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残酷な神々のテーゼ(前編) ◆RsQVcxRr96




駆ける、駆ける、駆ける――
右手に影を作る林を見つつ、左手に淡々と流れる川を見つつ、黒き鎧の戦士は駆ける。
相川始――今は仮面ライダーカリスへと変身している青年は市街地を目指してただ駆ける。
駆けながらカリスは少し前に起きた事について考えていた。
ここに転送されてすぐさま殺し合いに乗る事を決意した。
全ては元の世界に帰るため、栗原遥香と天音を守るために。
その決意の元に襲撃を行った後、始はカリスへの変身を解いた。
理由はカードを使う際に消費するAPだ。
カリスに変身した時点での初期AP値は7000。
そして3枚のカードでスピニングダンスを発動させた際には合計で3600を消費して、残りのAPは3400だ。
半分以上を消費したので、ここは変身を一度解いてAPの回復を図って改めて変身しようと思った。
しかし問題が発生した。

一度変身を解いた後、再び変身するのに一定の時間が必要となっていたのだ。

迂闊な事をしたと我が身を呪いつつも待つ事1時間。
それだけの時間を空ければ再び変身できる事が分かった。
こうしてカリスは感じ取ったアンデッドの気配を辿って市街地へと向かう。
神の見えざる手に引き寄せられるように……


     ▼     ▼     ▼


走る、走る、走る――
右も左も林に囲まれている中でスズメバチのゼクトロゴを左肩に施したマントを羽織ったスーツ姿の男が走る。
矢車想――パーフェクト・ミッションを志す青年は市街地を目指してただ走る。
電撃を放つ神と名乗る不遜な輩と蛇柄ジャケットを着た狂気の輩、完全調和を乱す二人の不協和音との戦闘。
一瞬の隙をつき撤退を選択して矢車は南へと進路を選んだ。
あの場では仕方なかったとはいえ、小さな子供をあのような危険人物の元へ置いてきた事に心が痛まない訳がなかった。
だが過ぎた事を悩むより、まずは仲間集めが先決だ。
そのためにも矢車は人が集まりそうな市街地を目的地に選んだのだ。
自分の支給品は用途不明のカードとゼクトバックル。
今の自分では使い様がないものだ。
改めて支給品の内容に落胆しつつもカードは念のため胸のポケットに入れ、ベルトはバッグに入れたまましておく。
そして不意に視界が開けた。
地図によると林を抜け平野に出たらしい。
視線の先には微かに建物――駅が見える。
もしかしたらパーフェクト・ミッションに賛同する仲間がいるのではと思い、矢車は進路を駅に向ける。
神の見えざる手に引き寄せられるように……


     ▼     ▼     ▼


進む、進む、進む――
右手に淡々と流れる川を見つつ、左手に影を作る林を見つつ、雷を宿す神は気ままにただ進む。
エネルが追いかけるのは川原で起き上がり際に目にした青年。
あろう事か神に向かって舌打ちをして逃げ去った不届き者にエネルは神の裁きを下すべきだと断じた。
南に向かったのを確認すると、あとは付かず離れず心網で位置を確かめつつ追いかける。
ふと自分の行く先に新たに3人の意識がある事に気付いた。
しかも前を行く獲物はそこへ向かっているらしい。
エネルは新たな贄が集う駅を次の目的地に定める。
厳然たる神の意志の赴くままに……


     ▼     ▼     ▼


トントンとドアを叩く音と「戻ったぞ」と呼びかける声が向こうから響いてくる。
ギンガが特に返事をする間もなくドアは開かれて、インテグラルが部屋に入ってきた。
ここは地図で言うとE-7にある駅。
その駅に備え付けられている駅員の詰所のような場所にいる。
殺生丸にあの場を任せたギンガ・ナカジマとインテグラルは気絶したキャロを連れてここへ避難してきた。
そして本当なら後から殺生丸もここへ合流するはずだった。
でもあれから殺生丸は来る事はなかった。
ギンガの心を不安にさせるのは駅に着くまでに見たあの魔力光。
遠目から見ても軽くSランクをも凌駕する程の威力だという事は分かった。
そんな戦闘を経て未だにここへ来ないという事は……
これ以上は推測にすぎない。
ギンガは自分にそう言い聞かせて顔を上げる。

