メリーの居る生活
メリーさんと一緒!!

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メリーの居る生活 六日目


4スレ目>>311
作: ◆Rei..HLfH.
メリーの居る生活 五日目 前編・後編』の続編

「おら、隆一起きろ。学校遅れるぞ」
「ん~…」
まどろみに漂う僕のことを、誰かが呼んでいる。
「今日は登校時間が遅めだが、そろそろ起きねえとアウトだぞ」
誰だ?…メリーか?
「ったく…、仕方ねぇ。目覚めの接吻を受けろ」
…この声は――――!?

瞼を開けると、ヤツの顔が目の前で、どアップで展開されていた。
「ぬぁらああああああああああ!!」
「うおっと…」
「ハアッ…!ハアッ…!」
今朝一番の力を使って、【目覚めの接吻】を回避する。
「グットモーニング」
「…変態はお帰りください」
爽やかな笑顔の変態に、悪態をつく。
「つれないねぇ、こうやって幼馴染が起こしに来てやったのに」
「…『変態が襲いに来てやった』だろ?」
「起きねえと、食っちまうぞ?」
「わかった、起きる。起きるから貞操は勘弁してくれ」
なんだかよくわからない起こし方をされて、とりあえず一階に行く。

「何だって、お前が家にいるんだよ」
「行っただろ?起こしに来たって」
「だってお前、学校はどうしたんだよ?」
「まったく…早く覚醒しろやコラ」
呆れ果てたといった様子で、肩をすくめ、
テーブルに着いた僕にゲンコを繰り出す。
「いてて、何しやがる…」
「昨日どれだけ大変な思いしたか忘れたか?」
「昨日…?……あー!!そうかそうか!!今日は文化祭だっけか?」
昨日は幼女の面倒を見てたおかげで、すっかりさっぱり記憶から抜けていた。
「ったく…今何時か見てみ」
「え?」
壁掛け時計を見ると、9時45分を指していた。

「俺が起こしに着たことを感謝するんだな」
「いい時計だろ?」
「顔洗って来い。朝飯はの仕度しておいてやる」
渾身のギャグを放ったつもりだが、スルーされる。
大人しく顔を洗いに洗面台にフラフラと歩いていく。

ジャー…
バシャバシャ!!
「フヒー!!効いたぁー…」
冷水を顔面に浴び、思考が冴えた。
委員長補佐は、10時20分に来てくれとか言ってたな。
のんびり歩いても着く時間だ。
「まぁ、早めに出るに越した事は無いか……ん?」
タオルで顔を拭いていると、風呂場に誰かが入っていることに気づいた。
おばあちゃんかな?
「おばあちゃん、僕今日文化祭だから、良かったら来t―――」

そこには、湯船に使って鼻歌でも歌わんとばかりにご機嫌なメリーがいた。
「♪~♪♪♪~―!!………」
こちらA21部隊、ターゲットに接触。
さらに先方はこちらに気づいた、これからスキンシップを試みる。
「……100点」
「死ねぇ!!」
メリーは近くにあった風呂オケを力いっぱい僕に投げつけた。

ガチャ
「おう、卵とかいくつか使わせてもらったぜ―って、どうした?デコ痛そうにさすって」
「…男の勲章だ」
おデコを撫でながら、リビングに入る。
「そういえば、お前が朝飯作るのって久しぶりだな」
「あー…二ヶ月ぶりって所か?」
「まぁ、そんな所だな」
テーブルを見ると、黄色い物が皿の上にてんこ盛りに盛られていた。
「…相変わらず、玉子焼き好きなんだな」
イスに座りながら、良い匂いを放つ玉子焼きを口に運ぶ。
「卵こそ最強の食材だ。…よし、食うか」
後片付けしていた俊二がテーブルに着く。
「玉子焼き以外に、何か作れるようになった?」
「いや、全然ダメだ」
「玉子焼き作れて、何で他のが作れないんだよ…」
「食材に対する愛情だろうな」
「この前、沸騰したお湯に卵の『中身』をぶち込んで【ゆで卵】とか言ったよな?」
「…愛情だ」
玉子焼きを二人で黙々と食べているところに、メリーが部屋に入ってきた。

ガチャ
「ふぅ…」
自分専用のパジャマ(新調)を着た彼女の頬は、
軽く赤らめていて、まさに風呂上りといった感じだ。
「お?おはようさん。今日は早いんだな」
俊二が風呂から出てきたメリーに軽く挨拶をする。
「あら、俊二までいるの?…あぁ、今日は文化祭だしね」
「…なんで、メリーが知ってて君が忘れてるのかね?」
「陰謀ですよ。騙されんでください」
「…なぁ、メリー。お前も学園祭来るか?」
「え?」
「―ぶっ!?」
何を血迷ったか、俊二がメリーを誘い出した。
「総督、お待ちください!!彼女は危険です!!(モゴモゴ)」
「どういう意味よ!?」
「そのまんまだ!!(モゴモゴ)」
「口に物入れて喋らないでよ!!」
ドス!!
「ごはッ!?」
鋭いボディブローをまともに食らい、口の中の物を吐きそうになる。
「おーっと。コーチから牛乳が差し出された!!ここで試合終了ー!!」
俊二が棒読みな実況を交えつつ、僕に牛乳を差し出す。
「んぐ…んぐ…くはぁ…」
今の一撃にいろいろな物を衰退させられ、そのまま机にうつ伏せになる。
「…で、その文化祭に私も行っていいわけ?」
「あぁ、学校の売り上げに少しでも貢献しないとな」
「出費は隆一持ちね」
「金さえ入ればOKだ」
僕が反論できない状態で、事が進んで行った。

