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最後の鐘が鳴り止むまで ――月蝕・終章二節 ◆Vj6e1anjAc




 繰り返される、剣戟と爆音。
 アスファルトの大地を揺らすのは、絶え間なく崩れ落ちるコンクリート。
 びりびりと大気を震わせるのは、上空と地上を駆ける戦士の咆哮。

 巡り会えば、互いに殺し合う宿命(さだめ)だった。

 片や憎しみのために刃を振るい、片や悦びのために引き金を引く。
 大切なものを奪った者達への復讐のために、紫電の魔剣を操る片翼の天使。
 絶え間なき闘争にに終止符を打つ者を追い求め、その期待感に歓喜する真祖の魔物。

 どちらもそのベクトルこそ違えど、極限まで突き抜けた感情に従うが故に。
 誰にも止めることもかなわず、決して標的を前に立ち止まることもせず。
 どちらもひとたび獲物を投げ込まれれば、塵一つ残らぬまで食い尽くすことしか知らぬが故に、2人は最大最強の宿敵として相まみえる。
 殺そうとしても殺しきれぬ者。
 叩き潰しても立ち上がる者。
 全身全霊の力を打ち込んでも、互角の力をもって迎え撃ってくる唯一の男。
 故に。

 2人はどちらかの命が尽きるまで、永遠に戦い続ける宿命にあった。


 跳躍。
 飛翔。
 がん、とビルディングの壁を蹴り砕き。
 大地の重力に逆らって、斜め上空目掛けて我が身を放つ。
 振りかざすのは白銀の十字架。
 血と硝煙の臭いをたなびかせ、主に仇なす者を噛み千切る鋼鉄の猟犬。
 ぐわん、と空を揺らすパニッシャーが、数百キロの超重量と共に標的へ殺到。
「童女姦者(ペドフィリア)め」
 がきん、と。
 天空に舞い踊る真紅の肉弾が、激突の轟音の中で呟いた。
 一瞬の膠着。
 互いの剛力が反発力を成し、地面に平行する軌道を描いて弾き飛ばされあう。
 右手に感じる圧力の先には、絹の銀糸を舞わせる漆黒の魔剣士。
 がりがり、がりがりと。
 地上約5階のビルの屋上に着地し、足元を削りながら減速すると同時に。
 黒の隻翼を羽ばたかせ、猛然と肉迫する切っ先を見た。
 きん、と啼く鋼。
 交えるは紫の刃と白の鉄塊。
 刀剣と銃器のつばぜり合い――まともな武器なら、まともな勝負になどなりはしない。
 おまけに相手の剣がまともでないならば、その結果は言うまでもない。
「それほどにあの娘の死が堪えたか」
 されど、こちらの得物とてまともではないのだ。
 ぎちぎちと軋む音を立てながら、再び戦況を膠着させる。
 どこぞやの悪魔狩り(ヴァンパイア・ハンター)の持ち物であろう、狂的破壊力を有した機関砲。
 そのカバーの強度すら、狂的を通り越して悪魔的。
 並の棍棒やメリケンはおろか、斧ですら砕かんばかりの強靭性。
 もはや人体ならば銃弾すら必要とせず、易々と貫き砕ける代物だ。
「人であることをやめ、化物へ堕ちる道すらも辞さぬほどに?」
 拮抗のその先の男を見やる。
 禍々しき光輝を放つ刺突剣(レイピア)を携えるのは、妖しげな光を視線に湛えた男。
 生半可に腕が立つ程度では、その眼光だけで圧殺されんばかりの強者。
 妖艶な容姿の奥底に、魔獣の獰猛性を宿した化物兵士(ソルジャー)――セフィロス。
「堕ちたのではない」
 ぼそり、と呟いた程度の声量。
 注意深く聞かなければ、膠着の悲鳴にすらも掻き消されそうな声。
 されどそこに込められた殺意の、なんと鋭くおぞましきことか。
 怒りと共に。
 憎悪と共に。
 波濤のごとく押し寄せる、暴力的なまでの圧力。
 振り抜く凶刃の一閃が、吸血鬼の巨躯を弾き飛ばす。
 びゅん、とビルの上から放り出された。
 鮮血色のコートが風に躍った。
 目まぐるしく通り過ぎていく市街地の風景。
 やがてそれも靴の足裏が、硬質な足場を踏み締め止まる。
「人の皮を被るのをやめ、あるべき形へと戻っただけだ」
 剣を掲げしセフィロスを見上げた。
 漆黒のコートに身を包み、銀髪を腰まで伸ばした男。
 茶髪の幼い少女と行動を共にし、しかし恐らくは彼女が殺されたことで、隻翼の化物へと化生した男。
 天高く向けられた切っ先に宿るのは、あらゆる生命を刺し穿つ凶暴な殺意。
 冷たく静かな人間の闘志は、今や黒々と渦巻く殺気に覆われ、荒々しき魔物のそれへと成り果ててしまった。
 それで強くなったことは否定しない。
 だがどうせ戦うというのなら、奴とは余計な雑念や主義を抜きにして戦いたかった。
 憎しみは闘志を濁らせる。
 人ならぬ者には殺されたくない。
 残念だ。
 かつて人であった頃の彼になら、殺されても構わないとさえ思っていたのに。
「星を食らう化物にな」
 瞬間。
 ちろ、と四方より鳴る熱源の音。
 ぼう、と八方に浮かぶ黒の光源。
 道路の真ん中に立った己の周囲に、無数の青黒い火の玉が浮かぶ。
 空気を焦がし、景色を歪め。
 じわりじわりとにじり寄る、合計10もの瘴気の炎球。
 がちゃり。
 刹那、開口。
 猟犬の轡が外される。
 十字架の先端が開放される。
 覗くは銃口。
 ゴルゴダの磔刑を模した獣の口は、雄叫びに乗せて弾丸を放つためにある。
 撃発。
 どどどどっ、と炸裂音。
 鼻腔を鋭くつんざくガンスモークの臭い。
 マズルフラッシュが顔面を照らし、反動がびりびりと右手を揺らした。
 右の腕で腰だめにパニッシャーを構え、トリガーを引き鉛の弾丸を一挙に解放。
 そのまま両の足をひねり、砲塔を振り回すかのように大回転。
 命中、命中、命中。
 爆発、爆発、爆発。
 さながら瓦礫を撒き散らす竜巻だ。
 まさに紅色のトルネード。大自然の巻き起こす猛威そのもののド迫力。
 回転しながら放つマシンガンの弾幕が、次々と火の玉を撃ち落としていく。
 おぞましき魔力の込められた闇の炎球が、さながらスイカか何かのように吹っ飛ばされていった。
 全ての炎を掻き消したと同時に、両足でブレーキを利かせて静止。
 されど、それだけでは終わらない。
 それだけの炎を放つ程度では、あの復讐鬼の憎悪は収まらない。