「どうでした?」
「いや、さっぱりだ」

今ギンガ達がいるのは駅員の詰所、その奥に設置されている休憩所だ。
事務的な仕事を行う詰所とは壁で仕切られて、内装も寛げるようなものになっている。
キャロはここに着いてからできる限りの処置は施してソファーに寝かせているが、まだ目を覚ましてはいない。
でも見た目は良くなったし、どうにか大丈夫そうだ。
妹のスバルの同僚で、今では出頭中の自分の同僚でもある心優しき召喚士、キャロ・ル・ルシエ。
ここに来てから幸運にも再会できた親しい知り合い。
ギンガは目の前で仲間の無事が確認できて安心する。
だがその一方で殺生丸がまだ現れる様子はない。
先程も周囲の偵察を兼ねてインテグラルが出ていたが、結果は先の通りだ。
本当なら戦闘力のある自分が行くべきなのだが、キャロが目覚めた時に知り合いが傍にいた方がいいというインテグラルの提案に押し留められてしまった。
それに殺生丸の事を気に掛けて精神的に張り詰めていた自分を気遣ってくれての提案だったのかとも思う。
インテグラルの言外の心遣いに感謝の気持ちを抱くが、本当はどうなのだろう。
たぶん聞いても答えてくれないようなので勝手にそう思っておく事にした。
そのおかげで気持ちも幾分か整理する時間ができた。

――恐らく殺生丸さんはここには来ない。

それがギンガの出した答えだ。
あれ程の威力、恐らくは決着をつけるために放った技なのであろう。
それならば放った両人共が無事である確率は低い。
直に肌で感じた二人の強さは異常だった。
だからこそあれほどの威力を繰り出しておいて二人が共に無事だという光景が思い浮かべにくかった。
それにもうひとつは未だに殺生丸がここに来ていない事。
それこそ対面したのも会話したのも僅かな間でしかなかったが、それでも彼の誇りの高さは雰囲気から感じ取れた。
誇り高い彼が約束を違えるなど余程の事だろう。
だからこれらの事は殺生丸さんの死を可能性として突きつけてくる。

「――ッ!!」

部屋中に壁を叩いた音が響く。
感情が高ぶり、思わず突発的な行動をしたギンガをインテグラルは黙って見ていた。
ギンガは殺生丸が死んだなんて信じたくなかった。
しかし待てども姿は見えず、それはつまり彼の――

「ん、うぅ……」

不意にギンガでもインテグラルでもない声が聞こえた。
まだ幼い少女の声だ。
そんな声を発する人物がギンガのすぐそばにいた。

「……ギンガ、さん?」
「キャロ!!」

目覚めの声を上げたのは今まで気を失っていたキャロ。
ギンガは安堵の感情と共にキャロを抱きしめる。
幼い身でよく頑張ったという想いをこめて。

「あ、あの、ギンガさん。えっと、私、いったい……」
「ええ、実は――」

キャロにこれまでの事を説明しようとした時だった。
壁の向こうから音――ドアが開く音が聞こえてきた。
それはつまり誰かがドアを開けてここに入ってきているという事だ。

「インテグラル卿、キャロを頼みます」
「私が確かめてきてもいいぞ」
「いえ。まだ友好的な人物か分かりませんし、万が一の時に備えて私が行ったほうがいいでしょう」
「分かった。気をつけろよ」
「え、あの、ギンガさん?」
「ごめんキャロ。少し待っていて」

そう言い残すとギンガはデイバッグの中からコルト・ガバメントを取り出す。
45口径の大型拳銃、非殺傷設定など存在しない質量兵器。
ギンガとしてはできれば撃ちたくないが、それでも覚悟だけは決めておかなければならないだろう。
このドアの向こうにいるのが殺生丸ならどんなに良い事か。
でももしも殺し合いに乗っている者なら……
ギンガは不安と期待が相混ぜになる感情を胸にして、静かにドアの向こうへと進んで行った。


     ▼     ▼     ▼


ギンガがドアを閉める音と共に休憩室には静寂の帳が下りる。
でもすぐにそれは幼い召喚士の言葉によって破られる。

「あの、初めまして。時空管理局古代遺物管理部機動六課所属キャロ・ル・ルシエ三等陸士です。
 ……えっと、あなたは?」
「英国国教騎士団『HELLSING』局長、サー・インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングだ。
 話はギンガから聞いている。それで早速で悪いが、これが何か分かるか」

