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「Alive a life ~タイムリミット(後編)」(2009/08/05 (水) 22:27:53) の最新版変更点
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*Alive a life ~タイムリミット(後編) ◆gFOqjEuBs6
商店街に立ち並ぶ店のうちの一つ。家電量販店の奥の事務室に、三人は座っていた。
まずはなのはとペンウッドから、自分達のこれまでの経緯をC.C.に話していた。
椅子に腰掛け、デスクに頬杖を付きながら、C.C.は考える。
(なるほどな……やはり参加者も皆別の世界の住人という訳か)
目の前のなのは達に聞いた話を簡単に纏めると、こうなる。
まず、目の前にいる高町なのはは、機動六課スターズ分隊の隊長。
傍らに居るシェルビー・M・ペンウッドはC.C.は知らない地球の、英国海軍の中将。
二人はそれぞれ別の世界の人間で、出会ったのはここに来て初めてだという。
現に“自分”でも知らない“自分”を知っている参加者ともここに来るまでで出会ったらしい。
確かにそう考えるなら、ゼストが言っていた“悪鬼”高町なのはと、目の前の高町なのはのイメージが食い違う事にも説明がつく。
疑念に抱いていたスバルについても、なのはと同様に納得がいく。
「つまり、ルルーシュも私とは別の世界の住人かもしれないということか」
「ルルーシュ……?」
「ああ、私の共犯者……まぁ、仲間だ。私にとっては大切な男なんだがな」
それを聞いたなのはが、デイパックから参加者名簿を取り出した。
どうやら敵味方と死亡者の区別を付けているらしく、デスクに置いてあったペンを手に取り、ルルーシュの名前を丸で囲む。
「一応聞くけど、ルルーシュさんはこのゲームには乗らないってことでいいのかな?」
「さぁ、どうだろうな。少なくともプレシアの言いなりにはならないだろうが」
「なら、敵じゃないね」
安心したような表情で、話を続ける。
別にプレシアの言いなりにはならないだろうと言っただけで味方とまでは言っていないが。
まぁ、変に敵意を持たれてルルーシュの仇になるよりはマシだが。
そうだな、と肯定の返事を返す。
「じゃあ、次にC.C.の話を聞かせて貰えるかな。出来れば、さっきの反応の理由も」
「さっきの反応……? あぁ、私の第一声についてか」
なのはに問われ、今度はC.C.が自分の情報を開示する。
今回はゼストの時とは違う。それぞれが並行世界から連れて来られたという問題が話の前提である為に、ゼストよりも詳しく話さなければならなかった。
単にゼストの方がなのはと比べて相手に無関心だから、という理由も多分にあるのだろうが。
故に、まずは自分が元居た世界の出来事について話す。
自分はブリタニアという大国が、世界の半数以上を支配している地球の住人だということ。
自分とルルーシュ、シャーリー、カレン。それから、転校してきたスバル・ナカジマは、
ここに飛ばされる直前まで確かに、占領された日本――即ちエリア11に居たということ。
ここまで話した所で、なのはの反応が変わる。日本が占領されたことも気になるが、やはりその世界でのスバルの役割が最も気に掛ったらしい。
C.C.自身もスバルと直接関わりがある訳ではないため、学生として転校してきたということまでしか知らないと告げておいた。
しかし、全ての情報を話した訳では無い。言わなくてもいい情報まで下手に漏らす必要はないからだ。
故に、黒の騎士団とゼロに関する情報は避けて話す。
自分はあくまでアッシュフォード学園に通うルルーシュ・ランペルージの仲間だと言う事で話を通した。
ここまで話した時点で、なのははシャーリーについても友好的な関係を示す丸を付けていた。
そしてここから話すのは、この会場に来てからの出来事。
自分が最初に転送されたのは、ここより北の神社。初めて出会った相手は、ゼスト・グランガイツと名乗る武人。
神社で簡単な自己紹介と情報の交換を済ませた二人は、この商店街に仲間と情報を求めてやってきた。
ギブアンドテイクの暗黙の了解の元に成された契約については話していない。別に話す必要も無いと考えたからだ。
ここでなのは達が疑問に感じるのは、一緒に行動していた筈のゼストは何処へ行ったのか、という事だろう。
それについては、別に隠す必要はない。寧ろそこを有耶無耶にすれば、かえって怪しまれる可能性もある。
ゼストは現在、付近の施設を調べるために、まずは地図上の「黒の騎士団専用車両」に向かった、と答えた。
その理由を付けるのは至って簡単。商店街を調べるだけならばC.C.一人で十分だし、ブリッツキャリバーを持っているゼストの方が移動が楽だからだ。
商店街中の電気が点いている理由は、その際に自分が点けて回ったからだ。簡単に見て回ったが他に人は居なかった、とも付け加えた。
なのはとペンウッドは何の疑いも持たず、ここまでの話を聞いた。
実際、それ程大きな嘘は言っていないのだが。
「な、なるほど……な、なら我々はここでゼストという男を待った方がいいのかな……」
「ちょっと待って。C.C.、貴女はさっき私を見た時、聞いていた話とは違うっていったよね?