“愛の紅雷”!

 身体の回転を止めた瞬間、その一瞬の隙を突くようにして、薔薇の機銃掃射が襲いかかった。
 かつん、とアスファルトの道路を蹴る。
 停止せんとする身体に力を入れる。
 運動のベクトルを強引に定め、半ば水面に飛び込むようにしてダイブ。
 一瞬前までいた所を、雲霞のごときニードルが貫く。
 一瞬の判断が遅れていれば、間違いなく心臓ごと蜂の巣にされていた。
 虚空に咲く花が首を傾げる。
 薔薇の様相を成した飛行砲台が、一斉に銃口を傾け追撃。
 コンクリートに飛び込まんとする身体を、ぐっと右足に力を込め反発させた。
 そのまま両足で交互に大地を蹴り、強引に走行態勢へと突入。
 振り返れば目と鼻の先に迫るスコールとの競争。
 弾丸が近づけばコートが遠のく。
 走るスピードが落ちれば裾に穴が空く。
 大地を穿つ魔性の銃弾がアスファルトを砕き、くっきりと直線状の軌跡を刻み込んだ。
 そのまま手近なビルへ至り、跳躍。
 蜘蛛を人間大にスケールアップしたような、スムーズかつスピーディな動きで壁をよじ登る。
 頂点へ至るとほぼ同時に壁を蹴り、再びセフィロスの元へと飛びかかった。
 振り上がる十字架。
 ゼロへと至る距離。
 持ち上がる紫の剣。
 轟くは粉砕の爆音。
 堕天使の足元の床に亀裂が走り、めきめきと嫌な音を立ててクレーターを形成。
 上方からの衝撃に揺れる刀剣が、がちがちと硬質の擦れる音を掻き鳴らす。
 衝撃に耐えられなかったのは足場の方だ。
 瞬間、視界が下方へと沈む。
 遂に両者を支えていた天井が崩壊し、2人の男が鉄筋の海へと引きずり込まれる。
 崩れ去るは瓦礫。
 立ち込めるは粉塵。
 がらがらと轟音を立てながら、ゼロへと落ちていく視覚と触覚。
 5階、4階、3階。間もなく2階まで落ちる頃か。

“妖艶なる紅旋風!”

