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誰かのために生きて、この一瞬が全てでいいでしょう(前編) ◆9L.gxDzakI




 背中に感じるのは、冷たいコンクリートの感触。
 横に感じるのは、暖かな自分以外の人間の気配。
 気付けば俺はアッシュフォード学園の屋上で、手すりにもたれかかるようにして座り込んでいた。
 そしてその隣には、同じく手すりによりかかるようにして、あのディエチが立っていた。
 その状況を、俺はごく自然に受け止めていた。

 ……お前を切り捨てた時、ひどくこの胸が痛んだんだ。

「そう」

 最初は、ただの手駒としてしか見なしていなかった。
 自分の目的を成し遂げるために、散々使い倒して、最後は襤褸雑巾のように捨てるつもりだったんだ。
 ……それでも、いざお前を切り捨てる時、俺はとても苦しく思った。

「それは、捨てようとしたのがあたしだったから? あたしを特別に想ってくれていたから?」

 ……いや、そうじゃない。残念だが、割とよくあることなんだ。
 それに、俺にはナナリーが――守るべき、最愛の妹がいる。悪いが、お前を一番に想うことは、きっとできない。

「そっか」

 いつも、そうだ。
 俺が仮面を被り、嘘を纏い、ゼロを演じて修羅の道を進む覚悟を決めたというのに。
 いつもいつも、俺は甘い。すぐに情を覚えてしまうし、すぐに切り捨てることをためらってしまう。
 捨ててしまった方が楽なはずなのに、それでも捨てることができなくて。
 ……いつも、余計に苦しくなる。
 自業自得だと、分かってはいるんだが、な。

「……優しいんだね、ルルーシュは」

 スバルにも言われたよ……優しさなんて、とっくの昔に捨ててしまったはずなのに。
 契約を結び、この眼にギアスを宿した瞬間――いいや、あの7年前の夏の日からずっと、俺は戦うために生きてきた。
 そこには優しさなんて必要なくて、ナナリー以外の人間に情を抱くことなんて、余計なことでしかなかったはずだった。
 ……でも、やっぱり俺は駄目だな。
 シャーリーも、ユフィも、スザクも、C.C.も、それにお前も……スバルも……みんななくしたく、なかったんだよ。

「………」

 なぁ、ディエチ。俺は一体どうすればいい?
 俺はゼロを演じられなくなった。絶対の存在を演出することは、できなくなってしまったんだ。
 完全無欠だからこそ、ゼロの仮面へカリスマを宿すことができた。だが、俺は見ての通り無敵ではなくなった。
 手負いの虎は所詮手負いだ。誰も俺を、少なくとも、完璧な英雄と見なしてはくれないだろう。
 きっと、俺はもう戦えない。戦うための刃は砕かれた。
 犠牲を無駄にしないためにも、真っ直ぐに進み続けたつもりだった。だが、それすらもできなくなってしまった。
 俺はどうすればいい? どう戦えばいい? どうやって償えばいいんだ?

「分からないよ。そんなことは考えたこともないし、そのまま死んじゃったわけだし。あたしが軽々しく答えるには、重すぎる」

 ……そうだよな……俺自身が、お前が語るべき口も、考えるべき頭も……全て奪ってしまったんだよな……

「でも――いるよ」

 え?

「ルルーシュが守りたいって思える人。ルルーシュに戦ってほしいって願ってる人」

 ディエチ……?