それは騎士ゼストから聞いた話ってことでいいのかな?」
「あぁ、そうだな。どうやら随分とお前に御執心だったようだぞ?」
「その話、詳しく聞かせて貰えるかな」
御執心と、随分と遠まわしな表現を取る。一応嘘は言っていない。
C.C.は含み笑いを浮かべるが、なのははまるで意に介さず、話を続ける。
なんだ、こいつも冗談が通じないのか。などと心中で漏らしながら、C.C.はゼストについて話すことにした。
「騎士曰く、“高町なのはは災厄を撒き散らし、復讐の為なら無関係な人間をも殺害する悪鬼”だそうだ。詳しくは知らないが」
「な……ッ!?」
これには流石に面食らったらしい。
至って冷静な表情でC.C.の話を聞いていたなのはも、驚かずには居られなかった。
無理もないだろう。並行世界とはいえ、自分が復讐の為に殺人を犯しているなどと考えたくもない。
「まぁ、奴が私に話した内容を他の誰かに話さないという保証は何処にもないし、
本当にこのゲームを終わらせたいなら、早いうちに誤解は解いた方がいいだろうな」
「た、確かに……早く誤解を解かないと、無駄な争いに発展するかも知れない……」
C.C.の言葉に、ペンウッドも同意する。
無言のなのはも、事の重大さは理解している筈だ。
自分はこんなにゲームを終わらせたいと願っているのに、同じ脱出派の人間から命を狙われてしまったのでは目も当てられない。
とにかく今は行動するしかない。出来る限り早くゼストの誤解を解いて、一緒にプレシアに立ち向かうしかない。
それはなのはにも解っているのだろうが……と、C.C.は冷静な瞳でなのはを観察する。
「そうだね……今はまず騎士ゼストの誤解を解いて、一刻も早く仲間を集めないといけない
でも、本当にゲームに反対する人なら騎士ゼストの話を聞いたとしても、いきなり襲いかかってくる前に私達の話を聞いてくれる筈だよ」
言いながら、立ちあがる。
確かになのはの言い分には一理ある。現にゼストの話を聞いたC.C.もこうして誤解を解くことが出来たのだ。
それも割と簡単に。いきなり襲いかかってくるような相手なら骨が折れるが、そうでなければ話をつけるのもそう難しい話では無い。
「だから、私たちの行動方針は変えません。この付近の施設を巡りながら工場に向かいます。
その途中で騎士ゼストと合流出来た場合は、誤解を解いて仲間になって貰えばいい。」
ゼストもまた殺し合いに反発しているのであれば、そう難しくはない筈だと付け加える。
ペンウッドも了解した、と立ちあがる。二人が立ちあがった手前、自分だけ座っている訳にも行かない。
やれやれとばかりに、C.C.も立ち上がり、二人に肩を並べた。
「で、これからどうするんだ?」
「C.C.はまだこの商店街の全てを把握した訳じゃないんだよね?」
「あぁ、正直私はあまり真剣に探索していないからな……ただ電気を点けて回っただけと言ってもいいな」
「や、ややこしい真似を……」
「何か文句でもあるのか? ペンウッド」
「い、いや……別に何も……」
小声で言うペンウッドをきっ、と睨む。臆病者の海軍中将はすごすごと目を反らした。
元々自分が誰かの下につく事は滅多に無いのだが、ペンウッドの配下に付く事はもっと特別あり得ないなと、この瞬間判断した。
黒の騎士団で例えるならば、あの玉城真一郎の下に付けと言われるくらいあり得ない話だ。
「それじゃあ、もしかしたら騎士ゼストが帰ってくるかもしれないから、三人でもう一度この商店街を探索しよう
手分けして探せば、もしかしたら何か役に立つものが手に入るかも知れないからね」
「わ、わかった。そうしよう」
「あぁ、私もそれで構わないぞ」
次の行動が決まれば話は早い。なのはもペンウッドも、自分の荷物を纏めて事務室から出て行く。
C.C.も少しくらいいは役に立たなければ、となのは達に追随する。
そんな時だった。ペンウッドが、小さな黒い箱を取り出し、自分のポケットにしまった。
C.C.は、その一瞬の行動を見逃さなかった。
(あの箱……確か私の支給品にも……)
デイパックの中身を思い起こす。
確か、フリードが詰められていた時、調度あれと似たような“茶色の箱”を見たような気がした。
特に説明書も見当たらなかったし、使い道もさっぱり解らなかった為にずっと放置していたのだが。
まぁいいか、と。暫し考えた挙句、C.C.はそれについては深く考えないことにした。
大した役に立つ物とも思えないし、考えるだけ時間の無駄だと判断したのだ。
C.C.は気付いていなかった。
今自分が目撃したのは、カードデッキと呼ばれる立派な武装。
そして、自分の支給品にもまた、カードデッキと呼ばれる物が入っていた事。
カードデッキにはその危険性と、使用方法を記した小さな紙切れ――説明書が付属していること。
しかし、デッキと一緒に支給されたのはフリード。生き物であるフリードが、長い時間デイパックに閉じ込められればどうなるか。
勿論、心理的なストレスも溜まる。そうなれば、デイパックの中で必要以上に動きまわる事もある。
その結果、本来C.C.が読む筈だった説明書はぐしゃぐしゃに丸まり、デイパックの奥底に追いやられてしまったのだ。
デイパックの奥に追いやられた紙屑など、C.C.は気にしなかった。
故にC.C.は気付かない。カードデッキが、残り少ないタイムリミットをカウントしていたことにも。
◆
商店街の中の小さなスーパー。地図にスーパーと書かれる程の大手スーパーと比べると、やはり見劣りする。
どんな商店街にでも一つ以上はあるような、小さな小さなスーパーマーケットだ。
売っている物や規模から考えても、先程見て回ったスーパーの食料品売り場を小さく凝縮したような印象を受ける。
それでも何か役に立つものは、と商品棚を物色する。