―――――――――――

「隆一、鍵閉めた?」
「おう。カバン持ってこなかったが、いいのか?」
「今日は必要ない。荷物になるだけだ」
「必要なのは財布だけ~♪」
手さげ袋を持ったメリーが能天気にはしゃぐ。
(手さげ袋は、お土産を入れるために持っていくそうだ)
「やけにご機嫌だな…」
「さて、のんびり行くか」

午前10時
学校にはのんびり歩いても10分でつく。
僕達は三人並んで学校に向かった。

「ところでさ、今朝はメリー早起きじゃないか?」
「ん?」
「いつもはもっと遅い時間に起きるはずだろ?」
「あ~…。まぁ、気にしない気にしない」
言いながらヘロヘロと手を上下させる。
「何か隠してるだろ?たとえば昨日寝れなくて、眠りの浅いまま朝が来たとか」
「そ、そんな事無いわよ?」
裏返った声で言われても説得力無いな。
「たとえば、文化祭が楽しみだったり?」
「ち、違うわよ!!」
あ、ムキになってる。
「やっぱりメリーって子d――」
「うるさい!!」
シュル カチャ―
ドス!!
「ぐふぁ!?」

メリーが何かを出した瞬間
迅速の速さで、その『何か』が僕の横腹を突いた。
横っ腹に激痛が走り、崩れ落ちる。

「か…かはっ…」
「おーおー、見事に入ったねコリャ」
俊二が方膝を付いて悶えてる僕を覗き込む。
「ふん!!」
カチャ
見ると、メリーは怪しく光る棒を折りたたんで、腰に下げたポシェットにしまっていた。
「あれで突かれたのかよ…いってぇ…」
ズキズキと痛む横腹は、さするのも億劫なほどダメージを負っていた。

痛みが引いて来て歩き出した頃、僕らは目の前に見知った後姿を見つけた。

「おーい山やーん!!」
のそのそと歩いているクマ…もとい、幼馴染に声をかける。
「あぁ!?」
すぐさま鈍く光る目がこっちに向けられる。

「…んだよ、お前らか」
「おっす」
「よう、大将」
近くまで行き、挨拶する。
「おう。お前らも20分登校か?」
「まぁな、お前地に戻ってるぞ」
「おっと、………」
俊二に指摘され、山やんはあわてて不良の仮面をかぶる。
『地』とは、山やんの性格の事である。
「………」
「………」
山やんとメリーの目が会った。
このまま乱闘に発展するかと思ったが、意外にも…。
「ッチ…」
「フン…!!」
お互いそっぽを向く。
「何やってんだ?お前らは」
「何か通じるものでもあったんだろ?」
「いや、そうは見えないけどな…」

「――ん?」
俊二と話していると、山やんが何かに気付いた。
「どうした?山やん」
「あぁ…お前ら、先学校行ってな…」
「またか…?ご苦労なこったな」
「?…え?」
状況を理解していないメリーが、一人困惑している。
「先行ってるぞー」
僕はメリーの手を引いて、さっさと歩く俊二に付いて行った。
「……………フン」
山やんは、無愛想に返事をした。

「ねぇ、隆一どうして山…やん?を置いていったの?」
しばらく歩いたところで、メリーが聞いてくる。
「あぁ、他校の学生が山やんを倒そうとして、よく待ち伏せしてるんだ」
「ずいぶん前から付いてきてたみたいだが、しびれ切らして出てきた…って所か」
それに気付いていて、何故山やんに教えないのか…この男は。
「…もしかして、日常茶飯事なわけ?」
メリーが訝しげに聞いてくる。
「どんぐらいの割合かな?」
「二日に一回は確実に来るとか言ってたな」
改めて考えると、山やんは凄い奴だ。
…まぁ、僕の左には互角に山やんと渡り合える委員長と、
右には、本気を出せば山やんを倒せるであろう女性が居るのも事実だ。

「山やんの事だ、3分もあれば終わるだろ」
「まぁ、奴もそれを予想して早めに出てきたのだろう」
「あんた達…変わってるわね」
メリーが付いていけないといった様子で、ぼやいた。

―――――――――

「おー!!やってるやってる」
「賑やかなこったな」
「へー…なかなか面白そうね」
メリーは大人ぶってはいるが、内心うずうずしているのが見て取れる。
「で、どこから行くの?」
「まずは職員室だな。出席取らんと」
「あぁ、欠席扱いになるしな」
僕と俊二はスタスタと職員室のある校舎に向かった。
「ムゥ…」
ちょっとふて腐れたメリーも仕方なく後を付いていった。

