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*銀色の夜天(前編) ◆7pf62HiyTE
―――『彼』は無機質なままに市街地を進む―――
『彼』はある科学者がある目的の為に作り上げたが、その科学者にとっては科学者の作品達が輝く為に使うガラクタでしか無かった。だが、『彼』の同胞達にとってはそんな事等関係無しに命じられるがままに動いていた。
仮に自分達が無慈悲なまでに破壊され尽くしたとしても……只、『主』から命じられるがままに……
その最中、気が付けば『彼』とその同胞は自らの武器を封じられた上で『彼』の住処に置かれていた。その場所で自分達を使ってくれる『主』を待っていたのだ。そして、ある少女が『彼』とその同胞を見つけ出した。
少女は『彼』等の武器が封じられた事を知り落胆していたものの、元々残っている機能と少女が持つ力を駆使し『彼』とその同胞にある命令を出した。
少女が使う事を許された『彼』とその同胞は計3体。1体は少女と共にあるものを探す為に少女と同行し、残る『彼』と他1体には少女から『命令』を与えられると共にある『仕掛け』が施された。
『彼』に与えられた命令は3つ。
市街地の巡回
生体反応への追突
あるカテゴリーに分類される者達の眼前で停止
これらの命令を与えられた『彼』と同胞はその命令を実行する為に『彼』の住処から放たれていった。
『彼』と同胞は『主』に命じられるがままに進む。だが、他の者から見れば『彼』等は道具でしかない。『彼』等を待つのはやはり無情なる現実だろう。
まず、前述の『命令』と『仕掛け』が施されず少女と同行していた『彼』の同胞は病院から発せられた暴力的な光によって破壊された。
ちなみにこの場には少女はいなかったもののその場には少女の同行者が3人いたがその内の1人が防御魔法を展開した事により3人は無事ではあったが前述の通り『彼』の同胞は守られる事なく破壊された。
残る『彼』とその同胞は各々が命令を果たす為に市街地を飛び回った。
そして命令の内、『あるカテゴリーに分類される者達への眼前での停止』に関しては『彼』とその同胞のどちらが果たしたかは不明ではあるものの少女の姉妹に対してそれを行う事が出来た。
但し、『彼』にしても同胞にしてもその命令がどういう意味を持っているのかは全く知らない。
そう、例えばその目的が少女が姉妹へメッセージを送る為のものであり、そのメッセージが少女が想定しない人物に伝えられる可能性があったとしても、それは『彼』と同胞の知る所ではない。
そして、奇しくも少女にとって想定外の事態が起こった。それは『彼』の同胞がある人物に接触した事だ。
少女にとってその人物は未知の人物であり当然『あるカテゴリーに分類される者達』だとは考えていなかった。だが、その人物は『あるカテゴリーに分類される者達』として同胞に認識された。
つまり、同胞はその人物に対し追突を行わず眼前で停止したのだ。いや、それだけならばまだ少女も想定出来た範囲だったかも知れない。
だが、問題はその人物は少女とその姉妹を守る為に同胞を連れて行こうとしたのだ。無論、そこには悪意は全く無いわけだがその人物は少女が指示した命令の半分の意味を知らない。
それを知らないまま同胞を手元に抱える事が少女の意に添わない事である事も当然知り得ない。
そして『彼』はひたすらに進む……あるカテゴリーに分類される者達の眼前で停止、そして生体反応への突撃を行う為に……そこには何の感情も意志も存在しない。ただ、命令に従う為に『彼』は進むのだ。
『彼』にとっては命令によって自身がどうなるかなど知るわけもないし、その事には全く興味はない。仮に、生体反応に突撃を行えば『彼』は少女の施した『仕掛け』により爆散しその『生命』を散らすとしても……
―――何を知る事もなく『彼』は市街地を進む。『彼』自身に与えられた命令を只実行する為に―――
★ ★ ★
F-2に位置する翠屋のテーブルに3人の女性、八神はやて、シャマル、クアットロが着いている。目的は落ち着いて情報の交換と今後の方針等を纏める為だ。
尚、翠屋を訪れる前に3人は川に落ちて服を濡らした為、持っていた服及び翠屋で見付けた服に着替えたものの乾燥が大体済んだ為はやてとシャマルは元の機動六課制服に着替えている。
なお、クアットロは着ていた服の方はこれまでの戦いと川で流された事により衣服としての役割を果たさなくなり、更に元々着ていたナンバーズスーツは川で紛失した為、翠屋で見付けた制服をそのまま着続けている。
最初に3人は参加者が異なる時間及び並行世界から連れて来られているという事実を確認した。更に、
「今ここ見て気付いたんやけど、この翠屋も恐らく私らの時代から10年ぐらい前から持ってきたか複製したと思われるな」
翠屋が約10年ぐらい前のものだろうとはやては語った。その理由は高町なのはの部屋が小学生当時のままであった事、クアットロが着ている制服がなのはの姉である高町美由希が学生時に着ていた制服だった事等からだ。
「……でもどうしてわざわざ10年前の場所を?私達の時代の物を持って来るなり複製するなりすれば済む話じゃありませんか?」
もっともな疑問をクアットロは口にするが、それに対しシャマルが答える。
「10年前のはやてちゃんやなのはちゃん達が来た時におかしいって思わせない為じゃないかしら?」
「そうやな、10年前の私らやったら本部や隊舎よりもこっちに向かうからな」
9歳当時の自分達が参加させられている場合(シャマルは確信しているし、他の2名も可能性は高いと見ている)、彼女達は何処へ向かうのか?
当時の彼女達は管理局との関係が深いわけではなく、当然機動六課という物も知らない。となれば近くにあるならともかくそうでないならば地上本部や機動六課隊舎に向かうとは考えにくい。むしろ自分達になじみ深い翠屋に向かう可能性は高い。
そして前述の通り9歳の彼女達がここに来るならば、不審を抱かせない為に彼女達の時代の翠屋を用意するのは当然の流れと言えるだろう。
ちなみに19歳の彼女達が訪れれば不審に思うわけだが、彼女達の場合は翠屋よりも地上本部や機動六課隊舎に向かう可能性が高いので早々に翠屋に向かう可能性は低い。
また、仮に訪れた所でこの年齢の彼女達ならばこの地に翠屋がある事の方が不自然なのでそこまで問題にはなり得ない。
但し、実際は何の因果か19歳のなのはがスタートした場所がこの翠屋である。ならば、なのはは早々にその不自然な事態に気付きそうな物であろう。
更に、翠屋にはザフィーラも一度訪れていた。だが、その理由は同行者のLが砂糖を手に入れるのが目的でザフィーラ本人は待っていただけなので中の様子は調べていない。
他に訪れた参加者については10年前当時の人物、翠屋を初めて訪れた人物といった者達なのでやはり違和感を覚える事はない。
故に翠屋の中をまともに調べた参加者は今ここにいる3人が初めてなのだ。
「理由はどうあれこの事も頭には入れておいた方がええな」
ここでようやく情報交換に入る。まずはやてはクアットロとシャマルにこれまでにあった事を語らせた。予めシャマルに聞いた話では長い事クアットロと同行していたらしいので、2人一緒に語って貰う事にしたのだ。
まず、クアットロはこの地に着いてすぐさま妹達や機動六課の仲間を捜そうとしていたがいきなり神父らしき人物に有無を言わさず襲われた事を話した。
その後、何とか逃げ延びたもののその時に誰か他の参加者と話しているフェイト・T・ハラオウンを見かけた様な気がしたが、先程襲われた事で少々混乱していた為話しかけられなかった事を話した。
一方のシャマルはこの場所に着いてから2時間程市街地を散策するものの誰1人と遭遇出来なかった事を話した。
そして、いきなり現れた男性に襲われたものの何とか逃げ出した所、混乱状態から落ち着いたクアットロと出会った事を話す。なお、襲った男性がどういう人物かは不明だが何故かクアットロ、チンク、ディエチの事を気にしていた事を説明した。
その後2人は地上本部に向かおうとしたもののその時にクアットロはシャマルの支給品である高良みゆきの制服に着替えた事を話した。
そして移動する2人だったがその途中、遊城十代と遭遇し彼と情報交換しながら3人で地上本部に向かい地上本部に到着したタイミングで最初の放送を迎えた事を話した。
放送後、クアットロは地下と最上階を調べる為に別行動を提案し、シャマル達はそれを了承し別行動を取った事を話した。
「そしてシャマル先生は上の方にあった何かではやてさんの所に飛んだという事でいいんですね?」
クアットロと別行動をとった後、シャマルと十代は展望室で魔力を込めれば対象者の望んだ場所にワープ出来る魔法陣を見付けそれを利用した事を語った。