その手を進めながら、同時に考える。
(騎士ゼストの世界では私が殺人者……一体どういうことなんだろう……)
どうせ並行世界だ。そんな事を考えてもどうにもならないという事は良く解っている。
それでも考えられずには居られなかった。数時間前スーパーに立ち寄った際に、金居はこう言った。
世界は違っても、人物の特徴までは変わらない、と。それは他の世界のスバルやティアナの話を聞けばわかる事だ。
だが、まさか自分が殺人者になるとは、考えも及ばなかった。
そして、なのはが懸念する事はもう一つある。
(もしもここで、私の目の前で大切な人たちが殺されたら……私はどうなるんだろう)
考えたくはない。だが、もしもそうなってしまったら。
もしもティアナやエリオを、明確な殺意を持って殺した奴が目の前に現れたら。
自分はもしかしたら、復讐をしようと考えるかもしれない。
このゲームは、そう言った事が簡単に起こりうるゲームなのだから。
(って、今はまず誤解を解こうとしてるのに、こんなこと考えてちゃいけないよね)
気付かぬうちに暗い考えに捉われそうになっていた自分に気付く。
そうだ、自分がこんな様子では、誤解を解くこと所ではなくなってしまうではないか。
自分の目的は出来る限り多くの命を保護し、脱出することの筈だ。今は極力前向きに考えよう。
自分の頬を軽く叩き、喝を入れる。
「はぁ……ここも食料らしい食料は無しかぁ」
気を取り直し、いつも通りの顔で呟く。
先程のスーパー同様、生で食べられそうな物は野菜のみ。
といっても、いつから放置されているか分からない野菜を食べるのも気が引けるが。
仕方ないとばかりに、なのははスーパーを後にした。
◆
様々な店が窮屈に並んだ商店街を歩きながら、C.C.は考える。
何か面白みのある店はないものか、と。
どうせ商店街なんて探したって大したものが見つかる訳もない。最初から何の期待もしていない。
ましてや一度全ての店に入ったC.C.にしてみれば、興味を引かれる物が何一つ無いということくらいは解り切っていたのだ。
しかし、空気的に自分だけサボるのもどうかと思ったので、一応は探す素振りを見せてはいるが。
ふと、立ち止まった。
C.C.の目の前にあるのは、一件のブティックだ。
ショーウィンドウには様々な婦人服が並べられており、華やかな雰囲気を演出していた。
気付けばちょっとした好奇心が、C.C.の心を満たしていた。
店内に入り、大量に掛けられた服を物色していく。
どうせ持って行くなら、出来るだけ自分のセンスに合った服がいい。
想像するのは、ルルーシュと共にガウェインに乗る時に来ていた白いスーツ。
あれならば動きやすいし、見た目も恥ずかしくはない。
そんな感じの婦人服は無いかと服をかき分ける。
やがて、C.C.の前に現れたのは、一着の紫の服。
「なんでコレが此処にあるんだ……」
ぽつりと呟く。
C.C.の視線の先、ハンガーに掛けられた服は、自分も見慣れたスーツだ。
紫の紳士的なデザインに、全てを覆う黒いマント。
それを手に取り、物色する。だが、見れば見るほど間違いない。
「ゼロの衣装……予備か?」
黒の騎士団の頭、ルルーシュが着るべき衣裳が、そこにはあった。
婦人服でもないのに、何故これがここにあるのか。C.C.には考えても思い当たる理由はない。
いや、一つだけ考えられるとすれば。
――私がここに来る事が解っていた?
C.C.の脳裏にそんな仮説が浮かぶ。確証はない。
だが、そうと考えれば態々ゼロの衣装の予備を用意してくれていた事にも説明が付く。
まぁ、相変わらず何を考えているのかはさっぱり解らないが。
それでもこれは結構な収穫だ、と。誰かに見られる前にゼロの衣装を自分のデイパックへとしまい込む。
背後で一匹この光景を眺めているチビ竜が居るが、別に問題はないだろう。人語が理解できても話せなければ意味が無い。
デイパックを抱え直す。良い物を見つけたとばかりに、含み笑いを浮かべる。
次は自分の衣装を――と思ったが、ふとガラスの窓から外を見れば、既になのはとペンウッドが集まっていた。
心中で舌を鳴らし、最初に暇つぶし感覚で時間を無駄にした事を悔やむ。
(……まぁいい。ゼロの衣装が手に入っただけでも良しとするか)
思考を前向きに保つ。
ただ一つ欲を言うのであれば、ゼロの仮面が欲しいが、無い物ねだりをしても仕方がない。
もしも今後ゼロの仮面を見つけることがあれば、その時は一緒に確保しておけばいい。
あまり期待はせずに、C.C.はブティックを後にした。
◆
「何か変わった事はあった……?」
なのはが問う。
質問の相手は、ペンウッドとC.C.の二人だ。
それぞれが商店街の探索を始めてから約10分と少し。なのはは特に何の収穫も得られなかった。
一応二人にも結果を聞くが、二人もなのはと同じらしい。
落胆の表情を浮かべながら、収穫なしをいう旨を告げる。
ペンウッドは相変わらずの不安そうな表情。C.C.は何を考えているのか解らない不敵な表情。
二人の顔を見比べながら、なのはは小さく肩を落とした。
「あ、いや……でも、変わったことというか……その……」
「何かあったんですか? ペンウッドさん」
「その……変な音が、聞こえるんだが……金属音みたいな……」
「金属音?」
頭に響くような金属音。ペンウッドが不安そうに告げる。
が、なのはには何の音も聞こえない。恐らくは空耳か、耳鳴りだろう。
「それは多分、ただの耳鳴りか何か――」
「いや。私にも確かに聞こえるぞ……何だこれは」
「C.C.も……?」
見れば、C.C.もペンウッドの傍らで、同じように耳を押さえていた。
流石に不審に思った。もしかしたら何かが近くで音を立てているのかも知れない。
きょろきょろと頭を回し、周囲に気を配る。
