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Men of Destiny 40

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両手のシナリオ



 円筒形のコロニーはゆっくりと回転していて、底部から伸びる3枚のミラーが光っている。太陽光が差し込む人工の大地には緑が広がり、湖には水鳥が浮かんでいる。ほとりにログハウスがある典型的なカントリー風景。むしろ、地上では消えた記憶の産物。


 水鳥が一斉に飛び立った。
 丘から1台のセダンが現れ、ログハウスに横付けする。防弾のセダンから降りるのは、今や最も有名なコーディネーターの一人、ギルバート・デュランダル評議会議長。先に降りて周囲を警戒するのが、レイ。その他、SPが周りを固める彼らを出迎える背広の男達、田舎風景に似つかわしくない光景はすぐにログハウスの中に消えた。
「これは・・・議長自ら足をお運びとは恐れ入りますな」
「それだけの覚悟を持って臨んでいるとお考え頂きたい」
 あの小さなログハウスでは想像できない設備の部屋の中央に置かれたテーブルに男達が向かい合って座っている。ドアを固めるはお互いのガードマン達だろうか。
「では早速、そちらの要求についてだが・・・」


 アンカー固定。接舷。
 エンジン停止を確認。
 こちらポートコントロール。ようこそ、ミネルバ。
 追手の地球軍を振り切ったミネルバは、宛先を推測されないように随分と蛇行ルートを取って、ラグランジェポイント軌道上のコロニーに入港していた。
「いくら戦時中とは言え、ここは中立コロニーです」
 そう言ってコロニーの役人が武装封印のシールが船体のあちこちに貼ってある。前のステーションでそこそこ修理をする前に出航してしまったから、本当は大々的にする必要があるのに、修理も専ら内部をメインにすることになったのだろう、船体に張り付いているクルーの数も少なかった。


 シン達には16時間の外出許可と8時間の強制休息が与えられた。
 はずなのだが・・・。
「シンも、行く」
 シンは外へは行かずにミネルバの格納庫に篭っていた。
「いいよ俺は。やることがあるし」
 マニューバの調整もあるし、サブアームの設定もまだまだだし。分厚いパーツリストを引っ張り出してきて、センサーの感度と格闘中だった。
「シンも、行くの」
 ステラがタラップに載って、コックピッドで調整を続けるシンを覗き込んでいる。機体の下にはヨウランやヴィーノがいて、遠巻きにルナマリアとメイリンが二人の様子を見守っている。
「だからステラ・・・」
 そんなことしている場合じゃないんだよと、何とか言いくるめようとして見上げたそこに、ステラのうるんだ瞳があって、背後に腕を組んだルナマリアが視界に入った。すっかりステラの保護者に落ち着いているルナマリアからの無言の圧力。
「シン、これ以上は精度上げるの無理だぜ、やっぱ」
 あっ、このヤロー裏切ったな!
 仲間の筈のヨウランの裏切りにあって、シンは皆と共にコロニー内部に行くことになった。表向きは生活用品や嗜好品の買出しである。武器だけでは戦争はできない、人間が戦争の担い手ある以上、必要なものは必要であった。
 軍服を脱いで、コロニーに内部に入ったシン達は、戦争の影響か、いやに緊張した街の様子に戸惑っていた。店先に並ぶ法外な値の品物や、子供の少ない大通り。知らず必要以上に警戒しまって、それが返って少年少女の彼らを目立たせてしまっていた。