「何かの罠だとは思ったけど、これを使えばはやてちゃん達に会えると考えたら……」
「まあ実際会えたわけやから効果の方はある程度信用してもええかも知れん……使い勝手は悪いけどな」
「十代君とは別れ別れになりましたものね」
その後ははやてと簡単な情報交換を済ませた後、1人待たせているクアットロと合流する為に地上本部に向かったらその途中であられもない姿を晒しているクアットロと合流したのである。
そのクアットロの方では地下を散策していたものの何一つ見付ける事が出来ず、1人シャマル達が戻るのを待っていたが、ある参加者に襲撃され逃げ出した後、シャマル達と合流した事を話した。
「それで、誰なんや? クアットロを襲った奴は?」
はやてはクアットロを襲った人物について問い、クアットロはゆっくりと口を開く。
「信じられない話なんですけど……私を襲ったのは……キャロですわ」
クアットロは自分を襲った人物がキャロ・ル・ルシエである事を話した。彼女は持っていた大きな鎌で一方的に自分を斬り裂こうとしたと……
当然の事ではあるがシャマルはそれを信じられないでいた。幾らシャマルがここにいるクアットロが改心しているから自分達を騙すつもりはないと思っていても、あのキャロが人を殺そうとした話など信じられるものではないからだ。
「シャマル先生の気持ちはわかりますけど……これが真実ですわ」
一方のはやては冷静に、
「なあ、本当に一方的だったん? 例えばクアットロがキャロは使えないと考えてシャマルが戻ってくる前に人知れず殺そうとしたって事は無いん?」
はやてはクアットロが改心したという話を信じていない。キャロが現れたかどうかはともかく、クアットロが襲うという可能性は十分にあり得ると考えていたのだ。
「そんなことありませんわ! 本当に話しかけたら一方的に襲われて……」
クアットロははやての言葉を否定する。実際ははやての指摘通り、キャロを殺すつもりはあった。しかし現実には一方的に攻められるという散々な結果に終わった。
「わかったわかった。誰かはともかく襲われた話は信じるって」
「はやてちゃん……でも本当にキャロが……」
だが、シャマルはクアットロが襲われた事はともかく、キャロが襲ったという事実をどうしても信じられないでいた。
「いや、あり得へん話やない。確か放送では……」
対して、はやてはキャロが殺し合いに乗っている事については否定していない。
ここではやては放送で言っていた優勝者への御褒美の話を持ち出す。最後の1人となったものにはどんな願いも叶えてくれるという話だ、御丁寧に最初に殺されたアリサを蘇生させた上で死者蘇生も可能である事を示した上でだ。
「そういえば、エリオ君を取り戻せたらそれでいいって言っていましたわ」
クアットロはキャロが既に死亡しているエリオを取り戻すつもりでいる事を話した。
「やっぱりそうか……」
それを聞いて納得するはやて、しかし一方でシャマルはまだ納得出来ないでいた。そんなシャマルに対しはやては、
「例えばの話やけど私が死んだとしたらシャマルはどないする? あの放送の様に最後の1人になったらどんな願いでも叶うと言われたらどうや?」
仮にはやてが死んだとしたら? その最悪の仮説を聞いてシャマルの頭は一瞬真っ白になる。そんなケースなど考える事すらしたくはないがあり得ない話ではない。仮にそれが起こったとしたら……
「……最後の1人になって、私を生き返らせたいと思うよな」
「うっ……」
否定できなかった。機動六課の仲間や何の力も持たない人々、そしてザフィーラやヴィータすらとも殺し合ってはやての復活を願ってしまう可能性が高かった。
「私だってそうや、もしもこんなアホな戦いでシャマルやヴィータ達がみんなおらんくなったらみんなを取り戻す為になのはちゃんやフェイトちゃんを殺してでも優勝を狙うかも知れん」
はやてもシャマル達がいなくなれば同じ事をする可能性があると語る。
「はやてちゃん……」
シャマルとしてははやてにその手を血で汚させてまで自分達を生き返らせる事を望みはしない。しかし、はやての考えそのものを否定する事は出来はしない。
「私らだってそうなんやからキャロがエリオを生き返らせる為に殺し合いに乗る事自体は理解出来る……」
そして、放送の言葉に従うがままに殺し合いに乗る事を肯定するが、
「でもな。そんな安っぽい口車でホイホイ人殺しをするなんてほんまもんのアホや、そんなのは只の逃避か思考停止でしかない」
と、安易に殺し合いに乗ったキャロ達を完全否定した。
「私らのすべき事はこんなアホな事をするプレシアを止める事や、違うか?」
はやての言葉に頷く2人だった。
「今度ははやてさんの話を聞かせてもらえます?」
と、クアットロがはやてがこれまでに誰と出会ったかについて聞く。
「ああ……」
はやては自分が最初に地上本部のレジアス・ゲイスの部屋に転送されその後キングという少年と出会い、彼からベルト以外の支給品を渡された事を語る。
「そのキングって子何を考えているんですか?」
「私もその時はあまり深くは考えんかったけど……正直、失敗やった……」
その後、はやては幸運にもヴィータと再会出来たが、そのヴィータに偽物扱いされ戦う羽目になった事を語る。それを聞いて驚愕する他の2人ではあるが、
「全てキングが悪いんや……」
はやては起こった事を語る。キングが外の様子を見に行ったらヴィータが赤い巨大な恐竜に襲われているという話だったので、はやてはすぐさまヴィータを助ける為にそこに向かった。
そして、キングから渡された武器を使い赤い巨大なトカゲを仕留めたのだ。だが、その直後ヴィータが逆上してはやてに襲いかかったと。そしてヴィータははやてを偽物だと言い放ったのだと。その話を聞いた今でもシャマルは信じられないでいた。その一方、
「あの、それって本当は恐竜とヴィータちゃんは仲間同士で、仲間が殺されたから逆上したんじゃないのかしら?」
「ああ、今にしてみればクアットロの言う通りやったと思う。つまりキングに騙されたということや。何しろヴィータにコテンパンにやられた後は思いっきりキングに馬鹿にされたしなぁ……」
はやての顔は明らかに不機嫌な顔をしていた。
「それでヴィータちゃんは?」
「あの後どっかに行った」
その後、追い掛けようとしたがまたしてもキングによって足止めを喰らった。キングは地上本部を調べないかと提案してきたのだ。はやてとしては断りたかったがキングはこっちの言葉を聞かず一方的にはやてと分かれ別行動を取ったのだ。
そしてはやての方は何も見付けられなかったが、キングの方は後にシャマル達も使った魔法陣を見付けたのだ。キングとの合流後それを使ったわけではあるが、
「私としてはヴィータに会いたいと思ったんやけど」
はやてが転移した場所は図書館。しかし、目的の人物であるヴィータには会えなかった。なお、不幸中の幸いかキングと離れる事には成功している。
「正直またキングに一杯食わされたと思ったわ」
その為、はやてはあの魔法陣は参加者を分断する為の罠だと考えたのだ。
「でも、シャマル先生の場合は会えたんですから、はやてさんの場合も多分転移した時点では近くにいたんじゃ……例えば図書館のすぐ外とか」
クアットロの指摘通り、はやては気付かないものの彼女が転移した場所は図書館の二階、その時点では丁度ヴィータは図書館を出た所であった。つまり、すぐにでも図書館を出ればヴィータと再会出来た可能性は高い。
「ああ、私もシャマルの話を聞いてそう思ったわ。でもな、アレはかなり使い勝手が悪いで。参加者を分けるという意味ではやっぱり罠やし、転移場所も割と距離が離れている所になる可能性は高いからあんまり使えるものではない事に変わりはないな」
はやてはシャマルが無事に自分と再会できたことから魔法陣が罠ではない事については納得しているが、使い勝手が悪いと考えている。
「そこで放送を迎えてこれからの事を色々考えていたらシャマルがやって来たと」
そして、クアットロのいる地上本部に戻ろうとしたらクアットロがやって来たというわけである。
「……とりあえず、私らが3人集まるまでの事についてはこれでええな」
その後の事は3人共おおむね把握している。3人の所に半裸の男性神・エネルが現れ有無を言わさず雷撃攻撃を仕掛けてきた。そこに突然銀髪の男性とヴィータが出現して、気が付けば川に落ちていて、その後近くにある翠屋に向かったという事である。
「そういえばどうしてヴィータちゃんとあの男の人がいきなり現れたのかしら?」
「シャマル先生、きっと2人もあの魔法陣を使ったんじゃないんですか? シャマル先生かはやてさんに会いたいと思って……」
「2人して同じ所に転移出来るとは思えんけどな」