 途端、襲いかかったのは横殴りの突風。
 渦を巻く風に混ざり身を引き裂くのは、艶やかかつ剣呑な花弁の刃。
 比喩でも何でもない、紅色の竜巻。
 膠着を打開したのはまたもセフィロスだ。
 魔剣の放つ死の旋風が、吸血鬼の血を刻み肉を吹き飛ばした。
 ごう、と渦巻く風の荒波が、背後で壁を粉砕するのが分かる。
 外界に投げ出された瞬間、風の音に更なる破壊の音が混ざる。
 がらがら、がらがらと立て続けに響くのは、身を貫かれ倒壊するビル群の断末魔か。
 指先が千切れ飛び、触覚が消えた。
 頭蓋が砕け散り、視覚と嗅覚を失った。
 聴覚を手放す直前に、ぎしぎしと軋むパニッシャーの音を聞いた。
 五感の全てを喪失してなお、あの男の影を感じている。
 烈風を突き抜け殺到する、憎悪の権化の気配を感じる。
「!」
 逸早く修復された左腕で、叩き込まれる刃を掴んだ。
 次いで修復された右腕を、パニッシャーごと突き込んだ。
 続いて修復された眼球に、軽い驚愕と共に回避するセフィロスの姿が映った。
 ぐちゃぐちゃと音を立てながら、ミンチから人型へと戻っていく五体。
 剣を握る五指を切り裂かれながら、改めて吸血鬼は――アーカードは己が標的を見据える。
 眼前の男へと意識を向けながら。
 重力に従い地へと落ちながら。
 重圧と轟音を伴い繰り出される、剛腕と十字架の連続攻撃。
 その合間を縫って返されてくる、疾風怒濤の斬撃乱舞。
 繋がりかけの左手が飛んだ。治りかけの胃袋が弾けた。
(追いついてきたのは私だけではない、か)
 攻撃が素早くなっていく。
 狙いも的確になっていく。
 相手の動きに慣れてきたのは、どうやら自分だけではなかったらしい。
 セフィロスに斬られた傷口の修復速度が、少しずつ遅くなっていく。
 より致命傷に近づいていく証だ。
 一瞬前以上に脆い箇所に、一瞬前以上に深い傷を。
 全くもって気が抜けない。
 だからこそ殺し甲斐もあるというもの。
 いくら殺されるわけにはいかない戦といえど、やはり相手にも歯ごたえがあった方が面白い。
 両足が地に着いた瞬間に、己が口元に浮かんだ笑みを認識した。
「もとより私には、人である意味などなかった。唯一、私に人であることを求めたあいつも、もういない」
 刃の向こうでセフィロスが囁く。
 赤き火花の舞い散る奥に、青く煌く瞳が見える。
「ならば、今更人でなければならない理由がどこにある」
 がきん、と。
 もう何合目とも知れぬつばぜり合い。
 重なり鳴り合う得物の奥で、黒き魔剣士が言葉を紡ぐ。
「随分とおしゃべりになったじゃないか」
 にぃ、と口元を吊り上げる。
 むしろ人として向き合った時には、自分に御託はいいとまで言い切ったのに、と。
 あの死の光球の騒ぎで離れ離れになってから、再び出会ったこの男は、なるほど確かに強くなった。
 あの長刀をも凌ぐ魔剣を手に入れ、己の全ての力を出し惜しみなく使い、この自分に真っ向から挑んできた。
 奴の刃を受け止めるたび、心が躍る心地だった。
 奴をいかにして叩き潰そうかと考えるたび、愉悦の笑みが浮かんできた。
「惜しい男だ」
 だが、奴はもはや人間ではない。
 あるべき姿だという化物へと戻った今、奴は人として格段とつまらない男に成り下がった。
 高潔な人としての意志は、醜い復讐心に塗り潰された。