そう言ってインテグラルがキャロに差し出したのは赤い3つの点が印象的な灰色の球体。
キャロのデイパックに入っていた支給品だ。
ギンガとインテグラルは若干の申し訳なさを感じながらもキャロが気絶している間に彼女の持ち物を確認していた。
その時に見つけたのが正体不明の球体だった。
最初はインテグラルにも支給されていたマテリアかとも思ったが、どうやら違ったらしい。
すぐに球体から魔力を感じ取ったギンガはこれがデバイスだと気付いた。
しかしこの球体はデバイスだと分かったのはいいが、起動させる術が結局分からなかった。
そこでこれの支給主であるキャロに目覚めたら尋ねる事にしたのだ。

「……すいません。私にもよく分からないんです」
「そうかい」

しかし持ち主のキャロも球体の正体は分からなかった。
だからこそもう一つの支給品であるバルディッシュをパートナーとして選んだのだ。
自身の恩人であり保護者であるフェイト・T・ハラオウンのデバイス。
そちらの方が得体の知れないデバイスよりも遥かに信用できた。

「あ!?」

そこでキャロはようやくバルディッシュが手元にない事に気付いた。
自分の記憶は金髪の青年に襲われて弾き飛ばされて気絶したところで途切れている。
たぶんその後に助けられた事は明白だが、バルディッシュはおそらくあそこに放置したままだろう。
自身の力不足からフェイトのデバイスを無くしてしまった事にキャロは深い罪悪感を覚えた。
でも一縷の望みをかけてインテグラルに聞いてみようと心が動いた。
もしかしたら回収してくれているかもしれないという望みを抱いて。

「あ、あの、インテグラルさん!」
「ん? なんだい?」
「私を助けてくれた時に――」

しかしキャロの言葉はそこで途切れた。
キャロの言葉を遮ったのは衝撃。
最初は光――目を焼き尽くすほどの閃光が視覚を麻痺させる。
次は音――耳を突き破るような轟音が聴覚を麻痺させる。
次は振動――身体中を走るような衝撃が一瞬触覚を麻痺させる。
次は味――衝撃で口の中を切ったのか血の味が味覚を麻痺させる。
最後は臭い――今まで嗅いだ事もないような臭いが嗅覚を麻痺させる。
キャロは彼方から襲来したものに突如として五感を蹂躙されてしまった。
それは一瞬で圧倒的だった。

(え? でも、この臭いって……)

キャロは記憶を掘り起こしていく。
どこかでこれと似たような臭いを嗅いだ……でも、その時はもっと微かだったような気がする。
程なくしてその正体に心当たりがつく。
肉を焼く臭いに似ているのだ。
それも――火傷をした時に微かに鼻を突く臭いに似ていた。
その事実に思い至った時にはもうキャロの五感は正常に戻りつつあった。
まだ薄らとぼやける視界には本当なら休憩室が飛び込んでくるはずだった。

「ひぃっ!!」

だが目に入ってきた光景は異常だった。
少し前まではキャロはソファーに座り、インテグラルは窓際で様子を見ているという構図だった。
確かにキャロは今でもソファーにきちんと座っている。
しかし一方のインテグラルは――

「え、い……ああ、ひっ……」

黒焦げという表現が正しいのだろうか。
いささか表現が過剰かもしれないが、それは断じて夏の日焼けレベルの肌の焼き加減ではなかった。
インテグラルの姿は見るも無残なものだった。
長いブロンドヘアーは焦げて縮れる部分が目立ち、綺麗に着こなしていた黒スーツは焦げてボロボロになってきた。
そして褐色の肌は今までにも増して濃くなっていた。

「そ、そんな、インテグラル……さん?」

キャロとて時空管理局に勤める者として、それなりの経験を積んできたつもりだった。
悲惨な現場も命が危うい戦闘も何度か経験してきた。
だが今キャロの目の前に広がる光景はそんなものとは次元が違った。
最初にアリサに行われた首輪爆破による絶望感は大事な人を想う事によって押し止める事ができた。
でもこの状況はキャロの健気な決意をも砕くような悲惨なものだった。
そして、それに拍車をかけるのが凶行を為した人物の存在だ。