「――ルルーシュのすぐ、傍に」


 バトルロワイアル最初の放送が流れたその時、スバル・ナカジマと泉こなたは、デュエルアカデミアの保健室にいた。
 スバルの腕の中で倒れた、黒髪と黒いマントの少年を助けるために。
 止血と応急処置を施したことで、名も知れぬ少年の容態はかなり落ち着いた。感染症対策のために、消毒もしてある。
 失われた分の血液を補うための輸血もしておきたかったが、生憎と保健室にはそこまでの用意はない。
 いずれ病院に向かう必要は出てくるだろう。だが、彼はその病院から逃げてきた可能性が濃厚だ。
 病院は危険かもしれない。それでも、そこを危険たらしめている人間は、無視できない。
 そうこう考えているうちに、あのプレシア・テスタロッサの高笑いが、スバル達の耳に届いていた。
 並べられた13の名前。不吉極まりない死のナンバー。
 そしてその中に含められた名前――高町なのは。
(どっちのなのはさんが殺されたんだろう)
 スバルには分かっていた。ここには恐らく、2人の彼女がいるであろうことが。
 スバルの知る、機動六課前線フォワード部隊分隊長を務める、エース・オブ・エースの高町なのは。
 こなたの知る、彼女の学校へフェイトと共に転校してきた、陵桜学園高等部3年B組の高町なのは。
 つまりどちらかの彼女のことを、自分は知らないということになるし、ひょっとすると、実は両方とも知らない人間なのかもしれない。
(でも……なのはさんはなのはさんだ)
 それでも、それは大した問題にはならなかった。
 どちらの世界から来ていたとしても、なのははなのはなのだ。
 かつて自分の命を救ってくれた、強くて優しくてかっこいい、憧れの高町なのはには変わりないのだ。
 であれば、自分と面識がないからといって、どうして他人と見なすことができよう。
 それに、命を落としたのは、彼女だけではない。
「……ティア……っ!」
 ティアナ・ランスター。
 訓練校の頃からいつも一緒で、お互いに高めあい、信頼しあってきたパートナー。
 スバルが過ごしてきた15年の人生の中でも、一番大切な友達。
 その命が、失われた。自分の知らない場所で。自分の手の届かないところで。守ることもできないで。
 最愛の親友は、もう、戻ってこない。
 涙腺から溢れる雫を止めることはできなかった。
 両手で顔を押さえ込むと、スバルは堰を切って嗚咽を響かせる。
 守れなかった。大切な人達が死んでしまった。
 なのはが。ティアナが。エリオやシグナムも、更生プログラムを受けていたディエチも。
 その事実はスバルの繊細な心へと、容易に亀裂を走らせる。
 プレシアは、生き残った人間の願いを叶えると言った。人を生き返らせることもできると。
 しかし、どうせあの手の人間は、せいぜい1人ぐらいしか生き返らせるつもりもないに違いない。
 誰を蘇生させるかなど、スバルに選べるはずもない。
 そもそもそれ以前に、そのために他者を殺すという決断にまで、今の彼女の頭が回るはずもなかった。
 一方のこなたはというと、この状況を、スバルよりは幾分か冷静に受け止めていた。
 実を言うと、まだまだなのはとの交流はそんなに深くはない。つい最近転校してきて、仲良くしようと思って近づいたくらいだ。
 だからスバルのように号泣するには至らなかったし、かがみやつかさの無事に安堵する余裕もあった。
 それでも、表情は冴えない。落ち込んではいる。
 つい昨日まで友達だった人間が、唐突に死んでしまったのだから。
(やっぱり……人が死ぬのって、理屈じゃないんだね……)
 こなたは死に直面するのは初めてだ。少なくとも、身近な人のそれには。
 亡母かなたが命を落とした時には、未だ物心もついていない。故に、なのはの死にも漠然としか実感が沸かない。
 それでも、悲しいのだ。何が何だか分からなくても、悲しいと思えるのだ。
 きっと人が死ぬというのは、そういうことなのだ。
「……ん……」
 不意に、声が響く。
 男の声。女2人しかいないこの部屋からは、おおよそ上がらないような声だ。
 であれば、それが意味することは1つ。これまで眠っていて、数に入っていなかった少年が、今まさに目覚めようとしている。
 震える瞼。ゆっくりと、それが開かれる。覗くのは紫色の澄んだ瞳。
「あ……」
 こなたはそれに気付くことができた。だが泣き続けるスバルの耳には、その微かな声が入ることはなかった。


