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The people with no name ◆7pf62HiyTE




 始は図書館にて身体を休めていた。だが、数時間前にエネルの襲撃を受けた事を踏まえ、敵襲に対しての警戒は一切怠ってはいない。
 当然の事ではあるが、始自身相手が向かってくるならば迎え撃つつもりではある。しかし、この地では幾つかの問題があった。
 それは自身の身に課せられた制限だ。この地ではいつもよりも力が抑えられている。それでも並の相手とは戦えるだろうが、相手によっては致命的な事になる可能性がある。
 とはいえ、恐らくそれは他の参加者も一緒だろう。これ自体は大きな問題とはなり得ない。
 重要なのは次の問題だ、それは一度“カリス”に変身して変身解除を行ったら再変身を行う為には最低1時間置く必要があるという事だ。
 これらの制限が課せられた理由は少し考えればすぐにわかる。この場には自分よりも弱い参加者が数多くいる。制限が無ければ一方的な戦いになるのは言うまでもない。
 となればだ、恐らく自分以外のアンデッド……金居達にも同様な制限が掛けられているのは想像に難くない。
 つまり、恐らくは金居達も一度アンデッド態に変身して人間の姿に戻り(むしろアンデッド態の方が本来の姿なのだがこの場ではこう表現する)その後にもう一度再変身を行う為には1時間置く必要があるという事だ。
 さて、前述の通り条件が一緒ならば変身の制限についても条件が一緒なのでこれだけならば大きな問題にはなり得ない。だが、始は理解している。問題はこれだけではない事を……。

 それは数時間前に遭遇したエネルの存在だ。自らを神と名乗った(始は一切認めていないが)その参加者は雷・電撃を自在に操っていた。エネルと始の戦いは熾烈を極め、エリア1つを壊滅させた(原因の殆どはエネルによるものだが)。
 当然、エネルにも制限が課せられているだろうが、それでその力なのだから強敵である事に間違いはない。実際、始はカリスに変身して挑んだものの完全敗北を喫したのだから……
 更に言えばだ、他にもエネルの様な異質な強敵は存在する。始が先程遭遇した赤いコートの男がそれに該当する。それを踏まえて考えても他にも強敵はいると考えるべきだろう。
 そして、次の瞬間にもその様な参加者に襲撃される可能性があるのは言うまでもない。それこそ今いる図書館を壊滅させる程の力を持つ参加者に……。

 故に始は身を休める一方で次の戦いに備え支給品の再確認を行っていた。今現在、始の手元には自分と先程息絶えたギンガ・ナカジマの2つのデイパックがある。
 共通の支給品を除くと自身の持つラウズカードと黄金の剣であるパーフェクトゼクター、ギンガが持っていた銀色のベルトホッパーバックルと録音機だ。

 これを元に今後どう戦っていくかを始は考えていく。
 まず、真っ先に考えなければならない事は、今現在始はカリスに変身する事が出来ない事だ、変身可能にはもう暫く時間がかかる。
 当然、このタイミングで敵の襲撃に遭えば自身が倒される可能性が高いのは言うまでもない。というより、実際先程エネルに襲撃されたのが丁度その状況だった為、同じ状況を想定するのは当然といえよう。
 また、変身可能になっても今後も同じ状況に遭う可能性はあるはずなので、それも踏まえて考えていく。

 まず、真っ先に考えたのは別のアンデッドに変身する事だ。そもそもカリスというのはハートのAのアンデッド――マンティスアンデッドの姿をコピーしたものでしかない。
 また、今現在の姿である相川始としての姿もハートの2のアンデッド――ヒューマンアンデッドの姿をコピーしたものだ。
 つまり、他のラウズカードを使えばそのカードのアンデッドに変身する事が出来るという事だ。
 今現在始の手元には他にハートの3~10までのカードが揃っている。極端な話をすれば始は後8回の変身を残していると言えよう。
 だが、始はエネル戦の時点でそれは使えないと判断しており、今もそれは変わっていない。理由は仮に変身してもカリス以下の戦闘力でしかないし、カリスに変身した時の為に力を残しておきたいからだ。
 余程の緊急時であれば使うという可能性も無いでは無いがそれは低いと始は考えていた。故にこの案は却下である。