 全身から狂気を振りまくあの様は、まるで自分を見ているかのようだ。
 ああ、そうだとも。
 奴は己と同じ化物だ。
 だからこそそんな奴は気に食わない。
 忌むべき自分自身と同じ奴など、どうして好きになれようか。
 故に、この男とはここで決着をつける。
 この忌まわしき挑戦者を、己が手でくびり殺してくれる。
 髪の毛の一本たりとも残しはしない。
 奴はこのおれの獲物だ。
 おれの手で、生きた証の一切合財を残さず、完膚なきまでに葬り去るのだ。
「本当に――ッ」
 ぐわん、と鉄塊が空を切る。
 白のクロスが回転する。
 四枚歯の歯車が轟転し、組み付いた魔剣を弾き飛ばす。
 がちゃりと先端をセフィロスへ向けた。
 長い方ではなく、短い方を。
 鎌首をもたげる銃口は、機関砲のそれではない。
 より一撃の破壊力に特化した、炎熱と炸裂を伴うグレネード・キャノン。
 噴き上がる白煙。
 尾を引く赤い炎。
 視界を遮断する純白の闇と、闇を裂き疾走する必殺の爆弾。
 僅か5メートル先の地点でそれは爆発し、一挙に煙とアーカード自身を吹き飛ばした。
 白い闇が晴れたその先には、灰色の煙が立ち込める。
 グレーの暗黒をぶち抜き飛び退るのは、しかし未だ健在のセフィロス。
 刹那の見切りでかわしたのか。
 それでこそ最強の宿敵に相応しい。
 その命、この自分を抹殺するために使ってくれていたら、一体どれほど救われたことか。
「たとえいくら斬られても、私の前に立ちはだかるというのなら……」
 漆黒の片翼を羽ばたかせ、おぞましき堕天使が静かに呟く。
 同時に収束されるのは、これまでの攻撃とは比較にならない、莫大なまでのエネルギー。
 妖しき魔晄色の双眸は、幾千万の魔獣の眼光。
 全身がざわざわと蠕動する。
 身体中の体毛が総毛立つ。
 魔力を持たぬアーカードにも理解できる。
 滾る憤怒と憎悪が力を成し、目にも見えんばかりの勢いで燃え盛っている。
 間違いない。今まさに放たれんとしているのは、あの男のとっておきの必殺技だ。
 これまでのどの攻撃も比較にならない、最大最強の奥義を見せんとしている。
 いいだろう。
 望むところだ。
 それが奴の全力だというのなら、真っ向から立ち向かって粉砕してやる。
 技が発動するまでの隙を突くなどという、情けない真似をするつもりはない。
 お前の傲慢と殺意の全てを打ち砕いてこそ、真にお前に勝利したと言える。
 これで最後だ。
 この一撃で決着だ。
 その攻撃を凌ぎきった瞬間こそが、お前の最期の瞬間だ。 
「押され、潰され――――――燃え尽きろ」
 刹那、世界が爆ぜた。
 目に見える視界のその全てが、爆裂四散したかと錯覚するほどの衝撃だった。
 これまでに見聞きしたことのない光景が、情景を突き破り襲いかかった。
 不死身と謳われるアーカードにも、現世に辿り着けない場所が2つある。
 1つは水中。流れる水を嫌う吸血鬼は、海にも川にも潜れはしない。
 1つは宇宙。重力の拘束から完全に逃げ切り、成層圏をも突破する力は、吸血鬼にすらありはしない。
 この時アーカードが垣間見たのは、その2つのうちの後者だった。
「ハハッ! これがお前のとっておきか!」
 狂喜する。
 乱舞する。
 全く世界は面白い。
 最も嫌いな男のおかげで、最も珍しいものの一端が垣間見られるとは。