ふと、視線に入ったのは。ペンウッドの背後のショーウィンドウのガラスから飛び出してくる、赤い影だった。
「危ないッ!?」
「うわ……っ!?」
咄嗟に前方のペンウッドを押し倒す。
ペンウッドに覆いかぶさる形で、なのはが頭を伏せる。
同時になのはの頭上擦れ擦れという位置で、赤い龍が駆け抜けていった。
「あ、ああ……あのドラゴンが突然……!」
「くっ……フリード!」
『キュックル~!』
慌てふためくペンウッドをその場にしゃがみ込ませる。同時、フリードに臨戦態勢を取らせた。
何故あのドラゴンが突然襲い掛かってきたのか。その理由を、なのはは知らない。
カードデッキに定められた制限時間が切れた事も。
既にこの世には居ないクロノ・ハラオウンが、龍騎の力を使用した事で、その刻限は縮まっていたことも。
ただ一つ、今自分に出来る事があるとすれば、それは戦う事のみ。
絶対に誰も死なせない。今はなんとか、あのドラゴンに対抗するしかない。
即座にケリュケイオンを起動。なのはの手甲に、桜色の宝玉か輝いた。
真紅の無双龍が、再びガラスから姿を現す。
瞬間、ケリュケイオンの宝玉に文字が浮かぶ。
「レストリクトロック……!」
元々なのはが10年前に習得した魔法――レストリクトロック。
対象を拘束するバインド系の魔法だ。いくつもの桜色の輪が発生し、無双龍を取り囲む。
その巨体を押えこむにはやはり力が足りない。
拘束したそばから、その輪を一つ一つ引きちぎられていく。
最大級のバインド魔法を持ってしても、ドラゴンの動きを抑えきれない。
なのはの額を嫌な汗が伝う。
――Boost Up――
瞬間、ケリュケイオンが再び宝玉を輝かせた。
作動する魔法は、ブーストアップ。対象に何らかの補助効果を与えるブーストデバイス特有の魔法だ。
ブーストアップにサポートされたレストリクトロックは、より強固な枷となってドラゴンを縛りつける。
「なんで……私、詠唱してないのに!?」
『私が使用しました。』
「ケリュケイオン……!?」
疑問符を浮かべるなのはに、ケリュケイオンが答える。
目の前のドラゴンを拘束する為に、ケリュケイオンが自分の意志で魔法を使用したというのだ。
しかし、いくらケリュケイオンを使ったからと言って、補助系の魔法を覚えていないなのはがブーストアップを使える理由にはならない。
とすれば、思い当たる理由は自然と絞られてくる。
この会場内でだけ、魔法の制限が甘くなる、という説。
コンピュータで特殊効果を疑似的に再現する管理局の模擬戦を考えれば、この会場内でだけ許された芸当だと考える事が出来る。
もしくは、プレシアがデバイス自体に何らかの細工を施したか、という説。
この理由ならば、特に深く理由を考えずともプレシアの超技術で説明がつく。
(いや、今はそんなこといいか……それより――)
そこまで考えたが、これ以上考える事は無意味だ。
どこまで考えたって、それは所詮憶測の域を出ない。故に今は、考えるよりも先に、行動だ。
いくらバインドが強化されたからと言って、ドラゴンの強靭なパワーを完全に抑え込むには至らない。
今自分がこうして考え事をしている間にも、バインドの力は少しずつ弱まっているのだから。
ドラゴンが、その牙の隙間から灼熱の炎を漏らす。
誰かに裂かれたのか、ドラゴンの口には治り切っていない大きな傷が見受けられた。
その傷口からも熱気は漏れ、なのは達を照らす。
あの大きな口から、火炎攻撃を仕掛けるつもりだ。なのはにも、それは一目で解った。
とにかく今は逃げるべきか。いや――
『キュクル~!』
「フリード、行けるの……?」
『キュックル~!』
まだ戦える。少なくとも、フリードは戦うつもりだ。
なのはを、なのは達を守ろうとしている。闘志に燃えた瞳が、それを訴えかけていた。
それは機動六課で共に戦ったフリードだからこそなのだろう。
なのはを守り抜いて、再びキャロと一緒に元の世界に戻りたい。その思いは、なのは達人間に負けはしない。
「今なら、行けるよね……!」
フリードの闘志を受けて、なのはもまたその眼差しに闘志を宿す。
特殊な制限下のこの場所でならば、使える筈だ。フリードの力を発揮し、この場の皆を守る為の魔法。
――Drive Ignition――
ケリュケイオンの宝玉から、数本のラインが奔る。
光はなのはの指を伝い、デバイスが完全な起動を果たした事を示す。
なのはとフリードを桜色の光が包みこむ。
ただ見ているだけしか出来ないペンウッドとC.C.をよそに、光は拡がって行く。
守ってみせる。全ての命を、この手で守り抜いて見せる。その思いを胸に、キャロの姿を心に思い浮かべる。
「蒼穹を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ……!」
羽ばたくフリード。それを覆い隠すように現れた巨大な魔法陣。
次第にフリードの姿は見えなくなっていく。
同時に、無双龍の口元は今にも爆発しそうな熱気を放つ。
しかしそれでも、なのはは詠唱を止めようとはしない。
「来よ、我が竜フリードリヒ……!」
周囲を包みこむ光が、半透明から完全な桜色に変化。
最早外側から光の球体の中は見えはしない。
輝く球を、桜色のベールが包みこむ。
魔法陣から、光り輝く巨大な“龍”の姿が浮かび上がる。
目の前の真紅龍にも勝るとも劣らない巨大な体躯。羽ばたきだけで全てを吹き飛ばさんとする巨大な二対の翼。
「龍魂、召喚ッ!」
なのはが声を張り上げる。
同時、無双龍がその口に溜めこんだ火炎弾を吐き出す。
されど、その炎はなのは達には届かない。吐き出された炎をかき消さんばかりの勢いで、なのは達を包む光が弾ける。
現れたのは、白銀の翼竜。アルザスの守護竜――飛竜フリードリヒ。
