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Men of Destiny 41

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夢を欲しがるもの



 どう説明したらいいんだよ。
 シンは食堂の向かいに陣取ったルナマリアの追求に、正直、窮していた。
「アンタのその手、やったのアイツなの?」
 ヨウランとヴィーノまでじっとり、様子を伺っている。宇宙に上がってすぐ、落とされた右手首から先のことをよく覚えていない。地球軍の奴にやられた。一瞬の事で何がなんだかわからなかったと答えていた。
 確かにその通りなのだ。一瞬の出来事だった。
 しかし、相手のことを覚えていないわけではないのだ。
「レイは、彼の事『インフィニティ』って呼んでいたわね」
 ルナマリアもなかなかしぶとかった。シンが忘れかけていた名をレイに投げかける。
「地球軍の新型だ。撃墜した敵機の復号情報を解析したデータから、コード名がインフィニティだと判明した。今、俺達が躍起になって落とそうとしている」
 シンの焦燥を他所に淡々と説明するレイ。
 虚空を駆ける深紅の機体の銘は、無限。
「それに乗っているのが、あの人なの? どうなのよ、シン!?」
「髪だって違うし、何度呼んだって否定されるし、声がそっくりでも、別人なんだっ!」
 問われて答えた名はエイ・ジー。
 じゃなきゃ、俺達に剣をむけるはずがない。あの人があんな事する筈がない。
 次々と爆散する機体。人形のように宙を舞う兵士達。
 いとも容易く、その命を奪う色違いのヒトガタ。
「そんなわけないわ」
 ルナ?
 強く言う彼女はステラを見て、続けた。
「エクステンデットと一緒だったでしょ。だから、もしかしたら・・・」
 何が言いたいんだ?
 エクステンデットが何だ?
「記憶を操作されているのかも知れない」
 シンは息を呑んだ。
 ステラを見れば、彼女がキョトンと見返してくる。
 記憶がないから、ステラが分からない?
 記憶がないから、あることないこと吹き込まれて操られているだけ?
 俺のことだって分からずに、こんな、こんな。シンは掴まれた右手の指先に残る熱を思い出す。バイザーの下の薄い唇がにぃと持ち上がる。
 これで7回死んだな。
 空間を支配する力。 
 無表情にライトセーバーを振るう姿。何のためらいもなく撃ち落とす赤い機体。
 記憶がないだけで、ああも変わるだろうか?
 あんなに確かな存在感があるのに、あの強さが偽りの姿?
 ルナマリアは一人納得してしまったようだが、シンにはそうとはすぐに思えなかった。彼らは皆、何かに追い立てられるように向かって来た。ステラにしてもそう、まるで余裕がなかった。つまり、今まで出会ったことのあるエクステンデット達とはあまりに雰囲気が違い過ぎたのだ。


 ミネルバにある数少ない仕官室の一室。その中で艦長のタリアは数名に混じって立っていた。簡素な応接セットに腰を降ろすデュランダル議長の前で。
「本艦の修理は明後日には完了する予定であります。議長のおかげです」
「いや、報告ありがとう」
 修理のため、今だコロニーに停泊するミネルバには、今、自治評議会議長が乗艦していた。プラントへと向かう艦の到着を待つまでの間、万が一を備えてのことだ。どう交渉したのかは分からないが、現在急ピッチで船体の修理が行われている。戦況の報告を行うのは艦長のタリアか、議長に付き従う議会の秘書達。
 タリアの報告の後に議会や国防本部からの報告が始まる。
 地球からなおも上がってくる地球軍の部隊と月軌道上の地球軍宇宙要塞との2方面作戦が展開中であること。
「襲撃は十中八苦、地球軍の工作部隊によるものと推測されます」
 そして、襲撃により、議長の会談が成果を出せなかった事。プラントを中心とする独立派陣営はホームグランドであるはずの宇宙でさえ、安全を保障できないのだ。
「2度も続けて襲撃とは、痛いな」
「これでいよいよ月が厄介になります。もはや一刻の猶予もなりません。議長!」
 軍服を来た男が声を荒らげる。
「月軌道艦隊へと合流予定の6艦が落ちました」
 タリアを初めとした皆がはっと顔を向ける。
「地球軍の例の新型です」
 このところの劣勢の原因の一つに絶対のコーディネーターの優位、それが崩れようとしている現実があった。乗り手か機体性能か、数で攻める地球軍の中にコーディネーターを凌駕するものが現れていた。
 背後を固める必要を重々承知しつつ、後手に回ってこの有様。
 顔の前で指を組んで、議長その人が一瞬の瞑想に入り、じいっと部屋の虚空を見つめる。
「いいだろう。ヘブンズベース攻略作戦の件、署名しよう。しかし、やるからには必ず落としたまえ」