 ルルーシュ・ランペルージが覚醒した時、まず最初に感じたのは、身体にかけられた布の感触だった。
 自分の右腕がないことには、今更驚くこともなかった。自分の意識があるうちに、切断されていたのだから。
 シーツが被せられている。気付けば、ベッドに寝せられている。
 視線の先にあったのは、天井。であれば自分を拾った誰かが、ここまで連れてきてくれたということか。
 現在地を確認するために、視線だけをきょろきょろと泳がす。
 病院の病室だろうか。しかし、それは有り得ない。あの場所へ戻ってきているはずがない。
「……ふ、ぅう……っ……」
 と、そこでようやく、鼓膜に響く声に気付く。
 どうやらすぐそこで、誰かが泣いているようだ。否、誰かではない。
 自分はこの声を知っている。もっとも、覚えがあるのは普段の声と泣き顔だけで、泣き声を聞いたことは一度もなかったが。
 視線を声のする方へと、向ける。
 スバルだ。
 顔面を押さえて涙を流しているのは、紛れもなくスバル・ナカジマだった。
 そうだ。自分は意識を失う直前、ようやくスバルと再会できたのだ。
 ディエチという犠牲を払いながらも、恐らくこのデスゲームの中で、最も大切な友人と。
「スバ、ル……」
 呻くような声で、名前を呼ぶ。やはり寝起きともなると、発する声も調子が悪い。
 喉から声を絞り出すようにして言いながら、ルルーシュはゆっくりと状態を起こした。
 使える腕が左だけともなると、どうにも色々やりづらいものだ。バランスは取りづらいし、利き腕でない分器用に使えない。
「あ……」
 だが一方のスバルはというと、突然、面食らったような表情になったのだ。
 泣きはらして真っ赤に充血した瞳が、虚を突かれたように開かれる。
「……あ、えと……その……」
 そして、今度は急に慌て出した。
 どう対処していいのか分からないといった気配を、全身の挙動から発しながらおろおろとする。
 慌て者のスバルがこうやってテンパるところを、ルルーシュは見たことがないわけではない。それどころか、しょっちゅうある。
 だが、何故今そのリアクションを取るのか。自分の名前さえも呼んでくれないまま。
 まるで、あたかも今初めて会ったばかりの人間と接するように。
 否、それにしたっておかしい。それなら自分の容態を伺うくらいはするはずではないか。
 何もかもが理解できず、ルルーシュはきょとんとした表情を浮かべる。
「あー……そうだったね」
 と、そこへ不意に、聞き覚えのない声が割って入った。
 そちらへと視線を向けると、1人の小柄な少女が立っている。青いロングヘアーが印象的だ。
「この人とはあたしが話すから、スバルはしばらく外を見張ってて」
「う……うん……」
 少女に促されながら、スバルが戸口へと歩いていく。悲しみに涙する彼女では、確かにろくな応対は望めないだろう。
 ドアをくぐり、扉が閉じられると、ようやく少女がルルーシュの方へと向き直り、口を開いた。
「初めましてだね。あたしは、泉こなた」
「……ルルーシュ・ランペルージだ」
「変わった名前だね……外国の人?」
「ああ……多分、お前から見たらそうなるな」
 そういった感じで、お互いに簡単な自己紹介を済ませると、こなたが今までスバルの使っていた椅子に座る。
 なお、どう見ても小学生程度の背丈しかなかった彼女が、自分よりも1つ歳上であったことには、心底驚かされた。
 18歳となると、身近にいるのは生徒会長のミレイ・アッシュフォードである。
 スタイル抜群で身長も高めな彼女と、目の前のこなたとの落差を見比べると、何だか複雑な気分になった。
「それで、スバルとは一体どういう関係なの? スバルのこと、知ってるみたいだったけど」
「アイツは俺のクラスメートだ。数ヶ月前に、俺の学校に転校してきた」
 事実である。少なくとも、ルルーシュにとっては。
 彼にとってのスバルは時空管理局の魔導師ではあったが、同時に、自分のギアスを監視するために入学してきた転校生でもあった。