 しかし、着眼点自体は悪いものではない。始は次にホッパーバックルを見た。説明書を確認した所このベルトを使えばキックホッパーもしくはパンチホッパーに変身する事が出来るらしい。
 つまり、カリスと同様の力を手に入れる事が出来るという事だ。少なくとも先程考えた別のアンデッドに変身するというアイディアよりは有効だ―――
 ―――だが、やはり始はこの案も使えないと判断した。
 そもそも、ホッパーバックルを持っていたのはギンガだ。何故ギンガはこれを使って変身しなかったのだろうか? 変身さえしていれば先程の戦いも違う結果になっていた可能性があっただろうに……
 その理由はホッパーバックルを使う為には資格が必要で、ギンガはその資格を持っていなかったからだ。
 そして、始も試しに身に付けてはみた(変身するつもりはないが、変身出来るなら何かしらの反応があるはずなので)が何の反応も無い事から恐らく自分もその資格を持っていないだろう。
 使えないのであればアテにするわけにはいかない。故にこの案も却下した。

 ちなみにホッパーに変身する為に必要な資格は『絶望』である。資格を有しているならば変身する為に必要なホッパーゼクターがやって来るはずなのだ。
 ギンガの心の中には『絶望』が無かった為当然変身出来るわけがなかったし、今現在の始も『絶望』しているわけではないので、やはり変身出来るはずがないのである。
 もっとも……この地には『絶望』を抱えた参加者は何人かいる―――彼等がバックルを手にすればきっとホッパーゼクターは応えてくれるだろう―――もっとも、その時が訪れるかどうかはわからないわけだが―――

 変身するという案が使えない以上、変身せずに戦うしかない。無論、基本的にはエネル戦同様時間稼ぎとなるわけだが、その間でも出来る事はあるはずだ。
 つまり、変身せずとも使える武器で応戦するというものだ。
 まず、自身の能力によって生み出される醒弓カリスアローだ。勿論カリスアロー単独で戦えるとは言い難いが、時間稼ぎをする上では十分に使える事はエネル戦で既に証明済みだ。
 相手によっては全く歯が立たない可能性はあるものの十分に使える手段と言えよう。

 次に取り出したのはパーフェクトゼクターだ。ちなみにこれ自体は始に支給されたものではあったが、最初に確認した時点では只の剣だとしか思っていなかった為、金居達との戦闘で初めて使う時までそれに気を止める事は無かった。
 更に、あの時は戦闘中だった事もありやはり単純に剣としてしか使わなかったが今回改めて確認した所説明書を見付け、それを見た所想像以上に使える武器だという事がわかった。
 まずはこのパーフェクトゼクターは剣形態であるソードモードと、銃形態であるガンモードがあるということ。
 次にパーフェクトゼクターはカブト、ザビー、ドレイク、サソードそれぞれのゼクターのパワーを使え、4つのゼクター全ての力を使い強大な力を放つ事も可能だと言うこと。
 但し、カブト以外のゼクターの力を使う為にはそれぞれのゼクターの資格条件――ザビーが『調和』、ドレイクが『自由』、サソードが『誇り』――それが必要となっている。
 なお、余談ではあるがザビー他3つのゼクターは本来であればそれぞれザビーブレス、ドレイクグリップ、サソードヤイバーに装着する事でザビー、ドレイク、サソードそれぞれの戦士に変身する為に使われる。
 だが、パーフェクトゼクターからの指令がある場合はそちらの方が優先されるのだ(つまり変身解除される)。
 これらを踏まえて考えてもパーフェクトゼクターは強力な武器と言えよう。
 もっとも……この場にザビー他3つのゼクターが存在するとは限らないし、仮にあったとしても前述の通りゼクターの資格条件を持たなければその力を行使する事が出来ないのは言うまでもないわけだが……。
 とはいえ、仮に3つのゼクターの力を使う事が出来なくとも使える武器に変わりはない。変身不能状況での時間稼ぎにも、変身した後の戦闘にも十分使えるだろう。

 とりあえず、変身出来ない間に襲撃される場合はカリスアローとパーフェクトゼクターを使って時間を稼ぎつつ、変身可能になったら変身して戦うという、エネル戦とほぼ同じ結論に達した。
 正直な所心許ないとは思うものの、手元にある武器ではこれが限界な為、このことについての考えを切り上げる事にした。