その名の如く、空を羽ばたく巨大な竜。白銀の翼は風を巻き起こし、その雄々しき咆哮は周囲のガラスを粉々に砕く。
真紅眼の白竜は巨大な白き翼を羽ばたかせ、凄まじいプレッシャーで無双龍を威嚇していた。
全身のバインドを力づくで引き千切った無双龍もまた、その全身から放つプレッシャーで、フリードリヒを威嚇する。
『GUUUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
二頭のドラゴンの咆哮は、聞く者全てを委縮させる程の威圧感を放っていた。
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|~|万丈目準|~|
|~|ヒビノ・ミライ|~|
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*Alive a life ~タイムリミット(後編) ◆gFOqjEuBs6
商店街に立ち並ぶ店のうちの一つ。家電量販店の奥の事務室に、三人は座っていた。
まずはなのはとペンウッドから、自分達のこれまでの経緯をC.C.に話していた。
椅子に腰掛け、デスクに頬杖を付きながら、C.C.は考える。
(なるほどな……やはり参加者も皆別の世界の住人という訳か)
目の前のなのは達に聞いた話を簡単に纏めると、こうなる。
まず、目の前にいる高町なのはは、機動六課スターズ分隊の隊長。
傍らに居るシェルビー・M・ペンウッドはC.C.は知らない地球の、英国海軍の中将。
二人はそれぞれ別の世界の人間で、出会ったのはここに来て初めてだという。
現に“自分”でも知らない“自分”を知っている参加者ともここに来るまでで出会ったらしい。
確かにそう考えるなら、ゼストが言っていた“悪鬼”高町なのはと、目の前の高町なのはのイメージが食い違う事にも説明がつく。
疑念に抱いていたスバルについても、なのはと同様に納得がいく。
「つまり、ルルーシュも私とは別の世界の住人かもしれないということか」
「ルルーシュ……?」
「ああ、私の共犯者……まぁ、仲間だ。私にとっては大切な男なんだがな」
それを聞いたなのはが、デイパックから参加者名簿を取り出した。
どうやら敵味方と死亡者の区別を付けているらしく、デスクに置いてあったペンを手に取り、ルルーシュの名前を丸で囲む。
「一応聞くけど、ルルーシュさんはこのゲームには乗らないってことでいいのかな?」
「さぁ、どうだろうな。少なくともプレシアの言いなりにはならないだろうが」
「なら、敵じゃないね」
安心したような表情で、話を続ける。
別にプレシアの言いなりにはならないだろうと言っただけで味方とまでは言っていないが。
まぁ、変に敵意を持たれてルルーシュの仇になるよりはマシだが。
そうだな、と肯定の返事を返す。
「じゃあ、次にC.C.の話を聞かせて貰えるかな。出来れば、さっきの反応の理由も」
「さっきの反応……? あぁ、私の第一声についてか」
なのはに問われ、今度はC.C.が自分の情報を開示する。
今回はゼストの時とは違う。それぞれが並行世界から連れて来られたという問題が話の前提である為に、ゼストよりも詳しく話さなければならなかった。
単にゼストの方がなのはと比べて相手に無関心だから、という理由も多分にあるのだろうが。
故に、まずは自分が元居た世界の出来事について話す。
自分はブリタニアという大国が、世界の半数以上を支配している地球の住人だということ。
自分とルルーシュ、シャーリー、カレン。それから、転校してきたスバル・ナカジマは、
ここに飛ばされる直前まで確かに、占領された日本――即ちエリア11に居たということ。
ここまで話した所で、なのはの反応が変わる。日本が占領されたことも気になるが、やはりその世界でのスバルの役割が最も気に掛ったらしい。
C.C.自身もスバルと直接関わりがある訳ではないため、学生として転校してきたということまでしか知らないと告げておいた。
しかし、全ての情報を話した訳では無い。言わなくてもいい情報まで下手に漏らす必要はないからだ。
故に、黒の騎士団とゼロに関する情報は避けて話す。
自分はあくまでアッシュフォード学園に通うルルーシュ・ランペルージの仲間だと言う事で話を通した。
ここまで話した時点で、なのははシャーリーについても友好的な関係を示す丸を付けていた。
そしてここから話すのは、この会場に来てからの出来事。
自分が最初に転送されたのは、ここより北の神社。初めて出会った相手は、ゼスト・グランガイツと名乗る武人。
神社で簡単な自己紹介と情報の交換を済ませた二人は、この商店街に仲間と情報を求めてやってきた。
ギブアンドテイクの暗黙の了解の元に成された契約については話していない。別に話す必要も無いと考えたからだ。
ここでなのは達が疑問に感じるのは、一緒に行動していた筈のゼストは何処へ行ったのか、という事だろう。
それについては、別に隠す必要はない。寧ろそこを有耶無耶にすれば、かえって怪しまれる可能性もある。
ゼストは現在、付近の施設を調べるために、まずは地図上の「黒の騎士団専用車両」に向かった、と答えた。
その理由を付けるのは至って簡単。商店街を調べるだけならばC.C.一人で十分だし、ブリッツキャリバーを持っているゼストの方が移動が楽だからだ。
商店街中の電気が点いている理由は、その際に自分が点けて回ったからだ。簡単に見て回ったが他に人は居なかった、とも付け加えた。
なのはとペンウッドは何の疑いも持たず、ここまでの話を聞いた。
実際、それ程大きな嘘は言っていないのだが。
「な、なるほど……な、なら我々はここでゼストという男を待った方がいいのかな……」
「ちょっと待って。C.C.、貴女はさっき私を見た時、聞いていた話とは違うっていったよね?