 無論、嘘のつけない性分である彼女が、自分に向けてくれている好意に、偽りはないと信じている。
 監視する者と監視される者でありながら、2人はよき友人だった。それはそれで、スパイとしてはどうかとも思うのだが。
「だが……さっきのアイツの反応は何なんだ? 俺のことを忘れてしまったような……そんな感じにも見えたが」
 あまり考えたくはなかった。だが、無駄に賢い頭脳は、そう推測することを止められなかった。
 ようやく出会えたスバルが、自分に関する記憶を完全に失っている――予想しうる、最悪の可能性だ。
「……えっと……言いづらいんだけど、ね」
 こなたが言葉を濁した。そして、一拍の間をおいて、続ける。
「あの娘は間違いなくスバルだよ。でも、多分……ルルーシュのいた世界とは違う、パラレルワールドの娘なんだと思う」
「……パラレルワールド」
 意外にも、その言葉を割と混乱もなく受け止める自分がいた。
 そもそも並行世界という概念は、スバルの実態を探る上で、一度考慮したことのある発想だ。
 彼女の所属する時空管理局というのは、その並行世界間にて活動する組織ではないか、と。
 結果的には、それとはまた微妙に違うということは、何かの折にスバル自身から聞いている。
 それでも、次元世界などという突拍子もない概念が存在するならば。
 有り得ない話では、ない。
「記憶喪失とかじゃなくて、あの娘の頭には、最初からルルーシュって男の子の記憶がない……君にとっては、複雑かもしれないけど」
 自分のことを全く知らないスバルがいたとしても。
 同じ顔を持ちながら、全く別の記憶を持ったスバルがいたとしても。
 出会えたスバルが、自分の知るスバルとは、赤の他人であったとしても。
 有り得ないことではない。
 さすがに若干想像の範疇を超えてはいたが、不思議ではない話でもあった。
 本来は管理局の技術をもってしても、パラレルワールドへのアクセスまではさすがに不可能なのだが、
 ルルーシュはそこのところの事情をよく知らない。魔法が使えるくらいなら、それくらいできてもおかしくない、とさえ思っていた。
「……そうか……」
 もっとも、主観と客観はまた別だ。
 主観はそう簡単に割り切れるものではない。ようやく出会えたスバルが、自分の知る人間ではないということは、つらい。
 同じ顔をしていても、同じ声をしていても、彼女は自分を知らないのだ。自分の友達だったスバルではないのだ。
 彼女はスバルのように、自分に優しくしてはくれない。誰かに甘える趣味はないが、それはそれで悲しいものがある。
(だが、スバルはスバルだ)
 それでも。
 その法則にのっとるのならば、彼女は間違いなく、スバル・ナカジマという存在ではある。
 同じ記憶を持っているわけではないが、その顔も、声も、恐らくは心も、自分の知るスバルと同じスバルのはずだ。
 何せ、今この右手の傷を塞いでいるのは――スバルが巻いてくれたであろう、彼女の白いはちまきなのだから。
 彼女はスバルだ。それは認められる。彼女は自分の知っている、優しく強いスバルであることは間違いない。
 たとえ自分を知らないスバルであったとしても。
 生きていてくれてよかった。それは本心だった。
「……話してくれないか。アンタの住んでいた世界のことを」
 そして、紫の瞳に光を宿す。
 才知に優れた戦略家の、鋭い眼光を取り戻す。
 ここに集められたのがパラレルワールドの人間ならば、彼女は自分の知りえない技術を知っている可能性もある。
 たとえば、スバルが魔導師だと知って間もない頃、魔法の存在をまるで知らなかった自分のように。
 こなたの知っている情報が、この殺し合いを生き抜く上で有利に働く可能性もある。
 あるいは、自分の世界のみの常識では見出せなかった、この殺し合いからの脱出法さえも。
 この殺し合いから脱出した後のことは、まだ何も考えられない。それでも、殺し合いからの脱出そのものは、優先すべきことだった。
「うん、分かった」