 さて、変身可能となる時間まではまだ時間がある。変身が可能となるのは次の放送を迎えてからだろう。
 それに、先程の戦闘によるダメージが残っている。大分回復してきたもののまだ万全ではない。現状変身不能であることも踏まえ、もう少し身体を休めた方が良いだろう。
 とはいえ、やはりこの時間を無為に過ごすつもりはない、始は立ち上がり歩き始める。
 だが、戦うつもりが無い以上、現状図書館から出るつもりはない。また、別に本を読むつもりも無い為本棚に向かうつもりもない。

 始が向かった場所はカウンターの中、そこにあるパソコンのディスプレイが点いているのを確認し、パソコン前の椅子に座りパソコンの中身を確かめ始める。
 分かり切っている事だがインターネットで外部に連絡を取る事は出来ない事を確認した。
「当然だな」
 そもそも外部との連絡をプレシア・テスタロッサが許すはずがない。無意味な行動だったと思いながら今度はメールソフトを立ち上げる。先程同様何も得られないだろうと始は思っていたが……
「何……?」

 そこには1通の受信メールと30をも超える送信済みメールがあった。それも中身の文面は全て同じものだ。その時間は6時半頃……今より数時間前だ。その時刻に何者かが各地にメールを送ったという事だろう。
 それよりも気になるのはその文面と送信者だ、メールに書かれている内容は『施設の仕掛けの調査』、『地上本部の罠』、『キングへの警戒』、『放送内容の反復』に関する事だ。
 そして送信者は……『月村すずかの友人』とあった。

「どういう事なんだ……?」
 始にしてみれば現状でメールの中身自体はさして重要ではない。
 放送内容自体は覚えているものの始の行動方針を踏まえればそれについては深く考える必要もないし、施設の仕掛けや罠も気に留める程度で済む話だ。
 キングという名前を見てカテゴリーKのアンデッドを一瞬だけ連想したが、あまりにも安直過ぎる為、それは無いだろうと判断した。
 始が気になったのは次の事だ……
「このメールを出したのは……天音ちゃんの友達なのか……?」
 天音―――栗原天音は始にとって大切な存在である10歳の1人の少女である。そして、彼女から友達になった少女達の話を聞いていたのだ。
 その友達はなのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかの5人……直接会った事こそなかったが彼女達の存在を始は知っていたのだ。

 ちなみに、最初に名簿を確認した時点で高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての名前を確認している(何故か2つずつあったのが気になったがその事については考えていない。)。
 しかしその時点では、何の力もない小学生である彼女達が参加させられているとは思えなかったし、仮に彼女達であったとしても目的を果たす為には殺すつもりであった為、特に気に留めてはいなかった。
 さて、始の推測が正しいならばメールの送信者はなのは、フェイト、はやての3人の内の誰かということになる。恐らく、彼女達が友達にメッセージを伝える為に行ったのは想像に難くない。

 だが、仮にそう考えるのであれば奇妙な話と言えよう。

 その理由はメールの文面にある。メールの文面が明らかに10歳前後の少女が書いたものとは思えなかったのだ。どことなく大人の人が書いたもの……そういう印象を受けたのだ。
 天音から聞いた所彼女達の歳は天音と同じぐらい……10歳前後のはずだ。しかし、メールからはそんな印象は無い、これはどういう事なのだろうか?
 最初に名簿を確認した時と同様に天音の友人である彼女達とは別人という可能性も考えた。
 それならば当然人間関係が違ってもおかしくはないので先程の仮説―――メールがなのは、フェイト、はやて何れかによるもの―――それは全く成り立たなくなるので問題がない。

 しかし、冷静にこれまでの事を思い返すと他にも奇妙な事があった。

 それはプレシアによってこの殺し合いの説明が成された時の話だ。あの場では1人の少女が首輪を爆破されて命を落としている。その少女は確かアリサと呼ばれていた。
 だが、始はこれまでそのアリサを天音の友人のアリサを結びつけて考えてはいなかった。
 その理由は単純、首輪を爆破されたアリサが約20歳ぐらいだったからだ。始は彼女を名前が同じだけの別人だと考えていた。