 裏でなにやら怪しい部隊が通信を交わしていることなどお構いなく、シン達はコロニー内部をジープで走った。あらかじめ話が付けてあるスーパーで買出しを終えると途端に時間が余ってしまったのだ。
「ミネルバに戻る?」
 髪を抑えながらルナがシンに問えば、運転しているシンは前を向いたまま「ああ」と答えた。ステラはブラウニーを頬張りながらご機嫌だし、ヨウランとヴィーノは買いあさった如何わしい本を早く開きたいだろう。
「焦ったって、敵は逃げないぜ」
「どうせ宇宙に出たら、またずっと戦闘続きなんだしさ、もうちょっとゆっくりしようよ、シン」
 ところが、シンの予想に反してヨウランとヴィーノが渋る。
 なんだよ、二人して。メイリンと目配せなんかして何、考えてるんだよ。
「あっ、シンそのハイウェイ、右に行って」
「えっ、右? でも港は」
「いいからっ」
 ぐいっとルナが横から手を伸ばしてハンドルを切るから、シンは仕方なく言われたとおりハイウェイを右に折れた。真っ直ぐ行けば宇宙港だったのだが、右に広がった空間はそれはもうのどかな風景が広がっている。
「アンタ、ちょっとカリカリし過ぎなのよ」
 はあ?
 突然ルナが言い出すから、シンは対応に遅れた。しかし、それっきりルナは何もしゃべらず、ステラの歓声にシンもつられて声を上げるところだった。
「すっげー」
「コロニーの中なのに、こんな所があるんだ・・・」
 湖とそれを取り巻く緑。水鳥が飛ぶ静かな世界。人工の大気が宇宙の漆黒を隠す空だと分かっていたけれど、地球育ちの彼らにもそれは確かなものとして映った。
 見晴らしのいい丘の上でジープを止める。
「色々あったじゃない? 時間もあるんだしゆっくりしてきましょうよ」
「ねー」
 メイリンとステラが顔を見合わせて、草の丘にシートを広げていた。


 もしかして、俺に気を使ってくれているのか。
 ヨウランやヴィーノまで一緒になって企んで? 
 シンは用意周到さに少しむすっとして、素直に喜べずにぞんざいにシートの上に寝転んだ。目を閉じる。
 戦闘の危険から解放されてのんびりしたのは久しぶりだと、思う。
 宇宙に来てからはなんでも始めての連続で、地上にいた時もずっと戦闘ばかりで、海上のプラントでは強制労働で。
 人生って本当に分からないもんなんだ。 
 こんな風に戦いに身を投じることになるなんて、少し前は予想もしていなかった。家族を奪った戦争なのに、それはもはや皮肉としか言えない。
 今のシンはライトセーバーを持つ、プラントの軍人で、戦士。ほんの少し敵より強くて、運がいいだけ。
 あのおっさん、サトーとか言ったな。死んでしまった。目の前で爆散する戦闘機が脳裏に浮かんで、ぎりりと奥歯を噛み締める。
 しかし、戦い続けていれば無事で済むとは限らない。
 手袋で覆われた右手に目がいってしまって、自分の感情を表す言葉が見つからない。何か理不尽なもの。それが戦争。
「シンは最近、すごく頑張っているけど、辛かったら、ちゃんと言いなさいよ? あたし達仲間なんだから」
 ルナの見ている先には湖があって、メイリンとステラが寝そべっていて、草むらに広がっている白い花を摘んでいる。
「あたし達、何も変わらないのにね」
 コーディネーターのメイリンと、エクステンデットのステラ。
 シンにナイフを振りかざして襲い掛かるステラを重ねるが、それはもう遠い過去だ。このまま、プラントが戦争に勝って平和条約でも結ばれれば、何もかもがうまく行きそうな気がする。こんな所なら、コロニーで暮らすのも悪くない。
「アタシも昔、よく作ったわ。わっかにするのが難しいのよね」
 メイリンとステラが四苦八苦している。
 おぼろげながらシンも妹のマユが一生懸命、シロツメクサの花冠を作っていたのを思い出す。戦争しているのに、こんなに平和な気分に浸っていていいのだろうか。
 今、この瞬間でも、どこかで戦闘が繰り広げられているに違いないのだ。
 ステラが顔を上げて、湖のほとりにあるログハウスを見つめる。
「えっ、何? ステラ」
 心配げにシンを振り返るステラの表情は、さっきまでの穏やかな少女のものではなかった。
 ログハウスを取り囲む黒い影に、シン達は立ち上がる。銃声がいくつも響き、ログハウスの外と内との銃撃戦が始まった。外にいた黒い影がいくつも倒れて、中から男達が飛び出してくる。数名の男に取り囲まれるように守られている姿に見覚えが合った。
 遠くて核心はもてないけれど。
 あれは・・・。
「ギルバートッ・・・デュランダル議長!」
 ルナに先を越されていた。
「どうしてこんな所にっ!?」