 轟音と衝撃と爆熱を引き連れ、最強の吸血鬼に襲い掛からんとするもの――それは、流星群。
 眩く赤熱する隕石が、まさに幾千万の星々のごとく、無限に大地に降り注いでいく。
 大宇宙の猛威の前に、地球人類の文明はあまりにも無力だ。
 ビルは粉々に打ち砕かれ、ガラスは割れた破片ごと蒸発した。
 道路のアスファルトも容易く引き剥がされ、地上は膨大な数のクレーターに満ちる。
 煌々と灼熱する煤けた大地は、まさに地獄の釜そのもの。
 轟々と渦巻く赤黒い空は、地獄の業火の色を宿し燃え盛った。
 なんということだ。
 なんと素晴らしい。
 今この場で争っているのは、たった2人きりの化物に過ぎない。
 しかして今視界に広がる有様は、かの二次大戦の最終決戦そのものではないか。
「我々で起こすというのか――最終戦争(ハルマゲドン)を!」
 たった2人の終末戦争。
 なんと心躍る展開か。
 これほど狂的で、これほど魔的で、これほど滑稽で、これほど痛快な一対一(マンツーマン)など、元の世界では絶対に味わえまい。
 今この瞬間だけならば、あのプレシア・テスタロッサにも感謝しよう。
 これほどまでの強敵を、この手で討ち取ることができるのだから。
「面白いッ!!」
 叫びと共に、大地を蹴る。
 眼下の火の海を置き去りにし、遥か上空へと舞い踊る。
 ただ一度の跳躍では届かない。自在に空を舞うセフィロスの翼に比べて、この足の跳躍力はあまりに乏しい。
 ならば何度でも跳ぶだけのこと。
 空を飛べぬというのなら、その高さに至るまで、ひたすらに跳び続けるまでのこと。
「ならばお前は、豚のような悲鳴を上げろ」
 がつん、と音を立て蹴り砕いた。
 新たな足場にしたものは、怒濤の勢いで押し寄せる隕石。
 足裏が燃え尽きようとも構わない。燃えるそばから再生するのだから。
 続々と迫り来る流星群を、さながら階段でも上るかのような速さで蹴って進む。
 一瞬でもタイミングを外せば待つのは死だ。
 一撃でも命中すればそこで全てが終わる。
 残る数百数千の灼熱全てをその身に受け、心臓ごと五体の全てを圧殺される。
「お前の断末魔を、私のための凱歌として捧げろ!」
 ぎりぎりの瞬間を見極め進んだ。
 臨死のスリルを恍惚に変え、灼熱の波をよじ登った。
 1メートル、また1メートルと。
 着実に天を駆ける吸血鬼が、激流の源泉へと昇っていく。
 その先に待つ者のもとへ。
 空を舞う片翼の天使のもとへ。
 最強最悪の宿敵に、この手でとどめを刺すために。
「殺(と)ったぞ!!」
 それが勝利宣言だ。
 ごきり、と。
 鈍い音が、鳴った。
 伸びる右手を、血が伝った。
 吸血鬼と堕天使が向き合う。
 黒い髪と銀の髪。
 赤い瞳と青い瞳。
 真紅のコートと漆黒のコート。
「いや――」
 震えるような声だった。
 蚊の鳴くような音量だった。
 つぅ、と口から糸を引くのは、鉄と死の臭いを孕んだ血のライン。
 露出された胸元の下の腹部が、じわりと鮮血に滲んでいる。
 その腹を掴むアーカードの指が、深々と肌を貫き骨を砕いた。
 急速に弱まっていく命の鼓動。
 いかに片翼の天使といえど、明らかに致命傷と言える決定打。
 されど。
 ああ、されど。
 セフィロスの顔は。
 かつて最高の英雄と謳われた、史上最強の魔物の顔には。