真面目な話、何故いきなりヴィータと銀髪の男性が現れたのかはわからない。とりあえず何かしらの方法で転移したのだと解釈する事にした。
続いて、3人は自分達の知り合いについての確認を始める。とはいえ3人ともJS事件後から来ている関係上知り合いについては殆ど共通しているのでそれは容易だ。
既に死亡している参加者とここにいる3人を除いた全ての参加者は44人、
その内元々の知り合いはなのは、フェイト2人、もう1人のはやて、ヴィータ、ザフィーラ、スバル・ナカジマ、キャロ、ギンガ・ナカジマ、ユーノ・スクライア、ヴィヴィオ、チンク、ルーテシア・アルピーノ、ゼスト・グランガイツの計14人。
それ以外で3人がこの地で出会った参加者で名前を把握しているのは十代、キング、エネルの3人。
十代経由の情報で容姿と名前が判明しているのが早乙女レイ、天上院明日香、万丈目準、そして柊つかさの計4人。
残る23人について現状は顔と名前が一致していない。
クアットロを襲った神父、シャマルを襲った男性、そしてエネルの襲撃の際にヴィータと共に現れた銀髪の男性もここに該当する。
さて、今現在生き残っている参加者の内半分弱を把握している3人であり、さらに3人から見てその殆どは彼女達にとって味方となってくれるはずではあるが、
「……恐らく、この内の何人かは殺し合いに乗っているやろな」
はやては仲間であるはずの彼等が殺し合いに乗った可能性があるという結論を出した。クアットロはそれを聞いて頷く一方、シャマルは信じられないという表情をしていた。しかし、
「忘れたか? 放送でのあの言葉を……死んだ人数から考えて、なのはちゃんやフェイトちゃんがその甘い言葉に釣られて殺し合いに乗る可能性は否定出来ん。キャロが殺し合いに乗ったという話が真実やとしたら尚の事や」
優勝者の御褒美を手に入れる為に殺し合いに乗る可能性をはやては語る。クアットロの話の真偽がどうあれ、可能性は否定出来ない。それでも、
「確かにフェイトちゃんもなのはちゃんを生き返らせる為に殺し合いに乗るかも知れないのはわかるけど……その為にはやてちゃんやヴィータちゃん、それにキャロ達まで殺すなんて事は考えられないと思うけど」
シャマルは自分達ならともかく、フェイト達がたった1人の大切な人物を生き返らせる為に他の友人や仲間を皆殺しにする事は流石にあり得ないと語る。と、クアットロが、
「確か放送ではどんな願いでも叶えるって言っていたんでしたわね?」
「何が言いたい?」
「生き返らせられる人数は1人だけとは言っていませんでしたわよね?」
「まさか……」
クアットロの言葉にシャマルもその真意を気付く。
「この殺し合いで死んだ人全員を生き返らせるという話か?」
「ええ……これならフェイトさんもキャロも平気で殺し合いに乗ると思いますわ」
御褒美の願いで死んだ人全てを生き返らせる。確かにそれなら大切な人全てを取り戻す事は可能だ。
「幾ら何でも馬鹿げているわ」
だが、シャマルはそれはあり得ないと否定する。当然だ、わざわざ60人を殺し合わせているのに終わったら見せしめを含めて60人全てを生き返らせてしまえば殺し合いの意味は全く無くなる。少し考えればわかる事だ。
「そんな事は少し考えればわかることや。でもな、深くも考えず殺し合いに乗る様なアホや、そんな簡単な事にも気付かんと思うわ」
しかし、はやては御褒美を使って全員を生き返らせようとする様な者はそんな簡単な事にすら気付かない大馬鹿者だと斬り捨てる。
「まあ、流石に全員は無理だと気付いても1人ぐらいは生き返らせられると考えて殺し合いに乗る奴はいるだろうけどな。それでも願いを叶えるって話が本当かもわからないのにそんな言葉に乗るのは只のアホやけどな」
3人とも御褒美という話が真実かどうかは不明でアリサの復活にしても何かしらのトリックを使ったと考えている。故に、はやての言葉については2人とも同意だ。
「それとは別の話やけど、御褒美に乗らなかったとしても私らが仲間と思っていても敵対するのはいると思う。私らが異なる時間、異なる世界から連れて来られているとしたら十分にあり得る話や」
はやては異なる時間及び世界から連れて来られているならば、仮に仲間であっても敵対している可能性がある事を語った。
例えば、チンクやルーテシアがJS事件の最中より連れて来られているならばどうだろうか? 彼女達が管理局に下るもしくは保護されたのはJS事件後の話だ。その時期より前、JS事件の最中ならばほぼ確実に管理局の面々とは敵対する。
また、ギンガ・ナカジマもJS事件の最中に捕まり六課の敵として立ち塞がって来た事があった。その時期から連れて来られたならば彼女もまたやはり六課と敵対する筈だ。
そして、JS事件の際に捕まったのがギンガではなくスバル・ナカジマだったという可能性も0とは言えない。仮にその世界からスバルが連れて来られているなら彼女も敵となっている可能性が高い。
「はやてちゃんはスバルやギンガ達も敵になっているかも知れないと言うの?」
「あり得ない話やない。何しろ騎士ゼストや改心したクアットロがおるんやからな」
そう、JS事件にてゼストは死亡している。にも関わらずこの場にいるという事はゼストはJS事件の最中から連れて来られたという証明になり得る。当然それは他の参加者にも適応される。
そして、はやてとシャマルの知るクアットロは改心していないが、この場にいるクアットロは改心しているという話だ。やはり他の参加者にも同じ事が言えるだろう。
「逆にギンガが捕まってない世界もあるかも知れんが……そんな都合の良い展開はないやろ」
「そうですわね」
はやては更に話を進める。
「それに、この話はJS事件についてだけ言える事やない。仮にヴィータ達が10年前から連れて来られたとしたらどうや?」
10年前……闇の書事件が解決する前にヴィータ達が連れて来られているならば彼女達はどうするのか?
その当時の彼女達ならばはやてを守る為、優勝させる為に他の参加者を皆殺しにする可能性が高い。当時は管理局とは敵対していたので当然管理局に属しているなのは達とも敵対するのは言うまでもない。
「さっきのヴィータの話に戻すけど……私を偽物だと思ったのはキングの仕込みの他にヴィータが10年前から連れて来られた事も原因だと思う」
はやては再びヴィータと敵対した時の事を話す。確かに決定的なきっかけはキングの行動だったが、ヴィータがはやてを偽物だと思ったのはヴィータの知るはやてが9歳の彼女だからかも知れないと。
確かにその当時のはやては9歳と幼く、同時に車椅子だった事もあり、あの場にいた20歳前後で普通に立って歩いているはやてなど限りなく似ている偽物としか思えなくて当然だ。
加えて、平気で仲間を惨殺する(はやてにその意志は無いがヴィータにはそう見えた)はやてなど、当時のはやてしか知らなければまずはやての皮を被った偽物だとしか考えられない。
「まあ、こっちの方は落ち着いて話し合いが出来れば何とかなるとは思うけどな」
何はともあれ、3人の中でこれから他の参加者に接触する際は、例え仲間であっても一定の警戒心を持った方が良いという共通認識を持つに至った。
続いて3人は手持ちの道具を確認する。
クアットロが所持しているのは鋼糸が内蔵されている手袋と先程手に入れた小麦粉だけ。
シャマルが持っているのはクアットロもシャマルも使えないと判断した赤い鞘だけ……ちなみに先程まで持っていた包丁は先程紛失したと語った。
はやての方はカリムの服とスモーカー大佐の服、キングから渡されたツインブレイズ、そして先程拾ったデイパックの中にあったデルタギアである。
ここで重要なのはスモーカーの服に入っていた十手とデルタギアである。まずは十手について語る。
「こいつには海楼石と呼ばれるのが付いているらしい。そして、エネルっちゅう奴は海楼石を恐れているという話や……海楼石が何かはわからんけど海に関係があるかも知れん」
実際、海楼石は海を固形化した鉱物であり、エネルにとっては海等水の溜まっている場所や海楼石は弱点でありその強大な力を封じられてしまう。とはいえ、海楼石という名前だけではそれに気付く事は出来ない。せいぜい、関係がありそうだと思う程度だろう。
「……でも、仮に弱点がわかった所でどうにか出来るとは限りませんけど」
「その通りやな、先手を打たれればそれで終わりや」
結局、弱点がわかってもすぐさま対処法に導く事は無かった。海楼石についての話は切り上げ、はやてはデルタギアについて話し始める。
まず、はやてはこれが仮面ライダーに返信する為のシステムだと語った。
実際このベルトは仮面ライダーデルタに変身する為のベルトである。しかし、デルタギアの説明書には仮面ライダーという用語は何処にも見当たらない。では、何故はやてはこれが仮面ライダーに変身する為のベルトだと解釈したのか?