 レイを取り囲みながらも、お互いに今までどうしてきたのか、お互い幾度とない危機を乗り越えて再会しているのである。レイとはプラント崩壊で別れたまま、ルナマリア達に至っては、あの辺境の都市でレジスタンス狩りに遭遇して以来の再会である。
「あれから、本当に色々あったのね」
 ステラを紹介し、レイ達が宇宙でどんなだったかを聞く。
 なんとか飛び立ったコロニーの一部・プラントをすぐに補強工事。それは独立宣言とともに進められ、なおかつ、コロニーの支援を取り付け、自治評議会参加への根回し、主権を守るための軍の整備と、これらが全て同時に進行していたのだ。
 地上で戦闘続きだったミネルバとはまた違った意味で、波乱万丈盛りだくさんであった。
「シン。そう言えば、お前、フリーダムをやったと聞いたが」
 振り返ってみれば、平凡だったシン達の生活を覆した最初の一撃。それを下したのが彼らだった。今は全く活動が伝えられない平和維持機構のアークエンジェルと先の大戦の英雄フリーダム。
「えっ、ああ」
「そうなのよ!」
 歯切れの悪いシンに変わって、ルナやヨウランが代わりに自分の事のように話す。ミネルバの武勇伝に話題が尽きない中、シン達がいる食堂のドアがスライドした。真っ先に反応したのはレイ。
「ああ、そのまま」
 軽く手を上げて畏まろうとする食堂の皆を制す。しかし、突然の来訪に暢気に話しを続けることもできず沈黙が落ちる。
「一度、きちんと礼を言いたくてね」
 心なしシンに向いて言っているような立ち位置。
「君達のおかげで助かったよ。礼を言う」
 今までに何度も会ったことがあるはずなのに、シンは一度も感じたことがない大きさを感じた。穏やかな表情とトップに立つもののオーラだろうか。同時に、かつてのような受け答えを許さぬ雰囲気をかすかに感じる。
「あっ、いえっ! 俺たっ、我々が近くにいてホント良かったです」
 借りてきた猫のように改まってしまうシン。
 軽く微笑まれたからこれまた心中は複雑。笑われたのか、子供だと思われたのか、なんと答えればよかったのだろうと、シンは胸中で悶々とする。
「ご無事で何よりです。デュランダル議長」
 少し間を置いて、ルナマリアが続けた。もはや一レジスタンスのリーダーではない、コーディネーターの代名詞のような彼への会話が他所他所しい。
「そうそう硬くならないでくれ、ルナマリア。私の方こそ、君達に怪我がなくてホッとしているよ。これからの時代を担う君達だ」
 少し離れた所に控えるSP達は評議会の秘書達が神妙に軽く頷いている。
「そのために、我々は戦っているだからね」
 いつのまにかデュランダル議長を囲むようにして彼の言葉を聞いている。
「宇宙に出て、人類は少しづつ進化しているのだ。広大な宇宙で生きていくために身体能力を向上させたことなど始まりに過ぎない。今に、従来とは違うやり方で、理解し、認め合うことができるようになる」
 シンは正面に立つ議長が、一言一言丁寧に話すのを聞く。言っていることは難しくてあまり理解できなかったが。
「私は君達ならそれが成し遂げられると信じているよ。人類の次なるステップ、そう・・・」
 議長の視線を感じて顔を上げれば、目が合った。
「それこそが、我らコーディネーターの真なる存在」
 真・・・なる・・・存在。
 一動に息を呑み、肩を竦めて力を抜く議長に釣られて、皆が息をついた。
「何はともあれ、我らにとって当面の目標は地球軍の月基地やその防衛要塞による脅威の排除だ。後を獲られたままでは安心して眠れはしまい」
 突然の演説会にまだ少年少女の彼らはいくらか戸惑うものの、自分達のリーダーを頼もしく感じたのだろう。
 ここまで来たんだ。
 各地を転々としてなんとか生き抜いて来たシンが夢見た世界がやって来る。
 前の戦争でなくしてしまったものがまた、シンの前にぼんやりと浮かび上がる。
 集まった人々から出る小さな檄は、地上にいた時のように謂われ無き理不尽に立ち向かう悲壮な言葉ではなく、未来を切り開く決意が込められていた。