 一瞬こなたは、ルルーシュの向けた予想外に鋭い視線にたじろいだが、すぐにそれを了承する。
 まず最初に彼女は、自分の世界もスバルの世界とは違う、と前置きをした。
 自分の世界にも、この場にいる彼女とも、ルルーシュの知る彼女とも違う、その世界のスバル・ナカジマがいるらしいのだと。
 ルルーシュはそれを聞き入れた。むしろその方が、既知の魔法以外の知識が得られる可能性がある分、都合がいい。
 こなたが語る、ルルーシュの知らない地球。
 そこでは神聖ブリタニア帝国――かつてのイギリスは超大国となっておらず、代わりにアメリカという新興国家が存在していた。
 そして日本もまた、アメリカの植民地下にはなく、エリア11というコードナンバーも存在しなかった。
 どう見てもブリタニア人であるルルーシュに対し、日本人のこなたが対等に接していたのには、そうした事情があったらしい。
 彼女は高校に通う3年生で、つい最近には、スバルの知る人間――なのはとフェイトという転校生と出会ったそうだ。
「高町なのは……確か、スバルの上官だったな」
 アッシュフォードの学園祭でちらと見た顔を思い出し、ルルーシュが呟いた。
 一度しか顔を見たことはないが、スバルが強い尊敬を抱く上司である。
 栗色の髪をサイドポニーにした女性で、確か日本の出身だったはずだ。
「なのはさんと言えば、さっき、最初の放送があったよ」
 と、そこで思い出したようにしてこなたが言う。
「最初の放送……読み上げられた死者の名前は?」
 もうそんな時間だったか、と思いながらルルーシュが問いかけた。
 話を聞く限りでは、こなたの世界はごく平凡で、自身もごく平凡に高校生活を送ってきたらしい。
 大体の技術レベルも、自分の世界と似通っている。ルルーシュのもの以上に有益な情報は、まず得られないだろう。
 そんな話よりも優先すべきは、ここまでで誰が死亡したかの確認だ。
「うん、そうだね」
 言いながら、こなたが自身のデイパックから名簿と筆記具を取り出す。
 そして先の放送で呼ばれた名前を読み上げながら、順番に印をつけていった。
 総合計13人。全体の5分の1にあたる人数が、プレシアにとって多いか少ないかは定かではない。
 だが確かなことは、少なくともルルーシュから見れば、わずか6時間でかなりの人数が減ったということに変わりはないということだ。
 そして、注目すべき名前が2つ。
 戦闘機人の娘ディエチと――黒の騎士団零番隊隊長、カレン・シュタットフェルト。
「……そうか……カレンが死んだか……」
 呟くルルーシュの表情へと、影が差した。
「知ってる人?」
「ああ……俺の部下だよ」
 黒の騎士団の有するKMFの中でも最高の性能を誇る、紅蓮弐式を駆るエースパイロット・カレン。
 付き合いこそそう長くはないものの、ゼロとしての自分に心酔し、常に力になってくれた心強い味方だった。
 同時にルルーシュとしては、同じ学校の生徒会の仲間でもある。
 そして、部下、という聞きなれない単語に、目の前のこなたが首を傾げた。
 当然だ。先ほどルルーシュは自分を学生だと名乗ったばかりだし、そんな人間に普通部下はいない。
 おまけに、あの怪しさ全開のゼロのマントもある。
「ねぇ、ルルーシュって……ホントのところは、何やってる人なの?」
 いよいよ不審に思ったこなたが、ルルーシュに向かって問いかけた。
 しばしルルーシュは沈黙する。語るべき言葉を探るように。
「……いいだろう。話そう、俺と俺の世界のあらましを」
 一拍の間をおいて、ルルーシュは遂に口を開いた。
 向こうは自分の世界の情報を話したのだ。であれば、自分だけが情報を秘するのは不公平である。
 そういう理屈もあった。
 だが、見ず知らずの彼女にそれを話す気になったのは。
 どちらかと言えば、自分が押しつぶされたくなかったからなのかもしれない。
 ルルーシュの物語に。
 捨てられた皇子と王の力、そして英雄の仮面が織り成す、嘘と戦いの足跡に。