それは騎士ゼストから聞いた話ってことでいいのかな?」
「あぁ、そうだな。どうやら随分とお前に御執心だったようだぞ?」
「その話、詳しく聞かせて貰えるかな」
御執心と、随分と遠まわしな表現を取る。一応嘘は言っていない。
C.C.は含み笑いを浮かべるが、なのははまるで意に介さず、話を続ける。
なんだ、こいつも冗談が通じないのか。などと心中で漏らしながら、C.C.はゼストについて話すことにした。
「騎士曰く、“高町なのはは災厄を撒き散らし、復讐の為なら無関係な人間をも殺害する悪鬼”だそうだ。詳しくは知らないが」
「な……ッ!?」
これには流石に面食らったらしい。
至って冷静な表情でC.C.の話を聞いていたなのはも、驚かずには居られなかった。
無理もないだろう。並行世界とはいえ、自分が復讐の為に殺人を犯しているなどと考えたくもない。
「まぁ、奴が私に話した内容を他の誰かに話さないという保証は何処にもないし、
本当にこのゲームを終わらせたいなら、早いうちに誤解は解いた方がいいだろうな」
「た、確かに……早く誤解を解かないと、無駄な争いに発展するかも知れない……」
C.C.の言葉に、ペンウッドも同意する。
無言のなのはも、事の重大さは理解している筈だ。
自分はこんなにゲームを終わらせたいと願っているのに、同じ脱出派の人間から命を狙われてしまったのでは目も当てられない。
とにかく今は行動するしかない。出来る限り早くゼストの誤解を解いて、一緒にプレシアに立ち向かうしかない。
それはなのはにも解っているのだろうが……と、C.C.は冷静な瞳でなのはを観察する。
「そうだね……今はまず騎士ゼストの誤解を解いて、一刻も早く仲間を集めないといけない
でも、本当にゲームに反対する人なら騎士ゼストの話を聞いたとしても、いきなり襲いかかってくる前に私達の話を聞いてくれる筈だよ」
言いながら、立ちあがる。
確かになのはの言い分には一理ある。現にゼストの話を聞いたC.C.もこうして誤解を解くことが出来たのだ。
それも割と簡単に。いきなり襲いかかってくるような相手なら骨が折れるが、そうでなければ話をつけるのもそう難しい話では無い。
「だから、私たちの行動方針は変えません。この付近の施設を巡りながら工場に向かいます。
その途中で騎士ゼストと合流出来た場合は、誤解を解いて仲間になって貰えばいい。」
ゼストもまた殺し合いに反発しているのであれば、そう難しくはない筈だと付け加える。
ペンウッドも了解した、と立ちあがる。二人が立ちあがった手前、自分だけ座っている訳にも行かない。
やれやれとばかりに、C.C.も立ち上がり、二人に肩を並べた。
「で、これからどうするんだ?」
「C.C.はまだこの商店街の全てを把握した訳じゃないんだよね?」
「あぁ、正直私はあまり真剣に探索していないからな……ただ電気を点けて回っただけと言ってもいいな」
「や、ややこしい真似を……」
「何か文句でもあるのか? ペンウッド」
「い、いや……別に何も……」
小声で言うペンウッドをきっ、と睨む。臆病者の海軍中将はすごすごと目を反らした。
元々自分が誰かの下につく事は滅多に無いのだが、ペンウッドの配下に付く事はもっと特別あり得ないなと、この瞬間判断した。
黒の騎士団で例えるならば、あの玉城真一郎の下に付けと言われるくらいあり得ない話だ。
「それじゃあ、もしかしたら騎士ゼストが帰ってくるかもしれないから、三人でもう一度この商店街を探索しよう
手分けして探せば、もしかしたら何か役に立つものが手に入るかも知れないからね」
「わ、わかった。そうしよう」
「あぁ、私もそれで構わないぞ」
次の行動が決まれば話は早い。なのはもペンウッドも、自分の荷物を纏めて事務室から出て行く。
C.C.も少しくらいいは役に立たなければ、となのは達に追随する。
そんな時だった。ペンウッドが、小さな黒い箱を取り出し、自分のポケットにしまった。
C.C.は、その一瞬の行動を見逃さなかった。
(あの箱……確か私の支給品にも……)
デイパックの中身を思い起こす。
確か、フリードが詰められていた時、調度あれと似たような“茶色の箱”を見たような気がした。
特に説明書も見当たらなかったし、使い道もさっぱり解らなかった為にずっと放置していたのだが。
まぁいいか、と。暫し考えた挙句、C.C.はそれについては深く考えないことにした。
大した役に立つ物とも思えないし、考えるだけ時間の無駄だと判断したのだ。
C.C.は気付いていなかった。
今自分が目撃したのは、カードデッキと呼ばれる立派な武装。
そして、自分の支給品にもまた、カードデッキと呼ばれる物が入っていた事。
カードデッキにはその危険性と、使用方法を記した小さな紙切れ――説明書が付属していること。
しかし、デッキと一緒に支給されたのはフリード。生き物であるフリードが、長い時間デイパックに閉じ込められればどうなるか。
勿論、心理的なストレスも溜まる。そうなれば、デイパックの中で必要以上に動きまわる事もある。
その結果、本来C.C.が読む筈だった説明書はぐしゃぐしゃに丸まり、デイパックの奥底に追いやられてしまったのだ。
デイパックの奥に追いやられた紙屑など、C.C.は気にしなかった。
故にC.C.は気付かない。カードデッキが、残り少ないタイムリミットをカウントしていたことにも。
◆
商店街の中の小さなスーパー。地図にスーパーと書かれる程の大手スーパーと比べると、やはり見劣りする。
どんな商店街にでも一つ以上はあるような、小さな小さなスーパーマーケットだ。
売っている物や規模から考えても、先程見て回ったスーパーの食料品売り場を小さく凝縮したような印象を受ける。
それでも何か役に立つものは、と商品棚を物色する。
その手を進めながら、同時に考える。
(騎士ゼストの世界では私が殺人者……一体どういうことなんだろう……)
どうせ並行世界だ。そんな事を考えてもどうにもならないという事は良く解っている。