「――殺(と)ったのは私だ」



 力のこもった笑みが、浮かんでいた。
 驚愕するアーカードの胸元へと、右手が刃を突き込んでいた。
「な」
 吸血鬼の魔眼が胸を見やる。
 白銀の光輝を放つ切っ先を見やる。
 不死身の肉体を貫いたのは、魔性の刺突剣(レイピア)のそれではない。
 身の丈2メートル近くの背丈すらも、更に凌駕する長さの和刀。
「に」
 それは英雄セフィロスの忘れ形見。
 かつて人であったセフィロスが、数多の戦場を共に駆け抜けた相棒。
 闇へと堕ちたセフィロスが、それでもなお振るい続けた最強の名刀。
 名を――正宗。
 唯一英雄にのみ扱うことを許された、古今無双の名剣である。


“妖艶なる紅旋風”!


 それがとどめの一撃だった。
 まさに死力を出し尽くした、正真正銘最期の一発だった。
 左手の魔剣よりほとばしる竜巻は、串刺しのアーカードを吹き飛ばし、地上本部の壁を突き破った。


 誰もが呆然としていたに違いない。
 少なくともヴィータ自身は、呆けた顔をすることしかできなかった。
 突如として市街地に降り注いだ、ごく小規模の隕石群。
 されどそれは、宇宙の規模から見た話に過ぎない。
 一個人の放つ攻撃にしては、あまりにも圧倒的すぎる破壊力。
 爆音と激震と灼熱の果てに、待っていたのは地獄絵図。
 元々それまでの戦いで、都市機能の半分以上を喪失していた場所なのだ。
 大宇宙より襲い来る嵐の後、彼女らの視界に広がっていたのは、ほぼ完全なる廃墟と化した街並みだった。
 桁が違う。
 次元が違う。
 それらの言葉のみですら生ぬるい。
 たった2つの生命の激突が、僅か1時間弱の戦闘で、これほどの焦土を生み出せるものなのか。
 中央にそびえ立つ地上本部が健在なのが、不思議としか言いようがないほどの惨状だった。
「今だ」
 耳を打つ男の声。
 びくり、と全身が打ち震える。
 ヴィータの意識を我に返したのは、金居と名乗った男の声。
 共にアーカードを討つと決めた、眼鏡と黒ジャケットの男だ。
「あれだけの戦闘の後なら、いくらアーカードといえど無事では済まないだろう。奴の飛ばされた場所に行くぞ」
「お……おう」
 急かされるがままに槍を起動。
 真紅の騎士甲冑を同時に身につけ、臨戦態勢を整える。
「それじゃあ、私はセフィロスの方を見に行ってくる」
「ああ。精々気をつけなよ」
 さしもの偽はやての声も、動揺に微かに揺れていたようだった。
 遠ざかる背中を見送ると、自分達も目的地へと走り出す。
 赤いゴシック・ロリータのドレスを揺らして、焼け爛れたアスファルトを踏み締め進んだ。
(本当、なんて奴らだよ……)
 道中の光景を瞳に映し、思う。
 長きに渡る戦いの中でも、これほどの惨状を目の当たりにしたことはほとんどない。
 ましてや、一対一の戦いの結果であるならばなおさらだ。
 完全覚醒を果たした闇の書以外に、果たしてどれほどの存在が、これほどの破壊力を行使できる。
 数時間前の戦闘では、咄嗟にヘルメスドライブを使って難を逃れた。
 もし仮にあれを起動していなければ、この地獄が生まれたのがあのタイミングであることは言うまでもない。
 であればその瞬間、あの場にいた自分はどうなっていたか?
(……悪魔め……っ)
 ゼストの槍を握る手の震えは、いつまでも消えることがないようにさえ思えた。


【1日目 夕方(午後から夕方に移った直後)】
【現在地:E-5 市街地】

【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】疲労(中)、セフィロスとアーカードへの恐怖
【装備】ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ヘルメスドライブ(レーダー破損中につき数時間使用不能、核鉄状態)@なのは×錬金、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F
【思考】
 基本:はやての元へ帰る。脱出する為にとりあえずはやて(StS)と一緒に行動する。
 1.はやて(StS)の事は様子見。暫くは共に行動するが、不審な点があれば戦う事も辞さない。
 2.金居と共にアーカードを殺しに行く
 3.ヴィヴィオ(もし見付けたらギルモンの代わりに守ってやる)、ミライ、ゼスト、ルーテシアを探す
 4.アーカード、アンジール、紫髪の少女(かがみ)はぶっ殺す
 5.セフィロスは危険。何とかして倒したいが……
 6.グラーフアイゼン、どこにあるんだ?
【備考】
※ヘルメスドライブの使用者として登録されました。
※セフィロスと出会う前のセフィロスの動向をある程度把握しました。
※今のところ信用できるのはミライ、なのは、フェイト、ユーノ、ルーテシア、ゼストのみ。
※注意するべき人物:はやて、カブトムシの怪人、アーカード、アレックス、仮面ライダーなる紫髪の少女、アンジール、セフィロス。
※参加者が異なる時間軸やパラレルワールドから連れて来られている事を把握しました。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストとルーテシアと合流しゲームから脱出する
 1.とりあえずはヴィータとはやてに協力
 2.できればこのまま何事もないとありがたいが……
 3.ゼストとルーテシアが自分の知る2人か疑問
 4.金居のことは気に入らない。超警戒。
【備考】
※アギトの参戦時期はシグナムと共にゼストの所に向かう途中(第23話)からです。
※参加者の状況が自分の知る彼等と異なる事に気付いており、ゼストとルーテシアも自分の知る彼等と異なる可能性に気付いています。但し具体的な事は分かっていない為、今の所他の参加者に話すつもりはありません。
※デイパックの中で様子を伺っていた為、ヴィータに発見されるまでのセフィロスの動向をある程度把握しています。
※ヴィータの言ったはやてが『偽物』である事については否定的です。
※参加者が異なる時間軸やパラレルワールドから連れて来られている事を把握しました。