「ヤハハハハハ! 娘よ、運がいいな。私は二人とも殺す気だったのだからな」

上半身裸、背中には奇妙な太鼓を背負い、無闇にテンションが高い傍若無人の雰囲気を漂わせる男。
スカイピアの絶対君主にして唯一神である神・エネル。
新たな意識を感知したエネルが駅を見つけたのは数分前の事だった。
エネルが遠目から窓の向こうを見る限り、そこにいる獲物は危険が迫っている事に全く気付いていないようだった。
自分が追っていた青年がそこへ向かっているのは既に把握済み。
エネルは神の裁きを下すべく手頃な距離まで近づくと、右手を雷へと変化させた。

――神の裁き『エール・トール』

発動は一瞬。
本来なら天より地に走る雷は神の右手から駅に放たれた。
狙った箇所は窓、そしてそこから見える部屋の中の贄だ。
エネルは神の裁きが無慈悲に駅を、そして中にいる人を蹂躙するのを眺めた。
そして惨劇の場に降臨すべく、その場に赴いたのだった。

「ほう、これは良い剣だな。貰っておこうか」

エネルは倒れるインテグラルに近づくと、その近くにある剣に興味を示した。
美麗な彫刻が施されている真っ赤な刃を持つ剣にエネルは二度三度振るう。

「あ、ああ、いやぁ……」

その奇抜な出で立ちにも増してキャロが心に刻んだのは「恐怖」だ。
エネルから感じられる底知れぬ雰囲気。
それが恐怖とは気づかぬままにキャロはエネルに怯える。
そしてその感情が臨界点を超えるのに時間はかからなかった。

「イヤァァァアアア――――――ッッ!!!」


     ▼     ▼     ▼


「なるほど。では矢車さんは殺し合いには乗っていないんですね」
「ああ、そうだ。俺が目指すのはパーフェクト・ミッションだからな」

ギンガが謎の人物に気付いて探りに行くと、そこには一人の青年がいた。
エネルから逃れて駅で人集めをしようとしていた矢車想だ。
最初はお互い正体が分からずに物陰で牽制し合う形になったが、元来どちらもこのデスゲームに立ち向かう同士だ。
それに方やZECTの一部隊を任される隊長、方や陸士108部隊の捜査官。
どちらも優秀な指揮官ゆえにお互いの意図を分かりあうのには、そう時間は要らなかった。
軽い自己紹介を終えてギンガは矢車に好印象を抱いていた。
少々自信家な所が心配だが、クールで仲間を何よりも大切にする気質が見え隠れする。
あと、やたらとパーフェクト・ミッションの事を話す時は熱が込められていたような気もする。

「あ、矢車さん。ここに来る途中で他の参加者に――ッ!!」

前触れなしの轟音と衝撃。
それが駅舎を襲い、ギンガと矢車はしばらくの間言葉を失った。
さらに部屋の電球はその一瞬で全て眩しく光って、次の瞬間には粉々に砕け散っていた。
何が起こったのか分からないまま二人がさらなる襲撃に備えて構えていると――

「イヤァァァアアア――――――ッッ!!!」
「しまった! キャロ!」

キャロの悲鳴が聞こえた瞬間、ギンガは自身の判断の甘さを悔やんだ。
気絶から回復したばかりのキャロと一般人のインテグラを長く放置しておくのは危険だと分かっていたはずだ。
それなのに突然の事態に僅かながらも動揺して二人の安全が頭から抜けていた。
もし何かあったら取り返しのつかない失態だ。

「今の悲鳴は!」
「仲間のです!」

横目で見ると矢車も事態を察知して並走していた。
この状況を見て行動を共にしてくれた事にギンガは心強さを覚えた。
駅員の詰所はその構造上外へ繋がるドアと休憩所へ繋がるドアが少し離れている。
しかし距離があると言ってもそれほど長い訳ではない。
すぐさま休憩所に繋がるドアの元に辿りつく事ができた。
先に着いたのは僅差で矢車だった。
そして矢車がドアノブへ手をかけた瞬間――