 一方がこれから伸びようとする種ならば、現在、ヒエラルキーのトップいる陣営は戦々恐々としてこれを受け止めていた。
『ジブリール。戦況はどうなっているか』
「コーディネーターなど恐るるに足りませんよ。たった今、こちらの戦果をご覧に入れたばかりでしょう」
 モニタの中で幾度となく繰り返される、轟沈するコーディネータ陣営の戦艦。レーザービームを打ち合うのは黒を基調とした今までのメイン戦力である宇宙空母より一回り小型の宇宙戦艦。砲撃の間を縫って次々と敵艦を撃沈していく赤い機体。そのフォルムは地球軍というよりはむしろコーディネーター側のインターセプターに近い形をしていた。
『やつらに勝つためとは言え、こうでもせんと勝てんというのは苦いものがあるな』
『ラボの件は程ほどにな。無理に能力を高めんでも、数だけは掃いて捨てる程あるわ』
「無論、分かっております。仕掛けは上々、勝利の暁には我らが力の粋をお見せできることでしょう」
 軍の司令官にしては軍服ではない男、ジブリールが猫を撫でながら通信の切れたモニタを見つめる。残ったモニタではライブで戦況が伝えられている。
「とんだ拾いものだ。ファントム・ペインもようやく役に立つか」
 ニャーと黒い毛足の猫が一鳴きして膝から飛び降りた。どこからか入った通信にモニタの一つが切り替わる。
「月軌道に集結中? ヘブンズベースの前に塵と消えるがいい。艦隊司令を呼び出せ!」
 唇の端を上げてほくそ笑んだ。


 コロニー標準時一二〇〇にミネルバ、地球軍ヘブンズベース要塞に向けて出航。
 通路のモニタがコンディション・レッドを告げる。
 ブリーフィングルームから格納庫に、向かう途中、窓から見える無数の光が矢のように漆黒の宇宙を切り裂いて消える。
 点滅する光は全て、艦砲射撃による爆撃かレーザービームか。
 その向こうに、一際きらびやかな光を纏った巨大物体がある。地球軍の月基地アルザッヘルを守る宇宙要塞、あれがヘブンズベースだ。あれを落とさない限り、コーディネーターに未来はない。コロニーを背後から狙う一大拠点。
 ヘブンズベース哨戒宙域にミネルバが突入する。
 両軍の散布するコロイド粒子で長距離通信はもう通じない。
『シン。お先に』
 シンはルナの発進コールを聞きながらコックピッドの中で最終チェックを行った。メイリンが淡々と発進シーケンスを続けている。
 ここで勝って、俺達は独立を勝ち取るんだ。
『カタパルト・オンライン。出力正常。進路クリア』
 サイドスティックにかけた手に力を込める。
『デスティニー。発進どうぞ』
「シン・アスカ。行きますっ!」


なんと言うか、総・集・編。です。中盤以降は毎回戦闘シーンを入れようと思っていたのに、ここに来て、ちょっと無理でした。

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