基本的に外では飲食店や、規模の大きい出し物が並んでいる。
「焼きそばいかがっすかー!?」「焼きトウモロコシ美味いよー!!よっといでー!」
活気に満ちた掛け声や客呼びの声。笑い声が絶えない人のざわめき。
香ばしいトウモロコシの焼けた匂いが、夏に近所の神社で行われる祭りを思い出させる。
そう。学校中が今祭り一色に染まりきっている。
「今年もいい感じになってるな」
俊二がサイフの中身を確かめながら店の配置を把握している。
こいつは露店全制覇を目指しているのだろう。
「今回もやるのか?よくそんな金があるな…」
「今日と言う日に使わなければ、いつ使うというのだ?」
「この日ぐらいにしか、金の使い道は無いのかお前は」


職員室に着いた僕らは、メリーを廊下に待たせ出席を取る為に中に入っていった。

ガララッ
「うおっしゃーっす」
「おはようございますっと」

今日の職員室は、職員より生徒の方が多く出入りしている。
全校生徒が出席を取るためと言う事もあるが、職員に宣伝している生徒もチラホラといるようだ。
そのような理由もあってか、いつもはガランとしている職員室も、今日ばかりは騒がしい。
「出席確認はあそこか…人ごみの核だな」
「ははは。蹴散らしたくなる程の人ごみだな」
二人で黒い笑みを浮かべながら、黒い山の塊を見る。

こんな時こそ、あいつの出番。
時間も丁度いい頃合だ。
「3…2…1…」
ガラララッ!!
俊二のカウントが終わったと同時に、また生徒が一人職員室に入ってきた。
生徒の群れの一人が、入ってきたその生徒見るやいなや、周りの生徒に声をかける。
その会話の内容が群れ全体に渡り、アレほどざわめいた群れが一瞬にして静まり返る。

「おう山崎、早かったな」
「…ザコだ、あんなもん」
入ってくるなり無愛想な返事をし、山やんは生徒の群れにズンズンと突き進んで行く。

山やんの通り道は、生徒達が彼を避けるためいつも開いている。
僕らは、その後ろについて行けばそのまま直通で出席を取る事ができる。
山やんのすぐ後ろを歩けるような奴は、学校広しといえども一部の人間だけだ。

こうして、コバンザメのような手口で、僕らは苦労もせずに出席を取ることができた。
「…さってと。出席も取ったし、さっさと教室にでも行っておくか」
「そうだな…、咲も待ってるだろ」
騒がしい職員室を出て、メリーの座っているベンチに向かう。

「あれ?メリーいないじゃん」
「ぬ…?こんな時にいなくなるとはな…迷子にでもなられたら厄介だぞ」
確かにこの祭り騒ぎじゃ、はぐれたらすぐには見つけられないだろう。
…だが、その心配はいらなかったようだ。
職員出入り口から外へ出たすぐ近くの屋台で、メリーはお好み焼きをジーっと見つめていた。

「…もしかしてお前朝飯食ってきてないとか?」
お好み焼きを見つめて、よだれでも垂らしそうなメリーに近づき、問う。
もし今朝、浅い眠りから起きてすぐに風呂に直行してるのなら、メリーは朝食という朝食は取っていない。
仕度して、玉子焼きを2.3個口に放り込んで、すぐに僕たちと一緒に出てきたのだから。

「う…そ、そんなこと無いわよ?」
と言いながら、彼女の視線はいまだにお好み焼きに行っている。
「…ったく」
300円か…。
僕はズボンのポケットから小銭を探った。
「一個くれ」
「はいよ、300円になりまっす」
「ん」
ポケットから300円を出し、会計担当の学生に渡す。

「はい、毎度あり。あちちちち」
調理担当の学生が、出来立ての好み焼きを無造作にパックに詰め込み、僕のほうに差し出す。
「ん、…あちちち」
その渡されたお好み焼きを、そのままメリーに渡す。
メリーはきょとんとした様子で、差し出されたお好み焼きを見ていた。
「早く持ってくれ、熱いんだよこれ」
「え?あ、…うん」
慌てて僕からお好み焼きを受け取る。
だが、彼女が持った場所は、最も触れてはいけない場所だった。
「熱ッ…!!」
メリーはパックの底面を持った。
そのせいで受け取った瞬間、その熱さに驚いてそのパックを放してしまった。
「ッ―――バカ!!」
放されたパックは、万有引力の法則に忠実に真っ逆さまに落ちる。
「――――あ!!」

地面に落ちるスレスレの高さで、お好み焼きはその価値を落とさずに済んだ。
「熱い…」
時々自分の反射神経には驚かされる物がある。
火傷になるかならないかの温度が僕の右手に当てられている。
「…ほら、今度は横側を持て」
呆然としているメリーに再度お好み焼きを渡す。
逆さまになってパックの中身がシェイクされたが、お好み焼きだから大丈夫だろう。
「ご…ごめんね。隆一…」
両手でパックを受け取ったメリーが、謝ってくる。
「あー…、こういう時に言う言葉は『ありがとう』だろ?」
照れくさくなって、メリーから目を背けて頭をかく。
「…………」
「…………?」
反応が無いのに気づき、後ろを向こうとした瞬間。
ドガッ!!
「ゴハッ!?」
いきなり脇腹に凄まじい衝撃が襲いかかった。
「な…何を…」
痛む脇腹を押さえ、メリーの方を向く。

