する切り札の存在を明かしているなど知るはずもなかった。

「覇王の遺産は種石だけではありません」

 突然舞い込んだ皇帝崩御の知らせに、ここまで来た目的を一時的に失念していたラクス達は、教祖の声に我に帰る。

「それは・・・一体!?」

 繋がった希望の糸にラクスでなくても身を乗り出した。

「覇王は3つの種石と一振りの剣を残したのです。覇王の剣を」

 降って沸いた剣の存在に、皆戸惑った。
 種石はあの小さな石の中に未曾有のシードを持つ未知の物体であるのに対し、それに対する切り札が剣とは。

「今のあなたにお話するべきか迷いますが、それをどう使うかは殿下がよく考えて下さい。ラクス・クライン殿下、覇王の剣は種石を砕くことができるのです」






念願のイザークオンステージです。でも、思ったほど動かせなくて残念、いつかリベンジを。