思い出して欲しい、はやてはキングから仮面ライダーがベルトを使って変身して悪い奴らと戦う戦士だという事を聞いていた。そしてデルタギアの形状もベルト……仮面ライダーのベルトを連想する事は容易である。
「説明書を見た所こいつを使えば変身出来るとある。とりあえずこれについては私が持っておく」
「でもはやてさん、キングって人もそれを狙ってくるんじゃありませんか?」
クアットロがキングがベルトを集める為にデルタギアを狙ってくる可能性を指摘する。
「多分な。でもそれならそれで好都合や、向こうからやって来た所を迎え撃てばええ」
そう、はやてがデルタギアを手元に置くのには武器としての有用性だけではなくキングに対しての牽制でもあったのだ。キングがデルタギアを狙った所を叩く事を考えていた。
「でもな、こいつにとって重要なのはそれだけや無い、こいつの製造元はスマートブレイン……地図にそんな場所があったやろ」
スマートブレインの場所を地図で確認する。
「これだけのベルトを作る事の出来る技術力……そこに行けば他にも何か使える武器が手に入ると思わん?」
と、首を触りながら話す。
「確かにキングの弱点もわかるかも知れないわね」
と、やはり首に手を当てながら話す。
「もしかしたら他にもベルトが手にはいるかも知れませんわね」
これまた首をトントンと叩きながら話す。
「大体落ち着いたらスマートブレインに行って『武器かベルトを探す』ってことでええな」
と、3人の次の行動が纏まった。勿論、3人の脳裏には別の思惑があった。それは首輪の解除である。ベルトを作るほどの技術力を持つスマートブレインだ、首輪解除のヒントになる可能性は高い。
勿論、面と向かってそれを話せば首輪を爆破される可能性がある為、敢えて口にはしていない。
続いて3人は次にあの時現れたヴィータと銀髪の男について話す。ヴィータは現れた瞬間、こちらに向かって『てめえ、覚悟しろ!!!』と問答無用で斬りかかって来たのだ。
「多分、ヴィータが狙ったのは私や」
ヴィータが狙ったのは自分だと語るはやて。シャマルはクアットロの方ではと否定するが、
「さっきも言ったがヴィータの奴私の事を偽物だって思いっきり恨んどるからな。私を見かけたら斬りかかっても不思議はない。それに仮説通り10年前から連れて来られているならクアットロを狙う事はあり得ん」
はやては先程の一件と10年前から連れて来られているという仮説からクアットロではなく自分を狙うと語った。勿論、10年前から連れて来られているという話は仮説でしかないが、それでもクアットロよりも自分を狙うと語る。
「それにシャマルが仮にヴィータと同じ立場やったら私の方見ないで最初にクアットロの方を見るか?」
「いや、多分はやてちゃんの方を……」
「そう、真っ先に私の方を見るよな。その上ヴィータは私を恨んどる、だとしたら真っ先に私を見るのが自然だと思うけどな」
何にせよ、ヴィータがはやてを恨んでいるという状況は不味い。一刻も早くヴィータと合流して誤解を解いて置きたいと思う2人に対し、
(……このまま仲違いを続けても一向に構いま……いや、現状を考えると手駒になりそうな人を逃したくはありませんわね……うん、ここは何とか和解してもらった方が良さそうですわね)
クアットロとしても、加えられるのであればヴィータを手駒に加えておきたいと考えていた。幾ら仲間同士が殺し合うのは望む所とは言え、それはあくまでも自分に被害が及ばない範囲での話だ、この状況ならば身を守る為手駒は多い方が良いに決まっている。
続いて銀髪の男について話すものの残念ながらよくわからない。
「一瞬だったからわからなかったんですけど、あの人はやてさん達を守っていたんじゃ……」
「しかし、何故見ず知らずの私達を守ってくれるん?」
「もしかして、何処かの世界でははやてちゃん達の味方になってくれていたとか?」
「待てよ……そうなると……」
はやてはある事……参加者は自分達もしくは何処かの並行世界で何かしら自分達と関係のある人達ばかりだという可能性に気付き、
「何処かの世界ではキングが私らの知り合いだったり、あのエネルって奴とも知り合いって事か? 嫌な話やな……(まあ、ゴジラがおる世界から連れて来られた私が言えた事やないけどな)」
何はともあれ、銀髪の男を味方に引き入れるべきかを話し合う。少なくとも味方ならば引き入れたい所だ。
だが、銀髪の男性が味方という事が確定したわけではない。確かにあの場では自分達を守ってくれたかもしれないが、それはあくまで一瞬の出来事でしかなく、それだけで断定するのは危険だ。
さらに仮に自分達の推測が全くの的外れだった場合は一転して自分達が危機に瀕してしまう。考えてみて欲しい、エネルの攻撃を抑えられる力があるならば、自分達など一瞬で皆殺しに出来るはずだ。そんな危険な賭けをするつもりなどはやてにはない。
「そいつが私らの味方って保証は何処にもないからな。一応頭には入れておくけどどうするかは状況を見てからや、まあそうそう都合良く出会えるわけもないだろうけどな」
ひとまず銀髪の男性に対する判断は保留にする事にした。その最中、
「あの、はやてちゃん……十代君は……」
シャマルは十代はどうするのかが気になった。一応、シャマル達は地上本部に戻る手はずではあったが自分達は今現在そこから遠くはなれた翠屋にいる。
仮に十代が会いたい人に会えた後自分達と合流する為に地上本部に向かったとするなら行き違いとなる可能性はある。
「心配なのはわかるけど、すぐに戻ったりは出来んよ。それに地上本部の近くに転移したとも限らないしな」
「それに地上本部にはキャロがいますわ。仮にすぐ近くだったとしても、十代君達が下手に戻ったらキャロに殺されてしまいますわ……無事でいてくれれば良いですけど……」
「その懸念はあるな……ちょっと待て、地上本部にキャロがいるって!?」
突如、はやての声を荒げる。
「不味いな、キャロが今すぐにでもここに現れるかも知れん」
はやてはキャロが地上本部にある魔法陣を使って自分達の元に現れる可能性を語る。
キャロが殺し合いに乗っている場合、キャロは優勝する為に殺し合いを止めようとするグループに入りひっそりと機を伺うか、一時的に優勝狙いの参加者と組むか、殺しやすい弱者を狙うかの行動を取る等幾つか考えられるパターンがある。
キャロがどのような行動を取るかの断定は出来ないが、逆を言えばどれを取る可能性もある。
「もしキャロが魔法陣を使って弱者の所に行ってそいつを殺すつもりならターゲットとなるのは……お前やクアットロ」
その標的として相応しいのは戦闘能力に乏しい参加者……クアットロがそれに最も相応しいと言えよう。クアットロが戦闘向きではない事もそうだが、実際に一度遭遇してクアットロを撤退に追い込んだ事も大きいからだ。
「どうすればいいの、もしキャロがやって来たら……?」
「落ち着くんや、あの魔法陣は必ずしもすぐ側に転送出来るわけやない。転移したとしても少し離れた所になる可能性が高い。となれば……シャマル、ちょっと外の様子を見に行ってくれるか?」
と、シャマルに外の様子を探らせに向かわせた。互いに何かあればすぐに戻るもしくは外に出ると話した上で。
シャマルが外に出て店内にいるのははやてとクアットロの2人だけとなった。と、クアットロが、
「この殺し合いを開いたのは本当にプレシアなんでしょうか?」
PT事件で死んだはずのプレシアがそれより後の事件の関係者であるはやて達やクアットロ達を参加させたのは不自然だとクアットロは語る。もしかしたらJS事件の関係者……いや、ジェイル・スカリエッティがこの殺し合いに関わっている可能性を語った。
「実を言えば、私もその可能性は考えた。」
はやて自身もプレシアが全ての技術を使いこなしているとは思えない事からスカリエッティが関わっている可能性を語る。それを聞きクアットロも同じ事を考えたと語る。同時に他にも関わっている人物がいるのではないかと2人は話す。
そして、そういう人物についての可能性だが、
「1つあり得そうなのがありますわ」
と、クアットロは十代から聞いた十代達を異世界へと誘った存在やデス・デュエル、プロフェッサー・コブラについての話をし、その件が今回の殺し合いと関係があるのではと語った。
そしてコブラの境遇、デス・デュエルとの類似点を踏まえプレシアの背後にはコブラに協力した精霊がいるのではと話す。
「……可能性の1つとしてはあるな。まあ、他にも誰かいるかも知れんがこれについてはもう少し調べればわかるかもな」
続いて2人はプレシアの目的について話し合う。PT事件を踏まえPT事件関係者への復讐が目的という線があるが、それならばリンディ・ハラオウン等も連れて来られなければおかしい。しかし彼女がここにいない為、それが目的である可能性は低いだろう。
やはりPT事件を踏まえるならば目的はアリシア・テスタロッサの蘇生だろう。だが、そうなると放送での復活劇は嘘という事になる。仮にそうならば殺し合いなどやらずにすぐにでも蘇生させれば話は終わりだからだ。
「仮説の話やけど、私はプレシアがアリシア復活の為に殺し合いによる死を必要としていると考えてる」
はやてはプレシアがアリシアの復活の為に、単純な60人の死ではなく、殺し合いによる死が必要という可能性を話した。そして、クアットロが話してくれたデス・デュエルの話を聞いた今となってはその仮説が的外れではないと考えていると語る。