 ジープに乗り込んで離れる寸前だったシン達は、方向を変えて丘を下りだす。
 近づけは確かに渦中の人が、デュランダル議長その人だと確認できる。理由はわからないが、絶対絶命だということは、誰の目にも明らかだった。
「みんなを頼む!」
 シンとルナマリアがライトセーバーを抜いて、周囲の敵を倒しに掛かる。
 シン達を見つけたデュランダルが軽く驚くが、さすがに事態を悟っているのかSP達に囲まれて救援が来るのを待っている。乗ってきた車は既に使い物にならない。
 ステーションから蛇行して逃げるミネルバの辿り着いた先のコロニーに、都合よく居合わせた議長。そう言えば、先の戦闘の前にあのヴォルテールの艦長とミネルバは何を話し合ったのだろう? そもそも、なぜ、中立のはずのステーションからコーディネータ側だけ追い出されたのか。地球軍側は中立宙域で容赦なく攻撃したのだ?
 戦争は勝ちつづければいつか終わる。だけど、終りを決めるのは前線で戦っている兵士ではないのだ。誰かが終わらせようと対話を始めなければ終わるものではない。
 そして、彼は戦争をする両陣営の片方のトップ。
「俺達の乗ってきたジープを使ってくださいっ」
「えっ、シンっ!?」
 SPに叫ぶシンにビックリしたルナマリアが一瞬動きを止める。
「いつ来るかわからない助けを待つより、いいだろっ」
 ルナを庇うように飛んでくる銃弾をライトセーバーで振り払う。判断に迷う彼らに追い討ちをかけるように敵の襲撃部隊がまた現れた。応援を呼んだのはどちらも同じ。
「せめて、ここはアタシ達に任せて下さいっ!」
「しかし君達がっ」
 乗り込む直前になおも言い募る議長。
「ここで死んでいい人じゃない!」
 SPに押されるように入ったが途端、急発進するジープ。
 後を追うべく踊り出して来る特殊部隊の前面に出て、ありえない動きを披露するシンとルナマリアは確かにコーディネーターで、怯んだ隙に彼らの元に手榴弾が投げ込まれた。
「ナイス! ヨウランッ」
 続いて、また彼らの行く手を塞ぐようにグッドタイミングで炸裂する。今度はなんとステラが投げたようだ。ジープから降りて、ログハウスの影に隠れていたヨウラン達の応援もあって、シン達は射程から脱出するまでなんとか襲撃部隊を抑え切った。へたへたと座り込むルナマリアがライトセーバーをしまう。
「大丈夫かな?」
「大丈夫じゃなきゃ困るわよ~」
 一息ついて、ミネルバに連絡入れなきゃなと思ったその時だった。
 ジープが消えた丘の向こうで銃声が上がる。
「ヨウラン達はログハウスの中へ!」
 言う間もなく、シン達の前に3度目の襲撃部隊が現れた。


 まず最初に自覚したのは恐怖だった。
 右肩から痺れて、指の先の感覚が殆どない。震えないようにライトセーバーを持つのが精一杯。しかし、うまく誤魔化せたかどうか。
 相手はたった一人だというのに。
 地球軍の軍服を着た男。灰色の髪に顔の上半分を追おうバイザーはその素顔を隠してしまっているけれど、そんな姿をした人間がそうそういる筈もない。
 アスランそっくりの声をした、シンの右腕を切り落とした男。
 頭ではちゃんと分かっているのに、ここで立ち止まれば死ぬだけだと知っているのに、竦んで動けない。
「シンッ!バカッ」
 ルナマリアにタックルされ、辛うじて初速に乗った一撃を交わすことができた。地面に二人して倒れ込んで転がる。踏みしめる音が耳に入って起き上がろうにも気ばかりが急いてうまく行かない。
 ブォン。
 ライトセイバー特有の電磁音。
 シンが振り仰ぐ中で走る少女がいた―――ステラ。
「ダメ―――」
 後から腰に抱きついて動きを止めたはいいが、とんでもない光景にシンもルナも動けない。
「離せ」
「やだっ。アスランだめ。シン悪くないのに、どうしていじめるの?」
「ステラっ!?」
 君って子はどうしてそんなにむちゃくちゃなんだ。
 虐められていると思われたのならそれは心外だが、こんな危険な状況に飛び出すなんてどうかしている。でも、下手に動けば何が起こるか分からない。
「離してもらえるか? お嬢さん」
「アスラン?」
 抱きついた相手を見上げるステラが不思議そうに呟く。しかし、相手は至極無表情に、ステラを外しにかかる。
「どういうことよ、アスランって・・・」
 皆が動けない中、ルナマリアが呟く。刺すような視線が痛い。
 今すぐ危害が加えられるわけではなさそうでも、事態をじっと見守るだけなんてことが、シンにできるわけだない。
 あんなに二人は仲がよかったのに。
 ステラをあんなに大事にしていたのに!
 ステラはアンタのことが好きだったのに・・・。
「それはステラだぞっ。アンタ、アスランのくせにっ!」
「その声。新型のインターセプターに乗っているのは君か」
 人質をとられているようなものだから、ライトセーバーを振りかざして突撃する事はできない。だから、シンは叫ぶしかできなかった。
「そんな髪真っ白くして、顔隠して何やってんだよっ!」
 身体が勝手に動いて素手のまま走り出す。
 折りしもステラが振り払われたのは同時。
「アスラァァァン!!」
「しつこいっ」
 背後を取られて、のぞもとに突きつけられるライトセーバー。右腕を持ち上げられて、耳元で囁かれる。
「血の通わない右手か。どうせなら、武器でも仕込んでおくんだったな」
「アンタ、何者なんだよ・・・」
 悲しくて、悔しくて。傍から見れば泣きそうだったに違いない。それくらいシンの声が震えていた。
「A・Z」
 背中を駆け上がる感覚が過去の記憶を呼び起こす。
 急いで逃れなければと脊椎で感じても、肝心な時にシンの足は動かない。


