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与太話2『学園鉄道』



 朝。魔法術士科校舎に向かう、路面電車の中で。
 相生音子はいちごジャムを塗りたくったトーストをくわえていた。
 実は、ちょっと遅刻寸前だったのである。
 少し夜更かししすぎた。
 いや、それは奈菜が悪いのだ。弥生組のくせに、卯月組の私に
『今度の試験は負けないから!』
 などと言うから。
 学科は、負けるはずがない。
 だが、魔法実技は。
 玄武の方が面白がって、奈菜に肩入れし始めたのだ。
 教え上手の玄武の方である。ひょっとすると、奈菜にもうまく魔法を教え込んでしまうかも知れない。
 そう思うと、いても立ってもいられず……夜更かしして特訓みたいな事をしてしまった。
 ああもう、眠い。
 こころなしか、トレードマークのエビフライのような髪も、しなびた天ぷらのようである。
「あれっ!? 姉弟子様? おっはよーございまふ!」
「──うん」
 そこに、現れたのは。
 音子の姉弟子──現『白虎の方』出雲操。
 相変わらずの、白いトレーナー姿である。
「どーふぃたんれふ? いふもはでんしゃ、ひやがふのに?」
 そう。
『男性アイドル顔負け』の容姿を誇る操は、学園内でも人気が高く、校舎に向かう学園鉄道に乗ろうものなら、サインやら握手やらそれ以上やらを求める生徒たちで大騒ぎになってしまう。
 寡黙な操はそれがイヤで、いつもは走って学園内を移動するのだ。電車が必要な距離でも走って移動すれば、並の生徒ではついて来れない。
 いまだって、見渡してみれば、車内は黄色い歓声で満たされつつある。ケータイのカメラで白虎姉妹を写真に撮ろうとしているものまでいる。
 ……
 ……写真?
「──パン。早く、食べたら」
「ふ、ふわいっ!」
 寝ぼけ眼で食パンくわえているところなど写真に収められたら、一生の不覚である。
 だが、あわてたところで、食パンを一気に口に収めることが出来るはずもなく。
 悪戦苦闘する音子を見かねて、操は
「──半分、頂戴」
「ふぇ!?」
 ちょっと屈んで、音子の口元に顔を寄せて。
 ぱくりとトーストをくわえ、引きちぎった。
 車内の黄色い歓声が、一際大きくなる。
 もぐもぐもぐ。
 なにもなかったかのように、咀嚼する操。
 音子は呆然と、その様子を眺めていた。
 が。
「ちょ、ちょっとっ!? 姉弟子様っ!?」
 赤面せずにはいられなかった。


 数日後。
『決定的瞬間』の写真がメールで出回ってしまい、音子は学園鉄道での通学を1週間、止めた。