「でも、色々な世界から色々な物を見付けられるとしたらもっと効率の良い方法を見付けられそうなものですけどねえ……そんな60人の人を殺し合わせるなんて回りくどい方法をとらずに……」
それに対しクアットロがもっともな疑問を口にするが、
「そういう回りくどい方法を取らざるを得ないんやないか?」
プレシアは全知全能の力を持っていると考えているのが大体の参加者の共通認識だ。だが、はやてはそれを否定していると語る。
本当に全知全能ならば前述の通りすぐにでもアリシアを蘇生させればいいし、また現状で方法が無くても更に他の世界を調べて蘇生の方法を見付ければいい、わざわざこの場で60人を殺し合わせるというややこしい手段を取る必要は全く無い。
ならば、本当はアルハザードの技術を全て物にしているわけではなく、今現在は限られた技術しか使えないのではないのか? それで、蘇生の方法を確保する為にこの殺し合いを行っていると。
但し、この仮説はあくまでもプレシアが首謀者である場合の話だ。裏に他の人間が黒幕としているならば、この仮説は成り立たない。
「どちらにしても死者の蘇生の話は嘘と考えた方が良さそうですわね」
「勿論、本当に優勝さえ出来れば可能性はないわけではないが……正直それすらも微妙な線やな」
「プレシアにしてみれば叶えてやる義理なんてありませんものね」
「そうや、少なくともこっちの命を相手に握られている現状ではまず不可能、本当に願いを叶えるんやったらプレシアと取引出来る状況まで持っていかなあかん」
2人は現状で優勝してもプレシアが願いを叶えて……特に死者蘇生させてくれる可能性は低いと結論付けた。
「どちらにしても今はこちらの戦力を整えなければならん。その為には……」
「放送後、スマートブレインに向かう……わかりましたわ」
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*銀色の夜天(前編) ◆7pf62HiyTE
―――『彼』は無機質なままに市街地を進む―――
『彼』はある科学者がある目的の為に作り上げたが、その科学者にとっては科学者の作品達が輝く為に使うガラクタでしか無かった。だが、『彼』の同胞達にとってはそんな事等関係無しに命じられるがままに動いていた。
仮に自分達が無慈悲なまでに破壊され尽くしたとしても……只、『主』から命じられるがままに……
その最中、気が付けば『彼』とその同胞は自らの武器を封じられた上で『彼』の住処に置かれていた。その場所で自分達を使ってくれる『主』を待っていたのだ。そして、ある少女が『彼』とその同胞を見つけ出した。
少女は『彼』等の武器が封じられた事を知り落胆していたものの、元々残っている機能と少女が持つ力を駆使し『彼』とその同胞にある命令を出した。
少女が使う事を許された『彼』とその同胞は計3体。1体は少女と共にあるものを探す為に少女と同行し、残る『彼』と他1体には少女から『命令』を与えられると共にある『仕掛け』が施された。
『彼』に与えられた命令は3つ。
市街地の巡回
生体反応への追突
あるカテゴリーに分類される者達の眼前で停止
これらの命令を与えられた『彼』と同胞はその命令を実行する為に『彼』の住処から放たれていった。
『彼』と同胞は『主』に命じられるがままに進む。だが、他の者から見れば『彼』等は道具でしかない。『彼』等を待つのはやはり無情なる現実だろう。
まず、前述の『命令』と『仕掛け』が施されず少女と同行していた『彼』の同胞は病院から発せられた暴力的な光によって破壊された。
ちなみにこの場には少女はいなかったもののその場には少女の同行者が3人いたがその内の1人が防御魔法を展開した事により3人は無事ではあったが前述の通り『彼』の同胞は守られる事なく破壊された。
残る『彼』とその同胞は各々が命令を果たす為に市街地を飛び回った。
そして命令の内、『あるカテゴリーに分類される者達への眼前での停止』に関しては『彼』とその同胞のどちらが果たしたかは不明ではあるものの少女の姉妹に対してそれを行う事が出来た。
但し、『彼』にしても同胞にしてもその命令がどういう意味を持っているのかは全く知らない。
そう、例えばその目的が少女が姉妹へメッセージを送る為のものであり、そのメッセージが少女が想定しない人物に伝えられる可能性があったとしても、それは『彼』と同胞の知る所ではない。
そして、奇しくも少女にとって想定外の事態が起こった。それは『彼』の同胞がある人物に接触した事だ。
少女にとってその人物は未知の人物であり当然『あるカテゴリーに分類される者達』だとは考えていなかった。だが、その人物は『あるカテゴリーに分類される者達』として同胞に認識された。
つまり、同胞はその人物に対し追突を行わず眼前で停止したのだ。いや、それだけならばまだ少女も想定出来た範囲だったかも知れない。
だが、問題はその人物は少女とその姉妹を守る為に同胞を連れて行こうとしたのだ。無論、そこには悪意は全く無いわけだがその人物は少女が指示した命令の半分の意味を知らない。
それを知らないまま同胞を手元に抱える事が少女の意に添わない事である事も当然知り得ない。
そして『彼』はひたすらに進む……あるカテゴリーに分類される者達の眼前で停止、そして生体反応への突撃を行う為に……そこには何の感情も意志も存在しない。ただ、命令に従う為に『彼』は進むのだ。
『彼』にとっては命令によって自身がどうなるかなど知るわけもないし、その事には全く興味はない。仮に、生体反応に突撃を行えば『彼』は少女の施した『仕掛け』により爆散しその『生命』を散らすとしても……
―――何を知る事もなく『彼』は市街地を進む。『彼』自身に与えられた命令を只実行する為に―――
★ ★ ★
F-2に位置する翠屋のテーブルに3人の女性、八神はやて、シャマル、クアットロが着いている。目的は落ち着いて情報の交換と今後の方針等を纏める為だ。
尚、翠屋を訪れる前に3人は川に落ちて服を濡らした為、持っていた服及び翠屋で見付けた服に着替えたものの乾燥が大体済んだ為はやてとシャマルは元の機動六課制服に着替えている。
なお、クアットロは着ていた服の方はこれまでの戦いと川で流された事により衣服としての役割を果たさなくなり、更に元々着ていたナンバーズスーツは川で紛失した為、翠屋で見付けた制服をそのまま着続けている。
最初に3人は参加者が異なる時間及び並行世界から連れて来られているという事実を確認した。更に、
「今ここ見て気付いたんやけど、この翠屋も恐らく私らの時代から10年ぐらい前から持ってきたか複製したと思われるな」
翠屋が約10年ぐらい前のものだろうとはやては語った。その理由は高町なのはの部屋が小学生当時のままであった事、クアットロが着ている制服がなのはの姉である高町美由希が学生時に着ていた制服だった事等からだ。
「……でもどうしてわざわざ10年前の場所を?私達の時代の物を持って来るなり複製するなりすれば済む話じゃありませんか?」
もっともな疑問をクアットロは口にするが、それに対しシャマルが答える。
「10年前のはやてちゃんやなのはちゃん達が来た時におかしいって思わせない為じゃないかしら?」
「そうやな、10年前の私らやったら本部や隊舎よりもこっちに向かうからな」
9歳当時の自分達が参加させられている場合(シャマルは確信しているし、他の2名も可能性は高いと見ている)、彼女達は何処へ向かうのか?
当時の彼女達は管理局との関係が深いわけではなく、当然機動六課という物も知らない。となれば近くにあるならともかくそうでないならば地上本部や機動六課隊舎に向かうとは考えにくい。むしろ自分達になじみ深い翠屋に向かう可能性は高い。
そして前述の通り9歳の彼女達がここに来るならば、不審を抱かせない為に彼女達の時代の翠屋を用意するのは当然の流れと言えるだろう。
ちなみに19歳の彼女達が訪れれば不審に思うわけだが、彼女達の場合は翠屋よりも地上本部や機動六課隊舎に向かう可能性が高いので早々に翠屋に向かう可能性は低い。
また、仮に訪れた所でこの年齢の彼女達ならばこの地に翠屋がある事の方が不自然なのでそこまで問題にはなり得ない。
但し、実際は何の因果か19歳のなのはがスタートした場所がこの翠屋である。ならば、なのはは早々にその不自然な事態に気付きそうな物であろう。だが、彼女は最初に死んでしまったアリサ・バニングスの死のショックもあり中を詳しく調べてなかった。
更に、翠屋にはザフィーラも一度訪れていた。だが、その理由は同行者のLが砂糖を手に入れるのが目的でザフィーラ本人は待っていただけなので中の様子は調べていない。
他に訪れた参加者については10年前当時の人物、翠屋を初めて訪れた人物といった者達なのでやはり違和感を覚える事はない。
故に翠屋の中をまともに調べた参加者は今ここにいる3人が初めてなのだ。
「理由はどうあれこの事も頭には入れておいた方がええな」
ここでようやく情報交換に入る。まずはやてはクアットロとシャマルにこれまでにあった事を語らせた。予めシャマルに聞いた話では長い事クアットロと同行していたらしいので、2人一緒に語って貰う事にしたのだ。
まず、クアットロはこの地に着いてすぐさま妹達や機動六課の仲間を捜そうとしていたがいきなり神父らしき人物に有無を言わさず襲われた事を話した。