 ふっと掻き消える鬼気と同時に打ち込まれる銃弾。金縛りから解けたようにシンは跳びず去り、下手したらシンも撃たれていたのではと怪しくなるような絶妙な射撃を行ったのは、シンもルナマリアも良く知った金髪の彼。
 そうだ。議長がここにいたのなら、そのそばに仕えるレイがいてもおかしくはないのだ。
「レイっ!」
 ルナの弾む声にステラを確保したシン達が一転優位になる。レイだけではなく、おそらく議長が呼んだのであろうコーディネーターの仲間達が取り囲んだ。
 シンを庇うようにマシンガンを構えるレイ。
「これは、悪ふざけが過ぎたか」
「貴様が噂のインフィニティを駆るものだな」
 レイが冷たすぎる声で問う。
 インフィニティ?
「地球軍の赤いインターセプター、おまえ達も戦ったろ?」
 ああ、確かにそうだ。大勢あの機体にやられた。目の前のアイツは敵で、大勢俺達の仲間を殺していて、今、俺達は、アイツを追い詰めていて。
 シンが止める間もなく、いくつもの銃口が火を噴いた。


「嘘だろっ・・・」
 蜂の巣の筈が、全て避けられてしまっていた。
 正直、ありえない。
 だが、シンにはその動きが見えていた。銃弾を避け、ライトセーバーで払い、自分はその場を殆ど動かずにまるで弾が吸い寄せられるような光景。赤い光がまるでリボンのように空中に軌跡を描いていく。
 当り前だと、納得している自分がいる。
 やがてマガジンが空になり、装填する間もなく風に撒かれて倒れていく。
「エイ・ジー! 遅いぜっ!? 逃げられちまったじゃねーかっ」
「スティング」
 目の前の相手とステラが呟くのは同時。
 残った仲間が今度はスティングに狙いを定めるが、丘を一瞬で駆け上がる黒い風はあっという間に放たれた銃弾を全弾叩き落していた。
 ついさっき、シンとルナマリアがした事と同じ。
 スティングを守ったのだ。
 丘の上と下で、にらみ合う。
 シンにバイザーの下の視線を捕らえる事はできなかったけれど、確かに感じる体が覚えている感覚。
 のどかな田舎のこの景色の中、湖から吹き上げる風がシンと彼の間を吹き抜けていった。
「深追いするな。どうせ奴とは戦場で会うことになる。いやでもな」
 レイに話し掛けられてシンは我に返った。
 人影が消えた丘を見上げて、ステラがぽつんと呟いた。
「スティング・・・アウルは?」
 戦争は理不尽で、そして、シンも今やその一部なのだと、立ち尽くすステラを抱きしめた。


うーむ。ごめん、こんなことやっていていいのだろうかと思う。もっと激戦で、殺伐して、死者の行列がサザンクロスまで続いているような終盤のはずなのに~。インフィニティだって、∞。車じゃないよ。インフィニットジャスティスよりも、ジャスティス・インフィニティのほうが良かった気がする。出番ないだろうけどね。どうしてレイが機体の名前を知っているかって?そりゃ、尾翼にリボンのマークが、って、それ違っ。

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