それでも考えられずには居られなかった。数時間前スーパーに立ち寄った際に、金居はこう言った。
世界は違っても、人物の特徴までは変わらない、と。それは他の世界のスバルやティアナの話を聞けばわかる事だ。
だが、まさか自分が殺人者になるとは、考えも及ばなかった。
そして、なのはが懸念する事はもう一つある。
(もしもここで、私の目の前で大切な人たちが殺されたら……私はどうなるんだろう)
考えたくはない。だが、もしもそうなってしまったら。
もしもティアナやエリオを、明確な殺意を持って殺した奴が目の前に現れたら。
自分はもしかしたら、復讐をしようと考えるかもしれない。
このゲームは、そう言った事が簡単に起こりうるゲームなのだから。
(って、今はまず誤解を解こうとしてるのに、こんなこと考えてちゃいけないよね)
気付かぬうちに暗い考えに捉われそうになっていた自分に気付く。
そうだ、自分がこんな様子では、誤解を解くこと所ではなくなってしまうではないか。
自分の目的は出来る限り多くの命を保護し、脱出することの筈だ。今は極力前向きに考えよう。
自分の頬を軽く叩き、喝を入れる。
「はぁ……ここも食料らしい食料は無しかぁ」
気を取り直し、いつも通りの顔で呟く。
先程のスーパー同様、生で食べられそうな物は野菜のみ。
といっても、いつから放置されているか分からない野菜を食べるのも気が引けるが。
仕方ないとばかりに、なのははスーパーを後にした。
◆
様々な店が窮屈に並んだ商店街を歩きながら、C.C.は考える。
何か面白みのある店はないものか、と。
どうせ商店街なんて探したって大したものが見つかる訳もない。最初から何の期待もしていない。
ましてや一度全ての店に入ったC.C.にしてみれば、興味を引かれる物が何一つ無いということくらいは解り切っていたのだ。
しかし、空気的に自分だけサボるのもどうかと思ったので、一応は探す素振りを見せてはいるが。
ふと、立ち止まった。
C.C.の目の前にあるのは、一件のブティックだ。
ショーウィンドウには様々な婦人服が並べられており、華やかな雰囲気を演出していた。
気付けばちょっとした好奇心が、C.C.の心を満たしていた。
店内に入り、大量に掛けられた服を物色していく。
どうせ持って行くなら、出来るだけ自分のセンスに合った服がいい。
想像するのは、ルルーシュと共にガウェインに乗る時に来ていた白いスーツ。
あれならば動きやすいし、見た目も恥ずかしくはない。
そんな感じの婦人服は無いかと服をかき分ける。
やがて、C.C.の前に現れたのは、一着の紫の服。
「なんでコレが此処にあるんだ……」
ぽつりと呟く。
C.C.の視線の先、ハンガーに掛けられた服は、自分も見慣れたスーツだ。
紫の紳士的なデザインに、全てを覆う黒いマント。
それを手に取り、物色する。だが、見れば見るほど間違いない。
「ゼロの衣装……予備か?」
黒の騎士団の頭、ルルーシュが着るべき衣裳が、そこにはあった。
婦人服でもないのに、何故これがここにあるのか。C.C.には考えても思い当たる理由はない。
いや、一つだけ考えられるとすれば。
――私がここに来る事が解っていた?
C.C.の脳裏にそんな仮説が浮かぶ。確証はない。
だが、そうと考えれば態々ゼロの衣装の予備を用意してくれていた事にも説明が付く。
まぁ、相変わらず何を考えているのかはさっぱり解らないが。
それでもこれは結構な収穫だ、と。誰かに見られる前にゼロの衣装を自分のデイパックへとしまい込む。
背後で一匹この光景を眺めているチビ竜が居るが、別に問題はないだろう。人語が理解できても話せなければ意味が無い。
デイパックを抱え直す。良い物を見つけたとばかりに、含み笑いを浮かべる。
次は自分の衣装を――と思ったが、ふとガラスの窓から外を見れば、既になのはとペンウッドが集まっていた。
心中で舌を鳴らし、最初に暇つぶし感覚で時間を無駄にした事を悔やむ。
(……まぁいい。ゼロの衣装が手に入っただけでも良しとするか)
思考を前向きに保つ。
ただ一つ欲を言うのであれば、ゼロの仮面が欲しいが、無い物ねだりをしても仕方がない。
もしも今後ゼロの仮面を見つけることがあれば、その時は一緒に確保しておけばいい。
あまり期待はせずに、C.C.はブティックを後にした。
◆
「何か変わった事はあった……?」
なのはが問う。
質問の相手は、ペンウッドとC.C.の二人だ。
それぞれが商店街の探索を始めてから約10分と少し。なのはは特に何の収穫も得られなかった。
一応二人にも結果を聞くが、二人もなのはと同じらしい。
落胆の表情を浮かべながら、収穫なしをいう旨を告げる。
ペンウッドは相変わらずの不安そうな表情。C.C.は何を考えているのか解らない不敵な表情。
二人の顔を見比べながら、なのはは小さく肩を落とした。
「あ、いや……でも、変わったことというか……その……」
「何かあったんですか? ペンウッドさん」
「その……変な音が、聞こえるんだが……金属音みたいな……」
「金属音?」
頭に響くような金属音。ペンウッドが不安そうに告げる。
が、なのはには何の音も聞こえない。恐らくは空耳か、耳鳴りだろう。
「それは多分、ただの耳鳴りか何か――」
「いや。私にも確かに聞こえるぞ……何だこれは」
「C.C.も……?」
見れば、C.C.もペンウッドの傍らで、同じように耳を押さえていた。
流石に不審に思った。もしかしたら何かが近くで音を立てているのかも知れない。
きょろきょろと頭を回し、周囲に気を配る。
ふと、視線に入ったのは。ペンウッドの背後のショーウィンドウのガラスから飛び出してくる、赤い影だった。
「危ないッ!?」
「うわ……っ!?」
咄嗟に前方のペンウッドを押し倒す。
ペンウッドに覆いかぶさる形で、なのはが頭を伏せる。
同時になのはの頭上擦れ擦れという位置で、赤い龍が駆け抜けていった。
「あ、ああ……あのドラゴンが突然……!」
「くっ……フリード!」
『キュックル~!』