 デュエルアカデミアの廊下。
 自身にとっては、念願叶って入学できた母校であるこの場所に、彼女――早乙女レイは、未だに潜んでいた。
 シャッターの下ろされた売店へと向かうか。
 この先の保健室にいる負傷者と接触するか。
 他の参加者との接触を避けるために脱出するか。
 3つの選択肢を脳内に浮かべたまま、その中からどれか1つを決断することができなかったのである。
 思えば随分と悩んでしまった。そろそろ結論を出さねばならない。
 そう決心した矢先、レイの思考は女の声に遮られていた。
 放送が入ったのだ。まさしく、その瞬間に。
 読み上げられたのは死者の名前と禁止エリア。アカデミアの生徒達も、自分の現在地も挙がらなかったのは幸いだった。
 しかし、不安は残る。
(なのはさんとティアナさん、それからエリオがやられた……)
 あの異世界で行動を共にしていた魔導師のうち、3人が命を落としていたのである。
 つい先刻、あの幼いフェイトを目の当たりにした時点で、彼女らのような実力者がこのゲームに参加していたことは把握していた。
 それでも、あくまでそれは、これまでレイが目の当たりにしてきた魔導師の範疇である。
 なのは達も相当な実力を持っていた。であれば、そうした人間達と互角に渡り合ったとしても、やられることはないだろう。
 そう思っていたのだ。
 だがそれにしては、この短時間で3人もの魔導師が殺害されるというのは、あまりに数が多すぎる。
 おまけにシグナムという名前も、確かなのはが話していた仲間の1人だったはずだ。
 であれば、計4人もの魔導師がやられたのではないか。
 認識を改めねばならない。なのはやフェイトが最強なのではない。それ以上の存在が参加している可能性がありうる。
 そんな存在と戦ったところで、自分は果たして生き残れるのだろうか。
 まだ見ぬ得体の知れない敵の影に、レイは思わず身震いした。
 がちゃり、と。
「?」
 不意に扉が開く。
 いざという時に行動しやすいようにと、見張っていた保健室のドアだ。
 どうやら誰かが扉を開け、外に出てこようとしているらしい。
 まだ接触していいものかは分からない。油断なく、曲がり角へとその身を隠す。
 そして、見た。
 扉の向こうから現れた青い髪と白いバリアジャケットの魔導師を。
「スバルさん!?」
 思わず叫びながら、レイは身を乗り出していた。
「えっ……?」
 そして相手がこちらの存在に気付いた時、しくじった、と内心で舌打ちをした。
 確かになのはの部下であるスバルは、自分にとっては味方と呼べる存在だ。
 だが、彼女は幼いフェイトと同じように、正義感の強い存在でもある。レイの行動原理とは到底相容れない。
 早まりすぎたかもしれない。自ら動きづらい状況を作ってしまったかもしれない、と。
 そう思いつつも、レイはスバルの元へと歩み寄っていった。逃げたところで、魔導師相手の追いかけっこに勝てるはずもなかった。
「よかった……無事だったんですね、スバルさん」
 未だ無傷のスバルの身体を見て、レイが口を開く。
 本心だ。合流したくないと思ってはいたが、顔見知りである以上、死んでほしくないに決まっている。
 故に、にこやかに微笑みながら、ゆっくりとスバルの方へと歩を進める。
 しかし、そこで違和感に気が付いた。
「……? どうしたんですか、スバルさん?」
 一方のスバルからは、何の反応もなかったのだ。
 最初にこちらへと向けた、きょとんとしたような表情のまま。
 何を言っているのか訳が分からないといった様子で、赤く充血した目を見開いている。
「……えと……君も、あたしのこと知ってるの?」
 そして、意味不明の返事をくれた。
「へっ?」
 今度はレイの方が驚かされる番だ。
 知っているの、とは一体どういうことか。知っているに決まっているだろう。何故そんな当然のことを聞く。
 それとも、まさか本当にスバルは、自分のことを忘れてしまったのだろうか。あたかも漫画の記憶喪失のように。
「あ……と……いきなり言われても、分かんない、よね」
 困ったように頭をぽりぽりとかきながら、スバルは言葉を続ける。
 パラレルワールドの話を。
 レイの想像を絶する仮説を。



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