 もう1つある。それは先程ギンガが死に際に遺した言葉だ。
『あと……なのはさんと、フェイトさん……はやて部隊長、それにスバルと……キャロに会ったら――』
 ここで重要なのはなのは、フェイト、はやてには『さん』もしくは『部隊長』付けで呼んでいるのに対し、スバルとキャロについては呼び捨てにしているということである。
 見たところギンガの年齢は10代後半といった所だろう。そしてキャロの年齢は天音と同じぐらいの年齢……10歳前後だろう。
 問題なのはキャロに対しては呼び捨てなのに、なのは達3人に対しては『さん』もしくは『部隊長』付けとなっていた事だ。
 仮になのは達が10歳前後とするならばキャロ同様呼び捨てにしている方が自然である。
 しかもだ……こっちの場合は名前が同じだけの別人と考えるには少々無理があるのだ。ギンガの言葉が確かならなのは達3人は仲間同士である可能性が高い。
 天音の友人であるなのは、フェイト、はやて(他にアリサとすずか)、そしてギンガの話したなのは、フェイト、はやての3人が仲間同士……偶然にしてはあまりにも出来すぎている。
 もしかしたら……あまりにも突拍子も無い仮説ではあるが、その人間関係から考えてメールにあるすずかと最初に殺されたアリサはギンガの話したなのは達の友人という可能性を考えた。だが、
「いや、こんな事を考えても仕方がないか……」
 始はこれ以上考えても意味は無いと思い、その事についての思考を切り上げる事にした。メールの差出人が誰であっても自分のすべき事には変わりはないのだから……


 さて、始は改めてメールを確認する。メールを確認した所、30以上のアドレスに送信してあった。何故、送信者は30を超える場所にメールを出したのだろう?
 普通にメッセージを送るならば必要な所だけに絞るはずだ。
 沢山の場所に送ればそれだけ見られる可能性が高まるが、それは必ずしも仲間とは限らない。自分の様な敵対する参加者に見られる可能性はある。
 それ以前にその仲間がメールを受信出来る状況にあるとは思えない。メールで連絡を取るというのをプレシアが許すとは到底思えない。
「待てよ……」
 始は1通だけあった受信メールを確かめた。それはこのパソコンから送られたメールと同じ物だ。つまり、送信されたメールをそのまま受信したという事だ。
 だが、メッセージを伝えるという目的を考えるならば無駄としか言いようがない。わざわざ送信元にメールを送信する必要など無い。仮に何か理由があるとしたら……
「どのアドレスが何処に送られるのかがわからない……?」
 つまり、送信者もどのアドレスが何処に送られるのかを把握していなかったという事だ。そんな得体の知れないアドレスに何故メールを送ったのだろうか?
「いや……」
 と、始は図書館にメールが来た事を思い出し、デイパックから地図を取り出しある事を確認する。
「送信したメールの数と地図にある施設の数が殆ど同じ……だとしたら……」
 出した仮説……それは送信者は地図上にある施設全てに全く同じ文面のメールを送ったというものだ。
 つまり、送信者はアドレスが何処かの施設のパソコンのものだという事を把握していたが、どのアドレスがどの施設に繋がるかはわからなかったのだ。
 それでも仲間達にメッセージを送る為に敢えて全てのアドレスに同じメールを送ったという事だろう。
「……」
 とりあえず始は送信されたメールのアドレスを全て紙に書き留めて置く事にした。


 アドレスを書き留めた始は休息を終えた後の事を考える。
 最終的な目的自体は変わらないわけだが、その為の目的地をどうするかを正直決めかねていた。
 本能に従いそのまま進んでもいいだろうし、メールに従って参加者が色々な施設に集まるならば他の施設を回ってみても良いと考えていた。
 その最中、始はデイパックから録音機を出す。ギンガは死に際に始に録音機をアーカードに渡してと頼み、始はそれに対し肯定の返事を返していたのだ。
「アーカードか……」
 始は暫し録音機を眺めた物の再びそれをデイパックに戻した。そして、今一度始はギンガの最期の言葉を思い返す……
『あと……なのはさんと、フェイトさん……はやて部隊長、それにスバルと……キャロに会ったら――』
 天音の友人と同じ名前のなのは達3人と先程自分が襲ったキャロ、そしてギンガの口ぶりから恐らくギンガの妹か弟と思われるスバル……ギンガは始に彼女達について何かを託そうとしたのはわかる。しかし、何を託そうとしたのかはわからなかった。
「俺は……」
 正直な所、始はどうしたらいいのかがわからなかった。