「――ぇ?」

後ろから来ていたギンガの目に信じられないような光景が飛び込んできた。
ギンガの目に移るのはスーツ姿の矢車の背中だ。

そこに鮮やかな紅い血を存分に纏わりつかせた3本の矛先を生やしていた。

「矢車、さん……」
「――ガァ!!」

一拍置かれて矢車の苦しげな呼吸音が聞こえる。
朧気ながらギンガは事態の把握に努めようとしていた。
だが分かる事はドアの向こうから鋭利な三又の矛で矢車がドアごと貫かれているという事だけだ。
矢車のデイパックが床に落ちた音が虚しく聞こえる。
それ以上は頭が働いてくれなかった。

「――ァァァガアアア――――ッッッ!!!」

その思考を再び動かしたのは、またしても外からの変化だった。
突然矢車の身体が青白く光ったと思えば、もうそこには以前の矢車の面影はなかった。
それはまるで雷の直撃を受けたかのようだった。

「ヤハハハ! まさか貴様だったか。これは幸先がいい」

矢車の向こうを見ると、さっきの攻撃のせいかドアは完膚なきまでに焼け落ちていた。
そしてそこには矢車を死に至らしめた本人の姿があった。
上半身裸で背中には太鼓を背負った奇妙な出で立ち。

「な……に、もの……だ……」
「私は神。神・エネルだ。」
「神、だと……!? お前、は……」
「また会ったな、青海人」
「神など、と……随分と、大層な名前だ、な……俺達が、恐れるとでも……思って、いるのか」
「──人は“神”を恐れるのではない……恐怖こそが、“神”なのだ」

矢車はエネルの返答に薄れゆく意識の中で底知れぬ脅威を感じていた。
そして一方ギンガは悟ってしまった――今の自分では目の前の男には敵わないという事に。

それは人が生まれながらに持っている野生の勘によるものだったのかもしれない。
エネルと名乗った自称神はあの殺生丸と対峙した金髪の青年と同質、もしかしたらそれ以上の存在かもしれない。
ギンガは死を覚悟した。
彼我の戦力差は絶望的なまでに圧倒的だった。
例え今この手にブリッツキャリバーがあったところで勝てる気がしなかった。
それを本能的にギンガは心の奥底で感じていた。
だが死は訪れなかった。

「女よ、ゲームをしようか」
「……ゲーム?」
「そうだ。私は5分間ここにいよう。その間にできるだけ遠くに逃げたらいい。
 せいぜい私に追いつかれないようにしろよ」

ギンガはエネルの意図が全く理解できなかった。
言い換えれば気まぐれとも取れるこの提案に不気味さすら感じていた。
その不気味さゆえにギンガは動けずにいた。
大人しく逃げた方がいいのか、決死の覚悟で立ち向かう方がいいのか。
どちらかが正しいのかなどギンガには判断が付けられなかった。
その迷いを感じたのか、矢車は消える意識の中でギンガに声をかけた。

「ギン、ガ……」
「矢車、さん!?」
「パーフェクト・ミッションを……パーフェクト・ハーモニーを……頼んだぞ」
「え、しかし――」
「いけぇぇぇ!!! ギンガァァァ!!!」

その叫びが転機となったのか、ギンガは走り出していた。
矢車の足元に落ちているデイパックを擦れ違い様に回収して、エネルと矢車を一瞥すると休憩所に入った。
外から見て分かっていたが、キャロもインテグラも生きていた。
インテグラルは全身に軽い火傷を負っていたが、胸は上下していて生きているのが分かる。
不慣れな制限下での雷化と、窓に当たった事で幾分威力が和らいだ事。
この二つがインテグラの命を取り留めていた。
一方キャロには外傷が見当たらないが、ひどく怯えていた。
まずはキャロを立ち直らせる事が先決だった。

「キャロ! キャロ!!」
「――あ、ギンガさん……」
「今すぐここを離れる。早く!」
「え、は、はい!」

未だ事態の推移に追い付いていないようだが、時間はあまりない。
ギンガはインテグラルを背負い、混乱気味のキャロを連れてエネルが破壊した壁の穴から外へ出た。
最後に後ろを振り向くと、ギンガと矢車の目が合った。
しかしお互い何も言わずにギンガ達はこの場に別れを告げた。

後に残ったのは調和を乱す傍若無人な神と調和を重んじる心優しき青年だけであった。


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