その後、何とか逃げ延びたもののその時に誰か他の参加者と話しているフェイト・T・ハラオウンを見かけた様な気がしたが、先程襲われた事で少々混乱していた為話しかけられなかった事を話した。
一方のシャマルはこの場所に着いてから2時間程市街地を散策するものの誰1人と遭遇出来なかった事を話した。
そして、いきなり現れた男性に襲われたものの何とか逃げ出した所、混乱状態から落ち着いたクアットロと出会った事を話す。なお、襲った男性がどういう人物かは不明だが何故かクアットロ、チンク、ディエチの事を気にしていた事を説明した。
その後2人は地上本部に向かおうとしたもののその時にクアットロはシャマルの支給品である高良みゆきの制服に着替えた事を話した。
そして移動する2人だったがその途中、遊城十代と遭遇し彼と情報交換しながら3人で地上本部に向かい地上本部に到着したタイミングで最初の放送を迎えた事を話した。
放送後、クアットロは地下と最上階を調べる為に別行動を提案し、シャマル達はそれを了承し別行動を取った事を話した。
「そしてシャマル先生は上の方にあった何かではやてさんの所に飛んだという事でいいんですね?」
クアットロと別行動をとった後、シャマルと十代は展望室で魔力を込めれば対象者の望んだ場所にワープ出来る魔法陣を見付けそれを利用した事を語った。
「何かの罠だとは思ったけど、これを使えばはやてちゃん達に会えると考えたら……」
「まあ実際会えたわけやから効果の方はある程度信用してもええかも知れん……使い勝手は悪いけどな」
「十代君とは別れ別れになりましたものね」
その後ははやてと簡単な情報交換を済ませた後、1人待たせているクアットロと合流する為に地上本部に向かったらその途中であられもない姿を晒しているクアットロと合流したのである。
そのクアットロの方では地下を散策していたものの何一つ見付ける事が出来ず、1人シャマル達が戻るのを待っていたが、ある参加者に襲撃され逃げ出した後、シャマル達と合流した事を話した。
「それで、誰なんや? クアットロを襲った奴は?」
はやてはクアットロを襲った人物について問い、クアットロはゆっくりと口を開く。
「信じられない話なんですけど……私を襲ったのは……キャロですわ」
クアットロは自分を襲った人物がキャロ・ル・ルシエである事を話した。彼女は持っていた大きな鎌で一方的に自分を斬り裂こうとしたと……
当然の事ではあるがシャマルはそれを信じられないでいた。幾らシャマルがここにいるクアットロが改心しているから自分達を騙すつもりはないと思っていても、あのキャロが人を殺そうとした話など信じられるものではないからだ。
「シャマル先生の気持ちはわかりますけど……これが真実ですわ」
一方のはやては冷静に、
「なあ、本当に一方的だったん? 例えばクアットロがキャロは使えないと考えてシャマルが戻ってくる前に人知れず殺そうとしたって事は無いん?」
はやてはクアットロが改心したという話を信じていない。キャロが現れたかどうかはともかく、クアットロが襲うという可能性は十分にあり得ると考えていたのだ。
「そんなことありませんわ! 本当に話しかけたら一方的に襲われて……」
クアットロははやての言葉を否定する。実際ははやての指摘通り、キャロを殺すつもりはあった。しかし現実には一方的に攻められるという散々な結果に終わった。
「わかったわかった。誰かはともかく襲われた話は信じるって」
「はやてちゃん……でも本当にキャロが……」
だが、シャマルはクアットロが襲われた事はともかく、キャロが襲ったという事実をどうしても信じられないでいた。
「いや、あり得へん話やない。確か放送では……」
対して、はやてはキャロが殺し合いに乗っている事については否定していない。
ここではやては放送で言っていた優勝者への御褒美の話を持ち出す。最後の1人となったものにはどんな願いも叶えてくれるという話だ、御丁寧に最初に殺されたアリサを蘇生させた上で死者蘇生も可能である事を示した上でだ。
「そういえば、エリオ君を取り戻せたらそれでいいって言っていましたわ」
クアットロはキャロが既に死亡しているエリオを取り戻すつもりでいる事を話した。
「やっぱりそうか……」
それを聞いて納得するはやて、しかし一方でシャマルはまだ納得出来ないでいた。そんなシャマルに対しはやては、
「例えばの話やけど私が死んだとしたらシャマルはどないする? あの放送の様に最後の1人になったらどんな願いでも叶うと言われたらどうや?」
仮にはやてが死んだとしたら? その最悪の仮説を聞いてシャマルの頭は一瞬真っ白になる。そんなケースなど考える事すらしたくはないがあり得ない話ではない。仮にそれが起こったとしたら……
「……最後の1人になって、私を生き返らせたいと思うよな」
「うっ……」
否定できなかった。機動六課の仲間や何の力も持たない人々、そしてザフィーラやヴィータすらとも殺し合ってはやての復活を願ってしまう可能性が高かった。
「私だってそうや、もしもこんなアホな戦いでシャマルやヴィータ達がみんなおらんくなったらみんなを取り戻す為になのはちゃんやフェイトちゃんを殺してでも優勝を狙うかも知れん」
はやてもシャマル達がいなくなれば同じ事をする可能性があると語る。
「はやてちゃん……」
シャマルとしてははやてにその手を血で汚させてまで自分達を生き返らせる事を望みはしない。しかし、はやての考えそのものを否定する事は出来はしない。
「私らだってそうなんやからキャロがエリオを生き返らせる為に殺し合いに乗る事自体は理解出来る……」
そして、放送の言葉に従うがままに殺し合いに乗る事を肯定するが、
「でもな。そんな安っぽい口車でホイホイ人殺しをするなんてほんまもんのアホや、そんなのは只の逃避か思考停止でしかない」
と、安易に殺し合いに乗ったキャロ達を完全否定した。
「私らのすべき事はこんなアホな事をするプレシアを止める事や、違うか?」
はやての言葉に頷く2人だった。
「今度ははやてさんの話を聞かせてもらえます?」
と、クアットロがはやてがこれまでに誰と出会ったかについて聞く。
「ああ……」
はやては自分が最初に地上本部のレジアス・ゲイスの部屋に転送されその後キングという少年と出会い、彼からベルト以外の支給品を渡された事を語る。
「そのキングって子何を考えているんですか?」
「私もその時はあまり深くは考えんかったけど……正直、失敗やった……」
その後、はやては幸運にもヴィータと再会出来たが、そのヴィータに偽物扱いされ戦う羽目になった事を語る。それを聞いて驚愕する他の2人ではあるが、
「全てキングが悪いんや……」
はやては起こった事を語る。キングが外の様子を見に行ったらヴィータが赤い巨大な恐竜に襲われているという話だったので、はやてはすぐさまヴィータを助ける為にそこに向かった。
そして、キングから渡された武器を使い赤い巨大なトカゲを仕留めたのだ。だが、その直後ヴィータが逆上してはやてに襲いかかったと。そしてヴィータははやてを偽物だと言い放ったのだと。その話を聞いた今でもシャマルは信じられないでいた。その一方、
「あの、それって本当は恐竜とヴィータちゃんは仲間同士で、仲間が殺されたから逆上したんじゃないのかしら?」
「ああ、今にしてみればクアットロの言う通りやったと思う。つまりキングに騙されたということや。何しろヴィータにコテンパンにやられた後は思いっきりキングに馬鹿にされたしなぁ……」
はやての顔は明らかに不機嫌な顔をしていた。
「それでヴィータちゃんは?」
「あの後どっかに行った」
その後、追い掛けようとしたがまたしてもキングによって足止めを喰らった。キングは地上本部を調べないかと提案してきたのだ。はやてとしては断りたかったがキングはこっちの言葉を聞かず一方的にはやてと分かれ別行動を取ったのだ。
そしてはやての方は何も見付けられなかったが、キングの方は後にシャマル達も使った魔法陣を見付けたのだ。キングとの合流後それを使ったわけではあるが、
「私としてはヴィータに会いたいと思ったんやけど」
はやてが転移した場所は図書館。しかし、目的の人物であるヴィータには会えなかった。なお、不幸中の幸いかキングと離れる事には成功している。
「正直またキングに一杯食わされたと思ったわ」
その為、はやてはあの魔法陣は参加者を分断する為の罠だと考えたのだ。
「でも、シャマル先生の場合は会えたんですから、はやてさんの場合も多分転移した時点では近くにいたんじゃ……例えば図書館のすぐ外とか」
クアットロの指摘通り、はやては気付かないものの彼女が転移した場所は図書館の二階、その時点では丁度ヴィータは図書館を出た所であった。つまり、すぐにでも図書館を出ればヴィータと再会出来た可能性は高い。
「ああ、私もシャマルの話を聞いてそう思ったわ。でもな、アレはかなり使い勝手が悪いで。参加者を分けるという意味ではやっぱり罠やし、転移場所も割と距離が離れている所になる可能性は高いからあんまり使えるものではない事に変わりはないな」
はやてはシャマルが無事に自分と再会できたことから魔法陣が罠ではない事については納得しているが、使い勝手が悪いと考えている。
「そこで放送を迎えてこれからの事を色々考えていたらシャマルがやって来たと」
そして、クアットロのいる地上本部に戻ろうとしたらクアットロがやって来たというわけである。
「……とりあえず、私らが3人集まるまでの事についてはこれでええな」