 始の目的は栗原親子の元に戻る事である。
 そして、始はその為に全ての参加者を皆殺しにして優勝しようと考えていた。
 そう、あくまでも目的は帰還であって優勝ではないのだ。だが、優勝以外に帰還する方法は無いと考えていた為、殺し合いに乗って優勝を目指していたのである。
 もっとも……幸か不幸か始はこれまで誰1人として参加者を殺していないわけだが……。
 始はアンデッドであり人間ではないし、殺し合いに呼ばれる前からアンデッド同士のバトルファイトを行っていた。それ故に他の参加者と戦い相手を殺す事については殆ど迷いがなかった。
 それこそ仮に天音の友人であるなのは達が参加させられていたとしてもだ。それは天音と同じぐらいの歳のキャロを殺そうとしていた事からもそれは明らかだ(厳密にはその時には僅かな気兼ねはあったが)。
 その目的は今も変わってはいない。だが、今の始の中にはある種の迷いがあった。

 数時間前始はエネルと戦いを繰り広げた。エネルの力は強大で始は完全敗北を喫した。
 だが、問題はそんな事ではない。重要なのはエネルの血が赤かった事だ。血が赤いという事はアンデッドではない事を意味している。アンデッドの血は緑色なのだから。
 始はこの場に来た当初は元々のバトルファイトと似たものだと考えていた。違う点はせいぜい人間も参加させられているという点だ。
 だが、これまでの事を振り返ると明らかにおかしな事がある。例えば参加している人数からもそれは明らかだ。
 始は前にこの地にいる自分を除くアンデッドの数を最大で9体と読んでいた。しかし、参加者の総数は60人だ。明らかにアンデッドの人数が少なすぎる。
 それでもその時点ではバトルファイトを終盤まで進めた物だと推測し、それ以上の事は考えなかった。
 だが、エネルの存在を知った今ではどうだろうか? エネルの存在は明らかにバトルファイトとは全く異質の存在だ。
 そして、エネル以外にもアンデッドとは異質の強大な存在がいる。先程も触れた事だが赤いコートの男―――ギンガを殺したと思われる彼もそれに該当するだろう。
 なお、余談だがその赤いコートの男がギンガの話していたアーカードなのだが、名前しか聞いていない為、始は赤いコートの男がアーカードだという事には気付いていない。
 更に奇妙な事がある。ギンガとインテグラに自分の世界の出来事を話した際、2人は驚いていた気がした。
 恐らく2人はバトルファイトの事もアンデッドの事も知らないだろうが、それならそれで大きな問題がある。何も知らない彼女達をバトルファイトの参加者にしているわけなのだからだ。

 本当にこの戦いはバトルファイトなのか?
 何故バトルファイトにアンデッドとは無縁の人間が数多く参加しているのか?
 仮にこれがバトルファイトでは無いならば何故プレシアは自分達アンデッドや人間達を集めてこの戦いを行うのか?

 多くの疑問が始の中で駆け巡り―――



―――全ての参加者を殺し優勝したとしても本当に元の世界に戻る事が出来るのだろうか?



 根本的な目的に関わる疑問に行き当たった。仮に優勝したとしても、天音達の所に帰れないのであれば全く意味は無くなってしまう。
 そもそも優勝した所で帰れるとは口にしていなかった為そんな保証が無い事などわかっている。それでも始はそれを信じ、優勝を目指していた。
 だが、果たしてプレシアが本当に信用出来るのか? ある意味でバトルファイトをぶち壊しているあの女を信用して良いのか? 浮かび上がる疑問は止まる事は無い。



 そう―――始の中では本当に全ての参加者を皆殺しにしていいのかという疑問に心の奥底では行き着いていた。



 勿論、始本人はその事を認めたりはしないだろう。だが、いかに口で認めなくとも行動にそれは表れている。

 例えば、先程のパソコンのメールチェックにしてもそうだろう。参加者を皆殺しにするという目的に関して言えば、情報があろうが無かろうが皆殺しにする以上大きな意味を持つ行為とは言えないだろう。
 百歩譲って情報確保の出来るメール内容の確認までは良いだろうが、わざわざメールアドレスを把握する意味は殆ど無いと言えよう。別にメールアドレスで何かするわけではないのだからだ。
 また、アーカードに録音機を渡してというギンガの願いも本当ならば聞く必要は全く無い。アーカードに録音機を渡した所で、そのアーカードも殺す事には変わらないからだ。
 しかし、始はその願いを反故にしたくはないと考えていた……その理由は始自身もわかっていないが……。
 更に、つい先程ギンガを助ける為に図書館まで連れて逃げた時の事もそうだ。やはり彼女を助ける必要も無かったはずなのだ。では、始は何故彼女を助けたのだろうか?
 そして、ギンガが気に掛けていたなのは達の存在……無論始の目的を考えるならば当然彼女達も殺さなければならない……それでも、始は彼女達に会ってどうするかという結論を出す事が出来なかった―――