【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのは STS OF HUNTER
【道具】支給品一式×2、トランプ@なの魂、いにしえの秘薬(残り7割)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、砂糖1kg×8、
    カードデッキの複製(タイガ)@仮面ライダーリリカル龍騎、USBメモリ@オリジナル、ランダム支給品0~1
【思考】
 基本:プレシアの殺害
 1.ヴィータと共にアーカードを殺しに行く
 2.プレシアとの接触を試みる(その際に交渉して協力を申し出る。そして隙を作る)。御褒美の話については状況次第
 3.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)
 4.利用できるものは全て利用する。邪魔をする者には容赦しない。
 6.USBメモリの中身の確認を行う
 7.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする
 8.もしもラウズカード(スペードの10)か、時間停止に対抗出来る何らかの手段を手に入れた場合は容赦なくキングを殺す
【備考】
※このデスゲームにおいてアンデッドの死亡=カードへの封印だと思っています。
※最終的な目的はアンデッド同士の戦いでの優勝なので、ジョーカーもキングも封印したいと思っています。
※カードデッキ(龍騎)の説明書をだいたい暗記しました。
※殺し合いが適度に難航すればプレシアが介入してくると考えています。また、首輪を運良く解除出来てもその後にはプレシア達との戦いが待っていると考えています。
※参加者が異なる並行世界及び時間実から連れて来られている可能性に気が付きました。
※ジョーカーが殺し合いに乗っていないでインテグラルと組んでいた場合、アーカードを止める鍵になる可能性があると考えています。
※制限に気が付きました。また、変身時間の制限も元に戻った後50分は再変身出来ない所までは把握しました。なお、変身不能から丁度1時間経過した為変身が可能になりましたがまだその事には気付いていません。
※プレシアに思考を縛る力があるかもと考えています