見たところ棒では殴らなかったようだ。
両手はお好み焼きを持っていて塞がっている。
…ということは。
「蹴ったな…いててて…」


目の前でお好み焼きを持って仁王立ちしている人物の顔を見る。
相当ご立腹でいらっしゃる。
…何で?
「何か悪い事したかな…僕…」
「ふむ、あれにカラシをかけられたのが気に食わなかったのであろう」
いつの間にか帰ってきた俊二が腕を貸してくれる。
「いでででで…何でこんな目に…」
痛みを和らげるためにと横っ腹を摩っていると、
意外と早く痛みが引き、何とか背中を伸ばすのも平気になるほど回復した。
「そろそろ行かないと、前の班からブーイングの嵐だな…」
懐から懐中時計を取り出し、俊二がつぶやく。
「もうそんな時間か…メリーはどこ行った?」
また行方不明にでもなられたら、完全に時間に間に合わなくな……。

……………

メリーは何事も無かったかのように、既に近くのベンチでお>好み焼きをパクパクと口の中に運んでいた。


――――――――

「さて、メリーや」
「ん?」
チョコバナナを売っている教室の前で、メリーにこれだけは伝えておく。
「いいか?ここは学校だ。Schoolだ」
「まぁ、…そうね」
「ここでは、騒動を起こさないようにしてくれ。頼むから」
「…何で?」
「とりあえず、鉄の棒で人を叩きのめしたり、脇腹を思いっきり蹴るようなことはしないでくれ」
「そ…そこまでしないわよ!!」
いや、やってたろ
と、心でツッコミをいれる。
「とにかく、目立った行動は取らない事。僕が変な目で見られるから」
既に蹴りの事で話題が立ち始めている。
そもそも目立つ容姿をしているメリーが、学校に訪れた時点で噂になるだろう。
「…わかったわよ。で、これからどうするの?」
「ここに入る」
親指で、後ろの教室を指す。
「チョコバナナ?」
「そう、僕達の本陣だ」
「ここで学校を(売り上げで)制覇する」
「へー…」
「と言う事で、中に入ろうか」

ガラララララ…
「おはよーさん」
「おお、迷える子羊達よ。この俺様が来たからにはもう大丈夫だ!!」
「……………」
僕と俊二の後ろについて、こそこそとメリーも入ってくる。

「あ、おはよー」
「おーっす」
「おう、おはよう」
「やっほー」
僕らの前の班は、新しくチョコを溶かす作業に入った所だった。

「おー、今までどれだけ売れた?」
売り子をしている(といっても、今は客は来ていないが)咲に聞く。
「えーっと、大体30本くらいかな?」
「すくねぇな…」
「そうかな?開店から1時間ちょっとなら多い方だと思うよ?」
「そういうものか…」

咲(さき)はこのクラスで『委員長補佐』を勤めている女子生徒だ。
勤めていると言っても、普通のクラスにはそんな役割はない。
この極悪委員長が、時々とんでもない事を仕出かすのを止めるための『補佐』
つまりお目付け役だ。
彼女自身補佐として立候補しており、それなりにこの役割を楽しんでいるようだ。

「ところでー…後ろの女の子って、お客さん?」
咲が、僕と俊二の後ろに隠れていたメリーを見る。
「……………わ、私は…」
「こいつはメリー。僕の連れだ」
「……こんにちは」
「ちと照れ屋なもんでな。よろしく頼むぞ皆の衆」
「…う、うるさい!!け、警戒してるのよ…!!」
…小動物?
「あはははは!!この子かわいー!!」
「ほんとだー!!フリフリドレスー!!」
咲と、一緒にいた女子がメリーに襲い掛かる。
「可愛いって、僕達とそんなに歳は変わらないんじゃないのか…?」
「女の子にはそういうのは関係ないのよ」
「んぁー!!放せー!!」
メリーは二人の抱擁から逃げ出そうと必死になっている。

「で、俺たちは何をすればいい?」
「そうねぇ…。とりあえず、チョコが焦げないように溶かしてくれる?」
じたばたしているメリーをガッシリと捕まえながら、指示をくれる。
「わかった。僕がやろう」
僕か俊二。どちらかが料理関係の手伝いをする事になると、必ず僕がやるようにしている。
「ふむ。俺はバナナの皮剥きか?」
「ううん。俊ちゃんは客の呼び込みしてくれる?」
「ぬ…。そうか任せておけ」
そういうと、俊二はさっさと教室から出て行ってしまった。

「流石に扱いが上手いんだな」
「バナナやチョコにいらない事されたら困るもん」
そのために調理に直接関係無いことをさせたらしい。
「僕はこのままチョコをかき回せておけばOKなんだな?」
「うん。私達はその間に校内を回ってくるから、よろしくね」
「あぁ、後は俺らに任せておけ」
ガタン!!
「!!?」
全員一斉にその声の主から飛び退いた。
「お前いつの間に戻ってきた!?」
いつの間にか俊二が教室の中に戻ってきていた。
ヤツは肩の埃を叩きながら、不適な笑みを浮かべている。
「地獄の底から這い上がってきてやったぞ」
「今普通に窓から入ってきてたじゃん」
男子学生Aが鋭くツッコむ。
ピクッ…
あ、俊二の動きが止まった。
埃を叩いているポーズで、まるで一時停止したかのように、動きが停止してしまった。
「…さ、さて俺は何をすればいいのかね?」
少しシドロモドロになりながら、いつもの調子に戻る。