その後の事は3人共おおむね把握している。3人の所に半裸の男性神・エネルが現れ有無を言わさず雷撃攻撃を仕掛けてきた。そこに突然銀髪の男性とヴィータが出現して、気が付けば川に落ちていて、その後近くにある翠屋に向かったという事である。
「そういえばどうしてヴィータちゃんとあの男の人がいきなり現れたのかしら?」
「シャマル先生、きっと2人もあの魔法陣を使ったんじゃないんですか? シャマル先生かはやてさんに会いたいと思って……」
「2人して同じ所に転移出来るとは思えんけどな」
真面目な話、何故いきなりヴィータと銀髪の男性が現れたのかはわからない。とりあえず何かしらの方法で転移したのだと解釈する事にした。
続いて、3人は自分達の知り合いについての確認を始める。とはいえ3人ともJS事件後から来ている関係上知り合いについては殆ど共通しているのでそれは容易だ。
既に死亡している参加者とここにいる3人を除いた全ての参加者は44人、
その内元々の知り合いはなのは、フェイト2人、もう1人のはやて、ヴィータ、ザフィーラ、スバル・ナカジマ、キャロ、ギンガ・ナカジマ、ユーノ・スクライア、ヴィヴィオ、チンク、ルーテシア・アルピーノ、ゼスト・グランガイツの計14人。
それ以外で3人がこの地で出会った参加者で名前を把握しているのは十代、キング、エネルの3人。
十代経由の情報で容姿と名前が判明しているのが早乙女レイ、天上院明日香、万丈目準、そして柊つかさの計4人。
残る23人について現状は顔と名前が一致していない。
クアットロを襲った神父、シャマルを襲った男性、そしてエネルの襲撃の際にヴィータと共に現れた銀髪の男性もここに該当する。
さて、今現在生き残っている参加者の内半分弱を把握している3人であり、さらに3人から見てその殆どは彼女達にとって味方となってくれるはずではあるが、
「……恐らく、この内の何人かは殺し合いに乗っているやろな」
はやては仲間であるはずの彼等が殺し合いに乗った可能性があるという結論を出した。クアットロはそれを聞いて頷く一方、シャマルは信じられないという表情をしていた。しかし、
「忘れたか? 放送でのあの言葉を……死んだ人数から考えて、なのはちゃんやフェイトちゃんがその甘い言葉に釣られて殺し合いに乗る可能性は否定出来ん。キャロが殺し合いに乗ったという話が真実やとしたら尚の事や」
優勝者の御褒美を手に入れる為に殺し合いに乗る可能性をはやては語る。クアットロの話の真偽がどうあれ、可能性は否定出来ない。それでも、
「確かにフェイトちゃんもなのはちゃんを生き返らせる為に殺し合いに乗るかも知れないのはわかるけど……その為にはやてちゃんやヴィータちゃん、それにキャロ達まで殺すなんて事は考えられないと思うけど」
シャマルは自分達ならともかく、フェイト達がたった1人の大切な人物を生き返らせる為に他の友人や仲間を皆殺しにする事は流石にあり得ないと語る。と、クアットロが、
「確か放送ではどんな願いでも叶えるって言っていたんでしたわね?」
「何が言いたい?」
「生き返らせられる人数は1人だけとは言っていませんでしたわよね?」
「まさか……」
クアットロの言葉にシャマルもその真意を気付く。
「この殺し合いで死んだ人全員を生き返らせるという話か?」
「ええ……これならフェイトさんもキャロも平気で殺し合いに乗ると思いますわ」
御褒美の願いで死んだ人全てを生き返らせる。確かにそれなら大切な人全てを取り戻す事は可能だ。
「幾ら何でも馬鹿げているわ」
だが、シャマルはそれはあり得ないと否定する。当然だ、わざわざ60人を殺し合わせているのに終わったら見せしめを含めて60人全てを生き返らせてしまえば殺し合いの意味は全く無くなる。少し考えればわかる事だ。
「そんな事は少し考えればわかることや。でもな、深くも考えず殺し合いに乗る様なアホや、そんな簡単な事にも気付かんと思うわ」
しかし、はやては御褒美を使って全員を生き返らせようとする様な者はそんな簡単な事にすら気付かない大馬鹿者だと斬り捨てる。
「まあ、流石に全員は無理だと気付いても1人ぐらいは生き返らせられると考えて殺し合いに乗る奴はいるだろうけどな。それでも願いを叶えるって話が本当かもわからないのにそんな言葉に乗るのは只のアホやけどな」
3人とも御褒美という話が真実かどうかは不明でアリサの復活にしても何かしらのトリックを使ったと考えている。故に、はやての言葉については2人とも同意だ。
「それとは別の話やけど、御褒美に乗らなかったとしても私らが仲間と思っていても敵対するのはいると思う。私らが異なる時間、異なる世界から連れて来られているとしたら十分にあり得る話や」
はやては異なる時間及び世界から連れて来られているならば、仮に仲間であっても敵対している可能性がある事を語った。
例えば、チンクやルーテシアがJS事件の最中より連れて来られているならばどうだろうか? 彼女達が管理局に下るもしくは保護されたのはJS事件後の話だ。その時期より前、JS事件の最中ならばほぼ確実に管理局の面々とは敵対する。
また、ギンガ・ナカジマもJS事件の最中に捕まり六課の敵として立ち塞がって来た事があった。その時期から連れて来られたならば彼女もまたやはり六課と敵対する筈だ。
そして、JS事件の際に捕まったのがギンガではなくスバル・ナカジマだったという可能性も0とは言えない。仮にその世界からスバルが連れて来られているなら彼女も敵となっている可能性が高い。
「はやてちゃんはスバルやギンガ達も敵になっているかも知れないと言うの?」
「あり得ない話やない。何しろ騎士ゼストや改心したクアットロがおるんやからな」
そう、JS事件にてゼストは死亡している。にも関わらずこの場にいるという事はゼストはJS事件の最中から連れて来られたという証明になり得る。当然それは他の参加者にも適応される。
そして、はやてとシャマルの知るクアットロは改心していないが、この場にいるクアットロは改心しているという話だ。やはり他の参加者にも同じ事が言えるだろう。
「逆にギンガが捕まってない世界もあるかも知れんが……そんな都合の良い展開はないやろ」
「そうですわね」
はやては更に話を進める。
「それに、この話はJS事件についてだけ言える事やない。仮にヴィータ達が10年前から連れて来られたとしたらどうや?」
10年前……闇の書事件が解決する前にヴィータ達が連れて来られているならば彼女達はどうするのか?
その当時の彼女達ならばはやてを守る為、優勝させる為に他の参加者を皆殺しにする可能性が高い。当時は管理局とは敵対していたので当然管理局に属しているなのは達とも敵対するのは言うまでもない。
「さっきのヴィータの話に戻すけど……私を偽物だと思ったのはキングの仕込みの他にヴィータが10年前から連れて来られた事も原因だと思う」
はやては再びヴィータと敵対した時の事を話す。確かに決定的なきっかけはキングの行動だったが、ヴィータがはやてを偽物だと思ったのはヴィータの知るはやてが9歳の彼女だからかも知れないと。
確かにその当時のはやては9歳と幼く、同時に車椅子だった事もあり、あの場にいた20歳前後で普通に立って歩いているはやてなど限りなく似ている偽物としか思えなくて当然だ。
加えて、平気で仲間を惨殺する(はやてにその意志は無いがヴィータにはそう見えた)はやてなど、当時のはやてしか知らなければまずはやての皮を被った偽物だとしか考えられない。
「まあ、こっちの方は落ち着いて話し合いが出来れば何とかなるとは思うけどな」
何はともあれ、3人の中でこれから他の参加者に接触する際は、例え仲間であっても一定の警戒心を持った方が良いという共通認識を持つに至った。
続いて3人は手持ちの道具を確認する。
クアットロが所持しているのは鋼糸が内蔵されている手袋と先程手に入れた小麦粉だけ。
シャマルが持っているのはクアットロもシャマルも使えないと判断した赤い鞘だけ……ちなみに先程まで持っていた包丁は先程紛失したと語った。
はやての方はカリムの服とスモーカー大佐の服、キングから渡されたツインブレイズ、そして先程拾ったデイパックの中にあったデルタギアである。
ここで重要なのはスモーカーの服に入っていた十手とデルタギアである。まずは十手について語る。
「こいつには海楼石と呼ばれるのが付いているらしい。そして、エネルっちゅう奴は海楼石を恐れているという話や……海楼石が何かはわからんけど海に関係があるかも知れん」
実際、海楼石は海を固形化した鉱物であり、エネルにとっては海等水の溜まっている場所や海楼石は弱点でありその強大な力を封じられてしまう。とはいえ、海楼石という名前だけではそれに気付く事は出来ない。せいぜい、関係がありそうだと思う程度だろう。
「……でも、仮に弱点がわかった所でどうにか出来るとは限りませんけど」
「その通りやな、先手を打たれればそれで終わりや」
結局、弱点がわかってもすぐさま対処法に導く事は無かった。海楼石についての話は切り上げ、はやてはデルタギアについて話し始める。
まず、はやてはこれが仮面ライダーに返信する為のシステムだと語った。
実際このベルトは仮面ライダーデルタに変身する為のベルトである。しかし、デルタギアの説明書には仮面ライダーという用語は何処にも見当たらない。では、何故はやてはこれが仮面ライダーに変身する為のベルトだと解釈したのか?