慌てふためくペンウッドをその場にしゃがみ込ませる。同時、フリードに臨戦態勢を取らせた。
何故あのドラゴンが突然襲い掛かってきたのか。その理由を、なのはは知らない。
カードデッキに定められた制限時間が切れた事も。
既にこの世には居ないクロノ・ハラオウンが、龍騎の力を使用した事で、その刻限は縮まっていたことも。
ただ一つ、今自分に出来る事があるとすれば、それは戦う事のみ。
絶対に誰も死なせない。今はなんとか、あのドラゴンに対抗するしかない。
即座にケリュケイオンを起動。なのはの手甲に、桜色の宝玉か輝いた。
真紅の無双龍が、再びガラスから姿を現す。
瞬間、ケリュケイオンの宝玉に文字が浮かぶ。
「レストリクトロック……!」
元々なのはが10年前に習得した魔法――レストリクトロック。
対象を拘束するバインド系の魔法だ。いくつもの桜色の輪が発生し、無双龍を取り囲む。
その巨体を押えこむにはやはり力が足りない。
拘束したそばから、その輪を一つ一つ引きちぎられていく。
最大級のバインド魔法を持ってしても、ドラゴンの動きを抑えきれない。
なのはの額を嫌な汗が伝う。
――Boost Up――
瞬間、ケリュケイオンが再び宝玉を輝かせた。
作動する魔法は、ブーストアップ。対象に何らかの補助効果を与えるブーストデバイス特有の魔法だ。
ブーストアップにサポートされたレストリクトロックは、より強固な枷となってドラゴンを縛りつける。
「なんで……私、詠唱してないのに!?」
『私が使用しました。』
「ケリュケイオン……!?」
疑問符を浮かべるなのはに、ケリュケイオンが答える。
目の前のドラゴンを拘束する為に、ケリュケイオンが自分の意志で魔法を使用したというのだ。
しかし、いくらケリュケイオンを使ったからと言って、補助系の魔法を覚えていないなのはがブーストアップを使える理由にはならない。
とすれば、思い当たる理由は自然と絞られてくる。
この会場内でだけ、魔法の制限が甘くなる、という説。
コンピュータで特殊効果を疑似的に再現する管理局の模擬戦を考えれば、この会場内でだけ許された芸当だと考える事が出来る。
もしくは、プレシアがデバイス自体に何らかの細工を施したか、という説。
この理由ならば、特に深く理由を考えずともプレシアの超技術で説明がつく。
(いや、今はそんなこといいか……それより――)
そこまで考えたが、これ以上考える事は無意味だ。
どこまで考えたって、それは所詮憶測の域を出ない。故に今は、考えるよりも先に、行動だ。
いくらバインドが強化されたからと言って、ドラゴンの強靭なパワーを完全に抑え込むには至らない。
今自分がこうして考え事をしている間にも、バインドの力は少しずつ弱まっているのだから。
ドラゴンが、その牙の隙間から灼熱の炎を漏らす。
誰かに裂かれたのか、ドラゴンの口には治り切っていない大きな傷が見受けられた。
その傷口からも熱気は漏れ、なのは達を照らす。
あの大きな口から、火炎攻撃を仕掛けるつもりだ。なのはにも、それは一目で解った。
とにかく今は逃げるべきか。いや――
『キュクル~!』
「フリード、行けるの……?」
『キュックル~!』
まだ戦える。少なくとも、フリードは戦うつもりだ。
なのはを、なのは達を守ろうとしている。闘志に燃えた瞳が、それを訴えかけていた。
それは機動六課で共に戦ったフリードだからこそなのだろう。
なのはを守り抜いて、再びキャロと一緒に元の世界に戻りたい。その思いは、なのは達人間に負けはしない。
「今なら、行けるよね……!」
フリードの闘志を受けて、なのはもまたその眼差しに闘志を宿す。
特殊な制限下のこの場所でならば、使える筈だ。フリードの力を発揮し、この場の皆を守る為の魔法。
――Drive Ignition――
ケリュケイオンの宝玉から、数本のラインが奔る。
光はなのはの指を伝い、デバイスが完全な起動を果たした事を示す。
なのはとフリードを桜色の光が包みこむ。
ただ見ているだけしか出来ないペンウッドとC.C.をよそに、光は拡がって行く。
守ってみせる。全ての命を、この手で守り抜いて見せる。その思いを胸に、キャロの姿を心に思い浮かべる。
「蒼穹を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ……!」
羽ばたくフリード。それを覆い隠すように現れた巨大な魔法陣。
次第にフリードの姿は見えなくなっていく。
同時に、無双龍の口元は今にも爆発しそうな熱気を放つ。
しかしそれでも、なのはは詠唱を止めようとはしない。
「来よ、我が竜フリードリヒ……!」
周囲を包みこむ光が、半透明から完全な桜色に変化。
最早外側から光の球体の中は見えはしない。
輝く球を、桜色のベールが包みこむ。
魔法陣から、光り輝く巨大な“龍”の姿が浮かび上がる。
目の前の真紅龍にも勝るとも劣らない巨大な体躯。羽ばたきだけで全てを吹き飛ばさんとする巨大な二対の翼。
「龍魂、召喚ッ!」
なのはが声を張り上げる。
同時、無双龍がその口に溜めこんだ火炎弾を吐き出す。
されど、その炎はなのは達には届かない。吐き出された炎をかき消さんばかりの勢いで、なのは達を包む光が弾ける。
現れたのは、白銀の翼竜。アルザスの守護竜――飛竜フリードリヒ。
その名の如く、空を羽ばたく巨大な竜。白銀の翼は風を巻き起こし、その雄々しき咆哮は周囲のガラスを粉々に砕く。
真紅眼の白竜は巨大な白き翼を羽ばたかせ、凄まじいプレッシャーで無双龍を威嚇していた。
全身のバインドを力づくで引き千切った無双龍もまた、その全身から放つプレッシャーで、フリードリヒを威嚇する。
『GUUUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
二頭のドラゴンの咆哮は、聞く者全てを委縮させる程の威圧感を放っていた。
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