「それじゃあさ、咲。俊二君に売り子やってもらおうよ?」
「えー…。大丈夫かな…」
「放してー…」
ぬいぐるみのように抱擁されているメリーは、既に諦めモードだ。
その気になれば振り払えるだろうが、さっきの約束を守っているのだろう。
「俺の接客スマイルを甘く見るなよ。国宝級の笑顔だぞ」
「お前の笑顔を国宝にするとは、相当価値観の狂った国なんだな」
「何を!?そういうことは俺のスマイルを見てから言え!!」
「いいだろう。拝見させてもらおうか?地獄の接客スマイルを」
僕と俊二が対峙する。
前の班の生徒達が、固唾を飲んでその様子を見ている。

「ふ…あの世で後悔させてやる…」
命を危険に晒す技なのか。
「行くぞ!!」
「!!」
俊二は長くもない自分の前髪を、わざわざかきあげ、
キザに、優雅に、そして爽やかに微笑んで魅せた。
「フッ…」
もともと俊二の容姿は、それなりの保障ができる。
特別美形というわけではないが、明らかに一般的なレベルを上回っているのは確かだ。
「…どうですかな、女性審査員の方々」
僕は何とも言えないので、後ろの三人に決めてもらう。

「うん、全然平気だよ!!」
「流石は俊二君ね!!決まってるよ」
「放してぇ…」
どうやら決まりのようだ。


――――――――――――


「と言うわけで、よろしくね」
「あぁ。なるべく早く帰って来いよ」
「私も心配だから、気が済んだら戻るよ」
やはり、俊二は信用されない運命らしい。

ジー…
「あ、メリー…」
その視線に気づき、肝心な事を思い出す。
咲達からの抱擁からは解放されたのはいいが、僕らはここで店番だ。
メリーは露天を見て回りたいらしいが、僕もここを離れられないし、
一人で行かせるのは危険だ…(いろんな意味で)
どうするか迷っている僕を尻目に、咲が口を開いた。
「ねぇ、メリー。私と一緒に学校を回らない?」
「………え?」
おぉ、いいアイデアだ。
一人で歩き回ってそこらの男に手でも出されたら、かわいそうだ。(反撃にあう男が)
その分女の子同士、咲なら信頼できる。
「うん、それがいいな」
「確かに…勝手が分らない混雑した場所での単独行動は、色々ややこしい事になりかねないぞ」
「ね?みんなも言ってる事だし、一緒に行こう?」
そう言って、手を差し出す。
メリーは戸惑いながら、僕のほうを見た。
「どうするかはメリーが決めるといいよ」
もう一度、メリーは差し出された手を見る。
そして、その手の持ち主を見る。


―――――――――――


彼女は、温かい笑顔の持ち主だった。
大丈夫。
隆一が信頼している人だ。
この人となら、安心して学校を歩き回れる。
それに、この人の笑顔には優しさがこもっている。

私はその手を握り返した。

「よろしく…えっと、咲…だっけ?」
「うん。とことん楽しもうね?メリーちゃん」
「よろしくね。咲」

「楽しんで来いよー」
「気をつけてなー」
教室を出る間際、隆一と俊二が見送ってくれた。
…もしかして子供扱いされてるのかな…。
「心配してるのよ、二人とも」
咲が私の気持ちを察してくれたのか、フォローを入れてくれた。
「…ちょっと納得いかないかも」


「ねぇ、まずはどこに行くの?」
どこに何があるか分らない私は、とにかく咲について歩くくらいしか出来ない。
「うーん…どうしよっか?」
「き…聞かないでよ…」
「じゃあ、まずパンフレット貰いにいこっか?」
「パンフレット?」
パンフレットって…なんだろ。
「そ、学校全体の地図とか、出し物が載ってるからメリーちゃんにも役立つと思うよ?」
「へー…」
「職員室に行けば貰えると思うから、行ってみよう」
「うん」

さっきも来た職員室の前。
咲は入ったっきり戻って来ない…。
「遅い…」
……私も入ろうかな。

「おい見ろよ、あの女の子…」
「ねぇねぇ、あれってコスプレじゃない?」
「お人形さんみたいで、かわい~!!」
「どこのクラスの女子かな?」

…うるさいなぁ。
咲早く帰ってきてくれないかな…。

「なぁ、お前名前聞いてこいよ!!」
「何でだよ、お前行ってこいよ」

「………やっぱり入ろう」(関係者以外立ち入り禁止)
ガラララララ…
「うわ、何この人だかり…」
職員室は、廊下の生徒たちの数にも劣らないほど、生徒で溢れかえっていた。
これだけいると咲を見つけるのも大変かな―――…?
「………何あれ」
誰にとも無く、つぶやく。