思い出して欲しい、はやてはキングから仮面ライダーがベルトを使って変身して悪い奴らと戦う戦士だという事を聞いていた。そしてデルタギアの形状もベルト……仮面ライダーのベルトを連想する事は容易である。
「説明書を見た所こいつを使えば変身出来るとある。とりあえずこれについては私が持っておく」
「でもはやてさん、キングって人もそれを狙ってくるんじゃありませんか?」
クアットロがキングがベルトを集める為にデルタギアを狙ってくる可能性を指摘する。
「多分な。でもそれならそれで好都合や、向こうからやって来た所を迎え撃てばええ」
そう、はやてがデルタギアを手元に置くのには武器としての有用性だけではなくキングに対しての牽制でもあったのだ。キングがデルタギアを狙った所を叩く事を考えていた。
「でもな、こいつにとって重要なのはそれだけや無い、こいつの製造元はスマートブレイン……地図にそんな場所があったやろ」
スマートブレインの場所を地図で確認する。
「これだけのベルトを作る事の出来る技術力……そこに行けば他にも何か使える武器が手に入ると思わん?」
と、首を触りながら話す。
「確かにキングの弱点もわかるかも知れないわね」
と、やはり首に手を当てながら話す。
「もしかしたら他にもベルトが手にはいるかも知れませんわね」
これまた首をトントンと叩きながら話す。
「大体落ち着いたらスマートブレインに行って『武器かベルトを探す』ってことでええな」
と、3人の次の行動が纏まった。勿論、3人の脳裏には別の思惑があった。それは首輪の解除である。ベルトを作るほどの技術力を持つスマートブレインだ、首輪解除のヒントになる可能性は高い。
勿論、面と向かってそれを話せば首輪を爆破される可能性がある為、敢えて口にはしていない。
続いて3人は次にあの時現れたヴィータと銀髪の男について話す。ヴィータは現れた瞬間、こちらに向かって『てめえ、覚悟しろ!!!』と問答無用で斬りかかって来たのだ。
「多分、ヴィータが狙ったのは私や」
ヴィータが狙ったのは自分だと語るはやて。シャマルはクアットロの方ではと否定するが、
「さっきも言ったがヴィータの奴私の事を偽物だって思いっきり恨んどるからな。私を見かけたら斬りかかっても不思議はない。それに仮説通り10年前から連れて来られているならクアットロを狙う事はあり得ん」
はやては先程の一件と10年前から連れて来られているという仮説からクアットロではなく自分を狙うと語った。勿論、10年前から連れて来られているという話は仮説でしかないが、それでもクアットロよりも自分を狙うと語る。
「それにシャマルが仮にヴィータと同じ立場やったら私の方見ないで最初にクアットロの方を見るか?」
「いや、多分はやてちゃんの方を……」
「そう、真っ先に私の方を見るよな。その上ヴィータは私を恨んどる、だとしたら真っ先に私を見るのが自然だと思うけどな」
何にせよ、ヴィータがはやてを恨んでいるという状況は不味い。一刻も早くヴィータと合流して誤解を解いて置きたいと思う2人に対し、
(……このまま仲違いを続けても一向に構いま……いや、現状を考えると手駒になりそうな人を逃したくはありませんわね……うん、ここは何とか和解してもらった方が良さそうですわね)
クアットロとしても、加えられるのであればヴィータを手駒に加えておきたいと考えていた。幾ら仲間同士が殺し合うのは望む所とは言え、それはあくまでも自分に被害が及ばない範囲での話だ、この状況ならば身を守る為手駒は多い方が良いに決まっている。
続いて銀髪の男について話すものの残念ながらよくわからない。
「一瞬だったからわからなかったんですけど、あの人はやてさん達を守っていたんじゃ……」
「しかし、何故見ず知らずの私達を守ってくれるん?」
「もしかして、何処かの世界でははやてちゃん達の味方になってくれていたとか?」
「待てよ……そうなると……」
はやてはある事……参加者は自分達もしくは何処かの並行世界で何かしら自分達と関係のある人達ばかりだという可能性に気付き、
「何処かの世界ではキングが私らの知り合いだったり、あのエネルって奴とも知り合いって事か? 嫌な話やな……(まあ、ゴジラがおる世界から連れて来られた私が言えた事やないけどな)」
何はともあれ、銀髪の男を味方に引き入れるべきかを話し合う。少なくとも味方ならば引き入れたい所だ。
だが、銀髪の男性が味方という事が確定したわけではない。確かにあの場では自分達を守ってくれたかもしれないが、それはあくまで一瞬の出来事でしかなく、それだけで断定するのは危険だ。
さらに仮に自分達の推測が全くの的外れだった場合は一転して自分達が危機に瀕してしまう。考えてみて欲しい、エネルの攻撃を抑えられる力があるならば、自分達など一瞬で皆殺しに出来るはずだ。そんな危険な賭けをするつもりなどはやてにはない。
「そいつが私らの味方って保証は何処にもないからな。一応頭には入れておくけどどうするかは状況を見てからや、まあそうそう都合良く出会えるわけもないだろうけどな」
ひとまず銀髪の男性に対する判断は保留にする事にした。その最中、
「あの、はやてちゃん……十代君は……」
シャマルは十代はどうするのかが気になった。一応、シャマル達は地上本部に戻る手はずではあったが自分達は今現在そこから遠くはなれた翠屋にいる。
仮に十代が会いたい人に会えた後自分達と合流する為に地上本部に向かったとするなら行き違いとなる可能性はある。
「心配なのはわかるけど、すぐに戻ったりは出来んよ。それに地上本部の近くに転移したとも限らないしな」
「それに地上本部にはキャロがいますわ。仮にすぐ近くだったとしても、十代君達が下手に戻ったらキャロに殺されてしまいますわ……無事でいてくれれば良いですけど……」
「その懸念はあるな……ちょっと待て、地上本部にキャロがいるって!?」
突如、はやての声を荒げる。
「不味いな、キャロが今すぐにでもここに現れるかも知れん」
はやてはキャロが地上本部にある魔法陣を使って自分達の元に現れる可能性を語る。
キャロが殺し合いに乗っている場合、キャロは優勝する為に殺し合いを止めようとするグループに入りひっそりと機を伺うか、一時的に優勝狙いの参加者と組むか、殺しやすい弱者を狙うかの行動を取る等幾つか考えられるパターンがある。
キャロがどのような行動を取るかの断定は出来ないが、逆を言えばどれを取る可能性もある。
「もしキャロが魔法陣を使って弱者の所に行ってそいつを殺すつもりならターゲットとなるのは……お前やクアットロ」
その標的として相応しいのは戦闘能力に乏しい参加者……クアットロがそれに最も相応しいと言えよう。クアットロが戦闘向きではない事もそうだが、実際に一度遭遇してクアットロを撤退に追い込んだ事も大きいからだ。
「どうすればいいの、もしキャロがやって来たら……?」
「落ち着くんや、あの魔法陣は必ずしもすぐ側に転送出来るわけやない。転移したとしても少し離れた所になる可能性が高い。となれば……シャマル、ちょっと外の様子を見に行ってくれるか?」
と、シャマルに外の様子を探らせに向かわせた。互いに何かあればすぐに戻るもしくは外に出ると話した上で。
シャマルが外に出て店内にいるのははやてとクアットロの2人だけとなった。と、クアットロが、
「この殺し合いを開いたのは本当にプレシアなんでしょうか?」
PT事件で死んだはずのプレシアがそれより後の事件の関係者であるはやて達やクアットロ達を参加させたのは不自然だとクアットロは語る。もしかしたらJS事件の関係者……いや、ジェイル・スカリエッティがこの殺し合いに関わっている可能性を語った。
「実を言えば、私もその可能性は考えた。」
はやて自身もプレシアが全ての技術を使いこなしているとは思えない事からスカリエッティが関わっている可能性を語る。それを聞きクアットロも同じ事を考えたと語る。同時に他にも関わっている人物がいるのではないかと2人は話す。
そして、そういう人物についての可能性だが、
「1つあり得そうなのがありますわ」
と、クアットロは十代から聞いた十代達を異世界へと誘った存在やデス・デュエル、プロフェッサー・コブラについての話をし、その件が今回の殺し合いと関係があるのではと語った。
そしてコブラの境遇、デス・デュエルとの類似点を踏まえプレシアの背後にはコブラに協力した精霊がいるのではと話す。
「……可能性の1つとしてはあるな。まあ、他にも誰かいるかも知れんがこれについてはもう少し調べればわかるかもな」
続いて2人はプレシアの目的について話し合う。PT事件を踏まえPT事件関係者への復讐が目的という線があるが、それならばリンディ・ハラオウン等も連れて来られなければおかしい。しかし彼女がここにいない為、それが目的である可能性は低いだろう。
やはりPT事件を踏まえるならば目的はアリシア・テスタロッサの蘇生だろう。だが、そうなると放送での復活劇は嘘という事になる。仮にそうならば殺し合いなどやらずにすぐにでも蘇生させれば話は終わりだからだ。
「仮説の話やけど、私はプレシアがアリシア復活の為に殺し合いによる死を必要としていると考えてる」
はやてはプレシアがアリシアの復活の為に、単純な60人の死ではなく、殺し合いによる死が必要という可能性を話した。そして、クアットロが話してくれたデス・デュエルの話を聞いた今となってはその仮説が的外れではないと考えていると語る。
「でも、色々な世界から色々な物を見付けられるとしたらもっと効率の良い方法を見付けられそうなものですけどねえ……そんな60人の人を殺し合わせるなんて回りくどい方法をとらずに……」
それに対しクアットロがもっともな疑問を口にするが、
「そういう回りくどい方法を取らざるを得ないんやないか?」
プレシアは全知全能の力を持っていると考えているのが大体の参加者の共通認識だ。だが、はやてはそれを否定していると語る。
本当に全知全能ならば前述の通りすぐにでもアリシアを蘇生させればいいし、また現状で方法が無くても更に他の世界を調べて蘇生の方法を見付ければいい、わざわざこの場で60人を殺し合わせるというややこしい手段を取る必要は全く無い。
ならば、本当はアルハザードの技術を全て物にしているわけではなく、今現在は限られた技術しか使えないのではないのか? それで、蘇生の方法を確保する為にこの殺し合いを行っていると。
但し、この仮説はあくまでもプレシアが首謀者である場合の話だ。裏に他の人間が黒幕としているならば、この仮説は成り立たない。
「どちらにしても死者の蘇生の話は嘘と考えた方が良さそうですわね」
「勿論、本当に優勝さえ出来れば可能性はないわけではないが……正直それすらも微妙な線やな」
「プレシアにしてみれば叶えてやる義理なんてありませんものね」
「そうや、少なくともこっちの命を相手に握られている現状ではまず不可能、本当に願いを叶えるんやったらプレシアと取引出来る状況まで持っていかなあかん」
2人は現状で優勝してもプレシアが願いを叶えて……特に死者蘇生させてくれる可能性は低いと結論付けた。
「どちらにしても今はこちらの戦力を整えなければならん。その為には……」
「放送後、スマートブレインに向かう……わかりましたわ」
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