 ぱらぱらと降り注ぐ破片の粒が、治りかけの筋肉に付着する。
 ぐちゃりぐちゃりと蠢くそこから、振り払われるようにして落ちた。
 薄く粉塵の浮かぶ部屋の中、ぼんやりと視界が蘇ってくる。
 未だ四肢は動かない。両手両足のいずれにも、上手く力が入らない。
 最後の最後に、こっぴどくやられたものだ。
 未だ刺さったままの正宗を見下ろし、真祖の吸血鬼は自嘲する。
 そう。
 アーカードは生きていた。
 胸を貫かれた吸血鬼は、しかし心臓の鼓動を止めていなかった。
 肋骨に阻まれ、軌道を歪められた切っ先は、心臓を傷つけることなく貫通したのだ。
 こんなもの、本当の本当に奇跡としか言いようがない。
 あれほどの実力を持ったセフィロスが、そう簡単にこんなミスを犯すはずもない。
 それこそ自分自身さえも、一瞬とどめを刺されたと錯覚した。
 運が悪ければ、殺られていた。
 最強の化物を救ったものは、力でも技でもなく、運だったのだ。
「やはり、私を殺せるのは人間だけということか」
 ふ、と。
 引き裂けた口で、歪に笑う。
 修復中の喉が搾り出すのは、ぐちゃぐちゃに歪んだ不恰好な声。
 改めて、吸血鬼は己が身を見定める。
 血みどろのミンチになった身体の再生速度は、これまでに輪をかけて遅くなっていた。
 スバル・ナカジマの振動破砕からも、数刻もせぬうちに復活した時に比べれば、その修復スピードは半分以下。
 これほど遅いとなると、もはや制限だけが原因とも、傷が深いからというだけの原因とも思えない。
(随分と「命」を浪費したようだ)
 真祖アーカードの再生能力の源泉は、これまでに殺してきた者達の命だ。
 数百年の歳月を生き抜いた不死王(ノスフェラトゥ)は、その年月に比例した、膨大な量の血を吸い続けてきた。
 故に彼の身体には、更にそれに比例するだけの生命力が宿る。
 たとえ手ひどく殺されたとしても、百万人分の命を蓄えていれば、百万回命をやり直すことができる。
 これまでに奪ってきた命こそが、言わば彼の持つ再生能力の燃料というわけだ。
 しかし逆に言うならば、それは殺されれば殺されるほど、後がなくなっていくということ。
 合計三度に渡るセフィロスとの戦いの中で、彼は幾度となく殺され続けた。
 そのために何度も再生を余儀なくされ、結果としてその燃料を浪費してしまったのだ。
 事実として、体内に感じる命の脈動が、平時よりも明らかに弱まっている。
 もちろん、これが普段のアーカードならば、高々数十回殺された程度では死なない。
 それこそ数百万回と殺さなければ、到底殺しきれるものでもないだろう。
(これも制限の結果ということか、プレシア?)
 だが、首輪による制限の対象が、再生速度だけではなかったとしたら?
 再生能力の燃費すらも、格段と悪くなっていたとしたら?
 そう考えれば納得はいく。
 これまでの激戦の果てに、異常なまでに命を消費してしまった理由も、それが理由ならば頷ける。
 問題は、どうやってそれほど強固な枷を架すことができたか、ということだが、今はそんなことを気にしていても仕方がないだろう。
 ともあれ、まずはセフィロスだ。
 まだ奴にとどめを刺していない。
 致命傷こそ与えたものの、まだ死ぬ姿を見ていない。
 ようやく動くようになった手で、鉛のように重い身体を持ち上げる。
 ようやく動くようになった足で、立ち上がった身体を支える。
 急がなければ。
 眼下に落ちたであろうセフィロスの気配は、急速に弱々しくなっていっている。
 いくら化物であるといえど、あの男には超人的な再生能力はないようなのだ。
 ならばどうやって一度目の戦闘の傷を癒したのかは謎だが、そんなことを考えている暇はない。
 一刻も早く、セフィロスのもとへと戻らねばならない。
 動けなくなったところを襲われれば、いかに奴と言えど抵抗もできまい。
 そうなればまず間違いなく、殺される。
 このアーカードが奪うべき命を、横取りされる。
 そうなる前に、戻らなければ。
 さもなくば――



 ――ぱぁん。



 不意に。
 足元から響く、乾いた銃口。
 よろよろと歩く足取りが、止まる。
「……そうか……」
 ぽつり、と呟いた。
「お前も私に殺されてはくれないのか――セフィロス」


【現在地:E-5 地上本部10階】
【アーカード@NANOSING】
【状況】健康、疲労(大)、ダメージ(極大・再生中)、左胸に【正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】が刺さっている
【装備】なし
【道具】支給品一式、拡声器@現実、首輪(アグモン)、ヘルメスドライブの説明書
【思考】
 基本:インテグラの命令(オーダー)に従い、プレシアを打倒する
 1.セフィロス……
 2.プレシアの下僕を誘き寄せるために、工場に向かい首輪を解除する
 3.積極的に殺し合いに乗っている暇はないが、向かってくる敵には容赦しない
 4.工場へ向かう道中で、首輪を解除できる技術を持った参加者を探してみる?
 5.アンデルセンを殺した奴を殺す
【備考】
※スバルやヴィータが自分の知る二人とは別人である事に気付きました。
※パニッシャーは憑神刀(マハ)を持ったセフィロスのような相当な強者にしか使用するつもりはありません。
※第1回放送を聞き逃しました。
※ヘルメスドライブに関する情報を把握しました。
※セフィロスを自分とほぼ同列の化物と認識しました。
※今回のゲームはプレシア単独で実行されたものではなく、共犯者ないし部下が協力していると考えています。
 また、首輪が解除された場合の主催者の対処法が、「刺客を送り込んで強制的に排除させる」というものだと考えています。
※体内の「命」の残量が少なくなっていることに気付きました。
 また、再生能力を行使するために普段以上の「命」を消費する必要があることと、再生能力が弱まっていることに気付きました。



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