―――そんな事を考えていく内に時刻は正午に近付いていき―――



「……!!」



 始は突如悪寒を感じた。その悪寒が示す意味は只一つ、アンデッドが本来の姿に戻って戦っているという事だ。
 すぐさま地図とコンパスで場所を確認する。方向は北か北西……距離としては少し離れた場所だろう。
 そのアンデッドは恐らくは金居とは別のアンデッドだろう。金居はつい先程まで自分と戦闘中だった為、今現在はまだ自分同様変身出来る筈が無いからだ。


 その最中、始は自分の中で湧き上がる欲求に今更ながらに気が付いた。それはアンデッドとして他のアンデッドと戦う本能とは違う別の欲求―――





―――相川始の本来の姿であり―――





―――自身が忌み嫌いその姿に戻る事を望まなかった姿―――





―――ジョーカー―――





―――その姿に戻ろうとする力が強まっているのを感じたのだ。


 事実としてジョーカー化の欲求自体はこの場では強まっている。それは実際始の中で何度と無く湧き上がっていた。しかし始はこれまでそれをさほど感じてはいなかったのだ。
 何故か? 簡単な話だ、始はこの場に来てから理由はどうあれ全ての参加者を皆殺しにするつもりで戦っていた。つまり、ジョーカーになろうがなるまいがどちらにしても対して違いは無いと言う事だ。
 そして、始自身はジョーカーになるつもりは無いと言っていても、一時はジョーカーがバトルファイトで優勝した時に発生するダークローチを使って参加者の皆殺しを考えていた事から、ジョーカーの力を使う意志が多少はあった。
 つまり、これまではジョーカーの欲求が強まっていても始としては殆ど問題は無かったと言う事だ。

 だが、始にとってジョーカーが忌み嫌っている姿である事に変わりはなく、戻るつもりなど無かった。
 しかし、赤いコートの男がギンガに致命傷を負わせた事を知った瞬間、湧き上がる衝動を抑えきる事は出来なくなり遂に本来の姿に戻ってしまった。
 幸いあの時はまだギンガが生きていた事を確認した事ですぐに自分の意志を取り戻せたがそんな事は問題ではない。
 今まで抑える事の出来たジョーカーの力が抑えられなくなってしまった事が問題なのだ。
 不幸中の幸いか欲求が強まってきているとはいえジョーカー化に関しても制限は適応されるらしく現状は元に戻る事は無いし、仮に戻れる状態になっても今の所はまだ抑え込む事自体は出来る為、現状として大きな問題にはなり得ない。

 さて、ここで始の脳裏に新たな疑問が浮かび上がる。何故この場ではジョーカー化の欲求が大きくなっているのだろうか?
 その理由は制限によるものだと考えたものの、仮にそうだとするならば奇妙な制限と言えるだろう。
 考えても見て欲しい、変身に関する制限や身体能力等の制限は圧倒的な力を抑えて弱者でも勝てる様にする為のものだ。
 だが、ジョーカー化の欲求を大きくする事は始を有利にする為のもので、始以外の参加者にとってはあまりにも都合が悪い話だ。(始にしてみればジョーカーに戻りたくはないので制限と言えなくも無いが……)

 ここで始自身に支給された道具について改めて考えてみる。始に支給されたのはハートの1~10までのラウズカード(数枚は元々自分の所持品だったが)とパーフェクトゼクターだ。
 ハートのラウズカードは始にとって最も使える武器であり、パーフェクトゼクターも(使いこなせるかはともかく)十分に使える道具だった。
 そう、優勝を目指して戦うという意味ではあまりにも都合が良すぎる支給品なのだ。カードが10枚あった時点で始は内心では感謝しようと思ったこともあった。
 しかしだ、逆を言えばこれではまるで『参加者を皆殺しにしてくれ』と言われている様なものだろう。それを踏まえて考えるならば、ジョーカー化の欲求が強まってきている理由にも説明が付く。
 ジョーカーはアンデッドの中でも最強にして最悪のアンデッド、並の者では戦いにすらならないと言えよう。その力が強まるという事は始が参加者を皆殺しにする上ではとても都合がよい。
 結論を纏めるとこうだ……プレシアは最初から始に参加者を皆殺しにさせるつもりでこの場に連れてきたという事……極端な話をすれば始を利用するということだ。
 始もそれ自体は数時間前にもある程度推測していたが、ここに来て改めてその可能性を考えたのである。