職員室の端の通路を塔のような物が、よたよたと危なっかしくこちらに歩いて来る。
グラグラとゆれる塔――じゃない。何十にも詰まれた薄い本の影から、時折見える顔…。
――あぁッ!!つまずいた!!
「危ない!!」
「わ!?――とっとっと…おおおお!?」
転倒は避けたものの、天高く積み上げた本が、前につんのめって今にも崩れそう。
「―――っく!!」
私は素早い身のこなしで咲に近づき、文字通り体全体で本の崩壊を受け止めた。
「…あ、ありがとう。メリーちゃん」
「は…早く…姿勢戻して…」
「え?」
受け止めたのはいいものの、本の天辺を押さえるためには背伸びしないと届かない高さ。
爪先立ちしてる足がピクピクしてたりなんかして。

「よいしょっ…と」
「ん…く……はぁ…」
私と咲は、その体勢のまま近くの机に本を下ろす事にした。
「何でこんなにいっぱい貰ってきたの?二冊で十分でしょ」
当たり前なことを聞く私に対し――。
「各クラスの委員長がこれ配る事になってたの忘れちゃってて…ね?」
テヘヘと軽く申し訳なさそうに謝る咲。

「にしても、凄い量ね…」
裕に1mはある本の塔。
これを一人で持って行こうなんて、無茶が過ぎると思う。
「配ればすぐなくなるよ」
「配ってたら時間なくなっちゃうよ?」
咲は、あくまでもこの本を配るつもりらしい。
仕方ないなぁ…。
「それじゃあ、私も持ってあげるよ」
「え!?それは悪いよー…」
「私には、一緒に回ろうって約束したのに、パンフ配りで約束破られる方が、気に障るのだけど…」
「あ…」
「一緒にパンフ配ればその分早くなるでしょ?」
「…じゃあ、お願いできる?」
「別に、咲のためじゃないわよ。私を案内してくれる人がいなくなるから手伝ってあげるだけ。勘違いしないでね」
「あぅ…ゴメンね…」
「え!?…あ、その…、いいのよ。私が勝手にやってる事なんだから…」
「…?」
「とにかく、さっさと片付けちゃいましょ」
「う…うん」

私は咲のパンフの半分を持って、校門に向かった。
校門で渡すのが一番早いそうだ。

「それじゃあ、ここで配りましょうか」
「わ…分ったわ」
迂闊だった。
よく考えたら、配るって人間に渡すって事じゃないの…。
…どうすれば―――――

「どうぞー、本校のMAPと出し物が載っているパンフをお配りしていまーす」
咲は来る人々に積極的に渡していた。その顔には笑顔すら浮かんでいる。
…あれを私がやるの?
どうしよう…絶対無理だよ…。
「ねぇ、咲…私渡せないよ…」
手早くパンフを配っている咲にボソボソと話しかける。
「え?…あぁ、これは私なりのやり方なの。メリーちゃんは普通に渡せばいいよ」
「普通にって…」
「普段の表情、普段のやり方で渡してみて?あ、はーいパンフレットどうぞー」
中途半端なアドバイスをして、咲は行ってしまった。

普段の表情…?やり方?
…よし、やってみる!!

私は、震えた右足を前に出し、一歩を踏み出した。
踏み出してしまえば、たいしたことは無い。
そう――――簡単なことだった。

ツカツカツカ…
「それでさー、あっちの校舎の中に―――」
トントン
「クレープ…って、ん?」
「はい、パンフレット…」
「え?あ…あぁ、ありがとう」
「………………」
ツカツカツカツカ…

これが一連の動作
別に愛想を振りまかなくても渡せばいい。
スムーズに、円滑に。
さっさと全部配ってしまおう。

あの人は…持ってない。
…よし。

ツカツカツカツカ…
「ねぇ、まずどこ行こうか?ってあら?」
「…ん、パンフ」
「あ、ありがとう」
「それじゃ…」
「…?」
ツカツカツカツカ…

ツカツカツカツカ…
「はい…」
ツカツカツカツカツカ…
「ん…」
ツカツカツカ…
「パンフ…」
ツカツカツカツカツカ…


―――――――――――――――


「あ゛ー…づーがーれ゛ーだー…」
「…大丈夫?咲」
あれから30分かけてパンフ配りを終わらせることができた。
咲が動きつかれたから休憩しようと言うので、フラフラの咲を連れて食堂まで行く事にした。
「なんだか最後の方、向こうからパンフを貰いに来てたんだけど…何でかな?」
「私が配ってる時『向こうで人形みたいな子がパンフ配ってるよ』って聞こえて…それから渡す人が急に減って…あうー…」
…私のせいだったようだ。
ゴメンね咲…。
「何か飲み物貰ってくるね?」
「うん…お願い…」
疲労困憊の咲をその場に残して、私は食堂のカウンターに飲み物を貰いに行く事にした。

『カウンター 食券はこちらでお求めください』
どうやらここらしい。カウンターの中には誰も居ない。
呼んでみよう。
「あの、すいませーん」
「はいはい、いらっしゃい―――あら?あなたは…」
「?」
しばらく待つと、人の良さそうなおばちゃんが中から出てきた。
「私が…どうかしました?」
「『お人形みたいな、かわいい子が学校に来てる』って噂になってるけど、あなたね?」
噂…になってるんだ…。
隆一の言う『普段着』を着てくればよかったかな…。
「さ…さぁ…。どうでしょう?」
「いいのよ、謙遜しないで。それで、今日は何を買いに来たの?」
おばちゃんに聞かれ、私は先に飲み物を持ってくることを思い出した。
「咲の飲み物を買いに来たんです」
「咲って、あの頑張り屋の咲ちゃん?」
「あ、それ多分当たりです」
「それじゃあ今日はタダでいいわよ」
「え?」
私が頭の上に『?』を出していると、おばちゃんはニッコリしながらその意味を教えてくれた。
「『各学年で最も優秀な成績を収めたクラスの委員長は、その特典として学園祭では無償で各出し物を遊ぶ事が許される』―――――ってルールがあってね?」
「うんうん」
「それで、今あの子のクラスが最優秀を取ったって伝達があったの」
「へー…いいなぁ…。でも何で今なの?」
「なんでもサプライズイベントだとか…。そのほうが各委員長の士気が上がるからじゃないかしら?」
「咲に言ったら喜ぶだろうなー」
「そうね。はい、ジュース。咲ちゃんは『補佐』でも委員長だから、特典は適用されてるわよ」
いつの間にか用意されたジュース入りの紙カップ2つが手渡される。
「あれ、何で2つも?」
「もう一つは、メリーあなたの分よ」
「本当?ありがとう!それじゃ、おばちゃんまたね」
「はいね。思いっきり遊んでらっしゃい」
「うん。ばいばーい!!」
私は紙カップを両手に持ち、咲のいるテーブルに向かった。

「ねぇねぇ、知ってる?今回の弓道部は面白いのやってるらしいよ?」
「へー、あとで行ってみようよ」
「じゃあさ、先にチョコバナナ食べに行こうよ」
「さんせーい!」
「じゃあ行こう!」

ここの生徒かな?みんな楽しそう…。
私も早く咲と遊びに行こうっと。
…?何か物足りないけど…。ま、いいかな。

「咲ー。ジュース貰ってきたよー」
「あー…ありがとー…」
咲に紙カップを一つ手渡して、私は向かいのイスに腰掛ける。
「学食のおばちゃんに聞いたんだけど、咲のクラスの委員長が最優秀だったんだって」
「あーそー…よかったね――――――…え?」
「何か出し物がタダになるんだって。いいなー…咲は―――」
「ぃやったああああああああああああああああああッ!!」
「きゃあ!!」
今まで生ける屍状態だった咲が、急に叫びだした。
私はもちろん、周りの人まで驚いたり固まっていたり、騒然としていた。
「ちょっと、咲…恥ずかしいよ!!」
慌てて私が咲を静める。
「あ…ご、ごめん。でもそれって本当?」
「うん、間違いないよ。このジュースだってその特典ってやつで、タダで貰ったのよ」
「よかったー!!今日お財布がピンチで、出し物をどうやって回るか悩んでた所だったの」
「あ、出し物といえば、キュウドウブって所が面白いって聞いたけど。行って見ない?」
「弓道部?…何やってるんだっけな…。よし、これ飲んだら行ってみようよ」
「意義なし。今日はとことん回ろう、咲!!」
私と咲は急いでジュースを飲み干し、生徒達がはびこる廊下に歩いていった。


―――――――――――――――


「ここ?」
「そう、ここ」
私と咲は、校舎から離れた木造の小屋の前に立っている。
重々しい引き戸の上には【弓道部】と書かれた威厳のある看板が掛けられていた。
「待ってる人いなくない?」
「多分中で待ってるんだよ」
言いながら引き戸を開けて中に入っていく咲。
私もその後について中に入っていく。

「ごめんくださーい」
「はーい、いらっしゃーい」
中に入るなり、一人の女子生徒が迎えに来た。
周りを見る。
案の定。部室の中には殆ど生徒がおらず、部員がのびのびとくつろいでいる有様だ。
「…営業中…だよね?」
「はい、絶賛営業中であります!!」
意味もなく敬礼を取る女子生徒。
「…誰もいないじゃない」
「あいたたた…一番気にしている事を…」
私のツッコミに対して、今度は胸を押さえるジェスチャーをしながら、乾いた声で笑う。

「まー、しょうがないんじゃないか?大体企画に無理があったんだろ?」
奥でくつろいでる男子生徒が、それとなく言う。
その言葉にカチンと来たのか、彼女はその男子生徒に言い返した。
「それじゃあ、アンタ外で客呼びしてきなさいよ!!」
「やなこった、めんどくせぇ」
「あんた、一応部員なんだから何かしようとは思わないの!?」

「あーあ…また始まった…。ごめんなさいね」
痴話喧嘩になってしまった二人を見て、他の女子部員が出てきた。
「あ、いいんです。何か色々大変ですね…」
「元はと言えば、あの二人のケンカも原因でお客が来なくなっちゃったのよね」
あ、わかるかも…(見てて邪魔だし)
「それで、どうするの、一回やってみる?」
「あ、はい。えっと、最優秀委員長って話は聞いてます?」
「もちろん聞いてるわよ、そっちの女の子もタダね?」
私の事らしい。
「ありがとうございます」
咲はペコリと頭を下げた。
「あ、ありがとう」
私もつられて、軽くお辞儀をする
「いいのよ、それじゃあこっちに来て」
私と咲は、その人についていった。