 勿論、始が優勝するつもりであればプレシアの真意などどうでもいい話だ。別にこの場に守りたい人がいないわけなのだからジョーカーとなって皆殺しにしても何の問題もない……だが、
「俺は……」
 それでも始はジョーカーに戻りたくないと思っていた。そしてソファーの上で永遠に眠っているギンガを見て再び説明出来ない大きな感情が湧き上がっていく。
 始の目的は変わらない……だが、それを果たす為にどうすれば良いのか? それは、自身に湧き上がる感情の正体と同様に今の自分にはわからなかった……しかし、



―――それでも始は足を止めたりはしない―――



 仮に答えが出ないとしても戦い続ける事に変わりはない。この戦いが如何なるものであっても、始がアンデッドである以上はアンデッドと戦う事に変わりはない。少なくてもアンデッドはこの場で封印するつもりだ。
 だが、仮に全てのアンデッドを封印したとしたらどうなるのであろうか。
 先程も述べた事だが、始はこの地にいるアンデッドを全て封印したらバトルファイトの暫定的な勝者となり、無数のダークローチを生み出し参加者を一掃出来ると考えていた。
 勿論、そこまで都合の良い話があるとは限らないと思ってはいたが、皆殺しにするつもりだったので正直どちらでも良いと思っていた。
 しかし、今は違う。はっきりとした理由はわからないものの。その力を利用したくは無いと考えていた……。
 だが、アンデッド同士の戦いに勝利をしたならばその力が発動する可能性はある。これは始が抑えようと思っても決して抑える事が出来ない力だ。止める為には始―――ジョーカーを封印する以外には無い。
 前述の通り、この場でダークローチを生み出せるかは不明だ。だが、不明という事は絶対に起こらないという事ではない。これまでの事を踏まえるならば十分に起こりうる可能性はある。

 更に言えば、これは仮にこの殺し合いから生きて元の世界に戻った後にも起こりうる問題だ。
 元の世界に戻れば再びアンデッドとのバトルファイトを行う事になる。当然の事だが始はアンデッドと戦い続けるし負けるつもりなど無い。
 だが、その先に待つのは何か? ジョーカーの優勝による世界の滅亡だ。そうなれば天音達もまた死に絶えるのは言うまでもない。
 天音達の死を始は決して望まない。その一方で戦いを続け生き残る限りその先には世界の滅亡―――天音達の死が待っている。始の行動は明らかな矛盾を抱えているのだ。



 何時からこうなってしまったのだろうか?
 ヒューマンアンデッドを封印した時からだろうか?
 栗原親子の所に居候し始めた時からだろうか?
 それとも―――?



 結局の所、答えなど最初から無いのかも知れない。その先には何も無いのかも知れない。
 それでも始は繰り返される戦いをやめる事無く前へと進み続けるだろう。
 今は只、傷ついた身体を1人休ませるだけである。



【1日目 昼(放送直前)】
【現在地 E-4 図書館】
【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】疲労(小)、全身に軽い切傷(回復中)、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、カリスとジョーカーに約20分変身不可
【装備】ラウズカード(ハートのA~10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:栗原親子の元へ戻るために優勝を目指す?
 1.少なくとも変身可能になるまでは身体を休める。
 2.その後アンデッドの反応があった場所、もしくは他の施設に向かう。
 3.アンデッド、エネル、赤いコートの男を優先的に殺す。
 4.見つけた参加者は全員殺す?
 5.アーカードに録音機を渡す?
 6.あるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
 7.ギンガの言っていた人物(なのは、フェイト、はやて、スバル、キャロ)が少し気になる、彼女達に出会ったら……?
【備考】
※自身にかけられた制限にある程度気づきました。また、ジョーカー化の欲求が強まっている事を自覚しました。
※首輪を外す事は不可能だと考えています。
※「他のアンデットが封印されると、自分はバトルファイト勝者となるのではないか」という推論を立てました。
※相川始本人の特殊能力により、アンデットが怪人体で戦闘した場合、その位置をおおよそ察知できます。
※エネルという異質な参加者の存在から、このバトルファイトに少しだけ疑念を抱き始めました。
※ギンガを殺したのは赤いコートの男(=アーカード)だと思っています。
※カリスの方が先に変身制限は解除されます。
※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。



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