「はい。それじゃこれ持って」
女子部員は私達に弓を手渡した。
「…これって、弓だよね?」
「そう。弓」
「それで何をするのよ…」
「あの的を射ってもらいます」
女子部員の指をさした先には、的がかけられていた。
「私達初心者なんだけど…」
「ガッツでカバーしてください。はい、アナタの分」
「…客が来ないわけが分った気がする」
弓を持つ。
意外と軽く出来ているソレは、作りこそ荒いものの、あの的を射るには十分な物だ。(と思う)
「いい案だとは思ったんだけどねぇ…」
「で、アレを射るだけなの?」
「いえ、ここでは占いも兼ねてるんです」
「…占いって、どういうこと?」
咲が弓をまじまじと見ている。
「的に外れたら、大凶です」
笑顔で恐ろしい事を言う女子部員
「あ、当たれば今日一日良い日になるので頑張ってくださいね?」
…隣の咲の口から、「来なきゃ良かった…」という言葉が漏れたのはそのすぐ後だった…。

――――――――――――――――

キリキリキリ…ヒュン!!
タンッ!!
「おー。すごいねー」
私と咲は、まずやり方を見せてもらう事になった。
部員だけあって、放たれた矢は上手く的に命中した。
「大体の形はこんなもん。ま、あとはがんばってね」
「え、それだけ?」
「いろいろ説明すると長くなっちゃうからね。じゃあ先に委員長さんがやってみようか?」
投げやり部員にポーズだけは教えられた咲が、射ることに決められた。
「いや、私は補佐であって――――――え?え?え?」
説明している間に、立ち位置まで連れて行かれる。
「うぅ…やるしかないか…。行きます!!」
震える左手で弓を構え、震える右手で矢を持ち。
はるか遠くに見えるであろう的(実際には10m程)に向かって、矢を放つ!!

咲の矢は勢いはあったものの、的の方向には飛ばず、大きく左にそれて壁に刺さってしまった。

「はい、残念でした。大凶」
「うわーーーん!!」
「じゃあ次は、そっちの女の子。やってみて」
「はい…」
今度は私の番らしい。
私はさっき咲が立っていた場所に立ち、弓を構えた。

弓―――…

――――――――私の命を奪った道具を――――――――
     ――――今私が持っている――――

「…ッ!!」
すぐ近くの的を見たとき、ズキッと、頭痛が走った。

さっきから嫌な予感がしていた。
万が一、自分が弓矢を持つ事になってしまったら…。

さっきから自分が分らなくなっていた。
なぜ、自分を殺した道具をわざわざ見に行こうと思ったのか…。

そして今、私は弓矢を持って、それを構えている。

狙いは『的』
『私』じゃない。

でも、私を射った人間は、私を『的』として、射った。

『的』は『私』じゃない。
『私』は『的』じゃない。
止めて…。もう…思い出したくない…。

キリキリキリキリ…!!

『私』は『的』じゃない…。
狙わないで…。射らないで…。
「―クッ!?」
頭が…痛い…!!

突然の頭痛に、私は思わず矢を押さえてた指の力を緩めてしまった。
そして、矢は抑制力から開放され、弦の力で放たれる。

ヒュン!!
ストン!!

「――――あ…」
私の射った矢は真っ直ぐに飛び、見事に的の真ん中に刺さった。
「大当たりー!!おめでとうございまーす!!今日一日はいい事ありますよー」
「今…私…」
なんだろう…、今の頭痛は…。
あれほど痛かった頭痛は、今ではすっかり収まっている。

「メリーちゃんおめでとー!!」
咲がボーッとしてた私に、横からガバッと飛びつく。
「やったじゃない、本当に初めてやったの?」
「え…う、うん」
「いやー、いい腕してるわねー。どう?弓道部に入らない?」
的の真ん中に刺さった矢を見て、彼女は私を気に入ったようだ。
でも、私は…。
「嫌です…」
弓矢を持つなんて二度とゴメンだ…。
今の私なりの、精一杯の否定だった。
「あら、そう?勿体無い…」
「さりげなくスカウトするのは止めてください。まったく…」
「そうでもしないと、廃部になっちゃうのよねぇ…はぁ~」
女子部員は方をガクンと垂らし、深いため息をついた。
「それじゃ、私達はおいとましますね。出し物頑張って下さい」
「………それでは」
「はいはーい、文化祭楽しみなさいねー」

私と咲は、弓道部から出て、次の目的地を決めることにした。
「次はどこに行こうかしら…」
「…………」
「あれ?メリーちゃん、どうしたの?」
「え?あ、うん。なんでもないよ?」
「そう?ならいいけど…」
さっきの事は、今は忘れよう。
楽しいはずの文化祭だし。思いっきり楽しもう。
そう自分に言い聞かせ、私は咲の広げたパンフレットを覗きながら、次の目的地を決めることにした。






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